ONE FOR ALL9代目はボンゴレX世 作:鉄血のブリュンヒルデ
大変長らくお待たせしてしまい申し訳ございませんでした!!
「最下位除籍って…!
入学初日ですよ?!
いや初日じゃなくても…理不尽すぎる!!」
麗日さんは焦りながら相澤先生に大声で抗議する。
だが相澤先生に特に堪えた様子はなく、言葉を続ける。
「自然災害、大事故、身勝手な
いつどこから来るかわからない厄災…。
日本は理不尽にまみれている。
そういう理不尽を覆していくのがヒーロー」
僕の脳裏に、去年の夏休みのジャックの事がフラッシュバックした。
確かに、僕の境遇を除いたとしてもそう言った備えようもない脅威はそこら中に溢れている。
「放課後マックで談笑したかったならお生憎。
これから三年間、雄英は全力で君達に苦難を与え続ける。
全力で乗り越えてこい」
緊張、焦燥、困惑。
皆がそれぞれの表情を浮かべる中で、かっちゃんは笑っていた。
あれは、多分まだ上が出せそうって思ってるな。
さてと、まずは50m走だ。
初めの走者は飯田君と、確か蛙水さんだったかな。
飯田君の個性は試験の時も見たけど、あの脚から生えたマフラーの様な器官を見るに、エンジン系の物の様だ。
プロヒーローでいうなら、部位は違うけどインゲニウムも似た様な個性だったはずだ。
蛙水さんは、体の動かし方から蛙の様な印象を受ける事から、体に蛙の特性を持つ個性なのかな。
同じには思いたくないけど、毒蛇と同じタイプかもしれない。
脱皮とかするのか?
関係ないけど、毒蛇が脱皮した時に服が脱皮した側についていってたのはどういう原理なんだろう。
あまり考えない方が良さそうだ。
っと、結果が出たみたいだ。
飯田君のタイムは3秒04で、蛙水さんは5秒58。
飯田君はどうにも煮え切らないような表情を浮かべている事や、試験の時程のスピードではない事から、恐らく加速にはそれなりの距離が必要なのだろう。
次のペアは、麗日さんと尾白君。
尾白君の個性は、あの尻尾だ。
太く、そして柔軟性のあるそれは攻撃や防御、移動など幅広い応用を想定できる。
事実、今の測定ではそれをバネの様に使って、タイムは5秒49だ。
麗日さんの個性は、恐らく手で触れた物の重力をゼロにするもの。
試験の時にもそれで仮想
今回は身に着けている物の重力をゼロにしているようだ。
でももともと大した重さのない衣類や靴では効果は薄く、タイムは7秒15と一般的なものに落ち着いていた。
次は青山君と芦戸さん。
青山君は、確か僕と同じ会場で試験を受けていたはずだ。
あの特徴的なベルトと個性は印象に残っている。
個性は至ってシンプルで、お腹からレーザーを出すものだ。
シンプルだけどその威力は絶大で、試験ではいとも容易く仮想
「フフ…皆工夫が足りないよ」
青山君はそう言いながらコースに背を向けて後頭部に手を回した。
「個性を使っていいってのは」
そして軽くジャンプして、その瞬間お腹のベルトが輝く。
「こういう事さ!」
そしてベルトからレーザーを放ち、その勢いを利用して体をゴールに向かって押し出す。
すごい、あんな使い方が出来るんだ。
と思っていた矢先、レーザーが途切れて青山君が背面から地面に落ちる。
そして立ち上がり、再びレーザーを使ってゴールする。
タイムは5秒51だけど、どうしてレーザーが途切れたのだろう。
射出には制限があるのだろうか。
「一秒以上射出すると、お腹壊しちゃうんだよね」
だそうだ。
強い力の代わりにその代償が発生する。
少しだけ僕のONE FOR ALLと似ているな。
そして青山君のインパクトが強くて後回しにしてたけど、芦戸さんは青山君より僅かに早い5秒11だ。
裸足で足から液体を出しながら滑るように走っていた。
水……いや、芦戸さんの体操服の裾が僅かに溶けているのを見るに、強い酸性を持つ液体なんだろうか。
それによって地面を滑走していたのか、すごく上手い使い方だ。
あとあの軽やかな身のこなし、何かしていたのだろうか?
