冴えないアラフォーリーマンが壊滅一直線の悪の組織の女幹部に転生した   作:ゔぁいらす

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あけましておめでとうございます。
昨年も拙作をお読みくださり本当にありがとうございました。
本年も何卒よろしくお願いいたします。


第十六話 ロギアスの秘密!

 アポカリス要塞中心部の司令室に足を踏み入れるとそこには俺を除いた3幹部とイビール将軍が既に定位置に鎮座していて、俺が部屋に入るなり3幹部は俺に対する嫌味をブツブツと吐き、そんな彼らをイビール将軍が一喝して会議が始まった。

「揃ったな。では今回の侵略計画を聞かせてもらおうか。マルデュークよ」

「は、はいぃ!?」

 しまった! 忘れてた……!! 

 今回は順番的に(マルデューク)が計画を実行する番だった! 

 どうしよう……最近風邪で寝込んだりモグローグの生き残りに拉致られたり色々あって何も考えてなかった……

「あ、その……えーっと……」

「おいおいどうしちまったんだァ? ゲニージュ作戦参謀ともあろうマルデューク様がまさか何も考えて来てねェなんて言わねェよなァ?」

 俺が口ごもっているとジャドラーが下品な笑いを浮かべて言い、

『全くです。その様な事すら考えられない様な者がゲニージュ代表とは呆れてものも言えませんね』

 ヘルゴラムも続けて言った。

 そんな二人に隠れてやれやれといった顔でドスチーフも鼻で笑っている。

 相変わらず嫌味な奴らだ。

 しかしここで気圧されてばかりでは女幹部がすたるというものだ。

「そ、そんなことは……ない……わよ」

 彼らになんとかそう言い返してみるが口から出た声は語尾が弱々しくなってしまう。

「ほう。では聞かせてもらおうではないか。次こそ憎きVXを倒しあの星を我々アポカリプスのものとする作戦を」

 そんなことなど知ってか知らずかイビール将軍はそう尋ねてきて、ジャドラーとドスチーフもどうせ出任せでろくでもない内容なんだろう? とでも言いたげな視線をこちらに向けてきている。

 ヘルゴラムも表情は変わらないがきっと同じようなことを考えているのだろう。

 思い出せ俺! 

 確か流れ的に今回は……

 そうだ! 

 マルデュークが繰り出す第三の計画……

 

 それは完全自立式で地球の要所をピンポイントで攻撃可能な衛星兵器を建造する計画で、以前ヘルゴラムが発案した人工太陽計画に対してVXや地球人側が人工太陽への攻撃手段を持たないところに目を付け、それを超える兵器を地球人自身に設計させようというものだった。

 

 俺はその計画を記憶の限りイビール将軍や3幹部に向けてその計画を説明する。

 

 すると

『やれやれ。下等な原住民族種族に兵器開発を任せるとはゲニージュ作戦参謀ともあろうものが呆れますね』

 早速ヘルゴラムが食いついてくる。

 これもテレビで見たとおりだった。

 確かにその通りだ。

 アポカリプス皇国の科学力を持ってすれば地球人に任せるより高性能なものを作ることなど容易いだろう。

 しかしマルデュークはそれではつまらないと考え、地球人自身に滅亡のトリガーを引かせて自滅させるほうが滑稽だとこの作戦を立案したのだ。

 更にその作戦がVXに知られた場合でも地球人が自ら滅びに向かおうとする様子を見せる事で彼の精神にも揺さぶりをかけることもできるというもんだから彼女の性格の悪さが滲み出している。

 ま、地球人に建造を任せた結果そのアルバイトの中に瞬の旧友が紛れていて、ひょんなことから計画の真相を知ってしまったそいつ経由で瞬に企みがバレて計画は失敗するんだけど……

 

 そんな作戦を話し終えると力が全てと豪語するジャドラーと気高き戦いを至高とするドスチーフは気に食わなそうな顔をする。

 そりゃまあ全て他人の褌全開なわけだし二人からしたらひどい作戦だよな。

 しかしそんな作戦を聞いたイビール将軍だけは深く頷き。

「ほう。人類を自ら破滅に導こうとはなかなか面白い事を考えるなマルデューク。この兵器さえ完成すればVXの目を掻い潜り原住民族の主要都市を一瞬で壊滅させることが可能な上、宇宙からの攻撃に対抗策を持たぬVXはそれをただ指を咥えてこの星の文明が破壊される様を見ていることしかできないという訳だ! なんとも恐ろしい作戦ではないか!」

 と評してくれた。

 これもテレビで見たとおりだ。

 将軍は基本的に幹部の計画を否定しないし、それをわかりやすく要約してくれて部下としてはこういった場で発言しやすいことこの上ない。

 前世ではいつも就業時間を過ぎてから会議という名目で集められ、反省会をさせられた上発言は基本的に頭ごなしに否定しかされてこなかった事を考えると今の環境は天国にも思える。

 

 いや待て、

 いくら労働環境が良くて上司がしっかりしているとは言っても侵略なんて許されることじゃない。

 というかそんな事をやってる所に労働環境負けてる元弊社のほうが問題なんじゃ……? 

