冴えないアラフォーリーマンが壊滅一直線の悪の組織の女幹部に転生した   作:ゔぁいらす

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第八話 ソルダークネス?

 月蝕の日に生まれ、兄弟のように育った二人の男が居た。

 

 名を月影瞬、そして陽黒想(ひぐろ そう)と言う。

 二人は良き友であったが18歳の誕生日を迎えたその日、彼らの運命は大きく動き出す。

 

 悠久の眠りから現代に蘇った超古代暗黒文明モグローグの新たな王の器として拉致され、その腕に王の資格たるエンペラージェムを埋め込まれその力に適合するよう身体を改造手術によって作り変えられてしまったのだ。

 

 二人は腕に埋め込まれたエンペラージェムと命を賭けて互いに殺し合い一つしか無い王の座を奪い合い、その勝者が地球の支配者となるという運命を背負わされた。

 

 しかし、その改造手術の最中モグローグに協力していた瞬の父が瞬を脳改造直前に助け出しその場から脱出、想はその際に起った事故の影響で仮死状態になってしまう。

 

 手術から逃げ出しモグローグの陰謀と自分の運命を知ってしまった瞬は得てしまった強大な力に戸惑いながらもその悪の陰謀を砕くため、そして取り残された友を救うため装鋼騎士シャドーとして過酷な戦いや運命の中へ身を投じることとなったのだ。

 

 その戦いが熾烈を極める最中、シャドーを倒すため仮死状態で眠っていた想をモグローグは強化改造し目覚めさせる。

 

 彼は優しく穏やかな青年であったが事故と強化改造の影響で目覚めた彼には最早その面影はなく、ソルダークネスと名乗った彼の中にはシャドーを殺しエンペラージェムを奪い取って自らが新たな覇王となり地球を再びモグローグの手で支配するという邪悪な意思と野望しか残されていなかった。

 

 目覚めたソルダークネスとシャドーは幾度も戦いを繰り返し、地球の命運をかけた最後の戦いの時まで瞬はソルダークネスが元の友であった陽黒想に戻ることを信じて戦い続けた。

 

 しかし彼の願いも虚しく最後の最後まで想の意志が戻ることがないままソルダークネスを討った瞬は勝利を手にし、息を引き取ったソルダークネスはモグローグの本拠地である地下神殿と共に地の底へ沈んでいった。

 

 こうして瞬の最も助けたかった友の犠牲を払いながら古代文明モグローグとシャドーの長く苦しい戦いに終止符は打たれ、世界にひとときの平穏が訪れたのだった。

 

 

 しかしソルダークネスは死んではいなかった。

 力尽き地の底に沈んだ彼の肉体はエンペラージェムの自己防衛、修復能力により仮死状態になり目覚めの時を地の底で今か今かと待っていたのだ……

 

 そんな戦いから約一年が過ぎた頃、地球侵略を目論むアポカリプス皇国の侵略部隊幹部であるマルデュークは先遣隊にモグローグの遺跡を調査するように命じていた。

 地球侵略の暁に自分が他幹部よりも優位に立てる様シャドーとソルダークネスを手駒にする計画を立てていたのだ。

 

 しかしその計画は見事に頓挫し、仲間になることを拒んだシャドーに深い傷を負わされてしまった上シャドーVXという新たな力を与えるきっかけを作ってしまう。

 

 それから皇国とVXの新たな戦いが続く中、モグローグ神殿跡の調査は水面下で進んでおり先遣隊は最早見る影もない神殿の最深部で繭のようなカプセルに包まれたソルダークネスを発見する。

 

 という筋書きで今俺や他幹部達の集まる部屋の中心には先遣隊が回収してきた仮死状態のソルダークネスが運び込まれてきた。

 

 この後マルデュークはVXを倒す良い駒になるとソルダークネスを目覚めさせ戦いのダメージからか記憶がシャドーへの憎しみと復讐心しか残って無いことを良いことに良いように使おうとするんだけど……

 

 できないっっ!! 

 

 この後VXと戦っている最中に正気に戻ったソルダークネスがアポカリプス皇国の刺客からVXを庇って死ぬ展開を知ってる俺にそんな事出来る訳がないだろ!! 