っと、次は僕とかっちゃんの番か。
出席番号順だからとはいえ、こんな形で雄英に入学して初めての勝負をする事になるとは。
僕達の番が来た途端、相澤先生の視線がキツくなった気がするのは気のせいだろうか?
僕達はお互い言葉もなくそれぞれの構えを取る。
僕はクラウチングの体勢をとり、かっちゃんは両手を後ろに向けて広げる。
そしてスタートの合図が鳴ると同時に、僕達は加速し一瞬のうちにトップスピードへ至る。
そしてゴールラインを通過し、タイムを見る。
僕達は振り返りタイムを測定しているロボットの音声に耳を傾ける。
『3秒02!両者同タイム!』
よし!少なくとも現時点での最高タイムだ!
けど、後一歩でかっちゃんを抜けたのに、そこが悔しい。
そこに驚いた顔の飯田君が歩み寄ってくる。
「す、すごいな君達は…。
脚力そのものが高い俺の個性と同等どころか、タイムを抜かれてしまうとは…。
緑谷君は入試の時にも見たからまだ納得はいくが、爆豪君の個性は見るに手のひらから爆発を起こすものだろう?
その個性でどうやってあそこまでのタイムを出しているんだ?」
「僕も気になってたんだ。
かっちゃん入試後はトレーニングの時間ずらして一人でやってたみたいだから、最近のかっちゃんの強さがまだ測りきれてないんだ」
「アァ?んなもん大した話じゃねぇ。
普通に使ったら分散する威力を、手のひらの形と角度で威力を後方一直線に絞っただけだ。
後はテメェらで勝手に考えろ。
これ以上教えてやる義理はねェ」
かっちゃんはそう言って次の種目へと向かう。
「手のひらの形や角度、か…。
案外単純な方法なんだな」
「いや、それは違うよ。
確かにやったことだけを並べたら単純に聞こえるかもしれないけど、きっとその内容はとんでもなく繊細なんだ。
爆破の衝撃が腕に伝わらないはずもないし、その威力を一方向だけに絞ればそれだけ腕にかかる負担は増すはずだ。
それに、手の形も角度もきっと凄く細かく拘って調整してるはず。
やっぱりかっちゃんは、すごいな」
僕はかっちゃんの後ろ姿を見ながら改めて最高のライバルに恵まれたんだと再認識した。
(いや、緑谷君の方こそ、だ。
そのすごいと言った爆豪君の言葉から自分なりの考察を一瞬で弾き出した。
旧知の仲と言えど、その言葉だけで片付けられる域を超えている。
僕はこんな才能溢れる級友と同じ環境で学べるのか…!)
振り返ると飯田君は何やら難しい顔でこちらを見た。
「…飯田君、どうかした?」
「いやただ、僕はこんなにも素晴らしい級友に恵まれているのかと感動しただけさ」
「そんな大袈裟な。
それに飯田君の個性だって凄いよ。
僕達はあれがほとんどトップスピードみたいなものだけど、君は違うだろ?」
僕が気になっていたことを問いかけると、飯田君はとても驚いた表情でこちらを見ていた。
「なぜ分かったんだい?」
「入試の時の君のスピードを見ていたからね。
あの時と比べて、さっきの君は走りながら加速している様だった。
その様子から、もしかしたらマニュアル車みたいに段階的に速度を上げていくんじゃないかってね」
僕の考察を聞いた飯田君は苦笑した。
「全く持ってその通りだ。
君の分析能力は凄まじいな」
「小さい頃からの趣味で、色々なヒーローの情報を集めてノートに纏めてたんだ。
将来の為のヒーローノートってね」
なんだか話してて自分で恥ずかしくなってきたな。
最後のペアである轟君と八百万さんの番が始まるみたいだし、この話はまた後にしよう。
「とりあえず今は、あの二人を見てみよう」
「あぁ、そうだな。
さっきのノートの話、後で詳しく聞かせてくれ」
「うん、いいよ」
轟君の個性はよく知っているけど、八百万さんはどんな……って、八百万さんスクーターに乗ってないか?