 いかんいかん……

 少しでも不運が重なれば地球はアポカリプスの手に落ちてしまう状況だと言うのに最近この環境に慣れすぎてしまっている気がする。

 

 とにかく今回も筋書き通りにしていればVXが計画を阻止してくれて少なくとも地球がどうこうなることもない。

 今は流れに身を任せるしか……

 

「お褒めに預かり光栄ですわイビール将軍。さぁ、出てきなさい!」

 俺はイビール将軍に軽く一礼をしてからそう高らかに叫ぶと部屋の中心にある転送装置がスパークし、新たなる刺客がアポカリプス皇国より送り込まれてくる。

「無尽の光槍ロギアス。推参した」

 光の中から現れたのは巨大な槍を持つ寡黙な戦士、ロギアスだ。

 

 その無骨な姿を見て俺の記憶が呼び覚まされていく。

 無尽の光槍の二つ名の通り無数の光の槍を飛ばす能力を持ち、その能力と、外見に見合わないスピードでVXを苦しめた。

 しかし劇中ではあまり口数は多くなく、話自体も瞬とその友人がメインで進むため彼個人の描写も少なく俺の知る限りではどんな人物なのかはイマイチ定かではない。

 

「ロギアス、そしてマルデュークよ……次こそ地球を我らアポカリプス皇国のものとするのだ!」

 そうこうしているうちにイビール将軍のその言葉でその日の会議は終わりを迎えた。

 

 会議を終えた俺とロギアスは司令室を後にし、ラウンジへと続く長い廊下を歩いていた。

 その間彼は一言も発することはなく、妙に気まずい空気が流れる。

 グラギムもジンもなんだかんだで気さくでそれなりに話はできてたんだけど今回はそうも行かないらしい。

 劇中でのキャラクター像すらイマイチ掴みきれていないのも相まって何を話せば良いのかわからない。

 もちろんマルデュークとしての記憶を思い出そうとしても相変わらず部下であるはずの怪人たちの名前どころか顔すら全く覚えていないのはこのロギアスに関しても同じようだ。

 

 せめて部下の顔くらいは覚えとけよと内心でマルデュークに不満を垂らしているうちにラウンジへ差し掛かり、そこで日課のランニング中であろうグラギムとすれ違った。

「おおマルデューク様。本日も麗しい……それにロギアス! ロギアスではないか! 久しいな!」

 彼は相変わらず爽やかな笑みを浮かべ親しげにこちらに話しかけてくる。

「……グラギム、なんだ貴様生きていたのか」

 そんな彼に今まで一言も喋らなかったロギアスが冷淡な声で一言。

 この二人は知り合いなのだろうか? 

「グラギム? 彼と知り合いなの?」

「はい。知り合いも何も私と彼は同門にございます。なぁロギアスよ。よく模擬戦では刃を交えたなぁ! 負けた時は心底から悔しかったが今では懐かしい思い出だ」

「フン、貴様の様な負け犬と同じにしてもらっては困る。貴様との模擬戦での勝敗は51勝47敗で私のほうが上だ。それに皇国より賜った鎧と武器はどうした?」

 親しげに話すグラギムに対してロギアスは極めて冷やかで、鎧の隙間からちらりと覗く瞳からは鋭い眼光が彼を睨みつけているのがわかった。

「相変わらず手厳しいな貴公は。この通り皇国から賜った武器と鎧はVXとの戦いで破壊されてしまったがマルデューク様のお陰で今もこうして生きている。今は来たるべき時のため力を蓄えている最中だ」

 しかしそんな彼の態度など意に介さずグラギムは笑って見せる。

「馬鹿馬鹿しい。敗者に存在価値など無い。皇国より賜った誇りすらも無くしてよくそのような無様な姿を晒せるものだ」

 彼の態度を見て更に機嫌を悪くしたのかロギアスは呆れたように吐き捨てる。

 劇中ではほぼ喋らなかったからわからなかったけどロギアスって結構嫌なヤツなのか……? 

