誘発娘に愛されすぎて困る。   作:メアレP

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#5 緩急が激しすぎて困る。

 ──キーンコーンカーンコーン⋯⋯

 

 チャイムの音で目が覚める。

 すぐさま保健室に掛けられている時計に目をやると、先程のチャイムは昼休みの開始を告げていた事がわかった。

 

(確か俺が倒れたのは3時間目の体育だったはず⋯。2時間程寝ていたのか⋯⋯)

 

 罪悪感を感じさせる寝起きではあるが、どうやら身体の疲れと眠気は取れているようだった。

 目を擦り、ベッドから出るため身体を起こすと、すぐ近くから声が聞こえた。

 

「お目覚めですか、マスター⋯⋯」

 

 不意に声が聞こえた方に目をやると、そこにはベッドの隣に置いてある椅子に腰掛けている浮幽さくらの姿があった。

 

 俺は寝起きであることと、この現状を見て全く頭が働かなかった。

 とにかく生まれてくるのは何故昨日俺から離れるという宣言したのに俺の近く、しかも学校にいるのかという疑問ばかりである。

 

「⋯⋯なんでお前がここにいるんだ」

 やっとのことで捻り出した言葉がこれで合った。

 

「それは⋯⋯その⋯⋯」

 さくらは言葉を詰まらせ、視線を俺から逸らした。

 数秒の間が出来た後に、再びさくらは口を開いた。

 

「実はマスターの様子を最後に一度だけ確認して別れようと思ったんです⋯⋯。そうしたら、マスターの体調が悪そうで、遂に倒れて保健室に運ばれたのを見て、いてもたってもいられなくて⋯⋯」

 

「体調が悪そうだったのってやっぱり昨日の私の発言のせいですよね⋯⋯。だから申し訳なくて⋯⋯。せめてもの償いと思って介抱をさせて頂いておりました⋯⋯」

 浮幽さくらはさっきまで逸らしていた目を再び俺に向け、そう話してくれた。

 

「では⋯私はもう⋯マスターと会うことはありません⋯⋯。これを最後と決めていたので⋯⋯」

 そう言ってさくらは懐から本を取り出し、開こうとする。昨日使っていた『生者の書』だろう。

 俺はそれを見て、反射的にさくらの本を開こうとする腕を掴んでしまった。

 

「──っ、すいません⋯、手を離して下さい⋯⋯」

 さくらは顔をこちらから背けながら言ったが、保健室の鏡に反射してさくらの辛そうな顔が伺えた。

 

 ここで何もせずにこの手を離してはいけない。離してしまったら、正真正銘もう二度とさくらと会うことはなくなる。

 俺はそれが分かっている。しかし、さくらを説得する言葉は未だに浮かんでいない。

 そもそも何故さくらが自分から離れようとするかさえ分かっていないからだ。

 ならば、やはりもう一度だけ、何か手がかりを得るチャンスが欲しい。

 しかし、その気持ちとは裏腹に、引き止めるための言葉がどうしても出せなかった。

 

 

「──!?」

 すると突然、さくらがこちらに倒れ込んできた。

 俺はベットに入りながらさくらの腕を掴んで留めていたので、さくらはベットに乗り上げ、布団にしがみつくような体勢になっていた。

 

「い、いきなりどうしたんださくら。大丈夫か?」

 声をかけてもさくらはそのままの体勢で口を開く。

 

「あ⋯すみません⋯マスター⋯⋯。少し驚いてしまって⋯⋯」

 

「驚く? 何かあったのか? ⋯⋯もしかして保健室の先生が来たのか!? それならこの状況はまずい⋯」

 

「いや⋯違います⋯⋯。あそこに鼠が⋯⋯」

 そう言ってさくらは保健室の隅を指さす。

 

「ネズミ⋯? 増殖したり飛翔したりするヤツらでもなくネズミなのは珍しいな。さくらはネズミ苦手なのか?」

 

「あまり動物全般は得意じゃないんです⋯⋯。以前犬に追いかけ回されたことがあって⋯⋯」

 

「そうなのか。流石にネズミが襲いかかってくることはないと思うけどな⋯⋯」

 そう言って俺はさっきのさくらが指さした方に目を向ける。

 そこには確かに鼠と猪がいた。

 

「あーほんとだネズミがいるなぁ⋯⋯ってイノシシぃ!?」

 思わず驚きの声が出てしまった。

 

