冴えないアラフォーリーマンが壊滅一直線の悪の組織の女幹部に転生した   作:ゔぁいらす

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第二話 フラグ回避の落とし穴

「んっ……んんっ〜〜〜ふわぁぁ……よく寝た」

 

 騒がしいアラームの音が聞こえて目が覚める。

 

 暗闇の宇宙に漂うここには朝も夜も無くこの音だけが一日の始まりを告げてくれる

軽く身体を起こして伸びをしてからベッドから降りてまずは日課のスキンケアとメイクを軽くこなしていく。

 

「よしっ♪」

 

 鏡に映るその顔は少しケバく思えるがキワモノ揃いの職場では威嚇の意味も込めてこれくらいしておかないといけない。

 

 鏡に映る自分を一瞥し、髪を整えているとドアをノックする音がした

「はーい」

 

「おはようございますマルデュークさま…… お召し物ご用意しております」

 ドアが開くとその先からいい匂いと共にメイドのアビガストが着替えをいつものように持ってきてくれる。

 

「おはようアビガスト。いつもありがとう」

「いえ。私にその様なお言葉もったいないです……それではお着替えお手伝いしますね」

「大丈夫よ。アタシ一人でできるから」

 始めは身につけ方一つわからなかった露出度の高い衣装を彼女から受け取って身につけていく。

 

「これでよし……っと どう? どこか変な所とか無いかしら?」

衣装に身を包み、アビガストへ見せつけるように髪をなびかせてみる。

「いえ、本日も大変お似合いでございます」

アビガストは表情一つ変えずにそう言った。

 

「そっか……よかった。 」

一見無愛想に見える彼女だがいつも良くしてくれていて、彼女の入ってきたドアの向こうからほんのりといい香りが漂ってきて食欲が刺激される。

 

「いい匂いしてるけどご飯の準備は?」

「ご用意出来ております。」

「いつもありがとうね。ほんとはそれもアタシがやらなきゃいけないんだけど……」

「滅相もございません。 マルデューク様にそのような事をさせては私の面目が立ちませんからこれからも私に食事をご用意させてください。それではこちらへ……」

 彼女は少し語気を強めてそう言って食堂へ向かった。

 

 無駄にだだっ広くおどろおどろしい装飾がなされた部屋の中心ににぽつんと一人様の椅子とテーブルが置いてあり、椅子に腰掛ける。

 

「おまたせいたしました。こちら本日の朝食のミババモーゼでございます。付け合せでメバドムスのリムンもご用意しました」

 

席につくとアビガストが料理を運んできてくれて、朝食だと言うのに高級ホテルのフルコースのような料理が目の前に並べられていった。

 

「まぁ! 今日も美味しそうな料理ね。いただきます」

 

 まずはミババモーゼを一口味わってから窓に映るいずれ我々……いいえアタシの物になる美しい星を眺めながらリムンを傾ける。

 

 ああなんて優雅な朝のひととき……

 

 じゃぁない! 

 

 ああもう慣れすぎて普通に悪の女幹部として優雅な朝食を楽しんでしまった!

 アタシ……いいや俺に前世の地球人として社畜生活を送っていた中年男性の記憶が蘇ってから2週間くらいが経った。

 

 人とは恐ろしいもので最初のうちはアラームが鳴るたびに出社しようとしたりヒゲを剃ろうとして毛一つ生えていない自分の肌に驚いたりトイレで立ちションをしようとしてえらいことになったりと色々女の身体で難儀なこともあったが、なんとかこのアポカリプス星人のマルデュークとしての生活も板に付きつつある。

 

 それだけ前世の俺が無個性で周りに合わせるようにしか生きてこなかったからこそなのか単に前世の記憶と今のマルデュークとしての記憶が混ざりあって来ているだけなのか……

 

 もし後者だった場合俺はじきに元の性格がめちゃくちゃ悪い悪の女幹部マルデュークに戻ってしまうのだろうか? 

 

 そうなってしまったら悲惨な末路を辿ってしまうというのもあるが何より目の前にいるアビガストをまた傷つけてしまうことになるだろう。

 

 こんな可愛い子にこれ以上辛い思いはさせたくない。

 

 第一今の自分がマルデュークに転生した中年男性だという事を証明できるものなんて一つも無いわけでただあるのは前世の記憶、そして子供の頃テレビで見たシャドーVXのストーリーに沿って物事が進行している今の現状くらいなものだ。

 

 だからこそこの意思だけはしっかりと持ち続けないと偶然蘇った前世の記憶なんて不確定なものはいつの間にか消えて無くなってしまうかもしれない。

 

 とにかく今の俺にできるのはマルデュークが破滅するルートを回避しつつ地球もアポカリプス星も最善の方向へ持っていくことだけだ。

 まずはさっさと朝食を食べてしまわなければ……

 

 最近はそんなアポカリプス星の食文化にも徐々に慣れては来たのだが目の前に置かれた得体のしれない何か、そしてさっきまで優雅に口に運んでいたグラスに注がれている謎のサイケな色合い液体はやはり到底食べられる物だと思えない。

 ……のだが食べてみるとどれも気味が悪い程に美味しい。

 

 美味しいんだけど……食べれば食べるほどに地球の食事が恋しくなってくる。

 記憶が戻ってまだ2週間程だから体感としては2週間ずっと変な飯を食っていることになるのだが、マルデュークとしてかれこれ200余年生きているわけだから200年と2週間地球の食事を食べていないということになる。

 

なんて長い時間なんだろう。

そう考えると尚更地球の食事が恋しくなる。

 ああ……ラーメンとかカレーとか寿司とか食べたいしビールも飲みたい。

 しかしそれらは目の前に見える場所にあるはずなのにあまりにも遠い存在になってしまった。

 

そんな思いを馳せながら眼の前に広がる大きな窓の向こうの暗闇の中でほんのりと青く輝く星を見つめる。

 

「いかがなさいましたか? 本日は食欲が優れませんか? それともお気に召しませんでしたか?」

 そんな俺を彼女は心配そうに見つめてきた。

 

 また変に心配させちゃったかな……

「ああいや……何でも無いの! ちょっと考え事してただけだから! そ、そう! どうやって地球を手に入れようか少し考えてただけで……あははは……」

「流石でございますマルデューク様…!ご武運を心よりお祈りしております。」

 適当に付いた嘘に彼女はそう淡々と返事をしてくれてなんとか事なきを得る。

 嘘は得意な方ではなかったが誤魔化し方も徐々に上手くなってきているような気がする。

 

 しかしこれ以上無駄に心配をかけるわけにもいかず、俺は出された得体のしれない料理をそそくさと完食し、サイケな色の液体を飲み干した。

 

「はぁっ……今日も美味しかったわ。ごちそうさまアビガスト」

「そんな……私にはもったいないお言葉です」

「謙遜しないの! こうやって毎日美味しくご飯が食べられているのもアビガストのおかげなんだから!」

 

 彼女が作ってくれていなければおそらくこれらの料理を口に運ぶことすらしなかっただろう。

 

 あまり表情を顔に出さない彼女だが俺の言葉を聞いた時少し嬉しそうな顔をしたように見えた。

 

 あくまで俺がそう思っているだけなのかもしれないけれど……

 

 朝食を済ませた後身支度を完全に整え、今日も幹部たちが集う会議に俺は出席した。

 会議室の巨大なモニターにはシャドーVXによってものの見事に真っ二つにされたアポカリプスロボ:ジュウソンブが映し出される。

 

 テレビで見ていた頃よりも大迫力のその映像に俺は圧巻されたが他の幹部や将軍はまるで恐怖映像を見ている様に目を丸くしている。

 

「くそっ! ヤツは化け物か!? 我々の攻撃を受けても傷一つ付けられんとは…」

 イビール将軍はそんな映像を見て机を叩いた。

 

『ご安心をイビール将軍。 あれは所詮データの収集の為の斥候に過ぎません。想定通りヤツのデータを回収することには成功しております。 現在ゴーレトニグの総力を挙げVXのデータを解析中です』

 

 ロボット軍団ゴーレトニグを取りまとめる幹部ヘルゴラムは淡々とそう言ったが残り二人の幹部はそれを鼻で笑う

 