 

 何より瞬は死んだはずのソルダークネスが蘇ったことで更に苦悩して友殺しの苦しみを二回も味わうことになる。

 

 それを知ってソルダークネスを……想を蘇生させて瞬に差し向けるなんて俺には絶対にできない。

 

 それだけじゃない。

 戦いが終わった後人知れず飲んだくれて沈む彼の姿を見ているから尚更そんな辛い重いをさせたはくない。

 

 なんとかしてソルダークネスの復活を阻止しないと……

 瞬にとってソルダークネスの存在自体が忌むべき苦しい記憶なのだから。

 

「あ、あの〜やはり一度VXの強化前であるシャドーに敗れた者をこちらに取り込んだ所で役に立たないのでは……?」

 俺は恐る恐る手を控えめに挙げてそう意見具申する。

 しかしその言葉を聞いたイビール将軍の反応は冷ややかで……

 

「何を言うかマルデュークよ、貴様が打倒VXの為にと遺跡の調査を命じたのだろう?」

「は、はい……確かにイビール将軍のおっしゃる通りですが……」

「そうなると遺跡からVXを倒す糸口になるようなものは見つからず持って帰ってこれたのはこの死にぞこないだけと言うわけだが……マルデュークが不要というのであればこのまま捨て置くのも惜しい。他に有効に活用したいという者はおらぬか?」

 イビール将軍は困ったようにそう他の幹部に尋ねた。

 

「ふむ……それではVXを倒すためヴェアルガルの精鋭が鍛え上げた我の新たな獲物の試し切りに……」

 真っ先に声を上げたのはドスチーフで、そう言いながら刀を鞘から引き抜き始め

「犬っころと意見が合うのは癪だがよォ こんなデクの棒さっさとぶっ潰しちまった方が良いんじゃねぇか?」

 彼に賛同するようにジャドラーも腕をボキボキと鳴らした。

 

 そんな二人を呆れ顔でヘルゴラムは見つめ

『全く……相変わらず血の気の多く野蛮な方々だ。幾らあなた方と同様型落ちとは言えVXに似た体組織、そして力の源であるエンペラージェムを持っているのは確かです。それならば我々ゴーレトニグの科学力を持って解剖、解析しVXの打倒に役立てて差し上げようではありませんか。そのための基調なサンプルですよこれは』

 そう言って体中から触手のようなコードをうねうねと生やしその先端にはメスのようなものやドリルのようなものが付いていて今からでも解剖する気が満々と言わんばかりだ。

 

「や、やっぱりお……いやアタシが使わせてもらうわ!!」

 俺はそんな状態を見て思わずそう叫んでいた。

 

『なんですか今更……先程役に立たないと言ったばかりではありませんか』

「えーと……それは……そうっ! 気が変わったのよ! きっと倒したはずのコイツがVXの前に現れればVXは精神的に追い詰められるはず! その隙をついてVXを倒すのよ!! そのためにアタシが使うって今決めたの!! なにせアタシの指示で見つけ出したモノなんだからアタシに使う権利があるってものでしょ? アンタ達に使われるくらいならこのマルデューク様が有効に活用してやるわよ!」

 俺は勢いで結局テレビで見た通りソルダークネスを蘇らせる選択を取ってしまった。

 そうでもしないともっと大変なことになりそうだったからだ。

 

「ふむ……遺跡調査を命じたのはマルデュークだ。それならばマルデュークの管轄で此奴の処遇を決めるがよい」

『なんと! 一度シャドーを仲間に引き入れようなどという間の抜けた作戦に失敗したどころかVXへと強化した原因を作ったマルデュークに再び一任するのですか!?』

 ヘルゴラムは不服そうに言った。

 

「ああ。あくまで此奴をどうするかの権利は発見した彼女にある。しかしVXの様な新たな脅威になるやもしれぬ。そこでだ。マルデュークの手に余ると判断すればヘルゴラム、貴様に此奴の処理を任せよう」

『はっ……! マルデュークの尻拭いをするのは気が進みませんが所詮型落ち、VXの身体データを解析しゆうにそれを超えるスペックを叩き出せる我々であればコヤツの処理など赤子の手を撚るも同然でございます』

 ヘルゴラムは身体から伸ばしたコードを身体にしまうとイビール将軍にアポカリプス皇国式の敬礼をした。

 

「それでは本日は解散! 明日、ヴェアルガルの侵略作戦を結構する!」

 