「い、猪ですか⋯! 鼠より凶暴そうですね⋯⋯!」

 

「いやそういう問題じゃないだろ! 保健室とイノシシってどんな組み合わせだよ!」

 俺はさくらの発言にツッコミを入れ、再び部屋の隅を見る。

 

「うん確かにイノシシとウシが⋯ウシぃ!?」

 なぜか今度は鼠がその場から消え、牛が現れた。

 

「猪と牛だとどっちの方が強いんですかね⋯。でも牛は家畜だけど猪は品種改良して豚にならないと飼いにくいからやはり猪の方が強いんですかね⋯⋯」

 

「そういう問題じゃないし強さを比較して考えられるくらい冷静なら俺から1回離れてくれないですかね⋯⋯」

 そして再び鼠が消えたあの隅を見る。

 

「えっとウシと龍⋯龍!?」

 遂に龍まで保健室に現れてしまった。

 驚きすぎてもはやツッコミが千〇になっている。

 

「あ、龍は大丈夫です⋯見慣れてるので⋯⋯」

 そう言うとさくらは一旦布団を掴んでいた手を離し、部屋の角に目を向ける。

 

「あぁ⋯⋯確かにいらっしゃいますね⋯⋯」

 

「えぇ⋯普通は龍の方が驚くと思うんだけどな⋯⋯じゃなくて、これは絶対おかしいだろ! さくら、何か相手の術を見破る技とか持ってないか?」

 

「あぁ⋯はい⋯。ございますけど⋯⋯」

 そう言うとさくらはあるカードを取り出した。

 

「『魔筒覗(まつつし)ベイオネーター』⋯⋯!」

 さくらが唱えると、禍々しいオーラを放つ剣と目玉のレーザー銃がくっついた銃を取り出した。

 

「行きます⋯⋯発射⋯⋯!」

 そしてさくらはそれを牛と龍に向けて勢いよくぶっぱなした。

 ベイオネーターから放たれたレーザービームは丁度牛に命中し、辺りはその衝撃で生まれた煙で満ちる。

 

「何か思ってたよりだいぶ威力が凄いけど学校壊れてないのかこれ?」

 

「はい⋯大丈夫です⋯⋯。マスターを看病してる間に周囲の物、あと一般人には影響を及ぼさない結界を張っておきましたので⋯⋯」

 

「なるほど、前にうさぎが使ってたのと同じやつか」

 

 

 そんな会話を交わしているうちに次第に煙は晴れていった。

 そしてそこに現れたのは、片方は龍の鎧と尻尾を身につけ、一際目立つ巨大な篭手に巨大な大剣を抱えた者。もう片方は牛の鎧と角を身につけ、同様に巨大な篭手に巨大な斧を抱えた者であった。

 そう、本当の姿を見れば直ぐに思い出す。

 

「⋯⋯『十二獣』だ」

 そう、遊太達の前には『十二獣 ドランシア』と『十二獣 ブルホーン』が立ち塞がっていた。

 

「マスター⋯? どうかしたのですか⋯⋯? あちらにいらっしゃる方々はそんなに不味いのでしょうか⋯⋯?」

 さくらが困惑した顔を浮かべるが、そんな事お構い無しにドランシアは周りに浮かんでいる物体(オーバーレイユニット)を大剣に纏わせ構える。

 その先には──さくらがいる。

 

「──!? 不味い、さくら! 避けろ!」

 咄嗟に遊太は叫び声をあげる。

 それとほぼ同時にドランシアは構えていた大剣を振り上げ、半月形のエネルギー弾を飛ばした。

 

「──えっ? きゃぁっ!」

 エネルギー弾はさくらに向かって行ったが、咄嗟に腕でガードしようとしたことにより弾がベイオネーターへと直撃し、どうにかさくら自身への直撃は免れた。

 辺りに破壊されたベイオネーターの破片が散り、光りながら消えていく様を見てさくらは呆然としていた。

 

「よかった⋯⋯。おい、さくら! 一旦保険室から出て逃げるぞ!」

 そう言って駆け出そうとするがさくらは呆然としていて反応がない。

 一方ドランシアはブルホーンから(エクシーズ素材)を供給して再び発射する構えを見せていた。

 

「⋯⋯仕方ない。行くぞ!」

 痺れを切らした俺はさくらに一声かけてから背中におぶった。さくらが驚きの声を上げているがそんな事は気にせずにそのままドアから外に出るのだった。

 

