冴えないアラフォーリーマンが壊滅一直線の悪の組織の女幹部に転生した 作:ゔぁいらす
ロミニアが快復してから数日後、俺は地球へ降りていた。
理由としては変装用のスーツがこの間の作戦での瞬の襲撃やらアジトの爆破やらで戦闘員のものも含めてぼろぼろになってしまったからだ。
アポカリプス皇国の生地や縫製技術では地球の衣服のようにはならないようで、こうして買い出すほか無いらしい。
というわけで、変装用スーツを補充するためデパートの紳士服売り場を見て回っているのだが……
「ちょっと待ってくださいよぉ〜 この身体、まだイマイチ動き慣れてないんですから〜!」
安物のスーツを何着か手に取っていると、かわいい声が後ろの方から聞こえてくる。
声の方に振り向くと少女の姿になった想が紙袋を抱えてこちらに向かってきていた。
「ごめんごめん。付き合わせた上に荷物まで持たせちゃって。もしかして歩くの早かった?」
「い、いえ……それは別に普通なんですけど……どちらかと言うとぼくの方がちょっと歩幅とかバランスとかその……色々……スカートも落ち着かないですし」
想は股を内股にしてもじもじと小さな声で言った。
そんな彼の姿を見て、マルデュークとして目覚めて間もない頃の事を思い出す。
身体の重心もなんか変だし基本ヒールの高い靴だしで何回転びそうになったことか……
「うんうん。わかるよ。俺もはじめは色々大変だったなぁ」
「わかるならもうちょっと気を使ってくれても良いじゃないですかぁ〜! 連れて行ってほしいって言ったのはぼくですけど……」
一人で地球に降りても構わなかったのだが、彼がこうして付いてきているのは以前俺がモグローグの残党に襲撃された事もありボディーガードを買って出てくれたからだ。
それに彼も戦闘員たちの生活スペースよりはマシな部屋を与えられているとは言え一日中ほぼ狭い部屋に籠りっきりなのも良くないのでこうして気晴らしに連れ出すことにした。
ただ、いつまた瞬と出くわすかもわからないし、今二人を会わせるとどうなるかもわからないのでこうして物質置換装置を使って以前のように少女の姿に変身させている。
「そうだね。ありがとう想くん。もう他の備品は買い終えてるし、スーツを買い終わったらそろそろお昼ご飯にしよっか」
そう。
結局はこれが本音である。
備品を買うという名目で、さっさと目的を済ませて地球で作戦終わりの休暇を満喫してやろうと思っているのだ。
ちょっとのことで落ち込みがちな想も買い物の時は目を輝かせて楽しそうにしていることもあるし、今の彼に必要なのはきっと心身の安らぎと自由なんだと思う。
ソルダークネスとして日本を混沌の坩堝へ落とした過去は消えなくても今は楽しいこと、本来であれば出来なかった事をしてほしい。
それで彼の心の傷が少しでも癒えてくれる事を俺は何より望んでいる。
そうすればきっといつか彼の背負わされている
とは言え今の彼に不自由な生活を強いてしまっていることは紛れもない事実だけど……
だからこそこうして外を出歩ける間くらいはなるべく彼がやりたい事をやらせてあげたい。
これが俺の自己満足だとしても「装甲騎士シャドー」でも「シャドーVX」でも報われることなく、モグローグの被害者でしかなかった彼が今はこうして再び自我を取り戻してこんな訳もわからないヤツに協力してくれると言ってくれているのだ。
それなら俺も最大限、彼に答えたい。
そうしてスーツを買い込み、会計を済ませて昼食は何にするかと街を散策しているとどこか懐かしい脂っぽい匂いが鼻をかすめた。
その方向に視線をやると赤い看板に黄色い文字のファストフード店が見える。
「ハンバーガーか……」
若い頃はよく食べてたけどいつしか値段も割高だし歳のせいで食べるのが重くなって敬遠するようになったんだよな……
でも今なら……
「マルデュークさん、ハンバーガー食べたいんですか?」
ぼんやり店の看板を眺める俺を見た想がそう尋ねてきた。
まずい! 想のやりたいことをやらせてあげたいと思った手前これじゃ変に気を使わせてしまうかもしれない。
「あ、ああいや別にそういうわけじゃなくて懐かしいなー……って」
「懐かしい……? マルデュークさんが居た時代には無くなってるんですかあの店?」
「いや、流石にハンバーガー屋自体は残ってるよ。ただ……」
そういった瞬間、きゅるるっと形容するような可愛らしい音が聞こえてきて、想の方を見てみると彼は頬を赤らめながら腹部を手で抑えていた。
「ご、ごめんなさい……お腹なっちゃって……」
彼は慌てたようにそう言うと、自分の腹部をさすりながら不思議そうな表情を浮かべている。
そう言えは前に瞬を置換装置で女の子にした時も同じ様に自分の腹が鳴ったことに驚いてたっけ。
恐らく今の想はソルダークネスに改造された身体ではなく中身も外見相応の少女の身体だ。
疲れだってするしお腹も減る。
そんな普通の人間にとっては当たり前に感じられるはずの感覚だが、改造されて普通ではなくなっている元の身体で感じるよりも今の少女の身体ではずっと強く感じるのだろう。
「もしかしてその感覚久しぶりだったりする?」
「そりゃもう! 元の身体だと空腹なんてよほどのことがない限り感じませんからね……って、なんでわかるんですかぁ!?」
「え、えーっとまあ……ちょっと前に似たようなことがあってね」
「な、なんですかそれ……ぼく以外にもあれを使ったってことですか!?」
想はじとっとした目でこちらを見上げてくる。
その表情は拗ねた少女そのもので、なんだかうしろめたい気持ちになった俺は思わず目を泳がせる。
「い、いやぁ……ちょっとした事故というか、成り行きというか……」
「誤魔化してますよね?」
「す、すみません……」
「まあ良いですよ。マルデュークさんだって一応は悪の女幹部をやらなきゃいけない以上そういう事もあるでしょうし聞かなかったことにします。でもこんな事、今後はぼく以外にはしちゃだめですからね!」
素直に認めると、想は呆れたようにため息をつく。
だがその顔はどこか楽しそうでもあった。
「わ、わかったよ……努力する」
「ところであの……ぼく、ハンバーガー久しぶりに食べたい……です」
「え?」
「学生の頃、瞬たちとよく寄ってたんですよ。部活帰りとか……」
そう言って、想は少しだけ遠くを見るような目をした。
瞬。
その名前を口にした瞬間、彼の表情に微かに影が差す。
きっと今でも思い出すのだろう。
普通の若者として友人たちや瞬と何気ない日常を笑っていた頃の記憶、それにソルダークネスとして地球を手中に収めようと人々を恐怖のどん底に突き落とし、何度も
それでも彼は、ちゃんと前を向こうとしているはずだ。
赤と黄色の看板を見る彼の目にはそんな過去を苛むだけではなく、どこか希望のようなものをのぞかせているように感じた。
「じゃあ決まりだね」
「はいっ!」
俺たちは並んで店の自動ドアをくぐる。
昼時の店内は学生や家族連れで賑わっていて、油の匂いとざわめきが妙に懐かしい。
ああ……こういう空気、最後に味わったのいつだったっけ?