 でもグラギムは戦闘員たちからの信頼も厚く、困ったときには率先して助けてくれるとても頼りになる良い部下だ。

 そんな彼を同僚とはいえここまで貶すのを上司として見て見ぬふりするわけにはいけない。

「ちょ、ちょっとそれは言い過ぎなんじゃ……」

「何をおっしゃいますマルデューク様、貴女様も地球へ御出征される際そう仰られていたではございませんか。勝利にこそ価値がある。敗者など不要であると」

 俺がそう言いかけたところで遮るようにロギアスは言う。

「え”……?」

 一瞬返す言葉を失ったが、マルデュークの性格なら言いそうなことだ。

 おめおめ逃げ帰ってきた怪人やら戦闘員を気晴らしに粛清と称して抹殺するような女なんだから……

 ああくそっ! ほんとになんなんだよこの女は!! 

 そんなんだから最後には誰からも見限られるんだよ!! 

 

「い、いや……でも……」

「そんな貴女様がこの負け犬に慈悲を掛ける意味などありましょうか? このようなものをのさばらせておけば皇国の恥です。今すぐにでも粛清すべきと考えますが」

 自分(マルデューク)の言った事だと言われてしまえばそれに返す言葉もなく、俺は答えあぐねているとロギアスは淡々とそう続けて槍のグリップに手をかけた。

「い、いや待ってロギアス! そんなことないわよ? グラギムは今、戦闘員たちの指導に尽力してくれていて、アポカリプス皇国のために働いてくれているの。価値がないなんて事はないわ!」

 俺が頷けばすぐにでもグラギムを串刺しにしかねない程の殺気がロギアスから放たれ、俺は慌ててフォローすると彼は少し残念そうに手を止めた。

「マルデューク様がそう仰るなら従いますが……理解致しかねます。それでは私は槍の手入れがありますので。お先に失礼致します」

 そう言って彼は怪人専用の個室の方へと一人で歩いていってしまった。

 残された俺とグラギムは顔を見合わせると彼はいつもの爽やかな笑みを浮かべて肩をすくめる。

「はは、相変わらず厳しいヤツだ。気になさらないでくださいマルデューク様。ヤツは昔からああなのです。私も気にしておりません。それにVXに無様に負け、皇国と貴女様から賜った武器と鎧を失いながらもおめおめと生き恥をさらしている事は事実なのですから……」 

 その時、グラギムと一緒にランニングをしていたのであろう戦闘員たちが息を切らして追いついてきた。

「はぁ……はぁ……グラギムさんペース早すぎっスよ〜」

「おお何だお前達、もう音を上げるのか? そんなことではVXに勝つなど夢のまた夢だぞ?」

「はぁ……はぁ……で、ですけどぉ……ってま、マルデューク様!? お疲れ様でございます!!」

 俺の存在に気づいた戦闘員たちは肩で息をしながらも姿勢を正す。

 彼らのその様子やロギアスから聞いた地球に来る前のマルデュークの話から、彼女がどれだけ恐怖政治を敷いてきたかを再認識させられる。

 やはりこのままではいけない。

 マルデュークの存在が組織そのものの雰囲気を悪くしているのは間違いない。

「良いの良いの。疲れているんでしょう? 楽にして?」

「へ? 良いのですか?」

「ええ。皇国のために頑張ってくれている最中なんでしょう? そんなアナタ達を怒るなんてバチがあたっちゃうわ」

「そ、そうっスか……? そ、それじゃあお言葉に甘えて」

 俺の言葉を聞き、一人の戦闘員が大きく息を吐いてその場にへたり込んだ。

「おいお前! マルデューク様の前だぞ!?」

 その姿に他の戦闘員たちはざわつき、グラギムは声を荒げるがそんな彼を俺は静止する。

「だから良いって言ってるのよ。疲れてるのに無理させちゃダメ。ほら、皆ももっと楽にしていいから」

 俺がそう言うと他の戦闘員たちも恐る恐る姿勢を崩したり壁にもたれかかったりし始めた。

「……本当に良いのですか? この様な所をお見せしてしまって」

「気にしないわよ。疲れてるのに無理させるほうが可哀想じゃない」

「ま、マルデューク様がそう仰るのならば良いのですが……」

 グラギムは少し戸惑った様子で俺を見つめ、戦闘員たちも互いに顔を見合わせている。

「それにしてもアナタがロギアスと知り合いだったなんてね」

「ええ。ヤツは昔から口数は少ないですが、腕は確かで皇国の中でも有数の戦士です」

 その言葉を聞いた戦闘員の一人が、息を整えながら目を輝かせて口を開いた。

「え、ロギアスって……もしかしてグラギムさんと模擬戦で引き分けたっていうあの……!?」

「ああそうだ。ヤツが次の作戦の指揮を取ることになってこちらに来ている」

 さっき51対47って言ってたよな? グラギムちょっと話盛っただろ! 

