冴えないアラフォーリーマンが壊滅一直線の悪の組織の女幹部に転生した   作:ゔぁいらす

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第三話 氷の剣士対VX

「クハハハ! もうこの世にVXは居ない! この星は我々アポカリプス皇国の物となるのだ!」

 

 高笑いを浮かべ勝利を確信するのはアポカリプス皇国の怪人グラギム。

 剣の名手であるグラギムはなんとあのVXを初めて戦闘不能に追い込んだ怪人だった。

 VXを下したことで地球をアポカリプス皇国の侵略から守る者が居なくなり、遂にこの星はアポカリプス皇国の手に落ちるかと思われたその時……

 

「そこまでだアポカリプス! お前達の企みは俺が許さない!」

 

 体中に傷を負いながらどこからともなく現れたのは装鋼騎士シャドーVXこと月影瞬だ。

 

「生きていたのか月影瞬……いやVX!」

 

 瞬はグラギムに倒され変身を解除させられた上崖から転落したのだが奇跡的に木に引っかかり一命をとりとめていたのだ。

 そして彼は傷つきながらも再び自分を下した強敵グラギムの前に立ちはだかる。

 

「俺は影……この世界に光ある限り消え去ることはない! 行くぞ! 転ッ……装……VX!」

 

 瞬がポーズを取ってそう発すると身体が一瞬にして銀のボディへと変わっていき身体に血管のような赤いラインが走り頭部に緑の輝きが灯る。

 

「装鋼騎士シャドーVッXッッッ!」

 こうして月影瞬は装鋼騎士シャドーVXへと転装を遂げ高らかにその名を叫んだ。

 

 彼の転装までにかかる時間は0.02秒にも満たない。

 

 では、その転装プロセスをもう一度見てみよう。

 

「転ッ……装……VX!」

 拳を突き上げポーズを取り転装と叫ぶ二段階の認証によって左腕に埋め込まれたエンペラージェムが活性化。

 

 体組織が急激に戦うためのものへと変化していき戦闘を補助する為の鎧であるヴァーテックスクロスがエンペラージェムから出力され瞬の身体を包み悪と戦い人々を護る戦士装鋼騎士シャドーVXへと身を変えるのである。

 

 倒したはずの相手を前にグラギムは持っている剣を力強く握って震わせた。

「死にぞこないめ! 今度こそその首、マルデューク様の手土産にしてくれる!」

 

「望むところだ! 来いグラギム! 招雷デモンカリバー!」

 

 剣を構えるグラギムに対しVXは左腕のエンペラージェムが埋め込まれたブレスレットから魔剣デモンカリバーを引き抜くように呼び出しそれに応戦し、剣を交えながらの死闘を繰り広げる。

 

 子供の頃の自分ならそんな無敵のヒーローを戦闘不能にした怪人へのリベンジマッチなんていう激熱な展開、胸を高鳴らせ目を輝かせてブラウン管に食いついて見ていただろう。

 

 しかし今の俺はそんな気分にはなれなかった。

 

 俺が昔より大人になってしまったからなのか? 

 

 いや違う。

 

 二人の戦いは子供の頃テレビ越しで見ていた時よりも迫力があり白熱しているように思える。

 

 しかし二人が剣を交える度俺の胃がキリキリと締め付けられていくのだ。

 

「頼むグラギム死なないで……」 

 俺の口からはそんな言葉が漏れ出していた。

 

 

 毎週訪れる怪人の死。

 これは悪の組織に属する物ならば避けては通れない道なのかもしれない。

 

 しかしこうして部下を死地に追いやる事が本当に正しい事なのか? 

 その疑問に答えを出せず結局俺は悪の女幹部として彼を……グラギムを子供の頃見た筋書き通りVXと戦わせてしまっている。

 その事実と徐々にVXに押されていく彼を見る度罪悪感で押しつぶされてしまいそうだ。

 

 しかし地球を守るためにもVXにも負けてほしくない。

 そんな2つの相反する感情が俺の中で渦を巻いていた。

 

 願わくばグラギムにも死んでほしくない。

 こんな事少し前の俺なら考えすらしなかったはずだ。

 なんたって毎週怪人はヒーローに倒されて当たり前なのだから。

 

 しかし彼の人となりを知ってしまった以上そんな当たり前が当たり前でなくなってしまったのだ。

 

 

 

 グラギムと初めて言葉をかわしたのはこの戦いの4日前のことだった。

 

「ふわぁぁぁ……よく寝た」

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 俺は大きくあくびと伸びをしながら目を覚ます。

 

 その日は偵察という名目で地球へ行ってから数日が経った頃で、地球の事をまとめたレポートをイビール将軍に提出し終えた達成感でいつにも増してぐっすりと眠ることができいつも以上に寝覚めは良好だった。

 

 快眠できた理由はもう一つある。

 アポカリプス星人には寝間着の概念が無く、基本裸か普段着のまま寝ている様なので流石にあんな服のまま寝るのは服が邪魔だし裸で寝ても寝返りを打つ度乳首が布団に擦れるしで一度気になってしまうと落ち着いて寝るどころではない状態だった。

 

 そこで地球で買ったジャージを着てみた所前世ぶりに感じる懐かしい地球の生地の肌触りはとても心地よく、アポカリプス皇国の生地はそんなジャージと比べるとゴワゴワとした肌触りその落差からかそんな高級なものを買ったわけでもないのに凄まじく上質な生地に感じてしまう。

 

 それに袖のある服の安心感と温もり……そんなものに包まれているとびっくりするほどぐっすり眠れたのだ。

 

 自分の身体のサイズなんて把握していなかった上地球に行けたのが嬉しすぎて前世の身体に合わせたサイズのジャージを試着もなしに数着買い込んでしまったのだが、もちろんメンズでは今の俺の身体とサイズが合うはずもなく下は履けたものではなかったのでこうして下着だけ身につけ、その上にジャージを羽織っている。

 

 これでは本末転倒な気もするが今までよりは幾分もマシでジャージの偉大さを身を以て感じたのだった。

 

「うん。やっぱりこっちの方が着心地いいや。間違えて男の時のサイズで買っちゃったのは誤算だったけど……そろそろ着替えるか」

 

 女性経験が恐ろしくないからなのかそれだけ年をとって血圧が高めだったからかはわからないが毎朝毎朝目覚める度に女の裸を見るのも俺には少々刺激が強い物があったがもうそんな無駄なドキドキとはこれでおさらばだ! 

 

 俺はベッドから降りて意気揚々とあいも変わらず変わったデザインの鏡の前に立つ。

 

 するとそこには当たり前だがぶかぶかなジャージを素肌に身につけた美女が映っていて……

 

 これはこれで裸より不健全に見えるというか……

 

 いやぁそれにしてもこの着心地は懐かしさを感じるしなによりついでに買ったこの女性用の下着……もうそれ以上に変な服を着まくって居たから抵抗はあまりなかったけど凄く肌身を包み込むみたいでなんか安心するんだよなぁ……

 

 はっ……! いかんいかん

 

 なんで俺ブラジャーとショーツつけてこんな気分になってんだ……? 

 俺はこんなナリになっちゃったけど中身は40近いオッサンなんだぞ!? 

 

 これじゃあただの変態じゃないか……体感では少し前まで起きる度くたびれたオッサンが鏡に写ってたんだぞ? 

 

 鏡の前に映る下着姿のマルデュークを見ていると脳裏に薄ぼんやりと前世の俺のだらしない身体で寝起きの間抜け面が浮かんだ。

 

 それもいま身につけている女性用下着をつけた姿の俺が……

「っぷっ! おろろろろろろろろろろろろ!!!!」

 

 我ながら最悪な事を思い浮かべてしまったせいでせっかく気持ちいい目覚めだと思ったのに最悪の目覚めになってしまった。

 

 すると部屋の扉が勢いよく開かれ

「マルデューク様無許可で部屋にはいるご無礼お許しください! どうなさったのですか?」

 

 すごいスピードで救急箱(の様なもの)を持ったアビガストが飛んできた。

 その箱の中には名状しがたい触手のようなものからなにかの目玉、それに見るからにヤバそうな形をした葉っぱ等様々なものが入っている。

 おそらく漢方薬的ななにかなのだろうがあんなものを口に入れるなんて考えたくもない。

「い、いや……ごめん! なんでもないんだ……じゃなかったなんでも無いわよ!」

 俺は必死にアビガストにそう伝える。

 

「しかし先程嘔吐をしたようなお声が聞こえましたので……」

「ほ、ほんとになんでも無いの! 今日もいつもと変わらず健康美麗なマルデューク様よ?」

 

 ……言ってるこっちが恥ずかしいしいつもと変わらずってのも多少語弊があるかもしれないが変に心配されるわけにも行かないし……

 

「しかしお身体に何かあってからでは遅いのです。 少し前にあれほどの大怪我を負われたばかりなのですからもしご不調でしたらすぐにおっしゃってくださいませ。 私には常備薬をお出ししてお体にいい料理を作る程度しかできませんが……」

 

 彼女の目は心底俺を心配しているように見えてしょうもないことでえずいたこっちが申し訳なくなってしまう。

 

「い、いや……本当になんでも無いのよ? ほら! アタシはこんなに元気なんだから!」

 

 健康に気を使った食事なんていって得体の知れないものを食べさせられたらそれは逆に正気度が削られそうだし彼女を心配させないために軽く体を動かして見せると思ったより軽やかに体が軽やかでこの体の若さを肌身を持って感じるし、体を動かす度に胸が少し揺れてもブラジャーのおかげでいつもの服より胸が揺れないし引っ張られる感覚も多少はましになってるし地球のブラってすごい! 

 

 というのを身を以て実感した。

 

 ……って宇宙人の女の身体になって地球のブラジャーの凄さに関心してるってどんな状況なんだよ俺……

 

 なんだか今の動作が虚しくなりそうだったので俺はそれ以上考えるのを止めたがアビガストは大丈夫だと思ってくれるだろうか? 

