冴えないアラフォーリーマンが壊滅一直線の悪の組織の女幹部に転生した 作:ゔぁいらす
かつて超古代から蘇った悪しき暗黒文明モグローグから人々を守る為にたった一人で戦った男がいた。
その戦いは熾烈を極めたが彼は多くの代償を払いながら辛くもその戦いに勝利し、人々の平穏を取り戻す。
しかし戦いの傷が癒える間もなく地球を我が物にせんとする新たな脅威が宇宙の彼方から現れた。
その名はアポカリプス皇国。
その目的は全人類を根絶やしにし、地球を第二の故郷とすることだった。
地球を狙う脅威を前に新たなる力を引っ提げ彼は再び敢然と立ち上がる!
人々の平穏を守る。ただそれだけのために……
彼の名は月影瞬。
またの名を装鋼騎士シャドーVX……!
……こうして地球を守る為日夜正義のヒーローとして戦っている月影瞬が今俺の目の前に居る。
しかしその姿はこれまで幾度も悪の魔の手を退けてきたヒーローにあるまじきもので……
「おやっさぁん……熱燗もう一杯……」
正義のヒーロー月影瞬は今、寂れた居酒屋のカウンターに突っ伏しながら顔を真っ赤にして店主のオヤジに熱燗をせびっている。
なんだこれ……俺がテレビで見てた時は飲酒シーンはおろかどれだけ強い相手を前にしても弱音一つ吐かなかった瞬が今目の前で酔っ払ってうなだれているなんて……
「おいおい瞬、今日はちと飲みすぎじゃあないか? もうこれで51本目だぞ? 今日はこの辺にしときなって……」
「いいだろ別に……こんくらい飲まねぇと酔っぱらえないんだよ! なら帰って消毒用アルコールで飲み直させてもらうから……」
「あ、ああ……わかったわかったお前が深酒するのはいつも辛いことがあった時だもんな……今夜はこれで最後にしな?」
流石に店主のオヤジも心配そうに泥酔した瞬に酒を止めるように促すが、瞬のただならなさに押されたのか渋々熱燗を彼の前に置いた。
「あーはいはい……じゃ、いただくよおやっさん。これが人生最後の一杯になるかもしれないけど…………ぶはぁっ……! はぁ……俺はほんっとダメな奴だ……何が正義のヒーローだこんちくしょー……」
瞬は熱燗を出されるや否や一気に飲み干し再びカウンターに突っ伏すとブツブツとぼやき始める。
えー……何この状況……
俺の中にある瞬のヒーロー像が音を立てて崩れ落ちていってるんだけど……
そりゃ俺も酒呑んで酔っ払って愚痴りたいときくらいあるけどさ……
流石に憧れてたヒーローがそうなってるところを目の当たりにするのは複雑だ。
そもそもなんでふらりと立ち寄った居酒屋でこんな呑んだくれてるんだ!?
俺が店の引き戸に手をかけながらそんなヒーローの痴態を複雑な心境で見つめていると
「おっ、いらっしゃい! お姉さん見ない顔だね! あんたみたいなナウなヤングがこんなくたびれた居酒屋に飲みに来るなんて珍しいったらありゃしないよ! ちょっとそこに呑んだくれが居るけど気にせずささ……座って座って! はいこれ俺からお通しの枝豆サービスね! 何食べたいか決まったら言ってくれよ。おじさんいつもより張り切って用意すっから!」
「え……!? あ、はい……!」
とうとう店のオヤジが俺に気付き、席に通されお通しまで出されてしまった。
ここまでされたらもう見なかったことにして他の店に行くこともできないし……
ああ……なんでよりにもよってこんな日に俺はこっそりこんなところに来ちゃったんだ?
それはちょっとした出来心というか逃避願望というか……そんな軽はずみな気持ちからだった。
話は一日程前に前に遡る……
この日も俺はアポカリプス皇国の作戦参謀の一人である女幹部、マルデュークとしての一日を送っていた。
前世のアラフォーサラリーマンだった俺の記憶が蘇ってから早一ヶ月。
初めは慣れなかった女の身体……それに悪の女幹部としての生活にも自分でも怖くなるほど慣れ始めていた。
しかし未だに幹部が集まる会議には慣れられる気がしない。
だって他の幹部の言動がサラリーマン時代のパワハラ上司みたいで胃が痛くなるし変に口を滑らせてマルデュークの中身が40手前のオッサンだなんてバレたら何をされるか分かったもんじゃないからだ。
その日は幹部ヘルゴラム率いる機械生命体種族であるゴートレニグによる侵略作戦の会議だった。
俺はボロを出さないように……そしてマルデュークとして振る舞うようにと自分に言い聞かせて神経を張り詰めて作戦会議に臨んでいて、いつも胃がキリキリと痛む。
今回の作戦は日本のデータの中枢をハッキングし、物価を上げて人々を争わせようというものだった。
これもテレビで見てた通りでハッキングを行った結果物価が上がり、人々は物を奪い合うようになってしまう。
ひいては追い詰められた人々は友人同士そして家族同士でも他人のことを思いやることすらできなくなり最後にはお互いを疑い、憎しみ合い自滅するというものだった。
子供の頃はそんな馬鹿げた話があるかって思ってたけど流石に現実でも急に物がなくなってみると転売だの何だのが横行して世界が滅ぶとまでは言わなくとも大変なことになったしこの作戦はいつも回りくどい作戦ばかりのアポカリプス皇国にしては的を射た作戦だと今になると思ったりもする。
そんな作戦をヘルゴラムは嬉々として話しており……
『私の計算によれば1週間で食料自給率の低いこのニホンであれば陥落させ地球侵略の前線基地化することが可能です』
「ケッ……ガラクタらしい陰気なやり方だな」
得意げに語るヘルゴラムに強面の爬虫類のような幹部ジャドラーがいつものように悪態をついた。
『下等生物如きに我々ゴートレニグの崇高な作戦は理解できませんか。ま、貴方はそこで指を加えて見ていてください。この星の主権は我々ゴートレニグが頂きますから』
そんな悪態に表情を変えること無く(そりゃ機械だし……)ヘルゴラムは続ける。
「フン……この様な下劣な作戦我であれば感化できんがそんな下劣な作戦で落ちればこの星もその程度という事…… しかしVXはどうするのだ? 我々程ではないが奴は鼻が利く。このままではその企みを嗅ぎつけられ以前の二の舞ではないか?」
狼男のような幹部ドスチーフがジャドラーに助け舟を出すように疑問を投げかけた。
『私が同じ轍を踏むとでも? それに『埃』だのなんだの些末な事に拘るあなた方とは違うのです』
「『埃』だと!? 誇り高き種族である我々ヴェアルガルを愚弄するか!?」
『おっと失礼。我々の第一目標であるニホンでは
「貴様ァ!誇り高き我々を侮辱するかァ!!」
ヘルゴラムの挑発に乗ってしまったドスチーフは牙をむき出し身を乗り出す。
その時沈黙を貫いていたイビール将軍は杖を地面に叩きつけ両者に一括した。
「よさぬか! 我々同士で戦っていもしょうがないと何度言えばわかるのだ! ヘルゴラム、そのVX対策とやらをさっさと聞かせてもらおうではないか。ドスチーフ、貴様も下がれ」
「クッ……」
ドスチーフはイビール将軍の言葉に歯を食いしばり円卓に乗り上げた体を下ろす。
ヘルゴラムはそんなドスチーフを嘲るように軽く鼻で笑ったような音を出すと更に話を続けた。
『全く……この星はあなた方のような感情を制御できない下等な生物には任せておけないと言うことがわかりましたよ。 我々は前回の戦いでヤツの戦闘データを収集、解析することに成功しました。そしてその成果をお見せいたしましょう』
ヘルゴラムがそう言うと部屋に置かれた転送装置に電撃が走り、そこから現れたのは−−
銀のボディに緑の眼を光らせたゴートレニグの怪ロボット……
「ダイヴァレル!!」
思わず俺はその姿を見て叫んでしまった。
この怪人の名はダイヴァレル。
VXの戦闘データを解析して作られた怪人だ。
更にVXと違い主な武器は剣ではなく左腕のビームガトリング砲!
