冴えないアラフォーリーマンが壊滅一直線の悪の組織の女幹部に転生した 作:ゔぁいらす
「おわぁぁぁぁっ! なんて格好してるんですかあなた!?」
過去作のラスボスであるソルダークネスこと陽黒想が
そりゃこんな格好してる女が突然現れたら男ならそうなるよな……
それに彼の視線がちょくちょく俺の胸の方に向いているを感じて、結構チラチラ見られてるのって分かるもんなんだとこっちまで少し恥ずかしくなってきたが今はそれどころじゃない。
本来であれば強引に目覚めさせられ、訳も分からず復讐心と怒りから暴れ狂うソルダークネスをマルデュークが一方的に叩きのめしてひとまず配下に置くというパワーインフレを残酷に見せつけられるシーンだったんだけど彼は攻撃してくる素振りを見せるどころか大人しく拘束されたまま顔を真っ赤にしてこっちの胸を見てくる有様だ。
とにかく話ができるならまずは挨拶から……
「お初にお目にかかります。わたくしアポカリプス皇国地球侵略部隊ゲニージュ作戦参謀のマルデュークと申す者でして……」
「あっ、はいご丁寧にどうも……」
だ違う!!
どうしてもまだサラリーマンの時の癖が抜けないしこういう時悪の組織の女幹部ってどうやって挨拶すりゃいいかなんて知らないしそれに向こうもなんか更に気まずそうにしてるし!!
でも胸は見てくるんだよなぁ……あっ、また見た!
こっちが気付いた素振りした瞬間え〜胸なんか見てませんけどみたいに視線逸してもバレバレなんだけど!?
というか男の視線ってこんな分かりやすいもんなのか!?
俺も通勤中に露出度高い女の人とかつい見ちゃってた時気付かれてたのかなぁ……
……なんて前世の反省なんてしてる場合じゃない今はとりあえず彼と対話を試みなくては……
「こほん……今あなたが置かれている状況お分かりですか?」
「状況? えーっと……シャドーってヤツにやられてそれから……あっ、シャドーっていうのは……」
意識ははっきりしているらしく彼は装鋼騎士シャドーの事を話し始めた。
ちょっと待って、ちゃんと受け答えしてくれるどころか記憶もあるの!?
てっきり全部記憶がすっとんで変になってるのかと思ったらそういう訳でもなさそうなのか?
「あっ、その辺は知ってるんで大丈夫……ところであなた自身のことは分かりますか……? 名前とか」
「は、はぁ……陽黒想と言います……というか知ってるって……?」
俺の質問に彼は不思議そうに答えた。
ふむ……しっかりとソルダークネスになる前の記憶もる様子……と。
どうしてだ? 本来想の意思や記憶はソルダークネスに改造された時完全に抹消されていたはずだけど……
「ああいえこっちの話……! それじゃあソルダークネスの事も?」
その言葉を出した瞬間彼の表情が暗くなる。
「ああもうその名前は出さないでください……! 我ながらあんなのクソですよクソ!!」
予想外の言葉が彼の口から飛び出した。
ソルダークネスだった頃は我こそはこの世界を黒く灼き焦がす覇王とか良くも悪くも覇気に溢れる魔王の様なキャラクターだったのだが彼が同一人物とは思えない。
それにクソとはなんだクソとは!! 一応シャドーのライバルとしてそれなりに人気もあってフィギュアなんかもたくさん出てるんだぞ? そんな事言ったら全国のソルダークネスファンを敵に回す事になるぞ!?
……というか目の前にいる彼がそのソルダークネス本人のはずなんだけど
「どうしてです? あの漆黒のボディに紅の目。かっこいいじゃないですか! お……アタシは好きですよ?」
「かっこいい? ふざけないでくださいよ! 急に拉致られて目が覚めたら急にあんなバケモノにされてたんですよ!? ああなんで生きてるんだ僕は……!! はぁ……」
彼は声を荒らげたと思うと急にうなだれてしまった思ったより重症……?
想としての記憶もソルダークネスとしての記憶も両方あるということか?
「えーっと……ちゃんと記憶はあるって事ですか? ソルダークネスだった頃の記憶も」
「そりゃもちろん! むしろ忘れたいくらいですよあんなの! だから僕はあの時瞬に……シャドーに殺される選択をしたはずなのに……!! なんで生きてるんですか僕! ねぇ! 説明してくださいよ!!!」
本編だと終始ソルダークネスのままだったし本来の想の出番なんて1話以降はほぼほぼセリフの無い回想に何回か出てくるくらいでしか見たこと無いんだけど喋るとこんな感じの人だったのか!?