 

「左様でございますか。 マルデューク様がそう仰るのでしたら…… それでは今朝のご朝食も準備しておりますのでどうぞこちらへ」

 

 恐る恐る彼女の顔を見てみるが彼女は表情一つ変えずに俺をじっと見つめていそう言った。

 

「え、ええ。いつもありがとうねアビガスト……」

 

 アビガストに連れられ俺はだだっ広い部屋にぽつりと置かれた一人用の席に座るとアビガストが今日の朝食を運んでくる。

 

「わ、わぁ〜……今日も美味しそうね いただきまーす……」

 

 テーブルに置かれた料理や飲み物はどれも相変わらず食べ物だとは到底思えないアバンギャルドなものばかりで、少し前に地球で久々に慣れ親しんだ食事を食べたこともあり尚更そのドぎつい見た目に抵抗感を覚えてしまう。

 

 しかしアビガストがせっかく作ってくれたものを残すわけにも行かず恐る恐る料理を口に運ぶと……

 

「お、美味しい……」

 

 そう。どう見ても食べ物に見えないものばかりなのだが食べてみると恐ろしいほど美味しいものばかりで、初めの頃は食事を食べるだけでも相当気合が必要だったのだが、最近は少し余裕をもって食べることが出来るようになっていた。

 

 それにしてもいつも一人で食べるっていうのも寂しいな……

 

 たまには親睦も兼ねて戦闘員たちと食事を共にするとかどうだろう? 

 いや寧ろ俺が逆の立場なら怖い上司と一緒にメシなんか食いたくないか……

 

 そんな事を考えながら俺は料理を完食する。

 

「ごちそうさまアビガスト。 今日も美味しかったわ」

「私には勿体ないお言葉でございます。 それでは御支度お手伝いいたしますね」

 

 こうして食事を食べ終えアビガストに衣装を着せてもらっている間にマルデュークとしての日課のスキンケアとメイクを終わらせたが、まだ髪の手入れが残っている。

 

 この髪、めちゃくちゃ長くて手入れが本当に時間かかるし面倒なんだよな……

 

 風呂に入る時はちゃんと毛先まで洗わなきゃいけないし髪が湯船に浸からないように気を使わなきゃいけないし……

 

 寝る前と朝起きてからも櫛で研いだりヘアオイルを塗ったりと相当な労力がかかっているのだ。

 

 それを少しでも手入れをさぼろうものならすぐにゴワついてしまって絡まって痛いし何より格好が悪い。

 

 男の頃は多少髪がはねていても気にしなかったが女幹部として戦闘員や他の幹部達に見られる手前、今はそういう訳にもいかないのだ。

 

 朝起きて寝起きのくたびれた顔を見ながら髭を剃るという面倒な作業は無くなった代わりにスキンケアに化粧に髪の手入れと朝は男だった頃の何十倍も忙しい。

 

 女の人って毎朝これなんだもんな……電車の中で化粧する気持ちもわからなくもない様な……

 

 アビガストには面倒をかけてばかりなのも悪いと思って入るもののこれだけの作業を毎朝こなすのにはなかなかにキツい。

 

 そこで俺はせめて髪の手入れだけでもアビガストに手伝ってもらえないかと尋ねてみた。

 すると……

「御髪……ですか? しかしマルデューク様……以前私が御髪に触れた時、汚らわしい手で御髪に触れるな……と」

 アビガストはそう伏目がちに言った。

 

 やっぱりそうかーッッ!! 

 どこまで酷い女なんだよマルデューク! 

 

 こんな可愛い子の手が汚いわけ無いだろ!! 

 

 

 通りでアビガストが全く俺の髪に触らない訳だよ!! 

 

 そんな事をマルデュークが言っていたのなら尚更早く撤回しなくては

 

「アビガスト……ごめんなさいねそんな事を言って……貴女は全然汚くなんてないわよ。むしろすごく綺麗な手をしてるくらいよ。誇りなさい」

 俺は彼女の手を取り優しく撫でる。

 その手は白くか細く、嫉妬したくなる程つややかな肌をしていて汚いなんて以ての外だ。

 

「し、しかし私は……身よりもなく貧民街で長らく過ごしていた身……そんな私めが貴女様のお美しい御髪に触れるなど」

 それでもアビガストは手を僅かに震えさせている。

 余程以前髪を触った時にひどい仕打ちを受けたのだろう。

 

「自分で言っといてなんだけどそんな事気にしないで! なにせアタシが毎日三食しっかり料理を作らせてる貴女の手が汚いわけないじゃない! だから勝手だけどもう一回お願いさせて? アタシの髪を梳いてくれないかしら?」

「良いのですか?」

 俺がそう頼んで頭を下げるとアビガストはキョトンとした顔でそういった。

 

「もちろんよ! アタシなんかよりずっと女の人の髪のことは分かってるでしょうし」

「マルデューク様…… はいっ! このアビガスト……この命にかえてもやり遂げてみせます!」

 

 その時アビガストの表情が僅かに変わったような気がして、彼女は櫛を手に持ちふんと強く鼻息を吐く。

 

「もうっ! そんなにかしこまらなくっても良いの。 それじゃあお願いするわ」

「それでは、恐縮ですが失礼いたします……」

 

 アビガストは深く頷くと俺から櫛を受け取って髪を毛先まで優しく梳かしてくれた。

 

 なんだろう……他人に長い髪を梳かされるなんて今までにない経験だしドキドキするな……

 

 鏡に写ったマルデュークは視線を泳がせ挙動不審になっていたがアビガストはそんな事も気にせず真面目にそして必死で丁寧に俺の髪を整えていく。

 

 その手さばきはさすがというかまるで頭を撫でられているように心地の良いもので……

「はぁっ……マルデューク様の御髪を私が……なんてしなやかでお美しい……それにいい匂いも…………こほん…………いかが……でしょうか?」

「うん! 気持ちいいわよアビガスト。 明日からもずっとお願いしても良い?」

「私が……ですか?」

「ええ。前にアナタはアタシしか居ないって言ってたわよね? アタシにだってアビガストしかメイドは居ないんだから!」

「私……だけ…… 私だけ……はいっ……このアビガスト。僭越ながら御髪のお手入れを今後とも承らせて頂きます!」

 

 アビガストはその言葉を噛みしめる様につぶやきながら最後の仕上げをしてくれた。

 

「はい……出来上がりました。 いかが……でしょうか?」

「おお……なんだかいつもよりキレイかも…………」

 仕上がった髪はいつも以上に艷やかに見え、自分の赤い髪に見とれていた。

 

 そりゃ男の俺がやり方もうろ覚えで見えもしない後ろ髪を手探りで櫛で梳かすより髪の扱いを知ってる女の子やってもらったほうが綺麗にまとまるよな……

 

「ありがとねアビガスト。それじゃあ今日も行ってくるわ!」

「はい。行ってらっしゃいませマルデューク様。 今夜も御夕食を用意してお待ちしておりますので」

 そう言ってアビガストは俺を見送ってくれたので、俺はいつもよりしっかり決まった髪をなびかせながら今日も幹部同士の会議へと向かった。

 

 

 ……そして会議室へ向かう道中長い廊下を歩いていると一度ジャージと下着の生地の心地よさを覚えてしまったからか今まではなんとも思わなかったのに着ている服の肌触りが気になってしまう。

 

 この服ゴワゴワしてて着心地もあんまり良くないし露出度高いし一回地球の服着ちゃうとやっぱり落ち着かないよなぁ……

 

 でも流石に下着とジャージで会議に出るわけには行かないし我慢しなきゃ

 

 そんなことを思いながらラウンジの前に通りかかると……

 

「チィー……? だっけ?」

「違う違うこれはカーンだろ?」

「いやトゥモーって言ってなかったか?」

 

 戦闘員たちの声が聞こえるのでそちらに目をやってみると以前より賑やかになったラウンジでは戦闘員達が机を囲っていたので、まだ会議までは少し時間もあるし戦闘員達とのコミュニケーションも兼ねて行ってみることにした。

 

「みんなおはよう! どうかしたの?」

 

 そう声をかけると一斉に戦闘員たちはこちらを向いて姿勢を正す。

「はいっ! おはようございますマルデューク様!! 今日も一段とお美しゅうございます!!」

「その通りでございます!」

「本日も健康美麗であらせられますっ!!」

 戦闘員たちは必要以上に(マルデューク)を褒め称えた。

 いやぁ俺じゃなくてマルデュークが褒められてるとは言えこうして聞いてると悪い気はしないなぁ。

 

 そんな事を思っていると自然に顔がニヤついていた。

 というか健康美麗って戦闘員たちからも言われてるって事は自分でも言ってたのかよマルデューク……

 

 いや、今は一応俺自身がマルデュークな訳だし無意識のうちにそんなマルデュークの記憶から出た言葉なのかも……? 

 っとそんな事今はどうでもいい。

 

 彼らは口ではそう言いつつもやはりまだマルデュークを恐れているのか体を強張らせ小刻みに震えていて、

 恐怖政治をこれまで敷いてきたのだから彼らから恐怖心を取り除くにはまだまだ時間がかかりそうだと感じた。

 

「もう……そんなにかしこまらなくても良いのに。最低限の礼節だけわきまえてれば今は自由時間なんだしもっと楽にしてていいのよ?」

 

 体を強張らせる彼らを見るのは個人的にも前世の上司に詰められる自分を思い出して精神衛生上も良くないし必要以上に気を使わせるのも忍びないので俺は緊張を解すため笑顔で言うと彼らの体の緊張がほんの少し和らいだ気がした。

 

「少し楽にしたくらいで態度が悪いとか怒ったりしないから安心して? それでどうかしたの? なにか困っているみたいだったけれど?」

「はいっ! 我々、マルデューク様から頂いたこのマー・ジャンというゲームを解析しているところでありまして……しかしこれが揃ったときになんと言えば良いのか地球語がイマイチわからず……」

 

 戦闘員達が囲んでいた机には麻雀の牌が並べられていた。

 

 この麻雀は広いとは言え閉ざされた宇宙要塞の中ではマルデューク用に用意された数える程度の娯楽しか無く、命をかけて毎回戦ってくれている彼らに何か楽しめるお土産をと思って何個か遊べるものを買っておいたものの一つだ。

 

 彼らの飲み込みの速さは眼を見張るものですぐにルールは覚えた様だがどうやら言語の問題が立ちふさがったようで……

 

「えーっとね……これはロンね。すごいじゃない! 数え役満よ!」

「ロ・ン……ですか! カゾエ……? と、とにかくお褒めに預かり光栄です! ありがとうございます」

「いやぁしかしこれ下等な遊びだと思ったんですが結構燃えますね!」

「単純ですが奥が深いと言いますか……しかし何故マルデューク様は地球の娯楽をご存知なのですか?」

「えっ!? あ……えーっと……」

 

 まずい……前世が実は地球人の男で学生の頃よくやってたなんて言っても信じてもらえないだろうしそんな事言ったらどうなるかわからないし……

 

「あ、アタシくらいになればこれから侵略する星の下調べくらいするわよ! 遊びから侵略作戦のヒントが得られるかも知れないでしょう?」

 

 ……なんて適当な言い訳で信じてもらえるかな……? 

