目が覚めると、ベッドの上だった。
暫く使っていなかった、懐かしい自分のベッド。
「あら、おはよう」
目を覚ました私に気が付いて、ベルさんが微笑んだ。
「それと、おかえりなさい」
「ただい、ま」
それは、反射的に出た言葉だった。
まだ回っていない頭で、ベルさんの言葉を反芻する。
「あの、どうして…」
記憶が曖昧だ。
ここに至るまでを覚えていない。
「私がここまで運んだのよ。もう、びっくりしたんだから」
「あの、ありがとうございます。それで、何が…?」
蓋がされたようだった。
「急にあなたとの繋がりが薄くなったから、探しに行ってみれば、あなた死にかけてたのよ」
死にかけていた…。
「顔色が真っ白で、血がほとんど残っていなかったの」
蓋が、少し開いた。
「どうしようもなかったから、ここまで運んで、私の血を移した」
「ベルさんの血って…」
確か、私には濃い、と。
「そう、でもそれしか方法が無かったから。定着するのに時間がかかったけど」
「どれだけ寝てたんですか?」
ベルさんは思い出すように、少し上を見て、
「えっと、今日で三十日、一ヵ月ね」
「そんなに、ありがとうございます」
ベルさんには感謝してもしきれない。
ねぇ、とベルさんは佇まいを正して言った。
「時雨、
記憶が段々と蘇ってくる。
「使うな、とは言わないけど、あんなになるまで使っちゃダメよ」
私の、許されない行いが。
「心配したんだか、ら…。時雨?」
ああ、ごめんなさい。
「ちょ、ちょっと!?大丈夫?どこか辛い?」
涙が溢れ出てくる。
ごめんなさい。ごめんなさい、エリちゃん。
事のあらましをベルさんに話した。
一人の女の子が虐げられていたこと。
その子を救うと決意したこと。
虐げていた男を殺し、けれどヒーローには勝てなかったこと。
ヒーローの中には、友達もいたこと。
エリちゃんを、心から愛していること。
エリちゃんを、置き去りにして、一人逃げたこと。
「そう、だったの…」
心が、ズキズキと痛い。
エリちゃんが私を呼ぶ声が、耳に甦ってこびり付いて、私を責め立てる。
その声を聞きながら、逃げたのだ。一人で。
自分が憎くて仕方がなかった。
約束を守れなかった自分が。
どこにでも連れていくと誓った。
彼女の我儘を願って。
綺麗な景色を見せると誓った。
彼女の感動を願って。
助けると、誓った。
彼女の平穏を願って。
たくさん、たくさん愛すると誓った。
彼女の幸せを願って。
そのどれも、守れなかった。
私に力が無かったから。
エリちゃんは、今どうしているのだろう。
泣いて、いるのだろうか。
いずれ、私を忘れてしまうのだろうか。
ああ、私にそのような事を想う権利などない。
エリちゃんを、見捨てたお前には。
エリちゃんはいずれきっと、幸せを掴む。
優しくて、強い子だから。
そこに、私の姿はなくて。
自分の道を、歩むのだろう。
ああ、でも。
でも、エリちゃん。
私が、私が。
幸せにしてあげたかった。