冴えないアラフォーリーマンが壊滅一直線の悪の組織の女幹部に転生した   作:ゔぁいらす

2 / 18
第一話 シャワーを浴びて!マルデューク

「おいお前! 全くお前この会社に入社して何年経ってると思ってんだ!!」

 

 部長に呼び出されたと思えば机をドンと叩く音と同時に怒号が飛んできた。

 俺また何かやらかしたんだっけ……? 

 

「す、すみません……」

 

 

理由もわからず反射的にそんな言葉を口に出すと上司は大きなため息をつく。

 

「はぁ……全くそんなんだからいつまで経ってもヒラのままなんだよ。同期の倉田を見てみろ! あいつ今は新しく立ち上げた部署の部長だぞ? それに比べてお前は未だに取引先にまで迷惑をかけて……」

「はい……申し訳ありません……」

 こうやって頭を下げるのに慣れたのはいつからだろう?

 

 確かにどんくさいし出世ルートも完全に外れてしまっている。

 

 それでも日夜サービス残業までして必死に働いているのにこれだ。

 俺は一体何のために働いているんだろう……? 

 

「おい! 聞いているのか? これ以上ノルマをこなせない様なら私にも考えがあるぞ」

部長の怒鳴り声を遮るように俺は叫ぶ。

 

「申し訳ありませんでしたっ!!!」

 

 目を覚まして初めて発した言葉はそれで、自分の発した甲高い声で俺は目覚めた。

 

 どうやら部長に怒られる夢を見ていたらしい。

 

 はぁ……また部長に怒られる夢見ちゃったな……

 今日もさっさと支度して仕事行かなきゃ……

 行きたくねぇなぁ……仕事

 

 いつものように眠りから覚めそんな事を考えながら意識がだんだんはっきりとしてくる。

 

 いつもならここで身体を起こすのにいくらか時間を要するのだが、今朝は体の怠さや頭痛も無く、こんなに寝覚めの良い朝はいつぐらいかと思うほどスムーズに目が覚め、軽やかに身体を起こすことができた。

 

 まるで自分の身体じゃないみたいだ。

「んんっ……なんだろう? 夢見は最悪だったのに身体が嘘みたいに軽い……って悠長にしてる場合じゃない! 何でアラーム鳴らなかったんだ? もしかして遅刻!? 夢で怒られた所なのに現実でも部長に怒られるのは絶対嫌だぞ!」

 

 慌ててベッドから飛び降りて身支度を整えようとするが開けた視界に広がったのは見慣れた狭いマンションの一室ではなく辺り一面奇抜な装飾で囲まれた決して趣味が良いとは言えない部屋で……

 

「ど、どこだよここ!? それになんか声も変だし……ああもう前髪邪魔! ってか俺こんなに前髪長かったっけ……?」

 

 最近ただでさえ前髪の後退にナイーブになっていたはずなのに少し動くたびに前髪が俺の視界を遮ってくる。

 

 そして部屋を見渡していると全裸の女性が視線を横切った。

 な、なんで女の人が同じ部屋にいるんだ……? 

 

 もしかしてここはそういうコンセプトのラブホテルか何かか!? 

 いや待て、彼女も出来たことがない俺がなんでラブホテルなんかに居るんだ? 

 全くこんなところに来た記憶がないんだけどもしかして昨日の帰り記憶がなくなるくらいまで飲んじゃったのか……? 

 

 早く出社しなきゃならないのになんてことをしてしまったんだ俺は!! 

 もしそうならまずは謝らないと! 

「ご、ごめんなさい! 酔った勢いとは言え見ず知らずの女性とここここんな事を……!!」

 俺の喉から可愛らしい声が出たと思うと目の前の女性も俺と同じ様に土下座をしていた

 

「ん……? あれ……?」

 女性を見つめると不思議そうにこちらを見つめてきた。

 

 試しに邪魔な前髪を指でかき分けてみると目の前の女性も同じ動きをするので試しに頬をつねってみたり睨みつけてみたり少しキワどいポーズを取ってみたりするとそのとおりに目の前の女性も同じように動く。

 

 よく見ると彼女の周りには奇抜なデザインの縁取りがされていて、指でつついてみるとそれが鏡であることがわかった。

 

「なんだ鏡か……びっくりさせんなっての……って鏡!?」

 

 俺は昨日までは冴えない童貞アラフォーサラリーマンだったはずだが鏡に映っているのは紛れもなくそんなおっさんとはかけ離れた目鼻立ちのくっきりしたスタイルの良い女性の姿だ。

 

 そのときはっと昨日自分の身に起きたことを思い出す。

 

 そうだった。

 俺は終電ギリギリまで残業して電車に間に合わないと思って信号を無視したらトラックに撥ねられて……

 

 で、目が覚めたら子供の頃にやってたヒーロー番組「装鋼騎士シャドーVX」に出てくる敵宇宙人集団アポカリプス皇国の女幹部マルデュークになっていたんだった。

 いや正確に言えばなっていたというのは間違いだ。

 

 今の俺にはおぼろげにだけどマルデュークとして生きてきた記憶もある。

 

 つまるところ俺はトラックで撥ねられて死に、マルデュークに転生したといったところだろう。

 

 前世の俺としての記憶が覚醒めてから約一日経つ訳だがこの身体、そしてマルデュークとしての生活には当分慣れられそうにはないなぁ……

 

 そんな事を思いながら。鏡に映った自分の変わり果てた姿を目のやり場に困りながらも見つめる。

 

 しかしまあ寝ぼけていたとは言え出社しようとするなんて記憶に刻み込まれた社畜精神は死んでも治らないものなんだなぁ……とか思いながら俺は鏡に映るマルデュークを見つめると鏡の中彼女は苦笑いをしてこちらを見つめていた。

 

 いやしかし子供の頃は露出度高いなぁくらいにしか思ってなかったけどこんなにエロい身体してたんだな……

 

 俺はゴクリと生唾を飲み込んで細い指で腹をなでてみると肌には毛一つ生えておらずなめらかでみずみずしい指ざわりだ。

 

 そのまま指を上へ上へと上げていってその豊満なバストに俺は手をかける。

 いや待て流石に男としてこんな方法で女の胸を揉むのはどうなんだ……? 