会社帰りに一人で牛丼屋なんかに寄ることはあっても、気軽にファストフード店へ入るなんて随分長いこと無かった気がする。
ハンバーガー屋に最後に入った記憶は営業がうまくいかなくて足早に帰されてすぐに帰るわけにもいかず時間を潰すためにコーヒーだけ頼んで何もするでもなく小一時間ほど居座っていた苦いものだ。
結局その後会社に戻って上司にいつも以上に怒鳴られたんだけど……
うっ……なんか俺も嫌なこと思い出しちゃったな
しかし、そんな俺をよそに想は物珍しそうに店内を見回している。
「わぁ……久々だなぁ」
「注文どうする?」
尋ねると彼はじっとメニュー表を見つめた。
「えっと……それじゃあぼくはこの新商品のてりやきバーガーのセットで……お願いします」
「てりやきバーガーね。俺は何にしようかな……」
てりやきバーガーか……
今となっては定番中の定番だけどこの頃はまだ発売したての新商品だったんだな……それにあのメニューが無いなとかこんなメニューあったっけ? なんて思いながら、カウンターの上に備えつけられたメニュー表をぼんやりと眺めていたその瞬間、俺は目を疑う。
「……安っ!」
思わず素で声が出てしまった。
商品の値段が大体俺の記憶の半分以下の価格で並んでいる。
「う、嘘だろ……ビッグバーガーが360円……?」
「え? 普通じゃないですか? それでも他のバーガーに比べたら高いですし」
「い、いや……俺が生きてた頃だともうちょい高くなってるというかなんというか……」
そう言った瞬間、想はきょとんとした顔で首を傾げた。
「へぇ……何十年か後ってハンバーガーってそんな高級品になってるんですか?」
「ああいや、高級品ってほどじゃないんだけど……その……」
どう説明したものか……
なんとか説明をしようとするも脳裏によぎるのはニュースで嫌というほど聞いてきた世知辛いワードと前世の鬱屈とした日々の光景ばかり
「もしかして未来ってそんなに大変なんですか?」
表情から想が何かを察したのか少し不安そうに尋ねてくる。
ま、まずい……瞬が命をかけて守った未来が暗いものになってるなんて想には口が裂けても言えない……!
「いやっ!? そ、そんなことないよ!? ほら、色々便利になってるし! スマホとかインターネットとか……」
「すまほ?」
「あっ……えーっと未来の携帯電話みたいなやつで……」
「携帯ってあの肩から提げられるカバンみたいな電話ですか? さっき歩いてる時広告で見ましたけど……」
「う、うんまあそんなとこ……あははは……」
「それとハンバーガーにどんな関係があるんですか?」
「うっ……それは……」
想の言う通り全く関係もないし弁明にもなっていない。
もちろんこの時代よりはるかに良いこともたくさんある。
色々便利になったし医療だって進歩した。
そんな便利さを享受しておきながら
「昔は良かった。」
なんて軽々しく言うつもりもない。
しかし終電に追われながら働いていた自分の人生を思い出すとどうしても
「未来は明るいよ!」
なんて今《80年代》を生きる若者である想に胸を張って言い切ることができなかった。
「……やっぱり未来でこの先何か悪いことでもあるんですか?」
想が不安そうにこちらを見上げる。
その問いに、俺は慌てて首をぶんぶん振った。
「ち、違う違う! そんなことないって! えっと……その……便利だし! ゲームとかも映像とかすごい綺麗になるし! オンラインだよオンライン!」
「は、はぁ……」
「そ、そう! すごいんだよ! だから全然大丈夫!」
我ながら全く中身のないフォローだった。
想もたぶん察しているのだろう。
けれど彼はそれ以上追及せず、くすっと小さく笑った。
「マルデュークさん、なんかすごく焦ってません?」
「い、いや……そんなことないよ?」
「いや絶対ありますって」
じとっとした視線を向けられて、俺は思わず目を逸らした。
危ない危ない。
これ以上未来の話をすると俺の社畜時代の社会保険料が高いとか物価が高いとか給料が上がらないとかそんな愚痴が漏れ出してしまう。
そんな事聞いたって何も楽しいことがないのは飲み会で上司の苦労話を散々聞かされてつくづく思っていたから俺はそこで話を切り上げた。
「と、とにかく注文しよう! 並んでるし!」
「話逸らしましたね?」
「逸らしてないです! とにかく、想くんはせっかく意思を取り戻したんだから今は今を楽しんで生きれば良いんだって! 俺だってそうするつもりだから!」
そんなやり取りをしながらレジへ向かう。
制服姿の店員に注文を伝えると、想は可愛らしい財布をカバンから取り出しかけた。
「あ、ぼく払います。一応お小遣いももらってますし」
「いやいや、今日は俺が出すよ色々付き合わせちゃってるんだからおじさんにもそれくらいさせてよ」
「……それじゃあお言葉に甘えます」
ぺこりと頭を下げる仕草が妙に女の子らしくて、周囲の客がちらちらこちらを見ていた。
本人は気付いていないらしい。
いやまあ、今の想はどう見ても可愛い女の子だからな……。
この少女が少し前まで人類を根絶やしにて地球を支配しようとしていた超古代文明グローグの首魁だとは誰も思わないだろう。
そして想のてりやきバーガーのセットと、合わせて俺はこれからまだ街を歩くことを考慮して控えめにハンバーガーのSサイズセットを注文し、席に番号札を立てて待っているとしばらくして店員が頼んだ商品を持ってきてくれた。
トレーに並ぶハンバーガー、ポテト、紙コップのジュース。
見慣れたデザインとは少し違うが懐かしさを感じるデザインの包み紙に胸が高鳴る。
なにせ俺もハンバーガーを見るのは前世ぶり。
時間で言えば想より遥かに久しぶりなのだ。
「おお……」
「なんでマルデュークさんの方が感動してるんですか」
「だって俺もこういうのほんと久しぶりで……!」
そんな俺を尻目に想が紙に包まれたてりやきバーガーを両手で持ち上げる。
照りのあるソースがバンズの隙間から少しだけ覗いていて、彼は目を輝かせながら小さく息を飲んだ。
「いただきます」
そう言うと彼ははむっと小さな口でてりやきバーガーにかぶりつく。
「……っ!」
次の瞬間、想の表情がぱあっと明るくなった。
「お、おいしい……!」
まるで初めて甘いものを食べた子供みたいな反応だった。
甘辛いソースの香りに、シャキッとしたレタスの食感。
少女の身体になっているせいか頬張る動作一つ一つが妙に小動物っぽくて、見ているこっちの頬まで緩んでしまう。
「そんなに?」
「はいっ……! 前にこの姿で焼き鳥を食べた時もそうでしたけどやっぱり全然味覚の感じ方が違うんですよ! それにしてもなかなかいけますねこの新商品!」
「うんうんそうだよね。今は新商品かもしれないけど未来では定番も定番ド定番の商品になってるから!」
「そりゃそうですよ! こんな美味しいんですから!」
想は俺の言葉にうなづきつつ口元にソースを付けながら夢中で夢中でてりやきバーガーを食べ続ける。
その姿を見て俺も自分のことのように嬉しくなり、気づけばそんな彼の姿に見惚れていた。
その横顔を見ていると以前少女になった瞬と一緒に食事をした時のことを思い出す。
あの時の瞬も同じ様に変わってしまった身体に戸惑いながらも久々に感じたであろう当たり前の感覚を噛み締めていた様に見えた。
想も同じく戸惑いながらも失った時間を、まるで一つ一つ拾い集める様に味わっている様に見える。
想は本来なら記憶も失ってシャドーVXへの復讐だけのために蘇っててりやきバーガーなんてものは食べられないどころか想としての自我を取り戻すこともなく最後は強引に復活した身体に限界が来て力尽きてしまう。
そんな彼が今自分の意志で美味しそうにハンバーガーを食べる姿がなんだか胸に来てしまって、俺は思わず目を細めていた。
「なんですかさっきからぼくの顔ばっかり見て……なんかついてますか?」
気がつくと想はじっとりとした目で俺を見つめていた。
その口には勢いよく食べたからかバーガーのソースが付いている。
「ああいやその……口にソース付いてるよ!」
俺はそう言ってトレーに置かれていた紙ナプキンで彼の口を拭く
「わぁっ! こ、これくらい自分でできますよぉ!」
「良いから、ほらちょっと大人しくしてて!」
そして、拭き終わると彼は頬をぽっと赤くする。
「今はこんな姿ですけど僕、子供じゃないんですよ?」
ぷくっとふくれっ面でそう言った想の顔を見て俺の胸はトクンと脈打つ
か、かわいい……瞬が女の子になった時も感じたけどやっぱりこれってやっぱり母性本能ってヤツなのか……!?