それありか?
轟君は氷で滑走して4秒35。
八百万さんは4秒92だった。
轟君が戻って来て、相澤先生の先導で場所を移動する。
その最中に聞いて見たところ八百万さんもどうやら推薦入試組らしく、個性は様々なものを作り出す個性らしいけど、詳細はわからないらしい。
つまりあのスクーターは個性で生み出したんだろう。
…いや、それにしたってアリなのか?
二種目は握力測定だ。
この種目では僕はかっちゃんに負ける事はないはずだ。
いくら爆破と言えど握力まではどうにもならない。
「よし、行くぞ」
とりあえずフルカウルで安定して使えるレベルの力でやろう。
と、その前に周囲の観察をしてみよう。
見渡してみると、入試でも見た複数の腕の生えた男子が左側に生やした三本の腕を全て使い計測していた。
「540キロて!!
あんたゴリラ?!タコか!!」
「タコって、エロいよね……」
すごいパワーだ。
きっとあの一本一本の腕自体のパワーが高い上にそれを全て一点にまとめた結果生まれた力だろう。
その上で相当に鍛えられているのであろうことが恐らく特注であろうタンクトップの体操服に浮き出た胸筋や広背筋から伺える。
両腕計6本の腕を使った連打なんかは、単純ではあるけどそれだけで一つの必殺技足り得るだろう。
そして奥の方で計測している、これまた筋肉質な男子。
彼も493キロと大記録だ。
パッと見た感じ、あのパワーそのものが個性なんだろうか。
発動条件やその最大値が気になるところだ。
「おお、緑谷君すごい記録じゃないか!!」
「え?」
突然声をかけられて、僕は驚いて振り返る。
それに記録って何のことだ?
「504キロとは、君のパワーは凄まじいな!」
僕は咄嗟に自分の右腕を見る。
すると、右腕はフルカウルを使っている時特有のスパークに包まれていた。
「いつの間に?!」
僕は驚いて手を離す。
計測器はそのまま地面に落ちて、飯田君がそれを拾い上げる。
「ダメじゃないか緑谷君!
学校の備品には敬意を持ち大切に使わねば!!」
「あ、ごめん…」
怒られてしまった…。
しかし、今僕は無意識にフルカウルを使ってしまったのか?
思い当たることといえば、皆の個性を見て感動を覚えた事だろうか…?
感情で制御がぶれていてはまたリボーンに怒られてしまうな…。
「全く、悪気がないとはいえ気をつけたまえ。
それじゃあ次の会場に行こう」
「うん、そうだね」
(アイツ、見た目は俺よりの全然小さくて筋肉だって俺の方があるのに、俺よりも高い記録を?!)
(俺の複製腕全部を使った力に迫る奴が二人もいるのか?!
いや、確かアイツは入試の会場で俺を助けてくれて、その上0
まさか、今の力は本気じゃないというのか?!)
もっとしっかり個性の制御に意識を無えないと、下手をすれば僕だけじゃなく他の人にも被害が出るかもしれない。
気をつけなきゃな。
かっちゃんはどんな感じなんだろうと思い見渡すと、今まさに測定器を持ち握り締め始めたかっちゃんの姿があった。
そして、かっちゃんは驚くことに指から爆破を起こした。
「か、かっちゃん?!」
「……ッチ、203キロかよ」
いや、サラッとやってるけど、そんな使い方できるの?!
爆破の可能性が広すぎるだろ!!
あれを利用すれば近接格闘でも応用が効くんじゃないか?
