間桐慎二は誰よりも天才で、誰よりも心が強く、誰よりも優しい素敵な少年です。

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尚、冬木以外のバージョンは無い模様。


過負荷を手に入れた慎二

 間桐慎二は天才である。

 子供ながら習い事は短期間で習得できてしまうし、外国語さえ暫く習ったらペラペラしゃべれるようになった。さながら前世の記憶を持ち越しているのではないかと言わんばかりの天才性と早熟さを見せる、神童だった。

 そんな恵まれた子供は、だが、唯一。一番欲しかった才能だけが無かった。

 

 間桐家は魔術師の家系である。当然、その痕跡は家の中に隠されていて、やんちゃな慎二がうっかりその鍵を開けてしまうのは必然とでも言っていい事象だ。

 専門でも解くのは至難であろうそれを易々と解き、情報の断片と、子供であるからこその大人の心の機微を察する力。それらを総合し、慎二は自身の家の特別性に気づいた。

 魔術師の家系。根源を目指し、歴史を遡る神秘の学者。

 正しく特別な存在であり、自身がその末裔であることに慎二は歓喜した。

 ぶっちゃければ根源なんてどうでもいい。ただ、自身が物語の主人公の様な「特別」な存在であることに酔いしれた。

 

 調べたところによると、魔術は明かされるべき時があり、その時まで後継は待たねばならないらしい。ならば待とう。

 そうして数年経ち、存在は明かされど魔術の継承や、その教育は成されないことに疑問を持ち始めた。

 父に聞けば穏やかに笑い、祖父に聞けば見下すように嗤われた。

 

 何かおかしいと感じた。

 

 そして、ある日。祖父が養子を迎え入れた。自分より一個下の、幼い子供だ。

 祖父の紹介によるところ、妹として迎え入れるらしい。何故だろうか。嫌な予感が加速する。

 その日から、毎晩悲鳴が聞こえるようになった。いや、鳴き声というべきだろうか。

 まるで死を告げる女妖精の鳴き声の様にか細く響くそれは、どうやら下から響くようだった。一階ではない。もっと下。

 この屋敷には地下がある。入ってはいけないと言われた、おどろおどろしい扉だ。

 どうやらそこから鳴き声が聞こえるらしい。

 今までは「魔術の秘匿」? とやらの為に我慢していたが、こんな音が聞こえるなら覗いてしまっても問題ないだろう。むしろこれは試験なのかもしれない。何か特殊な音を放っていて、聞こえた日から魔術とやらの才能度合いを計っているのかもしれない。

 ならば覗いても問題ないだろう。

 

 そう思ったのは、早計だったのだろうか。

 

 「な、なんだよ、これ……!」

 

 目に飛び込んだのは月明りと慎二の持つ懐中電灯の光を反射する無数の黒色の海。否。それらは「蟲」だった。

 普通の生態系では生誕するはずの無い、芋虫に似た異常な形状の蟲の海。男性器も似たモノや、蜂の様な物。雲の様な足を持った蟲、百足のような虫。どれも、既存の蟲に「似ているだけの」何か別種の生物だった。

 

 「ぅ、ぅう……」

 

 その海の中に、異色を見る。肌色。目を凝らしてみると、誰かの足のようだ、ということが分かった。

 それはぴくぴく蠢いている。生きているらしい。

 どこか見覚えのある。いや、知っている。

 

 子供故の突飛な想像力と、神童と称される所以でもある優れた頭脳はすぐさま答えを弾き出した。

 この屋敷で、あれと同じくらい小さいのは自分ともう一人しかいない。すなわち、自身の妹だ。

 養子らしいが、何故そんなことをしているのか。彼女には表の面を任せ、自身に本格的に魔術を教えてくれるのではないのか?

