冴えないアラフォーリーマンが壊滅一直線の悪の組織の女幹部に転生した   作:ゔぁいらす

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第十一話 俺(アタシ)は誰だ?

「おーい! マリ子さーん!!!」

「げぇっ! 瞬!?」

 ソルダークネスとの戦いで大怪我を負い包帯を体中に巻いた瞬が人混みの中をこちらに手を降って走ってきている。

 あれだけの大ダメージを負った直後だというのにあそこまで動けるのは流石VXと言った所だろうか。

 

 いやいや感心してる場合じゃない。

 

 なにせ昨日瞬にここまでのダメージを負わせた本人であり因縁の宿敵、そしてかつての友である陽黒想が今俺の隣にいるのだから。

 

 瞬は想が正気に戻っていること等知る由もないし、そんな彼が俺と一緒に居るなんてことを知られれば話が更にややこしい方向にこじれて今後の展開が大幅に変わってしまい最悪の場合シャドーVXの敗北に繋がりかねない。

 

 そりゃ最終的には本来のマルデュークとアポカリプス皇国の破滅をなんとか回避するのが目的だから話が大幅に変わってしまうのは避けて通れない道だけど俺が不用意に動いてしまうとその目的が果たせたとしても地球に住む人々の身の安全が保証できない以上は最善の策が見つかるまで瞬には地球を狙うアポカリプス皇国の刺客たちを退けてもらわないといけないし、俺もそれまではアポカリプス皇国地球侵略作戦参謀マルデュークで有り続けなければいけないのだ。

 

「どどどどどうしよう瞬にこんなところを見られると色々まずいぞ!!」

「ぼ、僕だってまだ心の準備が……!! マルデュークさんならこの後どうなるか知ってるんでしょ!? どうなるか教えて下さいよ!!」

 想も流石に今瞬に出くわすのはまずいと感じたのかあたふたとそう尋ねてきた。

 そんな事言われたって俺が見てたのはVXのヒーロー活劇の部分だけでそんな万能な未来予知的なものじゃないしエピソード外で何があったかなんてわからないんだけど!? 

 

「そ、そんなの知るわけ無いよ! だって俺がテレビで見てたマルデュークは君と買い物なんてしなかったし……!!」

「じゃ、じゃあ逃げますか!? この状態でも貴方一人担いで逃げるくらい……いやいっそその転送装置を起動させてさっさと帰っちゃいましょうよ!!」

 確かにそれができればいいけどVXの走力は確か何処かで読んだ時に時速300km超えって書いてあった気が……

 いくら今がパワーをセーブした人間態でかつ手負いの状態とはいえ彼が本気を出せば常人どころかアスリートさえ歯が立たないだろう。

 

 それに対して転送装置を起動させて座標を設定したりするのには早くても5分はかかる。

 ものすごい速度で迫ってくる瞬相手に転送装置の起動を待っている時間など残されてはいないのだ。

 

「こ、これから転送装置を起動させてもあのスピードじゃ間に合わないどころか俺がマルデュークだってバレちゃうかもしれないし……何か……何か無いか!?」

「えぇっ!?もうすぐそこまで来てるんですよ!?どどどどうするんですか!?」

 二人でその場であたふたとして鞄の中をゴソゴソと探ったりしてみる。

 するとカバンの底に何やら四角いものが入っている事に気づき取り出してみるとそれはいつぞやの生物置換装置だった。

 

 結局あの時瞬を元に戻したことがバレるのも怖かったし壊れたことにしてそのままにしてあったんだっけ……

 

「そうだ!」

 俺はその装置を見て以前瞬を女の子に変えた時の事を思い出す。

「えっ、マルデュークさんなんか思いついたんですか!? 瞬も一応改造人間ですから逃げても余裕で追っかけてくると思いますけど時間稼ぎくらいには……」

声を上げた俺にすがるように想はこちらを見つめてくる。

 

そんな目で見つめられると罪悪感を覚えるが、少なくとも瞬と想が出くわさなければ済む話だ。

設定も前のままっぽいしここは想を別人に変えてしまえば……

「逃げないよ。でもこの状況を切り抜けるためにちょっと我慢して……ごめんっ!!」

「えっ、ちょっ……何を!? うわーっ!!!」

 俺は装置を操作しボタンを押すと、装置の先端についているアンテナから光が放たれた。

 

 その光に包まれた想は悲鳴を上げたがその声は徐々に高くなっていき……

 

 彼を包んだ光が収まるとその中からは想ではなく黒髪の少女が現れ、きょとんとした顔でこちらを見つめている。

 

「あ、あれ……? マルデュークさんなんかおっきくなりました……ってへぇっ!? なんだよこの声ぇっ! それになんか服もぶかぶかになってる? ど、どうなってるんですかぁ!?」

 少女……いや少女の姿になった想は甲高い声を上げて自分の身に起きた変化に戸惑い慌てふためいている。

 今この危機を乗り越えるにはこれしかない。

 それにこれは個人的なおせっかいなんだけどせっかく正気に戻れたんだから二人に会って話もさせてあげたい。

この姿なら瞬がこの子が想だなんて思うはずもないだろうしそれも可能かもしれない。

そうと決まれば行動あるのみだ!

「想くん! とりあえずこれ着て!」

 俺は大急ぎでアビガストにお土産で買った服を紙袋から取り出すが突然女物の服を差し出された想は訳もわからず首を傾げる。

 

「へっ!? そ、それってアビガスト……さん? に買ってた女物の奴ですよね? ぼく男ですしそんなのサイズ合う訳……」

「良いから早く!」

 小さくなった想をひょいと持ち上げ俺は大急ぎで彼のぶかぶかになった服を脱がせる。

「ひゃっ!! ちょっと服脱がさないでくださいよぉっ! うわぁぁっっ! パンツまで……ちょ……それ女物の下着じゃ!!」

 

 理由もわからずじたばたと抵抗する想だったが身体が縮んだ彼から衣服を剥ぎ取るのは簡単で、そのまま大急ぎで女物の服に着替えさせた。

 

「な、なんでこんなのがピッタリ着れちゃうんですか……それにぶ……ブラジャーまで……んっ……! それになんか胸も柔らかくなってるし……んっ♡」

 想は顔を真赤にして胸元を恐る恐る撫でている。

 そりゃ急に女の子にされたんだから訳もわからないよな……

「はぁ……はぁ……なんとかなった……瞬にバレないようにとりあえず見た目を変えさせてもらったんだけど……」

 俺は化粧直し用に持ち歩いていたコンパクトを取り出しその鏡を彼に向けた。

 