「お、落ち着いて!! 確かにあなたはその時シャドーに倒されました。ただ死んだ訳じゃなくてエンペラージェムの自己再生能力が瀕死のあなたを休眠状態にして傷を癒やしていたんです。それを私の部下がここまで連れてきまして……」
「クソッ! またあの石のせいか!! もうよしてくれよぉ……あそこまでされてもこの身体は死ぬことすら許してくれないのかよぉ……」
想は俺の言葉を聞き深い傷跡の残る自分の右腕をうらめしそうに見つめた後ぐったりと繋がれた鎖に体重を預け涙をこぼした。
「あの……もしかしてソルダークネスだった時も自我はあったんですか?」
「なんであなたが僕の事情を知ってるのかは存じ上げないですけどそうですよ。でもどうすることも出来なかったんです。あの時はなんというか俺じゃない俺がシャドーを殺してこの世を再びモグローグの手中に収めることしか考えられなくなってて……ああ……思い出すだけで死にたくなってくる……」
彼がソルダークネスとして行ってきた所業は今の彼にとって言わば黒歴史のようになっているらしい。
比べちゃ悪いけど酔っ払ったときの奇行を後から死ぬほど後悔するやつみたいになってるじゃないか……
「そ、そうなんですか……」
「はい。正直今生きてるのも驚きなんですけどこうしてまた自分の意志で身体を動かせてるのも不思議なくらいで……えーっとマルデュークさん……でしたっけ? そんな僕をこんな良くわからない時に連れてきてどうするつもりなんですか?」
「えっ!? えーっと……」
どうしよう……俺の知っているVXに再登場したソルダークネスはVXが憎い。
VXは俺が抹殺する。
くらいの勢いで倒されたショックからシャドーに対する恨みや憎しみくらいしか記憶も残っていなかったはずなのになんでこんなに記憶がはっきりしてるんだ?
理由はわからないが幸いそのおかげで今の彼なら本編のソルダークネスを相手にするよりは平和的に進められそうだ。
「えーっとその……私の計画に協力してほしいなー……と」
「計画……? 嫌に決まってるじゃないですか! そう言うのはもう懲り懲りなんですよ!! 僕はもう誰にも従いませんからね! 不要ならさっさと……」
想がそこまで言いかけた所で彼の腹がぐうと大きな音を立てる。
「もしかしてお腹空いてます……?」
「おかしいな……空腹なんて
想は不思議そうに自分の腹を見つめた。
「そ、そうなの……!? と、とりあえず何か食べ物を用意しますからひとまずその後のことはそれから考えましょう。そんな体勢嫌かもしれないけどちょっとまっててくださいね!」
「え……はい……お願いします」
想は遠慮がちにそう言ったので俺は一度部屋を後にして何か食べ物を用意することにした。
部屋から出ると武器を構えた戦闘員やグラギムたちがわらわらとこちらに駆け寄ってきて心配そうに見つめてくる。
「マルデューク様ご無事で!?」
「ええ。大丈夫だけど?」
グラギムに尋ねられそう軽く返すと辺りからは軽い歓声が上がる。
「マルデューク様、奴の様子は……」
続いて科学者戦闘員の主任にもそう尋ねられたので問題なく目覚めて会話もしっかりできる状態であることを伝えた。
「でも今変に刺激するのはおそらく危険だから引き続きアタシにまかせてくれないかしら? 少し用事を思い出したの。すぐ戻るから引き続きここは封鎖しておいて」
「ははっ……!」
「それとアタシは大丈夫だからあなた達はもう仕事に戻って頂戴? 心配してくれてありがとうね。時には武力でなく話し合いで解決することも大切なのよ?」
ひとまずそれっぽいことを言って人払いを続行させ、グラギムや戦闘員達も俺に危害が加えられていないことを知りそれぞれ持ち場に戻っていった。
そして主任と俺の二人きりになった所で彼に気になっていることを尋ねる事にした。
「ちょっと良いかしら?」
「は、はい!? どどどどうされましたか?」
突然声をかけられ身体を強張らせる主任。
やはりまだまだマルデュークは恐れられているということだろうか?