 

 「ぁ! かぁ……」

 

 蟲がその体を持ち上げて、その顔がよく見えるようになった。間違いない。懐中電灯の作り上げた光の円の中には、眩しがって目を逸らす妹がいた。

 その口から痰を吐き出すかのように蟲を吐き出す。先程見た、男性器似のあれだった。それよりかはやや小さい気もするが……

 

 「おお、どうした? 慎二」

 

 階段を振り返ると、そこにはニタニタといやらしく笑う祖父がいた。

 その瞬間。慎二は全てを察した。

 それでもなお、慎二は問う。

 

 「なあ、爺さん」

 

 「なんだ? 儂の孫よ」

 

 「僕は、魔術師になるんじゃなかったのか」

 

 「……くっ」

 

 その問い掛けを聞いた祖父は、急に押し黙る。顔を伏せ、そして肩を震わせ、口元は半月より尚弧を描き、そして笑い声を屋敷中に響かせた。

 

 「……くっ、ははははは! ははははははははは! はっはははははは!!」

 

 「何が、おかしい」

 

 怒りを押し込み、熱を帯びる臓腑を意識の片隅に、分かり切った答えを聞いた。

 

 「嗚呼! おかしいとも! まさか慎二、貴様――――――」

 

 

 

 ――――――自分が魔術師に成れるとでも、そう思いあがっていたのか?

 

 カタリと、何処かで物が落ちる音がする。

 祖父の後ろを見ると、ナイトキャップを被った父が慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

 「慎二!」

 

 祖父の横を走り、自身を掻き抱いて祖父を睨む父に言ってみようとする。

 

 「なあ、父さん。僕、魔術師に成れ――――――」

 

 「妖怪爺っ! 慎二には手を出さねぇ約束だっただろうがっ!」

 

 自身の言葉を遮るように放たれた言葉に、慎二は思い知る。

 

 「ああ、手を出すつもりはないとも。そんな()()()()に期待するものもないわい。そもそも魔術回路もないような餓鬼に何ができる? 戯言もほどほどにせい。()()()()()()()()()()じゃ」

 

 「……っ! 本当だろうな」

 

 「ああ、嘘は言わんとも。そんな()()()()()に用はない」

 

 出来損ない。出枯らし。

 

 ああ、簡単な事だった。

 

 何年待っても本格的な修行が無いのは、当然のことで。

 要するに、僕にはその資格が、才能が無かったのだ。

 

 何という皮肉だろうか。

 近所で口々に褒め称えられる神童である自分が、何よりも欲しい才能だけを持ち合わせていなかったのだ。

 

 その後の事は、あまり覚えていない。

 気が付けばベットの中で父に抱かれ、朝を迎えていた。

 朝日が差し込む庭。窓の位置のせいで薄暗い食卓。

 いつも通りの日常で、ともすれば昨夜のあれは夢なんじゃないかと期待してみたりする。

 しかし、挨拶しようとして目を向けた妹が、目を背けた。

 それだけで、夢ではないことを突き付けられる。

 

 ああ、我慢深くなければ、慎二はここで殴り掛かっていただろう。

 しかして不幸なことに、慎二は我慢が出来てしまった。多くの習い事を通し、我慢する術を身に着けてしまっていた。

 心に生まれた蟠りは解消されず、気まずそうな父と、唯一楽しげな祖父と食卓を囲んだ。

 

 その日の朝食は、とても重い空気だった。

 

 

 

 

 

 

 呆けた頭で考える。

 何がいけなかったのか?

 自分に何の落ち度があった?

