俺はうさぎに今日あった浮幽さくらの件について話した。
「あのさくらが⋯⋯?」
俺の話しを聴き終わったうさぎは唖然とした表情を浮かべていた。
「あのってどういう事だ?」
俺はうさぎの初めて見た表情に少し驚きつつ尋ねてみた。
「えっとつまり⋯⋯さくらがそんなことを言うなんておかしいってこと。あの娘は私たち誘発娘の中でも1番仲間想いで良い子だったのに⋯⋯」
「なるほど⋯⋯そうなのか⋯⋯」
「ねぇ、他にも何かさくらが言ってた事ない? 何があったのか考える手がかりになるかも」
そう言うとうさぎは俺の返答を待つように俺に顔を近づけた。
「何かあった事と言えば⋯⋯あ、そうだ。確か離れるのは俺のせいじゃなくて自分自身のせいだって言っていた」
そう答えるとうさぎの近づけていた顔がいきなり呆れた顔に変わり、俺から距離をとった。
「あんたねぇ⋯⋯。いくらカードと言っても長い付き合いでしょ? というか女の子のそういう反応見て何も気づかなかった訳!?」
うさぎは声を荒らげて俺を叱咤した。
「気づいたというか⋯⋯まぁ、よく考えたら全くお前らのこと知らなかったなとは思ったよ」
俺の答えにうさぎは痺れを切らした様子だった。
「違う! そうじゃなくて! さくらみたいな真面目な子が自分のせいって言う時には絶対に他に責任を感じていることがあるって事なの!」
「──あぁ、そういう事か。つまりどうして浮幽さくらが俺の元を離れなきゃいけないと感じているかを考えればいいんだな!」
うさぎの考察に俺はようやく腑に落ちた表情を見せ、それを見たうさぎは一層呆れているようだった。
「はい、そういうこと。だからその事を考えておくように! あともしかしたらさくらが遠くに行ってないかもしれないから周囲の様子も気にかけておいて」
「でも俺から離れるって言ってるんだからだいぶ遠くに行ったんじゃないか? もしかしたらあの本で精霊界に戻ってるかもしれないし⋯⋯。まぁ、分かった。気にしておく。じゃあ、また明日」
「えぇ、また明日」
一段落浮幽さくらについての方針が定まった所で俺は自分の部屋に戻った。
(あ⋯⋯そう言えば家に帰ってから寝てたから明日までの課題やってねぇ⋯⋯。これは遅くまで終わんないな⋯⋯)
俺はとりあえず今の状況を棚に上げ、課題に集中することにした。
「はぁ⋯⋯、なんであいつはあんな鈍感なんだろうなぁ⋯⋯」
幽鬼うさぎは暗闇の中でそう呟き、眠りに落ちた。
──朝
俺は机にうつ伏せになっている状態で目が覚めた。どうやら課題をやったまま寝落ちしたらしい。
変な姿勢で寝たからか、あまり眠気が取れていない。あともう少し眠ろう、そう思って立ち上がった途端に、リビングから母さんが俺を起こす声が聞こえてきた。
これだったら1度起きなければ良かったのに、という億劫になる気持ちを抑え、俺はリビングに降り、食卓に着いた。
うさぎは既に食卓に着いていた。俺はうさぎの向かいに座り、特に会話もなく置かれている朝食を食べ始めた。
朝食を食べ終わった俺はいつものように登校の支度をし終えて玄関に行き、靴を履いてドアに手をかける。
「ちょっと、遊太。待ってあげなさいよ」
その時、母さんの声が背後から聞こえてきた。振り返ってみると、そこには制服姿のうさぎがいた。
「──はぁ!?」
突然のことに俺は思わず声が出た。
「どうしたのよいきなり。とにかく、うさぎちゃんはウチからは初めての登校だから今日は一緒に登校してくれない?」
母さんは俺の態度など気にせず淡々と言葉を発する。
