「てめぇら急げ!グズグズすんな!」
覆面を被った男が複数人、袋に金を詰め込んでいた。
個性に物を言わせた強盗だった。
「親分、詰め終わりました!」
「こっちも完璧っス!」
通常、強盗などという浅はかな犯行は成功しない。
異様に迅速化したヒーローの対応によって即座にお縄になるのが普通であり、よしんば逃げ切ったとしても警察に捕捉され、奪った金を使うこともなく逮捕される。
普通ならば。
「よし!おい運び屋ァ!仕事の時間だ!」
だがこの場には私がいた。
大男が複数人入れるように、私は大きく門を開いた。
「こちらにどうぞ」
強盗は成功した。
「へへ、本当に上手くいくとはな・・・」
強盗が成功し、男たちの顔には喜色が浮かんでいた。
私は運び屋業を再開していた。
但し仕事を受けるのは犯罪者の客のみ。
つまり
「仕事は終わりだ運び屋。帰っていいぞ」
「料金、貰ってませんが」
仕事の殆どが強盗の支援である関係で、料金は奪った金から貰うことにしていた。
「あ?いくらだ?」
「五割」
「は?」
「そこのお金の半分が料金になります」
私は男たちの抱える袋を指差し言った。
そもそも私がいなければ成功しなかった強盗である。
妥当な値段設定と言えた。
「ぼったくりじゃねぇか!てめぇは殆ど何もしなかったクセによぉ!」
「私がいなければ捕まってましたよ」
しかし私が相手をしているのは
法に縛られない彼らに、真面目にお金を払うという思考は存在しなかった。
「・・・痛い目見ねえうちに帰った方がいいぞ」
「知ってると思いますけど、私逃げ足は速いですよ」
金を渋る客は別段珍しくない。
こういう時は大体、無理やり頂くことになる。
「最後通告です。料金のお支払いを」
「しつけぇぞ!!!」
それはそれは。
「残念です」
もはや慣れたとも言える手つきで私は全員を殺害した。
私は一人で持つには多すぎる袋たちをポイポイと門に投げ込んで、最後に自分も門をくぐった。
出口の先は私の家だった。
「あら」
ワインを片手に寛いでいたベルさんと目が合った。
「おかえりなさい、時雨」
そう言って、微笑んでくれた。
「その、ただいま」
返す言葉に胸が温かくなる。
もう何度も繰り返したやり取りだが、私はこれが好きだった。
「今日は随分と稼いだのねぇ」
「まぁ、今日の客は強情でしたから」
「あぁ、なるほどね」
私は金の入った袋を差し出した。
「じゃあ、キレイにしておくわね」
「ありがとうございます」
稼いだお金はベルさんに預けることにしていた。
曰く、キレイにしてくれるらしい。
以前意味を聞いたところ、犯罪で得たお金は使うと危険なので、使っても大丈夫な安全なお金にしてくれるとの事だった。
それにしても。
「ベルさん、またワイン飲んでるんですね」
「好きだもの」
「その、私の血も飲んでほしい、です」
少し恥ずかしくて、顔が赤くなった。
「ワインに嫉妬したの?かわいい子ね」
ベルさんは慈愛に満ちた顔で私を見つめてくる。
すごく恥ずかしい。
「ほら、こっちおいで」
ベルさんはワインを置いて、両手を広げた。
フラフラと寄っていく私を、ベルさんはそっと抱きとめて。
優しく牙を突き立てた。
時雨の値段設定はひどく一面的と言えます。