 

「すげぇ! 流石は我々アポカリプス皇国の作戦参謀! これから滅ぼす種族のこんな些細な事までリサーチしているとは……」

「マルデューク様流石です!」

 戦闘員たちは目を輝かせて俺を讃えてくれた。

 

 これが俗に言う前世知識をひけらかしてあれ……? 俺今なんかやっちゃいました? 

 ってヤツか? 

 バカバカしいと思ってたけど当人になってみると悪くない……というか結構気持ちいいなこれクセになりそう……

 

「ま、まあね? これでも一応作戦参謀だから……なんだか見てたらアタシも久々にやりたくなっちゃった! 一局どうかしら? 負けないわよ〜?」

 

 こうして戦闘員たちと麻雀をやることになったのだがゲームが進む度だんだん目の前の戦闘員の顔が青くなっていく。

 

「あ……あの……」

「ん? どうしたの?」

「い、いえ……あの……ですね……? 大変申し訳無いんですがこれはロ・ン……という奴……ですよね?」

 俺が安牌だと思い南を切ったのだがそれを切った途端彼は申し訳無さそうに字牌だらけの手牌を見せてきた。

 

「こ、国士無双……!! え、ええ……ロンね」

「もももも申し訳ありません……! 私程度の者がマルデューク様に勝ってしまうなど!」

「お、おい……! 俺もロ・ンだったの隠してたのにお前何やってんだ?」

「私も先程ロ・ンになってたのをマルデューク様に譲ったのにお前ってやつは……!!」

 国士無双で上がった戦闘員を残り二人の戦闘員が責め立てる。

 なんでこいつら麻雀始めて数日で俺よりそんな強いんだよぉ! 

 

「えっ……それじゃあ……役作れてなかったの俺……じゃないアタシだけって事?」

 

「「「申し訳ありませんっっ! 命だけは!」」」」

 俺が尋ねると戦闘員たちは血相を変えて頭を下げてきた。

 

 よっぽどマルデュークを負かして何かされるのが怖かったのだろう。

 わかる……わかるよその気持ち。

 

 死ぬわけじゃなかったけど接待で無理矢理ゴルフに連れて行かれた時、取引先の偉い人にうっかり勝っちゃった時はそりゃもう大変だったし……

 

 会社のためとは言えなんでわざわざ少ない休みにやりたくもない事に駆り出されてで気まで使わなきゃいけないんだって話だよ。

 

 それに近いことを俺は戦闘員に知らずのうちに強いってたって事になるし第一そんな変な気を使われてたらこっちも面白くないしなぁ……

 

「そんなゲームで負けたくらいで命まで取らないわよ。それよりルール無視してリーチとかロンの申告しないほうがダメよ?」

 

「……へっ?」

「お許しくださるのですか?」

 俺の言葉に戦闘員達はきょとんとした。

 きっとマルデュークは退屈しのぎに戦闘員と何かしらのゲームをやって負けたら癇癪を起こしてその戦闘員を粛清してたんだろうなと言うのがひしひしと感じられ俺は罪悪感に苛まれる。

 

 しかしそれじゃダメだ。

 せっかく過酷な労働の息抜きをしてもらう上地球の娯楽を楽しんでもらうチャンスなんだ! 

 そこで変な気を使わせたり怖がらせてたら何の意味ないじゃないか! 

 

「当たり前じゃない。 ゲームなんだしそんな事気にしないで楽しみましょ? アタシも久々に遊べて楽しいし!」

「本当ですか?」

「マルデューク様……負けることが何よりお嫌いだった貴女様が我々にその様なお心配りを……」

 

「だから言ってるでしょ? 心を入れ替えたって。 さ、もう一局やりましょ? 次はアタシが勝つから! アナタ達も手を抜かないでかかってきなさい!」

 

 そうだ。

 これまでは少し手を抜いていただけで、どれだけ本気で来られようが数日前に麻雀を覚えたての初心者宇宙人が経験者の俺に勝てるわけがない。

 

 それならば本気を出してもらってやっと張り合いがあるかどうかというところだろうと俺は高をくくり大見得を切った。

 

 そうしてもう一局……

 

「ぐぬぬ……」

 

 更にもう数局打ったのだが結局俺は一度も和了ることもできずにボロ負け。

 嘘だろ……アポカリプス星人恐るべし…………!! 

 これが賭け麻雀じゃなくてよかったと心底安心した。

 

「はぁ……まさか普通に飛んで終局するとは……」

 俺はせめて麻雀の先輩として一泡吹かせるつもりがこてんぱんにやられてしまいがっくりと肩を落とす。

 

「も、申し訳ありませんマルデューク様……」

「いいいいい命だけは!」

 やはり戦闘員達は恐怖を滲ませていたので、俺はそんな彼らに笑顔を向けた。

「いいのいいの。久々にやれて楽しかったし勝ちは勝ちよ。経験者を負かしたんだからちょっとは誇りなさい?」

 

「そう……ですか」

「ところでマルデューク様? 久々って言ってましたけど前にどこかでこれをやったことがあるんですか?」

 

「えぇっ……!?」

 しまった! 久々の麻雀が楽しくて普通に自分がマルデュークだって事を忘れて喋ってた……

 

 どうすりゃいいんだ……? 

 でっち上げるにしても変なこと言ったら更に悪化しそうだし

 

「あ……あの……えーっと……あーいっけな〜いそろそろ会議が始まっちゃう〜! 付き合ってくれてありがとう! それは好きに遊んでくれていいからまたやりましょうね〜」

 

 俺はわざとらしくそう言って逃げるようにその場を立ち去り会議へと向かったのだが会議室までが遠い上いつも使っている通路がメンテナンス中で通れず遠回りするはめになってしまった。

 

 そしてやっとのことで幹部たちの揃う部屋にたどり着き

 

「も、申し訳ありません! 遅くなりました!!」

 まだ時間に余裕はあるはずだったが、会議室へ向かう廊下が尋常じゃないほどに複雑で迷ってしまい僅かに遅刻してしまう。

 

「おせーよマルデューク。 また大して変わりもしねぇ化粧に無駄な時間をかけてたのか?」

 部屋に入るや否やジャドラーが皮肉交じりな一言を飛ばしてきた。

 

「最近マシにはなってきたが3分の遅刻だ。短いとは言え遅刻は遅刻だぞマルデューク。 今日はお前が指揮を執る作戦についての会議なのだぞ? それでは皆に示しが付かぬだろう」

 

 うう……まさか来世でも遅刻で怒られる事になろうとは……

 でも怒鳴り散らされたりしないだけまだマシか……

 

「はっ……はい! 申し訳ございませんイビール将軍……」

 

「わかったならばよい。 では今週の地球侵略、そしてVX打倒作戦についてだが……マルデュークよ。とうとう貴様の番だな」

 

 そう言えば今日はとうとう俺が作戦指揮を執る番だった。

 でもなんで週一なんだろう? 

 

 それこそこんな要塞があるんだから一気に怪人を呼び出して数と圧倒的な力で侵略してしまえば流石にVXと言えどひとたまりもないと思うんだけど……

 

「あ、あの……イビール将軍?」

「なんだマルデューク」

「どうして作戦の間隔は週一なんでしょうか……? いっそ一気に怪人を呼び出して地球に攻め入ってしまえばいいのでは……」

 その言葉を聞いた他の幹部達が俺をバカにする様にゲラゲラと笑い始めた。

 

「グハハハハ! おいおい今更何を言ってやがるんだよ! やっぱりVXの野郎に切られた時に頭でも打ったんじゃねぇのか?」

 

『今更その様な質問をするなどやはりゲニージュの記憶力(ストレージ)の低さには呆れますね』

 

「フン……それが出来ていれば我がヴェアルガルの軍勢が今すぐにでもあの星を手中に収めておるわ」

 

 俺なんか変なこと言ったのか……? 

 

 イビール将軍の方に目をやると彼も頭を抱えていた。

 

「ゴホン…… マルデュークよ本当に忘れたのか?」

「えっ……? は、はい……すみません」

 

「一度しか言わぬぞ? 確かに攻め落とすだけならば我々アポカリプス皇国の軍事力があれば容易いことなのかもしれない。しかし我々の目的はあくまであの星に移住すること。大々的に攻めようものなら人類も軍事力を以って反撃を仕掛けてくるだろう。そうなればこの星もアポカリプス星同様汚染が広がり住めなくなってしまうやもしれん。それを皇王様は危惧しておられるのだ」

 

「そ、そうだったんですか……」

 

「それに我々とてエネルギーは有限ではない。アポカリプス星から怪人一人を転送するには太陽系地球時間周期で一週間程度を要するのだ。どうだ? もう二度とは言わぬから決して忘れるでないぞ?」

 

 なんだかんだ言ってちゃんと教えてくれるイビール将軍はやさしいなぁ……

 務めてた会社で分からないことを少しでも質問しようものなら「そんな事自分で考えろ!」とか怒られるし黙ってたらそれはそれで「そんな事も分からないのか?」とかのダブルスタンダードで尚更怒鳴られてたし……

 

 それにしても週一でしか動けない理由ってそんな世知辛い理由だったのか……

 

「ところでマルデュークよ、作戦は考えてきたのか?」

 

「へっ!?」

「貴様の身体に傷をつけた相手に復讐ができるのだ。さぞ凄惨で容赦のない作戦なのであろう」

 そうだった。今日の本題はマルデュークの地球侵略作戦についてだったな。

 というか将軍! 無駄にハードル上げないで!! 