「ふん! 何を言い出すかと思えば見苦しい言い訳か? 鉄屑ごときが笑わせてくれるなよ」

 そう言い放ったのはトカゲのような見た目の幹部ジャドラーだった。

 

 かくいう彼の怪人も前の作戦のVXとの初戦闘であっさりとやられてしまっている。

 

 テレビで見ていた時は尺の都合か何かだと思っていたが本当に一瞬で勝負がついてしまいVXの底知れない力を実感させられてしまった。

 

「二人共見苦しいぞ。将軍、次は我々ヴェアルガルにお任せを……必ずやあの首討ち取ってご覧に入れましょう」

 そう一括した狼のような幹部ドスチーフは自信満々にそう言い放つ。

 

 まあこっちもあっさり負けちゃうんだけどね……

「ああ。次は貴様の作戦指揮の番だなドスチーフ。貴様の働きに期待しておるぞ」

「はっ……! 仰せの通りに」

 ドスチーフは立ち上がりイビール将軍にアポカリプス皇国式の敬礼をした。

 

 そして会議は終わるはずだったのだが……

「おいマルデューク!」

「はっ、はいぃ!?」

 突然ジャドラーが俺の名前を呼ぶ

 

「最近会議での発言が少ないんじゃねぇか? やる気あんのか? それともやっぱりシャドーにやられて臆病風にでも吹かれちまったか? 所詮丸腰じゃ何も出来ねぇ腰抜けのゲーニジュだもんなぁ?」

 そう言ってジャドラーはわざとらしく笑ってみせた。

 

 確かに発言が少ないのはその……こんな場で緊張するし変なことを話して粛清なんてことになったら嫌だからで……

 それにしてもジャドラーの体育会系的なノリは本当に会社の上司にそっくりで嫌になる。

 

 なんで来世でまで同じ様な仕打ちを受けなきゃいけないんだろう……? 

 いやマルデュークならそんな皮肉交じりな言葉に啖呵を切って言い返すんだろうけどやっぱり怖いし……

 

「止せジャドラー!我々の敵はあくまでVXだ。 無駄に仲間同士が争ってもしようがない」

そんなジャドラーから将軍は俺のことをかばってくれた。

 

流石特撮ファンの中でも理想の悪の幹部と名高いイビール将軍なだけあるなぁ…

俺は将軍がとても頼もしく見えて一安心していると

 「しかしこやつの言うことも一理あるぞマルデュークよ。 貴様最近様子が少し変わったのではないか?」

将軍はこちらに向き直りじっと顔を見つめてきた。

 

 や、やばい……! 

 ち、近くで見たら結構威圧感あるんだよイビール将軍…

 その時の俺は文字通りヘビに睨まれたカエルが如くなにもできなくなってしまった。

 

「も、申し訳ございませんッッ!!!い、以後この様な事の無いように意見を述べられるよう今後一層精進致しますっ!!」

 

 はい! シャドーに切られた時に前世の記憶を思い出しました! 

 なんてふざけたこと言って許されるわけがないし俺はただ平謝りすることしかできなかった。

 

「わかっておるならもう良い。 ドスチーフの次は貴様が作戦指揮を取る番だぞ? それまでには体調を整えておくように。 それでは本日は解散とする! マルデュークは少し残れ」

 

 イビール将軍のその言葉で幹部たちはそれぞれの区画へ戻っていった。

 やっぱり俺の異変に気づかれてる……? 

 

「けっ……ゲニージュの中では美人なんだろうがそれだけでちやほやされやがって……」

 去り際にジャドラーは俺を睨みつけてそう吐き捨て出ていった。

 

 そして会議室には俺とイビール将軍の二人だけに気まずい空気が流れる

イビール将軍からは悪の組織、一つの国の軍をまとめ上げるだけのことはあって凄まじい威圧感が漂っている一体俺どうなっちゃうんだ?

 

もしかして俺の思惑がバレてこれから処刑されるとか…!?

 

「マルデュークよ」

「は、はいぃっ……!」

「やはりまだヤツに付けられた傷が痛むか?」

 

 イビール将軍からかけられた言葉は叱責や疑念ではなく俺を心配するものだった。

予想外の言葉に俺は腰が抜けてしまいその場で少しよろけたがなんとか必死に姿勢を立て直す。

 

「い、いえそんな滅相もないです! ほらこの通りもう元気いっぱいですよ!」

 俺は大げさにそう言ってみせるが将軍はそんな俺を何も言わずにしばらく見つめてため息を付いた後

 

「ふむ……そうか。儂にはお前と同じ年頃の娘が居てな、まだ嫁入り前の身体にその様な傷を付けられる事がどれだけ辛いことか少しは分かっておるつもりだ。 しかし恐怖で戦えない言うのであれば貴様には地球侵略の任ではなくアポカリプス星へ戻り統治や反乱分子駆逐の任に就いてもらおうと考えておるのだが……」

そんな提案を持ちかけてきた。

彼の鉄仮面のような顔からは純粋に[[rb:俺 > マルデューク]]を案じる気持ちが伝わってくる。

 

「しょ……将軍……」

 なんて上司の鑑……! あのクソ上司とかジャドラーとは大違いだ! 

 

 でもそんな事になったらそれこそテレビで見たマルデュークの最期よりはマシな最期を迎えられるかもしれないけどアポカリプス星諸共宇宙の藻屑になってしまうオチは避けられない。

 

「どうだ? 悪くないポストを用意してやるつもりなのだが……?」

「い、いえ! おr……アタシやります! あの憎きVXにこの傷の御礼もしなくちゃいけないし必ずやゲニージュの誇りにかけてVXを倒しあの星を手にれてみせます!!」

 

勢いで言ってしまったが今はこれ以上の言葉が見つからない。

その言葉を聞いたイビール将軍は安心した様に口に小さな笑みを浮かべた。

 

「ほう……そうか。 その気概があってこそマルデュークだ。 期待しておるぞ」

「は、はい……! ありがとうございます」

 

俺は気づけば深々と頭を下げていた。

やはりマルデュークを含めた曲者ぞろいの4幹部を束ねる将軍なだけはある懐の深さだ。

 

「それともう一つ……頼まれてほしいことがある」

「な、なんでしょうか?」

 

「貴様を信用しての頼みがあるのだが地球へ密偵へ行ってくれぬか? 予定ではもう移住計画が進んでいてもおかしくない頃合いだったのだがVXというイレギュラーの発生で計画に大幅な遅れと損害が出ておる。それだけでなく我々には地球人の情報すらほぼ無い訳だ。地球人など取るに足らず数日で根絶やしにする予定だったが故調べる必要も無いと考えていたのだが甘く見すぎておったな…… そこでだ。あの星に住む人類によく似た姿の貴様にあの星の調査に行ってほしいのだ。 他の星への観光は貴様の趣味であろう? 調査も兼ねて傷の事を少しは忘れて楽になってくるが良い。 その代わり地球人に関するレポートの提出は忘れるなよ?」

 

「しょ……将軍……! ありがとうございます! その任務謹んでお受けいたします!!」

 そう言えばマルデュークは地球に何度も訪れて様々な計画を練ってたんだっけ? 

 地球に降りて豪遊する描写もあったような気がするけどそういうことだったのか……! 

 

 それに傷を案じて任務と言う名の休暇をくれるなんてなんていい人なんだ……! 

 地球人を根絶やしにするなんて考えてなければ本当に良い上司なんだけどなぁ……

「そうか。 では急だが明日出発できるか?」

「はい!」

「良い返事だ。 それでは下がって良いぞ。 本日のうちに地球調査への準備を整えておけ」

 

「はいっ! 失礼します」

 ということは……地球の飯が食べられる!! 

 やったぁ! 200年と2週間ぶりの地球飯だ!! 

