冴えないアラフォーリーマンが壊滅一直線の悪の組織の女幹部に転生した 作:ゔぁいらす
グラギムが生還してから一週間が経ち、今日は毎週恒例の作戦会議で今回はジャドラーが指揮を執る番だ。
最早手慣れた朝のルーティーンを済ませアビガストに行ってきますと一言告げて今日も要塞の中心部にある会議室へ向かう。
戦闘員達に開放され以前よりも賑やかになった廊下を歩いていると
「マルデューク様おはようございますッ! 本日もお綺麗で」
そう爽やかに声をかけてきたのは戦闘員と色の違う全身タイツを身に着けたグラギムだった。
一時はどうなることかと思ったけど一命を取り留め今やそんな事も感じさせないほどピンピンしていて、何人かの戦闘員を引き連れている。
「あらグラギムじゃないおはよう。 今朝もランニング?」
「はい! 作戦がなかろうとその間怠けているわけには行きませんからね!皇国陛下、そしてマルデューク様から直々に賜った剣と鎧をあのVXに破壊されてしまったわけですからこの身一つでヤツを倒せるまでに強くならなくては……! それでは私はこれで! 日課の要塞内150周ランニングの途中ですので!」
「150周!?」
このだだっ広いこの要塞を150周も?
最近毎朝走ってるとは思ってたけどまさかそんなハードな部活の朝練みたいなことをしてたなんて……
いくらなんでも日夜雑務に勤しんでいる戦闘員達が少ない自由時間までこんな訓練に駆り出されていると思うと気の毒になってくる。
「そ、そう……ねえグラギム? 鍛えるのは良いけれど戦闘員たちの体調とかにも気をつけるのよ? これで本番に差し支えたり怪我したら本末転倒だから」
「ええもちろんですとも!」
グラギムはそう言うが結局意識の高い先輩が居ると下っ端は断るに断れなくなるんだよなぁ……
「アナタ達もしんどくなったら気なんて使わずに休むこと。あんまり無理しすぎたら逆効果よ?」
戦闘員たちにも無理をしないようにそう声をかけておいた。
「もちろんわかってるッス! まだまだ100週入ったところでピンピンしてるッスよ!」
「そうですよ。マルデューク様に待遇を良くして頂いてるのに自由時間にただ遊び呆けてるだけじゃバチが当たります!」
「このランニングは自由参加ですしまだ部屋で寝てるやつも居ます!それに何人も途中で抜けた奴も居ます。それにグラギムさんはそこまで厳しいことしないですよ。寧ろジャドラー様とかドスチーフ様の担当の作戦の時の雑用とかのほうが何倍もキツイです……それに比べたらこのくらい屁でもありません!」
戦闘員たちはもうかれこれ100週はしているというのにハキハキとした声でそう答えた。
グラギムの人望の厚さと統率力もあってか戦闘員達の士気は格段に上がっている事が見て取れ、彼らの反応を見る限り日本の体育会系のノリなんかよりはずっとマシそうで俺はそっと胸をなでおろす。
きっと今の中身が万年平社員の
そう考えると俺自身もアポカリプス皇国作戦参謀として身を引き締めないといけないのかもしれない。
「そ、そう……あなた達が大丈夫なら良かったわ。 でも無理だけはしないでね? あなた達が元気で居てくれるからこのアポカリプス皇国軍は回ってるんだから。もちろんグラギムもよ? アタシ一人じゃ戦闘員達全員の把握や管理はできないもの」
「もったいなきお言葉です。それでは我々はまだランニングの途中ですので! 失礼します! それではラストスパートだ! 我らアポカリプス皇国勝利のために! グニア・アポカリプス!」
「「「「「「グニア・アポカリプス!」」」」」」」
グラギムたちは軽くアポカリプス皇国式の敬礼をしながら勝鬨を上げとランニングへと戻っていき、俺は彼らの背中を見送った。
ああいうのって青春って言うのかなぁ……若いって良いなぁ……
って
ん? なんかよくわかんないこと言ったか俺……?
っといけないいけない。
会議に行く途中だったんだ!
また遅刻したら何言われるかわかったもんじゃないし急がなきゃ!
俺も会議に急ぐため要塞中心部へとヒールをカツカツと鳴らしながら小走りで向かった。
そして今日はなんとかしっかりと会議の時間までに間に合い会議が始まり、いつも通り厳つい面々がモニターで前回のVXの戦いを眺めている。
「前回マルデュークの作戦はVXをあと一歩のところまで追い詰めたが倒すまでには至らなかった……ここまで四参謀の作戦がことごとくヤツ一人に退けられていて皇王陛下も憤っておられる……幾多の星星を植民地にしてきた我らアポカリプス皇国軍としても不甲斐ない限りだ」
イビール将軍は深刻そうにそう呟く。
「任せてくれよ将軍! 次こそ俺たちドジャーリがあのいけ好かないVXを叩き潰す!」
そんな将軍を見て、幹部の中でも一番厳ついジャドラーはそう声を上げた。
「フン……その意気や良し……せいぜいあがいてみせるがいい」
獣のような見た目をした幹部ドスチーフはその言葉を鼻で笑いジャドラーはそんな彼を睨みつける。
「なんだとテメェ! 見てろ?今に吠え面かかせてやるからな!!」
ジャドラーは力強く言い返し今回の作戦の概要を説明し始めた。
その作戦とはジャドラーが作らせた生物置換装置のテストを兼ねたもので、街の人間を無造作に動物に変えて混乱させVXをおびき寄せるというものだった。
『ほう……アナタにしてはマシな作戦を考えましたね。 しかしその生物置換装置というのは?』
その作戦を聞いたロボットのような見た目の幹部ヘルゴラムは彼にそう尋ねるとジャドラーは何やら電卓のような装置を取り出して見せつけた。
「ああ! ゲニージュの科学者に作らせた。どうも俺たちのこの姿じゃ地球に潜伏するのも難しいだろ? 俺たちを地球人そっくりに擬態させられる装置だ。もしそんなのが出来上がったら簡単に地球に潜入できるようになるだろ? どうだすげえだろガハハハ! まだ実験ができてねぇからまずは地球人で試してやろうって思ってよォ!」
ジャドラーは得意げに高笑いを浮かべた。
『ふむ……なかなか興味深いですね。ま、我々はホログラムを使えば地球人の目を欺くことなど容易なのですが……ところでその装置の使い方はおわかりなのですか?』
ヘルゴラムのその言葉でジャドラーの高笑いはピタッと止まった。
「い、いや……ほら……ここをこう押したらなんかこうあれだよ……」
急にたどたどしい口調で手に持った装置を眺め始めるジャドラー
そう。彼は作らせたは良いものの装置の使い方を全く理解できていないのだ。
そしてマルデュークがそんな彼を見かねて協力を持ちかけて街を混乱の渦に陥れるんだけど最終的にVXには何故か装置の力が効かず怪人も倒された上置換装置をVXに奪われて動物にされた人達を元に戻されそのまま撤退を余儀なくされるっていうのが今回の話だった……はず。
でも既に死んでいるはずのグラギムが生きていたりと俺が昔テレビで見ていたとおりに物語が進んで行くわけでは無いからこんな序盤に原作から逸脱した行動を取れば下手をするとVXが負けてしまう可能性だってある訳でそれだけは避けなきゃいけないしここは一応筋書き通りに進めといたほうが良いよな……?
装置を動かすのはなんたって
そうと決まれば……!
「ふ、フンッ! アタシ達の技術で作ったものをアンタたち下等なドジャーリ如きに扱えるわけないじゃない!」
だからアタシが直々にVXをブタにでも変えて焼豚にしてやるわ!