いやいや俺は男だぞ!?
そんな訳……どっちかと言うと俺がそういうシュミに目覚めちゃったってことか!?
い、いや……俺は断じてロリコンでは……!
内心で全力ツッコミを入れているのを見て、瞬は再び俺をじっとりとした目で見つめていた。
「マルデュークさん?」
「はっ!? ハイなんでしょうか!?」
「さっきからニヤニヤしてないでマルデュークさんも早く食べないと冷めちゃいますよ?」
「そ、そうだね あはははは……」
俺はごまかすように笑いながら包み紙を開き、約200年……前世ぶりのハンバーガーとの対面を果たす。
包み紙から現れた相変わらずメニューに載っている写真とは似ても似つかないその薄っぺらいフォルムにはもはや懐かしさを超えた感動さえ覚えていた。
そしてゆっくりと一口齧ったその瞬間……
「…………んんっ!?」
口に入れて最初に感じるパンの甘み、それを追うように肉汁と塩味が押し寄せてきて、二口三口と更にかぶりつくと息もつかせずケチャップとピクルスの酸味が口の中を駆け抜けていく。
そして噛むほどに口の中でそれが混ざり合って脳を刺激し、一瞬時が止まった可能様な錯覚にさえ陥った。
「う、うまい……っ!!」
思わずそんな声が漏れ、頬には涙が伝っていた。
「ま、マルデュークさん? いくらなんでも泣くほどじゃ……」
ポテトをつまみながら心配そうにこちらを見つめる想を他所に、俺は本能のままハンバーガーを喰らう。
うまい。
うますぎる。
そして気づけば鼻から突く油の匂いに誘われてもう片方の手でポテトをつまみ、なんとも言えない脂っこさと塩辛さが再び体中に染み渡っていく。
そして極めつけにセットで頼んでいたコーラでそれを全て食道へと流し込んでいき……
「っつ……はぁーっ! 最……高……♡」
俺は気づけば久々に食べたジャンクフードの虜になっていた。
中年サラリーマンだった頃、ハンバーガーなんてLセットなんて頼もうものなら胃もたれして翌日まで重さが残るし、健康診断の数値も気にして気づけば敬遠するようになっていた。
しかし今の体は違う。
なにせ以前の俺より幾分か若い……いや厳密に言うと年齢的には遥かに今のほう上なんだけど……
それでも体の年齢は今のほうが確実に遥かに若い!
食べた端から熱量に変換されていくみたいに身体が軽い。
それに腹にずっしりと溜まる感覚が全くと言っていいほどない。
ただただハンバーガーのジャンクさに酔いしれていられる。
この若さこそがジャンクフードを楽しむうえで最も必要なものであることを今俺はひどく痛感したのだった。
もう血糖値も怖くない!!!
ああ、やっぱり若いって良いなぁ……
そして気づいた頃には少なめに頼んでいたハンバーガーのセットをあっという間に全てを完食してしまっていた。
「ごちそうさま……」
「えっ、もう食べ終わったんですか?」
「だってSサイズのセットだったし……」
そこまで口に出すも未だに想のトレーにはポテトと半分近く残っているてりやきバーガーが置かれていて、Sサイズのセットくらいでは今の俺は満足することなど出来なかった。
「ごめん想くん、おかわり……してきても良い?」
「い、いや……別にぼくに許可なんか取らなくてもいいと思うんですけど……」
「うん! それじゃあビッグバーガーのセット追加で頼んでくるよ! ちょっと待ってて!!」
俺は大急ぎでカウンターへと走り、追加でビッグバーガーのセットを注文する。
「ふぅ〜やっぱこれだよなぁ」
ビッグバーガーの乗ったトレーを持って席に戻った俺を想は心配そうに見つめていた。
「2個も食べちゃって大丈夫なんですか?」
「だってさぁ! 俺、記憶が戻ったのは最近とは言えこの身体になってから大体200年くらいハンバーガーなんて食べてなかったんだよ!? それに食べたって全然胃に溜まる感じもない……こんなの食べない選択肢はないよ!」
「に、200年……」
「そうだよ! それにオッサンだった頃はもうビッグバーガーなんて重くて食べられなかったし……想くんももう少し大人になったらわかると思うけどこういうのは食べられる時に食べとかなきゃいけないんだよ!!」
俺の熱弁は異様な熱を帯びており、気づけば他の客からの注目の的になっていた。
その刺さるような視線を感じて、俺は正気に戻りしゅんと縮こまる。
「と、とにかく……いつものノリで少なめに頼んだけど俺……じゃなくて私、この身体じゃ全然物足りなかったってこと……よ。それにやっぱり若いって良いなって思った……のよ」
「は、はい……」
辺りの視線を気にしてたどたどしい女言葉で控えめの力説を続けると、想は深く頷いたのだった。
それからしばらくして久々のハンバーガーを堪能した俺達は店を出た。
「ふぅ〜食べた食べた。ハンバーガー屋をこんな幸せな気分で出るのは本当にいつぶりだろうなぁ〜」
俺は一つ大きな深呼吸をして自分の腹部を優しく撫でた。
店内に籠っていた生温かな油の匂いをのひんやりとした外気が清涼剤のように鼻を突き抜けかき消していき、満腹感と多幸感の余韻に浸る。
店を出る頃には胃が持たれてもう当分は食べたくないなんて思っていた前世の事が嘘みたいだ。
「……マルデュークさん、本当に満足そうな顔してますね」
隣を歩く想が、抱えた紙袋の隙間からこちらを見上げてくすりと笑う。
少女の姿のまま内股気味に歩くその足取りは店に入る前よりもどこか軽やかだった。
「そりゃあね。胃もたれを気にせずビッグバーガーをガツガツいけるなんて前世の俺からしたら奇跡みたいなもんだから! 若いって素晴らしいよ!本当に」
「はは、またそれですか」
「それが何にも代えがたい物なんだよ!」
そんな話をしながら俺達は並んで歩行者天国の雑踏を抜けていく。
午後を過ぎた街は買い物客や学生たちで溢れていた。
誰もが今まさにアポカリプス皇国の魔の手が地球に迫っているとも知らずに笑顔で平和な日常を享受している。
これこそが瞬が人知れず守っているものなのだとすれ違う人々を見てしみじみと思う。
そんな人混みを二人で歩きながら、寄り道をして戦闘員達へのお土産や、想が気になっていた漫画やゲームなんかを買ったりした。
「いやぁ……結構色々買っちゃったね」
「ですね……ちょっとおねだりしすぎちゃったかもしれないです……」
お互いに大量の紙袋を抱えながらそんな話をしていると、突然想の足が止まった。
ショーウィンドウに映る自分をじっと見つめていた彼は、ぽつりと掠れるような声で呟いた。
「……マルデュークさん。前に、ぼくに話してくれましたよね? このこの先ぼくやマルデュークさんがどうなるかって」
「え? あ、ああ。まあね……」
急に真剣なトーンになった想に、俺は少し身構える。
「その話が本当なら……ぼくは……いえ、マルデュークさんもこの後、死んでしまうんですよね」
街の喧騒が一瞬だけ遠のいた気がした。
「……怖く、ないんですか?」
その問いは俺の胸の奥底に冷たく突き刺さる。
怖くないわけがない。
前世で過労死寸前の社畜だった俺が、気づけば昔見ていた特撮番組の女幹部にになっていて、しかも待っているのは誰からも見限られて無惨に処刑されるという未来。
そんな事十分にわかっていたはずなのだが、想に言われて再度自分の置かれている状況を痛感する。
確かに俺の知っているシナリオとは少しずつ流れは変わってきている。
しかしそれがマルデュークを生きながらえさせる方向に作用するかなんて事、俺にだってわからない。
それどころか一歩間違えば「シャドーVX」の結末よりも先に命を落としてしまう可能性だって十分にある。