 将軍の一声でその日の会議は解散になり、仮死状態のソルダークネスはゲーニジュ区画の研究所兼医務室へと運ばれていく。

 俺もその後を追って以前(マルデューク)がシャドーから受けたダメージやグラギムを治療して助けてくれた科学者戦闘員の主任にソルダークネスを蘇生するよう命じて自室に戻った。

 

「はぁー今日も疲れた……それに結局ソルダークネスは蘇らせる方向で進んじゃったしどうすりゃいいんだ……」

 部屋で一人長い髪をぐしゃぐしゃと掻きながら作中通りに話を進めてしまったことを後悔する。

 

 しかしあそこでそれ以外の選択肢を取ってしまえばドスチーフのあの刀で試し切りされるかジャドラーに叩き壊されるかヘルゴラムに解剖されて俺も知り得ないとんでもない怪人を作られるかの三択になってしまうところだった。

 

 それに比べれば作中通りに事を進めるのが一番ベストだと思って咄嗟にあんな事言っちゃったんだよなぁ……

 

 この後目覚めたソルダークネスをどうすれば……

 

 テレビで見ていたヒーローとしての彼だけでなく年相応の若者として重すぎるものを背負わされ弱音を吐く所を近くで見せられているのでせっかくなら瞬を正気に戻った想と会わせてあげたい。

 

 一度ならず二度も人類の脅威に見返りもなく立ち向かう彼にはそれくらいの報いがあっても良いはずだ。

 

 しかし元より目覚めたソルダークネスは記憶が欠落しているし何らかの方法で正気に戻したとしてもそれはつまるところVXとソルダークネスの二人がアポカリプス皇国の敵になる事を意味している。

 そうなってしまえば知っている筋書きから大きく逸脱した展開になるどころか俺の死期が早まる可能性だって大いにある訳で……

 

 結局ジンにもう少し待ってくれとは言ったけどまだ打開策も何も見つかってないのにここに来て悩みがまた一つ増えてしまった訳だ。

 

 ああもう!! 誰だよソルダークネスを見つけて連れてこいなんて言ったやつは!? 

 ……いや、紛れもなくそれもマルデューク ()なんだけど……

 

 とにかくここで選択を間違えば大変なことになってしまう。

 今までより慎重に事を進めなければいけないな……

 でもどうすりゃ良いんだよこんなの……!! 

 

 今後のことで頭を抱えているとドアをノックする音がしてアビガストの声がした。

「マルデューク様……御夕飯の準備が整いましたが如何致しましょうか?」

「え、ああもうそんな時間なのね……ありがとう頂くわ」

 

 アビガストに呼ばれ相変わらずだだっ広い空間にぽつんと置かれた一人用の食卓の前にアビガストが立っている。

 

 いつもはテーブルにべらぼうでアバンギャルドな到底食べ物とは思えない見た目の料理が置かれているのだが今日はまだ何も置かれていない。

 不思議に思っているとアビガストから座って待っていてほしいと言われてそれからしばらくして彼女が器を俺の前に置いた。

 

「こ……これは……!!」

 食欲をそそる懐かしい香りがほんのりと鼻を掠め、湯気の立ち込める器の中を見てみるとその中に入っていたのはいつものようなとんでもない見た目の料理ではなく白く濁ったスープと麺、そしてその上に盛り付けられた具材だった。

 

「はい……最近マルデューク様がお疲れの様でしたので私の故郷の郷土料理ボポルパッゼを以前地球で召し上がられておられたポンコツラメーン……? 風にアレンジしてみました……見様見真似ですのでお口に合うかどうか……もしお気に召さなければ新しい料理を用意させていただきますので……」

 アビガストは自信なさげにそう言ったが確かに目の前にあるのはチャーシューと味玉のようなものの色が変なことに目をつぶればラーメンそのものだ。

 

「と、豚骨ラーメン……ね? わざわざ作ってくれたの? ありがとう。いただきます」

 確かに匂いや見た目は豚骨ラーメンそのものでいつものように食べるのに抵抗等はない。

 しかしいつもあんなグロテスクな料理ばかりでてくる中でこんなシンプルなものが出できた事を逆に不気味に思えてしまう。

 

 しかしこのまま食べないわけにも行かないし俺は恐る恐るスープを掬って口に運ぶと口の中に広がるこってりと濃厚なスープの味わいは紛れもなくラーメンを想起させ、俺は気がつけばそのまま麺も口に運んでおり細いその麺にはしっかりとスープが絡みつき硬めの麺の食感が口の中に広がっていく。