 

 無い。何も、無いのだ。

 自分には、直すべき所は、直せる落ち度は無いのだ。

 ああ、なんと辛いことだろうか。

 

 自身に非が無いことの、なんと苦しいことか。

 

 

 

 

 

 

 暫くして、父がどこかに連絡を取り始めた。

 数か月が過ぎ、父が英国への留学を告げた。

 それは、厄介払いだったのだろうか。

 

 靄に塗れた視界で、後ろに流れていく大地を映しながら朧に思った。

 

 

 

 (マイナス)が欲しい、と。

 

 

 

 カチリ。

 

 

 

 瞬間、頭痛。

 頭が内から割れそうだ。何故かザクロを思い浮かべる。

 急に苦しみだした自分を父は心配するがそれどころではない。

 

 流れ込む知識。

 「聖杯戦争」「セイバー」「マスター」「令呪」「願望器」「御三家」。

 それらを認識し、慎二は気付いた。

 

 「自身が転生者である」という、そのことを。

 

 「は、ははは……」

 

 慎二は歪んだ笑みを浮かべる。

 心配する父に、何でもないと言って自分の世界に籠る。

 

 そして、転生特典を掘り起こす。

 それはある物語で「過負荷(マイナス)」と呼ばれる力。慎二の欲しがっていた、欠点。

 

 名を、「却本裂家(オールフィクション)」。

 

 届かないのなら、全部嘘になっちゃえ♪

 

 

 

 

 

 

 そして慎二が海を渡った後、暫くして間桐臓硯は奇妙な噂話を耳にする。

 曰く、ロンドンで多くの魔術師が魔術を失っている。彼らの共通項は、魔術協会に属さない魔術師であるという点のみ。

 確かに奇妙な噂であったが、臓硯は来る第四次聖杯戦争に向けて、間桐雁夜の調整に忙しかった。

 やがてそんな噂は忘れ、ただしこりのような不吉さだけが胸に残ることとなる。

 

 

 

 第四次聖杯戦争、間桐家代表。バーサーカーのマスター、間桐雁夜。敗退の上、死亡。

 生還者、ヴェイパー・ベルベット、衛宮切嗣、言峰綺礼の三名。

 ああ、いや、もう一人いたな。

 衛宮士郎。衛宮切嗣の養子だ。

 

 

 

 「おーい、衛宮ー!」

 

 「ん? 何だ、慎二か」

 

 「何だとは失礼だな。せっかく僕が調子を見に来てやったのに。で、どうだ。最近の弓道部は」

 

 「ああ、殺人鬼が現れたってことで放課後練習が禁止になったのが痛いな」

 

 「でもお前は居残ってる、と」

 

 「は、ははは。掃除が終わったら帰るから、うん」

 

 「ふぅーん、でも気を付けろよ。夜まで残ってると死ぬぞ」

 

 「え? なんでだ?」

 

 「んー、別に。ま、注意しとけよー」

 

 「……ま、いっか。おう! 早めに帰ることにするよ!」

 

 「そう言って士郎はもう二度と姿を見せませんでした」

 

 「止めろよ不吉だなぁ!」

 

 夕焼けの弓道場で、二人。

 離れた二人が、わらい合った。

 

 ははは、ははははは、と。

 

 

 

 

 

 

 ハハハ。

 

 

 

 

 

 

 「慎二。お前は桜の代理でマスターを務めよ」

 

 「マスター? は?」

 

 「くくっ、これをやろう。令呪の代理だ」

 

 「……二画しかないみたいなんだけど?」

 

 「一画は移植の際に使ってな」

 

 「ふぅーん。で、僕のサーヴァントってどこのどいつさ」

 

 「ライダー、出てきて」

 

 「分かりました。桜」

 

 「あ? 何だこいつ」

 

 「形の無い島の三女神、勇士を食う怪物、つまるところ――――――」

 

 「まぁいいや。とりあえずライダー? だっけ? 金渡すからジャンプ買って来いよ」

 

 「……あの、聞かなくていいので?」

 

 「ん? とっとと買って来いよ。サーヴァントってつまり召使いみたいなもんだろ?」

 

 「いやその」

 

 「めんどくさいなぁー。あ、そうだ。ライダー、『令呪を持って命ず』、()()()()()()()()()

 

 

 

 「「はぁっ!?」」

 

 「え? あちょっ」

 

 「おー、これがテレポートってやつか」

 