 一瞬理性が手を止めたが今はこれが俺の身体なんだし……

 

「ちょっとくらい触ったってバチは当たんないよな? でゅふっ……!」

 

 気持ちの悪い笑い声が漏れ出してしまったが俺は男性的な好奇心からその大きな膨らみに手をかけようとしたその時、鏡に自分以外の少女が映り込んでいる事に気づき後ろを振り向いてみると少し変わったデザインのメイド服を着た少女がじっとこちらを死んだ魚のような目で見つめていた。

 

「う、うわぁ! ごめんなさい! これは出来心で決してやましい気持ちなどではなく……」

 

 俺は思わず謝ってしまったが少女は不思議そうに首をかしげる。

「……マルデューク様なぜ謝られるのですか?」

 

「えっ……ああ……アビガストかぁ……びっくりさせないでよ……」

 彼女はマルデュークの使用人のアビガスト。

 

 片時もマルデュークの側を離れないけどそのせいでいつもいつも憂さ晴らしにいじめられてる可哀想な女の子で、服の下にはマルデュークに付けられた痣や傷跡が生々しく残っている。

 

 そんな彼女を画面越しでなく実際に見た俺はマルデュークのしてきた事も許せなかったし彼女にこれ以上つらい思いをさせたくないと昨日俺は決心したのだった。

その矢先にこんな所を見られるなんて先が思いやられてならない。

 

い、いや……まだ今さっき入ってきたところかもしれないしそれならば被害は最小限に抑えられるはずだ。

 

「ね、ねえ……それよりアビガスト? いつからここに居たの?」

 

 恐る恐る今の俺が中身は前世の中年男だと取り繕う様に女言葉で彼女に尋ねると

「はい。マルデューク様がお目覚めになる前からここで待機しておりました」

 と淡々とした口調で彼女は答えた。

 

 嘘! ってことはさっきまでの事全部見られてたってことじゃないか!! 

 

「ア、アビガスト……さん? さっきまで見たことは全部忘れてちょうだいね?」

「はい。 マルデューク様がそう仰るのでしたら」

 アビガスト抑揚のない口調を一切崩さず淡々とそう言った。

 

 幸い彼女はマルデュークには忠実だし他人と話すような事もあまりしない子だからさっきまでの痴態未遂を誰かにバラそうなんてことは絶対にしないと思うけど……

 

でも急に起きたと思ったら騒いで土下座して突然変な笑みを浮かべて胸を揉もうとするところを見られて変に思われていないかが心配だ。

 

「そ、それよりアビガスト? おれ……ちがっ! ア、アタシに何か用かしら?」

「はい。朝食の準備が整いましたのでお呼びに上がった次第でございます。しかしながら絶対に起こすなと以前に仰いましたのでマルデューク様がお目覚めになるのをこちらでお待ちしておりました」

 

 そうだった。寝てるのを起こそうものなら

「アタシが気持ちよく寝てるのを邪魔すんじゃないわよ!」

 

 とかヒステリックを起こして彼女をボコボコにしたりひどい時にはその辺りにいる戦闘員にまで八つ当たりしてたんだっけ……

 

 我ながらなんて傍若無人なんだマルデューク……

 そんな事ばっかりしてたから視聴者からも嫌われるしあんな最悪の末路を辿ることになるんだよな……

 

 マルデュークがどのくらい嫌われていたかと言うと、物語の枠を飛び越えて演じていた女優の元に放送当時誹謗中傷の手紙やら電話、酷いときはカミソリの入ったファンレター?が大量に送られてきたり街を歩いていると子供たちから石を投げられたりと相当ひどい目に遭ったみたいなインタビュー記事を読んだことがあった。

 

 それもこれもマルデューク役の女優である火田(ひだ) 高子(たかこ)って人の怪演のたまものだといえば聞こえは良いがマルデュークがそんな嫌なヤツになってしまったのは脚本や監督のせいだろうしそれに全力で答えて熱演した女優が割を食うのはいくらなんでも気の毒な話に思えてしまう。

 

 それでも最後の最後まで火田さんはマルデュークを演じきったんだよなぁ。

 正直あの最期は当時見ててトラウマになったくらいだし……

 脳裏にマルデュークの凄惨な最期がよぎりこのままではそれが自分自身に降り掛かる事を考えると恐ろしくて仕方がなかった。

 

 と、とにかくそんな劇中でも画面外でも嫌われまくって最終的に誰からも見捨てられて殺される結末だけは絶対に避けないといけない! 