 

 えーっと確か侵略の障壁、そしてマルデュークに傷を負わせたVXを倒す為わざと目立った行動をしてVXをおびき寄せて氷系最強を自称する剣士怪人グラギムと戦わせるって計画だったような……

 

 グラギムはその剣技と氷の力で一度はまんまとおびき寄せられたVXを倒すんだけど結局倒しきれてなくて負けちゃうんだよなぁ……

 

 ひとまずその通りに話を進めさえすれば今は問題ないだろう。

 

 その計画を会議で話し終えると部屋に置かれていた転送装置に光が灯り、光の中からゴツゴツとした鎧をまとったような怪人グラギムが現れる。

 

「アポカリプス皇国一の氷の剣士グラギム、馳せ参じました。 この剣に誓って必ずやVXを打ち取り勝利をマルデューク様……いえアポカリプス皇国へ捧げましょう」

 グラギムは現れるや否やこちらに跪いた。

 

「フン! 俺たちの精鋭ですら勝てなかった相手に腰抜けのゲーニジュ如きが勝てるわけねぇだろ」

 

 ジャドラーはそんなグラギムを鼻で笑うと彼は剣をグラギムに突き立てる

「貴様のようなケダモノ風情が我らを愚弄するとは……ならばこの場でどちらが上か試してみるか?」

 

「グハハハハ! 鎧と武器がなけりゃ何もできねぇ腰抜けのクセに笑わせるぜ。今すぐ格の違いって奴を思い知らせてやっても良いぜ?」

 ジャドラーは更に挑発を続け一触触発の状況になったのだが……

 

「やめんか貴様ら!」

 

 イビール将軍の一喝で辺りが静まり返りグラギムは剣を収めジャドラーも不満そうに舌打ちをし、そのまま会議はお開きとなった。

 

 ここまではテレビで見た通りの光景だ。

 テレビでは場面が転換して即座に作戦決行当日になるのだが今はそうもいかない。

 一体俺はそれまで何をすれば良いんだ……? 

 

 ひとまずグラギムと共に部屋を出て頭を悩ませていると

「マルデューク様、お怪我を負われたと聞きましたがもうよろしいのですか……? おおその傷……おいたわしや…… マルデューク様の玉体に傷跡をつけるなどVXという輩! 許してはおけませぬな!」

 突然グラギムが話しかけてきた。

 

「あ、これ? 大丈夫大丈夫! 傷は残っちゃったけどお陰様ですっかり元気よ?」

 

「お陰……様? 私は何もしていませんが」

 

 アポカリプス星にはそう言う文化はないのか……ど、どうしよう

 

「あ、えーっと…… ほら! 心配してくれるだけで嬉しいなーって……あははは……」

 

「私がその場に居さえすれば貴女様にこの様な傷を負わせることも無かったかと思うと悔やむに悔やみきれません……! その傷を負わせたVXを必ずや私が仕留めてみせます。あの式典で初めて貴女様にお会いしたその時から貴女様にこの身を捧げる覚悟はできております」

 

「えっ!?」

 式典……? 

 

 なんだそれ? 俺の記憶にはそんなものは当然無い……のだがマルデュークとしての記憶を思い返してみてもそんな式典どころかグラギムの顔も名前すら出てこない。

 

 そう言えば本編ではずっと怪人の事はお前呼びだった気がするけど……

「お忘れですか? この私に爵位とこの剣を与えてくださったあの時のことは決して忘れることはできません! その爵位に恥じぬよう剣を振るわせて頂きます」

「えっ?」

 そんな事あったのか? 尚更訳がわからない。

 もちろんテレビで本編を見ていた時にそんなシーンは一つもなかった。

 

 それどころかマルデュークとして生きてきた記憶にもそんな記憶は……

 必死で思い出そうとすると薄ぼんやりとそんな記憶があった。

 ただただいくつかの式典で着た衣装のことだとか式典はとても面倒だったとかの記憶が。

 

 そんな人と合うのが面倒だとかこの衣装が気に入らなかったなんて記憶はポンポンと出てくるのだが全くグラギムどころか今後出てくるであろう怪人たちの顔や名前などが全く思い浮かんでこない。

 

 もしかしてこれって……

 

 子供の頃読んでた児童向けテレビ番組雑誌テレビワールドのマルデュークの解説に【マルデューク脳:自分のことと悪いことしか考えていない】みたいな事が書かれてたけど誇張なしでほんとにそうだったのか!? 

 

 マルデュークって奴は相当自分が好き……と言うより自分以外に興味がないのだろう。

 

 通りでグラギムや他の怪人に関して何も覚えていない……と言うか覚える気が無かったんだろうな。

 

「マルデューク様……? お考え事でしょうか?」

 

「え、ううん! なんでも無いのよ? どうやってあの憎きVXをやっつけてやろうか考えてただけよ」

 

「それならばお任せください! 我らゲニージュを代表して私がVXを倒す事で我々が如何に優れた種族であるかを他のケダモノや鉄屑共に思い知らせてやりましょう。そして御身にその傷をつけた罪を命を持って贖わせてやるのです!」

 

 グラギムは拳をぎゅっと握り声高にそう宣言してみせた。

「う、うん……」

 この後負けるのがわかってるだけになんか複雑だな……

 

 そしてラウンジの方に差し掛かるとその光景を見たグラギムは驚いた様子だった。

 

「な……何故戦闘員がマルデューク様専用のラウンジを占拠しているのですか!? なんと無礼な! そのたるんだ根性、このグラギムが叩き直して……」

「ちょっと待って! あー……あのね? 流石に一人で使うには広いからいつも頑張ってくれてる戦闘員達に開放したの。もちろんグラギムも使っていいのよ?」

「し、しかし……」

 戦闘員相手に剣を抜こうとしたグラギムに事情を説明してなんとか静止する。

 余程マルデュークが部下にこれほど情をかけるというのが異様な光景だったのだろう。

 それではいけない。

 

 きっとこれから転送されてくるゲーニジュ部隊の怪人たちからも冷徹なイメージを持たれているのだとしたらそのイメージは払拭していかないと……! 

 

「良いの良いの! アタシ一人で使うには寂しい場所だったしこれくらいしてあげたほうが士気も上がると思って」

「そう……ですかマルデューク様がそう仰られるなら」

 恐らく予想に反して和気あいあいとした雰囲気を見たグラギムは困惑しているらしい。

 

 すると戦闘員が一人こちらに寄ってきて

「グラギムさん! グラギムさんじゃないッスか! 次の作戦担当はグラギムさんなんスか!?」

 一人の戦闘員がこちらに向かって走ってきた。

 

「ああワグか、久しいな。 だが少し見ないうちに腑抜けたようだな? 戦いの真っ只中だと言うのに何をしているのか 私が稽古をつけてやっていたときの緊張感はどこへ行ったというのだ? それに貴様は……」

 どうやらこの戦闘員はグラギムの知り合いらしく身の上話が始まり……

「ほう……貴様はそれでこんなにも腑抜けになったというのか?」

「そんな事無いッスよ! 確かに今は休憩中ッスから休んでますけどちゃんと訓練だってやってるッスよ! 寧ろ設備がたくさん使えるようになって俺たち今までより効率的に訓練できるようになってるんス! これも全部マルデューク様のお陰なんスよ!」

「何? マルデューク様がお前達の様な者たちにまでそのようなお慈悲を向けられたというのか?」

「い、いやぁ〜それほどでも……」

 グラギムが驚いてこちらに向き直ってきたのでなんだか照れてしまう。

 そんな俺をワグと呼ばれた戦闘員がじっと見つめていて……

「ま、マルデューク様! 僭越ながら一つお願いを聞いていただいても良いッスか?」

「おい! 貴様如きがマルデューク様にその様な口を利くなど無礼が過ぎるぞ! やはりこれ以上の狼藉は戦闘員たちの規範にも関わります……ここは私が!」

 戦闘員が何やら言いたげだが幹部に意見するなど言語道断とばかりにグラギムは怒りを滲ませた。

「いいのいいの! 聞くだけならタダなんだし! で、何かしら?」

 俺はそんなグラギムをなだめて戦闘員の言葉に耳を傾ける。

 

「お、俺たちグラギムさんに強くなったとこ見せたいんス! それとせっかくグラギムさんが来てくれて俺嬉しいんスよ! だからグラギムさんの歓迎会とかできないッスかね……?」

 

 その言葉を聞いたグラギムは怒りを顕にした。

「お前! ここは戦場の前線基地だぞ? 何をたわけたことを! やはりこの環境に甘んじて腑抜けになったようだな……その腑抜けた根性このグラギムが叩き直して……」

 

 戦闘員がそんな事を言い出すなんて思いもしなかったが、きっと彼はグラギムの事を相当尊敬している様だし俺もグラギムが実際はどんな奴なのかテレビで切り取られた部分と昔怪人図鑑で読んだ説明くらいでしか知らないしグラギムを知るチャンスかも知れない。

 

 それに俺も久しぶりに大勢で食事もしてみたかったし、グラギムの人となりももう少し言っておきたい。

 

 それに心は痛むがVXに倒されることはほぼ確定しているようなものなのでせめて少し位いい思いはしておいて欲しいというそんな軽い気持ちからグラギムをなだめて戦闘員の申し出を受け入れる事にした。

 

「ああちょっとグラギムそんな怒らないの! 歓迎会かぁ……もちろん良いわよ! やりましょう!」

「し、しかしマルデューク様私めの為にその様な事……」

「気にしないで! アタシももっとグラギムの事知りたいし」

「私の事を……ですか?」

「ええ! 明日から忙しくなるんだから今日くらいはパーっとやりましょ! おーいみんなー? これからグラギムの就任歓迎会をやるわよ〜」

 グラギムは乗り気でなさそうだったので俺がラウンジの戦闘員に声をかけると戦彼らはわらわらと集まってくる。

 

「歓迎会ですか!?」

「飲んでも良いんですか!?」

「宴じゃー!」

「頑張ってれば良いことってあるんですね! VXの野郎にボコボコにされた甲斐がありましたよ!」

 戦闘員たちは嬉しそうに声を上げる。

 そんな喜ぶ彼らを見ていると自分まで嬉しくなってしまう。

 やはり、日夜アポカリプス皇国の野望のためせっせと働く彼らに対しても労いは必要だ。

「ええ今日は飲んでも良いわよ〜! ま、仕事に差し支えない程度にね!」

 