テレビで見たマルデュークはそんなセリフを続けて手柄を横取りするためにジャドラーと渋々協力することになるんだけど……
「あァ? 今なんつった?」
「ひっ! ご、ごめんなさいっ!」
ギロリとジャドラーにドスの利いた声で睨みつけられ思わず俺は言葉を止めてしまう。
やっぱりこんな厳つい化け物と面と向かって罵り合いができるマルデュークってすごかったんだな……
しかしそんなビビる
「はぁ……少し睨みつけただけで謝るなんて最近のお前やっぱ張り合いなくてなんかつまんねぇな…… で? なんだって? 話だけは聞いといてやるよ」
「あ……あの……よかったらおr……アタシがその装置を使って……VXをブタに……」
ジャドラーに促されるが彼のいかつい顔を前にすると声が思うように出せず、消えそうな細い声でそう伝えるので精一杯だった。
「はァ? 聞こえねぇなぁ! いつもの威勢の良さはどこに行ったんだァ?もっと腹から声出して喋れ!」
しかしその態度が更にジャドラーを苛立たせたのかその表情は怒りに歪んでいき俺をそう怒鳴りつけた。
「は、はいぃっ! その……恐らくわたくしならその装置を使って地球人を他の動物に変えられると存じますのでよろしければお力添えさせていただきたく……」
ああ駄目だ……普通にいつも上司に怒られてる時みたいな感じになってしまった……
これじゃあ女幹部としての威厳ゼロだ……
それに低姿勢すぎるマルデュークが余程予想外だったのか他の幹部や将軍も目を丸くして見つめてくる。
「わーったよしょうがねぇ。 折角の機械も使えなきゃ意味ねェしな…… 但しVXを倒した時の手柄は俺たちドジャーリのモンだからな!」
そしてジャドラーも半ば諦めたような表情をしてつまらなそうにそう言った。
しかしなんとかこちらの申し出を受け入れてくれたことには変わりないので、とまずこれで計画はなんとか筋書き通りに進行できそうだ。
「は、はいもちろんでございますッ!精一杯やらせていただきます!!」
「なんだ、やけに素直じゃねぇか……変な気起こすんじゃねぇぞ? ほらよ」
俺は深々とジャドラーに頭を下げると彼は生物置換装置をこちらに投げつけてきたのですかさずキャッチする。
ふぅ……落としたら絶対壊れてただろうけどそこばかりはこの身体の反射神経に感謝しなきゃいけないな。
そして受け取った装置を見ると最早懐かしさすら覚えるほどに見慣れた地球人に優しいQWERTY配列のキーボードと小さな液晶、そして安っぽいアンテナが付いたお粗末で胡散臭い代物だった。
これもテレビで見てたとおりとは言え美術スタッフが急ごしらえで作ったんだろうけど言語からして全く違うアポカリプス星人が使うにしては無理があるだろこれ……
そんなどう見ても安っぽくて胡散臭い装置を眺めていると
「そんじゃ俺様が直々に選んだ我らドジャーリの豪傑を紹介するぜ! 出てきやがれ!!」
ジャドラーが声を張り上げ部屋の中心にある転送装置に閃光が走り光の中からイカに似たドジャーリ族の怪人スドイックが現れた。
「ゲヒャヒャヒャヒャ! スドイック、ここに水産……いえ推参いたしました! 必ずやVXとやらを打倒しドジャーリこそが我が星最強の種族であることを証明してみせましょう!」
「おう、相変わらず腕の先までピンピンしてやがるな! お前のその力でVXをねじ伏せてこい!」
「ははっ!」
威勢よくジャドラーがそう叫びスドイックはその声に応じ跪き作戦会議は終了。
そして作戦決行当日……
置換装置を持って地球に降り立ったマルデュークと戦闘員が人を次々に動物に変える怪事件を起こし、その事件をアポカリプス皇国の仕業だと嗅ぎつけてきた月影瞬がその前に立ちふさがるまではテレビで見たとおりだ。
そして町外れにある石切場で待ち構えていると瞬は戦闘員達を追ってやってきた。
「そこまでだアポカリプス! 動物に変えた人達を元に戻してもらうぞ!」
こちらを睨みつける瞬の姿はテレビで見た以上にかっこよく見えてしかもそれを特等席で見られるなんてなんて幸せなんだ……
ってそんな浸ってる場合じゃない!
早く瞬には【装鋼騎士シャドーVX】の筋書き通りこの計画を打ち砕いて動物にされた人達をもとに戻してもらわなきゃいけないんだから……
そうと決まれば……
「性懲りもなく出てきたわね月影瞬! 出番よ!」
俺がそう呼びつけるとどこからともなくスドイックがぬるっと姿を現す。
「ゲヒャヒャヒャ! VX! 今日こそ貴様の最期だ! お前も動物に変えられた地球人の仲間に入れてやる! 来い月影瞬! 貴様を倒して我々ドジャーリ族こそがこの星を支配するのだ!」
スドイックはそう言うと長い触手を伸ばして攻撃を始め、それと同時に戦闘員たちも瞬へと飛びかかるも瞬はその触手と戦闘員の猛攻を変身もせず徒手空拳で応戦しいなしていく。
その陰で一人の戦闘員が置換装置を操作していたのだが瞬はそんな怪しい動きに気づき大きく跳躍してすかさず置換装置を持つ戦闘員の手から装置を蹴り上げた。
そして宙に浮いた置換装置はそのまま俺の方に飛んできて手元にすっぽりと収まった。
これもテレビで見たとおりだ。
置換装置をキャッチしたマルデュークは勝利を確信して高笑いを浮かべて装置を作動させるんだけど瞬には効かなくてそのままVXに変身してスドイックも倒されて情けない捨て台詞を吐いて退却。
こうしてVXの活躍により動物に変えられた人達も助かってめでたしめでたしって結末だったはずだ、
そうと決まれば……!
「おーっほっほっほ! 運はアタシに味方したようね! これでアナタも終わりよ! アタシに付けたこの傷のお礼をたっぷりさせてもらうわよ!」
そんなテレビで見たような完全に勝ち誇った台詞を言って装置を操作して置換装置から出る光線を瞬に向けてぶつけると巻き上げられた砂埃の中から何事もなくVXが出てくるはずだ。
でももたもたしてたらそういう訳にも行かなくなるし急がなきゃ……
装置の操作は簡単でテクノロジーはよくわからないがキーボードで半径10mに居る人間の名前を入力し、隣りにあるアイコンを選んでアンテナから光線を照射するとあら不思議! 対象の人間は選んだアイコンの動物に変わってしまうという代物だ。
なので俺はキーボードで手始めにツキカゲシュンと入力した。
変化する動物は……どうせ効かないんだし適当でいいや。
とアイコンを選びエンターキーを押そうとしたその時、戦いの際に舞った砂埃のせいか鼻がムズムズとしてきて……
「ふぇ……ふぇ…………はくちゅん!」
可愛らしいくしゃみをした拍子にボタンを何個か押してしまい、装置の先についたアンテナから蛍光色のビームが瞬めがけて発射された。
やば……まだちゃんと確認もせずに打っちゃった……
「ぐわぁぁぁぁっ!」
瞬はそんな声と同時に大きく舞った砂埃に包まれる。
一応ここまではテレビで見たとおり……ちゃんと操作できてた事を信じるしか無い……
「ゲヒャ! やったか!?」
スドイックはお約束とも言えるそんな台詞を吐き大きく舞った砂埃を見つめる。
「ななな……なっ……!?」
そして砂埃が晴れてそこから現れた瞬の姿に俺は目を疑った
「な、なんだ? なんとも無いぞ? フンっ!こんな虚仮威しに屈するか! って……あれ? なんか声が……」
威勢よく叫んで構えを取った瞬の声は明らかに高く可愛らしくなっていて砂埃が晴れていく度はっきりとしてくる彼の姿は背丈も縮んでしまっていて来ていた服はダボダボになっていて髪も伸びて明るい銀髪になっていて、まるで別人の……いや少女の様にになっていたのだ。
「な、なんで!?」
テレビで見ていた展開とは全く違う事が起こり俺は慌てて手元の機械を確認すると小さな液晶にはタイショウ:ツキカゲシュンと書かれているその横には女性用トイレのマークのようなアイコンが映し出されていた。
もしかしてさっきのくしゃみで操作が狂って瞬を女の子に変えちゃった!?
「お、おい! なんだジロジロとこっちを見て! 来ないのならこちらから行かせてもらうぞ!」
まだそんな自分の状況に気づいていない瞬は可愛らしい声でスドイックを睨みつけるがスドイックは大きく高笑いを浮かべる。
「ゲヒャヒャヒャヒャ!! ずいぶん弱そうな姿になったな月影瞬! やれるものならやってみろ!!」
「お前がそう言うなら望み通りにしてやる! 転ッ……装!」
スドイックに挑発されダボダボとした服の袖を振り回しながら変身ポーズを取る瞬、しかしその姿はVXに変わることはなかった。
「転ッ……装! 転ッ……装!!! くそっ! どうして転装できないんだ!! それに身体もなんか縮んで……おい! 一体何俺にをした!?」
瞬は自分の身体に起こった変化を理解しきれないのかそう言って俺の方を睨みつけてきた。
「えっ?あ……ああ……アナタの身体を少しばかりこの装置で別物に変えてあげたの。その姿ではVXになることも出来ないようね!無様ね月影瞬」
恐らく置換装置で細胞まで書き換えられてしまったことで改造人間ですらなくただの一人の人間の少女になってしまった結果転装ができなくなってしまったのだろう。
俺も状況が飲み込めているわけではないがひとまず今彼の身体に起こっている事を暗に説明する。
「な、何だと……どんな姿にされようとも俺はお前らの野望を打ち砕く!」
おそらくそう言ってスドイックめがけて指を指したのだろうが旗から見たらダボダボになった袖を怪人に向けているだけの様になっている。
「ゲヒャ! どうした? VXに転装しないのか? それならば死ねっ! 月影瞬!!」
スドイックはこれがチャンスとばかりに少女へと変貌した瞬へと触手を伸ばして攻撃を再開する。
いくら強気に啖呵を切ったとは言えVXに転装できないどころか非力な少女の姿でアポカリプス皇国の怪人に太刀打ちできるわけがなく、その小さな身体は触手の一撃で軽々と吹き飛ばされてしまう。
スドイックは更に追撃を加え、うずくまる瞬に触手を何度も叩きつけていく。
どどどどどうしよう……本当は装置の光線が当たる直前に変身して対象が瞬からVXへと変わったせいで装置の効果が無効になっていたはずなのに俺がくしゃみをしたばっかりにタイミングが少し早まってしまったのか本来失敗するはずの作戦が成功してしまった上瞬が今にも倒されそうに……!