そりゃ本来であれば腹に付けられた傷を治せなかった事に腹を立てたマルデュークに殺されてた人なんだし怖がるのも当然といえば当然なんだけど……
「ソルダークネスの蘇生……一体どうやったの?」
「どうやったと言われましても……そのですね……ヤツの身体は我々の技術からすれば下等で強引で歪な外科的手術の様なものが施されており、痛みや苦痛を感じる神経が切断されていたりその他の器官も受けたダメージが累積していてかボロボロでしてね……不思議とそれでも確かに生きているものですから興味深いデータを取らせていただきました。ま、再生医療を得意とする私にかかればあの程度の蘇生治療朝飯前でしたよ。そんちょそこらの医者ならばどこか後遺症が残ったりしていたでしょうけれど私にかかれば……す、すみません……少々調子に乗ってしまいました。あまりにも興味深い手術でしたので……」
主任は少し得意げに言った後身体を縮こまらせてペコペコと頭を下げた。
死ぬはずだったグラギムを救ったのも本来であれば既に1話でマルデュークに殺されていたはずの彼だった訳だしきっとこの主任が完璧にソルダークネスを再生させたお陰で彼は記憶を失わなかったどころか陽黒想としての人格取り戻せたのかもしれない。
やはり彼は殺してはいけない人材だったようだ。
「本当にありがとう! アナタは天才よ英雄よ!! アポカリプス皇国に無くてはならない存在よ!!」
「へっ!? そ、それはどうも……私めには身に余るお言葉です」
「それじゃあ戻り次第続きはやるからアタシにまかせて」
そう言って俺は医務室を後にした。
勢いで飛び出したまでは良いがさてどうしたものか……まともに話ができるだけ俺の知っている復活したソルダークネスよりも幾分かはマシに思えるが今の彼はそれ以上に過去の自分の行いに追い詰められているような気がしてならない。
ひとまず今は何か食べられるもの……!
でも要塞にあるような食料は普通の感性をしてる地球人が寝起きで見せられたら卒倒するような見た目のばっかりだし……
そうだ!
俺はあることを思い出し部屋に戻ると部屋から繋がっているアビガストの住む小部屋のドアをノックする。
「アビガスト、少しいいかしら?」
俺が呼びかけるや否やドアをゆっくりと開け彼女がひょっこりと顔をした。
「おかえりなさいませマルデューク様……! 本日はご朝食がまだでしたよね?」
「え、ええ……っとその前に昨日出してくれたラーメン……まだ残っていたりしないかしら?」
そう。昨日彼女が作ってくれたあの豚骨ラーメンの様な何か。
元気がなくて腹が減った時はこってりしたラーメンに限るしあれならばここにある他の料理や食材よりも想でも食べやすいかもしれないと思ったのだ。
「ラーメ……? あっ、ボポルパッゼの事でございますか?」
「そうそれ! それが今凄く必要なの!!」
「まだ少々残ってはおりますが2日連続で同じものをお出しするなど恐れ多く……」
よかった! まだ残ってたんだ!
これなら想の空腹も満たせるだろう。
「流石よアビガスト! 全然構わないのむしろありがとう! できれば今から昨日と同じものを用意してくれないかしら?」
「は、はい……それではすぐにご用意いたしますのでしばらくお待ちいただけますでしょうか?」
アビガストは俺の勢いに少々押されながらも何処か嬉しそうに鼻をムフンと軽く鳴らし厨房へと向かっていった。
それからしばらく待っているとアビガストがクローシュの乗ったカートを押して戻ってくる。
「お待たせいたしました。残り物で大変恐縮ではございますがボポルパッゼでございます……こちらでお召し上がりにならないのですか?」
「え? ええ。アタシが食べるんじゃなくて食べさせたい人がいるのよ。ありがとうアビガスト! 恩に着るわ!!」
「は、はい……お役に立てたのでしたら……」
アビガストはそう言ってみせたが何処か少し残念そうな顔をしていた。
そんな彼女からカートを借り、俺は再び想が拘束されている部屋へと向かう。
「マルデューク様? そちらはなんでしょうか? 何やら良い匂いがするのですが……」
部屋の前まえで来ると研究員の主任が興味津々に尋ねてきた。
「え? ああこれ? お腹空いてるみたいだから想……じゃないあのソルダークネスとやらに食べさせてあげようと思って。いくら改造されているとは言え地球人であることには変わりはないわ。こういう時はまず胃袋を掴まなくっちゃ!」
