ヴィランのお話   作:斗掻き星

26 / 40
大丈夫、大丈夫だ。

「おい小夜、起きろ。…叩き起こせ」

 

休んでいた意識が強引に覚醒させられた。

 

「何か、ありましたか」

 

ここまで乱雑な扱いは流石に初めてだった。

緊急事態と見るべきだろう。

見れば傍らに大量の紙の束、恐らく研究データを持った玄野も立っていた。

 

「ヒーローが来た。今は時間を稼がせてる」

 

ヒーローの襲撃…。

まだ回っていない脳がようやく起きてきた。

 

「逃げるぞ。壊理はお前が運べ」

 

 

 

私はまだ寝息を立てるエリちゃんを抱え、オーバーホールについて歩いていた。

歩きながら、思考を巡らせる。

 

ヒーローの襲撃。

これはまたとない機会かもしれない。

 

ここでオーバーホールがお縄になるのはメリットしかない。

エリちゃんを助け出せるし、義爛の依頼も達成できる。

逆にここで逃亡が成功すれば、オーバーホールは何年も潜伏できるだろう。

 

間違いない。

今日が裏切りの日だ。

 

 

 

…裏切った後は?

個性を失った状態でエリちゃんを連れて逃げられるのか?

いや、オーバーホールが本格的にヒーローと戦闘を始めれば、隙を突ける、はず。

はずだ。大丈夫、大丈夫だ。

 

 

 

「んぅ、小夜さん?」

「おはようございます」

 

私の腕の中で揺られていたので、流石にエリちゃんも起きた。

周りを見回し、オーバーホールの姿を見つけて眠そうだった顔も緊張した。

 

「ここはどこ?」

「地下通路です。もう少し寝ててもいいんですよ」

 

私はエリちゃんを、視界からオーバーホールを外すように抱えなおした。

 

「ううん、起きてる」

 

私を掴む手に力が入った。

 

 

 

頭上からは騒音が鈍く響く。

 

「すみませんね、やっぱ話、聞かせてもらっていいですか」

「あの時の…」

 

突如、誰もいないはずの背後から声が響いた。

オーバーホールの言葉を鑑みるに、面識はあるようだが。

 

「すぐに来れるような道じゃなかったハズだが」

「近道したんで…」

 

露骨にヒロイックな格好をしたその男は、オーバーホールを睨みつけて言った。

 

「その子、保護しに来ました」

 

 

 

「一度は見て見ぬ振りをして、事情が分かればヒーロー面か、偽善者」

 

「壊理はお前に保護されたいなんて思っちゃいない」

 

「お前は、壊理にとってヒーローじゃない」

 

 

 

にわかに戦闘が始まった。

音本と、名前は知らないが酔っ払いが相手をしている。

 

ヒーローは酔っ払いの個性で足元が覚束なく、音本の個性で精神を削られる。

やはり、一人ではどうしようもなく思える。

 

「酩酊どころじゃない感覚を、いつも味わってる…!」

 

されど瞬きの間に二人を倒してしまった。

すり抜ける個性と言っていたが、瞬間移動にすら見えた。

 

「あの子が笑えないままなんて、許せない!!!」

 

 

 

この男ならば、いや、焦るな。

タイミングを違えるな。

慎重に、確実に、機を窺え。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。