このままじゃ地球は早い段階でアポカリプス皇国の手に堕ちてしまう! それだけはなんとしても避けなきゃ……
そ、そうだ!
俺はとっさに手に力を集中して手からエネルギーでできたムチを出し、スドイックの伸びた触手もろとも瞬の足元に振り下ろして再び大きな砂埃を巻き起こした。
これで逃げるだけの時間は稼げるはず……頼む逃げてくれよ瞬……
「ゲヒャァァァ! おいマルデューク! 何をする!? やはり手柄を横取りするつもりだったかァ!?」
攻撃を邪魔されたスドイックは怒り狂いこちらを睨みつけてくる
やばいやっぱり近くで見ると怖い……
いや……
ここは毅然とした態度で……
「あらごめんなさい。なんだか小動物みたいになったアイツを見てたらお腹の傷が疼いちゃってね。でもこれだけ攻撃を浴びせれば瞬もお終いね。 おーっほっほっほ!」
俺は更に高笑いを浮かべ時間を稼いだ。
そして砂埃が晴れてくるとそこには俺のムチが当たってちぎれたであろうスドイックの触手の先端が数本落ちているだけで瞬の姿はそこにはなかった。
よかった……なんとか逃げてくれたみたいだ……
俺はひとまず胸をなでおろしたが瞬を仕留める最大のチャンスに水を差されたスドイックは激昂し……
「ゲヒャァァァ! ふざけるなマルデューク! 俺の邪魔をして一度ならず二度までもまた月影瞬を逃がすとは! いくら4幹部の一人と言えど許さんぞ! ゲーニジュの部下たちにお前の痴態を晒し上げた後に絞め殺してやる!!」
スドイックの触手は俺の身体を一瞬のうちに俺を締め上げてきた。
ほんのりと湿った触手の感触はなんとも名状しがたいものでそれが肌に吸い付くように触れてきて背中にゾワゾワと悪寒が走る。
しかしそんな事などお構いなしに触手はどんどん身体に巻き付きそのまま持ち上げられたかと思うと逆さ吊りの状態にされぎりぎりと締め付けられた。
「ぐっ……んっ……あぁっ!!!」
吊るし上げられる俺を見た戦闘員たちはどうすれば良いのかわからないのかおどおどとしてこちらを見つめてくる。
「ゲヒャヒャヒャ……!ほら見ろ!お前らのボスも俺の触手の前には手も足もでないそうだ!所詮武器を持たないゲーニジュなんて幹部でもこの程度なんだよォ! 散々俺に恥をかかせたんだ。お前も戦闘員達の前で恥をさらすが良い!」
スドイックがそう言うと触手の先端は俺の敏感なところに触れ……
「ひぅっ♡ や……やめ……どこ触って……あっ♡」
思わず変な声を出してしまった。
自分でもまだちゃんと触ってないどころかマトモに見てもないのにっ……
「あ……アナタ達……見てないで助け……あんっ♡んぶっ!」
「まずはそのやかましい口を塞いでやる!」
戦闘員に助けを求めようとしたその瞬間胸の谷間を這った触手の先端を俺の口にねじ込んできた。
口の中には生臭い……というかイカ臭い匂いが広がっていく。
やばい……これって俺男なのになんか咥えさせられてるみたいじゃないか!?
女になってこんな触手姦まがいな辱め受けるなんて嫌だぁぁぁ!!
「んーっっ!!んぐっ!むぅぅぅぅぅ!!!」
戦闘員達に必死で声にならない声を出し助けを求めてみるがもがけばもがく程触手は絡まり俺を締め付け、そんな俺を戦闘員達は相変わらずおどおどとうろたえて見ているだけだった。
駄目だ……結局急場で作り上げた信頼なんてこの程度か……
まあ俺が戦闘員の立場だったら上司がどう考えても勝てない奴に捕まってる状態で助けに行こうなんて思わないけど……
しかしその時
「やめるっス! マルデューク様をこれ以上辱めることはこのワグが許さないッスよ!」
戦闘員の一人がスドイックに飛びついた。
「そ、そうだ! マルデューク様を離せ!」
「いくら強いからってこれはやりすぎだぞゲニージュより下級種族のくせに!!」
一人の戦闘員が突破口を開いたお陰でそれに続いて何人かの戦闘員もスドイックへ飛びかかったり俺を縛り付ける触手を叩いたり蹴ったりし始めるがスドイックはそんな戦闘員達をいとも簡単に跳ね除ける。
「ゲヒャ? 下級戦闘員の分際でこのスドイックに楯を突こうとは面白い! まずはお前らから先にあの世に送ってやろうか?」
スドイックは跳ね飛ばして尻もちをついた戦闘員に触手をぬたりと伸ばしていく。
だ、だめだ……このままじゃ戦闘員たちまで殺されちゃう……俺が上司として彼らを守らないと……せめてこの触手から抜け出せれば……!
いやちょっと待てよ?
おとなしく捕まっちゃったけどいくら他と違ってほぼ生身とは言え幹部クラスの力があるはずのマルデュークがこの程度で負けるはず無いのでは?
さっきちょっとムチで叩いただけで触手も切れてたんだから……。
試しに手に力を込めてエネルギーのムチを生成してみると触手をも容易く貫いた。
「ゲヒャッ! い、痛ぇっ!」
突然のことにスドイックは戦闘員めがけて伸ばしていた触手を止める。
よし!この調子なら簡単に脱出できそうだ。
あんまり味方同士で痛めつけ合うのも気がすすまないけど……
そのまま手を動かしていくと俺を縛り付けていたスドイックの触手は香ばしい匂いを上げながらバラバラに焼き切れていき、あっさりと離脱することが出来た。
「ゲヒャァァァ!! 俺の触手がァァァ」
そして俺そのままエネルギーで出来た光のムチの先をスドイックの眼前に向ける。
「確かに瞬を逃したのはアタシの判断ミスよ。そこは謝罪させてもらうわ。でもね、どちらが上かくらいははっきりさせておかないといけないでしょう? これはれっきとした幹部への反逆行為よ? もし身の上を弁えないというのなら今すぐイカそうめんにして戦闘員たちに振る舞ってあげても良いのだけれど……?」
「ゲ……ゲヒャ? イカソーメン?」
「それにアタシだけならともかくアナタの為に精一杯働いたアタシの可愛い部下にまで必要以上に手を出そうって言うなら容赦しないわよ? 戦闘員だって公国軍の重要な財産なのだからそれを無碍に扱うのは感心しないわねぇ……」
「ゲ……ゲヒャ……も、申し訳ありません……」
俺は精一杯威圧感のある声を出し、スドイックを睨みつけると彼はビクリと身体を硬直させてその場で跪いた。
ふぅ……この悪人顔が役に立ったなぁ。
「わかればいいのよ。原因はアタシだし……ここは責任を持ってアタシが瞬を探してとっ捕まえて来てあげるわ。その後はアナタの好きになさい。もちろん手柄は全部あなた達。それでここは手打ちってことにしない?」
「げ、ゲヒャ……俺としても触手の再生に少々時間がかかるのでそうして頂けるのでしたら……」
スドイックは声を震わせてそう言ってひとまずスドイックの腕が再生するまでにかかる数時間の間は俺に指揮を任せてくれる事になり、ひとまずスドイックは回復のため要塞へと帰還した。
そしてマルデューク主導で少女の姿になった月影瞬捜索作戦が結構されることとなった。
「あの身体じゃそう遠くには行っていないはず。 あくまで穏便に、事を荒立てないように見つけ出すのよ! あ、そうそう。こんな事もあろうかと変装用の服も用意してあるから」
俺は用意していた服を戦闘員に配り、全身タイツの姿からスーツとサングラスの人間社会に溶け込めるような服装に着替えさせ、石切場周辺から近場の街を探すように指示を出した。
さて……スドイックには悪いけど俺も戦闘員達より先に瞬を見つけて早く元に戻さなくちゃ……
瞬が逃げる場所は……ひとまず人を隠すなら人の中って言うし近所の街を探してみよう。
そうと決まれば俺もこんな格好じゃ街は歩けないし……
俺も持ってきていたレディースのスーツに着替えてメイクも軽めなものに変え、更に気休め程度に変装用のメガネを掛けて街へと向かった。
それからしばらく街を歩いていると俺の目に洋服屋のショウウィンドウが目に飛び込んできた。
ん? あの服可愛いかも……!
俺は服に引き寄せられる様にその服屋に入っていて目当ての服を手に取っていた。
以前マルデュークになってから初めて地球に降りて以来完全にウインドウショッピングにハマってしまったらしく、もとより強欲なマルデュークの気質もあってかどうしても気になった服を見かけて我慢ができなくなってしまったのだ。
「すみませんっ! この服試着させてもらっていいですか?」
俺は店員に声をかけ早速試着を始めた。
もう女物の服も手慣れたもので試着室で手際よく着替えてみるとやっぱり似合う。
さすがアタシ! 美人だから何着ても絵になるなぁ……
って何やってんだ俺は……!
