逃げ出した取り巻きの走る先に入口を出す。
出口は私の目の前に。
絶望した顔と目が合った。
「やめてくれ頼む何でもするからおねが」
命乞いを言い切る前に、首が落ち、血がまき散らされた。
「あは!」
一人ずつ、丁寧に殺していく。
逃げようと、隠れようと、私はどこにでも門を出せる。
死に際はみんな、同じ顔だった。
家の扉を開ける。
ただいまと言ったことはない。言う相手などいないから。
小さくため息をついた。
人を殺した興奮は冷めきっていた。
「ねえ、あんた。随分やってくれたわね」
実の娘に向けるにはあまりに冷たい声音。
声をかけてきたのは私の母だった。私はそんなこと思ってないが。
私が男子生徒を殺したのは知らないはずだ。
きっと、学校からの連絡を受けて怒っている。
「面倒くさいのよ。私に無駄な時間を使わせないで」
目は私を見ていない。
濁りきって、汚い色をしていた。
「まったく…今まで育ててやった恩も忘れやがって」
育てて、もらった?
わたしが?あんたに?
ふざけるなよ。
「恩なんてない」
「なに?」
「私は、一人で生きてきた。お前から受けた恩なんてない」
初めて私を見たその目は、みるみる怒りに満ちていった。
「このクソガキが!誰のおかげで今まで生きてこれたと思ってる!!!」
振るわれた平手を受け止めるように入口を開く。
この使い方にも慣れてきた。
バツン、と音を立てて手首が落ちる。
「は?え…」
何が起きたか理解できていないようだった。
私は今まで反抗らしい反抗はしてこなかったから。
この女は私を学校に放り込んでそれきり、一切私を気にかけなかった。
運び屋業を確立するまではご飯は学校給食だけだった。
いつも一人で、必死で生きてきた。
「ああぁあ!なんで、なんでなんで、ああっ!てっ、手が、てが!」
この女も殺してしまおう。
正真正銘、この女に頼らずに生きていこう。
見せつけるように入口を開く。
「待って、ころ、殺さないで、面倒見るし、お金も渡すから…お願い、ね?」
「今さら気持ち悪い、クソ女」
穴が頭を飲み込む。
「おねがい、ころさないで…」
出口からでた頭がボロボロ泣きながら命を乞う。
この女の金で学校に通うことが嫌だった。
この女の金が私に使われていることが苦痛だった。
殺す。この女との、私の真っ暗な過去との、決別だ。
「じゃあね。オカーサン」
「あんたなんて、産まなけりゃよかった」
門を閉じる。
産まなければ、良かった?
私も、あんたの腹から産まれてきたと思うと吐き気がする。
愛されるって、どんなだろうな。
母だった物の光ない顔を見てふと浮かんだ考えを、私は頭を振って掻き消した。
興奮はなかった。
産まなければ良かった。
この世で一番嫌いな言葉です。