 彼は鏡に映った少女を少し見つめた後ひとしきり表情を変えてみたり頬を引っ張ってみたりした後……

「これが……ぼく!? そ、それじゃあ……ないーっ! ぼく、本当に女の子になっちゃったんですか!? なんで!?」

 

 恐る恐る手を股の方にやり古典的な叫びを上げると、想は目に涙を浮かべた。

「ごめんっ! これくらいしか思いつかなくて……と、とにかく少しの間我慢して!」

「えぇっ!?ちょっと胸もキツイしこんな格好恥ずかしいですよぉ……」

彼は小さくなった身体を縮め、内股でもじもじとしている。

「胸はごめんだけどすごく似合ってるから!とりあえずしばらくその姿で乗り切って!大丈夫。少なくともその格好なら君が陽黒想だって絶対バレないからなんとか誤魔化して!!」

「え、ええっ!?この姿で瞬に会えって言うんですか!?嫌ですよそんなの!!」

想はそう言ってその場を逃げようとするが、俺はそれを捕まえる。

「ちょっと待って!色々話したいこともあるから逃げないで!!男でしょ!?」

本来の想であれば振り切られていたかもしれないが今の彼は紛れもなく外見相応の少女なためあっさりと引き止めることができた。

「そ、そうですけど今はなんか知らないですけど女の子なんですってばぁ〜!」

 そんなことをしている間に包帯をぐるぐる巻きにした瞬が息を上げて俺達の眼の前にやってきた。

 

「はぁ……はぁ……マリ子さん! やっぱりマリ子さんだ! こんな所で会うなんて奇遇ですね!」

 瞬はまるで運命とでも言いたげに目を輝かせていて、想はそんな彼を見るなり逃げるように俺の背に身を隠す。

「そ、そう…ね……ほんとに偶然〜!まさか瞬さんとバッタり会っちゃうなんて〜あはははは〜」

ひ、ひとまずそういう事にしてここは乗り切ろう。

自分でも恥ずかしくなるほど白々しくそう言ってみるが瞬はちらりと俺の背後の方に目をやった。

 

「所でそちらの女の子は?」

 彼は俺の背に隠れた想を見てそう尋ねてくる。

 

「えっ!? あ、ああ……この子は……えーっと……」

 どどどどうしよう!勢いで突っ走った割にその辺何も考えてなかった!!

 

えーっと妹…にしては似てないし娘………ってまだアタシはお母さんって齢でもないし!!

何より瞬に子持ちだって思われるのもなんか嫌だし…………

ってそうじゃなくて…………そうだ!

 

「おれ……こほんっ!そう! 私の……甥っ子! じゃなくて姪っ子で……ほ、ほら挨拶しなさい?」

「へっ……? は、はい……こ……こんばんは……」

 俺は後ろに隠れる想に言うと彼は恥ずかしそうにペコリと頭を下げ小さな声で言った。

 

「マリ子さんの姪っ子さんかぁ……こんばんは! 俺はマリ子さんのその……お友達の月影瞬って言うんだ。よろしくね!」

 瞬はそんな恥じらう彼に近づき目線を合わせるようにしゃがむとニッコリと笑みを浮かべて言った。

 

 流石何度も子供を助けたりしているだけあって子供への対応は手慣れていると言うべきか……

 と感心しながらなんとか彼を俺の姪っ子であると信じてくれたようでひとまず胸をなで下ろす。

 

 それからしばらく瞬と今日は天気がいいとかなんとか当たり障りのないそれっぽい会話をしていると想が俺のスカートの裾を引っ張ってきて

「あの……ちょっといろいろ聞きたいことがあるんですけど……」

 と小声で囁いてくる。

 確かにいくらなんでも想を女の子に変えた上置いてけぼりにするのはかわいそうだと思い、ひとまず彼と話すことにした。

 

「瞬さんごめんなさい。ちょっとこの子ちょっと人見知りが激しくて……なんか私と話したいことがあるらしいから少し待っててくれるかしら?」

「えっ、はい良いですけど……? もしかして俺、その子のことびっくりさせちゃいましたかね?こんな格好ですし……」

「ああいえ全然そんな事無いのよ? ただちょ〜っとだけ二人で話がしたいって言うもんですからちょっとだけ待っててくださらないかしら〜?」

 俺は必死にそんな事を言って彼から会話が聞かれないくらいに距離を取る。

 瞬は聴力も人一倍で、その気になれば約2km先の物音すら聞き取れるらしいけど流石に他人の話を盗み聞きするような無粋な男ではないはずだ。

 

「マリ子さん……ってどういうことなんですか!? それになんか瞬と何回も会ってる感じっぽいですけど……一応敵同士なんですよね!?」

 彼は耳元で小さな声でそう問い詰めてきた。

 まさかこんなところで出くわすとも思ってなかったし瞬と俺との複雑な関係についてはもう少し時間を置いて話そうと思っていただけに完全に計算外だ。

 

「ごめんっ!これには色々理由があって……詳しいことは落ち着いてから話すから今は俺の姪っ子って事で話を合わせて……」

「は、はい……でもなんでこんな姿に変えたんですか!? よりによって女の子なんかに……!!」

「前に使ったときの設定が前のままになってて丁度いいかなって……他の生き物とかよりマシでしょ!? しかもちょうどアビガスト用に買った服のサイズもバスト以外は合ってるみたいだし……」

「前……!? これ前も誰かに使ったんですか!? うう……久しぶりに目が覚めたら女の子にされた上女物の服まで着させられるなんて……合わせる顔がないとは言いましたけどこんな格好であいつと会うのもそれはそれで恥ずかしいですよぉ……」

「ま、まあ色々あって……と、とにかく説明は後! 後で元に戻すから今は俺の……じゃなくてアタシの姪っ子って事で話し合わせて! 一応外資系の会社に努めてるOLって事になってるから」

「はぁ……わかりました……」

「そ、それじゃあ行こっか」

「……はい」

 想は渋々俺の申し出に了承してくれて、彼の小さくなった手を引き俺達は瞬の元に戻った。

 