前回ロミニアを助けるためとは言え無鉄砲に彼女とVXの間に割って入りデモンブレイクを止めたあの瞬間。
冷静に考えると下手すれば受け止めきれずにそのままVXに両断されていたかもしれないのだ。
運が良かったから事なきを得たものの自分の行き当たりばったりな行動がどの様な影響を及ぼすのかが全く不透明で、俺は自分が今暗闇の中を綱渡りさせられているような感覚に陥った。
「そりゃあ、めちゃくちゃ怖いよ。死にたくないからできる範囲で色々やってる訳で……」
俺は一歩を踏み出し、ゆっくりと歩きながら、胸の内を整理するように言葉を紡いだ。
「……でも、不思議と絶望はしてないんだ」
「え……?」
「俺はさ、前世ではただ会社と家を往復するだけの、何のために生きてるか分からないただのサラリーマンだったんだよ?でも、こうしてマルデュークとして目覚めてからの日々は……その、悪の組織の幹部なんてとんでもない役職だけど、前世より遥かに充実してる。だから……もし、万が一、作中通りに殺される運命が変えられなかったとしても、前世の何の甲斐もない頃のまままま死ぬよりは後悔はないかもしれないって、心のどこかで思っちゃってるのかもしれない。なにせあんまり自覚はないけど一回死んでるわけだし……」
それは、偽らざる本音だった。
だが、俺はそこで言葉を区切り、想を振り返ってにやりと笑ってみせた。
「なーんてね! 格好いいこと言ってみたけど出来ることなら死にたくはないよ! だって、アポカリプス皇国の皆も思ってたよりずっといい人たちだって知れた。この姿で目覚めて思い立った時は自分だけ助かれば良いやなんて思ってたけどそうもいかなくなっちゃったし、何より幹部としてやらなきゃいけないことが山積みだし……」
そうだ。
俺はもういなくなっても変わりがいくらでも居るようなただの中年サラリーマンではない。
俺の命や行動が部下やアポカリプス皇国の人々の命運さえも動かすアポカリプス皇国の女幹部なのだ。
だからそう簡単に死ぬわけには行かないし、原作通りの終わりを迎えるわけにもいかない。
今目の前にいる想も含めて、せめて手が届く範囲の人々だけでも悲惨な運命が回避出来るのならばそれに全力を尽くしたい。
俺は想の頭に、そっと手を置いた。
「もちろん君にもこうやって、 本当はあたりまえだっただろう事をもう一度あたりまえだって思えるようになってほしい。だから俺はそう簡単には死ねないよ。もちろん想くんだって死なせない」
言葉を紡ぎながら俺はマルデュークとして目覚めてからこれまで出会った顔ぶれを思い浮かべていた。
不器用だけど努力家なロミニア、おちゃらけながらも意外と真面目なジン、愚直で武人肌なグラギム、マルデュークからひどい仕打ちを受けても顔色一つ変えず面倒を見てくれるアビガスト。
内面ではビビりながらもなんだかんだで慕ってくれている戦闘員達に俺や想達の命を繋いでくれた命の恩人である科学主任。
そして過酷な運命に翻弄されながらもこうして今となりに居る想と運命に抗いながら人々を人知れず守り続けている瞬。
今や俺にとって彼らはテレビの画面の向こうで見ていたただヒーローとヒーローに倒されるだけの敵怪人ではなく、地続きの命として確かに悩んだり笑ったりないたりしながら生きている。
彼らのとの出会いは俺にとってかけがえのないものだ。
だからこそ原作通りのアポカリプス皇国破滅の未来をなんとしてでも回避したい。
出来る限り自分だけでなくアポカリプス皇国の人たちも救える方法を模索したい。
いくら元のマルデュークが酷すぎたとは言え初めは孤独で途方もない目標だったかも知れないが、今では協力してくれるジン達や想もいる。
彼らが俺を信じてくれたのだから俺も出来ることをやらなくては…
想は俺の手の温もりを感じるように、少しだけ目を細めた。そして、何かを堪えるようにフッと微笑む。
「……やっぱり不思議な人ですね。でも、安心しました。あなたがそのつもりならぼくも……全力で、あなたに命を預けられます」
「うん。 頼りにしてるよ想くん」
そうして俺たちはしばらく買い出しの荷物を抱えながら街を歩き、いつもの路地裏から月の裏側に浮かぶ前線基地アポカリス要塞へと帰還した。
自室に戻り、俺は想にブカブカな男物の服を手渡す。
「流石にその服装のまま元に戻ると色々アレだから先に着替えてね」
着替えを受け取った想は何やら頬をぽっと赤らめる。
「は、はい………… あの…………自分で着替えられるので……それでその……変かも知れないんですけどぼくが着替えてる所…………見ないで…………くださいね?なんだか恥ずかしくって……」
そう言った彼の表情は恥じらう少女そのもので、俺が非常にインモラルな事をしているような気持ちになってしまう。
「う、うん!ごめん! いくら今は女同士だとしてもおじさんと一緒じゃ着替え辛いよね?あっち向いてるから着替え終わったら言って!」
俺は反射的に彼に背を向ける。
なんだろう……一応中身は男同士だし身体的にも女同士だけどこういうのって…………
とそんな事を考えていると想の前で着替えたり下着をそのままにしているところを見られたりしていた事が急に恥ずかしくなってきて俺の顔がかっと熱くなる。
そんな時ふと手に何かを持っていることを思い出し、そちらに目をやると手には男物のトランクスが握られていた。
どうやら着替えを渡した時にパンツだけ渡し忘れていた様だ。
このままじゃ彼が困るだろうと
「ごめん想くんパン………………」
と言いかけながら振り向いた瞬間瞬間、俺目に飛び込んできたのは
「あ………………あ………………………」
顔を真っ赤にして目に涙を浮かべて震えながらこちらを見る全裸の少女だった。
「ご、ごめ………………」
彼が想であることなど重々承知だが、涙目の少女の裸を見てしまった俺は反射的にそう言って顔を逸らそうとしたその瞬間
「うゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!見ないでっていったじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
彼は次の瞬間とっさに股間を手で隠してその場に縮こまり甲高い声を上げた。
「うわぁぁぁっ!!ごめんっ!これは決して邪な気持ちじゃなくて………………………………そう!パンツ!パンツ渡し忘れてて!!!」
俺は必死に弁明を試みた次の瞬間、部屋の奥にある扉が勢いよく開かれて………………
「マルデューク様!?お戻りになられていたのですか? 今悲鳴が聞こえましたがどうされましたか!?」
珍しく息を荒げたアビガストが部屋に飛んで入ってきたので、俺はいくら女幹部とは言え見ず知らずの少女を部屋に連れ込まれている所を見られるのはまずいととっさに彼を隠すように床に押し倒していた。
「ひゃっ!?」
「あ、アビガスト? そ、そうなの今戻ってきてちょっとゴキブリ見ちゃってびっくりしただけよ?大丈夫だから………………おほ、おほほほほ………………」
俺はなんとか誤魔化すように笑って見せる。
ちょうど彼女の位置からではベッドが影になっているおかげで床で倒れている想の姿は見えていないようでひとまず胸をなでおろした。
「そ、しかし………………相当大きなお声が聞こえたので」
「あ、えーっと……その…そう!ゴキブリが出たの!!久しぶりに見たからびっくりしてガラにもなく声出しちゃっただけだから……」
「ごき………?」
俺の言葉にアビガストは不思議そうに首を傾げた。
しまった!