 

 一体どんなスープを使ったのかは分からないがこの味わいは今まで食べたラーメンと似ているようでどのラーメンとも形容し難い味がして、その味を確かめるように一口、さらにもう一口と麺を啜る手が止まらない。

 

 以前の俺なら胃がもたれていたかもしれないくらいにこってりしているがこの身体が若いからなのかそんなことも気にせず箸とレンゲのようなものを進めていく。

 ああ……若いって良いなぁ……

 

「お、美味しいわアビガスト! これ本当にアナタが作ったの!?」

「……はい。昨晩はお夕飯が不要とのことで少々時間を持て余しておりましたのでその間に具材を煮詰めてスープを作っておりました。一晩煮込んだだけですのでボポルパッゼと言うには少々薄味になっておりますが昨晩お見苦しい所をお見せしてしまいましたのでそのお詫びの意味も込めて以前美味しそうに召し上がっていた物を作れればと……」

 相変わらず健気で可愛い子だ。

 

 乗っかっているチャーシューや味玉のようなものも見た目は凄まじいが味は確かでそれにもスープが染み込んでいてとても美味い。

 それにしてもこの麺だ。

 

 一度食べただけでここまで地球の麺に近いものを作れるなんて流石マルデュークのメイドを一人で務めあげているだけのことはある。

 麺も見様見真似で作ったとは思えないくらいにちょうどいい太さと歯ごたえで申し分ない。

 

 やっぱりちゃんと小麦っぽいものから打ったりしたのかな? 

 俺の脳裏に麺をひたすら打つアビガストの姿が浮かぶ。

 

 そんな姿はどこかシュールに思えたが同時に好奇心から彼女にこの麺について尋ねることにした。

 

「ねえアビガスト? この麺どうやって作ったの? 本当にラーメンそのものじゃない!」

「メン……? ですか? あっ、ロホデデディアのはらわたの事でございますか?」

「ゲフッ!? ゴホッゴホッ!! ロホ……何?」

 予想外の答えに俺は思わずむせてしまう。

 今すごい事を聞いた様な気が……いや気のせいかも知れない……

「はい。ロホデデディアのはらわたでございます」

 気のせいじゃなかった……こんな麺そっくりな食感のはらわたがあってたまるか!! 

 

「あ、アビガスト……今なんて? はらわ……?」

「はい。そちら高級食材のロホデデディアを生きたまま火にかけながらこん棒で叩いて吐き出した腸を引き抜き茹でた物です…… 本来であれば採れたての物を使用したかったのですがあいにくこの要塞には生体凍結されたものしかなく……」

 思ったよりグロテスクな調理方法だった!? 

 

 先程まで脳裏に浮かんでいた健気に麺を打つ彼女の姿は良くわからない生き物を痛めつけるような凄惨なものに変わっていて、見た目が凄まじい料理には慣れてきたけど調理方法を聞くのは止めておいたほうが良いなと激しく後悔する。

「更にこの具材ですが……」

「わかったわ! わかったからもうその説明はしなくても大丈夫! ありがとう。アタシの為に頑張ってくれたのはすっごくわかったから!!」

 更にアビガストが具材の説明をしようとしたので俺はそれを止める。

 これ以上説明されたら完食できる自信がないぞ!? 

 

「左様でございますか。お喜びいただけたなら私も……嬉しく存じます……」

 そう言ったアビガストは頬をほんのり赤らめかすかに笑った。

 

 やっぱこんな子に料理作ってもらえるならなんでも良いやと言い聞かせ、さっき聞いたことは聞かなかったことにして再びラーメンのようなものを口に運ぶと口に広がるのはやはり懐かしいラーメンのような食感。

 

 毎度のことながら味は良いんだよなぁ……

 良くわからない食材を良くわからない調理法で料理したことに目を瞑ればだけど……

 

 そんな複雑な思いのまま料理を食べ進めていく。

 

「ふぅ……ごちそうさま」

 ラーメンを食べた多幸感と生きたまま火炙りにされた上内蔵を引き抜かれたというロホデデディアとやらに少々の罪悪感を覚えながらも俺は気づけばスープも一滴残らず飲み干していた。

 