俺の言葉を聞いた主任は顔を恐怖で歪める。
「い、胃袋を……ですか!? それは新たな拷問か何かでしょうか……?」
しまった! 多分アポカリプス星にこの表現は存在しないっぽいしマルデューク自体相当バイオレンスな奴という風潮がある以上彼はおそらくソルダークネスの腹を腕で突き刺し……
「ぐあぁぁぁぁっ!」
「ほぉらアタシの下僕になると言いなさい? ほらほら……拒否すればアナタの胃袋はこのアタシの美しい手のひらの中でぐちゃぐちゃに潰れることになるわよ? オーッホッホッホ!」
みたいなマルデュークを想像していたに違いない。
変な誤解は解いておかないと……
「ああいや! そんな文字通り内蔵を掴んだりなんて残酷なことはしないわよ!? ただ美味しいものを食べてもらって多少は円滑にコミュニケーションを図ろうと……」
「そ、そうでしたか……それではご無事をお祈りしております。も、もし何かございましたらグラギム氏からすぐに呼ぶようにと申し使っておりますのでくれぐれもお気をつけて……」
そう言って主任は再び部屋の厳重なロックを解除してくれた。
「あ、そうそう……この部屋の音って外に漏れたりする?」
「いえ。防音になっております」
「そう。せっかく新たな戦力を手に入れられるかも知れないチャンスよ。これがヘルゴラム辺りに盗聴でもされたら溜まったもんじゃないわ。だから完全にオフレコで頼むわね」
「ははっ!」
主任は俺の指示に深く頷いてコントロールパネルのようなものを操作し、カメラやマイクをすべてシャットアウトしてくれた。
そして部屋に入るとあいも変わらず四肢を鎖で繋がれた想がぐったりとうなだれていたが俺の持っているものに気がついたのかくんくんと匂いを嗅ぐ。
「ん? なんだ……なんだか懐かしい香りが……」
よしよし食いついたな。久方ぶりのラーメンの匂いなんて日本男児……それもまだ食べざかりな20代前半の空腹の男なら反応しないわけが無い。
「お待たせしました。お口に合うかどうかはわかりませんが私の使用人が腕によりをかけて作った料理です」
俺はそう言って彼の目の前でクローシュを外すと白い湯気がモワッと上がり濃厚なトンコツスープのような匂いがふわっと広がる。
「こ……これは……ラーメン!?」
先程まで濁っていた彼の瞳はそれを見た途端わずかに光を取り戻したように感じ、口からは涎が垂れている。
よし、ひとまず掴みは上々と言ったところか。
そりゃ俺だって前世ぶりにラーメンを食べられた時はこんな感じだったしそれほどじゃないと言えど恐らくソルダークネスに改造されて以来ラーメンなんて食べていないんだろうなと言うことは想像に難くない表情だ。
「こ、これ……僕に!?」
「ええもちろん。お近づきの印です。召し上がってください」
ひとまず見た目や味はラーメンだけど中身は全くの別物であることは伏せておいた方が良いだろう。
「で、でも僕こんななので食べられなくて……もしかして!?」
想は期待するように鼻を伸ばして俺の方を見つめてくる。
もしかして俺にあーんでもしてもらえると思ってたりする!?
い、いやそんな俺だってそんなの男にやるのは恥ずかしいし……
第一瞬にもまだやってないし……
俺は顔を少し赤らめながら手に力を集中してエネルギー状の鞭を発生させ、彼の両腕を繋ぐ鎖を断ち切った。
「これで食べられるでしょう? そうそう。これ使って」
俺は地球へ降りた時、例の居酒屋で貰っておいた割り箸を彼に差し出す。
アポカリプス星のカトラリーも使い慣れてきたといえば慣れてきたけどやっぱり箸が一番使いやすいんだなこれが……
だから俺はあの居酒屋に行くたびに何本か貰ってきてはストックしていて飯の度にこ使っていたのだ。
箸を使う度アビガストに変な目で見られはするがそれももう慣れっこだ。
そんなこの要塞では貴重な割り箸を想に差し出すと彼は目を輝かせて手を合わせる。
「い、いただきます……!」
そう言った途端器を片手で持ち上げ箸で貪るように麺(のような何か)を啜りはじめ、彼はあっという間にスープまできれいに平らげてしまった。
「うんめぇぇぇ! ラーメンなんて何年ぶりだろう!? もう二度とメシなんて食うことは無いと思ってましたしこんな美味しいなんて気持ち一生感じることもないと思ってました! ご馳走様です!」