近距離での戦闘を得意とするVXを得意な距離に近付けさせず何度も試算したことにより移動位置と行動パターンを完全に把握し放つ弾は100発100中でVXを完膚なきまでに追い詰めた序盤の強敵である。
デザインも戦闘もめちゃくちゃかっこよかったんだよなぁ……
やっぱ今見てもかっこいいしそれをこんな目の前で見れるなんて……!
それに劇中よりもディテールが凝ってるというかリアルというか ……
ああ……女幹部やっててよかった……
そんな感慨に浸っていると
『あああああ貴女……何故その名前を……!?』
あの一切感情を見せないヘルゴラムから見るからに焦りの色が見て取れた。
あれ……? 俺またなんかやっちゃった……?
『ま、まあいいでしょう……このダイヴァレルはVXの行動パターンを何度も試算し……』
しかしヘルゴラムは何事もなかったかのようにダイヴァレルの説明を始め一通り解説を終えるとダイヴァレルは作戦のため地球へと転送されていく。
「本日の会議は以上。 ヘルゴラム、健闘を祈るぞ」
将軍のその一声で会議は終了し、将軍が自らの部屋に戻っていったのを見て俺を含む各幹部達も自らの区画へと戻っていった。
ここまでならばいつも通りの会議だったのだがその日は違った。
俺は突然何かに縛りられそのまま頭を下にして吊るし上げられる。
「きゃぁっ……! な、何!?」
あれ? この間もこんな事あったような……
そして縛られている物をよく見ると以前のような触手ではなく無機質なコードで、元を辿るとそれはヘルゴラムの腕から伸びたものだった。
『マルデューク……一体我々の完璧なセキュリティで守られた機密であるダイヴァレルの情報をどこから盗み出したのですか……? 決して我々の情報は外に漏れてはいないはずなのに何故……? 理解不能です。私が理解できないことがあってはならないのです!』
ヘルゴラムのその声には怒りや焦りが感じ取れた。
こんなヘルゴラムは見たことがない。
なんだかとてつもなくヤバそうな予感が
「ひいぃぃっごめんなさ……じゃない! な、何するの離しな……さいっ……」
吊るし上げられながらもなんとかマルデュークとして振る舞って見せ、脱出を試みて以前スドイックの触手から抜け出した時の様に力を込めても全く切れそうにない。
さすが幹部クラスと言ったところか……
って感心してる場合じゃない!
俺一体どうなるんだ!?
そうしている間にもヘルゴラムから伸びたコードはキリキリと俺の身体を締め付けていく
「ぐっ……あぁっ……!」
『この私があなた方のような下等生物のことが理解できないなどあってはならなアa亞@@@@@@@@@@@@@@@イ!!!!!』
もはや声と呼べるのか怪しい電子音を上げ更に締め上げる力を強めてくるヘルゴラム。
そして巻きつけたコードの先端をこちらの顔に近付けてくる。
更にその先端からは細いコードが何本もうねうねとうねり更にこちらに近づいてくる。
「な、なんだよこれぇぇえぇ!」
『少々癪ですがアなタのデータを収集するついでにメモリーを読ませて頂きまス!』
そう言うとコードの先端が頬を撫で、耳の方へ伸びていく
「なんだこれっ……離っ……離せぇっ!!」
「痛イのはⅠ瞬Death! アナタのはーどでィすクにアクセすして出ータを絞り出すッ!」
それってつまりこのコードから俺の情報を抜き取るって事!?
そんな事されたら俺の中身がただのオッサンだって事とアポカリプス皇国の末路を知っていることがバレてしまうのでは……!?
そうなったらあのヘルゴラムのことだ!
弱みを最大限に活かして何をしでかすかわからない……
いや、もしかすると即刻処刑かも……
そうなってしまっては俺が死ぬだけでとどまらず俺の記憶を頼りにVXを倒す作戦を編み出して地球がアポカリプス皇国の手に落ちてしまうかも……!
そう考えている間にもコードが耳の中に触れ、身体にゾワッと嫌悪感を伴う悪寒が走る。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
思わず情けない悲鳴を上げてしまったがもはやどうすることもできない。
ああ……短い女幹部としての第二の人生がこんな機械陵辱みたいな方法で幕を閉じるなんて……
やっぱり社畜の俺がこんなグラマラスな美人になって生活できるなんて虫が良すぎたのかなぁ……
完全に諦めてしまったその時、何かがブチブチとちぎれる音が聞こえてそのまま地面に叩きつけられ、絡まっていたコードは力を失ったように解けていく。
もしかして助かった……?
ここにはもう俺とヘルゴラムしかいないはずなのに一体誰が……?
『何のつもりデす可……ジャドラー!!』
「えっ?」
ゆっくりと身体を起こしヘルゴラムの視線の方を見るとそこにはちぎれたコードを両手に持ったジャドラーの姿があった。
ジャドラーが俺を助けてくれた……のか?
一体なんで!?