 

 当時無名だった火田さんは結果的にマルデュークという役のおかげでその後ブレイクし、大物女優へのスターダムをのし上がっていく訳だけどもしも俺自身があんな末路を辿ってしまったら役者でもなんでもない紛れもなくマルデューク本人であろう俺の第二の人生はそこで終わりだ。

 

 せっかくこんなに美人に生まれ変わったんだしあんな酷い死に方はしたくない。

 なんとしてでもその結末だけは回避しないと……

 

「あの……マルデューク様?」

 アビガストの声ではっと俺は我に返る。

 

 そうそう。

 朝食の準備が出来たからってわざわざ呼びに来てくれたんだったよな

「そ、そうだったわね。 アタシ少し考え事をしてて…… 丁度お腹も減ってきた所なの。」

 

「はい。本日も私めが腕によりをかけてご用意させていただきました」

 そう言ってアビガストが寝室のドアを開けるといい匂いが香ってきてなおさら腹が減ってくる。

 

「そ、それじゃあアタシ着替えるから少し待っていてくれるかしら?」

「それでしたら私がお召し物をご用意いたしますので少々お待ちを……」

 アビガストが俺のために奇抜なデザインのクローゼットに手を掛けた。

 

 こうしていつも服はアビガストが用意して着せてくれる。

 でもあんなひどい仕打ちをしていた子に一から十まで何でもやらせるなんていくら前世の記憶が無かったとは言え申し訳なくてできないし一人で服くらい着ないと……

 

「いや良いよ良いよそんな気を使ってくれなくても……! それくらい自分でできるからさ」

「っ……! も、申し訳ありません……」

 俺が彼女を止めると彼女は体を少しこわばらせてクローゼットから手を離した。

 

 反射的にそんな言葉が出る彼女はまるで上司にどやされている自分を見ているようで、表情には出さないけど相当彼女は(マルデューク)のことを恐れているということをひしひしと感じさせて心が痛くなる。

 

 それにこのまま彼女に悪い印象を与え続けてしまえば彼女はシャドーVXの説得でアポカリプス皇国を離反し、皇国崩壊の大きなきっかけとなってしまう。

 

 それが巡り巡って皇国の崩壊とマルデュークの末路に繋がってしまう訳だからなんとかしないといけない……

「ご、ごめんなさいアビガスト……でも俺……いえアタシ!アタシもこれくらい一人で出来るから……あれ?」

 

 俺はそそくさとクローゼットから服を取り出すがどれも奇抜なデザインをしていて着方がわからない。

 俺には一応マルデュークとしてここまで生きてきた記憶もあるはずなのだがやはり思い出せない。

 

 いや正確にはマルデューク自身もこの衣装の着方を知らないのだ。

 

 どれだけ記憶を辿ってもアビガストにやらせている所しか脳裏に浮かんでこない。

 おそらく自分一人でこの衣装を着たことがなかったのだろう。

 

 そう言えばアビガストが離反してから急に全身タイツみたいな服装に変わったんだけどそれって本当はPTAからの苦情みたいな理由なんだろうけど実はちゃんとこういう理由付けもされてたんだなぁ……

 

 って何で俺こんな所で装鋼騎士シャドーVXの裏話を一つ見つけちゃってるんだよ!! 

「ご、ごめんなさいアビガスト? やっぱり服の着方……教えてくれないかしら……?」

 

 せっかく良いところを見せようと思ったのにとんだ恥をかいてしまった……

 俺がそう言うとアビガストは黙って下着から何から着るものを選ぶと慣れた手つきで着付けてくれた。

 

「……はい。今日もお似合いです。」

 鏡を見るときっちりと決まった衣装を着たマルデュークがいた。

 

 でもやっぱり露出度も高いし落ち着かないし我ながら胸やフトモモに目が行ってしまって恥ずかしい。

 とにかく一人で服くらい着れるようにならなくちゃな……

「ありがとう……ごめんね」

 

「何故謝られるのですか? 昨日今日と謝られてばかりですが私にマルデューク様が頭を下げる価値などありませんからお止めください。貴女に仕える事以外に私の存在価値などないのですから」

 彼女は全く表情も声色も変えずそう淡々と言った。

 

 その姿がとても哀れに見えると同時にマルデュークが今まで彼女にしてきた仕打ちが心底許せなくなってしまう。

 

「そ、そんなことないよ! アビガストは凄く可愛いし……そう! ファンだってマルデュークの何倍も多かったんだよ? 俺もアビガスト派だったし……!」

 

「ふぁん……? とは一体何でしょうか? 地球の言語ですか?」

 

 アビガストは首を傾げ、勢いで作品のファンとして彼女の魅力を伝えてしまったが今の俺は冷静になりマルデュークになっていたことを思い出す。

 

 あっ、しまった! 勢い余って余計なことを言ってしまった

「あ、いえ……何でも無いのですわ! 今日も朝から麗しいアタシの為に良く働いてくれたわね!褒めて遣わすわ!おーっほっほっほ!」

 

 俺のバカ! マルデュークはそんな喋り方しない!! 

 ほら見ろアビガスト困ってるじゃないか!

 いや……困ってるのか?

 相変わらず表情一つ変えない彼女が何を考えているのかわからず気まずい空気が流れる。

 

「……こほん そ、それより今日の朝食は何かしら?」

 とりあえず適当な事でごまかそう。

 

「はい。マルデューク様の大好物をご用意させていただいております。」

 そう答えると彼女は俺を食堂に連れて行った。

 

 マルデュークの食卓はいつもアビガストと二人きりで、料理を食べるのはマルデューク一人。

 

 アビガストはただ横で立っているだけだ。

 これもマルデュークのプライドの高さと疑り深い性格故自分の食事はアビガスト以外には任せないし誰かと一緒に食事をしようとも思わなかったようだ。

 

 そんな酷く広い食堂の中心に置かれた一人用のテーブルの前に座ると

「本日の朝食はポダダブンガスのバザンとプーズドモロゴンでごさいます」

「……えっ?」

 今なんて言った?いやそれよりなんだコレ……

 

 アビガストは聞き慣れない言葉とともに食欲を減退させるような色をした名状しがたい何かをドカンとテーブルに置いた。

 確かに美味しそうな匂いはするし身体は早く食べたいと唾液を作る速度を上げているのだが地球人である俺の意思がそれをものすごい勢いで拒否していた。

 

 たしかにいい匂いはするし腹も減ってるけどこれ本当に食べ物……? 

