ヴィランのお話   作:斗掻き星

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血に濡れていても、優しかった。

最初は、優しい人だと思ってた。

 

初めて外に逃げ出した時に出会った二人のヒーロー。

その一人が、私を助けに来たみたいだった。

緑の人みたいに、優しい人だと、勝手に思ってた。

 

 

 

その人、ルミリオンさんは、小夜さんを傷つけた。

私はやめてと言ったのに、小夜さんを殴って、蹴った。

 

大好きな人の顔が、傷だらけに、血だらけになっていった。

 

私は無力だった。

 

 

 

小夜さんは強かった。

私に痛い事をし続けた人を倒してしまった。

もう私を、ベッドに縛り付ける人はいない。

 

 

 

ルミリオンさんは、ボロボロになりながら、私たちの前に立った。

私を助けると、そう言った。

 

なにから?

 

 

 

ヒーローが三人、やってきた。

その中には、あの時の緑の人もいた。デクさんというらしかった。

 

よかった、これでなんとかなる、と思った。

でも、デクさんも小夜さんを殴った。

 

どうして?

 

デクさんは笑った。

もう大丈夫と。

 

前と同じ、優しさのはずだった。

けれどなんだか、不安な感じがした。

 

わからない。

小夜さんを殴ったのは、何かの間違いだったのかもしれない。

デクさんはちゃんと優しい人で、他のヒーローを止めてくれるかもしれない。

 

でも、そうじゃなかった。

デクさんは私を強引に抱えて逃げ出した。

いやだと言ったのに、聞いてはもらえなかった。

 

私の頭に乗せられた手は、前のような優しさを感じなかった。

 

 

 

「離してよ!どうしてこんな事するの!離して!」

「あ、暴れないで、エリちゃん」

 

結局、この人も同じだった。

 

「どうして私だけなの!?どうして小夜さんは駄目なの!?」

 

みんな私にばかり優しい声をかけて、小夜さんを傷つける。

 

どうして?

私を助けてくれたのは、小夜さんなのに。

 

「エリちゃん、あのね。あの人は(ヴィラン)なんだ。沢山の人を殺してるんだ」

「そんなの知らない!関係ない!」

 

(ヴィラン)だっていい。

小夜さんの手は、ずっと温かかった。

血に濡れていても、優しかった。

 

「離して!!!」

「わっ、ちょっ」

 

デクさんの頬を、思いっきりぶった。何度もぶった。

私はデクさんから逃げ出して、小夜さんのいた所に走る。

 

 

 

一緒にいたい。

ずっと。

 

 

 

さっきの所まで戻ってきて目に入った光景に、息が詰まった。

 

小夜さんは倒れて、何人かのヒーローに捕まえられていた。

頭を、地面に押しつけられていた。

 

「小夜さん!」

 

どうして、どうして。

 

「エリ、ちゃん」

 

ああ、ああ。

 

小夜さんの顔は真っ青で、赤かった唇も紫色になっていた。

私を呼ぶ声は、弱々しかった。

 

 

 

「ごめん、ね」


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