「お、お待たせ〜瞬さん? それにしてもすごい大怪我ね。大丈夫なの?」

「ああこれですか……? ちょっと昨日転んじゃいまして! いやぁ〜我ながら鈍臭いですよね……ははは……」

 瞬は俺がマルデュークだと知る由も無いので彼はおそらく怪我を心配させまいとそんな見え見えの嘘をついておどけて見せる。

彼がどれだけ取り繕おうともその怪我の本当の原因を知っているので、その嘘と笑顔が痛ましくて仕方がない。

そう感じているのは俺だけでなくこのダメージを負わせた張本人である想も同じ様で目をやると顔をうつむかせていた。

……ダメだダメだ!せっかく想君も意識が戻って久しぶりに何も考えずに楽しく過ごしてもらおうと思って連れてきたハズなのにこれではただただ自分の罪を蒸し返されただけの辛い思い出になってしまう。

なんとか足早に退散しないと……

 

「そ、そうだったのね〜……そんな大怪我してるのにこんな所までお出かけ? お家で休んでたほうが良いんじゃないかしら……?」

「いえいえ! こんなのすぐ治りますって! 俺、怪我の治りだけは人一倍……いや人千倍くらい早いんで!それにマリ子さんに会えたからこんな怪我すぐ吹っ飛びます…………っッ! あいてて……」

 瞬は怪我がなんとも無い様にその場で腕をグルグルと回してみるがやはり全開の戦いの傷が癒えていないようでソルダークネスのパンチをモロに食らった脇腹を痛そうに押さえていた。

 

 そんな姿を見た想はやはりやりすぎてしまったと自己嫌悪に陥っているのか顔を真っ青にして胃をおさえている。

 なんで気負いしてる想の気晴らしになればと思って出かけただけなのによりによってこんなタイミングで瞬にばったり会っちゃうかなぁ……

 

 自分の運の悪さを呪い内心で頭を抱えていると

 

「おい瞬! まだ怪我も治りきってねぇってのに急に走って行っちまうからびっくりしたぜ……ってマル……いやマリ子……さん!?」

 ジンが瞬を追いかけてきたのか息を上げてこちらに走ってやってきて俺を見るなり姿勢を正した。

「こ、こんばんは……ジンさんも一緒だったのね」

「ど、どうも……」

ジンは気まずそうに軽く頭を下げてくる。

 ジンはもちろん俺がマルデュークであることは知っているし、怪我の原因がソルダークネスと彼を差し向けた俺であることも分かっているはずだ。

 

 彼からすれば自分には瞬を見張り地球とアポカリプス星双方にとってベストな方法を探るようにと指示しておきながら瞬を殺すような刺客を差し向けた様にしか見えない訳で……

 

 そしてこの中でこの場にシャドーVXとアポカリプス皇国の女幹部マルデュークが居合わせている事を知らないのは瞬だけという状況下で俺とジンも非常に気まずい挨拶を交わす。

 

「聞いてくれよジン! マリ子さんに会えたんだよ!」

俺やジンがどんな心境なのかを知るよしも無く瞬は嬉々として彼に語りかけた。

「ああ知ってるよ。眼の前に居るからな」

「やっぱ悪いことの後には良いことがあるもんなんだな!」

「え? ああ……そうだといいな」

ジンは何も知らない瞬に何と言って良いのかわらないのか面倒なことになったと言わんばかりの苦い表情をして頭を掻いている。

 ジンも俺の本性は知らないまでも正体がマルデュークであることを知っているので瞬にこれだけの大怪我を負わせた張本人を前にして目を輝かせて喜んでいる姿にはやりきれない気持ちがあったのだろう。

 

「何だよジン! 浮かない顔して、俺より元気ないんじゃないか?」

「お、俺にだって色々あるんだよ……!」

 ジンはそう言って瞬から目を逸らすと瞬はこちらに向き直り

「マリ子さん、今日は姪っ子さんとお買い物ですか?」

「えっ!? え、ええそうよ。この子久しぶりに都会に出てくるっていうものですからこうして買い物がてら観光でもしようかなって……ねぇ?」

 俺がそう言うと想は無言で頷き、そんな彼のことをジンは不思議そうな目で一瞬見つめた後

「お、おい瞬! 姪っ子さんと水入らずの時間に水さすのは悪いって! 怪我もまだ治りきってねぇし今日はもう帰ろうぜ? な?」

 ジンが瞬をそう諭す。

 この状況で何も知らない瞬をこの場に長居させるのは良くないと彼も判断したのだろう。

「えー……なんだよジン妬いてんのか?」

「バカッ! そんなんじゃねぇよ! お嬢ちゃんもごめんなこんな包帯グルグル巻きの兄ちゃんが突然走ってきて怖かったろ? それではマリ子さん俺たちはそろそろこれで……ほら行くぞ瞬! おい瞬?」

 ジンが話を切り上げ瞬を連れて行こうと腕を引っ張るものの彼がそこを一歩も動くことはなく……

「良いだろジン! せっかく会えたんだからもう少しお話ぐらいしても!」

「あんまマル……じゃねぇマリ子さんの事困らすなって!今は姪っ子さんと水入らずで楽しんでんだよ!! 怪我もしてんだから変な気ィ遣わせちまうかもしれねぇだろ!?」

 ジンに諭されるも子供のように駄々をこねてその場を離れようとしない瞬を俺と想は何も言えず見つめるしか無かった。

 

 そんな時、ぐうと腹の音が鳴り、音の方に目をやると想が驚いたような顔で自分の腹を触っていた。

「ん? もしかして君お腹空いてるのかい?」

 瞬はそんな彼に話しかけると彼はゆっくり頷いた。

 

「そっかそっか! それならお兄さんこの近所で美味しいお店知ってるから案内してあげるよ! マリ子さんともよく行くお店なんだけど……マリ子さんも夕飯まだだったらどう……ですか?」

 瞬はここぞとばかりにそんな事を言いだした。

 近所の美味しいお店と言ったらいつも彼と会っている居酒屋だろう。

 

 確かにここから近い場所ではあるが……これ以上長居させるのは想にも負担が大きいだろうし何かボロが出たりするとマズい……

俺と想とジンの3人は瞬のそんな発言で全員困ったような、しかしどう動くべきなのかわからないという顔をしている。

 

 ん? 

 そういえばあの店のオヤジ瞬とは昔からの付き合いだって言ってたし想とも面識があるかもしれないな。

 それに想もさっき焼き鳥が食べたいって言ってたしもしかしたら想が食べたかった焼鳥というのもあの店の焼鳥のことかもしれない。

 それならせっかくだし瞬の誘いに乗るのも有り……なのか? 