 

 ──校庭

 

 外に出て、とりあえず校庭の方まで走って来た。後ろからはドランシアとブルホーンがあの大きな腕を付けているのにも関わらず素早い動きで追いかけてくる。

 途中途中でドランシアが弾をぶっぱなしてきているがどうにか当たらないでいる。

 効果処理がきちんとされていないのではないかと感じるかもしれないが、世の中には回避という都合のいいアクションマジックもあるのだから自力で回避しても良いだろう。

 逃げている途中に後ろからさくらが話しかけてくる。

 

「マスター⋯大丈夫ですか⋯⋯? 結構長い距離走られてますが⋯⋯」

 

「大丈夫⋯ではないな⋯⋯」

 俺はどうにか走りながら返事を返す。

 

「そうですか⋯すいません⋯⋯少し先程ので腰が抜けてしまって⋯⋯思うように体が動かないんです⋯⋯」

 

「大丈夫⋯さくらは全然軽いから背負ってても背負ってなくても同じようなもんだよ⋯⋯。俺の体力がないだけだから⋯⋯」

 かといってやはり本当は背負ってない方が体勢的にも楽なのだが、さくらの事を考えて気丈に振る舞う。

 

「そう、ですか⋯⋯。でもあちらのドランシアさんはあれだけ弾を撃ってきているのに、弾切れをしないのでしょうか⋯⋯?」

 

「あぁ、多分あれはしないな⋯⋯。前のマスドライバーの時もそうだったが、あいつらは多分そのデッキの概念として存在するからいつもフルスロットルで全体が動くようになってると思う⋯⋯」

 

「つまり今、こうやって走り回ることは相手の体力の消耗もさせず全くの無駄、ということですよね⋯⋯」

 さくらが俺の背中を掴む手の力が強まる。

 

「⋯⋯あぁ、そうだな⋯⋯」

 真実を誤魔化しても今のこの状況は何も変わらない。そう思った俺は同意をした。

 

「やっぱり私は⋯いつもそうだ⋯⋯。こうやって誰かに頼るしかないし、頼っても意味がない時だってある⋯⋯。私がいる意味なんて⋯⋯」

 背中の後ろでさくらが泣きじゃくる声が聞こえる。

 ──やっと彼女が本当に思っていたことを聞けた気がする。

 確かに、『浮幽さくら』というカードは、実質相手のエクストラデッキからある特定のカードを取り除くという効果であり、よく環境メタとして使われる。

 しかし、環境の高速化と多様化から打てない、打っても相手の展開が止まらないという、結果的に相手依存の効果だからこそ機能しないことがある。

 現に遊太も初手誘発娘五枚が来た時は、エクストラリンク全盛期でもない限りはさくらをセットエンドしたものであった。

 そんな強いけど場合によっては要らないという待遇から、さくらの周りの役に立てるのかという自己不信に繋がってしまっていたのだ。

 そのことに俺はたった今、この状況で気づいてしまった。もっと早くから気づいて手を差し伸ばせれば良かった。その後悔と走る事の疲労で胸が苦しい。

 

 

「──! マスター! 前⋯⋯!」

 その時だった。さくらが急に声を張り上げる。

 慌てて前に視線をやると、何故か今まで後ろにいたはずのブルホーンが前に立ち、バカでかい斧を構えていた。

 多分ジャンプで疲れて速度を落とした俺たちを飛び越えたのだろう。

 このままだとはさみうちになる。自分フィールドのモンスター2体と相手フィールドのモンスター1体を破壊することになる。そんな冗談言ってる場合じゃない。

 ブルホーンは緑色のエクシーズ素材を一つだけ持っていた。多分攻撃力は大したことはないが、あの色は⋯⋯。

 一瞬戸惑ったが、俺は決意を固めることにした。

 

「──さくら、すまん! すこし体に触るぞ!」

 

「──え⋯? マスター⋯⋯!?」

 さくらが間髪入れる暇もなく、ブルホーンの真ん前で体勢を変え、さくらを抱きしめる。

 そして走っていた勢いのままブルホーンに突っ込んだ。

 その隙を逃すはずもなく、ブルホーンは斧で遊太もろともさくらを薙ぎ払おうとし、遊太の背中に直撃した。

 

 

「──がァっ⋯⋯!?」

 遊太はそのままさくらを抱きしめて庇いながら地面を転がった。

 そのおかげでなんとかはさみうちから逃れることは出来たが⋯⋯。

 

