「死穢八斎會?あぁ、あのヤクザね」
「はい。そこに潜入するので、暫く帰れません。ごめんなさい」
今回の依頼は達成まで泊まり込みとなる。
個性を使えばいつでも帰れるとはいえ、怪しまれるような行動は避けるつもりだった。
「謝る必要はないわよ。あなたを縛り付けるつもりはないし」
「でもなんか、仕事を優先してる感じがして…」
「あはは、いいわよ仕事優先で。でもそうね、ちょっと寂しくなるわね」
ベルさんはそう言ったが、寂しいのはむしろ私の方だった。
「あ、そうだ。死穢八斎會ね、最近ヒーローに目をつけられているから、気をつけてね」
「そうなんですか。ありがとうございます」
愛しいこの場所を、短い間とはいえ離れるのは少し辛かったが。
「行ってきます」
「ええ、行ってらっしゃい」
「頼むよ。こいつの面倒見てやってくれ」
義爛が誠心誠意頭を下げた。
義爛の横には眼鏡をかけて雑に変装した私。
対面には死穢八斎會の若頭、オーバーホールとその手下。
義爛の依頼を遂行するため、義爛と私は死穢八斎會に出向いていた。
「親父の頃から付き合いのあるあんたの頼みだ。出来るだけ聞くつもりではいる」
それで、と私の方を見た。
「こいつは役に立つのか?」
「面倒見てくれ、の言葉が示す通りだ」
「つまり役立たずか」
設定としては義爛が拾ってきた寄る辺の無い女。
「個性は?」
「無し」
「本当にただの無能か…」
こんな設定では受け入れてもらえると思えなかった。
だが義爛は有能よりは無能の方が良いと言っていた。
「一応家事全般はできる。身の回りの世話くらい出来るはずだ。夜の方は分からんが」
「それは求めてない」
オーバーホールは少し考えて言った。
「お前、名前は?」
流石に時雨と名乗る訳にはいかないので。
「
「小夜。ウチにこい。お前に居場所をくれてやる」
どうやら合格らしかった。何故かは分からないが。
そしてオーバーホール。
残念ながら私の居場所は、確固として揺るぎない。
「ついてこい」
「分かりました」
義爛は何度もお礼を言って去っていった。
意外にも演技派らしい。
「クロノ、音本、新入りだ」
「初めまして。小夜です」
私は礼儀正しく挨拶をした。
名前を呼ばれた男達はオーバーホールと同様、ペストマスクを着けていた。
彼と距離の近い者が着けるのかもしれない。
「おや、可愛らしいお嬢さんだ。私は音本
「玄野
二人はマスクを外して挨拶を返した。
ヤクザというのは結構礼儀正しいらしい。
「クロノ、お前が面倒見てやれ」
「わかりやした」
私の教育係は玄野さんだそうで。
「環境が変わって不安だろうからな。音本、何かあったら
「了解です、若」
オーバーホールも意外と気が回っている、ように見える。
これは私の勘に過ぎないが、この男は人心掌握に長けている。
組内で派閥ができる程度には人望がある。
まだ信用されてないと思った方が良いだろう。
私は一層警戒を強め、されど外面には無力無能の顔を張り付けた。
時として無能が必要な場面もありましょう。