「ここがあなたの部屋です」
迷路のような地下を歩いて案内されたのは手狭ながらも綺麗にされた部屋だった。
新入りの小娘に個室まで与えるのは、私の心を掴むためだろうか。
「ありがとうございます」
「暫くは私について仕事を見てもらいます。出来ることを探しましょう」
「わかりました」
玄野さんの仕事は多岐に渡っていた。
仲介人とのクスリの取引、上納金の徴収、取り立て。
オーバーホールの研究の手伝い等々。
荒事は大体部下に任せていた。
なお研究は見せてくれなかった。
正直怪しさ満点で、これが依頼の遂行に大きく関わってくるだろう。
現在の私は無個性の無能、人も殺せない貧弱な女である。
暴力に怯える演技とかした方が良いかとも思ったが、大根故に無感情で通すことにした。
過去に凄惨な現場を見て心が死んだとでも解釈してくれると良いが。
当然といえば当然だが、私にしか出来ない事というのは無かった。
そのため殆ど玄野さんの付き人のようだった。
そんな生活を一週間ほど続けた。
「ここでの生活には慣れたかい?」
音本さんが気を遣って声をかけてきた。
少々オーバーホールの狂信者の気がある人だった。
「皆さん良い人で心地よいです。若に感謝するばかりです」
当たり障りの無い言葉を連ねておく。
心証は良いに越したことはない。
「そうか。不満や悩み、
脳に変な感じが走った。
多分個性を使われた。
脳に作用するタイプ、洗脳系だとかかった振りをしなければアウトだが、どう反応すれば良いか分からない以上、無反応を貫くより他ない。
「強いて言えば、お菓子作りを練習したいです」
私に洗脳系個性は効かない。
ベルさんが与えてくれた吸血鬼の身体は、力が強まるにつれて酒や薬などの影響を受けづらくなっていった。
「そうか。わかった、用意しておくよ」
「小夜の様子はどうだ」
「怪しい所はありません。表情筋が死んでますが、若に感謝もしています」
「そうか」
義爛は組長と仲が良かったがために、オーバーホールは義爛の紹介した小夜を完全には信用していなかった。
「マスクを用意しておけ」
「いいので?」
「割り切りは必要だ。任せたい仕事もある」
それに、と続けてオーバーホールは言った。
「お前のことは信用している」
「っ、ありがとうございます、若」
音本は努めて冷静にしていたが、内心はオーバーホールの言葉に歓喜に溢れていた。
「ところで任せたい仕事というのは?」
「壊理の世話だ」
この時代にヤクザに出来る事は少なそうですね。