「マスター⋯! マスター⋯⋯!!」

 さくらが直ぐに起き上がり、遊太の体を揺する。

 

「あ、あぁ⋯⋯。斬られた衝撃はあったけどダメージはなかったな⋯⋯そもそもあいつはエクシーズ素材を1つしか持ってないようだし、ベイオネーターで攻撃力が下がってるから大丈夫だとおもったんだ⋯⋯」

 俺は体を起こそうとするが、腰の痛みを感じて起き上がれない。

 

「うっ⋯、それより無理に転がったから物理的なダメージの方がキツいかもな⋯⋯」

 

「そんな⋯。マスター、私なんかの為に⋯⋯!?」

 さくらの顔は大量の涙で濡れていた。さっきまでは背中越しでしか話していなかったが、こんな顔をしていたのか。それなら俺がとった行動は正解だったな⋯⋯。

 

「いいんだよさくら⋯⋯。どうやら俺はここまでみたいだし⋯⋯」

 

「えっ⋯⋯? どういう、事でしょうか⋯⋯?」

 さくらは泣きじゃくる顔の中にまたひとつ不思議がる表情を浮かべた。

 そしてすぐに俺の周囲の異変に気がついた。

 

「マスターの両足に地面から⋯大きい蛇が絡み着いてる⋯⋯!?」

 

「あぁ、そういう事だ⋯⋯。これはブルホーンの素材になっていた『十二獣 ヴァイパー』のダメージ計算後に発生する、戦闘した相手を除外する効果だ⋯⋯。モンスターじゃないからワンチャンと思ったが、そんな事はなかったみたいだな⋯⋯」

 

「そんな⋯⋯。それも理解した上で私を庇ったんですか⋯⋯!?」

 

「大丈夫ださくら⋯、デュエリストにはこんな魔法の言葉がある⋯⋯。『死ななきゃ安い』。除外されても死んだことにはならない⋯。多分どうにかなるはずだ⋯⋯」

 最期にでもさくらの気持ちを緩めるために、強がった事を言ってみる。

 

「うっ⋯⋯。そんなの⋯⋯」

 

「いいかさくら⋯、よく聞いてくれ⋯。お前は凄いよ⋯⋯。あんなえげつない環境で、唯一無二の相手を止める可能性を持っている⋯⋯。確かに、止まらない時もあるかもしれない⋯。だけどな、それでも相手の完璧な展開は潰せていることに変わりはないんだ⋯⋯。だからもっとみんなを頼って、自分自身を信じてやってくれないか⋯⋯?」

 そう言って俺は、ブレザーを脱いでさくらにかけてやる。

 

「うっ⋯うっ⋯マスター⋯⋯。でも⋯⋯、今私はあの方達に対抗出来る手段がありません⋯⋯。私は元々あまり魔力を保持することが他の娘たちと違って苦手で、さっき出したベイオネーターで尽きてしまいました⋯⋯」

 さくらが申し訳なさそうに首を横に振る。

 

「対抗手段なら⋯ある⋯⋯」

 

「え⋯⋯? 本当ですか⋯⋯?」

 さくらの眼から涙が止まる。

 

「あぁ⋯ある⋯⋯。今まで気づいてなかったが、そのブレザーのポケットの中に、『十二獣 ドランシア』のカードが入ってる⋯⋯。それでドランシアだけでも飛ばすことが出来れば、まだ楽にはなると思う⋯⋯」

 

「──私の力を使う、ということですか⋯⋯。でも、それをやった所でブルホーンさんを止められるか⋯⋯」

 

「だからさっき言っただろ⋯⋯。自分と皆を信じろ⋯⋯。とりあえず今はさくらが出来ることをやってくれ⋯⋯」

 もう既に俺の体は地面から伸びている蛇に引っ張られ、上半身だけしか表に出ていない状況であり、もう抵抗する力も残っていなかった。

 

「だから⋯さくら⋯⋯。後は頼んだぞ⋯⋯」

 そして俺はそのまま地面に飲み込まれ、この世界から『除外』されてしまった。

 

「──! マスタァァァァァァァァ!!!」

 その場にはさくらの声が虚しく響き渡るだけであった。




今回は切りどころが掴めなくて長くなった挙句中々な結末になりました⋯⋯。
ここで終わったらさすがにバットエンドが過ぎるので、次回で挽回したいと思います⋯⋯。
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