ポストアポカリプス時代の配信ライフ ―令和原人っていうのはやめてくれ!―   作:石崎セキ

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実験 前編

 柔らかい布団最高。

 一生こうしてうだうだしていたいという煩悩を、鋼の意志で振り払う。

 洗濯してきれいになったベッドに寝そべりながら、わたしは高らかに宣言した。

 

「第一回、視聴者をどう集めたらいいか大会の開催を宣言します!

 前回、わたしはエリザベスさんに寄生して視聴者数を増やしたわけだけど――」

 

:第一回なのに前回なのか

:正直で草

:ネーミングセンスが令和してるね

:令和してるとかいう悪口

 

「令和してるが悪口になるの、納得いかないな!?」

 

 どうやって視聴者を増やしていくか、というかゴールである人類滅亡を食い止めるために、どういうプロセスを経る必要があるのか。自分ひとりではどうにもならないので、視聴者に助けを求めることにした。

 エリザベスさんとのコラボ動画は、前編が612万再生、後編が594万再生と良好な結果を残せた。エリザベスさんの投稿動画の平均再生数は640万回くらいなので、平均と比べて下がってはいるが、後編の0.8パーセント、4万8000人程度がチャンネルを登録してくれたことになる。

 ブレインストーミング、またの名を人海戦術。

 いくら劣悪な意見でも、磨けばダイヤになるかもしれない。それをまとめあげるわたしの頭脳に難があるが、ひとりで考えているよりはマシだろう。

 

「とりあえず、視聴者をどう集めるかという点だけど――寄生以外に、何かいい手があるよって人いる?」

 

:炎上

:あったら自分でやってる

:配信を地道に続けるしかない

:再生時間が長い動画ばっかだから、短い動画で人柄を知ってもらうとか

 

「それ昨日エリザベスさんにいわれて、配信の切り抜きを作ってくれるっていってた」

 

:連絡続いてるのか

:熱心なファンで草

 

 エリザベスさんとの連絡はまだ続いていて、色々と気にかけてくれている。

 忙しそうなのでこちらから相談は持ちかけづらいが、忙しいなかでも親身で、何人もいるんじゃないかと錯覚するほどレスポンスも速い。

 

「令和だと切り抜き動画が結構あって、視聴者が勝手にSNSに流してたりしたんだけど、そっちにはそういう文化ないのかな? FPで他の配信者を見ていても切り抜きはないっぽいし」

 

:厚い法律の壁

:無法地帯かな

:モラルどうなってんだ

:そもそも自分で編集できるし必要ない

 

「法律? わたしの動画、人のチャンネルに上がってるやつ以外は好きにしていいよ。丸々コピーして自分のチャンネルに上げてもいい」

 

:!?

:ネットのおもちゃになるぞ

:どうやって生きていくつもりですか

 

「そりゃあ、野菜と魚食べてだけど。あ、最低限出典を示すのと発言の趣旨をゆがめないことだけは守ってほしい。あと、できれば近いうちに人類が滅亡するかもしれないってことも広めてほしい」

 

 ネットのおもちゃになる、というのはむしろ願ったり叶ったりだ。

 ああいうのは実害があるから怖いのであって、絶対に干渉されない安全地帯にいると分かっていれば怖いものではない。

 ましてや今回は、タイムリミットがいつまでなのかさえ判らないのだ。多少の不愉快さには目をつぶることができる。

 

:公認ならやるかも

:顔とかは映ってないから、そこらへんは安全だろうけど

 

「ほかに追加しておいたほうがいい条件とかあるかな」

 

:動画の権利は握っておいたほうがいい

:加工・編集された動画を自チャンネルに掲載できるようにするとか

 

「それ採用。わたしの配信が素材となっている場合、わたしがこのチャンネルに動画をアップすることも許可してほしい」

 

:オーケー

:それは申請フォームでってことですか?

 

「申請フォーム?」

 

:LCの申請フォームで動画の権利者に用途を説明しないと動画は転載できない。そもそもコピーガードかかってるし

 

「じゃあ、そのフォームとかいうやつ配信終わったら調べておくから、そこでやる。無料だよね?」

 

:権利者が値段設定したりできるけど、無料でもできる

:直感的に操作できるから大丈夫だと思う!