アポカリプス星には多分ゴキブリが居ないのかアビガストはしっくり来ていないようだ。
「と、とにかくもう大丈夫だから!来てくれてありがとう。もう戻ってもいいわよ」
「……………はい。マルデューク様がそう仰るのでしたら……… では何かございましたらいつでもお呼びくださいませ」
そう言ってアビガストは自室へと戻っていき俺はホッと息を吐き出す。
しかし、我に返って自分の体勢を意識した瞬間、俺の心臓は激しく脈打った。
(俺、今ものすごい状況になってない……!?)
床の上。俺の身体の下には、一糸まとわぬ姿の想が組み敷かれる形で横たわっている。
押し倒した衝撃のせいか、彼の白く華奢な両手は床に投げ出されて隠すべき場所が完全に無防備な状態のまま俺の眼下にさらされている。
まだ少女特有の初々しさを残した膨らみが、俺の胸に押し潰されるようにして密着していた。
その柔らかい感触が服越しだというのに生々しく伝わってくる。
細い太ももは恥ずかしそうに内側にすぼめられていて、急な出来事に驚いたのか、長い睫毛に涙をいっぱいに溜めた瞳が、潤みを帯びている。
潤んだ唇をきゅっと噛み震えて怒るでも拒絶するでもなく、恥ずかしそうに俺から視線を逸らしていた。
その姿は当に初夜の生娘の様で……(いや本物の初夜の生娘なんて見たこと無いんだけど)
そんなインモラルなこの状況で胸越しにドクドクと想の鼓動が伝わってくる。
「あ、あの……マルデュークさん、その……」
蚊の鳴くような声で囁く想くんの声に、俺は弾かれたように我に返った。
「う、わあああっ! ご、ごめんっ! すぐどくからね! 決して他意はなくて、ただアビガストに見られたら色々説明が面倒くさくなると思って……!」
俺はたどたどしい動きで、慌てて彼の身体から飛び退くようにして距離を取った。
すると想はブカブカの男物の服で身体を隠し、こちらを少し恨めしそうに睨みつけてくる。
「……見ないでって言ったじゃないですか……ぼくだってまだちゃんと見てないのに…………」
「い、いや、本当にごめん。……あ、これ、パンツ。忘れてたやつ」
俺は顔を真っ赤に染めたまま、絶対に想くんの体を見ないように天井の一点を見つめつつ、手元に残っていたトランクスを、まるで未知の危険物でも扱うかのようにそっと差し出した。
「あ……ありがとう、ございます……」
消え入りそうな声でそれを受け取ると彼は大急ぎで布地を身に纏い、残りの着替えを再開した。
背後から聞こえる衣擦れの音が妙に耳に残り、俺の心臓の鼓動はさっきから一向に落ち着く気配を見せない。
俺も気を紛らわせるためそそくさと服を着替える。(と言ってもほぼ変装用の服を脱いでマントを羽織るだけなんだけど……)
「……あの、マルデュークさん。着替え終わりました」
しばらくして少し落ち着きを取り戻した声が聞こえた。
振り返るとブカブカの男物の服の裾をぎゅっと握りしめ、まだ少し頬を赤くした想くんが立っていて、心なしか彼もどこか照れくさそうに視線を泳がせている。
「よ、よし! じゃあ、元の身体に戻すね」
俺は大急ぎで物質置換装置を操作すると、装置から光が発せられて想の身体を包んでいく。
光の中で華奢な少女のシルエットが徐々に引き締まった四肢へと変わっていき、光が収まった頃に想の姿は元の青年の姿へと戻っていた。
「ふぅ……。あの姿もあの姿で懐かしい普通の人間としての感覚があるとは言えやっぱり今はこの元の身体の方が落ち着きますね」
想は自分の手のひらを握ったり開いたりしながら、ほっと息を吐いた。
「ふぅ…やっと元に戻せた」
俺もあのままの姿の想とこれ以上一緒にいたらどうにかなってしまいそうだったので、元の姿に戻った想を見て釣られたように安堵の息を履く。
「ホントですよ。女になった僕の裸を見て、それに不可抗力とは言え押し倒すなんて……あの姿の時は普通の女の子なんですよ?結構痛かったんですからね…?」
想は頬を赤らめて小さな声で言う。
その姿は紛れもなくいつもの想だったが、薄っすらと少女の姿がチラついたような気がした。
「ご、ごめん……色々付き合ってもらったのに」
「い、いえ…大丈夫です。それに……その、僕の方こそ、あんな大きな声を出しちゃってすみませんでした。」
想はまだ少し赤みの残る顔を恥ずかしそうに背けながら、小さく頭を下げた。
お互いに視線を合わせられず、部屋の中に何とも言えない気まずい沈黙が流れる。さっきまで肌を合わせるようにして床に転がっていたのだ。
脳裏に焼き付いたあの白くしなやかな少女の輪郭が目の前のをちらつく。
「と、とにかく! 買い出ししてきた物を整理しちゃおう!」
「そ、そうですね! よ〜し早く片付けましょう」
俺がガラにもなく上ずった声を出すと、想もわざとらしく肩を回して作業に取り掛かった。
買ったものを片付けながら事務的な会話を交わすうちに、お互いの呼吸もようやくいつもの調子を取り戻していく。
「よし、これでだいたい片付いたかな。想くん、本当に助かったよ。」
「お役に立てて良かったです。……あ、マルデュークさん、これから部屋を出るなら、念のために僕も烈焼しておいたほうが良いですよね」
想はそう言って構えを取ると、彼の身体を炎と蒸気が包み、その中からソルダークネスが現れた。
「ごめんね、せっかく元の身体に戻れたのにまたその姿になってもらって……」
「いえ、元の姿や女の子の姿で要塞の中を歩くわけにはいきませんからね。早く配るものを配って自室で休憩したいです。」
「そうだね。それじゃあ行こっか」
俺と想は変装用スーツの大きな束を腕に抱えて部屋を出た。
それからしばらく長い廊下を歩いていると前方に聞き覚えのあるドタバタとした足音が響く。
「マルデューク様ぁ────っ!!」
「うおっ!?」
次の瞬間、ロミニアが、もの凄い勢いで俺の胸元へと飛び込んできた。
退院したばかりだというのに、凄まじい突進力だ。
衝撃で後ろに倒れそうになるのを、想がすかさず支えてくれる。
「ロ、ロミニア!? 危ないじゃないの、急にどうしたのかしら?」
「どうしたもこうしたもありませんっ! どこを探してもいらっしゃらないのでロミニア……とっても心配したのですよ!?」
俺の衣装の裾をギュッと掴み、涙目でこちらを見つめ、あざとく頬をふくらませるロミニア。
「心配かけてごめんなさい。前の作戦で使い物にならなくなっていた備品を調達しにちょっと地球まで降りてたのよ」
「そ、そんなぁっ!! ロミニアちゃんに内緒で地球に降りるなんて水臭いですよぉ!」