「はい! 今日はよろしくね、遊太君!」
うさぎはいつもの態度からは想像できない満面の笑みを浮かべていた。そして強引に俺の腕を掴んでドアを開け、外に出た。
「気をつけて行ってらっしゃーい!」
そして母さんの声が聞こえなくなるくらいの所まで腕を引っ張られたまま移動した。
──通学路
ある程度家から距離が離れたところでやっとうさぎは俺の腕を引っ張るのをやめた。
「はぁはぁ⋯⋯。なんでお前が登校しようとしてんだよ!」
さっきまで聞けなかった疑問をやっと尋ねることが出来た。
「そりゃあ⋯⋯遊太の従姉妹で同じ年齢なんだから学校に行かないとまずいでしょ」
うさぎはさも当然かのように答えた。そりゃあ本当の従姉妹で歳も同じならそうなるのだが。
「あのなぁ⋯⋯他にやりようがあるんじゃないのか? ずっと家ではカード化しとくとか、母さんへの認識妨害を変えるとか」
「カード化するのも一々認識妨害を変更するのにも魔力の消費が地味にキツイのよ」
「えぇ⋯⋯融通効かないな⋯⋯。というかそもそもその制服はどうしたんだよ」
「制服は見たことがあるから自分の魔力で作り出したわ。これくらいのことなら魔力でどうとでもなるのだわ」
「ということはつまり⋯⋯本当にうちの学校に行くつもりか?」
「流石にそれは無理があるわ。第一学校にいる全員をカードで認識妨害しないといけないし。だから叔母さんには登校するふりだけ見せて私はどこかで色々情報収集することにするわ」
「あぁ⋯⋯そうしてくれ⋯⋯」
「⋯⋯? 遊太なんか調子悪そうじゃない? 大丈夫?」
「朝から衝撃的な事が多いし昨日遅くまで起きてたからな⋯⋯。まぁ学校に来ないなら別に気にしないよ⋯⋯」
「そう? じゃあ私はそろそろ行くわね。じゃあ! 〈緊急テレポート〉!」
うさぎがそう言ってカードを掲げるとすぐに消えてしまった。
昨日遅くまで起きていたのに更に衝撃的なことを聞いた俺の疲れは蓄積していた。いつもよりはおぼつかない足で登校するのだった。
──学校
1,2時間目の授業が終わったが、俺は授業がどのようなものだったかを思い出せないでいた。確か開始と終了の礼はした覚えがあるが、それ以外はまるで覚えていない。
「おい、遊太。お前授業中ずっと寝てたぞー? なんか昨日夜遅くまでしてたのか?」
隣から渡の茶化しが聞こえてくるが、それに反応する気力もないので3時間目の体育の着替えを黙々として、小走りで運動場に向かった。
体育の授業が始まり、全体での準備運動が終わった。
体を動かせば眠気は取れるだろうと思って授業には出たが、そんなことはなく体力だけが奪われていく。そんな中渡が再び話しかけてきた。
「遊太ほんとうに大丈夫か? だいぶ辛そうに見えるんだけど」
今度は渡が茶化しではなく真剣に心配しているようだった。
「あぁ⋯⋯平気だ⋯⋯っと!」
俺は急に目眩に襲われ、体が崩れ落ちてしまった。
「おい! 大丈夫じゃないだろ! すいません先生! 佐藤を保健室まで連れていくので少し外れます!」
渡がそう大きい声で体育の教師に呼びかけると、崩れ落ちた俺の身体を起こし保健室まで連れて行ってくれた。
──保健室
保健室に着くと渡が状況説明をしてくれて、俺は保健室で休むことになり、カーテンで区切られているベットに入り仮眠を取らせてくれることになった。
ただ夜更かししただけなのに申し訳ないという気持ちもあったが、眠気には逆らえずそのまま眠ってしまった。
──キーンコーンカーンコーン⋯⋯
次に目が覚めたのは授業終了のチャイムがなった時であった。