「へぇ、グラギムさんの知り合いかぁ。じゃあ、せっかくだしまた歓迎会やんなくちゃな! 良いですよね? マルデューク様!」

 もう一人の戦闘員が乗っかって、疲れを忘れたように盛り上がり始める。

「おいおいお前ら……いくら楽にするお許しをいただいたからと言ってあまり調子に乗るなよ?」

「良いの良いの。多少の息抜きくらいは必要でしょ?」

 そうだ。

 ただでさえやることの少ない要塞にすし詰め状態の戦闘員にも息抜きの場は必要だし、この険悪な雰囲気を打開するために、そして何より俺がロギアスの人となりを知るためにもそういった集まりは必要不可欠なはずだ。

「良いのですか?」

「ええ。もちろんよ。コミュニケーションは大切だから」

 不安そうなグラギムの言葉に頷くと戦闘員たちから次々に声が上がり、早速準備に取り掛かっていく。

 

 それからは毎度毎度侵略作戦に駆り出されている事もあってか目を見張る手際と段取りの良さで準備が着々と進められていき、ラウンジの一角はあっという間に即席の歓迎会会場へと変貌していった。

 

 テキパキと会場設営をこなす戦闘員たちの後ろ姿を見ながら俺は一抹の不安を抱く。

 あの硬派な雰囲気のロギアスがこんな催しを受け入れてくれるだろうか……? 

 

 そんなことを思っていると

「マルデューク様、ロギアス殿を呼びに行ってまいりました!」

 一人の戦闘員が少し緊張した面持ちで、しかしどこか誇らしげに戻ってきた。

「あ……ええ、ご苦労様。なんて言って呼んできたの?」

「はい! 『作戦について重要なお話があるとマルデューク様が仰っています』とお伝えしておきました! それなら必ず来ると!」

「……え、あ、そう。確かに嘘はついてないわね」

 でもそんな嘘で呼び出して本当に良いのだろうか? 

 そんな一抹の不安を抱えながらしばらくが経つと、ラウンジの扉がが開き、ロギアスが部屋に入ってくる。

 その瞬間

「地球侵略前線基地アポカリす要塞へようこそ! ロギアス殿!」

 と戦闘員たちは声を合わせて彼を歓迎した。

 そんな様子に少々驚いたのか、しばらく何も言わずに突っ立っていたロギアスだったが、こちらに歩いてきて

「……マルデューク様。これは一体?」

 そう俺に尋ねてきた。

 表情はその無骨な鉄の仮面でうかがい知ることは出来ないが、言葉には戸惑いとわずかな怒りのようなものが滲んでいるように感じる。

「これは、その……貴方の歓迎をしようと思って……ね」

 そんな彼の声に怖気づいた俺がしどろもどろにそう答えていると

「よく着てくれたロギアス! さあ座れ。マルデューク様がこうして直々に手配をしてくださったのだ。少しは付き合え」

 グラギムが気を利かせて勧めるが、それが火に油を注いだ。

 

 ドォンッ!! 

 

 ロギアスが拳をテーブルに叩きつけ、戦闘員たちがビクッと肩を震わせる。

「貴様ら……少々腑抜けが過ぎているのではないか? 皇国の誇りを忘れたか! 貴様らは何のためにここに居る? お友達ごっこをしにきたのか? それとも敗者同士で馴れ合うためか?」

 彼の怒声がラウンジに響き渡り、先程まで和気あいあいとした雰囲気だったラウンジはそれが嘘かのように静寂に包まれた。

 

「やれやれ。やはりそんな負け犬に指導されている貴様らにも、此奴の腑抜けが感染ってしまっているようだ グラギム、今は捨て置いてやるがこの作戦を完遂し、VXとやらを討ち取った暁には貴様を真っ先にこの私の手で処刑してやる。せいぜいそれまでの余生を楽しんでおくことだ」

