ヴィランのお話   作:斗掻き星

16 / 40
私の居場所は、確固として揺るぎない。

「死穢八斎會?あぁ、あのヤクザね」

「はい。そこに潜入するので、暫く帰れません。ごめんなさい」

 

今回の依頼は達成まで泊まり込みとなる。

個性を使えばいつでも帰れるとはいえ、怪しまれるような行動は避けるつもりだった。

 

「謝る必要はないわよ。あなたを縛り付けるつもりはないし」

「でもなんか、仕事を優先してる感じがして…」

「あはは、いいわよ仕事優先で。でもそうね、ちょっと寂しくなるわね」

 

ベルさんはそう言ったが、寂しいのはむしろ私の方だった。

 

「あ、そうだ。死穢八斎會ね、最近ヒーローに目をつけられているから、気をつけてね」

「そうなんですか。ありがとうございます」

 

愛しいこの場所を、短い間とはいえ離れるのは少し辛かったが。

 

「行ってきます」

「ええ、行ってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

「頼むよ。こいつの面倒見てやってくれ」

 

義爛が誠心誠意頭を下げた。

 

義爛の横には眼鏡をかけて雑に変装した私。

対面には死穢八斎會の若頭、オーバーホールとその手下。

 

義爛の依頼を遂行するため、義爛と私は死穢八斎會に出向いていた。

 

「親父の頃から付き合いのあるあんたの頼みだ。出来るだけ聞くつもりではいる」

 

それで、と私の方を見た。

 

「こいつは役に立つのか?」

「面倒見てくれ、の言葉が示す通りだ」

「つまり役立たずか」

 

設定としては義爛が拾ってきた寄る辺の無い女。

 

「個性は?」

「無し」

「本当にただの無能か…」

 

こんな設定では受け入れてもらえると思えなかった。

だが義爛は有能よりは無能の方が良いと言っていた。

 

「一応家事全般はできる。身の回りの世話くらい出来るはずだ。夜の方は分からんが」

「それは求めてない」

 

オーバーホールは少し考えて言った。

 

「お前、名前は?」

 

流石に時雨と名乗る訳にはいかないので。

 

小夜(さよ)です」

「小夜。ウチにこい。お前に居場所をくれてやる」

 

どうやら合格らしかった。何故かは分からないが。

 

そしてオーバーホール。

残念ながら私の居場所は、確固として揺るぎない。

 

 

 

「ついてこい」

「分かりました」

 

義爛は何度もお礼を言って去っていった。

意外にも演技派らしい。

 

「クロノ、音本、新入りだ」

「初めまして。小夜です」

 

私は礼儀正しく挨拶をした。

 

名前を呼ばれた男達はオーバーホールと同様、ペストマスクを着けていた。

彼と距離の近い者が着けるのかもしれない。

 

「おや、可愛らしいお嬢さんだ。私は音本(しん)。よろしくね」

「玄野(はり)です。よろしく小夜さん」

 

二人はマスクを外して挨拶を返した。

ヤクザというのは結構礼儀正しいらしい。

 

「クロノ、お前が面倒見てやれ」

「わかりやした」

 

私の教育係は玄野さんだそうで。

 

「環境が変わって不安だろうからな。音本、何かあったら話を聞いてやれ(・・・・・・・)

「了解です、若」

 

オーバーホールも意外と気が回っている、ように見える。

これは私の勘に過ぎないが、この男は人心掌握に長けている。

組内で派閥ができる程度には人望がある。

まだ信用されてないと思った方が良いだろう。

 

私は一層警戒を強め、されど外面には無力無能の顔を張り付けた。




時として無能が必要な場面もありましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。