先程までの表情が嘘のように満足げな表情で礼を言う彼を見ていると本当に持ってきた甲斐があったと言うものだ。
それにアビガストの作った料理をここまで美味しそうに食べてもらえてまるで自分の事のように嬉しくも感じる。
これだけ胃袋をガッチリと掴めば少しは警戒も解けるだろう。
「あ、あの……ところで」
遂に想の方から口を開いてくれた。
一体何を聞かれるのやら
「何かしら?」
「僕の事、こんな簡単に解放してよかったんですか? 仮面被ったヘンな奴らは仕方ないとは言え僕が目を覚ました途端化け物を見るような目で怯えてるようにも見えましたけど貴女は怯えるどころかラーメンまで食べさせてくれて……一体何者なんですか? それにここは何処なんです……?」
「えーっと……何から話そうかしらね……」
急に情報をワッと浴びせるわけにもいかないしとにかくここは物事を順序立てて説明しなければ……
「とにかくシャドーに倒されるまでのことは覚えているんですよね?」
「ええまあ……できることなら思い出したくもないですけど」
「そ、それなら無理に思い出さなくても良いです! そこまで分かってるならそれで……それじゃあその後から今アナタがここに来るまでの話をしますから落ち着いて聞いてくれますか?」
「は、はぁ……」
明るくなりかけていた想の表情が不立ち暗くなり始めたので俺は大急ぎで彼の話を遮り、何故眼の前のこの女は僕の事を知っているんだろうとでも言いたげな顔をしながら俺の話を聞いてくれた。
そして俺はソルダークネスを手に掛けたシャドーこと瞬はモグローグを滅ぼしたものの失意のどん底にあったこと、それから更に二年が経っていて、なんやかんやあってシャドーVXへと強化変身を果たした事。
それからVXはアポカリプス皇国という新たな脅威の前に敢然と立ち上がり今も地球の平和を守るため尽力していることを彼に伝えた。
「ということはあいつ……まだ誰かのために自分を犠牲にしてるんですか……」
それを聞いた想は少し呆れたように、そして安心したように一つ息を吐く。
「そうですね……」
「それからどうなったんです?」
「それからですか? ここからが長くなるんですけど……」
それから俺はVXになってからの彼のこれまでの活躍を想に聞かせた。
「それでその時のVXの必殺技がすっごくかっこよくて……あそこのアクションがたまんないんですよ!!」
俺はいつの間にかヒートアップして延々とVXの魅力を想に語っていて、そんな俺の熱量に彼もいつしか口をぽかんと開けていた。
「それでVXアトモスがですね!? めちゃくちゃ強くてもう攻撃なんか一切当たらなくなっちゃって……」
「お、お詳しいんですね……まるでずっと僕や瞬たちのことをどこか近くで見てたみたいだ」
「そりゃ俺の子供の頃のあこがれのヒーローをこうして間近で見れてるんだもん! テンション上がりますって!」
「子供の頃のあこがれのヒーロー……? それに今俺って言いませんでした? そんな喋り方でしたっけ? あとアポカリプス皇国ってマルデュークさんが所属してる……とか言ってませんでしたっけ? ということは貴女は瞬と敵対してるってことですよね? その割にはなんだか楽しそうですけど……」
「あっ……」
俺は思わず手を口に当てる。
マズい……気が緩んでマルデュークの口調を完全に忘れていた……!
いや待てよ? これは逆にチャンスかもしれない。
それに今の想の存在は俺の見ていた本編とは大きくかけ離れたイレギュラー……それなら今の俺の現状を知った上で手を貸して貰えればスムーズかつ大きく局面を動かすことが出来るんじゃないか……?
「あ、あの……それも話せば長くなるんですけど聞いてくれます?」
「は、はい……一度は死んだ様な身ですしこうして正気に戻して頂いた上にラーメンまでご馳走になったので……」
彼は俺の問いかけに頷いてくれたので自分の正体を初めて明かす為大きく深呼吸をした。
だれかに言うって結構緊張するな……
「あ、ありがとうございますそれじゃ驚かないで聞いてくださいね……? 私……いや俺も実は一回死んでるような物でして……」
俺は元々社畜サラリーマンをやっていて信号無視をして道路を渡ろうとしたらトラックに跳ねられ次に目を覚ましたらこの姿になっていたこと。