 俺は地球調査の任務に胸を高鳴らせ会議室を後にした。

 

 自室へ帰る途中、廊下でまた戦闘員が何かを話している。

 

「はぁ……首が痛くてたまんねぇよ」

「そうだよなぁ……結構やられた後ここまで戻ってくるのも大変だし帰ってきてもあんなクソ狭いタコ部屋じゃ疲れも取れねぇよ……」

「そうそう……せっかくこのアポカリス要塞で一番広いゲーニジュの区画もマルデューク様一人のプライベートな施設が大半を締めてるから俺たちには何も関係ないしなぁ……」

 

 どうやら部屋が狭いという愚痴のようだった。

 

 各幹部の部屋はたまに描写されることもあったが戦闘員がどんな所に住んでいるのかは全く描写もされていなかったしマルデューク本人も全く気に留めていなかったので好奇心をそそられる話だ。

 

「戦闘員のみんな、おはよう!」

 

 俺はそんな戦闘員たちに元気に声をかけると彼らは姿勢を整え蛇に睨まれたカエルのようにビクリと動かなくなってしまう。

 

「お、おはようございますマルデューク様……本日もたいへん麗しくございます……!!」

「そう? ありがとう。 ねえ貴方?」

「は、はい……! なんでございましょうか?」

「貴方のお部屋見せてくれない?」

「は、はぁ? そそそそんな急に!? 今の私の部屋は誰かに見せられるような状態では……」

「いいのいいの! 散らかってても気にしないから」

 

 そう言うと観念したのか一人の戦闘員が居住区画へと案内してくれた。

 

 急に戦闘員居住区画にマルデュークがやってきたものだから一体何事かと戦闘員たちがこちらを見ている。

 

 辺りはドアが無数に並んでいて壁からかけられていたロープに戦闘員のスーツが干されていたりしてとても生活感の溢れる感じの場所で、ツンと鼻を突く汗の匂いは臭かったがどこか懐かしく、そして悲しくなるような臭いだった。

 

「ここです……本当に汚いですよ……?」

「大丈夫大丈夫俺もそ……じゃないアタシの知り合いもそうだったから。そんなことで殺したりしないわ安心して?」

 

 戦闘員が手を震わせてゆっくりとドアを開けると四畳もない部屋に色々なものが散らかっていた。

 

 俺が学生時代に住んでたアパートなんかよりもっと狭く劣悪な環境で寝るスペースを除けばほぼ何も置けないような部屋だった。

 

「う、うそ……」

「た、大変申し訳有りません……!事前に仰っていただければ多少は片付けたんですが……」

「だ、大丈夫……ちょっとびっくりしただけ」

 

 毎週雑に扱われ戦闘に駆り出される彼らの居住空間がこれだけだという事実に前世の俺の姿が重なり胸が痛くなってしまう。

 

 それにおそらく戦闘員は部屋が汚すぎて粛清でもされるのかとでも思っていそうな怯えっぷりなのでその誤解を解くため俺は極力笑顔で日々の生活の話なんかを聞いてその世知辛い生活事情に更に罪悪感を覚えた。

 

 彼らが話していたようにゲニージュの区画はこの宇宙要塞アポカリスの中でも最も広くスペースが撮られているが大半はめったに使われないマルデューク専用の施設が締めていて知らなかったとは言え自分のせいでこんな事になっているという状況は早急になんとかしなければ戦闘員たちがかわいそうだ。

 

若い頃の自分なんかより酷い実情やその原因が[[rb:マルデューク > おれ]]にあるとわかるとなんだか泣けてきて気付くと俺の頬には涙がこぼれていた。

 

「ま、マルデューク様……?」

「ごめんなさい……いつも頑張ってるあなた達にこれだけの事しか出来てなかったなんて……よし! 良いわ。アタシのプライベートスペースを一部……いや八割開放しましょう!」

「マルデューク様……? 今なんとおっしゃいました?」

 

他人に情けをかけるようなことをしないはずのマルデュークからそんな言葉が出たことが予想外だったのか戦闘員たちはお互いに顔を見合わせる。

 

「アタシのプライベートスペースの八割をあなた達戦闘員に開放するって言ったのよ。プライベートスパも娯楽設備もジムもラウンジも一人で使うには広すぎるし使わなきゃもったいないでしょ? アタシには寝食ができる場所さえあればそれで十分だしそれでもだだっぴろいくらいだから」

 

俺の言葉に部屋を見せてくれた戦闘員やそれを影から見ていた非番の戦闘員立ちがざわめき立ち

「う、嘘じゃないですよね……?」

「もちろん! この区画を管理してるのはゲーニジュ最高幹部であるアタシなんだから任せておきなさい! いつも頑張ってるあなた達にそれくらいしてあげないとバチが当たっちゃうから。」

戦闘員が恐る恐る聞き返してきたので俺は笑顔でそう返した。

 

しかし与えるだけではいけない。

部下をしっかり鼓舞してこそいい上司というものだ。

 

「……でも一つだけ約束して?」

「な、何でしょうか……?」

「危なくなったら逃げてもいいから必ず生きて帰ってきてね」

 

「は、はいっ! マルデューク様……一生ついていきます!」

「それならよしっ! 戻ったら早速みんなでも使えるように手続きをしておくわね」

 そう言った途端居住区画には歓声が溢れた

 

「うおおおお!」

「俺の人生まだ捨てたもんじゃなかった!」

「すげえ! あの自己中の化身みたいなマルデューク様が我々にお慈悲を!」

「俺もうマルデューク様の悪口言うのやめます!」

「自分親衛隊入ってもいいですか?」

「俺も入ります!」

「マルデューク様万歳!!」

「マルデューク様万歳!!!」

「マルデューク様万歳!!!!!」

 話を聞いていた戦闘員たちが一斉に飛び出してきて居住区画にはマルデュークコールがこだまする。

 

 こんな大勢の人に讃えられるなんてこと今までなかっただけにとても心地が良い。

 やっぱり上司は部下をこき使うだけじゃダメなんだよな。

 しっかり褒めるところは褒めて働きにはしっかり報酬を返さないと。

 

 

 そんな歓声を背に俺は自分の部屋に戻り、区画を管理する端末を使って俺しか入れないような部屋を約束通り通り八割ほど開放した。

 

 というかいつ使うのかもわからないし本編でも出てこなかったようなプライベートルームあったのかよいくらなんでも多すぎだろ……こんなに要らないよ。

 

「んんっ〜! やっぱ良いことをすると気持ちがいいなぁ」

「マルデューク様……? 本当によろしいのですか?」

 

俺が伸びをしているとマルデュークが余程他人にこれだけ情をかけたのが珍しかったのかアビガストがそう尋ねてきた。

 

「もちろん! だって毎週みんな頑張ってくれてるんだからこれくらいしなきゃ。それにどうせ使わないなら必要としてる人達に使ってもらったほうが良いじゃない?」

「マルデューク様がそう仰るのでしたら良いのですが……」

 

俺の言葉を聞きアビガストは怖いくらい素直に引き下がり仕事に戻ろうとした。

 

いつも俺の身の回りの世話をしてくれて俺が一番報酬を与えるべきは彼女なんだろうけど俺はまだこの子に何もしてあげられていない……

 

そうだ!

 

「そうそう! ねぇ、アビガスト? 明日地球に降りるんだけど……」

せっかくだし地球への偵察にアビガストも連れて行こう!

 

少しは息抜きになってくれたら良いな……

「明日地球に降りる……ですか?」

 

 ん? ちょっと待て? こんな感じの話の展開があったような……

 そうだ思い出した! 

 

 たしか偵察とは名ばかりに豪遊しに地球へ降りたマルデュークの荷物持ちとしてアビガストも一緒に地球に降りるんだけど途中でマルデュークが買い物になりすぎて町ではぐれちゃう話があったような……

 

 それで最終的に迷ったアビガストを助けたのはシャドーVXこと月影瞬……ここで二人が初めて出会って言うなればフラグが立つってことなんだろうけど……

ということはアビガストを地球に連れて行くのはマズいんじゃ……

 

「あ、ごめんなさい!いまのやっぱナシ!やっぱりアタシ一人で降りようかなーって……」

 

俺は苦し紛れにそう言うとアビガストは俺の手を取り濁った目でこちらを見つめてきた。

 

「なりません! 兵士も付けずマルデューク様一人で敵地に降り立つなど……私もお供します」

 そう語気を強めて言った彼女はどこか真剣そうに見えてそんな目で見られたら留守番をしておけだなんて俺には言えなかった。

 

「う、うん……わかった……わよ。 それでも条件があるわ」

「条件……? なんでしょうか?」

「絶対アタシから離れちゃダメだからね?」

「はい。もちろんです。ひと時もマルデューク様の側を離れません」

 

俺が気を付けてさえいれば瞬と出くわすこともないだろうしそうと決まれば地球に降りる準備……前世ぶりの地球かぁ……なんかそう考えるとワクワクしてきたな。

 

 と言っても2週間前にシャドーを捕まえるために一回降りてるけどその時は俺の記憶もまだ蘇ってなかったわけだし

 

 でも流石にこんな格好で降りたらVXに見つかる前に痴女扱いされて捕まっちゃうよなぁ……

 でもマルデュークって地球に降りるたびになんか変装……というかコスプレしてたよな? 