「おいおいおい情けねぇ声が聞こえたと思ったらこの鉄クズ野郎……おもしれーことやってんじゃねぇか」
『何故貴様がマルデュークを庇う!? 理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できないerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorerrorrrrrrrrrrrrrrrrrr CPU熱が危険値を超えました。急速水冷の後再起動モードに以降しまス……』
予想外の乱入にヘルゴラムは頭から煙を出し始めるとそのまま逃げるように自らの区画へと戻っていった。
一体何が起こったのか理解できずきょとんとしているとジャドラーは逃げるように去っていくヘルゴラムを見て鼻で笑った。
「ハンっ! 散々俺たちのことを感情を制御できねぇ下等な生き物だとかなんとか抜かしやがってたがお前も大して変わんねぇじゃねえか」
そう言って逃げるヘルゴラムをジャドラーを俺は不覚にも少しかっこいいと思ってしまった。
「じゃ……ジャドラー……さん……?」
「あアん!?」
「ひっ!!」
「ッたくよぉ……最近のお前はなんか調子狂うんだよ。言い返してもらえねぇと張り合いがなくてつまらねぇ……! それとこれは助けたわけじゃねぇからな。この間のあのいけ好かない金髪野郎への借りを返しただけだ」
「……へっ?」
「あのグラ……なんとかってヤツの事だよ。 あのVXの攻撃を耐えた唯一のヤツがまさかゲニージュだとは思いたくはねぇがあいつの強さは本物だった。だからあの時に腰抜けって言った借りを返しただけだ。だから次はねぇぞ」
「は、はぁ……ありがとう……ござい……ます」
「ああもう気持ち悪ぃんだよそういうの! 俺たちドジャーリがこの星を手に入れて本調子のお前に吠え面をかかせてやりてぇんだからさっさといつもの調子に戻ってくれよ じゃあな」
そういうとドシドシと足音を響かせ再びジャドラーは自分の区画へと戻っていった。
あれ……? もしかして俺心配されてる?
前も発言が少ないとかなんとか言われてたけどあれは体育会系のノリなんかじゃなくて他の幹部相手に啖呵を切りまくってるマルデュークじゃないと駄目ってことか……?
いやいやいや無理無理無理! あんな厳ついのとか狼男とかよくわからないロボットみたいなのに啖呵切れる度胸なんて持ち合わせてないよ俺……
でも待てよ?
もしかすると幹部の中で一番バカだと思ってたジャドラーが一番先に俺の中身が少し前までのマルデュークじゃない事に気づくんじゃ……
それだけは避けないと……
うう……自分と地球とアポカリプス皇国の最善の道を探すとか言っときながら今は目立ったことすらできてないのに更に心配事が増えちゃったよ……
胃薬ってこの要塞に常備してるのかな……?
そろそろ飲まないとキツくなってきたかも……
そう思うとあの集団に全くためらいもなく啖呵を切れてたマルデュークってすごかったんだな……あの図太さは少しは学んだほうが良いのかも……
そんなことを考えながらちぎれたコードを片付けて部屋を後にし、ゲニージュの居住区画に戻ってくると
「マルデューク様! この資料なのですが……あの……大変申し上げにくいのですが……」
戦闘員の一人が近づいてきて何やら言いにくそうにしていた。
「何かしら?」
「は、はいっ! マルデューク様のお書きになられたこの資料のこの部分……おそらく桁が2桁ほど間違っているかと……それとここも行がずれていまして……」
「えっ!?」
その戦闘員が持っていた電子資料に目を通すとたしかに色々な申請やらをマルデュークとしての記憶を頼りにやった記憶はあったのだが確かに間違えている。
「ご、ごめんなさい! すぐに直すわね……」
「お、お許しを……ってえ? マルデューク様自らが?」
「当たり前でしょ? 私のミスなんだから……」
俺はそう言って戦闘員の端末から指摘された部分を書き直した。
はぁ……所詮転生した所で俺はダメダメな平社員だったんだから急に幹部になったからって仕事までよくできるようになんてならないよな……
そんな事を考えながら自室の戻ろうとすると他の戦闘員がこちらに走ってやって来て……
「マルデューク様! 居住区画D地区の保全の件なのですが……」
「えっ!? あ、あれは……」
「マルデューク様! 戦闘員達の戦闘強化の為に予算を少々上げていただきたく……」
「マルデューク様!」
「マルデューク様お話が!!」
すれ違う度戦闘員たちに声をかけられ様々な対応に追われてしまう。
さっきヘルゴラムに縛り上げられて生命の危機を感じた直後だって言うのに仕事が尽きる事はない。
ああ……責任者は責任者で大変なんだな……
「はぁ……終わった……まさか半分くらいは俺の見落としのせいだとは……」
戦闘員から持ちかけられた事案の対応がすべて終わり、自室へ戻る最中戦闘員二人組の話し声が聞こえてきた。
その会話に聞き耳を立ててみると……
「最近のマルデューク様さぁ……」
「優しくなったというかなんか丸くなったよな。俺は今の方が好きだぜ」
よかった。戦闘員たちからの評判は少なくとも以前よりはマシになりつつあるようだ。
最初は視線を向けただけで怖がられたりもしたけど最近は気軽に話しかけて来てくれることも多くなってきたし頼られるってのも疲れるけど悪い気はしないな
しかし更に話を聞いていると……
「いやそれはそうなんだけどさ……最近オレらでもわかるようなミスを連発したりしてんだよ?」
「ミス?」
「ああ。書類の見落としとか申請のし忘れとか母星のへの報告とかな。少し前まではそんな事全くなかったのに」
「なんだそりゃ? そういうのはマルデューク様が一人で全部やってたんだっけ?」
「ああ。何度か戦闘員に任せられることもあったらしいんだが自分より能力の低いヤツに仕事は任せられないとかなんとかで結局それを任されたヤツは皆殺されちまったんだと」
「うわぁ……マルデューク様ならやりそうだなそれ……」
「最近はそういう事も嘘みたいに減ったけどな。その代わり急に仕事ができなくなったと言うか……」
「うっ!」
戦闘員の言葉が俺の胸にぐさりと刺さる。
「うーん……本当に仕事ができることだけが取り柄みたいな人だったからなぁ。でも俺は嫌いじゃないぜ? ドジっ子っての? 昨日もなんか可愛い声が聞こえるなって思ったらなにもない所で転んでたの見てさ。なんか辺りを見回してよし誰にも見られてないなとか言ってたけどな。俺はちゃんと見てたぜ」
み……見られてた!
昨日ヒールで歩くのも慣れてきたと思って気を抜いて足をぐねらせて盛大に転んだの誰にも見られてないと思ったのに!!
