食生活わるわるVライバーに毎日寮で賄いを作る話 作:冬野ロクジ
AM5:00
私、佐々木温の一日はカーテンの向こうに見える白んだ空を眺めながら始まります。
布団をちょっと開けたところで、入ってきた空気の冷たさに身震いする。
鳴る前の目覚ましを切ろうとスマホをつけたところで、ウミナちゃんからメッセージが届いていることに気づいた。
『今日のお出かけ、楽しみです!』
お出かけ、お出かけ……お出かけ!?
新しい料理本を買いたいなって話をしてたら、ウミナちゃんが買い物に付き合ってくれることになったのは覚えてるんだけど……。
え、推しとお買い物デートってマジですか。
そのことにもびっくりだし、その状況でいつも通りすやすやと寝てしまった私にもびっくり。
私何の服着ていけばいいの?
というか着れる服あったっけ?
そういえばウミナちゃんとつばさは地宙海で三人のグループだ。
ウミナちゃんは言わずもがな海、ハーピーのつばさは宙、でも地担当の人にはまだ会ったことがない。
曰く実家住みらしいとのこと。いつか会えるんだろうか。
いや、そういうことじゃなくて。
あーダメ、頭が全く回らない。
今見ている現実が受け入れられなくて、私はもう一度布団の暖かさに逃げこんだ。
AM9:00
とまぁ二度寝を決め込んだ結果、この時間の起床になりました。
着替え……着替え……どうしましょ。
のそのそと着替えて軽くお化粧をし、食堂へ向かう。
別に食堂に行く必要はないんだけどやっぱりいつもの癖で足が向いてしまう。
「あれ、こんなに静かだったっけ」
食堂への道中、
だいたいこの時間は朝配信してるか寝てるかの人が多いけど、妙に人気がないような。
みんなスタジオの方に出ているのだろうか。
そんなことを考えながら食堂までたどり着く。
中から話し声が聞こえたことに一安心しつつ食堂へ入る。
中で朝のコーヒーを味わっていたのは扇嬢さんともう一人、社畜大魔王テツヤ・シュキーンさんだ。
朝が早く帰りも遅いので、私にとってレアキャラ的存在だったりする。
配信ではゴツゴツした鎧を身にまとい、傲岸不遜な物言いが目立つ人だけど、リアルでは気の良いお兄さんのような人だ。
だが、今日の様子は少し違った。
「お、おぉ、賄いさん。おはよーさん」
「ま、賄いさん、おはようございますわ。ご機嫌うるわしゅう」
二人して何か歯切れの悪い反応をしてくる。
少々疑問に思ったけれど、何はともあれまずは挨拶をするとしよう。
「おはようございます、テツヤさん。扇嬢さん。ちょっと寝過ぎちゃいました」
「この寮じゃこれぐらい遅いに入らないぜ。なぁ」
「そうですわね。15時超えてもらわないと遅いに入らないですけれど」
「それはもう遅いの次元を超えてると思いますよ」
でも実際、休日はそれぐらいの時間に起きている人が結構いる。
食堂に朝ごはんだけ食べに来てその時間まで寝るとかザラだしね。
「お二人は何の話をされてたんですか?」
「CoG……ついこの前発売された新作のFPSの話ですわね」
「結構評判クソらしくてなぁ。やってみようか興味が湧いてるんだ」
「評判良くないのにやるんですか」
「こういうFPSって文句言うのが花みたいなとこあんだよ」
「絶対配信では言えないですわよ、それ」
「ハハ、そりゃそうだ」
ちなみに扇嬢さんもおっとりした見た目に反してそういうゲームを楽しむ人だ。普段ほんわかした人がゲーム中におくちわるわるになるのは、一定の層に需要があるらしい。
私はちょっと怖かった。
「そういえば賄いさん」
「はい?」
「賄いさんは今日なんか予定がございますの?」
「そうですね。お昼からウミナちゃんとちょっとお出かけに」
そう言った途端、目の前の二人が視線を合わせた。
その間約一秒。
かと思えば、二人とも含みのある笑顔をこちらに向けてくる。
「いいですわねぇ」
「あの、何か?」
「いやなんでも?」
「せっかくの休日、存分に楽しんできてくるといいですわ」
「あ、ありがとうございます」
あれ、もしかして私何か邪魔しちゃったのだろうか。
いや二人の仲を邪推するつもりはないんですけど、目と目で通じ合っているのってほら、こう、あれだし。
ただでさえ配信で絡む機会が多くて結構噂されてる二人だし。
ま、まさか慌てて何かを隠していたのって……。
「で、出かける準備があるので、私はこれで!」
「? 何をしにいらしたのかしら」
「あー……まぁいっか」
「何ですの、そうやってはぐらかすのは悪いところですわよ」
「勘違いされたかもってこと。まぁ準備しようぜ」
そんな会話を遠くに聞きながら、私は足早に自室へと戻るのだった。
AM11:00
と、とりあえず平常心を保とう。
精神を落ち着けなければ。
今日のおやつどきに作ろうと思ってたアップルパイを作ろう。
料理を作れば冷静になれるはず、なんだけど──まさかキッチンに先客がいるとは思わなかった。
「あの、出門さん?」
「アラ賄いちゃん。どうしたの?」
「使いたいんですけど、すぐ終わりますかね」
フライパンでは大きい肉の塊がじゅわじゅわと美味しそうな音を立てている。
この匂いと弱火で表面を炙るような焼き方はローストビーフだろうか。
出門さんのことだから、きっと美味しい仕上がりになるのだろう。
「そうネェ、まだまだかかるカシラ。このお肉の下味をつけ終わったらまた別の料理も作るカラ」
「珍しいですね、出門さんが料理なんて」
「ちょっと気が向いたノヨ。それに、久しぶりだから存分に腕を奮いたくなっちゃっテ」
普段全く作ろうとしないのに。
何か心境の変化とかでもあったのだろうか。
「いいことだと思います」
「デショ? ウミナちゃんとデート、行くんデショ。きちんとおめかしして行ってあげなサイ」
「なんで知ってるんですか」
「あの子、楽しそうに話してくれたワヨ」
おおう……余計に何を着ていけばいいのか分かんなくなった。
下手な格好をしていけないなというのは分かった。
頭の中がパニックになっていると、背にした食堂の扉から客人がやってくる。
「出門ー、食べ物買ってき……っとっと。賄いさん、おはようさん」
「あ、NECCOさん。もうお昼ですけど──って、すごい量の食材ですね」
「え? あー、にゃはは、ま、まぁな。出門にうちのお昼も作ってもらう約束しとるんや」
「言ってくれたら私が作りましたのに」
賄い食堂はいつでも休日営業歓迎です。
心配されて止められたから普段はがっつりとはやってないけど。
自分の好きなようにできるからって懐石料理とかイタリアンフルコースとかを作って遊んでたのがダメだったらしく、心配されてしまった。
「たまの日曜日なんやからな。こんな日ぐらい休んでや!」
「……何か企んでます?」
「まっさか、そんなワケないじゃなーい! アテシがそんな悪巧みなんてすると思う?」
「むしろ思わんやつなんておらんやろ!」
NECCOさんの言う通り、出門さんの胡散臭さはいつも通りだ。
でもだからこそ何も考えてなさそうというか、ただ思いつきで行動しているのもありそうで……。
こ、こうなったら最後の手段。
『つばさ、助けて!』
『どしたん?』
『実は──』
すぐ返ってきた返信に安心しつつ、私は今服装について悩んでいる旨を相談するのであった。
更新が遅れた理由は寝坊です。