「ダメ…ですかね……?」

どうするか考えていると瞬が寂しそうな目でこちらを見つめていて、なおさら断りづらい雰囲気を醸し出している。

ええい!もうこうなれば行くところまで行ってもいいだろ!なにせこの子が想だってバレなきゃ良いだけだし夕食を食べるつもりだったのには違いないし!!

「おい瞬! お前もういい加減に……!」

「待ってジン! ……さん。わかったわ。私達もちょうど夕食を何処で取ろうか考えていたところなの」

 俺を飯にしつこく誘う瞬に憤ったジンを遮り俺は瞬の誘いに乗ることにした。

 

 俺の言葉を聞き想は顔を青くしていたがそれとは裏腹に瞬の表情がぱっと明るくなる。

「あ、ありがとうございますっ!」

「ほ、本当に良いんですか……?」

 瞬は嬉しそうに頭を下げる横でジンは怪訝そうな顔をしてそう尋ねてきた。

「良いのよ。色々話したいこともあったし、夕飯をどこで食べるか考えてたところだったから」

「そ、そうですか……だってよ!よかったなぁ瞬!」

「だろ〜? やっぱ悪い事の後には良いことがあるんだよ! そうでもなきゃやってらんないよな! さ、そうと決まれば行きましょう!」

「え、ええそうね。それじゃあ行きましょうか」

 瞬はその年頃の青年らしい笑顔ではしゃいで見せ、ジンと肩を組んで歩き始める。

 そんな彼の背中を追いながら戸惑う想の手を引き俺達はいつもの居酒屋へ向かった。

 

 居酒屋を前にすると想は歩みを止め看板を見つめた。

「こ、ここって……」

「ん? どうしたの?」

 俺も彼に合わせて歩みを止めると

 

「あれ? マリ子さん? どうしました?」

 瞬がこちらを振り向いて尋ねてきた。

 

「え? ああ……この子このお店の外観が気になるみたいで……先にジンさんと入っててくれないかしら?」

「わっかりました! 飲み物先にマリ子さんとその子の分も頼んどきますね! えーっとマリ子さんはビールで……お嬢ちゃんはオレンジジュースでいいかな……?」

 瞬の問に俺と想は頷くと彼はそのまま店に入っていった。

 

「おお瞬じゃねぇか! 今日はまた一段とハデに転んだんだな! 相変わらずどんくせぇヤツだなぁ〜」

 店に入るやいなやそんな店のおやじの声の後に瞬とジンの他愛のない会話が店の中から漏れ聞こえてくる。

 

 そんな様子を想は何処か懐かしそうに聞いていて……

「やっぱりここの店、想くんも知ってる所?」

「はい。知ってるも何もよく瞬の親父さんに連れてきてもらいましたから。おやっさんも元気そうで……それに瞬もなんだかんだ上手くやってるみたいでぼく……少しだけ安心しました。ところで、一体何故アポカリプス皇国の幹部であるはずのマルデュークさんもこの店のことを知っててよりにもよって敵であるはずのシャドーVXと一緒に呑んだりしてるんでしょうかねぇ……? ぼく、何も聞かされてないんですけど?」

「あーえーっとそれは……」

 

 想はさんざん自分を置いてけぼりにして話が進んでいる事に憤りを感じているのかジト目でこちらを睨みつけてくる。

 ああ……その表情もかわい……じゃなかった。

 ちゃんと説明をしておかなきゃな……

「ご、ごめん……夕飯でも食べながらゆっくり話すつもりだったんだけど実は……」

 

 俺は彼に瞬との奇妙な関係の一部始終を伝えた。

「ふむふむ……以前地球に降りた時この店に入ったら偶然瞬とばったりと出くわして貴女の正体はバレなかったけどその代わり話し相手になってたらなんだかんだで定期的に会うことになったと……」

「そ、そうなんだよ……俺も正直なんでこんな事になったかわからないんだけど結構あれで隙があれば酒浸ってる状態で……憧れのヒーローのそんな所見てたら放っておけなくて……そしたらこんなややこしいことになってたって訳で……」

「なるほど……それで瞬と一緒に居たジン……? でしたっけ? あの人、この間瞬を助けて逃げてた人ですよね? あの人は誰なんです……?」

「あの人は……」

 ついでに説明を求められたジンについても続けて彼に説明した。

 

「あの人は貴方がマルデュークだと知っててかつ僕同様貴女の理念は多少理解してはいるものの中身が云々とか実は貴女が幼少期に見ていたヒーロー番組の世界がどうとかは知らないわけですか……なんか相当ややこしい事になってませんか?」

「そ、そうなるね……流石に上司の中身が知らないおっさんだなんてそう簡単には言えないよ。今のところそれを伝えられてるのは想くんだけだし……」

「ぼくだけ……ですか」

「うん。だって想くんも俺ほどじゃないけど俺の知ってるシャドーVXのソルダークネスとは全く違うイレギュラーだから隠す必要もないかなって……」

「その割には瞬との事とか全然教えてくれなかったですよね?」

 想は頬を膨らませていじけてみせた。

「ご、ごめん……一気に話したら混乱すると思って……」

「でも良いです。瞬のヤツ、あれで結構辛いことは溜め込んじゃうタイプなのはよく知ってますし……あいつがああして元気そうにしてるのは貴女のおかげだってことにしておきます。ぼくが瞬に倒されたその時からそれだけが気がかりでしたから」

「うん。でも元の姿のまま瞬に会わせるわけにもいかないし女の子に変身させたのも結果オーライだった……でしょ?」

「それとこれとは話は別ですっ! なんでこんな恥ずかしい姿を瞬に見られなきゃいけないんですか!!」

「あ、あはは……わかったよ。と、とにかくご飯食べて早く切り上げて帰ろっか」

「そうですね。ああ……この汚いのれんもタレの匂いも懐かしいなぁ……もう二度とここには来れないと思ってましたから……」

 想は店から香ってくる少し焦げたタレの香りを噛みしめるように吸い込む。

 

「やっぱり食べたかった焼き鳥ってここの店の焼き鳥のことだった?」

「さぁどうでしょう? ほら、早く行きますよ! マル……おねえちゃん!」

 想は悪戯な笑みを浮かべて俺の胸はドクりと高鳴る。

「へぇっ!?」

「今は姪っ子って設定なんでしょ? ほら早く行きますよぼく……いやわたしお腹へっちゃったわよ〜……いやお腹へっちゃったなぁ〜とかのほうが自然か……?どうかなぁおねえちゃん?」

想はあざとい顔でこちらを見つめてきた。

「はうぁっ!?」

ちょっと待って……可愛すぎるんですけど…………一応今は女の身体だけど俺も一応男なんだよ!?