 いや厳密に言えば前世の記憶が目覚めるまではこれを嬉々として食べてた訳なんだろうけども……

 

 この生活に慣れられないであろう一二を争う要因がこれだ。

 

 昨日の夕食も見るからにヤバそうな物をテーブルに置かれた時は思わず悲鳴を上げてしまったくらいだ。

 

 まだ悪の幹部としての仕事や部下への接し方はこれまでの社会人経験と社交辞令でなんとかなるがこの女の身体と食事だけはどうしようもない。

 

 一日経ってわかったが事だが身体の構造はほぼ地球人と同じ様で眠く見なるし腹も減るしムラムラだってするし排泄だってする。

 

 だから食事を欠かすことは出来ないのだがやはり目の前に置かれているものはどうしても食べる気にはなれない。

 

 ああ……前世の地球の料理達が恋しい……

 

 今では最早生きるためだけに食べていたカップ麺や菓子パンでさえ遠く尊い存在に思えてしまい俺は窓から映る青く美しく光る星を見つめた。

 

 しかしこれを食べない限りは今はどうしようもない訳だし……せっかくアビガストが作ってくれたんだから食べないのも悪いしなぁ……

 

 腕によりをかけたとかマルデュークの好きなものをとか言っていたくらいだからそれを無碍にするなんて事をすれば尚更俺は嫌われてしまうだろう。

 でもこんなどぎつい見た目の食べ物をこれから当分……下手すりゃ一生食べていかなきゃならないのか……

 

 そんな事を思いながらテーブルの上に乗せられたそれを怪訝な顔で見つめていると

「マルデューク様どうされましたか? お気に召しませんでしたか?」

 アビガストがそう尋ねてくる。

 

 感情をほぼ表に出さない彼女だが指先が少し震えていて、少しでも気に食わない料理を出した時にマルデュークから受ける仕打ちを身体が警戒しているのが見て取れた。

 

「い、いやそんな事無い……わよ? い、いただきまーす……」

 これ以上彼女に不安を与えるのも可哀想だし空腹も限界なので恐る恐るテーブルに乗った名状しがたいものを口に運ぶ。

 

 そして口に入ったそれは前世では味わったことのないような奇妙な舌触りや歯ごたえでやはり抵抗はあったものの味は悪くない。

 

 いやむしろ美味しいと言っても良い。

 美味しいんだけどやっぱりこの見た目のものを食べるのは抵抗あるなぁ……

 このアポカリプス星の食文化に慣れるまでは毎朝SAN値が削れそうだ。

 

 その後もそんな名状しがたいものを口に掻き込んでいき、やっとのことで朝食を完食した。

 

「はぁ……やっと全部食べ終わった……ごちそうさま」

「やはりお口に合いませんでしたか……?」

いくら我慢はしたとは言えやはり嫌そうに食べてる様に見られてしまったのかもしれない。

 

「い、いやそんな事無いよ! 美味しかったよありがとう!」

 

「ありが……とう……? 私にはもったいないお言葉です。ただ当然のことをしただけですから…」

「そんな事無いって! 着付けから料理の支度……それ以外の身の回りの世話も全部やってくれてる君にお礼一つも言わないとバチが当たっちゃうよ」

「そう……なのですか?」

「うんうん! 絶対そう!本当に助かってるから!このアタシにここまで仕える事をもっと誇りに思うと良いわよ!なんちゃって……」

 

 だって一人で何でもやって当たり前だった俺からすればこんな可愛い子が世話焼いてくれるなんて最高の事にほかならない。

 

「何度もそんな言葉をかけられては私……なんだか胸の奥が変になってしまいます……」

 やっぱりこの子を大切にしない限りマルデュークとして幸せになることは決して無いと言っても良いと思う。

 

 そして朝食を済ませた俺は地球侵略のための会議へと出席するため要塞中心部にある司令室へと赴いた。

 

 もちろん議題は死んだはずの装鋼騎士シャドーが進化した装鋼騎士シャドーVXの妨害をくぐり抜けて如何にして地球を侵略するかということだった。

 

「第一あの場で殺しておけばこの様な事にはならなかった! 下等な地球生物を仲間に引き入れようなどという腑抜けた作戦自体が間違いだったのだ! これは作戦を立案し奴を宇宙に放逐させ結果的に生きながらえさせたマルデュークの責任だ!!」

 テーブルを叩いてそういったのはおどろおどろしい見た目の幹部の一人でドジャーリ怪人の育成を取り仕切る剛爬団爵ジャドラーだ。

 

 ドジャーリは地球で言う爬虫類や両生類、それに昆虫や魚類の特徴を持った怪人でその中でもジャドラーはひときわキレ者でほぼ使役されるか娯楽や食事のために消費されるのが主であったドジャーリから幹部にまで上り詰めた皇国幹部きっての生え抜き実力者だ。

 

 確かに彼の言う事は間違いではないし……

 それに元々厳ついデザインだと思ってはいたが生で見るとその迫力も凄みも段違いでとにかく恐い。

 

「おいマルデューク!黙ってねぇでなんとか言ったらどうだ!」

ジャドラーは声を荒げて立ち上がりテーブルをバンと叩く。

 怒りに任せて怒鳴り散らすその姿はどこか俺の上司に似ていて身体が縮こまってしまい

 

「は、はいぃっ!申し訳ありませんっっ!!」

 

 俺は気がついた頃には思わず頭を下げていた。

 

「……な、なんだ?今日はヤケに素直だな。謝ったら死ぬのかって程他人に頭を下げるところを見せない貴様が……チッ調子が狂う」

 