 グラギムにそう吐き捨てた彼は俺の方に向き直り、一瞬だけ兜の奥の瞳を揺らした。

「マルデューク様、お心遣いには感謝致しますが、私めに……いえ。地球侵略部隊にこの様な気の抜けた催しは不要です。失礼致します」

 そう言ってロギアスの一礼して立ち去るその後姿に、誰も声をかけることはできなかった。

 

 ロギアスが部屋を後にした後

「なんだよ。せっかくグラギムさんの知り合いだって言うから張り切って準備したのに……」

「ちぇっ。これからあんなのの下でこれからこき使われなきゃいけないのか……」

「なんか先が思いやられるなー せっかくちょっとはマシになってきたってのにこれじゃあ逆戻りだぜ」

 戦闘員たちはそんな愚痴を口々に言いながら気まずい雰囲気の中用意された食事に手を付け始めていた。

「申し訳ありませんマルデューク様…… せっかくのお気遣いを無下にしてしまった。ヤツにも悪気はないのです。名家出身の私と違い彼は実力だけでここまでのし上がってきた男です。きっと私がこの様な姿を晒していることが許せなかったのでしょう」 「ううん。グラギムが謝ることじゃないわ。寧ろロギアスに対する配慮も何も出来てなかったアタシの責任よ」

 何も悪いことはしていないはずのグラギムに頭を下げられ逆に申し訳なくなってしまう。

 毎回恒例になりつつあったから忘れかけていたけど戦闘員達の息抜きをさせてあげたい、ロギアスの人となりを知りたいと言うのは一見彼のことを考えているようで何一つとして彼自身のことを考えられていなかったのだ。

 飲み会が苦手な新人も年々増えていたしロギアスも仕事以外であまり他人と関わりたくはないタイプなのかもしれない。

 それならば配慮が欠けていたし、ただでさえグラギムに怒りをにじませていた彼の気持ちを逆撫でしてしまっていたのだろう。

 しかしこのままではいけない……ロギアスと戦闘員の関係が悪くなれば今後の作戦にも影響が出てしまう。

 何より悪の組織が崩壊する原因が組織内の不和による内ゲバや裏切りなんていうのはよく見た話だ。

 実際シャドーVXの本編でも他幹部が水を差したせいで計画が失敗したりなんてことも何回かあったし何よりアビガストが裏切ったことがアポカリプス皇国崩壊の決定打になってしまったのだから。

 

「……ちょっと、追いかけてくるわ」

「マルデューク様!? しかしヤツは今、相当に頭に血が上っております。無理に行かれずとも……」

 グラギムの心配はもっともだ。

 しかしこのまま作戦結構まで放っておくわけにはいかない。

「いいの。アタシが呼び出したのが原因なんだし、ちゃんと話をしておきたいから。皆は……そうね、せっかく準備したんだし、片付けながらでも食べてちょうだい。もったいないじゃない」    彼らにそう言い残し、俺はロギアスを追いかけた。  

 ……冷静になれ、俺。あいつが怒るのは当然だ。

 前世の俺だって納期直前に「親睦を深めるためのBBQ大会だ!」なんて言われて強制的に参加させられたら表には出さずとも嫌な気持ちになっていただろう。

 ロギアスにしてみればこの要塞の空気はあまりに弛緩して見えたはずだ。

 でも、だからこそ放置できない。

 かつてのマルデュークのような恐怖政治も地獄だが、ロギアスが孤立し戦闘員たちと溝ができるのは組織にとって致命的なはずだ。

 

 走行しているうちにロギアスの私室がある区画へと差し掛かった。

 そこはラウンジ付近のとは打ってしんと変わって静まり返っている。

 そして彼の部屋の前に差し掛かると、扉にはわずかに隙間ができていた。

 扉に恐る恐る近づき

「ロギアス、少し……いいかしら?」

 と声をかけようと一歩踏み出した、その時だった。

「はぁ……まったくもう! みんな腑抜けで嫌になっちゃいますぅ〜!」  

「……え?」

 中から聞こえてきたのは、先程までの地を這うような低音の騎士の声ではない。

 高く、澄んでいて、どこか幼さを残した間違いなく女性の声だった。

 ここ……ロギアスの部屋……だよな? 