 

「なるほどねー、ありがと。じゃあ、その申請とやらを片っ端から許可しておくから、使う予定なくても申請していいよ」

 

 知名度的に大した量にならないだろうし、詳しく読む必要だってないだろう。

 

「いきなり視聴者数をあげる……ってなると、やっぱり手段は炎上しかなさそうだけど、炎上するようなやつの話なんて信じられるわけないから、炎上は極力避けていきたい」

 

:心配だし助かる

:最後の手段にしよう

 

「で、つぎにわたしのいってることを信じてもらう方法。わたしの事故の記録とかが残っていればいいんだけど、それがイコールでわたしと結びつくわけではないと思う。顔写真が掲載されていればべつだけど、普通の事故じゃ新聞には載らないだろう……し?」

 

:お?

:なにか名案があった?

 

「いや……名案っていうか、神さまが、わたしの死体の画像がSNSで拡散されたっていってたから、そこ経由でどうにか記録が残ってたりしないかな? 顔潰れてたりしたら証明にはならないだろうけど」

 

:民度低すぎないか?

:蛮族

 

「それはさすがに蛮族呼ばわりは仕方ないっていうか、蛮族でももっと理性あるよね!」

 

:旧インターネットに接続するにはアクセス権が必要だから、専門家以外は難しいと思う

:そもそも何百年も経っているなら、サーバーごと消えている可能性のほうが高い

 

「アクセス権? なんで? 民度低いから?」

 

:いまの技術で旧インターネット使うとクラッキングが容易で、当時の国家機密とかが流出するから。国は続いてるわけだから、間接的に今の機密情報も洩れかねない。

 

「へぇ~!」

 

 なんとなく一般人は使わないと聞いたことはあるけど、そういう理由だったのか。

 国家機密レベルのセキュリティでも簡単にアクセスできてしまうなんて、つくづく技術の発展は日進月歩だと思う。

 いや、感心している場合ではないが。

 

「うーん、それが無理ってことは……詰み? いや、そんなことないな。みんなの協力が必要だけど――」

 

:どういう方法?

:今度こそ名案かな

 

「わたしの研究スレの書きこみ見たんだけど、最初のビルがあった場所が楢浜市ってとこなんでしょ?

 この小屋は、楢浜市って場所からそう遠くない場所にあるし、通ってきた道も配信に映っている。ってことは――みんなが、この小屋の付近にものを埋めて、それをわたしが掘り出すことができれば、晴れてわたしが未来にいることの証明ってことになるよね」

 

:いやいやいやいや

:本当に?

:ていうかスレ読んでるのか

 

 わたしは億劫な身体を起こして、スマホを持って小屋の外に出る。

 

「みんなは、このあたりに五円玉を埋めます。オーケイ? ほら、埋めた埋めた」

 

:リアルタイム性がないから証明不可能では

:俺たちの時間は関係ない

 

「あ、そっか。じゃあ、ここを掘ったらすでに五円玉が埋まっている可能性があるってことだよね?」

 

:それはそうだけど証明にはならない

:いま付け足してもいいか?

 

「なるほど、いま付け足せば、リアルタイムのみんなにも伝わるってことか。何を足す? ていうか、埋める人たちに何を足させる?」

 

:大判小判

:用

:1+1

 

「大喜利大会じゃないんだよ!」

 

:コメントが仕込みかもしれない

 

「じゃあ、わたしがコメント欄に上矢印を打ちこむから、その上の人が、次の上矢印を打ちこんで、その上矢印が刺さったコメントってことにしよう。これくらい複雑にしたら、狙い通りにはならないよね」

 

:たしかに

:いまは結構コメントの流れも速いしな

:↑

 

「じゃあ、『いまは結構コメントの流れも速いしな』ってコメントした人が、つぎの矢印を打ちこんでくれると嬉しいな」

 

:五寸釘

:↑

:コンクリートブロック

 

「五寸釘……なかなか奇抜なのがきたね。これは、さすがに仕込みとはいわれないでしょ。……あればの話だけど」

 

 そしてわたしは穴を掘った。石ひとつなかった。

 

「畜生!」


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