い、いや下手するとこれくらいの娘が居てもおかしくない年頃だし断じてロリコンではないと思うんだけどこんな不意打ちされたら俺…………

「ぼくをこんな格好にした仕返しですっ……!って何顔真っ赤にしてるんですか?」

「やっぱそれはおじさんには刺激が強すぎるというか元の身体で俺の生きてた時代だったら事案というか…………」

「もう何言ってるんですか?姪っ子として振る舞えって言った上ここに連れてきたのは貴方なんですからね? ほら、行くよおねえちゃん?」

「は、はい…………」

 想はいたずらな笑みを浮かべ俺の手を引いて店に足を踏み入れる。

 全く女の子の格好でお姉ちゃんなんて言われたら心臓に悪いったらありゃしない……

 でも想がその気になってくれたなら今は良しとしよう。

 とにかくボロを出さないように平常心平常心……

 俺はそう自分に言い聞かせ暖簾をくぐった。

 

「おおマリ子さんいらっしゃい! 今日も仕事の帰りかい? 毎度毎度日曜だってのにご苦労さんだねぇ……っとそっちのお嬢ちゃんは?」

「えっ、ああ私の姪です」

「ど、どうも……」

 店ののれんをくぐるなり出迎えてくれた店のオヤジに二人で軽く頭を下げる。

 

「おおそうかい! うーむ……」

 オヤジは想の顔を何やらじっくりと覗き込み、突如顔を覗かれた想は体を強張らせた。

 完全に跡形もない姿に変わってるはずだけどもしかして店のオヤジ……想の正体がわかったとか……!? 

 

「ぼ……わたしの顔になにか付いてますか……?」

 おやじに見つめられた想はたどたどしくそう言って目をそらすがオヤジはニッコリと笑い

「ああいやマリ子さんの姪っ子だけあってべっぴんさんだと思ってなぁ!」

「そ、そうですか……ありがとう……ございます……はぁ」

 どうやら杞憂だったらしく想は安堵の息を漏らし、俺もその影で密かに安堵した。

 

「ほら瞬から聞いてた生とオレンジジュース。あとふたりとも美人さんだからお通しもサービスで取っといてくれ! 瞬、後でその分バイト代から引いとくからな!」

 オヤジはそう言うと俺と想の前にグラスジョッキと枝豆の入った小皿を置く。

 

「おやっさんそりゃないよぉ〜」

「ま、今日は瞬が無理やり連れてきたようなもんなんだしそんくらい安いもんだよな!」

 肩を落とす瞬の肩をジンがぽんと叩き三人は声を上げて笑う。

 

「ま、いいか! よ〜っし今日はマリ子さんにも会えたし俺の快復祝いでいっぱい飲むぞ〜! あいいててて……」

「おい瞬! 何が快復だよ! 全く回復してねーじゃねーか! ま、今日くらいは呑んでパーッと忘れちまおうぜ! おやっさん俺にも生頼むわ!」

「なんだい今日はジン君も威勢がいいねぇ。よっしゃ!すぐ用意するからちょっと待ってな!」

 俺にとっては最早見慣れた景色だったがそんな様子を想は独りここが自分の居場所ではないとでも言いたげに孤独感をにじませていた。

 

 しばらくしえいつも通りおまかせを頼むと俺達の前に焼き鳥や小鉢料理が並ぶ。

「はいよお嬢ちゃん、お口に合うかはわかんねェけどさ。ウチの一番人気のヤツだから。串刺さらないように気ィつけて食べるんだよ?」

 おやじにそう言って出された焼き鳥を筆頭に見るもの全てが懐かしいのか想はそんな料理たちに目を輝かせ、彼の横顔は今の姿応の少女の様に見えた。

 

 その横ではビール瓶や焼酎が運ばれてきていて瞬はそれを浴びるように飲みながら俺に今日あった事だとか色々と話してくれて俺はそんな彼の話に笑顔で答える。

 

 これも社畜時代に培った処世術だ。

 毎度毎度残業終わりに行きたくもない飲みに付き合わされては酔った上司のしょうもない自慢話やら説教を聞かされてしかも代金は割り勘でなんてのを繰り返しているうちとうとう飲み会で酔った上司に何を言われても我を出さずこうして笑顔でそれとない受け答えができるようになっていた。

 

 そんなクソ上司と瞬を比べるなんておこがましいにもほどがあるがそんな処世術のお陰でボロを出さず彼の相談相手としてこうして隣で話を聞くことができているのだから社畜生活もクソ上司との飲み会も無駄じゃなかったんじゃないかと死んでからではあるものの薄々思ったりしながら瞬の話に愛想よく相槌をうっている。

 

 そういえばずっと想の事ほったらかしにしちゃってるけど大丈夫かな……? 

 ふとそう思った俺は瞬の話を聞きつつ想の方に目をやると……

 

「んん〜っ! おいひぃっ! やっぱりおやっさんの焼く焼き鳥が一番だなぁ〜」

 彼は焼き鳥を口に入れながら頬を抑えて口を緩ませ至福の表情を浮かべていた。

 

 よし。

 なんとか彼も彼なりに楽しんでくれているみたいだ。

 想のこんな幸せそうな顔テレビ越しにも会ってからも見たことがなく、今の少女の姿ではなく本来の彼の素顔でこの表情が見られなかったことだけが悔やまれる。

 

「おっ、嬢ちゃんその年で焼き鳥そんなうまそうに食ってくれて嬉しいねぇ〜おっちゃんも焼いた甲斐があるってもんよ! ってか嬢ちゃん? ウチの焼き鳥が一番っつってたけど前にこの店来たことあったかい? こんな可愛いべっぴんさん一回見たら忘れねぇはずなんだけどなぁ」

「えっ……えーっと……それはその……」

 想は店のオヤジに痛い所を突かれて目を泳がせている。

 マズい……店のオヤジからすれば今の想は初対面の少女だ。

 ここは助け舟を出さなければ! 