 俺は恐る恐るその声に耳をすませる。

「なーにが歓迎会ですかぁ! グラギムだって、あんなにヘラヘラしちゃって……ほんっっと昔から気に食わないヤツだったけどちょっと見ないうちに一段と情けなくなっちゃってるし戦闘員も皆たるみまくってて嫌になっちゃいますぅ〜」

 俺は好奇心に吸い寄せられるように、ドアの隙間から部屋の中を覗き込んだ。

 部屋の中央には、確かに脱ぎ捨てられたロギアスの鎧と、あの巨大な光槍が壁に立てかけられている。 

 そしてその隣で、ベッドに腰を下ろして大きく伸びをしている影があった。  

「……えっ!?」

 そこにいたのは華奢な肩。薄いインナーから覗く、白くしなやかな四肢、しかしそれは関節を境に獣のような毛むくじゃらで人とはかけ離れた手と足をしている。

 そして何より目を引いたのは、その頭部に生えた愛らしい獣の耳と、感情を表すようにパタパタと動く長い尻尾……

 部屋に居るのは紛れもなくロギアスのはずだが、鎧を脱いだ彼……いや彼女はどこからどう見ても一人の少女だった。

 うそだろ……!? ロギアスって女の子だったのか!? 

 それになんか尻尾とか耳とかついてる?

 グラギムのときも厳つい鎧の中から爽やかな好青年が出てきて驚いたが今回はそれ以上だ。

 あまりの衝撃に、俺は足元のパネルを僅かに踏み鳴らしてしまう。

「だっ、誰だっ!? この姿を見られたからには生かして返すわけには……!」

 その音に気づいたロギアス? は低い声色でそう言って壁に立てかけられた槍に手にして扉を勢いよく開き俺にその先端を向けてきた。

「うわぁぁぁぁっ!!! ごっ、ごめんなさいっ!! つ、つい出来心で……べっ、別にいかがわしい気持ちはなくてぇぇぇ!!!」

 俺は必死に弁明を試みたが、ロギアス? の表情は俺の顔を見るなりすっと血の気が引いたように青くなっていき……

「ま……マルデューク……様……!? な、なんで、ここに……あ、あの、これは……!」

 あからさまにあたふたと焦りの色を滲ませるロギアスは槍をその場に置き、辺りをキョロキョロと見回すと先程まで被っていた厳しい兜を被り

「い、いかがされたのですかマルデューク様……?」

 と何事もなかったかのようによく知る低く落ち着いた口調で尋ねてきた。

 恐らく今の出来事をなかったことにしたいのだろうが、その厳しい兜を被った首から下はその鎧に似つかわしくない華奢な少女のもののままで、尻尾がゆらゆらと揺れている。

「い、いや……今更兜だけ被られても……」

「みゃっ!? も、申し訳ございませんっ!! この醜い姿を見られた上マルデューク様に槍を向けるなどという無礼を……!!!」

 次の瞬間ロギアスは声を震わせその場でアポカリプス星式の土下座の様な体制をとった。

「い、いや……正直アタシもイマイチ状況が理解できていないのだけれど……」

「申し訳ございません! この非礼……この命を持って贖います……! 申し訳ございません……申し訳ございません……」

「そ、こまで謝らなくても……覗いてたアタシにも非はあるし、何よりそんなことで命まで取ったりしないわよ……」

「し、しかしっ! 私は上官であるマルデューク様に槍を向けたのですよ!? それに私が混血だということも知られてしまった……」

「混血……?」

「私は、ゲニージュとヴェアルガルの混血、忌むべき半獣人です。貴族主義を掲げるゲニージュの上層……特にマルデューク様は私たちのような『不純な血』を何よりも嫌い、見つけ次第この世から抹消すべき汚れだと仰っていたと……」

「えっ、ちょ……ちょっと待って……」

 マルデュークお前パワハラ気質なだけじゃなくて相当な差別主義者だったのかよ!!! 

 ま、まああの性格なら納得できると言うか……

「そんな醜い私が正体を隠して騎士団へ入り……よりによって貴女様に槍を向けた……。覚悟はできています。ここで私を殺し、皇国の秩序をお守りください……」

 ロギアスのその声には恐怖や諦めが滲んでいた。

 そんな彼女の口ぶりから相当差別が根深いものであること、そしてマルデュークの恐怖政治が絶対的なものであることを感じさせる。

 このままじゃいけない。

 たとえ彼女が混血だろうがなんだろうが俺の知っているロギアスはVXと渡り合うほどの実力を持った戦士であることは間違いない。

 何よりそれだけの差別を受けながら身分を隠し、実力だけでのし上がってきた彼女の実力は素直に認められるべきもので、それを否定することなど誰にも出来ないはずだ。

 そんな彼女が自分を醜いと卑下し、怯えるその姿は見るに耐えないものだった。

 それに自分を偽って生きてきた彼女に、今の俺自身も自分を偽り(マルデューク)として振る舞っている手前どこか親近感のようなものを感じる。

「……ロギアス、顔を上げて」

「……えっ?」

 俺はその場でうずくまる彼女の前に跪き、目線を合わせた。

「いい? よく聞いて。アタシは……今のアタシは血筋や種族なんてこれっぽっちも興味ないし、ゲニージュがどうとか混血がどうとかそんな古臭い理由で貴女を裁くつもりなんてないわ」