ま、まあこれも今後作戦で地球に潜伏する時の変装に使うものだし……
「あの、すみませ〜んこの服買います。あっ! これも良いかも……それにこれも!」
自分用のものだけでなく、アビガストに似合いそうな服も結構あったので彼女へのお土産も兼ねて結局そのまま何着かその店で服を買ってしまった。
「はぁ……買った買った……って違う違う! 今はあくまで仕事中……戦闘員達より先に女になった瞬を探さなきゃ!」
何侵略作戦中に普通に買い物楽しんでんだか……
横道にそれてしまったが買った服の入った袋を片手に瞬を探していると
「ご、ごめんなさいっ!」
そんな聞き覚えのある声と共に男子公衆トイレからどう見てもサイズの合っていないダボダボの服を着た銀髪の少女が飛び出してきた。
間違いない。 女になった瞬だ!
流石に急に声をかけるわけにも行かず遠巻きに彼を眺めてマルデュークの身体能力をフルに使い聞き耳を立てていると
「うう……一体どうなっちゃったんだ俺の身体……それにトイレ行きたいのにこの身体で男子トイレ入ったら追い出されちゃったし……そうなるとこっちに入るしかないよなぁ……でも俺は男だぞ? 女子トイレに入るなんて……でもこんな身体じゃ立ちションなんてできないし」
瞬はどうやらトイレに行きたいようで先ほど男子トイレから追い出されて隣の女子トイレの方をチラチラと見つめている。
わかるわかる。
男のときより我慢できないし急に女になった時っていつもの癖で立ちションしちゃったり男子トイレ入っちゃったりして大変だよなぁ。
実際俺も何回かやらかしたし……
なんだか女になった時の反応って憧れてたヒーローでもアラフォーのおっさんでも大して変わらないんだなと思うと一気に瞬に親近感が湧いてしまう。
しかし悩んでいる時間もないほど瞬の尿意は限界が来たようで
「ああもうっ! 今日だけだから仕方ないっ!」
そう言って彼は女子トイレへ駆け込んでいった。
うーん……気になる。流石に女子トイレの中まで追いかけて覗き見するのは人としてどうなんだ……?
でもすごく気になるし今の俺は悪の女幹部なんだから女子トイレを覗き見するくらい地球を侵略することに比べたら可愛い……よな?
俺はしばらく考えてからそんなよくわからない理由で自分を正当化し女子トイレの中をこっそり覗き込んでみると瞬が鏡の前で自分の姿をじっと見つめたり顔や髪を手で触ったりしていた
「はぁ……女のアソコなんて始めてみた……それにしても……本当に女になってる……一体どうなっちまったんだ俺……んぅっ♡ 胸も走る度擦れてなんか痛いと言うか変な感じだし……」
瞬はダボダボの服に出来たたわわな膨らみを触り可愛らしい声を上げていた。
やっぱり女になった時って確かめたくなるよね……
瞬も俺と同じ様な反応してるしみんな通る道なんだなぁ……
そんな彼を見て同じく男から女になった身として先輩風を吹かせていると
「はぁ……これからどうすれば……転装もできないしなんとか逃げられたけど今アポカリプス皇国の奴らに見つかったら……」
瞬は鏡の前で可愛らしいため息をついた。
ま、現在進行系でそのアポカリプス皇国の女幹部が覗きをしてるんですけどね……
その時
「ちょっとそこ邪魔なんだけど?」
急にトイレを使うためにやってきたであろう恰幅のいいおばさんに後ろから押しのけられ俺はバランスを崩し思いっきり倒れ込んでしまう。
「うわっ! ちょ……きゃぁっ! いててててて……」
畜生……確かにトイレの入口に突っ立ってたら邪魔なのはわかるけどいくらなんでも押さなくてもいいだろ……
俺は心の中でそんな愚痴を吐きながら顔を上げると目の前にはとんでもなく可愛い美少女……いや女になった瞬がこちらに手を差し伸べていて……
「あ、あの……お姉さん大丈夫ですか?」
彼にそう声をかけられた。
あれ……遠巻きにしか見てなかったけど女になった瞬めちゃくちゃ可愛くないか?
やばいっ……なんかめっちゃ緊張してきた……
これが憧れのヒーローが目の前にいることで緊張しているのか女性経験の少ない俺にこんな美少女が話しかけてきたかなのかわわからないが彼、もとい彼女を目の前にして俺の心臓の鼓動はドクドクと速さを増していく。
いや多分どっちもなんだろうな……
「えっ!? い、いやおおおお俺は別に覗きなんてしてませんよ!?」
急なことでとっさに痴漢冤罪をかけられた人みたいな挙動不審な反応をとってしまったが瞬はそんな俺を見て首を傾げる
「覗き? 貴女、女の人ですよね?」
「う、うんありがとう……そう! 俺……じゃなかったアタシも女性……だけど……」
俺がしどろもどろになっていると瞬は小さな手で俺の手を握った。
「……とりあえず立てますか?」
「あ、ありがとう……ございます……」
差し伸べられた瞬の手を借りて俺は立ち上がる。
それにしてもなんてちっちゃい手だ……前に俺を助けて手を引いてくれた時は
なんだか俺の中に変な感情がこみ上げてくる。
なんだこれ……なんというか守ってあげたいというか愛でたいと言うか……
おっといけないいけない……タイミングを見計らって瞬をもとに戻して今週も地球の平和を守ってもらわなきゃいけないんだ。
「あっ、そうそう。ところで君、なんでそんなブカブカでボロボロな服着てるの?」
俺はひとまず話を逸らすため瞬にわざとらしく尋ねる。
「えっ? あ、ああえーっと……これには色々あって……」
瞬はその問いに目を泳がせ返答に困っていた。
そりゃさっきまで怪人と戦ってたら突然女になってしまいましたなんて言えるはずもないよなぁ……
一応置換装置も持ってきてるし本当は今すぐにでも瞬をもとに戻したほうが良いんだろうけどこんな美少女をもとに戻すのももったいない気が……
いいや勿体ないね!
まだスドイックの触手の再生には何時間かかかるって言ってたし少しぐらいはこの女の子になった瞬を堪能しても良い……よね?
俺はそんな欲望からもう少し今の状態で様子を見ることを選択した。
近くにいればいつでも元に戻せるし彼に危険が及ぶこともないだろう。
「そ、そうだ! そんなボロボロでブカブカの男物の服だったら動きにくいでしょ? さっき良いお洋服屋さんを見つけたんだけど行ってみない? もちろん服代はアタシが出してあげるから……あっ、そうだ! パフェも食べましょ? 美味しいわよ」
「え、えっと……」
俺の提案に瞬は戸惑いの表情を浮かべる。
やば……この言い方いくら今の俺が女だからってこんな年端も行かない女の子を連れ回そうとしてるなんて完全に令和の世じゃ事案だろ……
でもここは大体俺が居た前世より30年くらい前の古き良き雰囲気のおそらく平行界なんだからなんとかなってくれ!!
今すぐこの可愛い瞬に可愛いお洋服着せたり一緒にスイーツ食べたりしたいっ!
それくらいは許されても良いはずだろ……!?
なんたって今の俺は悪の女幹部!これくらいの悪事を働くくらい可愛いものだ。
俺はそう必死に自分に言い聞かせていると瞬はこくりと小さく頷いた。
よしっ! 流石古き良きおおらかな時代ッ!
瞬も良く知らない子供に声かけまくったり子供の家に上がり込んだりしてたけど何も言われてなかったしな……
「そうと決まればこっちよ! ついてきて!」
「わっ、ちょ……ちょっとお姉さん!?」
以前彼に手を引かれたのとは真逆で今回は俺が瞬の手を引いてさっきの洋服屋の方へと走り、彼はサイズの合わないズボンをずり落ちない様に必死に抑えながら俺に引っ張られてついてくる。
そしてしばらく歩いているとランジェリーショップに通りかかり、そこで俺は足を止めた。
服よりまずは下着をなんとかしたほうが良いよな……
俺は自然とそんな事を考えて口元が緩む。
「お、お姉さん? どうしたんですか?」
「ねえ、そんな格好だったら擦れて痛くない?」
「擦れるって……!?」
「ほら……胸とか」
俺がそう言うと瞬は顔を赤くしてしばらく胸を抑えて黙りこくった後顔をほんのり赤らめて静かに頷いた。
「それじゃあ買いましょうかブラジャーとショーツ」
「えっ、ブブブブラジャー!? 良いですよそんなの……」
「もちろんアタシが買ったげるから遠慮しないで。ほらっ! 行くわよ」
俺は戸惑う瞬を引き連れてランジェリーショップに足を踏み入れる。
「うーん……これかな……? いやこっちのほうが似合うかな……?」
「え、えーっとあの……本当に大丈夫ですから。早く出ましょう? ね?」
今の瞬に似合いそうなブラジャーを選んでいる横で彼は顔を真赤にしてキョロキョロと店内を見回したり目を伏せたりしていた。
やっぱり男がこういう所に入るのは抵抗あるよなぁ……
まあ俺はマルデュークとしての生きてきた記憶がある分少しはマシだったけど瞬はずっと男だったんだしこんな空間は正直抵抗あるだろうなぁ……
だってどこ見渡しても女物の下着がぶら下がってるんだし。
「ずっと擦れてたら気持ち悪いし痛いでしょ? あっ、これなんてどう?」
「うう……こんなの似合うかどうかなんてわからないですよ……」
俺はその中から今の瞬に似合いそうなものを手に取り充てがってみせると彼は顔を真赤にしてそう言った。
「それじゃあ付けてみなきゃね。 そうだ! まずはサイズ図らなきゃ。店員さーん! メジャー貸してください」
「えっ、何するんですか!?」
俺は店員からメジャーを借りてわけもわかっていないであろう瞬を試着室へ連れて行った。
「それじゃあサイズ測りましょっか!」
「えっ? は、はい……」
「それじゃあ失礼するわね?」
瞬はあまりにも自分に降り掛かっている現状を処理しきれないのかもじもじとして小さな声でそう言ったので俺はダボダボになっている彼の服をたくし上げた。
「ひゃぁ! ななな何するんですか!?」
「だってそんなブカブカな服の上からじゃサイズ測れないでしょ? ちょっと冷たいけど我慢してね」
俺は顕になった瞬のハリのある肌と控えめに膨らむ柔らかな胸を見て鼻息を若干荒げつつメジャーを彼に巻きつけた。
「んっ……!」
瞬はメジャーが敏感なところに当たって驚いたのかそんな可愛らしい吐息を上げた。
ああ可愛いっ!