 ジャドラーは(マルデューク)が素直に謝ったことに相当驚いたらしくどこかつまらなそうにそう吐き捨てて席に座った。

 

 他の幹部二人、そしてイビール将軍も表情に驚きの色を滲ませていた。

 

「そうマルデュークだけを責めるなジャドラーよ。奴の変身機構は完全に破壊されていたのだ。そこから生還した上にパワーアップするなど不測の事態と言っても良いだろう。それに彼女も深く反省しているようだ。今は責任の追求よりも今後我々がどのようにして策を講じていくかを考えるほうが重要ではないか? 責任を問うのはそれが全て終わってからでもよかろう?」

 

 イビール将軍はそう言って俺をかばってくれた。

 彼は厳しい面もあるけど必要以上に怒ったりはしない。

 

 ウチの上司もそんな人だったら良かったのに……

 

 でもこれは不測の事態じゃないんです……全部知った上でやりました。

 

 なんて言ったらそれこそ反逆者として処刑されてしまいそうだし……

「も、申し訳ありません……以後この様なミスが無いように改善に務めさせていただきます……」

 俺はそうとしか言えなかった

 

「事の重大さをわかった様だなマルデューク! しかしそのVXとやらと我々は戦いたくなったぞ! 我らアポカリプス星最強の種族であるヴェアルガルがヤツの首を皇王様に献上してみせようぞ!」

 そう声高に叫んだ獣人の様な彼は獣刃獅爵ドスチーフ。

 

 アポカリプス星の獣人種族であるヴェアルガルの軍隊を率いるボス的な存在だ。

 彼は誇り高いけど自信過剰で自らの種族こそがアポカリプス星で最強だと信じて疑わない。

 

 たしかにみんな超人的な力や能力を秘めているけど基本的に詰めが甘くていつも作戦は失敗するんだよね……(まあ作戦が失敗するのはマルデューク含めみんなそうなんだけど)

 

『フン……戦闘だけが取り柄の下等種族が何を言うのやら……ヴェアルガルが最強などとうの数百年前までの話ですよ』

 彼を見下すように電子音声でそう吐き捨てたのは機械が意思を持ち一種族になるまでに成り上がった種族、ゴーレトニグの電能博爵ヘルゴラムだ。

 

 彼はクールで知能も高くロボット軍団を率いていてどれもデザインがかっこいいんだよなぁ……

 

「なんだと! 能書きだけのガラクタ風情が!!」

 

『何も当然のことを言ったまでですが? そんな事も理解できないのですか?』

 

「何を!? 好き勝手に言ってくれるな! 最強の種族は我々ドジャーリに決まっているだろう!」

 

 二人の言い合いにジャドラーまで加わってしまった。

 これもテレビでよく見た光景だが幹部たちは武勲を上げればその分自分たちの種族の待遇が上がるためとても仲が悪く手柄の取り合いと足の引っ張り合いを日常茶飯事に起こしている。

 

 テレビで見ていた頃はマルデュークも同じ様に言い合いに参加していたのだが今の俺にこんな仰々しい奴らの言い争いに割って入るような度胸はなかった。

「ええい! 毎度毎度貴様らはモメなければ話ができんのか!!」

 イビール将軍の一喝でそんな揉め事はぴたりと止まる。

 

「こんな所で言い争っていても埒が開かぬだろう! 我々のすべきことは何だ? 地球を我らアポカリプス皇国の民の第二の故郷にすることであろう?」

 

『し、しかしあのVXとか言う奴が居る限りは地球の侵略もままなりません。我々の高度な知能を持ってしてもVXが地球侵略計画の最大の障壁だという結果が出ております。』

ヘルゴラムの言葉に将軍は困った様な表情を浮かべしばらく黙り込んだ後

「確かに奴は我々にとって地球侵略の大きな壁であることは間違い無い……そこでだ。奴がまだVXになる以前の姿であるシャドーだった頃ならば我々に部はある。それならば時間転移装置でVXになる前の過去のシャドーに干渉して……」

彼は名案とばかりにそう言ったが

 

「それは絶対ダメです!! あっ……ごめんなさい」

 俺は思わずそんな将軍の話を遮ってしまった。

 

 それは絶対にやってはいけない作戦だ。

 Vシネマでそんな展開があって、そんな事をしようものなら不可思議な事が起こって未来からVX、そしてVXの変身する今で言う強化フォームみたいなのまでが過去に勢揃いして返り討ちにされるからだ。

 

子供の頃はシャドーが分裂したのを見てテンションが上ったりもしたものだがアポカリプス帝国からすれば紛れもない地獄絵図でしかない。

 

 まさかその作戦がこんな序盤からそれも将軍直々に考案されてたなんて……

 そして急に大声を上げた俺を将軍は不思議そうに見つめてくる。

 

「どうしたマルデューク? 今日は口数が少ないと思ったら急に声を荒げて……それに貴様もVXになる前のシャドー程度であれば容易に始末できるであろう?」

 

「い、いえ……でもその作戦は止めたほうがいいかなー……なんて」

「フン! シャドーとやらに返り討ちにされて臆病風に吹かれたかァ?所詮腑抜けで卑怯者のゲーニジュはその程度がお似合いだろうなァ!!」

 反論だけして将軍に言い返せない俺を見てジャドラーはそう吐き捨て下品な笑い声を上げた。

 

 ゲーニジュと言うのはアポカリプス星人の5割を占める人間に近しい種族でマルデュークもそれに分類される。

 

 他の種族に比べて身体的に長けた能力はないがウィラスという魔力の様な物を使うことができ、その中でも高度な魔力を持つ一族が皇国の物流やインフラ、その他諸々を支えているがその反面過度な開発や発展のせいで現在アポカリプス星は滅亡の危機にも立たされているのだ。

 

 マルデュークが他の幹部たちから疎まれる理由は性格の悪さだけではなく種族自体が他の種族から目の敵にされているというのも大きい。

「と、とにかく! その作戦だけは絶対に止めたほうが良いです!もっといい方法がありますよきっと!!」

 

「ほう? そこまで言うのならばその理由を言って見せい」

「え、えーっと……」

 イビール将軍に聞き返されるが

 はい! ビデオで見たことがあって完膚なきまでに負けるからです!! 