「で、ですが、私は貴女様を騙し……槍を向けて……」

「騙すなんて……そうでもしないとアナタの努力を認めてくれる人がいなかったんでしょう? 身分を隠して、実力だけで皇国有数の戦士にまでのし上がってきた……。その努力が、血筋なんていう不確かなもので否定されていいはずがないわ。貴女が積み上げてきたものは本物のはずでしょう? それに槍を向けたのだって元はと言えばアタシが覗いたのが悪いんだし……」

 そうだ。

 彼女がいくら皇国で差別されるような存在だったとしても彼女の実力だけは紛れもない本物のはずだ。

 それを混血だからという理由だけで切り捨てるなんてとんでもない! 

 ……と言いたいところだけどきっとこの女(マルデューク)はそんな些細な理由で幾多の優秀な人材を無慈悲に切り捨ててきたのだと考えるとそんなことをマルデュークである今の俺が軽々しく口にして良いものかとすら思えてしまう。

「し、しかしっ……!」

そんな罪悪感に輪をかけるようにロギアスも俺の言葉を遮った。

でも……たとえアポカリプス皇国ではそんな差別が当たり前なんだとしても彼女をそんな理由だけで否定することなど俺には出来ない。

きっとロギアスは俺なんかの想像を絶する苦難を乗り越えていまの地位を手に入れたはずなんだ。

俺だって就活で何十社も落ちてやっとのことでそこそこの企業に就職できたと思ったらあんなブラック企業で……それでも転職する暇も他に行く宛もないしでずるずるとそんな会社で十何年も働いて精神をすり減らしてきた訳で……

だからこそ彼女の努力が踏みにじられることなんてあって良い訳がないと心底思える。

「ロギアス? きっとアナタはアタシが考えうるよりもずっとずっと血の滲むような努力をして今の地位を手に入れたんでしょう? いくら正体を隠していたからと言ってそれを誰が否定できるの? そこまでして手に入れたもの、そう簡単に自分から手放そうとしちゃダメよ」

「マルデューク様ぁ……」

「それに……醜いなんて言わないで。その尻尾もさっき見えた耳も……その……アタシはとっても可愛いと思うわよ?」

「へっ……?」

 鉄の兜を被っているせいで表情は見えないが、代わりに尻尾が直立する。

「か、かわいい……? ですか? この私が……ですか?」

俺の言葉に彼女はきょとんとする。

流石に言い過ぎたか?

「ああいや!その……断じてセクハラみたいな意味じゃなくて御霊mすごくフワフワしてそうだし、さっきパタパタ動いてたのも見ていて和んだわ。アタシ、こういうの嫌いじゃないの」

「せく……?というのはよくわかりませんがこんな私を赦し受け入れてくださるというのですか……?」

しどろもどろに俺が答えると、彼女はゆっくりと兜を脱ぎ、俺の方を見つめてくる。

兜の下の彼女の顔は涙でくしゃくしゃになっていた。

しかしその瞳はとてもきれいでまるで宝石の様に綺麗で、こんな純粋そうな子が自分を偽って生きてきたと考えるととてもいたたまれなく感じてしまう。

だからこそ、マルデュークがどれだけ差別主義者だったとしてもそんな彼女を……アポカリプス皇国の戦士ロギアスとしてではなく半獣人ながらここまで上り詰めたありのままの彼女を俺は肯定したいと心の底から思える。

「ええ。これまできっとたくさんのつらい思いをしてきたのよね? でもアタシはアナタを混血だからなんてくだらない理由だけで蔑んだり切り捨てたりなんて絶対にしないわ。今のアタシは……ね。とは言えアタシ自身……結構評判が悪いのも自覚しているから簡単に信じて。なんて言えないけれど……」

「ま、マルデューク様ぁ〜……」

 俺が自嘲すると、彼女は子供のように泣きじゃくりながら俺の胸に飛び込んできた。

「うわぁぁぁっ! ちょっ……ろ、ロギアスっ!?」

「うみゃぁぁぁぁぁんっ! そんな事言ってくれた人は初めてですぅぅぅっ! ごめんなさいっ!私っ……私ぃっ! マルデューク様の事誤解してましたぁっ!」

 ロギアスは低い口調をやめ、可愛らしい声で涙を流した。

 感極まった彼女のピンとたった尻尾はゆっくりと揺れていて相当喜んでいるらしい。

 ロギアスはまるで猫のように喉をぐるぐると鳴らして俺に身体を密接させてくる。

 これは中身アラフォーのおっさんにはいくらなんでも刺激が強いって! 