相変わらず絵に描いたような懐きっぷりだが、ふと彼女の視線が俺の斜め後ろへと向いた。
その瞬間、ロミニアの表情から甘えが消え毛が逆立つ。
「……で、なんでよりによってアンタがその地球で調達した物資を持ってんですか?」
ロミニアが睨みつけた先には静かに佇む
流石に二人で買い物がてら遊んだりしてました〜なんて言えないし……
「あ、ああ……彼、地球人でしょう? 人手も欲しかったしアタシ達より勝手もわかるから連れて行ったのよ」
俺はそれとない返事をした。
すると……
「いくらそいつが過去にシャドーVXを追い詰めた相手だか何だか知りませんが、所詮は過去の話です!それにそいつも下等な原住民族な事には変わりないじゃありませんか! マルデューク様の護衛なら、このロミニアちゃんがいます! 荷物持ちだってなんだってお役に立てます! なのに、どうして……ロミニアちゃんじゃなくよりにもよってそんな薄汚い原住民族を……!」
ロミニアは想を悔しそうにキッと睨みつけながら一通り感情を爆発させたと思えば声を上げて泣き始めた。
「どうしてそんなヤツをわざわざお側へ連れて行くんですか……! ロミニアじゃ、マルデューク様のお役に立てないっていうんですか!?」
ここで「いやー、想くんが部屋に引きこもりっぱなしだったからさー」なんて腑抜けた本音を言えば、女幹部として示しがつかない。
それに何より彼女も差別で苦しめられていた側のハズだが立場が変わればこうも簡単にそんな言葉を吐き捨てられる事がショックだった。
彼女のその言葉で所詮アポカリプス皇国の人々は地球人を侵略予定の星に元々住んでいるだけの取るに足らない邪魔な存在程度にしか思っていない事を再認識させられる。
たしかに実際にアポカリプス皇国の人々に比べ、地球人は技術力も寿命も全てが劣っていると言ってもいい。
それに、未だ作戦で一度しか地球に降りていないロミニアが出会った数少ない地球人は騙して集められたにせよ高待遇に釣られて一時の欲のために地球を売る様な人々だった訳で、地球人は皆そうだと彼女が認識するのも無理はないのだろう。
そんな認識の溝は、そう簡単にどうこうできるほど浅いものではない。
わんわん泣き喚くロミニアを尻目に俺は想にこっそり
「ごめん、今から言うことは方便だから軽く流して」
と軽く耳打ちをした後俺はふぅ……とわざとらしく冷ややかなため息をつき、女幹部の仮面を被った。
「ふん、何もわかっていないのねロミニア」
「……え?」
「アタシが、彼を対等な護衛として連れて行ったとでも思ったのかしら? 冗談はやめてちょうだい。ただの道案内兼、荷物持ちよ。そんな役割をアナタに任せるなんて役不足ではないかしら?」
俺はあえて想の方を見ずに、冷酷な言葉を並べ立てる。
「皇国の高貴な戦士であるアナタやグラギムを地球で連れ回してみなさい。戦闘員達に示しがつかないでしょう? それに目立ってVXを呼び寄せてしまったら元も子もないでしょう? その点この男も元々は原住民族。使い潰すにはこれ以上ない適任でしょう?」
横にいる想にチラリと視線をやると、彼は俺の意図を察したようにただ静かに俯き従順な道具のフリをしてくれている。
その健気さが逆に辛かった。
そして視線を恐る恐るロミニアの方に戻してみると……
「ま、マルデューク様ぁ……ロミニアが間違っていました。マルデューク様が私を連れて行ってくれなかったのは愛あればこそだったのですね……?」
目に涙を浮かべて彼女はこちらを見つめていた。
よ、よかった……なんとか好意的に捉えてくれたようだ。
「ええ。もちろんよ。なにせアナタもあのVXとの戦いで生き残った誇り高き戦士の一人なんだから。これからも皇国の……いいえアタシの為に働いてちょうだいね」
俺がそう言ってロミニアの頭を優しく撫でてやると、彼女の顔が瞬時に一変し、さっきまでの凶悪な敵意はどこへやら頬をほのかに染めに染めて喉をぐるぐると鳴らし始めた。
「 は、はい! そうですよね! 申し訳ありません、私としたことが、マルデューク様の事を疑うような真似を……!」
チョロい。
ものすごくチョロい。
想には悪いことをしたが、こうでもしないと彼女は納得してくれないだろう。
それにここまで物分りがよければいつか地球人の事も少しは理解してくれるはず。
彼女の意識を変えられるかどうかは多分俺の手にかかっているのだろうと自分に言い聞かせながら更に彼女の喉元を優しく撫でた。
「分かれば良いのよ。ただし、彼だって他の地球人だってアタシ達からしたら取るに足りない原住民族だからって甘く見ないことね。敵とは言え意味もなく見下すのは辞めなさい。」
俺は撫でていたロミニアの頭からそっと手を離し、少しだけ声のトーンを落とした。
「うみゃ? 何故ですか? マルデューク様、地球に出発される前に地球人は取るに足らない貧弱で寿命も短くてウィラスも使えない下等な原住民族だって言ってたじゃないですかぁ」
オイ待て、もしかしてロミニアがめちゃくちゃ地球人を見下してるのって
まあ確かにマルデューク、相当地球人のことも見下してたしなぁ…………
酷い時は地球に潜入している時ナンパされそうになっただけで声をかけてきた男を
「地球人ごときがこのアタシに声をかけるんじゃないわよ!」
なんて言いながら惨殺するくらいには……
それなら尚更なんとかしないと…………
「た、確かに地球人はアタシ達に比べれば寿命も短く脆くて浅ましくて私欲のために同胞を裏切るような民族かもしれないわ」
「……はい! あんな連中、我々の足元にも及ばない下等な原住民族です!」
ロミニアは何の疑いもなくおれの言葉に同調する。
彼女は以前ゲニージュとヴェアルガルのハーフとして、皇国内でどれほど理不尽に虐げられ、自身の血を呪ってきたかを以前彼女は聞かせてくれた。
誰よりも差別される側の痛みを知っているはずの彼女が、いざ自分より確実に下だと定めた存在を見つけた途端同じ理屈で地球人を嘲笑う。
皮肉な話だがそんな差別される立場から身分も性別さえも隠して己が実力だけでのし上がってきたのが彼女だ。
だからこそ彼女の目に映った弱さに甘んじている者達が許せない側面もあるのかもしれない。
それにロミニアにとって、先の作戦で集められた人々が餌につられてのこのことやってきた間抜け達にしか見えておらず、騙されているとも知らないまま自らの文明を破壊する兵器を必死になって作っている様は滑稽に映っていたのだろう。
しかし俺は知っている。