 

 あれもウィラスとかでどうにかしてるんだろうか……? 

 しかしマルデュークとしての記憶をたどってもテレビで見たシャドーVXの記憶をたどってもそれらしい方法で服を着替えるようなことはしていない様な……

 

 実際そんな便利な方法で服を着替えられるならわざわざ毎朝アビガストに着替えを用意して貰う必要もないし……

 

それに変身できたら男心にワクワクするじゃないか!

「ね、ねえアビガスト? アタシって変身するウィラスとか使えた……かしら?」

「……? いえ。マルデューク様がその様なウィラスを使えるのはお仕えしてから一度も見たことも使えるという話を聞いたこともありません。 お役に立てず申し訳有りません……」

「ああ良いの良いの! 謝らないで! アビガストは何も悪くないから!!」

 しかしそれならあの毎回変わる服って一体……

 もしかして毎回自前で買って着替えてたのか? 

 

 変装というより趣味だったのかあれ!! 

 それなら地球に降りてあれだけ買い物してた理由も納得だし今後のために変装用の着替えは買っておかないと支障も出る! 

 

 でもそうなると……

 やはりクローゼットを開けてみるがどれも地球人からすれば奇抜なデザインで露出度が高いものしか入っていない。

 

 ほんとマルデュークの趣味はどうなってんだよ……いやこの場合マルデュークの趣味というよりVXの監督とかデザイナーの趣味なのか? 

 こんなの着て町なんか歩けないし……

 じゃあマルデュークは一体地球に降りた時どうしてたんだ? 

 

 いや多分マルデュークの事だしこの格好で町を歩いて気に入った服を買って着替えてたんだろうなぁ……

 今の俺にそんな度胸は無いし……

 そうだ! アビガストの服を借りよう。

 

 まだこの変な服よりはメイド服の方がマシだろう。

「ね、ねえアビガスト? そのお洋服一着アタシに貸してくれないかしら……?」

「……? こちら……ですか? かしこまりました。明日までにはご用意いたします。それでは私は夕食の準備がありますので失礼します」

 アビガストはそう言ってそそくさと部屋を出ていってしまった。

 

 問題はサイズ……(主に胸とか)だけど向こうで適当な服買って着替えれば良いや。

 ……そうだお金! 

 お金はどうやって用意すれば良いんだ? 

 今日本円なんて持ってないし……

 流石に地球に降りたはいいけど何も出来ずに帰ることだけは避けないと……

 そうだ! 

 

 ふとマルデュークとしての記憶から良いものがあることを思い出した。

「えーっとこの辺に……あった」

 クローゼットの隅にそれはしっかりと置いてあった。

 

 マルデュークが飽きた宝石類のアクセサリーだ。

 箱の中に溢れんばかりに入れられていたそれは飽きられたのか雑に詰め込まれている。

 売れるかどうかはわからないけど地球では取れない貴重な石のはずだし多少は高値に換金できるのではないだろうか……? 

 

 身分証とかはないけどそこはマルデュークの能力であるウィラスで人を操れば……

 よし! その手で行こう! 流石に盗みを働くわけにもいかないし変に目立てばVXに捕捉されるリスクも上がるしなるべく穏便に……

 ああでも明日地球に帰れると思うと本当に楽しみだなぁ……

 他にも色々準備しなきゃ……! 

 俺は胸を踊らせて明日に備えることにした。

 

 

 そして地球調査の日、今日はアラームがなる前に自然に目が覚め、軽くシャワーを浴びて日課をこなし、メイクは少し薄めにしてアビガストを待つ。

 

 しばらくするとアビガストが手にメイド服を持って部屋にやってきた

「おはようございますマルデューク様。こちらご用意しました」

「ありがとアビガスト! 早速着るわね。んっ……? あれ……?」

「あっ、マルデューク様、ここはこうでございます」

「あっ、そっかありがとありがと……」

 初めて身につけるメイド服に四苦八苦したが、アビガストの助けを借りて俺はメイド服に身を包んでいく。

 

 鏡に映ったそんな自分の姿を見るといつもは奇抜な服だっただけに逆にこういう服を着ると女装してる気分になってなんだか恥ずかしい。

 

 そしてなんとかメイド服に着替え終えたのだが胸とお尻が少しキツイくらいで思ったよりキツくはない。

「アビガスト? これ本当にあなたのメイド服なの?」

「はい。しかし私の身につけているサイズですと大きさが合わないかと思い昨晩仕立て直させていただきました。」

 そういった彼女の目の下には小さな隈が出来ていて夜なべをして用意してくれた事が伺えた

 

「ありがとうアビガスト……でも目に隈ができてるけど大丈夫なの?」

「ええ。一日寝ないなんてことは今までもありましたし問題有りません。それよりもそちらの服……いかがでしょうか? マルデューク様の様な高貴なお方が使用人の服を着るなどとも思いましたが……」

「うん! サイズもぴったり合ってるしアビガストが丹精込めて仕立て直してくれたと思うと尚更嬉しいわ!」

「そう……ですか」

「でも意外ね。こんなにお裁縫が上手だなんて知らなかったわ」

 

「はい……いつも折檻の時にできる服の破れ等を直している内に上達しました。以前マルデューク様の使用人である以上身だしなみはきっちりとしろと仰られていらっしゃいましたので」

 それってつまりマルデュークが毎度毎度アビガストを痛めつけてた時に出来る服の破れとかを自分でその後直してたって事だよな……? 

毎回服がボロボロになるまでやられても次の週には直ってたのってそういうことだったのか

 

 うう……マルデュークはどこまでアビガストにひどい仕打ちをすれば気が済むんだ……

「ごめんね……」

「なぜ謝るのですか?」

「いつも辛い思いばっかりさせてたからよ」

「辛い……? 私にはよくわかりません。折檻も全て私に原因があることですし」

「そんな事ないよ! いくらなんでもやりすぎだと思う……いや、やりすぎだった……わよね?」

 それ以上アビガストはそのことについては何も言わなかった。

 

 そして要塞から怪人を送り出す転送装置のある部屋まで歩いている途中昨日より人通りの多くなった廊下で戦闘員たちとすれ違う。

 

彼らは早速開放した施設を惜しげもなく使ってくれているようだ。

そんな戦闘員は驚いたような素振りを見せてこちらを見て口々に言葉を交わしている。

 

「おいおいマルデューク様が使用人の服着てるぞ!」

「いや〜眼福眼福。怒られるかもしんないけどいつもの服より似合ってんな……結構有りかも」

「あのマルデューク様が使用人の格好をしているギャップよ……」

「おいこらあんな下級な役職のヤツが着る服を似合うなんて言ったら何されるか……」

 そんな話し声が聞こえてくるので笑顔で手を振ってやった。

「マルデューク様……やはりその格好はお辞めになったほうがよろしかったのでは……?」

「なんで? 良いじゃない可愛いんだし」

「ですがこれは低階級の使用人の衣服で……」

「良いの良いの。階級とか関係なし! それにアタシの身分を隠すにはもってこいな衣装でしょ?」

「そう……ですね」

 

 そんな話をアビガストとしながら転送装置のある部屋へ着くと事情を聞いていた戦闘員が既に準備をしてくれていた。

 

「もう準備は完了していますが本当にマルデューク様直々にお出向きになられるのですか? 前回地球で大怪我も負われていますしこんなことは我々の仕事ですよ」

「ええ。もちろんアタシが行くわ。行かなきゃいけないのよ!」

 戦闘員が心配そうに尋ねてきたので俺はキメ顔でそう言ってやった。

 

 そう。今後の計画の為、そして地球の……日本の飯を食べるために! 