相変わらずいつの間にかドンドンと先に進んで行くな、かっちゃんは。
だからこそ張り合いがある。
そして今度は轟君を見てみる。
轟君は握り締めた手のひらから小さな氷柱を生み出して計測器を圧迫している。
氷にヒビが入ったところで轟君は発生を止め、その記録を見る。
「205キロ……よし、爆豪に勝った」
「ア“ァァァ?!何だテメェ喧嘩売ってんのかこの半分ヤロォ!」
今にも飛びかかりそうなかっちゃんを僕は後ろから羽交い締めにして止める
「かっちゃん落ち着いて!!轟君に悪意はないんだ!」
「余計タチ悪りぃんだよ!!」
「オイお前ら、ふざけてるなら今すぐ除籍にしてやってもいいんだぞ」
相澤先生の鋭い目つきに、僕とかっちゃんはその本気度を察して大人しくする。
かっちゃんは見るからに不本意そうだけど。
そんな一悶着があり、その裏で八百万さんはサラッと測定を終えていた。
万力を使って。
いや、だからそれありなのか?
そして次の種目、立ち幅跳び。
ここではさっき50m走で高記録を出した人たちが活躍していた。
後は麗日さんが結構いい記録を出していた。
ちなみにここではかっちゃんの方がいい記録を出し、中指を立てて威嚇された。
うん、理不尽。
4種目は反復横跳び。
ここでは今まで目立った記録のなかった峰田君がすごい記録を出した。
あの頭から取っては生えてくる球体は、どうやら彼以外には張り付いて彼自身にはまるでゴムのように弾性が働くみたいだ。
それ以外で言うなら、僕とかっちゃんくらいだろうか。
ここでは僅差で僕が負けた。
そして5種目。
ここで最初にかっちゃんがやってみせたハンドボール投げだ。
前半で一番印象に残ったのは、麗日さんの出した♾の記録だ。
どうやら重さを消して投げたところ、計測不能な程に飛んでいってしまった様だ。
そしてかっちゃんの番で、最初に一度やっているから一度だけの投球だ。
かっちゃんはボールを右手で指の先が触れないように握った。
何をする気だ?
「デク」
不意に名前が呼ばれ、僕は驚きながらもその目を見る。
「勝つのは俺だ」
そう言って、両腕を地面と水平に伸ばして右手を後ろに、左手を前に向けた。
そして右手と左手で交互に爆破を起こして回転し始め、やがてそれは速度を増していきその体をわずかに宙に浮かせる。
「個性を使うってのはなァ!!」
かっちゃんの起こす爆破が回転し、爆炎と爆煙が混ざった竜巻となっていた。
生徒中には必死に踏ん張ってどうにか飛ばされないようにしている人もいる。
轟君が咄嗟に皆の背後に氷壁を作り出して飛ばされないようにしてくれた。
「こういう事ダァ“ァァァ!!」
そう声が聞こえるのと竜巻から一際強い爆破が起こるのは同時だった。
そして竜巻の中から強烈な速度でボールが射出された。
強烈な爆音が鳴り響き、爆風が吹き荒れる。
それはかっちゃんの必殺技、
でも、きっとそれだけじゃない。
かっちゃんがジャック一味の仙鬼と名乗った
恐ろしい事に、この個性把握テストという限られた環境ですら、かっちゃんは成長を続けているらしい。
恐るべき才能とセンス。
そしてそれを活かす為の身体能力と、自分の能力への自信。
そしてそれを更に高めようとする向上心と力への渇望、強さへの貪欲さ。
やっぱり、かっちゃんの天才性は底知れない。
「805.28m。
麗日以外なら依然としてトップをキープだな」
……とんでもないな。
「次、緑谷」
相澤先生はそう言いながら僕に向かってボールを投げた。
僕はそれを受け取り、かっちゃんと入れ替わりで円の中へと入る。
全員がこちらを見ているのが分かる。
先程のかっちゃんの事もあって、朝に話していた僕が気になるのかもしれない。
さて、期待に応えるわけじゃないけど、かっちゃんの記録をどうにか超えたいな。
一先ずは、かっちゃんの一投目と同じ理論でいいだろう。
球威に、ONE FOR ALLの力を乗せる。
僕はグッとボールを握り締めて、腕を振りかぶる。
力は、ギリギリ反動が耐えられる12%だ。
まずは全身に8%の力を纏い、右腕を10%に。
こうする事で部分強化の反動を少しだけでも軽くできる。
この理論を突き詰めていきONE FOR ALLの力をコントロールできるようになれば、いずれ100%の力も扱えるようになるはずだ。
大きく振りかぶった腕を、思いきり振るう。
そしてボールを押し出す指に、12%の力を乗せる!!