 

 なんて言えるわけがないしいずれ皇国がシャドーVXによって滅ぼされますなんて言った暁には反乱分子とみなされて粛清されるのがオチだ。

 そうだ。

 

 マルデュークの趣味は占いだった! 

 自分の気に入らない結果を出した占い道具はその場でいつも壊すようなシーンが結構あった。

 

「う、占いです! 占いでそれはやらないほうが良いと出てまして……」

「む、そうか……いつ占ったかは知らんがいつも自分の気に入った結果が出るまでやり方を変え占いを続ける貴様がそういうのならば止めておいたほうが良いのだろう」

 

「ケッ……なんだよ全部ゲーニジュが悪いってのにゲーニジュは自分のケツも拭けねぇのかよ」

 

『まず臀部を拭くという非生産的で不潔な行為が必要な下等な種族が何を言うのですか』

 

 ジャドラーが吐き捨てるとヘルゴラムがそう皮肉を吐いた。

「何を!?クソすら出せねぇヤツが偉そうに!!」

 そしてまた言い争いが始まったのだが

「ええい静まれ静まれ!! 次の作戦決行は地球時間で一週間後! 作戦指揮はヘルゴラムに一任する!」

 

『承りましたイビール将軍……我々ゴーレトニグこそが最も優れた種族であることをお見せしましょう』

 

「と言うわけだ。解散!」

 イビール将軍がそう言うと幹部たちは睨み合ったまま別々の出口からお互いの区画へと帰っていき、俺も逃げるようにその場を離れた。

 

そして自室への帰り道、俺は結局女幹部として何も出来ないことに肩を落としながら長い廊下をトボトボと歩いている。

 

「はぁ……結局何もできなかった……女幹部って大変なんだなぁ……」

 

だってあんな厳つい奴らと肩を並べて発言した上に啖呵を切り合うなんて万年平社員の俺に出来るわけがないだろ……

 イビール将軍は基本的に全種族にチャンスを与えるため序盤は毎回作戦指揮を執る種族をローテーションで入れ替える。

 

 つまるところ週一でしか作戦が決行されないのだ。

 しかもその中で自分の担当になるのは4回に1回なので実質1ヶ月に1回しか自分の番は回ってこない。

 

 次に俺が作戦参謀になるのは確か劇中の話で言えば3話後だからあと2週間ちょっとは余裕があるな……

 

 はぁ……一応今の俺は女幹部マルデュークなんだからそれまでに会議でもうちょっとマシな発言が出来るようにしないと……

 と言うか誰に向けてこんなに説明してんだろ俺……

 

 しばらく歩いているとまた戦闘員達の話し声が聞こえてきた。

「はぁ……全くマルデュークは良いよなぁ……俺たちは作戦の度に引っ張り出されるってのにあのババアは自分の指揮する作戦まで暇なんだもんなぁ」

 

「全くだ……俺たちがゲーニジュだってだけで他の種族の奴らは好き勝手に扱いやがるしマルデュークもウィラスすらマトモに使えない下級の俺たちなんてゴミ同然だと思ってやがる」

 

「ほんとそうだよな。昨日はいつもみたいにマルデュークが癇癪起こして誰かが殺されるなんてことも無かったしなんか機嫌もよさそうだったけど今度はいつ気まぐれで癇癪を起こすか……クワバラクワバラ」

 

 やっぱりその内容はマルデュークに対する愚痴だった。

 同じ種族であるはずの戦闘員たちからもこれだけ評判が悪いのは本当に日頃の行いのせいとしか言えない。

 でも流石にババアはないだろ? まだピチピチの200歳だぞ!? 地球年齢で言ったら26歳くらいだし……まだまだ全然若いだろ!! 

 

「ん"んっ!!」

 

 軽く咳払いをしてみると戦闘員達の体は一斉に強張り顔は真っ青になる。

「ひっ! マ、マルデューク様!?」

「い、いやー今日もお美しい」

「おいこらお前だけ何逃げ延びようとしてんだ! こいつさっきババアって言ってました!! 俺はそんな事思ってないですけど!!だから俺だけは助けてください!!」

 

 彼らは口々にそう言って必死にマルデュークのご機嫌を取ろうとする。

 いや、全部丸聞こえだったんだけど……

 なんかマルデュークがちょっとの事で戦闘員を殺す理由が少しわかったような……

 

 でもこれも日頃の積み重ねだしまずは彼らの評価を上げないと……

「え、えーっと……昨日言ったわよね? アタシは心を入れ替えたって」

「は、はい確かに……」

「でも流石にババアはちょっと傷ついちゃったかもなぁ……」

「ごごごごごめんなさい!! いいい命だけは!! 命だけは!!!」

 ババアと言っていた戦闘員は日本で言う土下座に相当するポーズをこれでもかという程に取ってくる。

 

 なんだかそんな姿を見ていたら俺自身を見ているみたいでなんだか胸が傷んだ。

「もう良いわよ。 それだけ謝ってくれたんだし」

「へ、本当ですか……?」

「ええ。命までは取らないわよ」

「安心させて……とかでもなく?」

「当たり前じゃない。あなた達が居るからこのアポカリプス皇国軍地球侵略部隊は回ってるのよ! そりゃ不平不満はあるでしょうけどこれからも頑張ってね? 期待してるわよ」

