「エリちゃん。遊びに行きましょう」
私はエリちゃんと仲良くなるべく遊びに誘った。
「…どこに?」
「どこでもいいですよ。エリちゃんが行きたい所」
「…どこにも行かない」
エリちゃんはどうにも外に出ることを恐れていた。
前回の脱走の際に随分と教育をされたようだ。
「私は、外に出ちゃいけないから」
涙を堪えたような顔をしてそう言った。
どうしたら良いのか分からない。
どうしたら彼女が心を開いてくれるのか分からない。
無理に連れ出せばパニックになるかもしれない。
とはいえ、このままでも彼女の信頼は得られない。
難しかった。
「私は、あなたの味方ですよ」
ベルさんがしてくれたように優しく声をかけても、私が手を伸ばせばエリちゃんの身体は震えた。
私の手は、体を丸め目を瞑って拒絶された。
彼女を愛そうと決めて、その難しさを痛感して、一日が終わった。
研究という名の地獄を終えて、部屋に戻ってきたエリちゃんは布団に潜り込み動かなくなった。
オーバーホールの研究というのは、エリちゃんの身体から個性を壊す銃弾を生成するというもの。
涙も流していないのがむしろ、私には痛々しく見えた。
「エリちゃん、ご飯食べましょう」
言えばご飯は食べてくれる。
でもエリちゃんから話しかけてくることはなくて、食べ終えればすぐ布団に戻っていった。
「もう寝ますか?」
エリちゃんは頷いて返事をした。
「私はこの部屋にいますから、何かあったら言ってください」
例え受け入れられずとも、精一杯の愛情を込めて。
「おやすみなさい」
夜に強い吸血鬼ではあるが、流石に一晩中彼女の寝顔を眺めている訳にもいかないので、適当に見繕ってきた本を弱い明かりで読んでいると、布団から小さく声がした。
見ればエリちゃんが、悪い夢でも見ているのかうなされていた。
私はベッドの横に座り込み、強く握られ震えている手を包んだ。
そうしてやると、エリちゃんは穏やかな呼吸を取り戻していった。
人の寝顔を間近で眺めていると、不思議と眠くなるもので。
私の意識は微睡んでいった。
その人は最初、少し怖かった。
ここを逃げ出したあと、新しく私の部屋にやってきたその人はあの怖いマスクを着けていた。
その人は小夜さんといった。
マスクを取った小夜さんは、とてもやさしい顔で微笑んでいた。
私の味方だと言った。
つめたい態度をとる私を、気にかけてくれた。
寝る時も、そばにいてくれた。
朝、目が覚めると手があたたかかった。
私の手は、小夜さんの手に包まれていた。
その小夜さんは、私のベッドに頭をのせ、すやすやと眠っていた。
同じだった。
外に出た時に抱きしめてくれたあの人と。
同じ、優しい手だった。
示せばきっと伝わります。