「えへへ〜こうやって抱きついても嫌がる素振り一つ見せないなんてマルデューク様って聞いていたよりずっとずっとず〜っと優しい方だったんですねぇ〜私ぃ〜マルデューク様のコトスキになっちゃったかもぉ〜」

 そう甘えた声で言った彼女を見ているとこれまで相当苦労してきたこと、そして自分が認められたことがよっぽど嬉しかったとこをひしひしと感じ、俺は彼女の頭を優しく撫でた。

「よしよし。これからもその力、皇国の為……いいえアタシのために役立ててくれる?」

「はいっ! もちろんですぅっ! 私ぃっ……私マルデューク様のため、この命どこまでも捧げますぅ〜!」

「ロギアス……アナタのことを知れてアタシ、嬉しかったわ」

「はいっ! 私もマルデューク様とここまでお近づきになれるなんて……それに私なんかを認めてくれるなんて夢にも思わなかったですぅ〜! そうだ。マルデューク様には私のコトを知ったついでにもう一つ、知っておいてほしいことがあるんです」

「なにかしら?」

「私の本当の名前……です。私、本当の名前はロミニアって言います。混血だって……それに女だって知られたらきっと他の人達から馬鹿にされる……だから私……名前も姿も……皆隠していたんです……でもマルデューク様には私の本当の名前……ずっと覚えていてほしいなって」

彼女は先程までとは打って変わって小さな声で言った。

きっとこれまで身分も名前もすべてを偽って生きてきた彼女にとってその名前はとても大切なものだということがひしひしと感じられた。

「ロミニア……いい名前じゃない。ええ。分かったわ。絶対忘れないから」

「えへへ……二人だけの秘密……ですっ!」

 俺の言葉を聞いたロギアス……いやロミニアはまだ少し涙で晴れた顔で、可愛らしい笑顔を見せてくれた。

 あの寡黙で無骨で厳しいロギアスが本当はこんな可愛い努力家な女の子だったなんて……

 一時はどうなることかと思ったけどこうして彼女と話が出来て、距離も異様なほどに知人だがこれでなんとか一安心だ。

 こうしてまた一人、優秀な部下と打ち解けることが出来た。

 

 しかしそんな部下と距離を近づけるということはその分別れも辛いものになるということだ。

 このまま話通りに事が進めば彼女はVXとの戦いに敗れ死んでしまう。

 今の俺にとって彼女は単なる劇中の敵怪人ではない。  

 血の滲むような差別の中で必死に生きてきた、一人の健気な部下だ。

 そんな彼女を見殺しにするのか? 

 いやきっとグラギムのように何とかする方法があるかも知れない……

 いや……それは楽天的に考えすぎだろう。

 だからといって今期の計画を完遂させれば間違いなく地球はアポカリプス皇国のものになり、地球人は抹殺されてしまう。

 そんな大罪を俺一人の感情のために犯すことも許されないはずだ。

 俺がそんなことを考えていると、ロミニアは俺に顔を近づけ不安そうに首をかしげる。

「うわぁぁぁっ!? ど、どうしたの? ロミニア……」

「なにか難しい顔をされていたので…… どうかなさいましたか?」

「ううん、なんでもないわ。……さあ、明日からは忙しくなるわよ。計画の準備を始めなきゃ!」

 このままでは君は死に、計画は失敗する。

 なんて彼女に言えるはずもなく俺は精一杯の作り笑いを返すことしかできなかった。

「はいっ! お任せください! この槍にかけて……必ずしもあの星をアポカリプス皇国の第二の故郷にしてみせますっ!」

 俺の言葉に答える彼女の無邪気な声が俺の心を抉るように響いていた。

 

 

 それからというもの公な場での彼女は今まで通り寡黙なロギアスとして他の戦闘員達とは少々距離を作りながら作戦の準備に励んでいた。

 着々と計画の準備が進んでいく中、明確な打開策も浮かばぬまま時間だけが過ぎていく。

 

 そしてとうとう計画の実行の日を迎え……

 

 つづく

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