「左様ですか……それではご無事で! 物質転送システム・自動星間翻訳システムどちらも起動に問題なし。 それでは転送します! 地球時間の0時丁度同じ場所に転送ポータルを用意しますのでそれまでには転送された場所に戻ってきてくださいね!それではご武運を![[rb:グニア!アポカリプス! > アポカリプス皇国に勝利と栄光を]]」

 

 戦闘員がそう声高に叫びボタンを押すと俺とアビガストを光が包み、気がつくとどこかの路地裏に立っていた。

 

 俺は軽く深呼吸してみるととても懐かしい臭いが鼻から入って抜けていく。

 ここはまちがいない……! 

「…………地球だ!」

 

 少し気になることもあるしとりあえず……

「アビガスト! 付いてきて!」

 俺はアビガストを連れて街に出るとそこはどこか少し古臭い日本の東京の様な町並みをしている。

 

 町ゆく人々のファッションも少し古臭いようなそうじゃないような……

 町を歩いているとどこか子供の頃にタイムスリップしたようなどことなく懐かしくそれでいて違和感があるようなにぎやかな町並みが続く。

 

 この服装のせいか町行く人からの視線が気になって恥ずかしい。

 そんな視線をくぐりながらコンビニが見当たらないので結構探すのに手間取ったがやっとのことで売店を見つけ軽く新聞を立ち読みすることにした。

 

 こういうのやってみたかったんだよなぁ……タイムスリップモノとかで今が何年なのか知る為に新聞読むやつ……! 

えーっとなになに……? 

昭和 63年?

 

63年って何年だ……?

 脳内で自分の生まれ年から計算をしてみるとその年は間違いなくVXが放送されていた年だった。

 

 俺は新聞を睨みつけていると

 

「ちょっとお客さん! 新聞の立ち読みはウチでは遠慮してもらってるんだけどなぁ」

 店の親父もこちらを睨みつけていた

「あっ、ごめんなさい……あのえーっと……今って1988…年なんですよね?」

「はぁ? 何当然なこと言ってんだ。ほら買うなら買う! 買わないならさっさと帰んな」

「は、はい……! ありがとうございました!」

 無一文だしこれ以上文句を言われるのも面倒なので俺は軽く頭を下げ逃げるようにその売店を後にした。

 

 確かに当時と同じ昭和 63年だけどVXが実際に存在しているということは俺が居た世界とは違う平行世界ってことなんだよな?

 

 いや今はこれ以上考えても仕方ない! まずはお金だお金! 

 地球で使える通貨を手に入れないと何もできない。

 

資金を調達する為アビガストを連れ町を歩いて宝石なんかを買い取ってくれる店を探すと結構すぐに見つかった。

 

というかあちらこちらに金や宝石や金券を買い取る店が見て取れた。

 ひとまずその中から一つを適当に選んで入って持ってきた宝石を買取りに出してみると……

 

「ふむふむ……これは珍しいですね。 この大きさのものはなかなか取れませんよ」

「そ、そうですか……」

「それではこのくらいでいかがでしょうか?」

「えっ!? こんなに? 売ります売ります!!」

 そこには予想外の金額が表示されていたので俺は即座に頷いた。

 

「それではすみません、身分証の提示をお願いします」

 やっぱり来た……それはもう予想済み! 

 

「え、ええ……それより前にアタシの目をみてくださらないかしら……?」

「目……ですか?」

 俺と目を合わせた宝石商の目が徐々にうつろになっていく

 やっと転生モノらしくなってきた! 

 これがマルデュークの能力で人間を少しだけ操る事ができるんだ! 

 

「身分証は最初にお見せしましたよね?」

「はい……確かに拝見しておりました……」

 宝石商は平坦な口調でそう言って買取は成立した。

 見様見真似で試してみたけどなんとか成功したらしい。

 

 正直ちゃんとこの能力が使えるのか最後まで内心ドキドキしていたくらいだ。

「はぁ……よかったぁ……ちゃんと使えた……」

 

「マルデューク様……? 何故あの力を使って資金を巻き上げなかったのですか? わざわざご自分の宝石まで売りに出さずともよかったのではないでしょうか?」

「ううん。そこはちゃんとやらなきゃダメ。盗みなんてやって後で騒ぎになったら大変だから」

 

「左様でございましたか……私の思考が足りていませんでした申し訳有りません」

「いいのいいの。多分少し前までのアタシならそうしてただろうし……それにしてもこれだけお金があれば一日で使い切るのは難しいかも……あっ!」

 俺はクレープ屋の屋台を見つける。

 クレープか。

 食べたこと無いけど女の子が好きそうだよな……

 

「アビガストお腹空いてない? ちょっと待ってて」

 俺はクレープを2つ買って一つを彼女に手渡した。

 

「マルデューク様……? これは一体……」

「クレープっていう食べ物だよ」

「クレープ……こんなもの本当に食べれるのですか?」

 アビガストはクレープを睨みつけて怪訝な顔をする。

 

 そりゃこっちからしたらアポカリプス星の食べ物がみんなそんな感じに思えるんだし向こうからすれば地球の食べ物がそう見られてもおかしくないか……

 

「ご、ごめん……あんまり美味しそうじゃなかった? それなら無理に食べなくても……」

「いえせっかくマルデューク様が私にくださったものですしこれは大事に保管しておきます」

 それはそれでクレープが本当に目も当てられないものになりそうだからできれば食べてほしいんだけどなぁ……

 

「大丈夫大丈夫ほら美味しいから騙されたと思って食べてみて? あむっ……んんっ!!!」

 口に広がるバナナの甘みとチョコの苦味……それを包み込むような生クリームと生地……

 ああ……アポカリプス星では味わえない味……まさかバナナがこんなに美味しいと思えるときが来るなんて……

 

 俺は知らず知らずのうちに涙を流していてそれを見たアビガストは心配そうにこちらを見ている

 

「どうされたのですかマルデューク様……? やはりこんな星の得体のしれない食べ物を召し上がって何か体調をお悪くしたのではないですか……?」

「ち、ちがうわよ……! これすっごい美味しくて……ああ……クレープってこんなおいしい食べ物だったんだなぁ……」

 

 俺は涙をポロポロ流しながらクレープを頬張っているとアビガストも恐る恐るクレープを口に運んだ

 

「んっ……!! な、なんなのですかこれは……甘くて美味しい……です」

「そうでしょ? 大丈夫。美的感覚はぜんぜん違うけど味覚は似たようなものだから」

「何故マルデューク様はそれほど地球に詳しいのですか?」

「あ……えーっと……そう! あれよ! 一応これから侵略する星なんだしちょっとくらいは予習しておこうと思って調べてたのよ!」

「そうでしたか……マルデューク様のその勤勉な所……見習いたいです……これ……一口食べたら止まりません!」

 アビガストもいつの間にかクレープを平らげていた。

 

 それから町を歩きながら久々の地球を満喫しつつ服屋を周り、ひとまずは企業に女性社員として潜入できるよう女性用のスーツを買ってそれに着替えてみる。

 

「どうかしら……?なんか変なところとかない?」

「それが地球人の正装なのですね……とてもお似合いですが何やら地味な印象を受けます。喪服ではないのですか?」

「喪服……た、確かに黒っぽいからね……」

そんなアビガストの受け答えを聞きながら試着室の鏡を覗き込むとそこにはスーツ姿のマルデュークの姿がある。

 

それにしてもやっぱ凄い胸だな・・・少し余裕のあるのを選んだはずなんだけどそれでもこんなになるなんて…お尻もスカートがラインを強調するせいでただのスーツのはずなのに凄くエロいぞ?

 

会社にこんな同僚が居たら目の保養になってもう少しはマシに働けたかも……?

「マルデューク様? いかがなさいました?急に頬を緩ませて」

「あ、ああいやなんでも無いの…… さ、他にも色々回りましょ!」

 スーツに着替えてもやはり町ゆく人々の視線が変わりなく気になるのは俺の自意識過剰なんだろうか……?