「おいおいなんだよそれ……しかし見つからなくて幸運だったな。もし気づかれてたら口封じで殺されてたかもだぞ?それは墓場まで持ってけよ?」
「うーん……最近なんか顔つきも優しくなったような気もするし今のマルデューク様はそんな事しないんじゃないかなぁ……なんて」
「おいおいあの髪は殺した敵の返り血で真っ赤に染まってるとか血染めの紅爵と呼ばれてるマルデューク様だぞ? いくら最近急に優しくなったからってあんま調子乗ってると何をされるか……ま、戦闘以外で命の心配をすることが減ったってのは悪いことじゃないけど」
「だろ……? なんつーかギャップ萌えって言うかさ……俺やっぱ最近のマルデューク様好きだわ」
「ま、最近待遇も一気にマシになったし飯も美味くなったし悪くはないけど仕事が滞ると他に心配することも出てくるだろうなって」
人柄は評価されているが働きっぷりの方で今の俺は評価を下げてしまっている事をひしひしと感じる。
やはり戦闘員達はしっかり見ているんだと言うことを思い知る。
やっぱり俺なんかに悪の女幹部なんて務まらないのかな……
「まあそん時はそん時だろ? もう今日の俺たちの班の業務は終わったんだし風呂入ってラウンジでマ−・ジャンやろうぜ」
「はぁ……今から侵略する星の娯楽にドハマリしてどうすんだよ全く……ま、面白いから良いんだけどな。俺母星に帰ったらこれで一儲けしようと思ってんだよ」
「おいおいなんだよそれ! ずりーぞ!!俺もやるから利益は山分けだかんな!」
戦闘員二人はそう言ってラウンジの方へ言ってしまった……
はぁ……確かに評判はマシになりつつあるみたいだけど仕事ができない……か……
わからないなりに頑張ってるつもりだけど聞かされるとこれはこれでキツイものがある……
でもどうすりゃいいかなんてわかんないし……
俺、どうすりゃいいんだよ
そうして足取り重く俺も自室へと向かった。
「はぁ……今日はマルデュークの身体になった初日よりつかれたかも……」
やっとのことで自室に戻り、服を脱ぎ捨てジャージに着替えてベッドに倒れ込む
「はぁ……やっぱこれが一番落ち着く……」
はぁ……あの戦闘員が言う通りならマルデュークは性格が駄目だっただけで仕事はちゃんとできる人だったのかなぁ……
そりゃ幹部にまで上り詰めるだけの実力があるんだから当たり前だよな……
本当にこんな万年平社員の俺にそんな仕事が務まるのか?一人になるとそんな不安が更に大きくなっていく。
「はぁ……結局俺はマルデュークになっても俺のまんまなんだな……」
ベッドで寝転がり以前に比べて細くしなやかになった黒いネイルの光る指を見つめながら俺はそんなことを呟いていた。
それからしばらくしてノックとともにアビガストの声が聞こえてきた。
「マルデューク様、ご夕食の準備が整いました」
頼れる人が1人も居ないこの環境で唯一俺を癒やしてくれるのはアビガストだけだ。
最初はこんなにかわいい女の子に身の回りの世話をしてもらえるなんてこの上なく幸せだと思っていたが彼女が俺に尽くしてくれているのは俺がマルデュークだからなんだよな……
いくらアビガストを幸せにしたいとか辛い思いをさせたくないとか思いながらも結局の所彼女に嘘をつき通すことが本当に正しいことなのか日に日にわからなくなってきている自分がいる。
妄信的に尽くしている主の中身がある日を境にその辺に掃いて捨てるほど居るオッサンに変わっていたと知ったらアビガストはどう思うだろうか?
それがバレた時の事を考えると怖くて仕方がなく、今はこうして優しい主人として彼女になるべく不安や不信感を抱かせないように接していかなければならない。
「あ、ありがとうアビガスト。すぐ行くわ ……よいしょっと」
俺は疲れた身体を起こし、夕飯を用意してくれている部屋へ向かうとそこには相変わらずだだっ広い部屋にぽつんと置かれた食卓にSAN値が減りそうな料理が並んでいる。
確かに美味しい事は美味しいんだけどこれ食べるのってそこそこ体力要るんだよな……
それにアビガストが毎日腕によりをかけて作ってくれてる訳だし
「わ、わぁ〜今日も美味しそうね……! いただきま〜す……」
と無理に喜んだふりをして急いで料理を掻き込んだ。
夕食を終え、疲労感と一日が終わったという虚脱感からこの体になってから欠かすことのなかった風呂に入る気力すら無く再びベッドに倒れ込むと頭によぎるのはこれからのことへの不安と不満だった。
それはまるで残業を終えやっとのことで家に帰ってきた時の自分とそう変わりない状態だ。
「俺……なんで生まれ変わってもこんな仕事やんなきゃいけないんだよ……」
サラリーマンをやっていた時より幾分かは労働時間が短くはなったもののイビール将軍や他の幹部の顔色を伺い、自分が40手前のオッサンだということを悟られないように振る舞う生活にも少々疲れが見えてきた。
テレビでマルデュークを見ている時は傍若無人で好き勝手にやっているだけの奴だと思っていたがテレビには映らない所でちゃんと仕事をしていたことを身を以てわからせられてしまった上にだれもそれを助けてはくれない。
そんな今の俺に向けられる視線や女幹部としての重圧を日に日に感じるようになってきてしまっていたのだ。
そしてベッドに顔をうずめてしばらくうなだれていると小腹がすいてきて、頭によぎるのはなんでもない地球の料理のことだった。
ああ……やっぱりこういう疲れた時は地球の料理が恋しいな……
でも地球に行かなきゃ食べれないし……
ああ食べたい! 洒落たものとかじゃなくていいからなんかこう煮物とか白飯とかそういうのが!!
「そんなのここじゃ食べれるわけないか……」
食材の管理はアビガストがしているから触れないし配給のある戦闘員から分けてもらうのも忍びないしまた何か仕事を頼まれるかもしれない。
はぁ……なんで40手前で死んじまったんだよ俺……社畜だったけど地球での万年平社員生活も言うほど悪いものじゃなかった気すらしてきてもうこのまま女幹部という職を投げ出してしまいたいとすら思えてしまう。
そりゃ前世でだって仕事は辞めたいと四六時中思ってはいたけどそれをしなかったのは仕事をしないと生きていけないからだ。
しかし今はどうだ?
マルデュークがせかせか集めた宝石やら衣装やらが大量に手元にはあるし以前それを地球で換金した時は凄まじい額になった。
これだけの資産とマルデュークとしての力さえあればこっそり地球で何不自由なく生活していく事も不可能じゃないはずだ!