そうして放ったボールは勢いよく飛んでいくが、それはかっちゃんの一投目の記録にすら遠く及ばない程度の勢いだ。
その証拠に、早い段階でボールは落下を始めた。
「爆豪ほどじゃなかったが、いい記録だ」
相澤先生はそう言いながら端末をこちらに向けた。
そこに書かれた数字は、358.38m。
かっちゃんの記録の半分にも届いていない…!
流石に12%でかっちゃんと同等の記録を出すのは無茶だったのか…。
だとしたら、反動覚悟でももっと強い力を使うべきか?
でも、それで次からの測定に支障が出たら…。
「オイ、デク」
僕が迷っていると、投げ終わって待機していたかっちゃんが声をかけてきた。
「常在戦場じゃねぇのか」
「え…?」
「あのガキの教えなんだろ。
いつだって戦場にいる気でいろって事だろ。
あの日のテメェは迷ったのかよ」
…かっちゃんには敵わないな。
かっちゃんに言われて、僕の脳裏にたくさんの光景がフラッシュバックした。
ヘドロ事件、轟君やかっちゃんとの特訓、ジャック達との戦い。
いずれも、最後には覚悟を決めて進む事を選んだ。
こんな弱気じゃ、リボーンにもかっちゃんにも怒られるな。
でも100%は使わない。
使うのは、後への影響が最低限しか残らない程度だ。
それなら、使うのは50%が限度だ。
残り一回きり。
失敗は許されず、この後も動く必要がある。
ヒーローになったら、こんな場面はいくらでもある。
その予行練習だとでも思えばいい。
それと、やり方も工夫しなければならないな。
…そうだ。
「相澤先生、一つ確認してもいいですか?」
「後がつかえてる、一つだけだぞ」
「さっきまでの八百万さんの測定で自身の個性で生み出した個性を使っているのを見ました。
つまりそれは、自身の個性の範疇であればやり方は"自由"という事でいいんですよね?」
「あぁ、その通りだ」
「ありがとうございます」
それだけ聞ければ十分だ。
50m走は本来なら自身の走力を計測するものだ。
だが八百万さんはそれをスクーターで行った。
握力テストも然りだ。
それはつまり、個性で出来る事の最大限を測っているって事だ。
なら、型にハマったやり方をする必要はない。
僕はボールを円の中に留まる様にふわりと投げた。
フルカウルを20%で纏い、そしてその場で体を回転させる。
最後に右足に50%の力を纏い、ボールを思い切り蹴り飛ばす。
蹴り方は前に蹴り技の参考に見たサッカー選手のキックフォーム。
最低限の動きで、最大限の威力を!
「SMAAAASH!!」
叫びと共にボールは先程を遥かに超える勢いで飛んでいく。
よし、この勢いなら!
ボールは大きな放物線を描いて落下していく。
結果は、どうだ?!
「……738.55。
良かったな、一度目の爆豪の記録は超えたぞ」
「くっ!!」
届かなかった…!!
確かな手応えはあった。
でも、それでもまだ届かない!
反動覚悟の工夫をしても、まだ届かないのか…!