そしてこの世界での出来事が「装鋼騎士シャドー」とその続編である「装鋼騎士シャドーVX」としてテレビで放送されていた特撮ヒーロードラマとそっくりであり、それを子供の頃見ていたことでこれから起こる出来事や
そんな俺の話を想はぽかんとしながらも聞いてくれていたが……
「なんですかそれ! 貴方は僕たちの活躍が昔テレビで番組として放送されてた世界で死んだと思ったら女の身体に転生したとかそんな漫画みたいな話が本当にある訳……ってちょっと待ってくださいそれじゃあ僕たちは空想上の存在って事なんですか!?」
「うーん……空想上の存在……と言ってしまえばそれまでですけど俺はこうしてここに居ますし仮説にはなるんですけど俺がマルデュークとして本当にシャドーやソルダークネスが現実に存在する平行世界に転生してしまった。という解釈が今は妥当かなって……」
理屈等考えても分からないが、こうして俺もマルデュークとして生きている訳だし空想上の存在というよりはそういう事にしておくのが良いだろう。
下手をすると今のこの世界自体が事故で昏睡状態になった俺が見てる夢……なんてことになるかもしれないけれどそれは怖いので考えないでおこう。
そんな話をすると想は半信半疑ながらも俺の言葉を飲み込んでくれた様で深く頷く。
「そう……ですか。平行世界……とかいう概念はいまいちよくわかんないですけどもし僕らがそんな存在だとしたらこんな残酷な運命を思いついて実行させる脚本家はものすごく残酷ですよ。そんな娯楽のために僕と瞬はこんな身体にされちゃった訳ですからね……」
「た、たしかに……作品としての評価も高いしファンもいっぱい居る……んだけど想さんからしたら関係ないしたまったもんじゃないですよね……。ごめんなさい」
「い、いえ。いくら僕や瞬の運命が誰かの筋書きだったとしてもそうでないにしても今更僕がどうこうしたところで過去が変わるわけでもその脚本家に何かできる訳でもないですからね……所でそのマルデュークさんが知ってる世界の僕はこの後どうなるんですか?」
これからの「装鋼騎士シャドーVX」の展開を知っていると言ってしまった手前この問いを避けて通るわけにはいかないだろう。
しかし自分自身がドラマの登場人物でしかもこの後死ぬ……
なんて急に伝えられたら彼はどうなってしまうんだろう?
まずそんな事を信じてくれるんだろうか?
「それなんですけど……本当に聞きたいですか? 自分のその後を……」
「はい。今の僕にはなにもない。そんな僕がこれからどうなったって今よりは幾分かはマシなハズですから。別に何が起ころうとそれはきっとマルデュークさんのせいじゃないですしたとえ悲惨な結末が待っていても僕は貴女を恨んだりはしませんよ」
俺の深刻な表情を見て何かを察したのか彼はそう力なく答えた。
「わ、わかりました。落ち着いて聞いてくださいね?」
俺は大きく深呼吸してから本来であればソルダークネスは自我を取り戻すことも無くただただVXへの復讐心だけの存在に成り果てVXと戦うも最後の最後で正気に戻り彼を庇って本当に命を落としたその時、やっと想の姿に戻った事を伝えた。
「それってつまり今の状況とは合致しないって事ですよね?」
「……はい。だからこうして打ち明けてみた訳なんですけど……」
「なるほど……あはははははははは!!」
想の反応を伺っていると、突然彼は声を上げて笑い始めた。
「ど、どうしたんですか!? やっぱりショックでした? それならごめんなさい!!」
「いやいや違いますって。それが本当ならシャドーVXの話を書いた人は余程酷いやつだなって思いましてね。僕が何したって言うんですか! そう考えたらなんか笑っちゃって……」
「そ、そう……ですか……」
「いやぁしっかしそんな救いのないクソッタレな話の中に突然40手前のおじさんが現れて貴女が目が覚めたらこんな美人になってるなんて僕が改造される少し前に少年マンデーでそんな漫画の新連載を読んだ様な……あとそんな映画ありましたよね鏡の前である! ないー! とかいうやつ!」
想は俺の話をゆっくりと噛みしめるように聞きながらそんな事を言いながら胸と股間に手を当てるジェスチャーをしておどけて見せてきた。
あれ? 結構好感触なのか……?