それならいくらマルデュークとして振る舞う為とはいえ地球を侵略する作戦を企てる必要も無くなるし何よりマルデュークとして振る舞う必要も無い!
どうせ俺が何もしなくたって瞬が地球は守ってくれるんだし!!
そうと決まればもう地球へ帰ればいいじゃないか!
地球で謎の美人として静かに暮らそう!
そうと決まればと俺はゆっくり起き上がり、ベッドに顔をうずめたことで取れたメイクを軽く直すと変装用に買ったスーツに着替えた。
さて問題はどうやって地球に行くかだ。
転送装置を使うにも装置がある場所まで行くのも使うのも戦闘員と会う必要があるし脱走したことがバレてしまう……
考えろ……どうにかして地球に行く方法を……!
その時「装鋼騎士シャドーVX」のとあるエピソードを思い出す。
アビガストがマルデュークと袂を分かち、瞬と共に生きることを決意した次の回でマルデュークの部屋には要塞が破壊された時一人だけでも助かれる様密かに小型の転送装置があることが語られる事があった。
結果それを知った瞬はアビガストの手引でその転送装置を逆に利用して要塞に侵入することになるんだけど……
そんな記憶を頼りに部屋を物色してみると……
「あった!」
当時は瞬が月の裏側にある要塞に侵入する方法を用意するため急場で作られた設定のように感じたが、テレビで見ていた時と同じ場所に隠された小型の転送装置らしきものを見つけることができた。
近くにあったタブレット端末のような操作パネルを触ると座標を設定する画面が出てきて転送装置には明かりが灯る。
これは行けるかもしれない!
俺は操作パネルの座標を日本の東京へ設定し、転送装置が発する光の中へと飛び込んだ!
そして次に目を開くとそこは俺が生きていた時よりすこし古臭い感じの都会の風景が広がっていた。
やった! 成功だ!! 本当にあれは転送装置だったんだ!
それに勢い余って一緒に持ってきた操作パネルを使うことでいつでも要塞に戻ることもできる様でなかなかに便利なアイテムだなこれ……
ま、もうあの要塞に帰ることもないだろうけど……
でもそうなったらアビガストはどうなるんだ……?
それに戦闘員達やグラギムも……
いいや今はそんなの考えるの辞めだ!
どうせみんな俺がテレビで見てたとおりになるだけなんだ!
それなら俺が気にしてやる必要もないじゃないか!!
今日は全部忘れてパーッとやるんだ!
俺は今自分が置かれている状況を忘れ、夜の街へと繰り出した。
すると軒を連ねる居酒屋からはもはや懐かしさすら感じるいい匂いが漂ってきて一気にに食欲が刺激されていく。
折角食べるんだから美味しそうな所で食べたいよな……
何食べよっかなぁ……
そんなことを考えて店を吟味しているうちに繁華街の外れの方まで出てきてしまった。
「あ……ちょっと行き過ぎちゃったかな……?」
と、思ったその時【酒処 むら松】と書かれたのれんが目に飛び込んできた。
そんな何の変哲もない居酒屋も今の俺にはとても懐かしく思え、心を惹かれていく。
街の外れにあるこういう寂れた居酒屋が逆に美味しかったりするんだよな……
また戻るのも面倒だし今夜はここで呑んで食ってから今後のことを考えよう!
俺は意を決してのれんに手をかけ引き戸を開けると……
「おやっさぁん……熱燗もう一杯……」
そこに居たのは酔いつぶれた月影瞬だったのだ。
そうして偶然入った居酒屋で瞬と遭遇してしまい、店のオヤジに中へと通された俺は非常に気まずい空気の中枝豆をつまんでいる。
うう……折角久々に地球の寂れた居酒屋を堪能できると思ったのによりによって真横に瞬が居るなんて……
俺がマルデュークだってバレたらせっかく逃げてきたのに計画も丸つぶれた。
それに瞬はなんでこんな事になってるんだろう?
幸い彼は深酔いしててまだこっちには気づいてないみたいだし適当にさっさと食べてずらかって飲み直そう。
そんな事を考えていると
「お姉さん、何にしましょう?」
店のオヤジが俺に尋ねてきた。
「あっ、えーっと……それじゃあ」
焼き鳥と生ビールを注文すると店のオヤジがせっせと串打ちした焼き鳥を焼き始めた。
その間にも瞬はブツブツと弱音を呟いてはぐったりとカウンターに顔を伏せてうなだれている。
「うう……どうせ俺なんか……どうせ俺なんか……ブツブツ……」
ああもう気が散る!!
幼少期の憧れだったあの瞬が呑んだくれて弱音吐いてる所を見せられるのは流石にキツい物があるぞ……
「いやぁ悪いねウチの瞬がこんなんで。はい生一丁」
店のオヤジはそう言いながらビールをこちらに差し出す。
「へっ……ウチ?」
「ええ。アイツが子供の頃からの付き合いでね。3年くらい前に身寄りを無くして以来面倒見てやってんだ」
「へ、へぇ……そうだったんですか」
瞬の関係者?
いやいやこんな人知らないぞ!?
少なくとも俺の記憶ではこんな登場人物は「装鋼騎士シャドーVX」には出てきていない。
一体このオヤジは何者なんだ?
「あいつね、週に1~2回くらい急に仕事抜け出してちゃうんで働き手もなくてね、ま、そんな奴は何人も見てきましたが手のかかる子程可愛いっていうんですかねぇ……放っておいたら何しでかすか分かったもんじゃありゃしない。はいモモタレ2本ね。お待ち」
見知らぬ登場人物であるオヤジに困惑していると、彼は身の上話をしながら慣れた手つきで焼き鳥をこちらに出してきた。
「ど、どうも……」
瞬がアルバイト……?
そんなのも初耳なんだけど
い、いやそりゃ生活するのにはお金が必要なのはわかるんだけどヒーローっていう実質不定期の仕事がある以上そんなのもままならないだろうし……
それに普通に考えたらわざわざヒーローがアルバイトしてるシーンなんて放送に乗せないよな。
瞬も結構苦労してるんだ……
別に給料が出るわけじゃないしやっぱヒーロー一本じゃ食っていけないよな。
俺はそんな事を思いながら焼き鳥を口に入れ、以前はアビがストが隣に居たから遠慮していたビールを流し込んでいく。
「んっ……………………まいっ!」
そうだよこれこれ! かれこれ四捨五入して前世から数えて300年ぶりの焼き鳥とビール!
なんかの漫画で犯罪的だとかなんとか言ってたけどそんなもんじゃない!
この圧倒的庶民的な味にちょっとパサついた肉をごまかすようにこれでもかと塗りたくられた甘辛いタレ……それを押し流す冷えたビールのコンボ……これはたまらないっ!!