(たったの一投でこの差。
個性の応用の幅も然る事乍ら、それを操り望んだ結果を叩き出すだけの本人の応用力と個性を使う事への異常な程の慣れ。
先程の爆豪や轟もそうだったが、コイツらは異常だ。
雄英の試験に受かる時点で他の同年代より秀でているとは言えど、他の合格者と一線を画す実力者。
轟は2つの個性を併せ持つ様な物である事の幅広い応用はまだ納得が行く。
だが、超パワーと爆破は違う。
普通であればその強力な力をただ放つだけで必殺級となるそれを、敢えて抑える事で爆発力を産むなんて使い方、高校一年生にできる芸当じゃない。
プロヒーローとして活動できるという評価は改める。
戦闘力だけを見るなら、奴らは既にトップ層のヒーローのサイドキックとしても有望株だ。
そんな、数年に1人いるかいないかの人材が、同じ学年に3人。
有り得ない)
僕が悔しがっていると、鋭い視線を感じた。
…やっぱり、相澤先生だ。
さっきから何なんだ?
他の皆に向ける見定める様な視線とは違う。
まるで探りをいれられているみたいだ。
僕は何か、相澤先生に疑われる様な事をしたのだろうか…。
いや、思えば初めから目をつけられていた様な気もする。
今朝教室の前で話したあと時から、僕に対しての視線は変わらない。
思い当たる節があるとすれば……入試での動きだろうか。
自惚れている訳では無いけど、僕とかっちゃんと轟君の3人の実力は、明らかに高校一年生のそれではない。
それが同学年に3人いる事なんて、普通ありえない事なのかもしれない。
…それに、考えてみればおかしな話だ。
僕とかっちゃんは一般で、轟君は推薦でそれぞれ一位を取ることが出来た。
普通、その3人を同じクラスに入れるものか?
雄英の方針は詳しく分からないけど、それでも普通なら2つのクラスの実力はある程度均等になる様に配分するのではないだろうか。
…いや、考えすぎかもしれない。
とにかく今は、目の前のテストに集中するべきだ。
それから僕はできる限りを尽くして残りの種目で一番になれるように目指した。
他の皆もそれぞれの個性を使い大記録を打ち出して行き、全種目終了。
「んじゃパパっと結果発表」
トータル最下位が除籍……。
自分の試験を行いながら他の人の記録もある程度確認して記憶していたけど、その中で最も可能性が高いのは…。
相澤先生が手に持つリモコンを操作して、空中に画面が投影される。
そこに書かれた順位。
1位、爆豪勝己。
2位、緑谷出久。
3位、轟焦凍。
僅かにかっちゃんには届かなかったみたいだ。
悔しいが、今の僕にはそれ以上に最下位の生徒の名前が気になっていた。
最下位、つまり20位の欄に載っている名前は『峰田実』。
予想していた通りだった。
彼は反復横跳びでは大記録を打ち出していたけど、それ以外の記録は高校生男子の平均を下回る物だった。
クラスの大半が動揺していた。
皆分かっていた事だ。
だけど、やっぱり納得できない。
「…はい、という訳で宣言通り最下位は除籍処分になる。
残念だが今から教室に戻って「待ってください」…なんだ、緑谷出久」
僕は手を挙げて相澤先生の言葉を遮った。
「確かに今回、峰田君の記録は振るわなかったかもしれない。
でも、少なくとも彼は雄英高校の厳しい試験を突破する実力を持ち合わせた内の一人です。
そんな彼を育て導くのがこの学校のシステムのはずです。
それを入学直後のテストの成績が振るわないからと除籍にするのは、合理的とは思えません」
「お、おい、お前やめとけよ!
そんな事言ったらお前まで除籍とかに!」
峰田君は、自分が除籍だと言われているにも関わらず、こうやって僕を心配してくれている。
やっぱり、彼はヒーロー科にいるべき人だ。
「合理的じゃない、ね。
じゃあこうしよう。
お前が俺から5分以内にこのリモコンを奪えたら、除籍の話はナシだ。
だが、それが出来なければさっき峰田も言ったようにお前も除籍処分の対象とする」
「構いません」
僕は相澤先生の目をまっすぐ見て答える。
だけど、それに待ったをかける声があがる。
「待てって!