 

「えーっと…そう! この間お土産に頂いた焼き鳥をこの子にあげたらとっても美味しいって言ってくれてそれからずーっと焼きたてを食べてみたかったのよね〜?」

「そ……そう……なの! わたしぃ〜おねえちゃんにここの焼き鳥食べさせてもらってずっとこのお店に来たかったの〜!」

 想は俺に続けてそうわざとらしく続けた。

「ほうそうかい! それならた〜んと食っていきな! ほら砂肝お待ちィ! 瞬の分も食っときな」

「あ、ありがとうおや……おじさん……ふぅ……」

 なんとか難を逃れたようでオヤジは気を良くしたのかそう言って想の前に砂肝を二本置き、彼は安堵したのか息を漏らす。

 はぁよかった……なんとかボロが出るのは阻止できたみたいだ。

 

 この女の子が想だなんて今の瞬に聞かれたらどうなることか……

 そう思いながら瞬の方に目をやると

「ういぃぃ〜おやっさん生追加でぇ〜あと砂肝まだ〜」

「おう瞬良い飲みっぷりだぜぇ〜ほらほら今日はもっと飲んじまえよ! おやっさん俺にも生追加で頼んます〜!あともろきゅう!急に食いたくなっちまって……なんつってな!ガハハハ!!」

 彼はジンともども完全にできあがっていてジョッキ片手に肩を組んでゲラゲラ笑っていた。

 

 そんなこんなで瞬とジンは更にテンションが上っていきお互い包帯や服を脱いで筋肉自慢をしだしたりしはじめたりしながら時間は過ぎていき……

「うへぇ〜おやっさぁ〜ん熱燗もう一杯〜」

 瞬は酔いつぶれてカウンターに突っ伏しながらうわ言のようにそんな事を呟く。

 

「おいおい流石に飲み過ぎだぞ瞬……それに今日はそろそろ店じまいの時間だ。今日はこんな小さい子もいるんだしあんまり長居させちゃマリ子さんにも悪ぃだろ?」

「うぃ〜わかりまひたよぉ〜」

 瞬は机に突っ伏しながらも手だけ動かして店のオヤジに返事をした。

 

「いつも瞬に付き合ってもらって悪いねマリ子さん……それに姪っ子の嬢ちゃんも」

 店のオヤジは瞬を見てやれやれと言った具合に軽くため息をつくと想に向けてそう笑いかける。

「い、いえ……私もここ……ずっと来たかったので! おじさんの焼き鳥とっても美味しかったですっ!」

 想も店のオヤジに笑顔でそう答えた。

 

「おう! そんならまた来てくれ! おっちゃん待ってっから!」

「……はいっ!」

「そんじゃ、あの二人は俺が後で叩き起こしとくから今日はもう遅いし気ィつけて帰んなよ? これそれとこれ、おっちゃんからお土産」

 そう言うと店のオヤジは焼き鳥を何本か包んで想に渡した。

 

「えっ、良いんですか?」

「お嬢ちゃん相当ウチの焼き鳥気に入ってくれたみたいだからなぁ」

「あ、ありがとうございます!」

 想は深々と頭を下げ、俺は酔いつぶれた瞬とジンを置いて会計を済ませ店を出ようとしたその時

「うう……想……またお前とここで飯食いたかったなぁ……」

 瞬がぼんやりとそんな言葉を呟き想はもらった焼鳥の入った袋の取っ手をぎゅっと握りしめた。

 

「何だ久々に聞いたなぁ……マリ子さんが来るようになってからは酔いつぶれてその名前言うこともめっきりなくなってたってのに……アイツ……今何処で何やってんのかねぇ……?」

 瞬の言葉を聞いたオヤジは遠い目をしてそう言った。

 

 今度想をこの店に連れてくるときには生物置換装置なんてものに頼らない本当の姿で彼をこの店に連れて来たい。

 そして瞬と避けを飲み交わす彼の姿を見たいと俺は心の底から思った。

 

 そうするためには今後の俺の采配が鍵を握っていると思うと責任重大だがそれができるのはほかでもない俺だけなんだと決意を更に新たにして会計を済ませ店を出たがその間も想はどこか名残惜しそうに瞬を見つめていた。

 

 店を出てしばらくして、

「お〜いマルデューク様ぁ〜まってくださいよぉ〜」

 そんな声の方に振り向くとジンが千鳥足で俺達を追いかけてきていた。

 

「じ、ジン? こ声が大きい……わよ! どうかしたの?」

「いやぁ……瞬を酔いつぶれさせてその隙に貴女と話そうと思ってたんですが深くにも俺も飲み過ぎちゃいましてね……お恥ずかしい限りです」

「そ、それで今日はやけに呑んでたのね……それで話って?」

「その女の子についても気になりますが新しい計画かなんかだと思うのでそちらには触れませんがあの黒い奴の事です。アイツは何者なんですか!? 瞬は何か知っている様でしたが聞いてもお前には関係ないとかで教えてくれないですし……俺に瞬を見守るようにって言っておいて何よりあんなのを差し向けるなんてマルデューク様は瞬をやっぱり殺す気なのですか!?」

 ジンの言葉には先程までのおちゃらけた雰囲気はなく言葉には圧が込められていた。

 

 たしかに地球もアポカリプス皇国も救うを宣っておきながらソルダークネスを差し向けVXを完膚なきまでに叩き伏せるなんてことをしたんだからそう言われても仕方がない。

 

 そしてその言葉を聞いた想の表情にも再び影を落とす。

「ご、ごめんなさいジン……貴方に説明も無しに……でも大丈夫。彼もアタシたちの協力者よ」

 ジンには悪いが今はそうとしか言えない。

「そうなのですか? なら何故瞬をあそこまで痛めつける必要があったのですか!? アイツ……いつも通りみたいに振る舞ってますけど結構無理してるんです! それなのにマルデューク様はアイツの前に現れて……! そんな事したらアイツ……更に無理しちまうじゃないですか!!」

 彼の言葉には瞬を気遣う気持ちと怒りが滲んでいた。

 

「そう……よね。ごめんなさい。でも今はそれだけしか言えないの。でも悪いようにはしないわ。だからアタシを……もう少しの間だけでも良いから信じてくれないかしら」

「……わかりました。でももし貴女が俺に下した命令に逸脱する事をしていると判断したその時は……俺……」

先程までの朗らかな表情が嘘のように彼の目からは覚悟が滲み出していた。

「その時は本当に瞬の方に付いてもらっても構わないしそれをアタシは咎めることもしないわ」

「……はい。でも俺だって腐っても心は祖国、アポカリプスの戦士のつもりです。そうならないことを強く望みます。それでは」

 ジンはそう言い残してアポカリプス皇国式の敬礼を小さくするとそのまま振り向くこともなくしっかりとした足取りで店の方へと戻っていった。

 

 そんな彼の背中を見送り早いうちにジンにも今のマルデューク(おれ)の事を話さなければいけないなと再認識させられたが果たして彼はマルデュークの中身が地球人の中年男性だと聞いても俺の考えに賛同してくれるだろうか? 