 

それからも町で買い物や散策を続け店を何件かハシゴして一通り変装に使えそうな衣服やメガネそして普段着れるような服を買い足していく。

 他にも完全にコスプレになってしまうだろうがチャイナ服やバニースーツなんかも勢いで買ってしまった。

 

 結構服選ぶのって楽しいかも……

「うーん……こっちとこっち……どっちがいいかなぁ?」

「どちらもマルデューク様ならお似合いだと思います」

「そう? それじゃあ試着してみちゃおうかしらね〜」

 俺は鼻歌交じりに選んだ服を持って試着室へ向かい服を試着して鏡を見るとそこには嬉しそうな顔のマルデュークが映っている。

 

 あれ……? 何で俺こんなにノリノリで女物の服選んでるんだ? 

 もしかして前世の俺としての記憶とマルデュークの記憶が混ざり始めててどんどん思考がマルデュークに近づいてきてるんじゃ……いやいやいや!そんなはず……

 

 脳裏に浮かんだそんな憶測を否定しようとしたが完全には否定できずにいた。

「もしそうならこれからどうするんだマルデューク……」

 俺は目の前にいるマルデュークに問いかけるがもちろん答えは返ってこない。

 少なくとも今のマルデュークは確かに俺なんだ。

 

 この俺の記憶がいつまで保つのかはわからないけどそれまでは俺にやれることをやらないと……

 絶対お前みたいな最後は辿らないからな! 

 俺は鏡に映った悪の女幹部を睨みつけ試着室を飛び出した

 

「どう……かしら?」

「はい。とてもお似合いです」

「それじゃあこれにしようかしら。あっ、そうそうアビガストのお洋服も買ってあげる!」

「そ、そんな……私は間に合っていますから」

「良いの良いの。遠慮しないで! 何でも好きなの買ってあげる。地球に潜入してる間もアタシの横に立っても自然に見える服を買わなくっちゃ……ね?」

「はい……マルデューク様の御指示とあれば」

「さっきこの服見てたでしょ? 気になるの?」

俺はアビガストが興味を示していた洋服を手にとって見せてみる。

「い、いえ……私にその様な服似合うわけがありません」

「そんな事ないわよ! 絶対似合うし試着だけならタダよ!」

「で、ですが……」

「良いの良いの気にしないで。アタシがやりたくてやってるだけだしいつも頑張ってくれてるお礼みたいなものだから」

 やっとアビガストにそれらしいお礼が出来る上彼女の色んな姿を見れるチャンス……これをみすみす逃してなるものか! 

 

「ささ……そうと決まれば着替えた着替えた! 試着室の使い方はわかる?」

「は、はい……少し形は異なりますがアポカリプス星で使われているものと大差ないようですし……」

「そうと決まればほら! ちょっとこれ着てみて、それでアタシに見せて」

 俺は半ば強引にアビガストに服を持たせ試着室へ押し込んだ。

 

 それからしばらくしてゆっくりと試着室のカーテンが開き可愛らしいワンピース姿のアビガストが現れる。

 

いつものメイド服と違いこれならなんら他の少女と変わりなく町を歩けるだろう。

 

「あの……マルデューク様……一応着ては見ましたが……」

「うん! 良い!」

「マルデューク……様?」

「やっぱりアビガストは可愛いから何着ても似合うよ!」

「そう……ですか?」

「うんうん! で、着心地はどう?」

「着心地……ですか? この生地はアポカリプス星の物にも引けを取らない良い生地ですね。機能性も悪く無さそうですし……」

「そっか。それなら良かった。 店員さーん! これも追加でお願いします!ねえねえアビガスト?この服なんてどう?」

 

俺はそのままアビガストに似合うような服を選んでは試着をさせ、一日中ショッピングを楽しんだ。

 

 服なんて着られればそれでいいと少し前(いや厳密には200年と2週間くらい前か)までは思っていたがこの身体のせいなのかマルデュークとして200年行きてきた感性からかこんなに服選びに時間をかけるなんて思わなかった。

 

これも俺がマルデュークになった影響なのかもしれないが今こうして楽しいと思えている感情を俺は否定したくない。

 

それに押し付けがましいかもしれないがアビガストにもこういうときだけでも普通の女の子として接してあげられれば良いなと思う。

 

「はぁ……いっぱい買っちゃった……わね」

「マルデューク様……私めの分までこんなに買っていただいて本当に良かったのですか? それに荷物も全て私がお持ちします。そのために私は付き添っているのですから」

「いいのいいの。これくらい運動よ運動!」

 

 若い身体だからかこれまで少ない休みも一日中動き回る気力すらなかく部屋で寝ていたら終わっていたような生活を送っていた俺だったが今はこうして大荷物を両手いっぱいに抱え年甲斐もなくはしゃぎながら歩いている。

 

 ああ……若いっていいなぁ……

まだまだ全然遊べるくらいには体力も残ってるし、それに美人だしこんなかわいい美少女と買い物できるなんてそれなりに前世で徳を積んでたってことかな……? 

 そんなとき俺の腹がグウと鳴るのが聞こえる

 

「あっ、ごめんなさい」

「いえ。私は何も聞いていません…… それはそうといつもならばそろそろお夕飯の時間ですね」

「そうね…… あっ、あそこなんてどう?」

 俺は有名なラーメンチェーン店を見かけたのでそこを指差す

 

「あれも……食べ物なのですか?」

「ええもちろん! 日本では嫌いな人を探すほうが難しいくらいの食べ物なんだよ……じゃなかった食べ物なのよ! 行きましょ!」

 空腹のせいで眼の前のラーメンで頭が一杯になり、俺はアビガストの手を引いてラーメン屋に入った。

 

 ラーメン屋に入ると立ち込める独特のスープの香り……それにこの妙にぬめぬめした床……嗚呼すべてが懐かしい……

 

 俺が感動する横でアビガストはまた怪訝な顔をしている

「アビガスト大丈夫? もしかしてこういうの苦手?」

「い、いえ…… マルデューク様がお召し上がりになりたいのであれば私もお供させてください……」

 

 そう言った彼女の顔は明らかに無理をしている。

やはり地球に来て初めての夕飯がラーメンというのは少しハードル高かったか?

「ね、ねえ本当に大丈夫……? 無理なら他のご飯にする?」

 

「私のことなど気にせず召し上がってください……!!」

 アビガストは少し語気を強めてそう言ったので俺は彼女の好意に甘えることにした。

 

「すみませーん! ラーメン大餃子定食麺ちょい硬野菜ニンニク増しで……アビガストは……」

 アビガストの方に目をやると首を横に振ったのでひとまずそれだけをオーダーした。

 

 それからしばらくして俺の目の前にラーメンと餃子とライスが運ばれてくる

「うわぁ〜!」

 200年と2週間ぶりのラーメンだぁ……

 俺の口からは自然と声が漏れ出していた。

 

「いただきまーす!」

 早速胡椒を軽く振りかけ割り箸を割ってラーメンに手を付けようとした時

「お待ち下さいマルデューク様……! ご無礼をお許しください」

 突然アビガストが俺の手を止めた

 

「な、何?」

「やはりまともな食べ物には思えません…… 私めに毒味をさせてください」

 そりゃアビガストからしたら得体のしれないもの食べようとしてるんだから心配されて当然か……

 

 俺、もしかしてマルデュークとは別ベクトルでアビガストに無理させてる? 