 「……っ! ……っ! ~~っ!!!!!」

 

 「あの、兄さん。その、令呪っていうのはですね? 補充できないんですよ?」

 

 「え、そうなの? 何だよ使えないなぁ。格ゲーだってゲージ貯めれば簡単に必殺技連打できる時代だぜ? 補充できるようにしない方が悪い。つまり、僕は悪くない」

 

 「しっ、慎二ぃぃいいぃいいいぃぃぃぃーーーーーー!!!」

 

 「おいおい、何そんなに怒ってんだよ」

 

 

 

 

 

 

 そして、夜の霧に紛れて学生服の慎二は気ままに歩く。

 

 「へー、此処にキャスターがいるって? どう考えてもあの生徒会長の家じゃん」

 

 『少なくとも、臓硯からはそう聞きました。彼は性格は兎も角として、この時代では優秀な魔術師です。間違いは無いでしょう』

 

 「ふぅーん」

 

 「いやはや、呼び出されて早々客人が来るとは。どうやら門番というのも中々に忙しいものらしいな」

 

 「……うっわー、今時耄碌爺ぐらいしか着ないような和服着てドヤ顔してるー。ねぇねぇ、その恰好恥ずかしくないの? ねぇねぇ」

 

 「いや、確かに着慣れぬ衣だが、これが中々にしっくりとくるのだよ。で、少年。生憎と此処は誰も通すなと主から言付かっているのだが、引き返しては貰えないか?」

 

 「いやいや、僕は友人に会いに来ただけだぜ? 何で門番ごときに追い返されなきゃいけねーんだよ。退けよ」

 

 「ふむ、例え友人であったとして、夜も更けた頃合いに来るのは失礼にあたるんじゃないのかね?」

 

 「これはあれだよ。寝起きドッキリってやつさ。親しい間柄なら普通の事だぜ? 何かロクに畑も耕せなさそーなその顔面、耕すぞ」

 

 「……」

 

 「じゃ、ぼくはk」

 

 「アサシン。何を通しているのです」

 

 「ぷぎゃ!」

 

 『ああっ、慎二が海老ぞりで宙を舞っている!』

 

 「……はっ! す、すまない。言われ慣れない暴言が中々に心にきてな……」

 

 「大丈夫ですか、慎二」

 

 「……いきなり酷いなぁ! 手ぶらジーンズでもしてくれないと許せないぞぉう!」

 

 「大丈夫そうですね、慎二」

 

 「ふんっ。で、貴女がライダー?」

 

 「あれ? 無視?」

 

 「ええ、私が此度の戦争で、ライダーのクラスで現界したサーヴァントです」

 

 「おいおい、僕の豆腐ハートが傷ついちゃうぜ? 泣くぜ? マジ泣きするぞ?」

 

 「へぇ。中々楽しめそうな相手じゃない」

 

 「……では、行きますよ。慎二」

 

 「つーんだ」

 

 「……もういいですからどっか行っててくださいよぉ」

 

 

 

 

 

 

 たとえ英霊であろうとも。

 

 「じゃ、僕はあの何とかって眼鏡会長にドッキリ仕掛けに行くよ」

 

 「待ってください慎二、今回の目的はドッキリじゃありません」

 

 「そもそも貴方、勝ってもいないじゃない」

 

 「某が見逃すとでも?」

 

 「……全く、友人に会うのに死闘しなけりゃいけないなんて。世知辛いなぁ」

 

 「慎二、世知辛いは違うと思います」

 

 「はぁ、もういいからその本を置いて消えなさい。命までは取らないわ」

 

 「なに言ってんだ? このおばさんw」

 

 「おばっ……!」

 

 「帰るわけねぇじゃん。さっくりとここを通らせてもらうよ」

 

 「そう、あくまで抗戦するというのね――――――!」

 

 

 

 

 

 

 「くっ! なんで、なぜっ!」

 