 こんなにアポカリプス皇国流の料理を食べて満足したのは初めてかも知れない。

「お口に合った様で私も嬉しく存じます……この様な下品で低俗な私の故郷の料理をここまで美味しそうに召し上がってくださり……本当にありがとうございます」

 アビガストは頭を深々と下げた。

 

 調理法に問題がありそうだとは言えやはり料理に対する感覚が地球人とは大きく異なっているのかこのシンプルな見た目のスープがアポカリプス星人からすると相当ゲテモノ扱いされているらしい。

 

 そう言えばこの間ジンと焼肉食べに行った時も食べる前は相当気味悪がってたし料理に対する感性が真逆なのかな……

 

 しかし美味しいと感じる味覚や味覚自体に大差はなさそうなのが唯一の救いだ。

「自分の故郷の料理を下品だとか低俗だとか言っちゃダメ! 誰かがそう言ったのかも知れないけれどこの味は本物よ? それにアビガストの思いもちゃんと伝わったから……この味は誇って良い物よ」

「そ、そうですか……以前マルデューク様にお出しした時はお気に召されず一口もお召し上がりにならなかったのでそのリベンジも兼ねて食べやすいようにアレンジしてみたのですがこうして喜んでいただけて本当に嬉しいのです……」

 

 ん? 

 ということは……

 アビガストの郷土料理を下品で低俗とか言ったの(マルデューク)かよォォーッ!! 

 いや俺じゃなくてあくまでマルデュークが言っただけで……でも今は俺がそのマルデュークな訳で……

 ああもうホントなんだよあの女! 

 

 こんな健気でアンタの事想ってそこそこ手間のかかる料理を必死に作ってくれてる子になんてことを……

 いくら自己弁護を重ねようとしても彼女にそう言ってしまったのは紛れもなくマルデューク ()だという事実からは逃げられない。

 

「ごめんなさいアビガスト! マルデューク……い、いえアタシが言ったその言葉は全部撤回するから……! 本当にごめんなさい……アビガストが精一杯作ってくれたのにアナタどころかアナタの生まれ故郷まで卑下するような事を言って……本当に最低よ……」

 いくら記憶がないとは言え彼女を傷つけたり暴言を吐き散らかしていたのは紛れもなく彼女にとってはマルデューク ()自身な訳で俺は深々と頭を下げる。

 他人の失敗で頭を下げることなんて慣れっこだし何よりそんな事を俺自身も許せない。

 

 突然頭を下げた俺を見てアビガストも驚いたのかあたふたとして俺の顔を覗き込んできた。

「ま、マルデューク様!? 頭をお上げくださいませ!! 私はもう気にしておりませんし、何よりマルデューク様の好みも考えずボポルパッゼを出してしまった私の責任でございます! それに私の故郷は片田舎の下民の暮らす集落でしたからマルデューク様がお怒りになられるお気持ちも理解しております……! ですから頭をお上げください! こんな私めの為に貴女様がそこまで頭を下げる必要はございませんから!!」

 アビガストは必死に俺をなだめてきた。

 

 なんかそこまでされると逆に俺が悪いことしちゃったみたいになっちゃうな……

 

「わ、わかったわアビガスト……前にそんな酷い事を言って本当にごめんなさい。こんなアタシの事許してくれる……?」

「はい。今一度召し上がってくださった上に美味しいとまで仰っていただけた。それだけでもう十分過ぎるほどでございます……ですからもう頭を上げて……」

 アブガストにそう言われ俺はゆっくりと頭を上げた。

 

「許してくれてありがとうアビガスト……ところでアナタ……何かアタシにしてほしいこととか……無いかしら?」

 許してはもらえたようだがやはりそれだけじゃ気が済まないしいつもお世話になっている彼女になにか喜んでもらいたいと俺は彼女にそう尋ねた。

 すると彼女は少し困った顔をして……

 

「な、何を仰るのですかマルデューク様……私は貴女の使用人であって私が貴女様になにかしてほしいことなど……」

「そう言わないの。なんでも……って訳にはいかないだろうけどアタシに出来る範囲の事なら聞いてあげるから遠慮しないで」

「え……で、では…………ああやはりそんな! 恐れ多いです!!」

 一度口が緩みかけたがその途端彼女は口を手で抑えてしまった。

 

「もうっ! アタシが良いって言ってるんだから言うだけならタダなんだし言っちゃいなさい」

「……で、では……」

 アビガストは観念したのかゆっくりと口を開き始める。

 一体何を頼まれるんだ……? 