 自分がもしこんな女の上司が居たら良かったなぁと思う理想の女上司を演じ、戦闘員たちを鼓舞してみると目に見えて戦闘員達の顔色が明るくなっていく

 

「は、はいっ! がんばります!!」

「ありがとうございます!!」

「我々ゲーニジュ一般戦闘部隊一同精神誠意貴女に忠誠を尽くします!!」

 戦闘員達は姿勢を正して俺を見送ってくれた。

 

 なんだかそう言われると悪い気はしないなぁ……

 俺は装鋼騎士シャドーVXのオープニングを鼻歌で歌いながら自室に戻った。

 ヒーローの主題歌を鼻歌で歌う敵組織の幹部もどうかと思うけどなんだか歌わずにはいられなかった。

 

 部屋に戻るとマルデュークとして張り詰めていた線が切れたのかどっと疲れが来て一気に力が抜けベッドに倒れ込んでしまう。

 

「はぁー……やっぱ万年ヒラで小心者の俺なんかじゃ悪の女幹部は務まらないかなぁ……なんかめちゃくちゃ変な汗もかいたし他の幹部の威圧感すごいし……なんか風呂でも入りたい気分だ」

 前世では風呂なんて一日二日くらい入らなくても大丈夫と思っていた俺だがマルデュークになったからなのか毎日欠かさずシャワーを浴びるようになった。

 

 幸いシャワーを浴びるという文化はアポカリプス星にもあるようでデザインは奇抜だがユニットバスの様な設備がマルデュークの部屋には併設されていた。

 しかしこの奇抜なデザインの服は着方もわからなければ脱ぎ方もわからない。

 

 試しにアビガストを呼んでみると

「お呼びになりましたか?」

 すかさず彼女はどこからともなく現れた。

 

 その急な出現に驚いたが今はそれどころじゃない

「あ、あの……シャワー浴びたいんだけど服の脱ぎ方がわからなくって……申し訳ないんだけど脱ぎ方教えてくれない……かな?」

「承知いたしました。それでは失礼します」

 アビガストは慣れた手付きで俺の服を脱がせ即座に綺麗に畳んでいった。

 

「あ、ありがとうアビガスト……それじゃあお……アタシ、シャワー浴びてくるわね」

 アビガストにそう言ってシャワールームに入り蛇口をひねった。

 

 すると心地良い温度のお湯が流れ出し俺はそれをめいいっぱいに浴びる

「んんっ〜〜シャワーってこんな気持ちよかったっけなぁ……」

 少なくとも以前の俺だったらただめんどくさいけど生活する上で必要だから仕方なくやっている事程度の認識だったシャワーもこの身体になってからとても気持ちのいい物に感じる。

 

 それに肌は手で撫でるとツヤツヤだし……水を弾くくらいにハリもいいしほんとに理想の女性って感じだよな……

「それにこのおっぱい……大きいし凄い柔らかいんだよなぁ」

 

 ここでは誰にも邪魔をされないし俺は鏡を見ながらマルデュークの胸に優しく触れる

「んっ……♡結構敏感なんだな……あっ♡それにこっちも……ひうっ♡ほんとにチンコも生えてないし……」

 

 下腹部にはただ少し毛が生えているだけで男の頃に生えていた男の象徴と言えるそれ等見る影も無い。

 少し喪失感もあったが今はこれが俺の身体なんだし何より無修正の女性のそれを見たことがなかった俺にとっては最早得体の知れない物と言っても良かった。

「で、でも……そろそろちょっと触るくらい良いよな……?」

 

 いやでもそれ人として良いのか? 

 いやいや第一これは俺の身体なんだから好きにしても

 でも女のアソコなんか触ったこともないし爪も伸びてるからもし変なことして腫れちゃったらどうしよう……

 でもやっぱり気になるよなぁ……

 様々な思考が脳内をぐるぐると回る度俺の鼓動は徐々に速度を早めていき、指はだんだん下腹部へと近づいていく。

 

 そして到達しようとした瞬間シャワールームをノックする音が聞こえた

 

「ひゃいっ!! だ、誰!?」

「シャワー中申し訳ありません。今日は久しぶりに私がお体をお流しして差し上げようかと思いまして」

 アビガストの声がドア越しに聞こえてくる

 

「そ、そんな……良いよそれくらいは自分でできるから」

 今の自分の身体ですらまともに見れないのに他の女の子の裸なんて見ようものなら俺はどうなるかわからない

 

「そうですか……マルデューク様は以前私を身体の洗い方だけは上手いと褒めてくださいました。 しかしながら最近は私の他のことも良く褒めてくださいます。 私ごときがこんな感情を抱くのもおこがましいのですが私にはそれがとても嬉しかったのです。 この胸の奥の変な気持ち……きっとこれがあの時褒めてくださった時に初めて感じた嬉しいという気持ちだと思うのです。それを今日だけで何回も私は感じることができました。 ですからマルデューク様……私にその……お礼をさせてください」

 ドア越しに彼女の声が更に聞こえてきた。

 

 いつものように抑揚のない彼女の声だったがどこか少し感情がこもっているようにも聞こえ、そんな彼女の思いを無下にすることも出来ず俺はシャワールームのドアを開けるとそこには裸のアビガストがじっと立っている。

「あ、アビガスト!?」

 

「申し訳ありません。この様な汚らわしい姿で……しかしながらメイド服のままではお体をお流しするのに支障をきたしますのでご容赦ください」

 彼女の身体には痣や傷跡がいくつも見て取れる。

 

 これは全て記憶が蘇る前の(マルデューク)がつけたものだ。

 しかしながらアビガストはこれは全て自分が至らないが故に作った傷だと独白するシーンが中盤にあるようにどんな些細な癇癪から付けられた傷も全て自分の責任だと思っている。

 

 そんな彼女に傷の分だけつらい思いをさせてしまっていることをまじまじと感じて心が痛くなり、それ以上は何も言えなかった。

 

「それでは椅子におかけになってください。お体お流ししますので」

 しかし彼女はそんな事を気に留める様子もなく俺を椅子に座らせ、背中を流し始めた。

 その時俺の身体がびくりと跳ねる

「んひゃぁっ♡」

 

な、何だこの声……俺が出したのか!?