 「却本裂家(オールフィクション)。じゃ、此処は通らせてもらうよ」

 

 「ま、待てっ! ……申し訳ありません、宗一郎様……」

 

 過負荷(マイナス)は克服できない。

 

 

 

 

 

 「あ、そういやキャスター倒したし別に此処にいる必要ないじゃん」

 

 「級友の顔に落書きし尽くした後に言うセリフではないですよね」

 

 

 

 

 

 

 そして、絶対強者(エリート)との邂逅。

 

 「ふん、星を望みながら撃ち落とす道化か。良いぞ。貴様の醜態で(オレ)を楽しませるがいい!」

 

 「ぷっふー、(オレ)とか恥ずかしくないの? なに? 中二病? ねぇねぇ中二病? 子供から心が進まないの?」

 

 「慎二っ!! これは下手に煽って良い相手ではありませんよ!?」

 

 「そう、でもさ。気にくわねぇな」

 

 「なっ……」

 

 「こいよ、王様。欠陥品の本領を見せてやるよ」

 

 

 

 「却本裂家(オールフィクション)、テメェの幻想(宝具)虚構(なかったこと)に確定させた」

 

 「たかだか幻想ごときが、虚構の存在が僕らに触れられるはずが無いだろう?」

 

 

 

 

 

 

 「慎二、お前も参加してたのか……」

 

 「ああ、因みにそっちの戦果はどうなんだ? こっちはもう、三騎も超えた後だけど?」

 

 「なっ!」

 

 『とはいえ、英雄王には勝てませんでしたがね』

 

 『ああ、参ったよ。まさか僕が幻想如きにやられるとはね。流石はエリートってところか。今でも体中が痛いよ』

 

 『その程度で済んで良かったというべきですよ。まあ、貴方が弱体化させてくれなかったらこうはいきませんでしたが』

 

 「慎二? 貴方、確か魔術回路が無い筈じゃ……」

 

 「まぁね。お爺様はどうにも僕に出て貰いたいみたいだったからね」

 

 

 

 

 

 

 「ふふ、ふふふふふ、ああ、兄さん? おはようございま、す……っ!?」

 

 「ああ、おはよう、桜。ま、今は夜だけどね。どうしたのさ、そんな破廉恥な格好して。どうせなら手ぶらジーンズになってくれない? あと僕野外プレイは好きじゃないんだよね」

 

 「なっ、何ですか、それっ! なんでそんな……いや、そうか、だからこそそんな精神にっ! 化け物ですかっ!」

 

 「酷いなぁ。何が化け物だっていうんだい? 君に比べたら凡人も凡人。むしろ落ちこぼれ以下じゃあないか」

 

 「何がって……その精神構造に決まっているじゃないですか! 魔術基盤を歪めるほどの妄想! 強度の、固有結界すら凌駕する空想! そんなものを抱えて、どうして人の精神を保っていられるんですか!」

 

 「いやいや、あたりまえじゃないか。魔術なんて、僕にはあの日以来、虚構でしかないんだよ」

 

 「違いますっ! そうじゃない! そんな副産物は、どうでもいい!」

 

 

 

 「――――――なんで、()()()()()()()()()()()()()()()()()っ!」

 

 

 

 「人の一生分を補完する想像。一体どんな狂気がそんなあるっていうんですか。そりゃあ、魔術基盤を歪めるような妄想、兄さんの言葉を借りるなら過負荷(マイナス)、でしたっけ? そんなものすら漏れ出てくる」

 

 「兄さん。貴方の体は人間。魂も人間です」

 

 「でもっ、だけど」

 

 

 

 「精神だけは、神格であろうと揺るがせない」

 

 

 

 「ええ、恐ろしいですよ。()()()の記憶にある英雄王ですら、そこまでの病的な自我は持っていなかった」

 

 「兄さん。貴方には一体、どんなことがあったんですか」

 

 

 

