食生活わるわるVライバーに毎日寮で賄いを作る話 作:冬野ロクジ
実食、とは言ったものの。
おかしなことをしないように見張っていたのでとても美味しそうなカレーが出来上がりました。
というかこれで散々な味だったら正直立つ瀬がないと言いますか。
「美味しいですよ、NECCOさん。普段料理しないのにここまで作れるのはすごいです」
「せやろ? いやぁ、うちにあった才能が花開いたんやな!」
一息ついて、うにゃーんと大きく伸びをするNECCOさん。
本当に最後まで飽きずによく頑張ってくれたと思う。
ということでテーブルに座って実食タイム、の前に画面にお皿を映すらしい。
「つーわけで完成や! めっちゃ美味しそうなカレーが出来たで!
猫友の今日のお昼ご飯は何なんや?」
“ねこさんの配信見てカレーにしました!”
“天ぷら蕎麦”
“仕事あるからお昼食べれるか分からない……”
「マジかぁ、お仕事大変やな。じゃあうちが食べてる姿をお裾分けやで!」
それでいいのだろうか。
……ありがとうございます!って言われてるからいいんだろう。
いやでも配信者って大変だなぁ。
私は料理を作って、振る舞って終わりだけどそこにもう一手間もふた手間も加わる感じで。
手間、っていうのは言い方が悪いかな。
ストリーミングである以上、楽しめるものとして作り上げなきゃっていう意識が伝わってくる。
それと同じぐらい本人も楽しんでいるんだろうっていうのが分かるんだけどね。
「おっすおっすー。なーこ、カレー食べに来たはぴよー」
「おー、食べてってやー!」
と、タイミングを見計らったようにつばさが食堂に入ってくる。
多分本当に見計らってたんだろう。
つばさが画面の向こうに自己紹介している隙をついて、マネージャーさんのところにもカレーの入った皿をごとり。
(ありがとうございます。あと、うちの担当がご迷惑をおかけしました)
(いえいえ、楽しかったですよ。頑張って作ってましたから、しっかり味わってあげてください)
(もちろんです)
そういうとマネージャーさんは眼鏡をくいっと上げて、軽く会釈してくれた。
さてさて、私のやることはこれでおしまい。
後はつばさに任せてこっそり消えていようかな。
「賄い、今日は自前じゃないはぴね」
「自前?」
そうは問屋がおろしてくれないらしい。
はーい賄いさんですよー。
「自分で作るときはスパイスから作ることもあるんです」
「昔、賄いがカレー作りにハマった時期があったはぴ。ターミナル? とかのスパイスをどれくらい入れたら一番美味しいのかっていうのを延々とやってた時期があったんはぴよ。あのときは一ヶ月ぐらいカレー食べてたはぴなぁ。だから、賄いのカレーっていうとそっちのイメージが強いはぴ」
「ほーん。なーんも教えてもらってへんなぁ」
「ターミナルじゃなくてターメリックです。まぁそんな感じで色々試したんですけど、最終的に市販品に落ち着きまして」
あのときは市販品に負けたくなくて、半ば意地になってたところもあるし。
でもやはり長年研究してきた企業の壁は高かった。
色々実験した末に私好みのものはできたけれど、他人に振る舞う以上それで他の人に合わなかったら意味がないのだ。
あと、微量な違いで味が変わることもあるスパイスを料理初心者に勧めるのはやりたくない。
いったいいくつ心臓と胃が必要になるんだろうか。
考えただけで恐ろしい……。
「ほないただきます、やで!」
慣れ親しんだ香りを吸い込みながら、すくい上げたスプーンを頬張る。
崩れるように柔らかい野菜たちの甘さがスパイスと混じり合い、ちょっと物足りない食感を大きめに切った豚肉が補強する。
隠し味にと一悶着あったりんごも引き立て役としてしっかりと役目を果たしてくれていた。
「うま! なーこ天才はぴ!」
「せやろせやろ! 自分の才能が恐ろしいわ!
外で食べるカレーも旨いけど、やっぱりこの味が舌に合うなぁ」
「ですね」
分かります。
子ども舌、というわけではないと思うんだけど。
でも昔食べて好きになった味は忘れられないというか。
こだわってスパイスを調整しても結構不評だったり、なんだか違うと言われたりすることも割とあるしね。
そういうのもあって寮で作るときはもっぱらハウス○品さんのお世話になっています。
「まだまだ食べれるわぁ」
「あたしは半分だけ貰うはぴ。賄いはもういい?」
「そうですね、私はもうお腹いっぱいです」
「んー、まだまだ多いなぁ。他のメンツにも来てもらった方がええんかな」
「あんまり無理しなくていいですよ。余ったら私が引き取ってアレンジしますから」
「アレンジ?」
「カレーって結構便利で、色んな料理に転用できるんですよ」
カレーうどん、ドリア、ちょっと手間を加えて野菜に混ぜることも。
カレーパンやマフィンにしておやつにするのもいい。
「にゃー、曲出来てたらうちに作らせてって言うんやけどなぁ」
「お、なーこ。もしかして料理にハマったはぴ?」
「めっちゃ楽しかったからな!」
「また今度一緒に作りましょうか」
「よっしゃ、約束やで! 作りたいもん決めとくからな!」
楽しんでくれたなら私もサポートした甲斐があったものだ。
「そーいやはぴ公は料理作れるんか?」
「あたしはほら食べ専はぴよ! そ、そうだなーこ、イビルさんが今度企画をするから出る人いないかって言ってたはぴ! どうするはぴ!?」
「うちはちょっと提出物溜まっとるから無理やわ。うちから伝えとくわ」
「そ、そっか! なら仕方ないはぴなぁ!」
「ところで賄いさん、そこら辺どうなん?」
「うぐっ」
お願い許してとでも言いたいのだろうか。
けれど残念なことに、ことつばさに関しては容赦するつもりは毛頭ないのだった。
「はぴさんは昔パスタを作ろうとして私の家の鍋を破壊した実績がありますね」
「あれは謝った、謝ったし弁償したはぴ!」
何をすればいいのか分からずテンパった挙句とんでもないことをしだすのがつばさなので。
なんでパスタを茹でていただけの鍋が壊れたかって?
私にも分からない。
「にゃははははは! やっぱ昔から知っとると出てくる情報が違うなぁ!
そんなんじゃ賄いも嫁にこーへんで!」
「そんなことないはぴ! 賄いはいつでもあたしに美味しい料理作ってくれるはぴよ!」
「はい、寮の皆さんに料理を作るのが私のお仕事ですので」
「あれそれなんか違くないはぴ!?」
違くないですよ、多分。きっと。おそらく。
「はぴ公が賄いさんに振られたところで今日はお開き!
ほなまたにゃー。あでゅー」
「おつはーぴー! ちょっと、賄い?」
「あ、えっと、皆さんご視聴ありがとうございました。
これからもライブイリュージョンのお二人をよろしくお願いします」
「賄い? 賄いさん!?」
仲のいい人と食べるカレーはいつでも美味しい気がする。
余ったカレーは大学から帰ってきたウミナちゃんが全部平らげました。
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