 俺がそう言うと戦闘員達から歓声が上がり、グラギムの歓迎会をすることが決まった。

 

 そうと決まれば善は急げと俺や戦闘員達はグラギム歓迎会の準備を進めた。

 

 食料はアビガスト曰くマルデューク用の食材やらお酒が大量に倉庫で圧縮保存されていて、地球時間で約50年分くらいの貯蔵があるらしいから少し拝借しても良いだろう。

 

 早速食料倉庫を管理している戦闘員に掛け合って戦闘員全員分の料理が用意されることになった。

 

 更に流石毎週毎週各幹部発案の作戦準備や雑用に駆り出されているだけあって戦闘員たちはとても手際よくスムーズに歓迎会の準備を進めていき……

 

 

 ラウンジのテーブルには料理が並べられ、俺とグラギムを中心に戦闘員達が集められた。

「えーこほん……それではグラギムの着任と我々の勝利に……乾杯っ!」

 俺が乾杯の音頭をとるや否や戦闘員たちは乾杯を終え料理に手を付け始める。

 

 彼らはレーションのようなものを要塞に来てからずっと食べていた様で、久しぶりに料理らしい料理を食べたからなのか戦闘員の中には涙を流す者もいた。

 

 生活環境だけじゃなく食事もなんとかしてあげられないかなぁ……

 

 しかし横にいるグラギムだけは一向に料理や酒に手を付けようとはしなかった。

「グラギムは食べないの?」

「彼らがあんなに楽しそうにしているのを見るのは初めてでして……少々驚いています。それにやはりまだ戦果も何も上げていないのにこの様な催しを開かれるなど私にはそのような資格などありません」

 

 

「いいじゃないの楽しそうにしてるならそれで。ほら、グラギムも早く食べないと無くなっちゃうわよ? それにアナタが計画を成功させたその時はもっとぱーっと祝勝会をやればいいのよ! だから遠慮しないで? アナタが遠慮したらせっかく準備してくれた戦闘員たちも楽しめなくなっちゃうわ」

 

「は、はいそれではマルデューク様のお言葉に甘えて……」

 

 次の瞬間グラギムは頭に手をかけると突然頭部がぽろりと外れ、中からブロンドヘアで目鼻立ちの整った中性的な青年の顔が現れた。

 

「えっ!? そ、それ取っちゃっていいの? 中の人出ちゃってない?」

「はい……? マルデューク様何をおっしゃっているのですか?」

 驚く俺を見て青年は首を傾げる。

「い、いやその……それって脱げるやつなの?」

「脱げるも何もこれは鎧ですからね」

 そう言って取り外した俺のよく知るグラギムの頭部をコンコンと叩いて見せら。

 

「そ、そうなんだ……」

「そう言えば素顔をお見せするのは初めてでしたか。 そんなにジロジロ見られては恥ずかしいです……」

 

 そうか……普通に考えたらマルデュークだけ人間そっくりの顔してて他のマルデューク陣営の怪人だけゴツゴツした怪物なのも変な話だもんな……

 

 じゃああのおどろおどろしい怪人とかもあれ仮面というか鎧なのかな……? 

 そう考えると他の怪人はどんな素顔をしているのか俄然興味が湧いてきた。

 

 食事を取り始めたグラギムに話を聞いた所ゲーニジュ陣営の怪人は皆魔力を強化、補助したり他の種族に劣る身体能力を補う為鎧を身にまとっているものの中身はマルデュークや戦闘員たち同様地球人と外見はさほど変わりない事を教えてくれた。

 

 

 まさかゲーニジュ陣営の怪人たちの正体が実は人間と余り変わりなかったなんてこの事実をシャドーVXが知ったらストーリーとかがらりと変わっちゃいそうだけど大丈夫なのかな……

 流石にそんな事を聞かれたグラギムには変な顔をされたがそこはパーティーの雰囲気で雑にごまかした。

 

 みんなで食べるとこの見るからに地球人の感性だと食欲を削がれるような見た目の食事も味は悪くないので勢いで食べることができた。

 それに酒のつまみにする珍味にしては相当上等なものなのだろう。

 食べる度に酒が進んでいき、気づけば手が止まらなくなっていた。

 

 そしてグラギムの歓迎パーティーは数時間に及び……

 

「うへへぇ〜グラギムぅ……なんか俺気持ちよくなってきちゃったなぁ〜」

 俺は完全に出来上がってしまっていた。

 

 アポカリプス星の酒はなかなか悪くなく、更にこの身体がそこそこ酒に強かった様で結構な量を飲んでしまいもはや取り繕う事すら忘れて久しぶりに酔っ払ってしまったのだ。

 

「ま、マルデューク様? それ以上飲むのはお身体に触りますよ?」

「触るぅ〜? うへへぇ〜グラギムも男だもんなぁ〜ほらほらぁ〜俺のおっぱい触ってもいいぞ〜ほれほれ〜」

 頬を赤らめるグラギムを見ていると酔っ払った影響で気が大きくなってしまったのか今の自分がナイスバディの美女であることを自慢したくなり、気づけばチラチラと際どい衣装から自分の体をグラギムに見せつけていた。

「ちょ! マルデューク様!? 戦闘員たちも見ているのですよ! それ以上はいけません!」

 グラギムは顔を真っ赤にして抵抗する。

 

 なんだかその反応が可愛らしく思えて俺の中で何かが更にエスカレートしていく

「グラギムが触んないならぁ〜 はーいマルデューク今から脱いじゃいま〜す!」

 俺がそう宣言すると同じく相当酔っ払っているであろう戦闘員たちから歓声とマルデュークコールが沸き起こる。

 

 それがとても気持ちよく更に乗り気になった俺は気がついたらテーブルの上に立って一糸まとわぬ姿になっていた。

 

 脱ぎ上戸ではなかったはずだけど多分このスケベな身体を見せびらかしたくなってしまったんだと後で思った。

 

 その時の戦闘員たちの羨望の眼差しや必死に隠そうとするグラギムの姿が面白くてたまらなかったのだがそれから後の記憶がどんどんぼやけていき……

 

「うう寒っ……はっ!」

 寒さで意識がはっきりした時には見知らぬ部屋が視界に広がっていてズキズキと頭が痛んだ。

 多分二日酔いだ。

 

 この寝覚めがダルい感じは俺がまだ男だった頃以来の少し懐かしい気もしたが、できればもう感じたくは無かった感覚だった。

 

「いてててて……流石に飲みすぎちゃったな……うっぷ……気持ち悪…………

 この身体でもなるんだな二日酔い…………いくらなんでも羽目を外しすぎたか…… ? 変なボロとか出してなきゃ良いけど……ってかここは一体どこだ……?」

 辺りを見渡すとそこは人が住んでいるとは思えないほど殺風景な個室だった。

 

 部屋の奥の方に灯りが灯っていてそこから何やら物音がしたので俺は恐る恐る重い体を持ち上げた。その物音のする方をこっそりと物陰から見つめるとそこでは金髪のイケメンが何やら鍋で得体の知れないものをグツグツと煮込んでいる。

 ……というかなんで俺と同じ部屋にあんなイケメンが……? 

 

 もしもしかして俺……酔った勢いであんなことやこんな事を!? 

 何が起ったのかも分からないが裸で男と同じ部屋に居るなんて本当に酔った勢いでやることをやってしまったのか!? 

 

 いくら女の身体になったからって男となんてそんな……

 

 いやいやいや! 俺まだ童貞すら卒業できてないんだぞ!? 

 いや童貞卒業はもうこの身体じゃもうできそうにないんだけど……

 

 そんな事を考えながら疑惑のイケメンを見つめていると彼は一口お玉のようなもので鍋からスープを一口味見してにっこりと笑った。

 

「よし! これで良いだろう。マルデューク様のお口に合うかどうかは分からないが……」

 その声には聞き覚えがあった。

 

 グラギムだ。歓迎パーティーで鎧を脱いだらあんな感じの顔だったんだ。

 じゃあここは怪人用の部屋って事か……? 

 

 ということは俺……グラギムと一緒に寝ちゃったって事!? 

 これって相当なスキャンダルなのでは……

 どどどどうしよう……

 

 声をかける勇気もなくただただ鍋を見つめるグラギムを見ていると彼の視線がこちらに向いて目が合い俺は思わずその場で尻もちをついてしまう。

「うわぁっ!」

 

「ま、マルデューク様? お目覚めになられたのですか? 相当お飲みになられていましたので……」

「え、ええ……おはようグラギム」

 今更意味もないと思うが俺は立ち上がって女幹部マルデュークとして取り繕って見せた。

 

 しかし記憶がない間にあんな事やこんな事をしてしまったと思うとグラギムを見ているだけで心臓が破裂しそうなくらいに脈打つ。

 

 これはもう興奮とかじゃなく恐怖に近いモノだと思う。

 だって女になってしかも記憶にないうちに男に犯されたなんて考えただけでもう訳がわからない。

 

 というかマルデュークとしての記憶を巡らせてもそう言った記憶が全くと言って良いほど無かったのも恐怖心を煽る一因になっている。

 マルデュークはどうやら処女だったどころかそういった性的な知識が全くもって無かったのだ。

 

 あんな格好してるくせに処女だったのかという驚きと同時にヒーロー番組のキャラクターとして健全なんだなとも思えた。

 しかし一糸まとわぬ姿で男と一夜を過ごした訳だし……俺……グラギムに処女を……? 

