ヒュー、ヒューと息をするだけの肉塊を見下ろす。
もはやこれに意識が、自我が残っているのか定かではない。
放っておいても数分の命だろうが、最後はやはり、この手で。
身体に付いた血をある程度拭う。
汚れはほとんど取れなかった。
「エリちゃん、行きましょう」
肩をトントン、と叩く。
「うん。小夜さん、大丈夫?」
「ええ。…汚れているので、手は繋げませんね」
「ううん、気にしない」
私が引っ込めた手を、エリちゃんが握った。
「ありがとう、小夜さん」
エリちゃんは笑って、私にそう言った。
「…行かせない!」
本当に、ヒーローという生き物はどうかしている。
腹に穴を開け、どう考えても出血多量。
それ以外のダメージだってあるのに、ルミリオンはそれでもなお立ち塞がった。
「エリちゃんを、助けるんだ…!」
霞んだ目に火を灯し、睨みつける。
「貴女を、倒す!」
「エリちゃん、離れていてください」
後ろ手にエリちゃんを遠ざける。
「…これ以上、邪魔しないでください」
足元も覚束ないルミリオンと距離を詰める。
ルミリオンは拳を構え、じっと佇む。
恐らくは個性に物を言わせたカウンター狙い。
そんなもの関係ないとばかりに、私が踏み込もうとした矢先。
突如として、少し離れた壁が弾け飛んだ。
緑の閃光が、駆ける。
「デク、くん…」
「先輩!」
新手のヒーローはルミリオンの姿を視止めると、すぐさま私に目掛けて飛び込んできた。
「離れろ!」
私は殴り飛ばされ、強引に距離を空けられた。
壁に開いた穴から後続のヒーローがやってくる。
「治崎は、生死不明…。時雨は
息も絶え絶えに、ルミリオンが後続に情報を伝えた。
「よくやった…ッ!ミリオ…!」
眼鏡のヒーローがルミリオンを抱きとめる。
意地だけで立っていたルミリオンは遂に地に膝をつけたが、状況は遥かに悪化した。
三人のヒーローが援軍としてやってきた。
エリちゃんを捕らえられないように戦うには難易度が高すぎる人数だった。
ここまで到達された以上、更なる援軍は明らかであり、時間はヒーローの味方だった。
エリちゃんに近寄ろうとする緑のヒーローを殴り飛ばす。
「ッデク!手の内が分からん!無茶はするな!」
「はい!」
ゴーグルのヒーローが、デクを受け止める。
三人が私とエリちゃんを囲むように立つ。
眼鏡のヒーローが口を開いた。
「運び屋時雨、その子は我々が保護します」
「エリちゃん、もう大丈夫!助けに来た!!!」
デクが笑ってそう言うと、エリちゃんの目が少し揺らいだ。
きっと、外に出た時に会ったというヒーローだ。
「小夜さん…」
エリちゃんが私の服の裾を掴む。
見上げる目は、戦ってほしくないと訴えているようで。
「邪魔を…しないで」
諸悪の根源は殺したんだ。
あと少し、あと少しなんだ。