 ただただそれだけが不安で見えなくなるまで彼の背中を見送った。

 

 ジンと分かれ元いた路地裏に戻って転送装置を起動させ、やっとのことでアポカリス要塞の自室へ戻ることができた俺達は、自室へ戻った途端一気に力が抜けてしまいそのままベッドに腰を下ろす。

 

「ふぅ……一時はどうなるかと思ったけどなんとか乗り切れたね……お疲れ様想くん。想くんもここ座って」

 俺はベッドをぽんぽんと叩き、隣に想を座らせた。

 

「い、良いんですか? 失礼します……はぁ……急に女の子にされるわ瞬と飯食うことになるわでほんっとにずっと変な汗掻きまくりでしたよ! でも……久しぶりの焼き鳥……美味しかったです。それに瞬が相変わらずだってこともわかりましたし」

 瞬はそう言って笑顔を見せてくれた。

 

 しかしそれと同時に店で瞬を見つめた時の瞳、そして瞬が彼の名前をつぶやいた時の表情……

 笑顔の裏にそんな彼の寂しそうな表情が浮かび、彼がソルダークネスとして瞬に倒されてからこうして蘇りここまでに至る経緯を思い返すとたたまれなくなり、俺は目から涙を溢れさせ思わず小さな彼のことを抱きしめその頭を優しくなでていた。

 

「うわぁぁぁっ! ま、マルデュークさん!? どどどどどうしたんですか急にっ!」

「想くん……これまで色々辛かったよね……だから今度は絶対元の姿であの店に連れて行くから! オヤジさんと瞬に元気な所見せてあげられるように俺も頑張るから!」

「わわわわかりましたっ! それは凄くありがたいんですけどなんというかすごく刺激が強いです〜っ!」

 想は顔を真赤にしてジタバタと暴れたので俺はハッとなりそんな彼から手を話した。

 

「ううっ……ごめんね。できるならすぐにでもそうしてあげられれば良いんだろうけど……」

「はぁ……はぁ……わ、わかってますって。まだ下手には動けないんですよね。でもぼく……マルデュークさんが本当にいい人なんだってわかりましたしぼくも貴女を助けるために頑張りますから! ……とその前に」

そう力強い表情で言った想は俺をじっと見つめてきて胸がドクリと高鳴る。

こんなベッドルーム……女二人(いや厳密に言うと二人共男なんだけど…………)一体どうなっちゃうの!?

「ま、前に?」

「ぼくの事……そろそろ元に戻してくれませんか?」

そうだ忘れてた…

いくら戻すとは言ったけど急に訳もわからず女の子の身体にされたんだし不安だよな…

「あっ、ごめん! そうだよね! いつまでも女の子の体のままじゃ落ち着かないよね?」

「そ、そうですよ! スカートはなんか風通しが良すぎて落ち着かないし自分で喋ってるはずなのに他人が喋ってるみたいですし……それにおやっさんとか瞬の前で女の子のフリするの結構恥ずかしかったんですよ!?」

「結構ノリノリだったように見えたけどね。可愛かったし!」

「可愛くないですっ!」

 そう言って怒る想の顔はやはり可愛かった。

 

「ごめんごめん! それじゃあ装置を起動させてっと……えーっとここをこうだっけ?」

 俺はカバンから装置を取り出し想を元の姿に戻すための操作をするがあることを思い出し手を止める。

「あの……想くん?」

「どうしました?」

「戻しても服はそのまんまだから服脱いでもらわないとダメ……かも」

「えぇっ! 服……脱ぐんですか?」

 ふたたび想は顔を真赤にする。

 

「し、仕方ないでしょ!? あくまで変化させるのは肉体だけなんだしそのままで変化させたらせっかく買った服が破れちゃうよ!」

「そ、そうですよね……わかりました……で、でもあんまりジロジロ見ないでくださいね……? なんか恥ずかしいので……」

 想は観念したのかベッドから腰を下ろしてそう言うと手で身体を隠す仕草を見せる。

 

 もうそんな仕草するのは女の子なんだよなぁ〜

 でもこの初々しいところも可愛いような……

 っとイカンイカン。

 いくら中身が青年だとしてもこんな年端も行かない女の子に俺みたいなのが邪な感情なんて抱いたら事案だぞ事案! 

 俺は自分をそう律する

「わかったよ。それじゃあ脱ぎ終わるまで後ろ向いてるよ」

「ぜ、絶対見ないでくださいね……!?」

「わかってるって」

 俺はそう言って彼に背を向けた。

 

 すると彼は服を脱ぎ始めたのか息遣いと足音が聞こえる。

 ああすごい気になる……

 けどここで背を向けたら信用問題に関わるし……

 そんな事を考えていると……

「あれ……これどうなってるんだ……? これもしかして背中にジッパーが……? うーん……と、とどかない……」

 どうやら慣れない女物の服で悪戦苦闘しているらしい。

 

 その気持わかるなぁ……

 俺もマルデュークになってすぐの頃はアビガストに手伝ってもらわないと服脱いだり着たりできなかったし

 

「そ、想くん……? 良かったら手伝ってあげようか?」

「い、いえ大丈夫ですっ……! ふ〜ん! うむむむむむむっ!」

 想は俺の申し出を断ったののやはり服が脱げないようでしばらくそんな声を聞いていると流石に見ていられなく……いやもともと見てはいなかったんだけど……

 とにかくこのままでは埒が明かないので彼の方向を振り向くと背中のチャックが下ろしきれない状態で必死に手を伸ばしていた。

 

「ふわっ! ま、マルデュークさん!? 見ないでって言ったじゃないですか!」

「だっていつまで待ってもまだ上すら脱げてないじゃないか! 大丈夫。ここは女になった歴先輩の俺に任せて。俺も最初は女物の服とか結構難儀したから」

「そ、そうなんですか……それじゃあお、おねがいします……この背中のジッパーが下ろせなくて……なんというか急に小さくなってイマイチ手の距離感がつかめないと言うか……バランス感覚もちょっと変で」

「うんうんわかるわかるっ! ここはおじさんに任せなさい!」

 恥ずかしそうな想にそんな言葉をかけながら俺は彼の服を優しく脱がせていく。

 

