「おい小夜、起きろ。…叩き起こせ」
休んでいた意識が強引に覚醒させられた。
「何か、ありましたか」
ここまで乱雑な扱いは流石に初めてだった。
緊急事態と見るべきだろう。
見れば傍らに大量の紙の束、恐らく研究データを持った玄野も立っていた。
「ヒーローが来た。今は時間を稼がせてる」
ヒーローの襲撃…。
まだ回っていない脳がようやく起きてきた。
「逃げるぞ。壊理はお前が運べ」
私はまだ寝息を立てるエリちゃんを抱え、オーバーホールについて歩いていた。
歩きながら、思考を巡らせる。
ヒーローの襲撃。
これはまたとない機会かもしれない。
ここでオーバーホールがお縄になるのはメリットしかない。
エリちゃんを助け出せるし、義爛の依頼も達成できる。
逆にここで逃亡が成功すれば、オーバーホールは何年も潜伏できるだろう。
間違いない。
今日が裏切りの日だ。
…裏切った後は?
個性を失った状態でエリちゃんを連れて逃げられるのか?
いや、オーバーホールが本格的にヒーローと戦闘を始めれば、隙を突ける、はず。
はずだ。大丈夫、大丈夫だ。
「んぅ、小夜さん?」
「おはようございます」
私の腕の中で揺られていたので、流石にエリちゃんも起きた。
周りを見回し、オーバーホールの姿を見つけて眠そうだった顔も緊張した。
「ここはどこ?」
「地下通路です。もう少し寝ててもいいんですよ」
私はエリちゃんを、視界からオーバーホールを外すように抱えなおした。
「ううん、起きてる」
私を掴む手に力が入った。
頭上からは騒音が鈍く響く。
「すみませんね、やっぱ話、聞かせてもらっていいですか」
「あの時の…」
突如、誰もいないはずの背後から声が響いた。
オーバーホールの言葉を鑑みるに、面識はあるようだが。
「すぐに来れるような道じゃなかったハズだが」
「近道したんで…」
露骨にヒロイックな格好をしたその男は、オーバーホールを睨みつけて言った。
「その子、保護しに来ました」
「一度は見て見ぬ振りをして、事情が分かればヒーロー面か、偽善者」
「壊理はお前に保護されたいなんて思っちゃいない」
「お前は、壊理にとってヒーローじゃない」
にわかに戦闘が始まった。
音本と、名前は知らないが酔っ払いが相手をしている。
ヒーローは酔っ払いの個性で足元が覚束なく、音本の個性で精神を削られる。
やはり、一人ではどうしようもなく思える。
「酩酊どころじゃない感覚を、いつも味わってる…!」
されど瞬きの間に二人を倒してしまった。
すり抜ける個性と言っていたが、瞬間移動にすら見えた。
「あの子が笑えないままなんて、許せない!!!」
この男ならば、いや、焦るな。
タイミングを違えるな。
慎重に、確実に、機を窺え。