「だ、大丈夫よ! 普通のラーメンだから……!」

「いえなりません…… マルデューク様にもしものことがあれば私は……」

 そんな彼女の気迫に負け、毒味をお願いすることにした。

 

「それでは……」

 アビガストは恐る恐る蓮華にスープと麺を乗せゆっくりと口へ運ぶ

 その顔は恐怖からなのか歪んでいるように見えたが意を決したように口の中へ入れた……

 

「んんっ…………!」

「あ、アビガスト……? 大丈夫?」

「あ、あの……これ……」

「どうしたの?」

「ボポルパッゼに似た深みのある味わい……それにこの歯ごたえのあるもちもちとした食感……マルデューク様? もう一口頂いてもよろしいですか?」

 

「え、ええ……」

「マルデューク様……! 確かに直接的な毒性は無いようですが……やはりこれは危険です……食べたいという欲求が収まりません……中毒性があるかもしれません……あのもう一口……」

 どうやらラーメンの魔力に即堕ちしてしまったらしい。

ラーメン恐るべし……

 

「すみませーん! ラーメン大盛り麺ちょい固ニンニク野菜増しもう一つお願いしまーす! はい。これ全部食べていいわよ?」

「そんな……良いのですか?」

「ええ。 もう一つ頼んだから」

「そ、そうですか……それではお言葉に甘えて……」

 そう言うと堰を切ったようにアビガストはラーメンをレンゲで掬って食べ始める

先程までの顔が嘘のように淡々とラーメンを啜る彼女の姿が微笑ましく見えた。

 

 よかった。ラーメンはアポカリプス星でも通用するんだな。

 元地球人として誇らしいよ。

 

「あのねアビガスト。これはこのお箸っていうので挟んで食べるの」

「オハ…シ?ですか?」

「ええ。指でこうやって挟んで…」

「こうですか?」

「そうそう。飲み込み早いわね!さすがよ」

 アビガストに箸の使い方を教えているうちに運ばれてきたもう一杯のラーメンを俺はポロポロと涙を流しながら平らげ、結局アビガスト共々替え玉までして久しぶりのラーメンをこれでもかと言うほどに堪能した。

 

「ふぅ……食べた食べた……ごちそうさま」

俺は空っぽになった丼に手を合わせる。

 

アポカリプス星の料理も不味くはないんだけどやっぱ地球の飯がいちばんだなぁ……

すると

「申し訳有りませんマルデューク様…… 私、マルデューク様を差し置いて我を忘れてしまって……いくらでも私に折檻してください」

 

少し遅れてラーメンをスープまで完食したアビガストがこちらに声をかけてきた。

余程美味しかった様で俺も嬉しくなってしまう反面、少しでも気に障ると感じられればすぐに暴力を振るわれていた事も感じられて申し訳なくなってしまう。

 

「そんなことするわけ無いでしょ? 地球の料理を楽しんでくれたみたいで嬉しいくらいよ」

「マルデューク様……少々気になることがあるのですが…………」

「ん?どうかした?」

「最近食事の際に良く口になさるイタダ……キマス?とゴ…チソウサ…マ?とは一体どの様な意味の言葉なのでしょうか?店を出ていく地球人が同じ様な言葉を使っていたので気になってしまって」

 

もしかしてアポカリプス星にはそう言う文化はないのかな…

「え、えーっと………地球の言葉で出された料理の食材とそれを作ってくれた人に感謝と敬意を表す言葉よ!」

 

「敬意を表す………ですか。それでしたら私にはもったいないお言葉です。マルデューク様が私めに敬意など」

 

「そんな事無いわよ。いつもアタシの為に美味しい料理を作ってくれてありがとう、アビガスト」

俺のその言葉を聞いた彼女の口角が僅かに上がった気がした。

 

そして久々のラーメンを堪能した俺達は二人でごちそうさまと店員に告げて店を後にし、街頭きらめく夜道を足取り軽く歩き始める。

 

 服とかも色々買えたしアビガストと月影瞬のフラグも発生させずに済んだみたいだし何より200余年と2週間ぶりの母星…母なる地球を堪能出来て今日は最高の1日だ。

鼻歌交じりに歩いているとアビガストがそんな俺を不思議そうに見つめていて…

 

「どうかした?」

「……何故これから根絶やしにする星の文明をこれほど楽しんでいるのですか?」

「……えっ?」

 そうだ。俺……いやアポカリプス皇国は人類を根絶やしにして滅びゆく母星の人々を移住させる事が目的。

 そこに元あった星の文化など邪魔でしかないものだ。

 

確かに彼女からしたら不思議で仕方なかったのだろう

「……好き……だからかしら? この星の文化も……アポカリプス星も」

 

「好き……? ですか?」

「ええ。なんだか懐かしいのよ……アビガストは地球どうだった?」

「……はい。 もっと野蛮で下等だと聞かされていましたがここに居る人々も我々ゲニージュと変わらず……いえ我々よりも自由に生きている事がわかりました。 それに食事も見た目は少々気になりましたがとても美味しかったですしこのまますべて無くしてしまうのは少々勿体ないとそう感じます」

「……そう。アビガストも楽しんでくれてたみたいでアタシも嬉しい!あっ、そうそう所でボポルパッゼ? だっけ? それってどんな料理なの?」

 

「あっ、はい……私の出身近くの郷土料理で何度かしか食べたことはないのですがヴェアルガルやドジャーリを生きたまま三日三晩大鍋で煮詰めたスープですがあのラーメン……? というものからはボポルパッゼに似た深みと煮込まれた者たちの怨嗟のようなものを感じました。身体に染み込むような味です」

「うぇっ!?」

 確かにラーメンも色んな動物とか煮詰めてるけど……これ以上想像するのは辞めておこう

 

「そ、そうなんだ……それよりまだもう少し時間あるけどこれからどうしようか?」

 そう言った次の瞬間

 

「何何何ぃ〜お姉さんたち暇なの? そんな大荷物持っちゃってぇ〜」

「俺達も暇しててさぁ」

「俺達と楽しいことしない? 荷物持って送ってあげても良いけど?ちょっと遊び行こうよぉ〜」

 突然一昔前のファッション(いや今はこれがこの時空では最先端なんだろうけど)に身を包んだ見るからにチャラい三人組が話しかけてきた。

 

うう……こういう奴ら苦手なんだよな……

でもこういう時どうやって断れば良いんだ?

 

「あ、えーっと……」

 返答に困っているとアビガストはそんな三人組から俺を守ろうとしてくれているのか俺と三人組の間に割って入ってはいるものの傍から見ればただ非力な少女が俺と三人組の前に立っているようにしか見えず三人組は意に介していない。

 

「あ、あの……私達行く所があるので……ごめんなさい」

 そうそう。ここは穏便に穏便に……

 

 三人組を交わして逃げようとするが一人が俺の腕をグッと掴んできた

「ひぃっ……!」

 

「さっきまだ時間あるって言ってたじゃん! いいじゃんか遊ぼうよぉ」

「その汚らわしい手を離しなさい……この御方は……」

 アビガストがその腕を離そうとするが非力な彼女ではそれは叶わず

 

「ん? 何ソイツの手なんて持っちゃって……やっぱ遊びたいんじゃん?」

 もう一人がそう言ってアビガストの手をとった

 

「や、やめろ……! その子に手を出すな……!」

 必死にそう言ってみたがこの高い声と震えのせいで全く迫力が出ず、それどころか三人組はゲラゲラと笑い始めた

 

「何? 脅してるつもり? 全然怖くないんだけど?」

「いいじゃんいいじゃん。お姉さんが良いって言えば悪いことはしないって」

「そうそう!ちょっと遊ぶだけじゃんか」

 どうしようこのままじゃ……

 

 マルデュークならきっと「下等な生物の分際でアタシに話しかけるなんて良い度胸ね!」とか言って三人を八つ裂きにするだろうけど……

 

 そんな事を考えると手にエネルギーが集まってじんわりと熱くなるのを感じた。

 きっと身体が思った通りの事をしようと力が手に集まってきてるんだ。

 いやダメだ! そんな事やったら騒ぎになるし……何より俺は人殺しなんてしたくない……

 

 うう……どどどうすればいいんだ……早く考えないと……せめてアビガストだけでも助ける方法は……

 思考を巡らせていると

 

「あっ、こんなとこに居た! おーい」

 聞き覚えのある声がこちらに近づいてきた。

 

「つ……月影瞬!?」

 声の方に目をやるとそこには装鋼騎士シャドーVX……月影瞬が笑顔でこちらに向かって走ってきているではないか!

 

そりゃこの町でアビガストと出会う筋書きがあったんだから居て当然だったんだ。

 でもなんでこっちに来てるんだ!?それも俺を知ってる感じで…もしかして俺がアポカリプス皇国の女幹部マルデュークだと知って!? 

