ヴィランのお話   作:斗掻き星

3 / 40
必死で生きてきた。

逃げ出した取り巻きの走る先に入口を出す。

出口は私の目の前に。

 

絶望した顔と目が合った。

 

「やめてくれ頼む何でもするからおねが」

 

命乞いを言い切る前に、首が落ち、血がまき散らされた。

 

「あは!」

 

一人ずつ、丁寧に殺していく。

逃げようと、隠れようと、私はどこにでも門を出せる。

 

死に際はみんな、同じ顔だった。

 

 

 

家の扉を開ける。

ただいまと言ったことはない。言う相手などいないから。

 

小さくため息をついた。

人を殺した興奮は冷めきっていた。

 

 

 

「ねえ、あんた。随分やってくれたわね」

 

実の娘に向けるにはあまりに冷たい声音。

声をかけてきたのは私の母だった。私はそんなこと思ってないが。

 

私が男子生徒を殺したのは知らないはずだ。

きっと、学校からの連絡を受けて怒っている。

 

「面倒くさいのよ。私に無駄な時間を使わせないで」

 

目は私を見ていない。

濁りきって、汚い色をしていた。

 

「まったく…今まで育ててやった恩も忘れやがって」

 

育てて、もらった?

わたしが?あんたに?

 

 

 

ふざけるなよ。

 

「恩なんてない」

「なに?」

「私は、一人で生きてきた。お前から受けた恩なんてない」

 

初めて私を見たその目は、みるみる怒りに満ちていった。

 

「このクソガキが!誰のおかげで今まで生きてこれたと思ってる!!!」

 

振るわれた平手を受け止めるように入口を開く。

この使い方にも慣れてきた。

 

バツン、と音を立てて手首が落ちる。

 

「は?え…」

 

何が起きたか理解できていないようだった。

私は今まで反抗らしい反抗はしてこなかったから。

 

この女は私を学校に放り込んでそれきり、一切私を気にかけなかった。

運び屋業を確立するまではご飯は学校給食だけだった。

いつも一人で、必死で生きてきた。

 

「ああぁあ!なんで、なんでなんで、ああっ!てっ、手が、てが!」

 

この女も殺してしまおう。

正真正銘、この女に頼らずに生きていこう。

 

見せつけるように入口を開く。

 

「待って、ころ、殺さないで、面倒見るし、お金も渡すから…お願い、ね?」

「今さら気持ち悪い、クソ女」

 

穴が頭を飲み込む。

 

「おねがい、ころさないで…」

 

出口からでた頭がボロボロ泣きながら命を乞う。

 

この女の金で学校に通うことが嫌だった。

この女の金が私に使われていることが苦痛だった。

 

 

 

殺す。この女との、私の真っ暗な過去との、決別だ。

 

「じゃあね。オカーサン」

 

 

 

「あんたなんて、産まなけりゃよかった」

 

門を閉じる。

 

 

 

産まなければ、良かった?

私も、あんたの腹から産まれてきたと思うと吐き気がする。

 

 

 

愛されるって、どんなだろうな。

母だった物の光ない顔を見てふと浮かんだ考えを、私は頭を振って掻き消した。

 

 

 

興奮はなかった。




産まなければ良かった。
この世で一番嫌いな言葉です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。