 

 いやいやいや俺何も覚えてないしそんないくらなんでも勢いで男に股開くなんて……

 そう考えると血の気がさっと引いていくのがわかった。

「マルデューク様? どうなさいましたか? 深刻な顔をされて……? 二日酔いでしょうか?」

 そんな俺を心配したのかグラギムはこちらを見つめてくる

「きゃぁっ!」

 顔のいい男に見つめられた俺は自分でも驚く程胸がキュンとしてしまい思わず可愛らしい声をあげてしまう。

 お、落ち着け俺……こ、これはただ急に顔が近づいて驚いただけで決して男にときめいたわけじゃ……

 そ、それよりグラギムにどうしてこうなったのか状況を確認しなければ……

 まだ酔った勢いで女として一線を越えたかどうかもわからないし……

「グラギム? あ、あの……アタシその……昨日一体どうなっちゃったのかしら……? その……一緒に寝たりとか……」

 

「い、いえ! 勘違いなさらないでください! 私ごときがマルデューク様の玉体を汚す様な真似恐れ多くてできません! これはただ……マルデューク様が私から離れないまま寝てしまわれたのでそのままにする訳にも行かずマルデューク様の部屋に入るためのロックも解除できないので誠に勝手な判断で恐縮ですがこうして自室でお休みになっていただきました……ご無礼をお許しください」

 グラギムはそう言って深々と頭を下げた

「えっ……? あー……そう……なんだ…………ふぅ………………」

 よかったぁぁぁぁぁ俺まだ処女のままかぁぁぁ! 

 グラギムの言葉を聞いて安堵感が俺を包む。

 

 ……って何を安心てるんだ俺は……

 でもせっかくなら処女は瞬に捧げたいし……

 って違う違う! 何考えてんだ俺! 

 

 俺はこんな身体にはなったけど男なんだぞ!? 男とそんなことするなんて……

 俺が脳内で男と女の間で揺れているとグラギムは再び心配そうにこちらを見つめてくる。

 

「どうされましたマルデューク様? やはりお体の調子が優れないのでは……?」

 ま、マズい……ハメ外して部下に心配掛けるなんて幹部失格だ……

「う、ううん? 違うわよ!? ちょっと考え事してて……」

「考え事……? もしやお休みになられている間のことを心配されているのですか? ご安心ください。 ただでさえ狭いベッドですし寝ている間に何かあってもいけないので私はずっと起きて軽く鍛錬をしておりました」

「グラギム……」

 

 テレビで見ている限りグラギムは誇り高い剣士を自称するだけの怪人だと思っていたが本人は相当俺に気を使ってくれているらしいし貞操観念もしっかりしている様で安心した。

 

 ああ……こんな部下前世でも欲しかったなぁ……

「見ていてくださいマルデューク様! 私は必ずVXを倒します! もちろんマルデューク様にその様な傷を負わせた程の相手に私如きが勝てないとおっしゃりたかったのかもしれませんがそれでも私は勝って貴女の傷の恨みを晴らしあの星を第二のアポカリプス皇国にしてみせます!」

 

「ん……? おっしゃった? あの……アタシ昨日なにか言っちゃった?」

「覚えていらっしゃらないのですか? 無理はありませんね。アレだけ酔っ払っていたのですから……」

 

「……で、アタシなんて言っちゃったの?」

「え、それはその……私はVXに勝てない……と」

 少し言葉を濁してグラギムはそう言った。

 しまった! 

 そりゃグラギムがやられる所を知ってるんだしなにかの拍子にその事を口走ってしまったらしい。

 

 なんてことだ……そんな次の戦場でお前死ぬんだぞなんて相当なパワハラじゃないか……! 

 それにあんな宴会の場でそんな事言ったら雰囲気も盛り下がるだろうし……

「ごめんなさいグラギム! 俺……じゃなかったアタシそんなつもりはなくて……」

 

「いえわかっています。油断するなと仰りたかったのですよね? マルデューク様がお厳しいと言うのは評判で伺っておりますからその程度お気になさらないでください。それどころか私の歓迎会を開いてくださったり戦闘員たちからもあの様に慕われて評判などアテにならないほど優しい御方だとすら私は感じました。それに私自身自分の剣の腕を過信ていた事を貴女の言葉で再確認させられたのです。ですから少しでも剣の精度を上げられる様作戦決行までの短い間ではりますが私は更に修練に励む事にいたしました」

 

 どうやらグラギムは好意的に受け取ってくれた様だ。

 今回はどうにかなったけど今後妙なことを口走らないように気をつけなきゃ……

 

「え? う、うん! そうよ! 油断大敵って言うでしょう? 気を抜かずに頑張ってVXを倒しましょうね!」

「ええ! もちろんですとも!」

 俺は心にもないことを勢いで言ってしまった。

「はい! もちろんです! ところであの……」

 そんな俺の言葉に威勢よく頷いた後、グラギムは遠慮がちに俺から目をそらす。

 

「ん? 何かしら?」

「枕元に置いてありますからそろそろお召し物を着ていただけないでしょうか……? その……私とて一人の男ですから昨日のようなはしたなことは……」

「えっ……? いやぁぁんっ!」

 そうだった……昨日素っ裸になったまんまだったし寝る時に服を着る風習がないから裸のままだったんだ! 

 グラギムに裸を見られている事が急に恥ずかしくなった俺は俺は顔を真赤にしてまた自分でもびっくりするような甲高い声を上げて布団で身体を隠した。

「ご、ごめんなさい! すぐ着替えるから……ちょっと待ってて頂戴」

 そのまま逃げるようにベッドの方へ行くとマルデュークの衣装が丁寧に畳まれていたのでそそくさと身につける。

「ふぅ……ごめんなさいね。アタシもあんなに楽しい飲み会は久しぶりだったから」

「いえ、私めの為にあのような催しを開いてくださり私も、戦闘員一同も感謝しております。マルデューク様、こちら二日酔いに効く私の故郷の料理ドヒツォイテです。昨晩の料理の残り物の有り合わせで作ったのでお口に合うかどうかはわかりませんがもしよろしければ……」

 俺が服を着たのを見計らったようにグラギムは先程まで鍋で煮詰めていたドロッとしたセメントのようなものをカップに入れて出してくれた。

「あ、ありがとう……」

「それでは私は鍛錬がありますのでお先に失礼します。まだ赴任したてでなにもない部屋ではありますがマルデューク様が落ち着かれるまでここにいらしていただいてかまいませんので。 それと昨日のことは忘れるようにと戦闘員には私の方からキツく言っておきますので……それでは失礼いたします!」

 

 そう言うとグラギムは鎧を着て部屋を飛び出し、俺とグラギムが用意してくれたスープのようなものだけが残される。

 

 でもこれどうするんだ……? どう見ても固まる前のセメントかドブ水だぞ? 

 でも昨日散々迷惑かけた上にせっかく作ってもらったのに無下にする訳にもいかないし……

 

 俺は恐る恐るグラギムの作ったスープのようなものを口に運んだ。

「おい……しい」

 思わずそう呟いてしまったが、そのスープは匂いが少しキツかったものの口の中にはどろっと濃厚な味わいが広がり悪くない味で目が冴えるような感じがしてぽかぽかと身体が芯から暖まり、全裸で寝ていて冷えた身体に染み渡るようだった。

 

 グラギムの作ってくれたスープを飲み終え、さすがにここに長居する訳にもいかないと俺はカップを片付け自室へ戻ることにした。

 

 マルデュークの疑り深い性格からかマルデュークの部屋へ通じる通路は彼女とアビガスト以外が居ると開かない様になっている。

 

 だからグラギムは自分が入ることができてかつしっかり横になって眠れる場所として仕方なく俺を自分の部屋に連れて行ったのだろう。

 

 はぁ……しっかし昨日は羽目外しすぎちゃったかなぁ……今後は気をつけないと……

 自分をそう戒めながら部屋のロックを解除し、あいも変わらずおどろおどろしい内装の部屋へと足を踏み入れた。

「ただいまー……」

 部屋に戻るとアビガストが俺の腹に飛びついてくる

「うわぁっ! あ、アビガスト!?」

 

「おかえりなさいませマルデューク様! どこかお怪我はされていませんか? それに酷い目にお遭いになったりもしていませんか……?」

 アビガストは昨日帰ってこない事を相当心配してくれていた様で少し申し訳ない気分になってしまう。

 

「し、心配かけてごめんなさいねアビガスト。ちょっと飲みすぎてそのまま寝ちゃっただけだから大丈夫よ?」

「そう……ですか。 マルデューク様は以前に飲みの席の邪魔をするなと仰いましたのでお待ちしておりましたがいくらなんでも帰りが遅く私は何かあったのではととても心配で心配で……」

 彼女の声は少し震えているように思えた。

 

「ご、ごめんなさい……今度からは気をつけるから……ね? ずっと待っててくれてありがとう」

 俺はそんな彼女の頭を優しくなでてあげた。

 彼女に抱きつかれて身体のダルさが少しマシになった様に思える。気のせいだろうか? 

 

 そしてアビガストは昨日からいつ帰ってきても良いようにと風呂の用意をしてくれていたのでひとっ風呂浴びることにした。

 

「……本当に俺……何もされてないんだよな?」

 少し心配になった俺は下腹部に手を伸ばして鏡に映そうとしてみた。

 この間も触ろうとしたけど爪が長くて少し爪が当たっただけで凄い事になっちゃったんだよな……

 

 でも確認はしておきたいし……

 いやでもいくら女の体になったからって男としてそんな事するのはどうなんだ……

 いやいや寧ろ男なら気になって当然じゃないのか? 

