ポストアポカリプス時代の配信ライフ ―令和原人っていうのはやめてくれ!―   作:石崎セキ

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2話同時更新の1話目です。


初コラボ! 前編

 ……結構な勢いで啖呵(たんか)と配信を切ったが、そのあとにできることといえば、眠ることだけ。感情が(たか)ぶって睡魔を威嚇していたけれど、あの手この手で睡魔を呼び寄せて、意識を落とした。

 

 朝。まずは川まで行って、ベッド・マットや布団やスーツを洗濯する。

 ベッドはあったけれど、そこでそのまま寝るには、あまりにあの部屋は生活感がありすぎた。汗や脂なんかはとうに分解されているだろうが、滅亡の原因が菌だとすれば、いまなおその菌がベッドに貼り付いている可能性は捨てきれない。洗った程度でどうにかなるか判らないけど、もしそれでどうにもならないほどの強さを持っているのだとすれば、部屋に入った時点でアウトだと思う。

 いずれにせよ、この小屋を使う以上、避けては通れない問題だ。

 

 お父さんの靴の臭いがする大きな桃が流れてくることもなく、無事に洗濯を終える。洗濯物を干して、朝ごはんとして野菜を食べる。

 

 起きたときには鼻が慣れていて異臭に気づかなかったが、一旦外に出てしまえば、小屋が死臭に満ちているのが判った。

 原因は犬。

 さっさと丸焼きにしてしまおうと、ネットで豚の丸焼きの調理方法を検索する。

 昔はこんなに残酷な調理をしていたんですよ、ということを記したページだ。

 四足獣である点には変わりがないので、処理方法に大きな違いはない。

 

 口からお尻まで棒を突き刺して、ようやく下ごしらえに成功。

 (かまど)に吊るして焼きあげる。

 肉に含まれていた水分が蒸発していく。

 

「完成……でいいのかな」

 

 配信中に食べるわけにもいかないから、とりあえず食べることにした。

 

「うわ、くさっ……」

 

 うっかりと言葉が洩れてしまった。

 獣臭い。

 家畜用に育てられていた牛や豚と比べるのが悪いのかもしれないが、肉ということで期待していた。塩を過剰につけて匂いを強引に消したが美味しくはない。工事音をバカでかい音楽でかき消しているようなものだ。どちらにせよ、うるさいという事実は変わらないのだ。 

 

 ……牛とか豚とか鶏とか、野生化してないかなぁ。

 

 家畜を育てていない向こうでは望み薄だろうけれど。ペットはもはや自然界では生きられないから、むしろ飼うことを推奨されているらしいが、家畜はどうなのだろう。

 犬は、精神的にも味覚的にもよろしくない。

 

 肉でできたゴムを噛んでいるような感じだ。

 

 なんていうか……こんなに頑張って調理してもこんな感じなら、埋めてもよかったかもしれない。せっかく料理したからには食べるけれど。

 消極的なベジタリアンになりそうだ。

 途中、我慢できなくなってキャベツで包んで飲みこむことにした。塩を節約できるし、最初からこうしておいたほうがよかったかもしれない。

 

 可食部の4分の1くらいを食べ終えたところでお腹が限界を迎えたので、片付ける。残りはまた夜にでも食べることにしよう。

 

 洗濯物はベッド・マット以外は乾いていて、お日さまの香りがする。

 

 諸々の作業を終えたところで、FP(フォロー・ポスト)のダイレクトメールに通知がきた。

 通話である。

 繰り返そう、通話である。

 前世を併せても通話の経験はあまりないので緊張する。

 今は相互フォロワーしかダイレクトメッセージを送れない仕様にもどしたので、相互フォロワーであることには間違いない。

 そして、わたしの相互フォロワーはひとりしかいないのだ。

 

 承諾ボタンを押して、電話に出る。

 

『聞こえてますかー?』

 

 柔らかい女性の声が聞こえてきた。温和で落ちつく話し方だった。

 

「あ、聞こえてます。えっと、エリザベスさん……でいいですか」

『それでもいいですけどー、もっと卑猥(ひわい)な呼び方でもいいですよ』

「こっちがいやですよ!」

 

 そもそも卑猥な呼び方ってなんだ。

 

淫猥(いんわい)な呼び方のほうがいいですか?』

「さっきと変わったの単語だけですよね」

 

 意味は何一つ変わっていない。

 

『冗談ですよ』

 

 エリザベスさんは笑った。冗談じゃなきゃ困る。

 

『こっちからは、令和原人さんでいいですか』

「いいと思ってるんですかっ!?」

 

 相手は、チャンネル登録者数1600万人を擁する中堅ライバー・エリザベス香車。

 実は、昨日のうちにコンタクトを取ったのだった。コラボをしたいということを申し出たら、すぐに返信があって『明日通話しましょう』ときた。それからは時間なんかを向こうがトントン拍子に決めてくれて、ほとんど向こう任せになっていた。

 昨日の夜にしか動画を見られていないけど、ニッチなライバーを紹介する動画シリーズが好評を博していて、そうしたライバーとコラボをすることによって手広く交流を持っている人のようだ。

 

『いやー、それにしてもありがとうございます、コラボのお誘いなんて。初コラボですよね? 私でいいんですか?』

「こちらこそコラボを受け入れてもらってありがとうございます、全然そちらに視聴者を流せないのに……」

『視聴者といえば、あれ大丈夫でしたか、うちの視聴者が犬の件でかなり騒いでましたけど。すみません、変な時期に紹介しちゃって』

「全然問題ないです、あれでかえって吹っ切れたというか」

 

 これくらいの良識があるのに、最初に下ネタを振ってきたのか……振り幅が判らない人だった。

 

『通話でもそのままの喋り方なんですね――あ、変な意味じゃないですよ。ライバーには、配信と通話だと全然テンションが違う人が結構いるので』

「エリザベスさんは、確かに動画とキャラが違いますよね……じゃあ、最初のあれは……」

『素ですね』

 

 キャラであってほしかった。

 

「ところでコラボ初めてなので、あまり勝手とか分からないんですけど……どっちのチャンネルがいいとかってありますか」

『そうですね。せっかくですし、こちらのチャンネルでいいですか』

「……ありがとうございます、助かります」

 

 向こうのプラットフォームに乗りこんだほうが売名できるので、願ったり叶ったりだ。

 おそらく向こう側もそれに気がついていて、それでもコラボをしようとしてくれているのだろう。頭が上がらない思いだった。

 つくづく冒頭の下ネタはなんだったんだ。

 

『いえいえー、配信じゃなくて動画ってことになりますけど、考えているのは常識クイズです。令和について調べたんですけど、今と違うところが結構あるのでー、そこにスポットをあてたクイズですねー。えっと……カンペとかあったほうがいいですか?』

「いえ、なくても大丈夫です」

『わかりましたー。日程に希望とかありますか?』

「いつでもフリーです」

『おお、助かります。では、明日の14時はどうでしょう。撮影時間はトラブルとか諸々を想定して2時間くらいで。企画自体は1時間くらいで終わると思います』

「じゃあ14時で」

 

 こうして明日に動画を撮ることになった。そのほかに告知のタイミングを相談したり、雑談したりしているうちに、1時間くらい経っていた。

 

『それでですね……と、すみません、これからコラボがあるので、失礼しますね』

「引き止めちゃってすみません、明日もよろしくお願いします」

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