 

 話を聞くに本編外でも俺の知らない酷い仕打ちをしている様だしもしかすると仕返しさせろとか最悪死ねとか言われるかも……? 

 

 い、いやアビガストはそんな事言うような子じゃないし……

 俺がドキドキしていると彼女はか細い声を吐き始め……

「……でてほしいです……」

 顔を真赤にしたアビガストは消え入りそうな声でそう言った。

「ごめんなさいアビガスト……肝心の部分が聞き取れなかったのだけれど……?」

 でてほしい……? 

 俺に出ていけってことかな……? 

 恐る恐る聞き返すと

「ひゃ、ひゃいっ! すみませんっ! あの……その……私の頭を……撫でてほしいのです……今日もよくやったと……」

 彼女は今までにないほどの取り乱し方と可愛らしい声を出して恥ずかしそうにそう続けた。

 

 頭を撫でてほしい? 

「そんな事でいいの?」

「……はい。私の幸せは貴女様に喜んでいただくことですから……」

「そ、そう……それじゃあ……いつもありがとうアビガスト。アタシがやっていけているのはみんなアナタのおかげよ」

 俺はそう言いながら彼女の頭を優しく撫でた。

 

 いつもは俺が手を彼女の前に出すだけで防衛反応からかどこか身体を強張らせるような素振りを見せていた彼女だったが今日はそんな強張りを感じることはなく、彼女の中の辛さや恐怖を少しは取り除けているのなら自分がマルデュークとしてやってきたことも無駄ではないのかもしれないと思えた。

 

「ありがとうございますマルデューク様……こんな私めのお願いを聞いてくださるなんて……」

「いいのいいの! それもアタシが半ば強引に言わせちゃったことだし。これから本当に嫌なこととか辛いことはしなくても良いのよ? その時はちゃんと相談してね? きっとその方がアタシも嬉しいから!」

「……はいっ!」

 俺の言葉に彼女は今までに見たこともないほど嬉しそうにそう返事をしてくれた。

 でもあれ……? なんかこの流れどっかで……

 あっ! しまった!! 

 

 これは確か37話辺りで瞬がアビガストの正体や素性を知った上で「これからは君が本当に嫌だと感じたこと、辛いことはしなくても良い! きっとその方が俺も嬉しい!!」って言うシーンがあったんだ!! 

 

 この言葉がきっかけでアビガストはマルデュークと袂を分かってアポカリプス皇国を離脱するんだけど……

 またそんな重要なフラグをへし折ってしまった! 

 

 い、いや待て……アビガストが離脱するフラグは徹底的に排除していく方が正解なのでは……? 

 とにかく今はアビガストのためにも自分にできることを地道にやっていくしかないと俺は自分にそう言い聞かせるのであった。

 

 そして次の日……

 部屋に備え付けられている通信機のけたたましい音で俺は目を覚ます。

 

「ふわぁぁ〜〜なんだよこんあ朝っぱらから……はい。マルデュークよ? どうかしたの?」

 声を作って通信機を取るとそこから科学者戦闘員の大声が聞こえてきた

 

『まままマルデューク様!! お休み中に申し訳ございません!! ソルダークネスが目覚めました!!! ひとまず現在は拘束して無力化しておりますが今すぐこちらへ!!』

 

 その焦り様は尋常じゃなかったので俺は最低限の化粧と身だしなみを整えて研究室へと向かった。

 

 すると部屋の前には武装したグラギムや戦闘員も控えていて物々しい雰囲気だ。

 

「おおお早う御座いますマルデューク様。本日もお麗しい……」

「あ、ありがとうグラギム……ところでアナタ達も呼ばれたの?」

「え、ええ……何と言ってもあのシャドーVXと過去に対をなした輩ですからね……何かあればこの私めが……」

 グラギムがそう言って槍のような戦闘員用の武器を構えると研究室の扉が開き中から科学者戦闘員の主任が出てきた。

 

 仮面を被ってはいるもののそんな彼の顔からは憔悴しきり疲れ果てた表情が伺えて、相当大変な手術だったことを感じさせた。

「お、お早う御座いますマルデューク様……早朝よりお呼び立てするご無礼をお許しください!」

 主任は震えながら俺に頭を下げる。

 