美少女になった瞬のカップサイズを40手前のオッサンが測ってるなんてこんなの犯罪だろ……
いやでも今の
俺はそのまま瞬のカップサイズを測っていき
「うーん……Eってとこか。それじゃあこれ付けてみて?」
「へっ!? つ、つける……!? そんなの付け方知りませんよ」
「へぇ……こんな良いおっぱいしてるのにブラも付けたこと無いなんてねぇ……」
俺はスケベ心が瞬の膨らみに手が伸び、その柔らかな膨らみを優しく撫でると……
「ひゃんっ……や、やめてくださ……あっ!」
彼は胸を触られる未知の感覚からか可愛らしい声を上げて身体をビクリと硬直させた。
うんうん……わかるよ!
胸とか男だった頃の何倍も敏感だし変な声漏れちゃうのもやっぱり皆通る道なんだよな……
女になった男あるあるを勝手に共感しながら彼の胸に何着か持ってきたブラジャーからサイズの近いものを選び巻きつけてみる。
「そんな触ったくらいで声出しちゃうくらい敏感なんだからそんなゴワゴワな服じゃ掠れて大変でしょ? だからブラジャーは付けとかなきゃダメよ? ブラジャーって凄いんだから」
「うう……」
瞬は観念したのか俺にされるがまま服を脱がされブラを身につけられていく。
その時触った少女になった瞬の素肌にはこれでもかと言うほど艶と潤いがあって
そんな瞬の柔肌を優しくブラジャーの中へと収めていく。
「えーっと……ここを寄せて……ちょっとくすぐったいわよ」
「あっ……! んっ……」
瞬は胸を触られる度必死に堪えている声が漏れ出す。
そんな我慢してる瞬も可愛いっ……!
俺は必死に理性を働かせながらやっとのことでブラジャーを付け終え瞬を鏡の前に立たせた。
「どうかしら? 結構しっくり来るでしょ?」
「しっくりって……なんか胸が締め付けられて変な感じ……です。」
彼はブラジャーに包まれた自分の胸を不思議そうに優しく撫でていた。
「それじゃあもう一回これ着てみましょうか」
俺は瞬が着ていた男物のシャツを再び彼に着せた。
「どう? これで胸が擦れることはなくなったでしょ?」
「ほ、ほんとだ……これなら歩く度痛くなったりしなさそうです……!」
瞬もブラジャーの必要性を身を以て感じたようでその場で感心したようにぴょんぴょんと小さな体を跳ねさせてみたりしていた。
「それじゃあセットのこっちも履いてみましょっか」
俺はブラジャーと同じデザインのショーツを瞬に見せると再び彼の顔は火を吹いたように真っ赤に染まる。
「そそそそんな女物のパンツなんて履けないですよ!!」
「どうして? アナタも女の子じゃない」
「い、今は……そうですけど……」
「ほら良いから! 下もどうせ男物のパンツなんでしょ?」
「ひゃわぁぁっ! わ、わかりました! 履きますっ履きますからぁ!!」
瞬はそう言って俺からショーツを受け取るとそのまま恐る恐る足を通した。
「それじゃあこれとこれは着けて帰りますね」
俺は店員にそう告げて会計を済ませランジェリーショップを後にした。
「うう……俺男なのに女物の下着着せられちゃった……」
瞬は男として大切なものを失ったであろう喪失感からそう小さな声でつぶやいている。
「ん? なにか言ったかしら?」
「い、いえ何も……」
「そう! それじゃあ次はそんなサイズの合わない服じゃ動きにくいでしょうしお洋服も変えなきゃね! 行きましょ!」
「えっ、ちょっと待ってくださいよぉ!」
俺は再び瞬の手を引いて最初に立ち寄った服屋へと向かった。
「うう……こんなフリフリしたの似合わないですよぉ……」
服屋に入るや否や似合いそうな服を何着か持って瞬と試着室に駆け込み手当り次第に着せてみると目の前には赤面した可愛らしい美少女が立っている。
女の子になったヒーローを着せ替え人形にするなんてなんというインモラル……!
しかしそんなことさえ感じさせないほど可愛らしい今の彼にも興奮を隠せずに居た。
「全然っそんな事無いよ! すっごく可愛いから……ほら鏡見てみて!」
恐る恐る鏡を見た瞬は変わり果てた自分の姿に言葉を失ったのか少しの間硬直し
「……これが……俺?」
と小さな声で呟く。
「ん? なにか言った?」
「い、いえ……おれ……いや私っ! こんな可愛い服着たこと無くて……なんか股が落ち着かないというか……」
可愛いっ……!
俺も未だに気を抜いた時にやっちゃうけど一人称誤魔化すのも女物の服着て戸惑ってるところも可愛過ぎかよぉぉぉ!
もうだめ……このまま要塞まで連れて帰ってアタシの妹分として飼ってあげたくなっちゃう……♡
いやいや冷静になれ俺……!
そんな事したら少なくともアポカリプス星は救われるだろうけどVXが居なくなって地球は終わりだ!
俺がこの美少女をどうするかでこの星の命運が左右するなんて……今すごく悪の女幹部っぽいことしてないか?
ああでも今は自分が悪の女幹部であることも忘れて目の前の美少女と戯れてたいし憧れのヒーローである瞬と一緒に入れる悦びを噛み締めていたい。
とりあえず瞬をもとに戻すのはもう少し楽しんでからでも……ね?
「あ、あの……こんな可愛くてフリフリしたのは恥ずかしいので……もうちょっと地味なのが良い……です」
瞬は目を潤ませ俺にそう懇願する。
「う〜んそうねぇ……それじゃあこれなんかどう?」
流石にこれ以上は可哀想なので彼の言う通り比較的地味でボーイッシュなものを数着選んでみた。
俺はその後もしばらく瞬を着せかえ人形の様に着替えさせたのだがボーイッシュな服も似合っていてカメラでも持ってこればよかったと後悔した。
「これでどうかしら?」
そして何着か候補を選び終え瞬にそう尋ねると
「うう……これも他のよりはフリフリしてないですけど丈が短くてなんか落ち着かないです……」
「え〜全部似合ってると思うんだけどなぁ。じゃあ今までのだったら一番どれが良い? このピンクの可愛いの? それともこの水色の……」
俺は今まで着せ替えた服を何着か見せて瞬に訪ねてみると少し考え込んだ後
「……これが……良いです」
と小さな声で言ったので早速会計を済ませてタグを切ってもらった。
「あ、あの…………おれ……いえ私……やっぱり変じゃないですか……?」
「そんな事無いわ。可愛いわよ」
服屋を出ると瞬は人目が気になるようで顔を赤くして終始もじもじと恥ずかしそうにしていてそんな初々しい彼に俺は声をかける。
それからしばらく街を歩いて買い物をしたりゲームセンターで遊んだりしているうちに初めは慣れない女の身体や服に戸惑っていた瞬だったが徐々にそんな恥じらいも消え、途中からはまるで傍から見ている限りは本当に外見相応の年頃の少女のようにはしゃぐ彼の姿を見ることが出来た。
ああ……なんて眼福……
「お姉さん!私とっても楽しいです!こんなに何もかも忘れて遊んだのもなんだか凄く久しぶりで……」
最早ためらうこともなく女言葉を使って笑顔で俺に接する瞬、これってもしかして妥当VXに王手がかかってる……!?