はぁ……やっぱり地球の飯は良いなぁ……
「あのっ! 皮も貰っていいですか!? タレで!」
気づくと俺はおかわりを頼んでいた。
「そんな美味そうにウチの焼き鳥食ってくれる人久々に見たよ。はいこれ三本目はサービスだから」
オヤジは嬉しそうに三本目のモモを気前よく差し出してくれた。
「ええっ!? 良いんですか!? 悪いですよ枝豆も貰っちゃったのに」
「いいよいいよ気にしないで。今日はもうあいつしか居ないしそろそろ閉めようと思ってたとこだったんだよ。このまま残ってちゃもったいないしあんたみたいな美人さんに食ってもらえたら焼き鳥たちも嬉しいってもんよ。遠慮せず食ってくんな!」
「ありがとうございますっ! 頂きますっっ!」
さっさと適当にずらかるつもりが気づけばそのまま焼き鳥もビールも何度もおかわりをしてしまい、酒も回ってきたのかいい感じに出来上がってしまった。
「ふぅ……こんないっぱい食ったのは久々ですよぉ……」
俺は満腹になるまで焼き鳥や小鉢の料理を食べ、好きな食べ物とビールで満たされた腹を擦りながら溢れる多幸感に酔いしれていた。
そんな俺をオヤジは店の片付けをしながら嬉しそうに見つめてくる。
「そりゃよかった。あんなに美味そうに焼き鳥食うやつを見たのは3年前の瞬以来だよ」
「へぇ……三年前になんかあったんですか?」
「ああ。久々に顔だしたと思ったらさ、親父が死んだとだけ言って店に入ってきてね、それも体中ボロボロにしてさ」
3年前……
おそらくそれは瞬が装鋼騎士に改造された時のことだろう。
その時瞬は父親を殺され、その復讐を果たすため超暗黒古代文明モグログと戦う事を決意するんだけど……
その直後にそんなことが……
「ま、アイツの親父も何やってたかよくわかんない人だったからさ、それにあの時のアイツの顔は見たこと無いくらいに怖くってまるで鬼みたいだったんだよ。それから……」
そして店のオヤジはそんな彼の事を詮索せず焼き鳥を出してやったら「前に食べた時と何も変わらない……」って泣きながら言って貪る様に食べていた事を教えてくれた。
おそらく身体を改造されて普通の人間じゃない何かにされてしまった直後なだけに味覚がそのまま残っていたことが嬉しかったんだろうな……
突然人間じゃないなにかに……か
今の俺も見た目も身体の作りもほぼ人とは変わらないけど一応地球人の身体じゃないし食べ物はどう考えてもおぞましい見た目のものばっかりだしこの間クレープとかラーメンとか食べてちゃんと美味しいって思えた時は少し安心したかな……
瞬は人知れず敵だけじゃなく自分が背負わされたものとも戦っていたんだ。
それも21歳のまだ若い青年がそんな境遇に立たされているんだから弱音の一つや二つくらいは吐くよな普通に考えて……
それに比べて21歳の頃俺何してた……?
思い返してみても大学を一年留年して自主休講を繰り返して学生寮で呑んだり麻雀したりしてた記憶しか思い起こせない。
ロクな事してねぇな俺……
それに比べたら瞬は……いや年頃のヒーローはその若さにしては重すぎるものを背負って戦っていたんだという事を再認識させられる。
「そんなことが……」
そう言えばこの間瞬が女の子になった時もどこか遠い所に行きたいって言っていたのもその辛さや運命から逃げ出したいからだったんだ……
ヒーローがそんなセリフを吐くなんて絶対許されない事だろうけど俺も似たような理由でここまで来ちゃった訳だし……
何よりこんな若いのに色々背負わされたんじゃ嫌にもなるよなぁ……
「ま、そんなこんなでそれからはウチに入り浸る様になったんで仕方なく面倒を見てやってんだ」
「ん……何おやっさん? もしかして俺の話ししてる?」
ずっと壁の方を見てブツブツとなにかを呟いていた瞬がむくりと体を起こしてこちらと目が合った。
そして俺を見るや否や酔っ払って腫れぼったかった眼が一気に開く。
「も、もしかしてマリ子さん!? ああ……また会えるなんて……」
瞬は立ち上がると俺の方に千鳥足ながらも駆け寄ってきた。
うわあ……せっかく気づかれないうちに退散しようと思ってたのに気付かれた……!
「なんだ瞬、このお姉さんと知り合いか?」
「知り合いも何もこの間色々……い、いや街で男に絡まれてる所を助けた人で……」
「ああそんな話してたなお前、いやぁ瞬がお世話かけました」
「お、俺は何もしてないって!寧ろ俺が助けたんだってば!」
瞬とオヤジの親しげな会話を見ると二人が相当近しい関係であることが感じられる。
「ど、どうも……お久しぶりですその節はどうも……」
とうとう瞬に捕捉されてしまったので俺は当たり障りの内容に軽く頭を下げた。
うう……どうしたら良いんだ……?
とにかくさっさとこの店から出なきゃ!
そう思い椅子から立ち上がった瞬間
「うう……会いたかった……まさかまた会えるなんて思ってもみなかったです。連絡先も聞きそびれちゃったし家には電話も引いてないですし……」
瞬は鼻水と涙を垂らしながら俺の手を握ってきた。
そっか……この世界の地球の文明レベルは大体「シャドーVX」が放送されていた90年代初頭くらいだから携帯もメールもそこまで普及してないしな……
「うう……俺はやっぱ駄目な奴です……あの時マリ子さんに背中を押してもらえたのに結局また逃げようとして……うわぁぁぁぁぁん!!!」
瞬はそのまま年甲斐もなく子供の様に泣き出してしまう。
「おいおい瞬、大の男が女の人の前で泣くんじゃないよ情けねェ」
「だっでぇ……だっでぇ…………うう……」
うわぁ……瞬酔っ払うと絡み酒もしてくるのか……
それからというもの瞬に絡まれ、更に店を出辛くなった上に瞬の愚痴につきあわされる羽目になってしまった。
「別に見返りとか求めてるわけじゃないんですよ……? それにしたって……それにしたって報われなさすぎだと思いませんか? それに少しでもピンチになったら次の日の新聞ではボロクソ書かれるわヒーローたるもの……とか何も分かってない奴にえらそうに言われるわで……はぁ…」
最初はヒーローは泣かないとか明日はいらないとかそういう昭和独特の根性論とか固定観念みたいなのにも悩まされていたんだろうなと瞬が可哀想に思えてしまったのでそんな彼に付き合っていたのだが彼の愚痴は徐々にヒートアップしていき……
「ったくほんとに俺はこんなに頑張ってるのに一つも報われないなんてこの世界はクソですよクソ! ああもういっそアポカリプス皇国に支配されちゃえば良いんだよこんな世界!!」
と瞬は吐き捨てた。
その言葉だけは絶対にヒーローとしてだけじゃない。
人として言っちゃいけないだろ!
