正義と悪。
ヒーローとヴィラン。
世の中にある表裏一体のそれら。
だけど俺にはそんなものは関係ない。
俺はただ、仕事をこなしていくだけだ。
――紫煙が揺蕩う。
路地裏。表の光もまともに届かないような場所で、俺は一人煙草を吸っていた。
ここで聞こえてくるものなど、室外機の音だけだ。……本来であれば。
足音。おそらく数は二。微かな音だが、慣れている俺には分かる。
だから煙草を咥え、道を塞ぐようにして立つ。
「よぉ兄弟、調子はどうだ?」
「あ? ……誰だ、テメェ?」
問いに答える代わりに、目深にフードを被ってへらりと笑ってみせる。
「おい、追加人員なんて話はなかったよな?」
「ないな。だからまぁ、そいつは――」
――敵だ。
片方の男が言い切ると同時。もう一人の男が俺に向かって駆け出してくる。
近接戦、なるほど。それなら俺もちょうどいい。
懐からメインウェポン――銃剣付きのハンドガンを二挺取り出す。
向かってきた男を迎え撃つようにトリガーからは指を離し、近接戦に備える。
「オ、ラァ!!」
「!」
咄嗟に身を捻り、同時に右手の銃剣で敵の攻撃を逸らす。
相手とは攻撃が届くような距離じゃなかった。それが一瞬で目の前まで来ていた。
絡繰りはなんだ。相手を注視する。
……足元。関節の向きがおかしい。人間とは逆……獣型の個性?
しかし先ほどまでは普通の人間の足であったはずだ。恐らく、最も可能性があるのは任意変化型の獣化。
その予想を裏付けるように、相手の振るった拳が、突如変化して鋭利な爪が伸びてくる。
それをギリギリのところで避けて……咥えていた煙草が斬り裂かれた。勿体ない。
そんなことを思いながら、こちらに向けて振るわれた腕に絡みつくようにして身体を持ち上げ、相手の腕の上に逆立ちする。
「チッ」
直後、先ほどまで俺がいた位置を通り抜けていく
見ればもう一人の男が伸ばした指先から煙が出ている。前に出てこないあたり、サポートか遠距離系だとは思っていた。
わかっていたから回避は容易い。……というか、もう充分見た。
「解析完了」
逆立ちしたこちらを叩き落そうと振るわれる一撃を避けながら、地面へと降りる。
そのままハンドガンを構えながら、
「Eat shit and die, villains」
弾丸が放たれる。回避は間に合わない。
任意変化型の弱点だ。変化していない時は人並みの反射神経しかない。
もう一人に関しても、普通の人間である以上、弾丸を避けることは叶わない。
加えて俺が外すこともない。片手撃ちだろうが、
故に弾丸は違うことなく、マーカーの中心点を撃ちぬく。
そして直後、男たちは絶命する。
「念の為っと」
多分死んだとは思うのだが。念には念を入れてそれぞれの頭と心臓部にも弾丸を撃ち込んでおく。
それ用の個性でもない限り、これで確実に死んだだろう。
血は……特に付いてない。服を変える必要はない。
死体に関しては担当が来るという話になっているので気にしなくていい。
「一服する時間は……」
煙草を取り出しながら時計で時間を確認。
「……まぁ、間に合うだろ」
ギリギリだが、我慢できずに煙草を吸うことにした。
「おっはよー!」
とん、と背中に軽い衝撃。振り返ればよく見知った顔。
「もう、一緒に投稿しようと思ったら家に行ったらいないんだもん。朝からどこ行ってたの?」
「あー……トレーニング?」
「おぉ、真面目だね!」
幼馴染と適当な会話をしながら歩みを進める。
向かう先には雄英高校。国内でも有数のヒーロー育成学校がある。
――今日も俺はヒーローとヴィラン専門の殺し屋、二足の草鞋を履く。