自分の口から出た可愛らしい声に驚き俺は思わず口に手を当てる。

 

「どうかされましたか?」

「い、いや……なんでもな……ひぃんっ♡」

 アビガストの言葉に答える暇も無く、彼女の手が俺の肌に触れる度俺の口からは女みたいな声が漏れ出していく。

 

 な、なんだこれ……アビガストの手さばきが気持ちよすぎる……! 

 (マルデューク)の身体が敏感なだけか……? 

 いやVXとの戦闘で攻撃を受けても平気な顔をしてる訳だしそんなはずは……

 

「いかがでしょうか? 何の取り柄もない私ですがマルデューク様に心地よく成ってもらおうと疲れを癒やすウィラスを勉強してまいりました……ろくなウィラスも使えない私程度の最底辺の者ではこれで精一杯ですが……」

 

「う、ううん……! 凄く気持ちいいわよ?」

「そ、そうですか……ここはどうでしょう」

「うひゃぁんっ♡そ、そこ……良いっ……!」

 彼女は背中を流しているだけのはずなのに俺の身体の気持ちのいい場所に的確に何かしらの気のような物を送り込んで俺の疲れを癒やしていく。

 

 唯一褒められたと言っていたがたしかにこれには非の打ち所がない。

 俺は背中を撫でられるたびに情けない女みたいな(いや女なんだけど……)声を出してしまった。

 

 そして一通り背中を洗い終わると……

「お次は前の方ですね……新しい洗い方を考えてみたのでよろしければ試させていただけないでしょうか?」

「う、うん……良い……わよ?」

 

 新しい洗い方……一体どんな? 

 俺、これ以上されたらどうなっちゃうんだ!? 

 そんな期待と不安が俺の胸の鼓動を更に加速させる。

 するとアビガスとは自分の胸や腹に地球で言うところのボディーソープを塗りたくり始め……

 

「マルデューク様……こちらを向いてくださいますか?」

「う、うん……」

 言われたとおり俺は彼女と向かい合う様に立つと次の瞬間アビガスとは俺に抱きついてきて彼女の控えめな胸が俺の胸当たってくる

 

「うわぁぁっ!? な、なにしてんの!?」

 

 こんな年端のいかなそうに見える子にソーププレイみたいなことさせての元の俺がやられてたら捕まるよ!!! 

「昨日前マルデューク様にこうされた時も私の胸の奥は変になりました……でも今ならこれが嬉しいという気持ちだとわかります。しかしマルデューク様にどうすれば嬉しいと思っていただけるか今の私にはわかりません……こうされたらマルデューク様も嬉しい……ですか?」

 彼女はそう言って俺をじいっと健気そうに見つめてくる

 

 や、やばい……こんな事されてたらアポカリプス帝国が滅ぶ前に俺が死んじゃう……! 

 俺は男なんだぞ!? 

 こんな可愛い子に抱きつかれて嬉しくないわけが……

 いや待て待て今の俺……いやアタシは女……女だから抱きつかれても変な気分にはならない……! 

 

 そう頭の中で何度も復唱してみたがやはり胸のドキドキは止まらずなんだか頭がクラクラしてきてしまった。

 

「マルデューク様?」

「い、いや……なんでもない……なんでもないから……アタシは女…………アタシは女…………」

「そうですか……?それではこの様にして石鹸を塗っていきますね……?」

 アビガストはそう言うと石鹸を塗り拡げるため身体を上下に動かし腹と胸を俺に擦り付けてくる

 

「んんんんんんんん!?!?!?!?!?!?!?」

 さっき手だけでされていた時とは段違いな気持ちよさを身体が駆け巡る。

 多分体全体を使ってその疲れを癒やすウィラスを俺に使っているのだろう。

「どう……ですか……? 気持ちいいですか……? 嬉しいでしょうか……?」

「ききき気持ちよくないわけ……ない…… あぁっ♡やっ♡そこはぁぁ♡ひゃうっ♡」

 

 色々なことがあったことに対する疲れと今美少女が俺に抱きついて身体をこすりつけてきている事にとうとう脳のキャパが限界を迎えつつある

 ああ……もうだめ……

 

「そうですか……そう言っていただけると私も嬉しい……です」

 そう言った彼女は少し笑ったような気がした。

 

 アビガストが俺に笑いかけてくれるなんてこんな事あって良いのか!? 

 そんな彼女を見た時俺の頭の中で何かがぷつりと切れたような音がして……

 

「ぶはっ!!!!!!!!」

 俺は鼻血を勢いよく吹き出してしまった。

 

 ああ……極限まで興奮したときってほんとに鼻血ってでるんだな……

 

「マルデュークさま……? マルデュークさま……!?」

 薄れていく意識の中俺の名前を呼ぶアビガストの声だけがぐわんぐわんと頭の中に響き、俺は意識を失ってしまう。

 

 ああ……こんな刺激的な女幹部生活、ただのサラリーマンだった俺に耐えられるんだろうか……

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。