「そんな映画ありましたね懐かしい! それほんとにやりましたよ。あったものが無くなってて無いはずのものがこうして胸に付いてるんですもん勝手に口から出てきてましたよ」
「それにしてもでっかいですよね……しかも好きなだけ触れるんですよね? 羨ましい……」
「いやいや結構これ肩凝ったりして大変なんですよ〜自分で揉んで気持ち良かったのも最初だけでなんかもう慣れちゃったというか……未だに自分の裸見るのには勇気もいりますし目のやり場に困りますけど……服とかもサイズ合わなくて大変で」
なんだかんだでそれっぽい話で盛り上がってくれていて想は頬を赤らめながらも気さくにそんなことを言ってきたので俺も気を少し緩めた。
「そういうもんなんですねー……そりゃそうか。自分が望まないまま目が覚めたら違うモノになってたっていう点では僕や瞬と同じと言えなくもない……かな?」
「いやいやそんな貴方達に比べたら俺なんてそんな……だからこそ俺は瞬にも幸せになって欲しいし貴方ともこうして話ができた以上幸せになって欲しいんです!」
俺のその言葉を聞いた途端彼の表情は再び暗さを増していく。
「そう……ですか。でも僕はもうきっと自分の幸せなんて願えるような立場じゃないです。いくらモグローグに改造された上洗脳され擬似的な人格を植え付けられていたとは言えたくさんの人々の幸せを奪い親友にまで深い心の傷を負わせてしまったんですから。幸せを掴むには僕の手はもう血に塗れすぎているんですよ。そんな悪の化身はあのまま正義のヒーローに悪の親玉として葬られて地獄へ行くのがきっと正解だったんです。きっとこの世界なんかより貴方の見ていた番組の筋書きの方がそこに関しては真っ当だったんでしょうね」
想は相当ソルダークネスとして引き起こした自分の所業を悔いている様でそれは先程の取り乱し様を見ても明確だった。
でもだからこそこうして正気に戻ったのならば解決の糸口は見いだせるはずだ。
「確かに過去の罪は消せないかも知れません。俺だってぼんやりとですけど地球に来る前までのマルデュークとしての悪行の数々が記憶にあるんです。例えば真摯に尽くしてくれているたった一人の使用人の女の子を意味もなく痛めつけたりその他諸々……それは確かに俺の意思ではないはずなんですけどたしかにそれをやったのは今の俺自身なんです。だからこそ自分にやれることがあるならやろうって……そう思ってるんです」
「……僕と同じなんですね。それにそれだけ今後の展開が大体分かっているなら自分だけ助かって悠々自適に過ごすことだって出来るはずなのにそんな大層な目的の為にたった一人で……」
「いいえ。一人じゃないです。確かに本当の俺の事を打ち明けたのは貴方が初めてですけどこんな悪女でも慕ってくれる人は居たんです。だからこそそんな部下たちのためにも自分だけ助かろうだなんて言えませんよ」
俺の言葉を聞いた想はまた呆れたように、そして何処か嬉しそうにため息をついた。
「なんかそのバカでかい目標を立てる所アイツに似てる気がします。テレビ越しに見ていた瞬の生き様が貴方の心の奥深くに根付いてるのかもしれないですね」
「そう……だと良いですね」
「最後にこれだけは聞かせてください貴方が生きていた未来は今よりも良くなっていましたか? 瞬が命を賭けてでも守って良かったと思える未来でしたか?」
「そ、それは……」
想のそんな質問に俺は口をつまらせる。
確かに科学技術は発展し生活はシャドーVXが放映されていた時代よりも格段に便利になっていると言ってもいいだろう。
しかし昔は良かった。なんていつの間にか毒づく様になってしまったがVXが終わってしばらくしてからバブルは崩壊し経済の成長も停滞して失われた何十年とか所得が毎年下がってるとか物価が上がるとか年々世知辛さを増していく有様だ。
俺だってそんな煽りを受けたせいで必死こいて就職した先がブラック企業だった訳で……
そんな
きっと彼は人々が希望に満ち溢れた平穏な世界を望むんだろうなぁ……
そんな理想とはかけ離れた綺麗事じゃやっていけない世界なのは過去も未来も変わらないんだろうけど……
それでも瞬の勇姿に心を打たれた子どもたちは俺以外にもきっと大勢居たはずだ。
そんな世知辛い世の中を生きる中で幼い頃に見た「装鋼騎士シャドーVX」は……瞬の背中はきっと俺の心のどこかで支えになってくれていた。
だからきっと世間が世知辛くてもそう思える人がわずかでも居てくれるのなら彼が戦ってきたことは決して無駄じゃない。
それだけは胸を張って言える。
だから……
「今よりも良い未来だとは簡単には言えません。でも俺の心のどこかにあの時見た瞬が居たからきっと辛い仕事だって頑張れたし今もなんとか最善の道を見つけようって頑張れるんだと思います。だからきっと瞬の守った
俺は思いの丈を精一杯言葉に乗せて想へ伝えた。