 

 そう脳内で自己弁護と自己批判を繰り返しながら胸の鼓動がそんな脳内の思考をかき消すほど大きくなっていき、俺は指を下腹部に這わせていく。

 指が近づいていく度に更に胸の鼓動が早くなり、とうとう股間に指が達した。

「っっ……!」

 また爪を引っ掛けない様にゆっくり指で開くようにするまでは良かったのだがなんだか急に自分が今は紛れもなく女であることを感じてしまいそれが怖くなって鏡を直視することができなかった。

 

「クソッ……俺ヘタレにも程があるだろ……でも……」

 生唾を飲み込み意を決して鏡に映る今の自分の姿に視点を合わせたのだが一瞬見たところでまた鼻血が出そうになったのですぐに手を離して鼻を押さえる。

 

 あれだけアビガストに心配かけた上また鼻血出してぶっ倒れて要らない手間をかけさせるわけにも行かない。

 

 惜しい気もしたが俺はこれ以上変なことを考えないよう大急ぎで風呂を済ませ、いつもの朝の日課であるスキンケアとメイクを済ませて新しい衣装に着替えて朝食を取りマルデュークとしての仕事に向かった。

 

 以前の俺なら二日酔いで働こうものなら二~三日は後を引くくらいに調子が悪くなった俺だがこの体のお陰かグラギムのスープが効いたのかなんとかその日を乗り越える事ができた。

 やっぱり若いって良いなぁ……

 

 それから作戦決行までの数日間グラギムといろいろ話したり特訓に付き合ったりしているうち、更にグラギムの印象が変わってきた。

 

 最初は強敵とは言え所詮1週間で使い捨てられる悪の怪人という先入観があったのだが、実際は誠実でストイックだが意外に気さくなところもあって少々真面目で厳しいものの戦闘員たちからの人望もある良い奴だということがわかってきたのだ。

 

 彼と共に過ごして本編では知ることの出来なかった人となりを知る度にこのまま見殺しにして良いのだろうかという疑問が自分の中で大きくなっていく。

 

 そして彼がVXに倒されるという事を知っていながらそれを彼に告げる事も、だからといってグラギムを助けるために何かしてやることもできないままとうとう作戦決行当日を迎えてしまい……

 

「それではVXの首を手土産に持って帰ります! 行くぞ誇り高きアポカリプス皇国の戦士たちよ! 我々の修練の成果VXと地球人共に見せつけてやろうではないか!! アポカリプス皇国に勝利を!」

 グラギムが声を上げると戦闘員たちも鬨を上げ、今までとは比べ物にならないほど士気が高まっているのを肌身で感じた。

 

「では行って参りますマルデューク様。必ずや貴女様に勝利を捧げてみせましょう」

「グラギム!!」

 勇んで転送装置に向かおうとするグラギムの背中を見た俺は呼び止めずには居られなかった。

 

「マルデューク様? どうされたのですか?」

「……ううん。頑張ってね! アナタならきっと勝てる! なんせアタシが授けた剣と鎧なんだもの、きっとその剣がアナタに勝利をもたらしてくれるわ」

 俺は気づけばそんな出任せで彼を鼓舞していた。

 これから死にに行くことになる相手にだ。

 それがどれだけ残酷なことか理解しながらも真実を伝える勇気など俺にはなかった。

 

「もちろんですとも! 行くぞお前達! 我々の誇りにかけて! グニア! アポカリプス!!」

 グラギムはそう高らかに声を上げ、同調する戦闘員たちと共に打倒VXの命を遂行するため地球へと向かっていく。

 

 本当は「やばくなったら逃げていい」とか「死なないでね」とかそんな言葉をかけてやりたかった。

 

 でも彼や戦闘員たちの今日までの努力や彼の戦士としての誇りに泥を塗る様でそんな優しい言葉をかけてやる事はできず、結局俺は無責任な言葉で彼を死地へと送り出す事になってしまった。

 やっぱり俺……本当に上に立つのに向いてないんだな……

 結局気の弱い万年平社員の俺に悪の組織の女幹部なんて向いてないんだろうか……? 

 

 そして俺は部屋に戻り地球での彼の姿を前にやったように水晶玉に意識を集中すると、そこにVXをグラギムと戦闘員が見事な連携で圧倒する様が映されていて……

 

『クッ……この怪人今までの奴とは違う……』

 テレビで見ていた時にはこんなセリフは無かったような気がするのだがVXは目に見えてグラギムに押されていて、とうとうVXは崖っぷちに追い詰められグラギムの凍結能力で身動きがとれなくなりピンチに陥った。

『フンッ! 貴様の力任せな小手先だけの剣では私達は倒せんッ! この私には大義がある! VX! これで終わりだァ!!』

 グラギムはVXをほぼ完封する形で倒しVXは崖から落ちていく。

 

 本来は結構拮抗した戦いのはずなのだがその戦いは正に圧勝だった。

『やった……! 俺たちVXを倒したんスね!』

『これであとはこの星を俺たちのモノにするだけだ!!』

 VXを倒した事を勝ち誇る戦闘員たちは口々に勝利の言葉やアポカリプス星に残した家族の事を口々に叫んでいる。

 

 その姿を見ていると本当に彼らに勝ってほしいと思う反面それがかなわない事がわかっているだけに複雑な気持ちになってしまう。

 

 VXを倒したグラギムたちは街へ進行し破壊活動を始めた。

 その惨状はテレビで見たときと同様で逃げる人々の悲鳴や子供の泣き声が街に響く

 あんな気さくに酒を飲み交わしたり麻雀に興じていたグラギムが戦闘員達が残虐とも言えるそんな行為を平然と行う様は見てはいられない。

 

 彼らにも背負っているものがあってそのための行いだというのはマルデュークになってから痛いほどわかる。

 だからといって地球の人々の平穏を奪い去る事も正しいとは言えない。

 

 何よりグラギムを差し向けたのは紛れもなくアポカリプス皇国でありマルデュークである俺自身だ。

 

 それならやっぱりグラギムを止めるべきだったのだろうか? 

 本当に正しいことってなんなんだ? 

 俺は今の自分が本当にしたいことがわからなくなっていた。

 いや。

 マルデュークになる前から俺が本当にやりたいことなんてわかってなかったのかもしれない。

 

 そんな時

『VX! たすけて!』

 そんな子供の声が破壊された街に響く。

『クハハハ! もうこの世にVXは居ない! この星は我々アポカリプス皇国の物となるのだ! マルデューク様! ご覧になっておられますか! 私達が貴女に……アポカリプスの民に勝利と栄光を!!』

 グラギムはそんな子供相手に勝ち誇るように声高に叫ぶ。

 

 その時である。

 

『そこまでだアポカリプス! お前達の企みは俺が許さない!』

 ボロボロになった月影瞬がどこからともなく現れ、子供を守るようにグラギムの前に立ちふさがった。

『生きていたのか月影瞬……いやVX!』

 

『俺は影……この世界に光ある限り消え去ることはない! 行くぞ! 転ッ……装……VX! 装鋼騎士シャドーVッXッッッ!』

 瞬が変身ポーズを取り装鋼騎士シャドーVXへと姿を変え高らかにその名を叫んだ。

『死にぞこないめ! 今度こそその首、マルデューク様への手土産にしてくれる!』

『望むところだ! 来いグラギム! 招雷デモンカリバー!』

 そんなVX相手にグラギムは刃を向け、彼も魔剣デモンカリバーを構え、2回戦が始まった。

 そして魔剣デモンカリバーをVXが取り出したのを見たグラギムは

『下がれ、あとは私一人でやる。これはヤツと私の戦いだ』

 と戦闘員を下がらせる。

『で、でもグラギムさんっ!』

『私はあいつと一騎打ちがしてみたくなったのだ。貴様らは十分戦った。後は私に任せろ。早く引け!』

 そう言って戦闘員達を引かせるとVXとグラギムの一騎打ちが始まった。

 これもテレビで見たとおりの展開だ。

 

 そして互いに剣を交えての戦いが繰り広げられる。

『あの場で果てていれば必要以上に苦しまずに済んだものを! 次こそ貴様を倒しアポカリプス皇国の勝利を確実なものとしてくれる!!』

『俺は負けないッ! この星を脅かす貴様らなんかにはな!!』

 意地と生命をかけた男二人の戦い。

 そんな熾烈を極めるその戦いを俺はただ祈って見つめる事しかできない。

「頼むグラギム死なないで……」 

 結末は知っているはずなのに俺の口からはただただ祈るようにそんな言葉が漏れ出していた。

 

 テレビで見た通りならばこの後グラギムはVXとの一騎打ちに敗必殺技であるデモンブレイクを受けて爆散。

 

 その後VXは彼の戦士としての彼の矜持を認めて話が終わる筈なのだがグラギムの猛攻はテレビで見た時以上に鬼気迫るもので手負いのVXは劣勢に追い込まれていく。

 

 このままじゃ本当にVXが負けてしまうかもしれないとすら思えるほどの猛攻で子供の頃もハラハラしたものが今はそれ以上にハラハラしている。

 VXが負けてしまえば本当に地球はアポカリプス皇国の手に堕ちてしまうのだから。

 

 そしてグラギムの猛攻を受け、とうとうVXは膝をついてしまう。

 こんなシーンは本編には無かった。

 

 このままではVXが負けてしまう。

 それが何を意味するか理解していながらも俺はそれを僅かに喜んでしまっていた。

 

『くッ……まさかこれほどとは……』

『今度こそこれで終わりだ! 死ね! VX!!!』

 グラギムの剣がVXへと振り下ろされ彼の身体を真っ二つに切り裂いた。

『クハハハハ!!! 今度こそやったぞ! VX敗れたり!』

 引き裂かれたVXを見たグラギムは高笑いを浮かべ天高く剣をかざした。

「嘘!? VXが本当に死んだ!?」

 原作とは違う展開に俺は思わず叫んでしまった。

 どうしよう……このままじゃ俺が地球人を滅ぼしたことに……

 しかし真っ二つに切り裂かれたVXはぼやけて霞の様に消え、グラギムの前に二人のVXが立っている。

『何ッ!?』

『シャドーハレイション……これを出させたのはお前が初めてだ』

「シャドーハレイション!?」

 VXの技の一つで実体のない分身を二体作り出し相手を撹乱する技なのだがそれを初めて使うのはもう少し話が進んだ後だったはずだ。

 

 しかし原作以上に追い詰められたVXはグラギムに対してそれを使った。

 つまるところグラギムはそれ程に俺の知っている作品としてのシャドーVXの話よりも強くなったということだろう。

『フンッ! そんな子供騙しでこの私が倒せるものかァ!』

 グラギムは目の前に立ちはだかった二人のVXを剣でなぎ払うが二体ともVXはゆらりと歪んで消える。

 

 シャドーハレイションで出せる分身は二体までのはずなのにたしかに最初に切られた一体を含め三体の分身をVXは作り出したのだ。

 恐らく強くなったグラギムに呼応してVX自体も更に強くなってしまっているのかもしれない。

 

