ポストアポカリプス時代の配信ライフ ―令和原人っていうのはやめてくれ!― 作:石崎セキ
あ、撮影中はタメ口でいきますねーと前置きをして、エリザベスさんは深呼吸した。
『ハロー・エブリアス! 好きなレタスはレタス、エリザベス香車です!』
エリザベスさんは、小ネタを挟んで自己紹介をする。
エブリアスというのは「すべての私たち」という意味の造語で、ノリとフィーリングで決めたのだという。エリザベスみたいでいいじゃないですか、といっていたが、意味が判らない。
『みんな、この前に紹介したライバーさんを覚えてるかなー? 今日のゲストは、おそらくライバー1令和に詳しい、このお方!』
わたしの名前が呼ばれたので、自己紹介をする。
「……普段は人類が滅びたあとの世界でサバイバルしてます、よろしくお願いします」
『掴みのパワーがエグくない?』
「掴みがエグいのはエリザベスさんじゃないですか。初めて通話したとき、呼び方エリザベスさんでいいかって聞いたら、もっと
動画だから、NGとか関係なしにエピソードを暴露する。
『ちょっと、バラさないでよ、裏で敬語なこと! 真面目なのがバレちゃう!』
「そっちですか? 卑猥な呼び方のくだりがバレるほうを危惧してくださいよ」
『私は自分に嘘はつかないからね』
「少しはついてください」
『さて、無事汚名がついたところで企画説明に移るよー。今日の企画は、常識クイズー! 令和からトリップしてきたレイちゃんに――』
「ちょっと。レイちゃんってもしかして令和からきてます? さっきまで呼び方普通だったじゃないですか」
『冷酷無比からきてる』
「なんでっ!?」
『とにかく』
「とにかくじゃないですよ。説明してください」
『……とにかく!』
押し切られた。
『レイちゃんに、どれくらいの一般常識があるのかクイズしてみようって企画! 要するに無知を
「常識はともかく、エリザベスさんは良識を学んだほうがいいですよ。ていうか、初手で卑猥な呼び方推奨するような人は常識も学んだほうがいいです」
『冷酷無比なツッコミ!』
「冷静といってください」
『冷静だからレイちゃんね』
「繋がった……!?」
エリザベスさんが一瞬黙った。編集点というやつを作っているのかもしれない。わたしもそれに
『それじゃあ、早速、問題です! 令和は47都道府県でしたが、今の日本の都道府県はいくつでしょう?』
「えっ、問題になるってことは、47じゃないってことですよね? えー……? 新しいものができることはないと思うから、合併みたいな感じかな。……ゾロ目の44都道府県でいきます!」
『ぶー、はずれー。47都道府県です。レイちゃん常識ないね?』
「思ってたのと違うんですけど! 完全に引っ掛けじゃないですか!」
『いや、完璧に王道だよ』
「王道も騎士道もあったもんじゃなかったですよ」
『じゃあ、次は正々堂々とした問題ね!』
「さっきまでが邪道だったって認めてるじゃないですか!」
さっきのを王道といっている人の正々堂々なんて信用できない。
……というか、嘲笑するとかいう性格が捻じくれた企画趣旨からして信用できるはずもない。
『それでは次の問題! 日本の国鳥は何でしょうか』
「え……トキ?」
『正解! ちなみに令和にはキジだったけど、どこでこの知識を?』
まっとうな問題だった。
そしてまっとうじゃない方法で正解した。
「令和からトキだと思ってました……。絶滅危惧種なんて縁起悪いから、国鳥になるわけないですよね、冷静に考えれば」
『レイちゃんの名が
「それは早く廃れてほしい」
命名から廃れるまでが早すぎるけど。
こうして撮影はスムーズに続いていき、第15問目。
1問4分程度のペースで、ということだったけど話題が脱線して、1時間30分が経過していた。
『最終問題! サービス問題です。私、エリザベス香車の名前の元になっている香車とは、何というゲームに由来するものでしょうか』
「将棋ですね!」
『――正解! 15問中正解が3問ということで、レイちゃんには常識がありません』
「正解宣言のあとシームレスに悪口に移行するのやめません? もうすこし誇らしい気持ちでいたかったんですけど」
『おこがましい』
「6文字で切り捨てないでください。何がおこがましいんですか」
『なにもかもだ』
「6文字で切り捨てないでください。6文字に揃えようとして口調変わってるし」
もともと300年後の常識なんてわかるはずもないのだから、3問正解できたことが奇跡だ。
1問がサービス問題とはいえ、である。
『それでは、みなさんご視聴ありがとうございました』
「えっ、突然すぎないですか? 逃げようとしてません?」
『エリザベス香車と――』
わたしが入りこもうと息を吸った瞬間、エリザベスさんが声を放った。
『――レイちゃんがお送りしました!』
「レイちゃんじゃないですからっ!」
そうツッコんで2秒くらい経つと『オッケーでーす』と声が聞こえてきた。
『お疲れさまでしたー。なんか思ったよりも盛りあがっちゃって、想定時間オーバーしちゃいましたね。撮れ高が多いので、前編と後半で分けることになるかもしれません』
「……お疲れさまでした。めちゃくちゃ疲れました。かなり引っ張ってもらいましたけど、それでも全速力っていうか」
『いや、レイちゃんがついてきてくれたので、久々にボケに振り切れました。いつもはツッコミなんですよ』
「嘘つかないでくださいよ。ドボケじゃないですか」
『それは単なる悪口じゃない?』
ツッコまれた。
ツッコミというのも本当なのかもしれない。
別に確かめるためにボケたわけではなかったけれど。
「えっと……告知とか、いつしたほうがいいんでしょうか」
『確約はできないですけど、明日には投稿できると思います。私が告知をポストしたあとで、適当に何かしてもらえればー』
「判りました、適当に何かします」
わたしの視聴者なんてエリザベスさんの視聴者の足元にも及ばないから、あまり宣伝効果はないだろうが。
『ありがとうございましたー、またコラボできるといいですね!』
「そうですね、またよろしくお願いします!」
こうして、わたしの初コラボは終わったのだった。