 多分まだ寝起きで機嫌の悪いマルデュークは何をするかわからないし下手すりゃ殺されるとか思われてるんだろうなぁ……

「気にしないで頂戴。ところでそ……ソルダークネスが目覚めたって?」

 ひとまず怯えた主任をなだめてソルダークネスの様子を尋ねた。

 

「はい。我々の技術の粋を集めて仮死状態からの脱却を図りました。身体には我々には計り知れない施術が施されておりましたが身体の組成自体は我々ゲニージュと大差が無かったものですから順調に進みはしたのですが……」

「したのですが……?」

「はい。目覚めた途端その姿が変化してしまったのです。あの鎧をまとった様なゴツゴツとした姿から丸腰の我々の様な姿に……」

 主任は言いにくそうに言った。

 

 待てよ? VXの手で力尽き果てるその時まで想が元の姿に戻ることはなかったはずだけど……

「そ、それで彼には今会えるのかしら?」

「ええ。一応意識もありますし今は落ち着いていて自動空間翻訳システムも問題なく動作していて会話も可能かと……」

 会話もできる……? 

 

 作中だと訳も分からず襲いかかってきたソルダークネスをマルデュークが一方的にボコボコにしてていくらインフレが進んでいたとはいえ複雑な気持ちになってたけど話せるなら話し合いでなんとかなるかもしれない。

 

 でもその内容を他人に聞かれるのはちょっとまずいな……

 

「そ、そう……! なら危険かもしれないからアタシが一人で話すわ。何かあったら通信機で呼ぶからそれまでは人払いを頼めるかしら?」

「そ、そんな……危険すぎます! またもし万が一のことがあれば……」

「そうですよマルデューク様! せめてこのグラギムをお側に置いてください!」

 二人共俺の身を案じての事なんだろうけど俺の言ったことに猛反対する。

 しかし最悪の場合マルデュークとしてではなく「装鋼騎士シャドーVX」の顛末を知る俺として彼と話さなければならないかもしれないのでグラギム達には悪いが、他のアポカリプス皇国の人々にそんな様子を聞かれるわけにはいかないのだ。

 

「だ、大丈夫よ! アタシを誰だと思っているの? アタシはアポカリプス皇国ゲニージュ特務部隊作戦参謀マルデュークよ? こういう時はトップが先陣を切らなきゃ……ね?」

「は、はい……ですが……」

 なんとか立場を利用して押し通そうとしてみるが主任はまだ不安そうだった。

 しかし……

 

「マルデューク様! 流石です!! この様な自らのみを危険に晒す事態にも先人をお切りになられるとは不肖グラギム……貴女様のような聡明なお方にお使えできてとても光栄でございます!!! 

 グラギムが目から涙を溢れさせそう声を上げた。

 いくらなんでも単純すぎないかコイツ……

 

「主任殿、マルデューク様がそうお望みだ。場所を開けてくれたまえ。我々がマルデューク様のお言葉を信じずしてどうする? マルデューク様、何かあったその時はすぐにお呼びください。この命に代えても貴女をお守りいたします」

 しかしグラギムを味方につけられたのは大きかった。

 グラギムがそう言って主任をなんとか説得してくれたのだ。

 

 そして人払いも済み、想の拘束されている病室に一人足を踏み入れる。

 するとそこには四肢を鎖で繋がれた人間の姿をした想がいた。

 

 彼の身体には戦いでできた傷跡が生々しく残っており少々ぐったりしているように見えたが俺の姿を見て顔をゆっくりと上げる。

 

 そして……

「あ、あのー……ここは一体何処なんでしょうか? なんか突然鎖で繋がれて電流流されたりして……っておわぁぁぁぁっ!! なんて格好してるんですか!?」

 彼がモグローグ次期帝王としてのけたたましく威厳のあったソルダークネスだったとは思えないほど彼は気の弱そうな震えた声を発して顔を真赤にしてこちらを見つめてきた。

 

 一体どういう事だ? ソルダークネスはもっとこう絵に描いたような覇王って感じのキャラだったのに……

 予想だにしない想との邂逅に俺は戸惑いを隠せずにいた。

 

 多分それと同じくらいに目が覚めた途端覆面全身タイツや痴女みたいな格好をした女がやってきた訳だから彼も同じくらいに驚き戸惑っていたのかも知れない。

 

 ひとまず何処から何を話せば良いのやら……

 

 

 つづく

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