「何お前? 俺達これからこのお姉さんと楽しいことしようとしてるとこなんだけど」

 

「ごめんごめん待たせちゃった。 あの……この子達は俺と待ち合わせしてたんだけど? さ、行くよ!」

 瞬はあっという間に俺と三人組の間に割って入ると俺とアビガストの手を引いて走り出した。

 

「おいちょっと待て!」

訳もわからないまま瞬に手を引かれ3人組の姿がどんどん遠くなっていく。

一体俺たちをどこに連れてく気なんだ?

 

「えっ、ちょ……ちょっと!!」

「いいから! 俺にちょっとだけ合わせてください」

 瞬は俺の不安もよそに耳元でそう囁いてくる。

 

 その時俺の身体にゾワゾワとなにかが走り、鼓動が徐々に高まっていくのを感じた。

 しかしそんな事などお構いなしに瞬は俺とアビガストの手を引いて走っていく。

それからしばらく瞬に手を引かれ、三人組が見えなくなる事を確認すると瞬は立ち止まる。

 一体俺とアビガストをどうするつもりなんだ…?

 

「ふぅ……ここまで来たらもう大丈夫かな?ごめんなさいお姉さん達、急に知り合いのフリしてそれに手まで引いちゃって。もうこれでアイツらは追っかけて来てないですよ。」

少し身構えていたが瞬は笑顔でそう言った。

 

そこに敵意や疑念は感じられずただただ俺たちを助けてくれたようだ。

 

「えっ ?助けてくれたんですか?」

「ええ。お姉さんもその子も困ってるみたいだったし俺、困ってる人が居たら放っておけないんです。今回はちょっと強引でしたけど」

 

 どうやら俺の正体はバレていないようで、それどころか単に困っていそうだったから助けてくれたなんてやっぱり月影瞬は俺のあこがれのヒーローだ。

 ……そんな瞬の笑顔に俺の胸はさらに高鳴り顔が熱くなるのを感じた。

 何? この感じ……走ったからか……? 

 

「あ、ありがとうございます……助けていただいて」

「あっ、そうだ。お姉さん俺の名前知ってたよね?どこかで会ったことありましたっけ?」

 

 マズい……! とっさに口から出てしまったが俺が瞬の事を知っているのは不自然だし受け答えによっては俺の正体がバレてしまうかも……

 

「えっ!? あ、えーっと……新聞とかでお見かけしたことあったんで……」

「あー……そっか…良く事件現場とかに居合わせるんですよね最近……それでインタビューとか受けてたからそこでかな……ところでお姉さん? 俺の方もやっぱりなんか貴女の事見覚えある様な気がするんだけど…………」

 

 そう言って瞬が急に俺の顔を覗き込んできた。

 しゅ……瞬の顔がこんな近くに……! 

 

 ああやっぱり近くで見てもかっこいいなぁ……でもなんだろう……じっと見つめられてたらなんか恥ずかしいし……まるで頭が沸騰する様に熱くなっていく。

 それになんだ……なんか身体の奥のほうがきゅうってなって……

 だ、ダメだ……! このままじゃ俺変になる……!! 

 

「ご、ごめんなさいっ! 助けてくれたことは感謝してますっ!! でも今日のことは忘れてください!さよならっ!!」

 俺はとっさにアビガストを連れて一目散にその場を逃げ出した。

 

「はぁ……はぁ……」

 俺一体どうしちゃったんだろう……? 

 

「マルデューク様……大丈夫ですか? まさかあんな無礼な地球人が居るとは思いませんでしたね……特に後からでてきた四人目の地球人……マルデューク様にあそこまで無礼な態度を取るとは……」

 

 どうやらアビガストはなんともないらしい。

 

「えっ、あの……しゅ……じゃない四人目の人の事……?」

「ええ。不遜で最低だと思います。ヘラヘラとしていて私のいちばん苦手な人種です」

 あれ……? 装鋼騎士シャドーVXで最初にでアビガストが瞬と出会った時の印象は「温かい感じがして自分までそうなっている気がする」だったはずなのに寧ろそう感じているのはどちらかと言うと今の俺の方で…

 

 もしかして……アビガストと瞬のフラグが立たなかった代わりに俺と瞬の間にそういうフラグが立ってしまったのか!? 

そんな…

 いや……俺はこんな身体だけど一応男で……

 

俺が瞬の事…確かにずっと前から好きで憧れてはいたけどこんな感情じゃ無くて…

これじゃあまるで本当に女みたいだ。

 

 俺の目下には大きな胸とゆらゆら風で揺れるスカート、それに両手いっぱいの女性ものの服……

 

 これじゃ男だって言っても説得力が無いし何より俺……今日一日ずっと女として楽しんでたじゃないか……

 俺……心までマルデュークに……女になってきてるのか……? 

 そんな不安は結局解消されることはなく、俺とアビガストは指定された路地裏へたどり着き、再び転送装置でアポカリス要塞へと戻った。

 

そして自室に戻り一気に疲れが出た俺は又を大きく開いてソファーに座り込む。

 

「はぁ……疲れた……」

「マルデューク様……地球調査の任務お疲れさまでございました」

「え、ええ……ありがとう」

「ふわぁ……あっ!申し訳有りませんマルデューク様の前でこの様な粗相を」

 アビガストが大きなあくびをしてとっさに口を手で隠して頭を深々と下げてきた。

 

 そりゃ徹夜した上見ず知らずの異星で一日連れ回されたんだし疲れて当然だよな

「気にしないよ。疲れたよね?ごめんねアビガスト……一日中連れ回してそりゃあくびの一つくらい出る……わよ」

 

「……いえ。マルデューク様のあんな楽しそうなお顔……久しぶりに拝見でたので私もうれしい……です。 それではそろそろ御湯の用意を……あっ……」

 

 アビガストは立ち上がるとバランスを崩してしまう

 俺はとっさに彼女を受け止めた

「す……すみません……少しめまいがして……役たたずでごめんなさい……」

 アビガスとは必死で身体を起こそうとする。

 

 なんだかその姿が痛ましく思えた俺は

「アビガスト? シャワーはもう少し後でいいから。少し休憩しましょう?」

「……いいのですか?」

彼女に告げると申し訳無さそうに尋ねてきたのでソファーの隣に座らせた。

「ええ。今日は一日付き合ってもらったお礼」

「ありがとう……ございます……それではもう一つ良いですか?」

「ん? 何かしら?」

「少し……もたれかからせていただけませんか……」

アビガストがマルデュークに甘えるような事を言うなんて思わなかったので俺は一瞬驚いた。

 

それにここ何日か少しずつではあるけど彼女の表情が豊かになってきたように思える。

「え、ええ……良いわよ?」

 俺がそう言うとアビガストは俺の方に身体を預けてきた。

 

 ああ……アビガストの髪の匂いがする……

 いい匂いだなぁ……

「ありがとう……ございます……」

 それからしばらくしてアビガストは可愛らしい寝息を立てて眠ってしまった。

 

「相当疲れてたんだな……お休みアビガスト。今日は一日ありがとう俺のことも助けようとしてくれて…」

 俺はそんなアビガストを優しく撫でる。

 

 これから本当に俺がテレビで見ていた装鋼騎士シャドーVX通りに未来が進んでいくのかそうならないのかはわからない。

 

 でも俺が俺で居られる間だけでもアビガストを悲しませないって決めたじゃないか。

 

 こうしてアビガストと一緒に居られるその間だけはこの幸せを噛み締めていたい。

それにこうしてアビガストの見たことのない表情や一面を見ることが出来ているのは少なくともマルデュークではなく今の俺じゃないと出来なかったことだと思う。

 

「ふわぁぁ…」

 

 気持ちよさそうな彼女の寝顔を見ていたらつられて大きなあくびをしてしまった。

流石に若くて地球人よりも多少身体能力の高いこの身体とはいえ一日中動き続けたからか流石に疲れてきたし安心したらどっと眠気が襲ってきたのだ。

 

 でもこの疲れはどこか心地よく悪い気はしない。

 

「アビガスト……俺も……良いかな……?」

 

 俺は聞こえないくらいの声でアビガストにそう言った後、寄りかかってきている彼女に身体を預けゆっくりと目を閉じ、そのまま眠りへと落ちていった。

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