そう思うより先に俺は瞬の頬をを思いっきり引っ叩いていた。
それも本当にマルデュークの身体能力で思いっきり引っ叩いたもんだからそのまま店の奥まで吹っ飛んで壁に激突してしまう。
「さっきから聞いてりゃ何だよ! クソなのはアンタのそのひん曲がった性根のほうだろうが!!」
そのまま酔った勢いに任せて俺の口からは溜まっていた感情が言葉になって溢れ出す。
「ま……マリ子……さん!?」
突然ふっとばされた瞬は一気に酔が冷めたのか顔を真っ青にして壁の方からこちらを見つめてきた。
ものすごい音がして壁には亀裂と漫画みたいな人型の痕がついているのに叩いた方の頬が少し赤なっているだけの瞬を見てさすがはVXだと一瞬感心したがこうなったら言いたいこと全部言ってやる。
「何が世界がクソだよ! そんなクソッタレた世界でも少なくともアンタを見て頑張ろうとか俺も見習おうとか思ってた奴が大勢いるんだぞ!? そんな人達の気持ちまでお前は否定するのか!? それだけじゃない!アンタが命をかけて救った世界と助けてきた人たちの事まで否定する気か? そりゃ辛くて逃げたくなることがあるのだってわかるよ……弱音だって人なら吐きたい時だってあるのもわかるし吐いたって良いと思う! でも自分がやれることまで放り出して悪に屈するなんてそれは人として絶対やっちゃいけないことだろ!!」
口から出たその言葉は今逃げるようにここに居る自分にも突き刺さっている。
そうだ。
俺も逃げようとしてたんだ。
俺が居なくなったらどうなる?
アポカリプス星はおろかアビガストさえ無事かどうかも分からない。
それなのに一時の気の迷いでこんな所にいる。
今の瞬と同じゃないか……
いや。
俺なんかより瞬の方がもっと辛い目に遭っているんだから俺がどうこう言える立場ではないのは分かってる。
自分勝手な押しつけなのも分かってる。
それでもこのまま瞬を見過ごすことは俺にはできなかった。
何より俺も瞬のように世界の命運を変えられるかもしれない。
彼のおかげで抱けたそんな淡い希望で、俺はアポカリプス皇国と地球どちらも救える最善の方法を模索しようと思えたのだから。
「俺だって…俺だってそんなアンタに憧れてたんだ……! そんな勝手な憧れを押し付けられちゃアンタにしたらいい迷惑かもしれない……それでもアンタのおかげで多少はアンタみたいな人間になりたい……そう思ってた奴らが俺以外にも大勢居たはずなんだよ!! きっとこの世界にもアンタの事を心の支えにしてる子どもたちがいっぱいいるはずだろ!!!」
そんな俺の言葉に面を食らったのか瞬はただ目を白黒とさせていた。
それに店のオヤジも急に俺が怒鳴り散らしたのをみて驚いたのかその場で固まってしまっている。
「だからせめて……せめてそんなアンタを支えにしてる人たちを否定するような事だけは言わないでくれよ……頼むよ……シャドーVX……」
気づくと俺の頬には涙が一筋伝っている。
結局俺もまだ何もできていない。
そんな状態で逃げ出したことや瞬に偉そうに説教をたれてしまった自分も悔しくてたまらなかった。
すると瞬はゆっくりと立ち上がり…
「ごめんなさいマリ子さん……俺……間違ってました」
そう言ってこちらを見つめる目は酔も冷めたのか先ほどまでの酒と涙で歪んだ情けない顔ではなく、あの日画面越しに見ていたヒーローの顔つきをしていた。
そしてその顔を見て今自分がとんでもないことをしていることを再認識させられこちらもよいが消し飛び我に返る。
俺が瞬の正体を知っていることがバレたら話が更にめんどくさい事になりそうだ。
なんとか言い訳しなきゃ……!!
「へっ!? ご、ごめんなさい!一度や二度会っただけなのに偉そうなこと言っちゃってそれに酔っぱらってるからかしら……あはは……私ったら手まで出しちゃって訳わかんない事まで言いすぎちゃったかも〜……それになんでVXなんていっちゃったのかしら〜」
俺はしどろもどろに言い訳を考えるが上手く行かず、瞬はゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
「いえ、謝るのは俺の方です。俺、人に叩かれて痛いなんて感じたのは久しぶりで……いや…こんな痛みは初めてかもしれない。それだけじゃない!すごく想いがこもっていたのも伝わってきました……そうですよね……やっぱ駄目だなぁ俺……」
「い、いや……瞬……さんは駄目なんかじゃないと思います……よ? それになんだかんだ言って今まで続けてこられたのはきっと瞬さんが困った人を放っておけないって優しさがあるからだと思うんです……私にもそう言ってくれましたよね?」
「貴女がそんなに俺のこと想ってくれてたなんて……! そんな事も考えず俺はなんてことを言ってしまったんだろう!」
「えっ……?」
そう言うと瞬は再び俺の手を握ってきた。
それに真剣な表情で俺を見つめてくるのでこっちまで胸の鼓動が高まっていく
「俺、あの日からずっと独りだと思ってました。 でも貴女に想ってもらえるならそれだけで逃げずに戦えそうです! 貴女に恥じないように……俺、貴女のために戦います!!」
「ええええっ!?」
彼の口から出た予想外の言葉に俺の頭の中も真っ白になった。
なんでだ!?今の所の何処にそんな要素があった?
顔見知りの女に突然ぶん殴られた上訳のわからない偉そうな説教垂らされただけだぞ!?
俺が瞬なら殴り返すとまではいかないまでも反発の一つや二つはしたくなると思うけど……
「あ〜…え、ええ……良くわからないけれどそれがアナタのモチベーションになるなら……でもできれば私だけじゃなくもっと皆のために頑張ってほしいなー…なんて」
「はい。わかりました!それじゃあ俺からも一つお願いがあるんです。聞いてくれませんか?」
「な、何……かしら?」
一体これ以上何をされるって言うんだ?