 そしてあっという間に下着姿になり……

「あ、後は下着だけなんだけどさ……」

 なんだかこれ以上脱がせるのは流石に犯罪臭がするというか……

「う、うわぁ……ぼく本当に女物の下着つけちゃってるんだ」

 想は自分の胸元を見下ろし薄っすらと膨らむ自分の胸元をまじまじと見つめていた。

 

「後はできる?」

「は、はいっ……なんとかやってみます」

 そして想は可愛らしい吐息を漏らしながら恐る恐る下着を脱ぐと

「ぬ、脱ぎましたよ……?」

 そう言って股間を両手で隠しながらこちらを見つめてくる。

「想くん? 今は女の子なんだから胸も隠さなきゃ」

「えっ……きゃぁっ! ち、違いますっ! ぼくは男ですっ!は、早く男に戻してくださいよぉ〜」

 そう言いながらも想はしっかり片手で胸を隠す。

 やっぱり女の身体になりたてのリアクションって初々しいしかわいいなぁ……

 っと自分の通ってきた道を懐かしみつつ見とれている場合じゃない。

 

 流石にこの状態でこれ以上置いておくのはかわいそうだし早く元に戻してあげないと

「はいはいわかってるって。それじゃあ戻すよ?」

 装置を起動させると再び彼の身体を光が包み、その光の中からもとに戻った想が現れる。

「おっ、一気に視界が高く……!? それにあー…あー……声も元に戻ってる!! それにこの感覚は……! はぁ……僕男に戻れたんだ!」

 全裸の想は自分の体の感覚を確かめるように両手で自分の体を撫でていく。

 

 気がづくと俺はそんな彼の身体をマジマジと見つめていて……

 想も結構筋肉あるんだな……とかそれに下のサイズは……って何気にしてんだ俺! 

 俺は男だぞ!? なんで男が男の裸をまじまじと見ようとしてるんだ!! 

 そんな事を意識すると急に彼の裸を見る事が恥ずかしい事に思えて俺の顔はかっと赤くなっていく。

 

「と、とりあえずこれ……! 早く着て!」

 俺はそんな彼から目をそらしつつ女になった時に脱がせた服を入れておいた紙袋を手渡した。

 

「はぁ……やっぱり男物の服のほうがしっくりきますね!」

「やっぱそうなんだ……」

 想は服を慣れた手つきで身につけ、男物の服の感触を噛みしめるように優しく撫でる。

 

 そんな彼を見ていると俺の中になんだか羨ましいという気持ちが生まれていた

「あっ、ごめんなさい! もしかしてマルデュークさん自身女の体になった事気にしてたりしますか?」

 想のその言葉で俺ははっとなった。

 俺、もしかして男の身体が恋しかったのかな……? 

 

「い、いやそんなつもりじゃなくてやっぱり男の体に戻れたら安心するんだなーって。それに俺はもう男の体には戻れなさそうだし……」

「そうなんですか……?」

「ま、まあどちらかというと急に女になったーというより生まれたときからマルデュークだったけど前世のオッサンの記憶が蘇ったって感じだと思うから……」

 

 これまでずっと40手前で少し走っただけで息は上がるし寝ても疲れは取れないし肩はずっと凝るし小さい文字は見えにくくなってきたりと老いを年々実感する身体からある日突然そんなものとは無縁のこのマルデュークの身体になっていた訳だけど……

 

「それじゃあマルデュークさんは男に戻りたいとかは……」

 想に尋ねられるまでそんな事考えもしなかったがどうなんだろう……? 

 

 少なくとも以前の俺なんかよりはずっと充実した毎日を過ごせているし何より巨乳で美人だし言う事は無いはずなんだけど彼の事を見てそんな今より以前の体を恋しがるなんて贅沢な悩みなのかな……? 

 

 俺はあくまで前世が男だっただけで今は女なんだぞ……? 

 それなのに俺は男だ……なんて言ってて良いんだろうか? 

 考えれば考えるほど今の自分が相当ちぐはぐな存在であることを思い知らされてしまう。

 

「うーんどうなんだろ……? 一応うっすらだけどこの身体で女として生きてきた記憶もあるし……戻るとかそういうのじゃないと思ってたからわかんないや!」

「そうなんですか……? 僕も改造されてソルダークネスにされてからずっとできることなら普通の人間に戻りたいとは思っていましたが半ば諦めてますしマルデュークさんにとってもそんな感じなのかも知れないですね……無粋なことを聞いたかもしれないです。忘れてください」

「ううん気にしないで! 俺も想くんに聞かれるまでそんな事考えてもなかったから……」

 俺と想の間に気まずい空気が流れる。

 

「じゃ、じゃあ僕はそろそろ自室に戻りますね」

「そ、そう……だね! 一日付き合ってくれてありがとう」

 そうして長い一日が終わり、想を部屋まで送り届けたがその間会話を交わすことはなかった。

 

 それから部屋に戻った俺は鏡に映ったマルデューク(おれ)をじっと見つめる。

 

 そういえば俺の意識が目覚めたての頃はよく鏡に映ったマルデュークを目の敵にして俺はお前みたいにはならないからなとか言い聞かせたりしてたっけ……

 

「俺って一体誰なんだろう?」

 

 そんな事を今思うと少し滑稽に思えてしまい俺は苦笑いを浮かべると鏡の向こうの彼女も同じ様に苦笑いを浮かべていて嫌でも鏡に映る彼女が俺自身であるということをひしひしと改めて感じたのだった。

 

 

 そして次の日、戦闘員たちの居るラウンジに昨日街で買ってきたものを色々と持っていくと彼らはどれも興味ありげに見つめていたのだがゲームだけはこんなローテクな機械で遊べるゲームが面白い訳が無いだろうとかどうせ地球人の作った機械なんだし大したことないだろうとかなんとかで不評だった。

 

 そこで研究員にゲーム端子を接続できるモニターを作れないかと掛け合うといとも簡単に出来上がり、ラウンジにそのモニターを持ち込んで昨日の気まずい空気を打開するため想と一緒に遊んでいるとじわじわと興味を惹かれた戦闘員たちが集まってきていつの間にか黒山の人だかりになっていた。

 

 そして気づけばゲームも晴れてラウンジの新たな娯楽として戦闘員たちに受け入れられていった。

 今は取るに足らない侵略するための星としか思われていなくてもこうして地球の良い所を知ってもらえればジンのように戦闘員全体の意識も少しは変えられるかもしれない。

 

 そんな希望が僅かに見えた瞬間であった。

 

 つづく……

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