食生活わるわるVライバーに毎日寮で賄いを作る話   作:冬野ロクジ

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猫とカレーと料理配信 1

 十一月になりました。

 私、佐々木温が来てから初めての月替り。

 けれどやることは変わらない。

 

「行ってきます!」

「行ってらっしゃいウミナちゃん」

 

 学生や会社員組とそんな挨拶を交わす時間帯も終え、落ち着きを取り戻した食堂で私は食洗機にお皿を突っ込んでいた。

 

 朝なのに晩ご飯を食べに来たつばさに料理を振る舞いながらも質問に答える。

 

 人類が発明した偉大なものの一つだと思う。

 だってかかる時間が段違いだもの。

 それにこれからの時期は長時間冷水に手を晒さないのも嬉しい。

 

 あかぎれがね……つらいんです。

 この楽さを知ってしまった以上、元のお皿洗いには戻れそうにない。

 

「おっすー」

 

 文明の利器に感動していると、また食堂に客人が現れた。

 友人でありこの寮に住むライバー、羽田つばさだ。

 

 朝弱いつばさとは思えないほど身嗜みがしっかりしているが、その理由を私は知っていた。

 

「つばさ、また徹夜でゲームしてたでしょ」

「朝来て一番にそれとか、あんたはあたしのオカンか」

 

 起きぬけに暖かい布団に篭りながらつけた動画サイトで、FPS配信していたのを見たのだから仕方ない。

 元々大学のテストとかも徹夜しがちだったけど、ライバーになってからさらにひどくなっている気がする。

 

「眠くないの?」

「あたしはもうこの生活リズムに慣れちゃってっからねぇ」

「大丈夫なの? コラボの話とかもあるって聞いたけど」

 

 夜はともかく、お昼だと厳しくないだろうか。

 

「そのときは……徹夜かなぁ」

「ふふ、なにそれ。今と変わらないじゃん」

「や、普段は昼寝てるから。なんならこれから寝るから。温の料理食べに来ただけだし」

 

 そう言ってくれるのは嬉しいんだけど……大丈夫なんだろうか、この友人は。

 そこまで話したところで空腹の訴えを受けたので、作っておいた洋風プレートを冷蔵庫から取り出した。

 

 本日のおかずはソーセージと玉ねぎのチリケチャップ和えに野菜たっぷりキッシュ。

 メインには近所で人気のパン屋さんで買ってきた食パンをフライパンでカリっとトーストに仕上げました。

 

「今日もいい仕事しますなぁ」

「どうも」

 

 そんな話していると、ふらっとNECCOさんが現れた。

 

「ふわぁ……おはようさん」

 

 昨日は遅くまで作業していたのだろうか、八重歯を覗かせながら大きなあくびをしている。

 肩にかかったヘッドホンも身体の動きに合わせて眠気を表すように揺れていた。

 

「うわ、なーこ先輩どしたん」

「目の下の隈がひどいですよ」

「あかんねん……何も思いつかへんねん……

 次の歌ってみたに向けて作詞しとったんやけど、何も思い浮かばへん……。締め切りもう近いのに……」

 

 にゃはははと暗い笑みを浮かべながら椅子に座る。

 かと思えば、がばっと天井を向いて叫び出した。

 

「にゃーっはっはっは、もうどうにでもなーれぇええええいぇああ!!!」

 

 椅子にもたれかかって声を上げるNECCOさん。若干戸棚が揺れてるのは彼女の声量ゆえだろう。うるさい。

 

「まぁまぁ落ち着いて。ほら、温印のハニトーどうぞ」

「んぐ」

 

 つばさがその開いた口に容赦なくトーストを突っこんだ。

 

「もごもご……。…………」

 

 最初は何かを話そうと抵抗していたNECCOさんだったが、やがて口に入りきらない部分を押さえながら無言で食べ始めた。

 背丈がちっこい子がもぐもぐ食べてるのって癒されるよね。

 目の下にある隈のオプションが若干物々しいけど。

 

「やっぱ賄いさんの料理はうまいわぁ……体にじゅわぁっと染みるみたいやわ。こういうトーストって冷めてるとぱさぱさしてまうイメージなんやけど」

「一工夫で結構変わりますよ」

「なるほどにゃあ……」

 

 と、そこで何かを考えこむNECCOさん。

 かと思えばがばっとこちらを見てきた。

 

「せや! 気分転換に料理作らしてもらいたいんやけど、厨房借りてええ?」

 

 どういうこっちゃ。

 

「締め切り近いんじゃないんすか、なーこ先輩」

「近いのは分かっとる。せやけどこれあれやわ、考えすぎて頭がぱーんしとるやつや」

「なるほど」

 

 勉強の気分転換に掃除するようなものかな。

 ちなみにそういう時の私は無駄に隅々までやってしまうタイプ、つばさは出てきたマンガに捕まってしまうタイプだったりする。

 

「にしれもなーこ先輩が……料理?」

「なんやはぴ公、言いたいことあるんか?」

「なーんにも、はぴ」

 

 なんて取ってつけたような語尾か。

 

「賄いさん、この人ナマイキちゃいます?」

「分かりますか? 昔からこんな感じなんですよ」

「そっちに話振るのはズルくない!? ねぇズルくない!?」

 

 私は話振られただけだし。

 NECCOさんが料理しなさそうな印象なのは分かるけど。

 

「アカンか?」

「うーん」

 

 アカンわけじゃないんだけど。

 自分の仕事場にお客さんとも言える寮の人たちを入れるのは若干抵抗がある。

 

 まぁでも今は私が仕事場として使わせてもらってるだけで、元々ここは共有スペースだ。

 ここで張るべき意地でもないか。

 NECCOさんを助けるためでもあるし。

 

「ううん、大丈夫ですよ」

「ほんまか!? 助かるわぁ。ならついでに料理配信でもしよか! 制作過程見たいっちゅうリクエストもよう来とるしちょうどええやん?」

「制作のジャンルが違くない?」

 

 つばさの言う通り、多分みんなが言ってるのは本職(音楽)の方だと思うけど。

 でもNECCOさんのリスナーならそれでも草を生やしながら喜ぶかもしれない。

 彼女に振り回されるのを楽しむ人の集まりだし。

 

「ところでNECCOさん、お料理したことあるんすか」

「あんまない!」

 

 おぉっと、不穏な空気が。

 

「えっと、ちなみに何年ぶりですか?」

「高校の調理実習以来やから……三年ぶりぐらい? まぁなんとかなるやろ。賄いさんの手はいらへんで!」

 

 にゃはは、と高々に笑うNECCOさん。

 視線を交わした私とつばさの心境は、その時完全に一致していたと言えるだろう。

 

(本当に大丈夫なのかな……)

 

 とりあえず作りたいものを聞いてレシピだけは用意しておこうと、心の奥で誓ったのだった。




遅くなって申し訳ないです。
ちょっと現実がキャパオーバー気味なので分割して出すのをお試ししてみることに。
エタらないを目標にはしていますが、クオリティと定期更新の兼ね合いはやはり大変ですね。
皆さんの応援を糧に頑張ります。

TSタグの問題については皆さんのご指摘の通り、
現状私自身の実力不足のせいで扱いきれていない部分も多いため、
消すか、後ろに保険とつけて残しておいた方がいいのか
検討中です。次回更新までには何かしらの対処を行います。

リクエストがあればこちらにどうぞ。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=245624&uid=51890
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