そう考えるとことの重大さに複雑な気持ちになってしまう。
「そう……アナタが喜んでくれたならアタシも嬉しいわ」
半ば当初の目的を忘れ二人でそんな話をしながら街を歩いていると瞬の腹がグウと音を立てた。
「もしかしてお腹すいてる?」
「えっ……あっ……はい」
どうやら瞬自身も自分から出た音に驚いているようで不思議そうに自分の腹を擦っていた。
そりゃ改造されて宇宙に放り出されても死なない程度に強くなってる改造人間が空腹如きで腹を鳴らすはずがない。
おそらく置換装置の影響で本当に人間の少女へと細胞レベルで変化したことによって今の瞬は本当に年相応の女の子の物に変わってしまっているのだろう。
それならせめて彼をもとに戻すのは何か食べた後でも良いだろう。
「じゃあ約束もしたしパフェでも食べに行きましょうか。お姉さんに付き合ってくれたお礼」
「はいっ!」
瞬は笑顔で頷いたので俺はそのまま彼を引き連れてパフェが食べられそうなレストランを探して足を踏み入れた。
「えーっといちごパフェDXとチョコバナナパフェ1つずつお願いします。」
席について二人でメニューを選んで注文してからしばらくして山盛りのパフェが運ばれてくる。
結構でかいな……
それにしてもいつも要塞でアポカリプス皇国式の奇抜な料理ばっかり食べているからか地球の料理の慎ましさを見る度に実感する。
「い、いいんですか……? 服とか買ってもらっただけじゃなくこんなデザートまでご馳走してもらって」
「気にしないで! アタシが好きでやってるだけだから! 早く食べないとアイス溶けちゃうわよ。あっ、そうだ。アタシのもちょっと食べる? あーん」
俺は手元にあったパフェをスプーンで掬い瞬の口元に持っていく
「えっ、あ……あーん……? そそそんな悪いですよごちそうしてもらったのにお姉さんの分までなんか……」
「気にしないで気にしないで。ほら食べてみて! ね?」
「は、はい……あむっ……」
瞬は渋々と言った感じで口を開け、俺の差し出したスプーンを口に咥えた。
「どう? 美味しい?」
「……美味しい……です。 俺……こんなに食べ物が美味しいって思ったの久しぶりかも……」
「ん? 俺?」
「い、いえ……わ、私! 私ですっ! それじゃあ頂きます……ね」
少しイジワルしたくなって一人称を弄ってみるととっさに誤魔化す瞬を見て更に俺の胸は高鳴る。
ああ……本当にこのままでも良いんじゃないか?
そんな事を俺の中の悪魔がささやく。
これがマルデュークとしてのものなのかアラフォーのオッサンの邪な感情から来るものなのかはわからないがそんな理性と欲望の間で俺は必死にそんな感情と戦っていた。
瞬は味覚までも平均的な人間の少女の物に変わっているのか俺の差し出したパフェの一口を味わって食べている。
そりゃ身体能力だけじゃなくて感覚も強化されてるんだから味覚も常人のそれとは変わってくるだろうなぁ……
瞬が改造されてからどんな味覚を感じているのか想像することも出来ないけれど今の瞬は心の底から美味しそうにパフェを頬張っているのは見て取れた。
「はぁっ……本当に美味しいっ……! 食べ物がこんなに美味しいなんておr……私忘れてました」
「そう。よろこんでよかったわ」
そして一通りパフェを食べ終えると瞬は警戒が溶けてきたのか幸せそうな顔でこちらに話しかけてくる。
「あ、あの……お姉さんのお名前まだ聞いてなかったなって」
「ん? 名前? アタシはマ……」
「マ…?」
っといかんいかん。
ここでアポカリプス皇国軍の幹部であることをゲロったら大変なことになるえーっと……考えろ俺……なんか名前……
「えーっとマリ子よ。」
咄嗟に出た地味で古臭い名前だけど言ってしまった以上これで通すしか無いだろ……
「マリ子……さん……」
「そういうアナタの名前は?」
「え!? 名前は月か…………じゃなかったえーっと……私は……あの……ごめんなさい思い出せないんです」
瞬は一瞬自分の名前を言いかけたところで口を閉じ、それから少し考え込んでからそう言った。
「思い出せない?」
「はい。私、実は身よりもなくて辛いことも沢山あって……これから行くところも無いんです。だからマリ子さん。私の名前……付けてくれませんか? それにもっと他の所にも連れて行ってほしいんです。ここじゃないどこか遠いところに」
急展開キターッ!
ど、どうしたんだ?
瞬らしくもない言葉が帰ってきたぞ?
それに連れて帰りたいだなんて思ってたけどまさか瞬の方からそういう言葉が出てくるなんて……
そんな事言われたら本当に要塞までお持ち帰りしたくなっちゃうじゃないかッ!!
い、いや落ち着け……それより事情を聞くことが先決だ。
俺は必死に彼をこのまま連れて帰りたい欲を抑え込み、彼の話を聞くことにした。
「色々辛いことがあったの?」
「はい……それはもう沢山数えられないくらい。私もう嫌なんです……これ以上傷ついたり傷つけたりするの」
確かに瞬は両親に改造人間にするために育てられたり兄弟同然に育ってきた兄貴分を手に掛けたり家族や理解者を失ったり色々辛いことを経てヒーローを続けてたんだよな。
俺なら絶対にそんな事出来ないけど瞬はそんな境遇で二年間も悪の組織と戦い続けた。
きっとテレビには映らないところでこういう弱音を吐いたりもしてたんだろうけどそれをまさか
ああっ! 本当に養いたいっ! このまま連れて帰ってかわいがってあげたいっ!!
「えーっと……本当に名前も思い出せないの?」
「はい。マリ子さんが付けてくれるなら私……その名前でこれから生きていこうと思うんです。なんだかマリ子さんに会ってこの世界ってこんなに心地の良いところだったんだなって思えたんです。なんだか今までいろのなかった視界に色がついたみたいに……」
こ、これはもしかしてヒーロー辞めます宣言!?
ここで俺がYESと答えれてしまえば地球を守る要であるVXが居なくなり地球は容易にアポカリプス皇国のものになるしこんな可愛くなった瞬を好きにし放題な未来が待っていてマルデューク的には破滅とは程遠いハッピーエンドしか見えないぞ……!?
脳裏にはアポカリス要塞で
でもそうなったらば地球の人達はどうなるんだ?
俺が40年近く慣れ親しんで住んだこの星の人々は……それに瞬がこれまで自分を捨ててまで守ってきた人達は……
いいやだめだ。
そんな一時の感情に任せた個人的で不順なエゴと地球を天秤にかけるわけにも瞬のこれまでの努力を無駄にする訳にも行かない。
それに何より俺が瞬を連れていけば瞬も俺も罪悪感に苛まれ幸せに暮らせていける訳がない。
そんなの幸せでもなんでも無いしマルデュークとしての破滅回避は自分の手で掴み取らなくちゃ……!
俺は総決心し一瞬頭に浮かんだ浅はかな考えをかき消した。
「あ、あのね……名前は付けてあげる。でもアナタを連れ行くことは出来ないわ。アナタにはアタシと一緒にいるよりももっと他に行かなきゃいけない場所があるんじゃないかしら?」
「なんで!? それじゃあなんで俺を助けてこんなに良くしてくれたんですか!?」
瞬はそう声を荒げて問うてきた。
それはもちろん邪な感情に起因するものだけどあのまま放っておけば戦闘員に見つかってたかも知れないし……
「あのね、よく聞いて? 少し前に困ってる人は放っておけないからって言ってアタシを助けてくれた人が居てその時すごくかっこいいって思ったの。だから私も困ってるアナタを見てたら放っておけなくなっちゃったから声をかけたのよ」
俺のその言葉で瞬は明らかに自分の事だとわかったのか少し頬を歪めた。
変装術のお陰でマルデュークだとはバレていない様だけどどうやら以前街で出会った時のことを覚えていてくれていたらしい。
「あ、あの……その人ってそんなにかっこよかったですか?」
「ええとっても。アタシああいう人に憧れてたんだもの」
「……憧れ……ですか」
「ええ。ずっとずっとその人のことを心の支えにできるくらいの素敵な人だって思ったの」
「素敵な人……」
その時遠くから爆音が聞こえ、レストランに置かれていたラジオからは臨時ニュースが読み上げられた。
『臨時ニュースです! 東京都○×区でイカのような怪人がVX出てこいなどと叫びながら暴れているという情報が入ってきました。 周辺住民の方々はくれぐれも自らの安全を守る為に行動してください! 繰り返します……』
どうやら俺が瞬にうつつを抜かしている間にスドイックの触手は完全に再生してしまったようでしびれを切らしたのか街で暴れ出したらしい。
ラジオの放送を聞いた瞬は少し考え込んだ後ゆっくりと立ち上がりこちらを強く見つめてきて……
「ごめんなさいお姉さん。私、やっぱり行かなきゃいけない所があったのを思い出しました」
瞬は恐らくこの姿のままスドイックと戦うつもりなんだ。
いくら口では逃げたい。もう戦いたくないなんて弱音を吐いていても心の底では困っている人を放っておけない。
そんな心情だけが彼を突き動かして以前よりもか細くなった身体を動かしているのだろう。
「そう……行くのね」
俺はそんな瞬の覚悟と熱い瞳を見たら引き止めることなんて出来なかった。
「最後にもう一つだけお願い……聞いてくれないですか? あの……名前を……私に名前をつけてください。そうしたら私……いや俺は一歩踏み出せる気がするんです。辛いことから逃げるためじゃなくて辛いことからマリ子さんを……それに皆を守るために!」
その瞳からは瞬の鋭く熱い眼光を思い起こさせる。
いくら身体がか弱い女の子になってもやっぱり彼は俺のよく知る正義のヒーロー月影瞬なんだ。
それなら今の俺がやってあげられることは彼を辛い戦いから引き離すことじゃなくそっと送り出してあげることだけだろう。
可愛くなった瞬と別れるのは惜しいがやっぱりかっこいいヒーローの瞬こそが本来の彼だから!