結果的に地球を売る様な行いをしてしまったとは言え決して彼らが欲望だけで動いていなかった事を……
彼らを突き動かしていたのは待遇だけではなく人工衛星を完成させて世界を良くしたいという使命と夢だった事を。
それを利用したのは紛れもなくアポカリプス皇国だ。
しかし、そんな卑劣な計画もロミニアにとってはアポカリプス皇国の崇高な地球侵略計画の一つでしかなく、彼女にそんな理屈を説いたところで何の意味もないだろう。
しかし彼女にも知ってほしい。
俺が君やグラギム……それに戦闘員達をただ倒されるだけの敵キャラではなく必死に今を生きているアポカリプスの人々だと知れた様に、地球人……瞬や想も生まれた星や種族は違えど君と同じ様に何かに悩んだり喜んだり悲しんだりしながら日々を生きているという事を……
「ええ。確かに地球人は哀れに見えるかもしれないわ。アタシも多分下調べした段階のときはそう思っていたかもしれない。でもね、地球に来て侵略作戦の指揮を取っているうちに考えを改めたのよ。奴らを取るに足りない原住民だと侮っていてはいずれアナタ自身が足を元をすくわれるわよ」
「え……? 私が、ですか?」
ロミニアが、不思議そうに首を傾げる。
「そうよ。脆くて弱いからこそ、彼らは時にアタシたちの想像を超える牙を剥くの。現にアタシはシャドーを侮った結果このキズを負わされたのよ? このアタシにキズを付けたシャドー、そしてシャドーと同等の力を持つ彼が本当に取るに足らない存在だって思うのかしら?」
俺はそう言ってシャドーに斬りつけられた時に出来た腹部のキズを指でなぞってみせた。
立場と受けたキズを盾にするのはいささか卑怯に思えたし、いくらなんでも主語を大きくしすぎたような気がするが、それでもロミニアには十分だったようで……
「……っ」
彼女は申し訳なさそうに口を噤む。
「アタシがこの男を側に置いているのは、地球人の底知れなさを観察して利用するためでもあるの。彼らをただの見下す対象としてしか見られないのならその時点で戦士としてのアナタの成長は止まるわよ」
ロミニアはハッとしたように目を見開き、それから深く頭を下げた。
「このロミニアが浅はかでした! マルデューク様の深いお考えを斟酌することが出来ず……」
「分かれば良いのよ。さあ、これから調達した物資を戦闘員たちに配るからアナタも手伝ってくれるかしら?」
「はいっ! お任せください、マルデューク様!」
ロミニアは笑顔を浮かべた後
「……別に私、悪いとは思ってませんし貴方の事、認めてませんから」
想の手からひったくるようにして紙袋を受け取って先程までの媚びるような声色が嘘のような低く小さな声で吐き捨てて彼を睨みつけた。。
やはり彼女の目には以前の欲にまみれた人々も想も同じく弱い立場に甘んじて強者に媚びへつらっているだけの下劣な存在に映っているのかもしれない。
そんな彼女の認識を変える事はすぐには難しそうだ。
これまた大きな課題が産まれてしまったなと思いながら、俺達は戦闘員たちに買い出しした物資を配るためラウンジへ向かった。
そして一通り地球で買い出ししたスーツやついでに買った土産物なんかを一通り戦闘員たちに配り終えた俺は、想の部屋で彼に深々と土下座をしていた。
「すみませんでしたッッッ!!!」
「ちょ、ちょっと……頭上げてくださいマルデュークさん! 僕別に何も思ってないですから!」
「で、でも……想君を荷物持ちだとか利用価値があるとか言っちゃって……あとその前に女の子の想君のこと押し倒しちゃったし……」
「しょうがないですって……幹部としての立場もありますしきっと僕があの子の立場だったとしたら同じ様に見下してたでしょうし……というかソルダークネスなら絶対そうしてたと思います……だからなんというか昔の自分を見てたみたいで……」
彼のその言葉には重みがあった。
確かにモグローグも身体を強化改造した自分たちこそが地球を統べるに相応しい存在であり、今を生きる人間など旧人類であり取るに足らない存在であると吐き捨てていた。
一時にそんな思想を持ったモグローグを統べる為に都合の良い人格に支配されていた彼だからこそロミニアの言い分にも一定の理解があったのだろう。
「で、でも……俺、せっかく信じてくれた君を裏切るようなことを言ったんだよ?」
「あれが嘘だってことぐらいわかってますって。ハンバーガーを一口食べただけで泣くような人が地球人を見下すわけないじゃないですか。ま、裸を見ないでって言ったのに見てくる時はほんのちょっと裏切られたと思いましたけど」
彼はおどけながらそう言って、その言葉で先程のことを今になって思い返してみると急激に顔が熱くなっていく。
俺、いい歳こいたオッサンのくせに、ハンバーガーを一口食べただけで本気泣きしてたんだ……
それに女の子になった想の裸を……
時間差でやってきた事実に、俺は土下座したまま顔を上げられなくなる。
「お、俺……そんなに泣いてた……?」
「はい。それはもう。 しかもビッグバーガーについても力説してましたし……」
「うう……穴があったら入りたい……」
悪の組織の冷酷非情な女幹部が、ジャンクフードの美味さに感動して涙を流す。
もしグラギムやロミニアに知られたら、畏怖の念が別の意味で消し飛ぶ自信がある。
「まあでも……」
想はくすくすと笑いながら、地面に突いた俺の手を優しく引っ張って頭を上げさせた。
「そんなマルデュークさんだから、ぼくは信頼できるんです。なんというかちょっと頼りないけれどそれでも今を変えようって気概だけは感じさせてくれますし……だから、さっきの事なんてこれっぽっちも気にしてませんよ。それよりせっかく色々買ったんですから開けましょうよ!」
そう言ってずっしりと物の詰まった紙袋を目を輝かせて彼は手前に持ってきた。
「想くん……君は本当にできた子だなぁ……」
彼の優しさに、俺は再び涙が出そうになる。
それからしばらく、二人で地球で買ってきた前世の俺からすれば懐かしい漫画を読んだりゲーム遊んだりして過ごした。
「えっ!? ジョナ●ンって死ぬんですか!? というかジョ●フって誰!? スタ●ドってなんなんですか!? 僕がソルダークネスになってる間に一体何が……」
漫画を読み進める度そんな新鮮な反応が見れて彼を見ているだけで面白かった。
「へぇ〜当時から読んでたんだ。俺がちゃんと読み始めたの5部からだよ」
「5部!? 更にそんな続くんですかこれ!?」
「えっ、ああうん……」
そうして楽しい時間はあっという間に過ぎていき……