真っ直ぐな瞳で俺を見つめる瞬に緊張していると彼はゆっくりと口を開き…
「……来週も……いやこれから毎週日曜日の夜に……ここに会いに来てくれませんか? そうすれば俺……たった独りでもどんなに辛いことでもマリ子さんさえ居てくれればこれからもきっと頑張れますから!」
「は……はい……」
瞬の勢いにNOとは言えず思わず俺はそう答えてしまう。
「やったぁ!それじゃ俺、ちょっと出かけてきます! おやっさん! 今日のお代はバイト代から引いといて!」
瞬はガッツポーズをして小躍りした後店を飛び出していき、そんな彼を店のオヤジと俺は呆然として見送った。
「おいおいあんだけ呑んだら給料何ヶ月分だよ……はぁ……急に居なくなったり急に元気になったりほんと忙しい奴だ。しかしお姉さん……瞬とはどういう知り合いなんで?」
「い、いやまあ……そのなんというか……」
どんな関係か?
敵対するヒーローと悪の帝国の女幹部です!
なんて言えるわけもなく返答に困っているとオヤジはニンマリと気持ち悪い笑みを浮かべた。
「なんだいお熱い関係かい?いやぁアイツ年頃なのに全然浮いた話がなくってさ! 知らないウチにアンタみたいな美人さん引っ掛けてくるなんてアイツも隅に置けないねェ……ま、いつでも来てやってよ。アイツああ見えて結構繊細だけど同じくらいに単純な奴だからよ!」
「い、いや……おr……私はそんなんじゃなくて……」
「またまたぁ……! ま、あんな奴だけどさ根はいいやつなんだ。よろしく頼むよ。アンタみたいな美人さんが居てくれればこのくたびれた居酒屋も華やぐってもんさ」
「えっ!?」
「瞬のこと、よろしくしてやってくれ」
店のオヤジは何か勘違いをしているのかもしれないがこれ以上言い返しても照れ隠しだとか言われて終わりそうでそのまま逃げるように会計を済ませて店を後にした。
一体何だったんだあれは……
しかし瞬が悩んだり弱音吐いたりしているところを見て、彼が完全無欠のヒーローではなくしっかりと年相応の青年だったんだという事を再認識させられた。
テレビでは見ることのできなかった彼のそんな一面を見ることができて少々困惑もしたけれど親近感のようなものも感じる。
それに……
やっぱり目先のことを投げ出すのは良くないよな……
あれだけ偉そうな事言った瞬に顔向けできなくなっちゃうよ。
俺にだってやれることはまだいくらでもあるはずだ。女幹部として少しはしっかりしなきゃ!
結局俺はまた瞬に励まされてしまったのだ。
俺は鞄から端末を取り出し座標を再設定して転送装置を作動させ要塞の自室へと戻った。
そして部屋に戻り、バレないように改めて転送装置を隠すと服を脱ぎ捨てて脱力したようにベッドに再び倒れ込む。
するとさっきとは違う少し心地の良い疲労感に体が包まれていく。
そして冷静にさっきの物事を思い返してみると俺はヒーローにビンタをしたどころか毎週合う約束までしてしまうという暴挙に出たことがとんでもないことだということを更に自覚していった。
あれ……これってとんでもないことしちゃったんじゃ……
そう。本来マリ子なんて登場人物は「装鋼騎士シャドーVX」には存在しない。
だから下手をすると物事が大きく本筋から外れてしまうリスクが有るということだ。
それがいい方向に転べばそれは願ったり叶ったりなんだけど逆に悪い方向に転んでしまえば身の安全どころか地球の平和すら危うい状況になりかねない。
だからといって一方的とは言えあんな約束をしてしまった手前、予想以上に削られていた瞬のメンタルのことを考えるとその約束を無下にする訳にもいかないし……
つまるところVXの背負っている世界の命運を一部肩代わりすることになってしまったと言っても過言ではない状況だ。
もともと薄ぼんやりと本来であればこれから一年も経たないうちに
「おい……ほんとにそんな事俺にできんのかよ……」
鏡に映る赤髪の美女に語りかけてみるが彼女はこちらをただただ引きつった笑顔で見つめるだけで何も返事はしてくれなかった。
そして次の日……
物価を高騰させる作戦がアポカリプス皇国の仕業だと嗅ぎつけた瞬は逃げること無くダイヴァレルの前に立ち塞がり、俺はその様子を俺は部屋に置いてあった水晶玉を通して見守る。
「やはり貴様らの仕業かアポカリプス! 物流は人々の生命線……それを脅かすのは俺が許さないッ! 転装ッ!!」
瞬は声高に捜査権でポーズを決めるとシャドーVXへと姿を変える。
『フンッ! 俺ハ貴様のデータヲ解析シテ作ラレタ! 貴様ノ行動パターンはスベテオ見通シダ!』
そんなVXに対しダイヴァレルは勝ち誇ったように腕部ガトリングガンの照準をVXへと合わせて一気に放った。
本来であればVXのデータを完全に解析したダイヴァレルの銃撃によりに彼は苦戦を強いられる……
はずだったのだがVXはその銃撃をいとも容易く躱して徐々に間合いを詰めていく。
『何故ダッ! 俺ノ射撃地点予測ハ完璧ナハズ……シカシ弾丸ガスベテVXをスリ抜ケテユクッ!!』
「過去のデータに縛られる俺じゃない! 俺は愛の力で生まれ変わったんだぁぁぁぁぁぁ!!!!デモンッ!!ブレイクゥゥゥ!!!」
そう叫ぶとVXは全く苦戦すること無くダイヴァレルをほぼ完封と言っていいほどに圧倒してしまった。
そしてダイヴァレルが吹き飛んだ爆炎の中
「やった……やりましたよマリ子さん……!愛の力の勝利です!!」
VXは拳を天高く突き上げて嬉しそうに叫んでいた。
えっ?
なんか愛の力とか言ってなかった……?
もしかして瞬も俺のこと……?
いやいやもってなんだよ!!俺は一応男なんだぞ!?そりゃヒーローとしての瞬は好きだけどその……恋愛とかそういうのは……
そんなことを考えると顔が火を吹くように熱くなり胸の鼓動が凄まじい勢いで加速していく。
ああやばい!これ以上考えるのは危険だ!
とりあえず落ち着け……ま、まあ瞬に好意を向けられるのは悪い気はしないしそれが瞬のモチベーションになるなら今はそれで良いとしよう!
…………良いんだよな?
と、とにかく瞬も立ち直ってくれたみたいだし俺も俺のやれることを頑張らなくちゃ!
こうして俺も気持ちを新たに女幹部マルデュークとして自分の……そしてアポカリプス皇国破滅の未来を変える為奔走する事を改めて心に誓う。
更にあんな瞬を見ていたら放おってはおけなかったので、彼を元気付ける為飲み友達のマリ子としての二重生活が始まったのだった。
つづく