「わかったわ。ならアカリ……とかどうかしら? だれかを優しく照らして導いてくれる……そんな月明かりみたいな……」
俺の言葉を噛みしめるように瞬は深く頷いた。
「……ありがとうございます。 それじゃあ俺……行ってきますね。きっとこの身体でもマリ子さんを守ることくらいはできるはずだから。 マリ子さんに貰った名前……大事にします。短い間でしたがこんな俺に優しくしてくれて……ありがとうございました! もしまたどこかで会えたら……その時は今日みたいに話し相手になってください! 今度は俺がパフェ、ごちそうしますから!」
そう言うと瞬は振り向かずレストランを飛び出していく。
「うん……きっとまたどこか出会いましょうね。今度はもっと美味しいもの食べさせてあげるから」
アカリちゃんとそんな叶わぬ約束をして店を飛び出す彼を俺はただただ見送る。
その背中は以前よりも小さく、そして細くなっていたが確かによく知る 正義のヒーローの背中に見えた。
「頑張ってねアカリちゃん……いや、瞬」
………………って感傷に浸ってる場合じゃない!
早く瞬を追いかけて元に戻さなきゃ!!
転装も出来ないあの身体でアポカリプス皇国の怪人と戦うなんて無茶だ!
「すみません!お会計お願いします!!」
俺は急いでレストランで会計を済ませて瞬のを追いかけた。
そして騒ぎのする方へ向かうスドイックがスドイックが一本の触手に男の子を巻きつけて人質にしながら手当たりしだいに街を破壊して回っていた。
しかし瞬の姿が見当たらない。
どうやらこのマルデュークの身体で全力疾走をしたせいかただの人間の少女と化した瞬よりも早く現場に着いてしまったらしい。
「さあ早く出てこいVX! さっきは逃したがそうはイカないぞ! 早く出てこないとその間にもこの街の人間が一人、また一人と死ぬことになるんだからなァ! ゲヒャヒャヒャ!」
ここで飛び出していってあの子を助けたらヒーローみたいでかっこいいだろうなぁ…
今の俺にはそれを実行に移せるだけの力はある。
しかしながら今の俺は悪の女幹部である手前そうする訳にも行かず、瞬の到着を待ちつつ静観することしかできなかった。
瞬…早く来てくれ…
そう祈りながら物陰で暴れるスドイックを見ていると
「うわーん!こわいよー!!たすけてー!パパー!ママー!!」
人質に取られた男の子の助けを求める叫び声が響く
すると…
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
可愛らしい声とともに鉄パイプを持ってスドイックの方へスカートと左右に結った髪を揺らしながら一人の少女が向かっていった。
瞬だ。
そして次の瞬間男の子を絡め取っていた触手に瞬は思いっきり鉄パイプを振り下ろした。
「ギェヒャァァァッ!!だ、誰だこのスドイックの再生したての敏感な触手を思いっきり叩いた愚かな奴は!」
スドイックは突然のことに驚いたのか触手から男の子を開放する。
そして開放された男の子の方に瞬は駆け寄っていき手を差し伸べた。
「大丈夫?痛くない?立てる?」
「う、うん…」
瞬は男の子を安心させるように頭を撫で、笑顔で言った。
彼の言葉に男の子は深く頷いて立ち上がる。
「そっか。君は強い子だね。それじゃあ早く安全な場所まで逃げて!後は俺がなんとかするから!さあ早く!できるだけ遠くに走るんだ!できるね?」
その姿にいつもの月影瞬、そしてシャドーVXの姿がダブって見えた。
瞬は姿が変わってもやっぱりみんなのヒーローなんだ…
そんな姿を見て俺は目頭が熱くなってしまった。
「う、うんっ……お姉ちゃんありがとう!」
男の子は深くうなづくと瞬にお礼を言って逃げていった。
それを見送った瞬は息を上げて持っていた鉄パイプを地面に杖のようにしてつきながらスドイックの方に向き直る。
「はぁっ……はぁっ……そこまでだスドイック……!」
瞬はスドイックをを睨みつけるが既に肩で息をしているような状態だ。
どうやらいつもの調子で走った様だが身体の方は年相応の少女になっているため体力も底をつき身体が悲鳴を上げているようだった。
早く瞬を元の姿に戻さないと……!
俺はカバンの中に入れていた置換装置を取り出すが操作の仕方がわからない。
どうしよう……えーっと…………変な所触って現状より悪化しても嫌だし…………
そんな躊躇いから探り探りで装置を操作している最中も無情にも時間が過ぎていきスドイックは変わり果てて息も絶え絶えな瞬の姿を見てゲラゲラと笑っている。
「ゲヒャヒャ! 誰かと思えば月影瞬……やっと現れたか! この程度でもう息も上がっているじゃないか!最早転装も出来ないそんな身体でこの俺に敵うとでも思っているのか?」
「敵う敵わないじゃない……姿が変わろうと貴様は……いや貴様だけじゃない…………アポカリプス皇国の野望はこの俺が……月影瞬が粉砕するッ!」
「ゲヒャッ! 減らず口を……今の貴様など戦闘員が居なくとも倒すことなど容易い! ゲッヒャァァァ!!」
スドイックが触手を瞬へと伸ばす。
もちろん今の瞬に戦闘能力などあるはずも無く今まで走って体力を使い果たしてしまったせいかそれを避ける余力もなく鉄パイプでの応戦も虚しく無慈悲な触手の攻撃を何度も叩きつけられ、いとも簡単に触手で雁字搦めにされてしまった。
「くそっ……離せ……!」
瞬は触手の中でもがくも徐々に触手の締め上げは強くなっていき、少女の肉体と化した今の彼にそれを振りほどくことなど到底不可能で、もがくたびにきりきりとその小さな身体は締め付けられていく。
「ゲヒャヒャッ!その威勢がいつまで持つかな?俺にはそんな物無いから知ったこっちゃないがそろそろ骨の一つや二つ砕ける頃じゃなイカ?」
スドイックは更に触手で瞬を強く縛り付け、小さな彼の身体はミシミシと悲鳴を上げる。
「ぐっ……あぁぁぁぁっ!!」
瞬の甲高い悲鳴が街に響きわたる。
駄目だ! 今の瞬の身体はなんの変哲もない少女そのもの。
今の彼の身体が怪人の力に敵うはずも無いし早く瞬を元に戻さないと本当に瞬が死んじゃう……!
えーっと……人を元の姿に戻す時は……
テレビで見た時は人を動物に置換する操作方法しか見ていなかったのでもとに戻す方法がわからず手当たり次第に置換装置を操作するが彼を少女に変えた時に表示されていた画面は一向に現れない。
「ああくそ……これ液晶が小さくて操作しにくいんだよ! 元々怪人を人間に変装させる装置だしテレビで見た時は動物にされた人達も皆元に戻ってたんだから人を元に戻すボタンがどこかにあるはず……! 早く! 早くしなきゃ」
「ゲヒャヒャ!!どうだ俺の触手の威力は?このままじわじわと締め殺してやるッ!」
「いッ……あぁっっ!!」
くそっ……こんなことなら説明書をちゃんと読でおくんだったと俺は心の底から後悔したが俺が置換装置と格闘している間にも容赦なくスドイックは少女になった瞬を締め上げ続け、彼の苦しむ声が聞こえてくる。
俺のせいだ……
俺がもっと早く装置を弄って瞬を元に戻しておけばよかったのに調子に乗って瞬を女の姿のまま連れ回したりしたから……
瞬の苦しむ声を聞き、焦りで指先が震えてしまう。
ダメだ……今の瞬を助けられるのは俺だけなのに…………
早く…………早く瞬を元に…………!
「くっ……まだだ……!俺は……この程度では屈しないっ……」
「ゲヒャヒャぎゃヒャ! その姿になっても威勢だけは良い様だなぁ月影瞬! 貴様はこのままゆっくりとその小さな体中の骨や臓物の砕ける音を聞きながら死んでいけ!」
「ぐっ……あぁぁぁぁぁぁぁっ!」
スドイックは瞬の小さな体を容赦なくメリメリと締め付け、もちろん強化も何もされていない人間の少女と化している彼の身体は悲鳴を上げる。
「ぐっ……く、くそぉぉっ! 威勢よく飛び出してきたのに今の俺には何も出来ないのか……この街を守ることも……誰かのささやかな希望の光になることも……!」
瞬は己の無力さを呪う様に声を上げる。
そうだ。彼は人々の希望なんだ……その希望の光を俺が消すわけには行かないんだ!
早く……早く瞬を元の姿に…………!!
