ヴィランのお話   作:斗掻き星

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旧い知人の、最初で最後の頼みだ。

「久しぶりね」

 

私は倒れて動かない顔無し男に、上から声をかけた。

 

「誰かと思えば君か、Verhunt(ベルハント)。今一番会いたくなかったよ」

 

AFO(オールフォーワン)、かつての悪の帝王は声を出すのも限界だろうが、律義に言葉を返した。

 

「あなたが負けたと思って見に来たら、暫く見ないうちに随分不細工になったものね」

「そういう君は変わらないな。羨ましいよ」

 

久しぶりに会った知人は顔を失っていた。

 

「あなたを見てたら、正義は勝つなんて言葉が安っぽく思えたものだけど。盛者必衰ってことかしらね」

「相変わらず嫌味な女だな君は。笑いに来たのかい?」

「まぁそうと言えばそうね」

 

この男を上から見下せるのは珍しい。

私は少しの優越感を感じていた。

 

(ヴィラン)連合、だっけ。あなたが後継を育てるなんてね」

「自分の成せぬ願いは後ろに託す。人間にとっては普通の事さ」

 

そうやって話していると、昔の記憶が蘇ってきた。

 

「しかし」

 

それはこの男も同じようで。

 

「ついぞ君を殺すことはできなかったな」

 

大層残念そうにそう呟いた。

 

「殺したじゃない。何度も」

「死ななかったじゃないか」

 

普通は言わないような言葉も出てきた。

 

「僕は君が羨ましかった。僕の欲しい物全てを持っていた」

「そんなことないわよ」

「あるさ。現に君は美しい姿を保っている」

「褒めるなんて、あなたらしくないわね」

 

常に嫉妬と殺意を向けられていたから、誉め言葉がひどく気持ち悪かった。

 

 

 

「助けて、あげようか」

 

私からも気持ち悪い言葉が出た。

 

この男を友人だと思ったことはない。多分こいつもそう。

しかし友人ではないが、一番付き合いが長いのもこの男だった。

情が沸いた、のだろう。

 

「君に助けを乞うなんて、死んでも嫌だね」

「そう。なら今のは忘れて頂戴。気の迷いよ」

 

だが、とAFOは続けた。

 

「その代わりと言う訳ではないが、頼みを聞いてくれないか」

「頼み?あなたが?私に?」

「そうだ。僕が君に、まさかこんなことを言うとは思わなかったが」

 

今までこんな雰囲気で話し合ったことはない。

多分この男も、変な空気に当てられておかしくなっているのだ。

 

「死柄木弔を、見てやってくれないか」

 

死柄木弔。彼の後継だろう。

 

旧い知人の、最初で最後の頼みだ。

 

「会うだけ会ってみるわ。まぁ支援できてもお金くらいでしょうけど」

「充分だ。ありがとう」

 

ありがとうなんて。

 

「雰囲気に流されて変な事言い過ぎよ」

「君も大差ないと思うが」

 

ならそろそろ帰るとしよう。

これ以上変な言葉が出る前に。

 

「それじゃあ、行くわ」

「ああ」

「さよなら」

「…ああ」

 

私は、彼を振り返ることなく去った。




この作品を書く上で、最も書きたい場面の一つでした。
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