『何っ? 二体とも幻影だと!?』

『俺はここだァァァァ!!!』

 グラギムの頭上から声が聞こえVXは上空からグラギムめがけてデモンカリバーを突き立てる。

『クソッ上か……こやつ太陽を背にして……!』

『デモンブレイクッッッッ!』

 一瞬の出来事だった。

 分身を囮にしたVXは空中から太陽を背にしてグラギムに生まれた一瞬の隙を突き、百発百中の必殺技であるデモンブレイクで斬りかかる。

 グラギムはそれを必死に防ごうとするがデモンカリバーは無慈悲にも彼の氷の剣を砕き、刃が彼の鎧へと到達した。

『ぐ……あぁぁぁっ…………マルデューク様ァァァァァァァ!!!』

 そしてグラギムの鎧をいとも容易くデモンカリバーは切り裂いていき、彼は断末魔の叫び声を上げ力尽きてその場で倒れた。

「グラギム!!! グラギムぅぅぅぅぅ!!!」

 崩れ落ちるグラギムを見て涙を流しながら彼の名前を叫ぶ。

「うう……グラギム…………ごめん…………俺が情けないばっかりに君を結局死なせてしまって…………」

 こうなることはわかっていたはずだがそれに直面すると涙が溢れて止まらなかった。

 

 今後も作戦の度にグラギムの様な犠牲者を出さなければいけないというわかっていたはずの事実が更に重くのしかかってくる。

「俺……一体どうしたら良かったんだよ……」

 俺はそう呟きながら水晶玉に映った一人で立つVXを見つめる。

 

『クソッ……俺が弱いばっかりにこんなに被害を……それに一騎打ちを望んだあの怪人に俺は不意打ちでしか勝てなかった……!』

 グラギムを倒したものの満身創痍の彼は変身を解くと壁に拳を叩きつけ自分の弱さに打ち震えながら、よろよろと足を引きずりながら破壊された街の奥へと消えていった。

 

 それからしばらくして戦いを終えた戦闘員たちが要塞に戻ってきたので出迎えに行くと彼らはグラギムの亡骸を囲んでわんわんと泣いていた。

 

「グラギムさぁぁぁん! 俺何もできなかったッス……グラギムさんの事……命令無視してでも助けに行くべきだったっスよぉ!」

 

 そんな戦闘員の悲痛な叫びと傷ついたグラギムの亡骸を見ると俺も罪悪感から更に涙がこみ上げてきて……

 

「グラギム……ごめん……俺の……俺のせいでこんな……」

 戦闘員に混じり声を上げて泣いた。

 するとその時……

 

「あの……少々よろしいでしょうか……?」

 そう声をかけてきたのはシャドーの斬撃で重症を負ったマルデュークを治療して助けた科学者戦闘員だった。

 

 本来であれば1話で死ぬはずだった彼が俺に声をかけてきたのだ。

「な、何……? あなたもグラギムの弔いに?」

「……いえ。まだグラギム氏は助かるかもしれません」

「……えっ?」

 その言葉に戦闘員たちはざわつく。

 

 助かる? 

 受けたら確実に死ぬデモンブレイクを受けたグラギムが? 

「それ……本当か!? ……じゃない本当なの?」

 俺は科学者戦闘員のその言葉にすがるように問いかけると彼は難しそうな顔をして……

「まだこの段階ではなんとも……しかし身体が残っていて鎧に組み込まれた生命維持システムが少しでも機能してさえいればあるいは……ともかく我々科学医療班が全力を尽くします」

 そう言うと他の科学者戦闘員も何人かやってきてグラギムを手術室へと連れて行った。

 

 それからしばらくざわついていた戦闘員たちは徐々に散り散りになって各自部屋に戻っていき、俺も作戦報告の為会議室へと赴いた。

 

「……以上です」

 作戦の一部始終を報告するとイビール将軍は悔しそうに拳を握りしめる。

「VXめ……またしても生きながらえるとは……ジャドラー! 次こそはVXの息の根を止めてみせろ!」

「おう! 次は負けねぇ。なんせ俺達は最強の種族だからな!」

 イビール将軍の命を受け継ぎの作戦は一周回ってジャドラーが再び担当することとなり、彼は自信満々にその司令を受け会議は解散になった。

 

 そして部屋を後にしようとすると

「おい、マルデューク、ちょっと待てや」

 ジャドラーから急に呼び止められる。

 

「は、はいっ!? なんでしょうか……?」

「はぁ……なんか最近のお前の喋り方調子狂うなぁ……まあそんなこたぁどうでもいい。 あいつの戦い俺も見てたんだがよ……なんつーか……残念だったな」

 てっきりいつもどおり皮肉を言われるのかと思ったが彼の言葉には哀れみが含まれていた。

 

「あいつがVXより弱ェから負けちまった。それは結果であってもう取り消せねぇことだ。だがよ、あいつの勝つことへの執念は戦いから感じ取れたぜ。腰抜けって言っちまった事は取り消させてもらう……か、勘違いすんなよ!? ただ俺はあんな戦いをしたやつを腰抜け呼ばわりしたままだと寝覚めが悪ぃと思っただけでゲーニジュを認めた訳じゃねぇからな!」

 そう吐き捨てるとジャドラーは逃げるように自分たちの区画へと戻っていった

「ジャドラー……」

 まさか脳筋で他の種族を見下す事しかしないジャドラーからあんな言葉をかけられるなんて思ってもいなかったが、今のは彼なりの優しさだったのかもしれない。

 

 あいつがそんな事を言うなんて考えられない事だったけどグラギムはたしかにあいつの心を動かすほどに頑張ったんだ。

 

 でももうその称賛の言葉を受け取るべきグラギムはここには居ないしそんな事を言われてもただただ虚しさが残るだけだ。

 その日は食事も喉を通らず部屋にこもっていたのだがグラギムの事を思い出す度涙が溢れてきて、気がつけばそのまま眠ってしまった。

 

 次の日、朝起きると涙で化粧が取れて顔が凄いことになっていたので化粧落としの重要さを身にしみて感じながら朝のルーティーンをこなして部屋を出るとあの科学者戦闘員に医務室まで来るようにと声をかけられたので以前俺が目覚めた医務室へ向かうとカプセルのような物に入れられたグラギムが目覚めないまま眠っている。

 

 そんな彼を前に科学者戦闘員はゆっくりと口を開いた。

「マルデューク様……我々は最善をつくしました……」

「えっ……じゃあやっぱり……」

 VXの必殺技を受けて生き残れるはずがない。

 

 そんな事わかってはいた。

 淡い期待なんて持つだけ無駄だったんだ。

 

 いくら頑張ったってアポカリプス皇国の未来は変わらない。

 それなら俺が今やってることだって全部無駄なんだ。

 そんな虚無感と絶望感が押し寄せる中グラギムの指がぴくりと動いた。

 

「ッ……ここは……? 私はVXにやられて……」

 次の瞬間なんとグラギムは目を開けゆっくりと起き上がったのだ。

 

「嘘……」

 

「いいえ嘘ではありません。我々は最善を尽くしました! アポカリプス皇国一の科学者である私のプライドにかけてグラギム氏の蘇生手術は成功したのです!」

 科学者戦闘員は誇らしげにそう言った。

 

 ってちょっと待てよ? 

 アポカリプス皇国一の科学者って事はマルデュークはそんな凄い人を一話で殺してたって事かよ! 

 やっぱりマルデューク余計なことしかしてないじゃないか!! 

 とにかくこの科学者戦闘員が生きてるお陰でグラギムが助かるのは何かの因果なのかもしれない。

 

 それにデモンブレイクは斬撃のエネルギーで相手を真っ二つにして爆殺する必殺技……

 本来であれば亡骸が残る事なんて無かったはずだ。

 

 科学者戦闘員によればグラギムは紙一重の所で急所を外したお陰でデモンブレイクのエネルギーを流し込まれず爆散しないで生き残ったらしい。

 

 それでも相当なダメージを負っていてここまで回復したのは奇跡との事だった。

 きっとグラギムは努力と執念でVXの必殺技を耐え抜いたんだ。

 

 やっぱり原作とは違う方向に少しずつでも現状を変えていける……のかもしれない。

 でも今はそんな事よりもグラギムが生きていたことが心の底から本当に嬉しかった。

 

「ありがとう! アタシだけじゃなくグラギムまで助けてくれて!! 本当になんとお礼を言ったら良いか……!」

 俺はこの体で初めて目覚めた時のように科学者戦闘員をぎゅっと抱きしめながら喜びの涙をながした。

「そ、そんな……私はただ自分のするべきことをしたまでですから……」

 彼は恥ずかしそうに言った。

 

 そんな俺と科学者戦闘員を何が起こっているのか分からないと言った顔でグラギムがぼんやりと見つめている。

 

「あ、あの……私は……?」

「細かいことは良いの! ああ……グラギム! とにかく生きててよかった……! 痛い所とかない?」

「は、はい……おかげさまで……しかし一体……」

 またグラギムと話ができるのが夢の様で、彼自身も自分が生きている事に驚いているらしくきょとんとしている。

 

 そんな彼に科学者戦闘員が奇跡的に一命を取り留め、蘇生手術が成功したことを伝えた。

 

「そ、そうだったのか……申し訳ございませんマルデューク様。VXに負けただけでなく賜った鎧と剣まで……この様な情けない姿では貴女に合わせる顔がない」

「良いのよそんな事……グラギムが生きてくれれば今はそれだけで……」

「そう……ですか? それならばこれはきっと貴女のおかげだ。貴女から賜った剣が私をこの世に留めてくれた。それならば拾われたこの身と命、改めてマルデューク様に捧げましょう」

 グラギムはそう言って噛みしめるようにアポカリプス皇国式の敬礼を俺に向けてした。

 

 そうとなればグラギムが生きていることを戦闘員たちにも伝えないと! 

「グラギム……よく頑張ったわね! それじゃあ戦闘員達にもアナタの無事を知らせてくるわね!」

「い、いえ! その様なお手間をマルデューク様に取らせるわけには!」

「いいからから! とにかくあなたはしばらくゆっくり休みなさい? これは命令よ!」

 ベットから降りようとするグラギムを俺は再びベッドに寝かせて大急ぎで病室を後にし、戦闘員達にグラギムの生還を戦闘員たちに伝えて回った。

 

 こうして本来の「装鋼騎士シャドーVX」では死んでいるはずのグラギムは生き残り、彼の生還を知った戦闘員達も大いに喜びんだ。

 そして生き残った彼に戦闘員たちの訓練教官という新たな役職を与え、その初仕事として前回の作戦の反省会と称し再び宴会を設け、彼と戦闘員達を労うのだった。

 

 もちろんお酒は前より少し控えめにして。

 つづく

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