「──! マスタァァァァァァァァ!!!」
さくらの悲痛な叫び声がその場に響く。
「遊太ぁッ!!」
さくらの叫び声の後、ワンテンポ遅れてさくらの頭上から声が聞こえる。
そしてそのまま空から声の主が降りてきた。現れたのは──幽鬼うさぎだった。
「はぁ⋯はぁ⋯⋯。あんたを捜していた途中にモンスターの反応がして、来てみれば捜してる本人がいて自分の主人が消え去ろうとしてるとは思ってもみなかったわよ⋯⋯」
うさぎはだいぶ汗をかいているようだった。その汗はモンスターの反応元に急いで来た事と、自身の主人の状況を確認したことによる焦りから生まれたものなのだろう。
「う、うさぎちゃん⋯⋯。ごめんなさい⋯私のせいでマスターがぁ⋯⋯」
誘発娘仲間との久しぶりの出会いではあるが、それを喜ぶには状況がとても悪く、さくらはそのまま泣きじゃくるだけであった。
「──大丈夫。どうにかなるわ」
「⋯⋯え? どうにかなるって、どういう事⋯⋯?」
再びさくらの涙が止まる。先程の遊太からの助言を貰った時のように。
「どうにかなる、いや、どうにか『する』の。丁度私はサイコパスなのよ」
さくらはそれを聞いて理解が出来ず、何でこの状況でうさぎは冗談を言ってるのかと思った。
しかし、顔を上げてうさぎの表情を見てみると、普段の顔よりも一層真剣な目で手元のカードを見つめていることに気づいた。
「文字通り『サイコパス』。800LPを払って除外されているサイキック族を2体まで手札に戻す効果よ。除外はサイキック族の得意分野だしね。『緊急テレポート』でもあいつは適用したから多分行けると思うわ」
「800LP⋯! それってライフコストを肩代わりする相手がいなかったら結構体にダメージが来るんじゃないの⋯⋯?」
確かに幽鬼うさぎがよく使うサイキック族の汎用魔法罠は効果が様々で使いやすいものの、サイキック族特有のライフコストが必要な効果が多いため、単独で使うには危険なものが多い。
しかし、うさぎはこの状況ではそんな事を一切気にしていないようだった。
「そんな事は今はどうにかなるわ。ただ、1つ条件があるの」
「条件って⋯⋯?」
「えぇ。除外ゾーンには行けるには行けるんだけど、流石に
それを聞いたさくらは再び不安そうな顔になる。
「た、耐久⋯⋯? しかも相手を除外しちゃダメとなるとでも私にはもう出来る技が何も⋯⋯」
「はぁ⋯⋯そうね。さくらさ、何か遊太が消える前に話しかけられてたわよね? 遠かったから何言ってるかは聞こえなかったけど」
うさぎは縮こまっているさくらに顔を近づけ、目を見て話し始めた。
「あ⋯うん⋯⋯。自分を信じろって⋯⋯。でも、やっぱり私には⋯⋯!」
「あぁ、やっぱりね。アイツはそういう事言いそうだと思ったわ。私も遊太と考え方は同じよ」
そしてうさぎは再び立ち上がり、『サイコパス』のカードを掲げる。
「『サイコパス』発動! ──っ、やっぱキツいわね⋯⋯」
うさぎはサイコパスを発動させ、そのライフコストの衝撃で身体がよろめく。
「えっ⋯ちょっと、うさぎちゃん⋯⋯? まだ私は何も⋯⋯」
「──えぇ、そうね。だけど、多分さくらならやれるわ。アイツもさくらを信じたように私もさくらを信じることにする。⋯⋯それじゃあ、行くわね」
それからうさぎは頭に指をあて、緑色の電気を集中させ空上に放ち、除外ゾーンへと続くゲートの様なものを作って中へ入って行ってしまった。
「そんな⋯⋯うさぎちゃん⋯⋯」
本来守るべき主人が自分を庇い除外され、仲間が自分の責任のリカバーの為に命を削って助けに行ってしまい、結果自分はここで嘆くことしかしていないという現状は、さくら自身に無力感を一層強くさせる。
そんな中、さっきまでずっと大人しく会話が終わるのを待ってくれていたブルホーンとドランシアが一斉に狙いを付け始めた。
狙っているのは⋯⋯うさぎがさっき作ったゲートである。外部から破壊できるかは分からないが、今うさぎと繋がっているのは確かではあるので、何らかの影響は与えられるだろう。
さくらはそれを一瞬で掌握した。
その時、ある一つの考えがさくらを包み囲んだ。
「──私は多分自分の効果が強いかどうかなんて分からない⋯。ただ、自分は弱虫だということは明らかだと思います⋯⋯」
そう言いながらさくらは今まで地面に付けていた膝を離した。
「──やっぱり私は自分の強さなんか信じられない⋯⋯。だけど、それ以上に⋯⋯マスターやうさぎちゃんの事を裏切りたくはない気持ちが大きい⋯⋯!」
そして、震える膝を必死に抑えながら、さくらは2体に対面する。
「──私は⋯⋯! 私は⋯⋯! 私の事を信じてくれた! 二人のことを信じます!!!」
さくらがその言葉を言い終わると、体が無数の光に包まれ、ある一点に収縮していく。
さくらが唐突の発光に目を閉じ、再び開いてみると、目の前には『浮幽さくら』のカードが浮いていた。