「……わかりました。それなら僕にも協力させてください。どこまでお役に立てるかわかりませんがそれで少しでも自分のしてきた事の罪滅ぼしができるのなら……それに僕の事をまだあいつが引きずっているならそれもなんとかしなきゃいけないし瞬に幸せになって欲しいと思ってるのは僕も同じ気持ちです。だから貴方のその救いという言葉に僕は賭けてみたい。ただ、筋書き通り次こそ本当に瞬に殺されるならそれも悪くないかなとも思いましたけど折角です。こんな酷い話を書いた脚本家の筋書きを台無しにしてやれるなら生きて生きて抗えるだけ抗ってやりますよ。当然文句なしのハッピーエンドにしてやりましょう! 「装鋼騎士シャドーVX」の物語をめちゃくちゃにする悪の戦士として!!」
そう言って想は手を差し出してくれたので俺はその手をガッチリと握り返した。
「ソルダークネス……いえ想さんが協力してくれるなら百人力です。こんな訳もわからないおっさんの話を信じてくれてありがとうございます……」
「もう敬語なんて良いですよ。聞く限り遥かに貴方の方が年上ですし僕なんて誰かに敬われるような立派な者じゃないですしなんだか落ち着きません。それで、これから僕はどうすれば良いんですか? この後筋書きだと記憶を失って目覚めた僕はどうなるんです?」
「え、えーっと……本来だと訳もわからず襲いかかってきたソルダークネスをマルデュークが一捻りするんですけど……じゃないするんだけど……ひとまずは見ていた筋書き通りマルデュークの配下になったという事で話を合わせてもらええないかな……? そうしないと俺も君も居る以上は反逆を疑われかねないし……ひとまず俺の中身がオッサンなのも当面は二人だけの秘密ってことで……それで良い……かな?」
「わかりました。それじゃあやっぱこの姿のままじゃマズいですよね……正直もうやりたくないんですが……あっ、ちょっと離れてもらえます?」
「え? は、はい……」
想に言われるがまま少し離れると彼は構えを取りギュッと拳を力強く握り込んだ。
「
想が叫んだ次の瞬間彼の身体を炎が包み、その炎を割って黒き騎士ソルダークネスが黒煙を巻き上げて現れた。
そのプロセスをもう一度見てみよう。
「烈……焼ッ!」
拳を突き上げポーズを取り転装と叫ぶ二段階の認証によって右腕に埋め込まれたエンペラージェムが活性化し彼の体内に流れる強化血液が沸騰を始め体組織が変化し始める。
そして身体は熱を帯び、人工皮膚を突き破り炎が彼の身体のいたるところから吹き上がりその表皮を溶かしていく。
そして溶かされた表皮は急速に黒き鋼鉄の鎧リグロスフォームへと変化し、彼は漆黒の騎士ソルダークネスへと変貌を遂げるのだ。
その黒のボディと暗い病室で輝く真紅の瞳に俺は見惚れていた。
「ふぅ……よかった。力は今でもちゃんと普通に使えるみたいです」
ソルダークネスの姿になっても性格はやはり想のままのようで、厳しいその姿からは想像もできない優しい声で彼は手を閉じたり開いたりしてみせる。
「VXもいいけどやっぱかっこいいなぁ……ソルダークネス」
ソルダークネスが人間態に戻ることもシャドーやVXの様に変身するバンクシーン等もなかったのでこうして誰も見たことがない変身を間近で見ることができた俺は胸を高鳴らせ思わずそんな言葉を漏らしてしまっていた。
「そう……ですかね? 僕はあんまり好きになれないんですけど……もしかして貴方の居た世界では結構僕……というかダークネスにもファンとか居たりしたんですか?」
「もちろん! ソルダークネスを応援したりする人だっていたぐらいだしソルダークネスが後々のヒーロー物に与えたダークヒーローの概念はとんでもないんだから! もっと自信持って!」
「ダークヒーロー……なんかそう言われるとちょっと照れちゃいますね……こうして僕自身や瞬、それに人々を苦しめたこの力で誰かの役に立つっていうのも悪くない……かもしれない。この力……存分に貴方の為に行使しましょう」
そう言うとソルダークネスは自分の掌を見つめてぎゅっと握った後俺の前に跪く。
「ああもうそんなかしこまらないで良いから! 悪の女幹部だけど中身はしょうもないオッサンだよ!? そんな大層なことしなくていいから顔上げて上げて!!」
「いやでもこれくらいやっとかないと示しがつかないと言うか……それに僕に自信を持てと言ったのは貴方でしょう? それなら今はそんなダークヒーローを配下にした
「うん……わかったよ……! こちらこそよろしくね想君! 一緒にこの物語を……いいやこの世界をいい方向に変えていこう!」
こうして「装鋼騎士シャドー」のラスボスであったソルダークネスが心強い仲間として俺に協力をしてくれることになった。
当面は二人でこの秘密を共有しつつひとまずは彼が死んでしまう要因を排除しなければいけないのだが……
とにかく今は想が自分の意志を取り戻したこと、そしてそんな彼が俺の事を秘密を知った上で受け入れてくれたことを喜び、そんな彼も救われる道を目指そうと誓ったのであった。