俺は祈るように装置のそこらじゅうを操作していと、やっとのことで以前瞬を少女に変えた時と同じ表示が液晶に表示された。
「あっ、これか! 頼む瞬! 元に戻ってくれ!!」
俺は祈るように装置を操作する。
その時 不可思議な事が起こった。
……訳ではなく俺はなんとか置換装置の起動ボタンを見つけ俺はそれを思いっきり押すと瞬は再び置換装置から放たれた光線に包まれ、か細く非力な腕は徐々に太く、そして背丈もみるみるうちに大きくたくましいものへ変わっていく。
「な、なんだ……?身体に力が戻ってくる……! 今ならいけるはずだ 転ッ…………装ッッ!」
瞬は少しハスキーになった少女の様な声でそう叫ぶと光が彼の身体を包んでいき、その光は徐々に大きくなっていった。
そして転装のプロセスが完了する頃には完全に元の背丈のVXへと変貌し、巻き付いていた触手を自らの力だけで用意に引きちぎって拘束から脱すると華麗に着地を決めてみせた。
「俺は影……されど人々を静かに照らす希望! 鋼鉄騎士シャドーVッXッッッ!」
「ゲヒャッ!? VX! 何故転装できた!?」
「そんな事俺が知るか! 貴様を倒して動物にされた街の人達……そしてこの街の人達を救ってみせる! 行くぞ!」
予想外の状況にうろたえるスドイック相手に見栄を切り、VXは果敢に立ち向かう。
「来いVX! いくら元の姿に戻ったからと言ってこのスドイック様が簡単に倒されると思うなよ!」
スドイックも迫るVXへ触手を勢いよく伸ばして攻撃するがVXはそれを華麗に躱していく。
その戦いっぷりはテレビで見ていたスドイック戦よりも遥かに鮮やかでかっこよく見えた。
「ゲヒャッ! これならどうだぁ〜!」
スドイックは闇雲に攻撃するだけでは勝てないと悟ったのか口から煙幕を発射しVXの視界から消える。
「そんな暗闇……この俺が跳ね除けられないとでも思ったか! エンペラージェムスパークッ!!」
VXは左腕を天高く突き上げると腕のブレスレットに埋め込まれたエンペラージェムから凄まじい閃光が放たれ、一瞬にして煙幕を消し飛ばすが晴れた先にスドイックの姿はない。
空気が一瞬、凍りついたかのように静まり返る。
しかしVXは動じることなく、その感覚を最大限まで研ぎ澄ますようにその場で静かに直立し、深呼吸をするような素振りを見せ意識を極限まで集中させた。
心臓の鼓動が響き風の微かな揺らぎさえも感じ取るその刹那、VXははっと何かに感づいたのか左腕から必殺剣デモンカリバーを引き抜く。
次の瞬間、VXは雷鳴のような速さで180度背面に振り向き、剣を渾身の力で振り下ろした!
「ゲ、ゲヒャァ……!!! 何故俺がここにいることがわかったァァァ……」
するとその場に透明化していたスドイックが身体を真っ二つにされた状態で徐々に姿を現していきその場で勢いよく爆炎を上げて爆散した。
VXはその爆発を見届けると爆炎を背にどこかへと去っていく。
こうしてVXは今日もアポカリプス皇国の魔の手から街を救ったのだった。
VXの勝利を見届け、安堵から体の力が抜けて俺はその場にへたり込む。
「はぁ…………よかったぁ〜…………きゃぁっ!」
しばらく余韻に浸って放心していると野次馬達が何やらこちらに視線を向けている。
その視線の方に目をやってみると股を開いていたせいで思いっきりスカートの中身が丸見えだったことに気づき、思わず情けない悲鳴を上げながら股を手で隠していた。
そして逃げるようにいそいそと俺はその場を離れたのだった。
それからというもの街に流れるニュースに耳を傾けると、解除ボタンを押したおかげか動物にされた人達も皆元に戻った様で街には再び平穏が訪れた。
今週もVXの活躍によって世界はアポカリプス皇国の魔の手から救われたのだ。(とは言え人が動物に変わった怪事件が解決したのはVXのお陰じゃなくて俺が解除ボタンを押したからなんだけど……)
その裏で色々とひと悶着があったのは
そして要塞へ帰ると今回もVXが倒せなかったどころかおめおめと逃げおおせる原因を作ってしまった俺はとジャドラーに怒鳴りつけられた挙げ句死なない程度に高圧電流を流される罰を受けさせられた。
いやもうこれが痛いのなんの……もう思い出したくもない。
それに下手を打つとまた処刑と銘打たれたお仕置きを受けることになることを嫌というほど胸に刻みつけられ、漫画みたいに黒焦げになりなった身体を引きずって自室へと戻った。
戻る最中戦闘員たちが心配そうにこちらを見ていたが基本的にこの手のお仕置きを受けた後のマルデュークは気が立っているのでそれを恐れてか誰も近づこうとしなかった。
なんだかそれがとても疎外感を煽り寂しい気持ちになってしまう。
ああ……やっぱり日頃の行いって大事なんだな。
俺ももっと良い女幹部にならなきゃ
そんな
自室へ戻るやいなやボロボロになった俺を見てアビガストが飛んでくる。
「マ、マルデューク様! なんとおいたわしい…… このアビガストが代わって差し上げたい……」
アビガストはそういいながら俺に優しく触れた。
なんだかこれだけで少しばかり疲れや痛みもマシになった気がする。
「あ、ありがと……アビガスト」
「そんな……私は感謝されることなど何も……せめていつも通りマルデューク様の鬱憤晴らしを受けることぐらいでございます…… さあ如何様にでも私を好きなだけ痛めつけてその辛さを忘れてくださいませ。私の取り柄は他人よりも丈夫な事だけですから……」
アビガストはそう言ってその場で身をかがめた。
マルデュークがお仕置きを受けた後アビガストを腹いせに痛めつけるシーンは何度かあったがつまるところ嫌なことがある度そうして憂さ晴らしをしていた様でアビガストはそれになんの疑いも持っていなかった。
彼女がただただ可哀想に思えて俺はぎゅっと彼女を抱きしめる。
それだけじゃない。女になった瞬を見た時にも感じたけどただ愛でたいというか包み込みたいというか……
もしかしてこれって母性本能ってやつなのか……!?
俺、男なのに母性……
ま、それはそれで良いか。アビガストを幸せにできるならそれでも……
「アビガスト……もうアナタを傷つけるような事はしないって言ったでしょ? それにあなたの取り柄はいっぱいあるじゃない。アタシはずっとアナタに助けられてるんだから……だから丈夫なこと以外に取り柄がないなんて言わないで?」
「マ、マルデューク様……? では私はどうやって貴女様を癒やせばよいのですか? それとも私はもう不要ですか?」
「そんなこと言ってないわよ。アタシにとってたった一人のメイドなんだから……そうねぇ……それなら今からお風呂入って汚れを落としてくるからそれが終わったらマッサージしてもらえる? あとアナタにお土産もあるのよ!新しい服!これを着た所を見せてくれたらそれだけで疲れなんか吹っ飛んじゃうわよ!」
正直身体中がまだヒリヒリと痛むがこれ以上アビガストを心配させるわけにも行かず無理に笑顔を作ってそう言ってみる。
そしてその日は風呂を上がってからアビガストのマッサージを受けたのだがそれが気持ちよくて俺は思わず男全開のおっさん臭い声を出してしまってしまい、そのままゆっくりと意識がまどろみの中に沈んでいく。
ああ……今日も一時はどうなるかと思ったし作戦には失敗したしお仕置きも受けるしで散々だったけどそれ以上にいい事もいっぱいしたなぁ……
そんな事を考えながら俺はゆっくりと眠りに落ちていくのだった。
マルデュークがアビガストのマッサージで眠りに誘われているのと同じ頃
戦いを終え、住居のボロアパートに戻った瞬は明らかにサイズの合わない女物の服を脱ぐのに必死になっていた。
「くそっ! 身体は戻っても服はそりゃそのままだよな……これどうやって脱ぐんだ……?」
瞬は変身解除をした途端、サイズの合わない女物の服を来ていたことで人々からの奇異の目で見られ、逃げるようにやっとのことでアパートに戻ってきたのだ。
「うう…急に女の子にされただけじゃなく今日も街の人達を守るために戦ったのに俺を変態みたいに見てきたし…………今日は散々だ……早く着替えないと…」
そして格闘すること十数分、やっとのことで女物の服を抜いだ瞬は元の服を探したのだが…
「あっ……しまった! 急いで出てきたから元の服マリ子さんに預けたままだったぁぁぁぁぁぁ! あれ一張羅なのにぃぃぃぃぃぃぃ!」
そんな彼の声が虚しく月明かりが照らす夜空の下に響き渡った。
そして瞬は脱いだ女物の服を畳むと大事そうにクローゼットに片付けると、一張羅のお気に入りを失った喪失感を覚えながら泣く泣く部屋着に着替えた瞬は布団めがけてバタリと仰向けになって倒れ込む。
そして彼は今日起った事をぼんやりと思い出していた。
「はぁ……マリ子さんっていうんだあの人……俺のこと覚えてくれてたなんて……やっぱ人助けも悪いもんじゃない……かな……? 今度会った時なんかお礼したほうが良いかな……? いやマリ子さんと会ったのはあくまで女の時の俺……その……アカリちゃんだし…… ああもうどうすりゃいいんだよほんと……! でもまた会えたら良いな……マリ子さん……なんだか今日は久しぶりに気持ちよく寝られる気がするよ。おやすみなさい」
瞬はそんな事を呟きながら戦いの疲れを癒やすように瞳を閉じてゆっくりと眠りに落ちていくのだった。