 

 

 

 「どんなことがあった?」

 

 「違うな。なかったんだよ」

 

 「僕には無かった。無かったんだ」

 

 「だから、無かったことにしてやるんだ」

 

 「幻想(魔術)脚本(基盤)を却下して、引き裂くんだ」

 

 

 

 「ああ、手に入らないから、壊すんだよ」

 

 

 

 少年は、手に届かぬ葡萄(魔術)を諦め、(妄想)を放つ。

 

 

 

 「だから、こんなものは消えてしまえばいい」

 

 「やめろ慎二! そんなことをしたら! 貴様! っく、虫を埋め込めなかったことが仇になったか……!」

 

 「やめてください! 何をしているかわかっているんですか!」

 

 「ああ、わかっているさ」

 

 「っ! このっ! ライダー! バーサーカー! キャスター! アサシン! アーチャー! セイバー! ランサー! 兄さんを、殺してください!」

 

 「蟲よ! 我が願望の礎のを崩すものを殺せ!」

 

 「もう遅い」

 

 「おっ――――――」

 

 

 

 

 

 「却本裂家(オールフィクション)、聖杯も魔術も、神秘何て幻想を無かったことにする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 様々なイレギュラーを孕んだ第五次聖杯戦争は、誰も行方を知らぬままに幕を下ろした。

 いや、そもそもの問題として、それは開催されたのか。

 全ての神秘は泡沫と溶け、貴き願望は飛沫に散った。

 魔術師共の悲願は波に呑まれ、千年の妄執は終ぞ実らず。

 

 ただ、安穏とした平穏だけがそこに残った。

 

 

 

 「士郎、晩御飯は何ですか!」

 

 「えっ、そうだなー。今日は挽肉が安いし、ハンバーグにでも――――――」

 

 「おう坊主! 鮭買わねぇか、鮭!」

 

 「へぇ、良い鮭ですね。先輩、明日の朝ごはんにしませんか?」

 

 「桜、流石にもう持てないのですが……」

 

 「ふん、こっちには余力がある。良ければ持とうかね?」

 

 「あ、アーチャー? これ追加ね」

 

 「ところでマスターのマスター。今夜あたりに一杯、いかがかね?」

 

 「ふむ、悪くないな。今日は満月だそうだ」

 

 「ああっ! 総一郎様、お酌しますわ!」

 

 「……本当に全額支払わなければいかんのか?」

 

 「当たり前でしょ? 間桐の当主が前言を撤回するの?」

 

 「■■■■■■■■――――――!」

 

 「くくっ、まあこれも悪くは無いな。おい、綺礼。何を持ってきている」

 

 「何って……ただの香辛料だ。今夜は麻婆―も……おい、顔を背けるな戻すな手を引っ張るなっ! あれは貴重なのだぞ!」

 

 「あ、これも追加で」

 

 「ふふっ、カレンちゃんは甘党なのね。あ、切嗣、これも入れて」

 

 「……間桐の翁は大丈夫だろうか」

 

 「これも追加ー」

 

 「リズ、何をしているのです。許しませんよ」

 

 「衛宮の奴は大丈夫だろうか……女狐に振り回されている気がする……」

 

 「はっ、あいつがこの程度でへこたれるかよ。ガワを着ているだけの俺でもわかるぜ」

 

 「あら、貴方随分と士郎と似てるわね! よっし! ちょっとあれ着て見ない!? ちょっとでいいから!」

 

 「ふふっ、皆様楽しそうで。我が主も財布ばかり気になされずに楽しまれればいいものを」

 

 

 

 

 

 ああ、冬木は今日も平和である。

 

 

 で、ほんとにこれでいいのか?

 お前は、あそこにいないんだぞ?




 君は、本当にやさしいな。士郎とそっくりだぜ? そういうとこ
 ああ、いいのさ。だって――――――

 ――――――これでもう、誰も苦しまないんだから。

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