「これは、私⋯⋯? でもイラストがいつものとは違うような⋯⋯?」
不思議に思ってカードに触れてみると、そこから今まで感じたことがないような魔力を感じた。
一方で、もう我慢の限界を迎えたのかドランシアがエネルギー弾を三発程ぶっ放してきているのが横目で見えた。
「──! これなら⋯⋯! よし、なんか行ける気がしてきます!」
そしてさくらはあるカードを思い浮かべる。
「──『トライワイトゾーン』!!!」
さくらがそう言い放つと、確かにその手にカードが現れ発動される。
そして地面が揺れ動き、何かが湧いて出てくる気配がした。
ガタガタガタ
「ワイトもそう思います」
「ワイトもそう思います」
「ワイトもそう思います」
地面からは三体の『ワイト』が出現し、各々なんか変なことを言い始めた。
そしてすぐさまドランシアのエネルギー弾が直撃しバラバラになってしまった。
「さぁ⋯⋯かかって来てください! ここからが私のステージです!!!」
──除外ゾーン内
幽鬼うさぎは2体のモンスターをさくらに託し、除外ゾーンを飛行していた。
周囲はカード『次元の裂け目』から確認できるように紫色の淀みに覆われている。少しでも気を抜くと、自分がどこから来たのか、どこにいるのか分からなくなるようである。
その中での幽鬼うさぎの飛行は、いつもと比べてたどたどしい。ライフコストとうさぎ自身の焦りという物理的・精神的なダメージによるものだろう。
それでも幽鬼うさぎが除外ゾーンを進んでいくと、奥に行くに従って歪みが大きくなっていく。
ますます自分がどこにいるか分からなくなりそうだが、自分がどこから来たかの方角を示してくれる物はあった。
「ある一定の方向から『ワイト』や『ゴブリンゾンビ』とかが大蛇に絡まれた状態で送られてきてるわね⋯⋯」
それを見てうさぎはさくらがどうにか奮起して戦ってくれていることを悟り、自分も頑張らなくてはという思いに駆られる。
──除外ゾーン最深部
除外ゾーンに入ってから数分、幽鬼うさぎは最深部であろう所に到達していた。
周囲の歪みはかなり大きくなっており、自分がここに存在してるかどうかすら怪しいと思えてくる。
そんな中、幽鬼うさぎはある1つの目立った物質を見つける。
「⋯⋯!」
それを見て思わずうさぎは声を漏らしてしまう。
そこには、体に大蛇が幾重にも巻きついている佐藤遊太の姿があった。
明らかに他のモンスターに巻きついている大蛇とはサイズが違い、除外されてからの時間で大蛇が成長したのではないかと思われる。
それが本当だとすると、このままだと遊太を発見したは良いものの、もたもたしていると押しつぶされてしまうのではないかという予想がうさぎを焦らせる。
「ちょっと待っててね遊太、今振りほどくから!」
うさぎが大蛇に手を掛けて離そうとするが、さっぱり離れる気がしない。
「よいしょっ⋯⋯! 何よこれ⋯全然外れる気がしないのだわ⋯⋯!」
更に力を込めて引っ張ってみるがびくともしない。攻撃力0のうさぎには到底外せないような固まりである。
「こうなれば⋯⋯あれを使うしかないのかしら⋯⋯」
そう言いながらうさぎはあるカードを取り出す。
『サイコ・ブレイド』。自分のLPを最大2000まで削ることでその分攻撃力を上げる装備魔法。
この大蛇を切り取る為にはどれくらいの攻撃力が必要かは知らないが、やはり2000くらいは欲しいところだ。
デュエリストの場合でさえLPの四分の一を削らなければいけないのに、それをモンスター一体がカバーしようとすれば、莫大なダメージが来るだろう。
もしそれを使ったとしてもそのダメージに耐えきれず倒れてしまったならば本末転倒である。
「さくらにあぁ言って託してきたけど⋯私も似たようなものじゃない⋯⋯」
出発する前のさくらとの会話を後悔する。自分も言えたことではなかったということもあるが、それよりもさくらに自分のせいで私が死ぬかもしれない状況になったという責任感を負わせてしまったかもしれないということを今更悔いる。
「──それでも、私は、私が今できることをやってみるだけよ⋯⋯!」
そう振り切って、『サイコ・ブレイド』のカードを掲げ、決意を固める。
「よし⋯行くわよ⋯⋯! 『サイコ・ブレイ』⋯⋯」
まさにうさぎが唱えようとしたその一瞬。
「ちょっと待ってくださ~い!」
唐突にどこからか自分を呼び止める気の抜けた声が聞こえ、反射的にうさぎは口を閉じる。
そしてうさぎが声が聞こえた方向を見ると、そこには周囲の歪みよりも深い闇に覆われて、中身が一切見えない何かが近づいて来ていた。
前回と比べると短くなりました。
総UA数が5話にして3000超えました!ありがとうございます!
追加
ライフを払って打点をあげるのは「サイコ・ソード」ではなく「サイコ・ブレイド」でしたので修正しています。サイコ・ブレイドの効果しか知らなかったです⋯⋯。