「それじゃあ俺はそろそろ部屋に戻るよ。今日は付き合ってくれてありがとうね」
「はい。おやすみなさい、マルデュークさん。こちらこそ色々楽しかったです」
彼に見送られながら部屋を後にした俺は長い廊下を渡って自室へと戻った。
ドアを開けるとふわりと香ばしいような匂いが鼻腔をくすぐる。
「おかえりなさいませマルデューク様。もう既に夕食のご用意は済ませてあります」
アビガストに迎えられ、相変わらず一人で使うにはだだっぴろいダイニングのテーブルの上には、すでに彼女の手によって夕飯の用意が整えられている。
相変わらずおどろおどろしい見た目の料理が並んだ食卓に、昼に食べたハンバーガーが恋しく思えてしまう。
しかし、見た目はアレだが、一口食べてみれば普通に美味いのがアポカリプス皇国の料理の凄いところである。
料理に対する美醜感覚は違えども味覚は地球人もアポカリプス星人もあまり変わらないということなのだろう。
味覚が変わらないでいてくれたことに感謝しながら俺はアビガストが作ってくれた料理を噛みしめる。
「うん、美味しいわ。いつもありがとう、アビガスト」
「勿体なきお言葉です。マルデュークさま……」
アビガストは嬉しそうに目を細め、静かに控えた。
スプーンでスープを口に運びながら、俺はふと、先ほどのロミニアとのやり取りを思い返していた。
地球人を見下すロミニア。
そして、かつてソルダークネスとして人間の蹂躙を指示していた想。
そこでふと興味が湧いた。
今の彼女が……アビガストが地球のことをどう思っているのかを
「ねえ、アビガスト?変なことを聞くけど良いかしら?」
「はい、いかがなされましたか?」
「アナタは……地球人のことを、どう思っているの?」
俺の唐突な質問に、アビガストは不思議首を傾げた。
「そうでございますね……。中には、大変下劣な者たちもおります。マルデューク様ともあろうお方をよってたかって口説こうとする輩や、軽々しく手を引っ張って走り出す輩……」
アビガストの口から出たのは思いのほか冷静で、冷徹な評価だった。
恐らく後者はチャラ男に絡まれていた時に助けてくれた瞬のことだろう。
「しかし──」
アビガストはそこで言葉を区切り、ほんの少しだけ表情を和らげた。
「彼らの生み出す文化には、一定の評価をせざるを得ません。衣服の縫製技術……あれは見事なものです。皇国の技術とは異なる、繊細な美しさがあります。それに、以前マルデューク様がごちそうしてくださった地球の料理……見た目は不格好ではありましたがどれも非常に美味で刺激を受けております」
「……そう……なんだ」
「何より……マルデューク様。私にとって、善悪の基準はすべてマルデューク様にございます。マルデューク様が下劣で踏みにじる下等な存在であるとお仰るのであれば、きっとそうなのだと。しかし、良い所を認めてもよろしいと仰るのでしたら渡しは、尊重すべきところは尊重したいと考えております。」
「……そう。ありがとう、アビガスト」
俺はそれだけ答えて、固まる前のセメントのようなスープを飲み干した。
アビガストの答えは、ロミニアのとは違っていた。
しかしそれは、裏を返せばマルデュークが右と言えば右、左と言えば左という、盲目的な狂信でもある。
もし俺が、原作の「血染めの紅爵マルデューク」として振る舞い暴虐の限りを尽くせば、彼女はどこまでも地球人を見下しすだう。
けれど、俺が「地球人にも良いところがある」と示し続ければ、彼女たちの認識の溝も、少しずつ埋まっていくかもしれない。
実際「シャドーVX」では瞬と出会うことでアビガストの地球人への認識が変わっていく。
しかし恐らくその役割は今は俺が果たさなければいけないのだ。
俺という中間管理職の肩にアポカリプス皇国と地球の未来が、文字通り全て乗っかっている。
その事実の重さに、ハンバーガーを食べてももたれなかった胃がキリキリと痛むのだった。
そして次の日、
今日は会議など無いはずだったが、突如イビール将軍からの緊急招集がかかる。
突然のことにすっぴんだった俺は大急ぎで化粧を済ませて部屋を飛び出し、いつもの会議が行われている部屋へと向かった。
そこでは既に他の幹部達、そしてイビール将軍までもが転送装置の前にひざまずいている。
何やらただならぬ雰囲気に、俺も恐る恐る空いているスペースで他の幹部たちと同じ様に見様見真似で跪くと……
『揃ったようだな……』
そんな声が部屋の中に響くやいなや転送装置が激しく光を放ち、その光の中から仰々しい兜を被り、マントをたなびかせた青年が姿を現し、幹部とイビール将軍は更に深々と頭を垂れたので俺も同じ様に深々と頭を下げた。
すると乾いた足音が部屋に響き渡り、
「面を上げよ、前線基地の将星たちよ」
低く冷徹に響く声に促され、俺たちはゆっくりと顔を上げる。
光の中から現れたその青年は端正な容姿をしていながらも、その瞳には凍りつくような冷酷さが宿っていた。
身に纏う漆黒の鎧とマントには勲章のようなものが大量につけられており、彼が母星でどれほど高い地位にいるかを雄弁に物語っている。
青年は腰に手を当て、平伏する幹部や将軍をまるで虫ケラでも見るかのような冷ややかな視線で見下ろすと、朗々とその名を響かせた。
「アポカリプス皇王直属、バルハダー准将である」
俺は彼のその容姿、そしてその名を知っていた。
暗黒皇爵バルハダー。
彼は地球侵略作戦の進捗が芳しくないことにしびれを切らしたアポカリプス皇王がお目付け役として遣わした皇王直属の大幹部だ。
性格は残虐で自己中心的。
その性格から他の幹部とも衝突が絶えない……ってあれ?
これほぼマルデュークと変わんないな……
「全く……地球侵略という大命を帯びながら、いたずらに時間を浪費するだけの無能どもめ。試算では1月もかからぬうちに侵略と人民の移動が完了するはずであったというのに皇王陛下も貴様たちの不甲斐なさには心底呆れ果てておられる。やはり蜥蜴や畜生如きに権利を認めるべきではなかったのだ。ゲニージュのみであればこの様な星、容易に侵略できていたものを……」
その言葉に、ジャドラーが悔しそうに拳を握りしめるが、反論は許されない。
本国からの特使の言葉はすなわち皇王陛下の言葉そのもので、階級ではイビール将軍より下ではあるものの皇王直属というだけで将軍よりも立場上は格上の存在だ。
そんなバルハダーはマントを大きく翻し、声高に叫ぶ。
「よく聞け貴様たち!生ぬるい侵略ごっこはここまでだ。我が名において命ずる……日本要塞化作戦を決行せよ!」
つづく