なんでオイラの為にそこまでするんだよ!今日初めて会ったばかりだろ!」
僕は相澤先生から峰田君へと視線を移し、この言葉に応えた。
「僕の
ヒーローは名も知らない赤の他人を助けるのが仕事だって。
それなのに、今目の前にいる君を助けられないのなら、僕はヒーローになる資格なんてない。
それに、せっかく頑張って入学まで漕ぎ着けたのに、初日から除籍なんてあんまりじゃないか」
「お前…」
峰田君は僕を見て目を潤ませた。
「それじゃあ決まりだな」
そう言いながら相澤先生は僕から10m程距離をとり、僕の方へと振り返った。
「お前が動き出した時点で開始だ。
時間は有限だ、早く来い」
なら、遠慮はいらない。
相手はプロヒーロー。
それに僕の予想通りなら、この人相手に一瞬たりとも個性を使わせてはならない。
一瞬でケリをつける!
ONE FOR ALL FULL COWL 10%!
僕は地面を強く蹴り、相澤先生との距離を詰める。
このまま一気に決着をつける!
そう思い手を伸ばした瞬間、僕の体から力が抜けるのを感じた。
これは、やっぱり!
「くっ!」
僕は何とか体勢をを整え再び駆け出す。
「ほう、驚かないのか」
「趣味がヒーローの研究なので、ね!」
僕はリモコンを奪おうと相澤先生の腕を掴み、相澤先生はそれを上手く外し距離をとる。
「ヒーロー名イレイザーヘッド!
個性は抹消、凝視した相手の個性の発動を一定時間阻害する個性!」
「よく調べてるじゃないか」
会話をしながらも僕と相澤先生の攻防は続く。
僕が体術をしかけ、相澤先生がそれを捌く。
僕は個性無しでできる限りの手段で攻撃をしているが、相澤先生はまだ本気を出してはいない。
間合いを離さないようにしているのもあるけど、イレイザーヘッドの武器である操縛布はまだ一度も使っていない。
もし相澤先生が全力で僕を完封しに来るなら、きっと僕はとっくに動けなくされているだろう。
あくまでも、僕を試すつもりの様だ。
しかし、これだけあらゆる手を尽くしていると言うのに、一向に相澤先生の右手のリモコンを奪う事はできない。
けど、考えて見たら当然だ。
個性を消せるとは言え、相手は生身でも襲いかかってくるし、これは推測だけど異形系の個性を持つ人にはそもそも抹消自体が効かないはずだ。
そんな中でこれまでヒーローとして活動して、五体満足でいられている時点でその強さは伺える。
それを突き崩すのは至難の業だ。
どうしたものかと頭を悩ませていると、僕から見て右側から高速で氷柱が放たれた。
相澤先生はそれをバックステップで避けると、氷壁の発生源を見た。
「そろそろ動き出す頃合いだと思ってたよ、轟焦凍」
「お見通しってわけか」
「事前に生徒の交友関係は調べてある。
不届な輩が紛れ込まないとも限らないんでね」
相澤先生はそう言って、二撃目を放とうとする轟君を睨む。
「っ?!」
「お前の個性も消した。
体格を見れば分かる。
お前は緑谷と比べれば体術では劣る。
強力な中遠距離の攻撃手段のある個性を持つ奴の典型的なパターンだ。
自らの間合いを絶対的なものとして疑わず、近接戦闘の手段を開発することを怠る。
今はそれで同世代でもトップクラスの強さを持っていても、そのままじゃお前は努力を怠らない他の人間に追い抜かされるぞ」
轟君は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべた。
そして次に相澤先生は僕の方へと視線を戻した。
「別に加勢は禁止していない。
緑谷と同じかそれ以上の体術を使えるなら足を引っ張らずに済むかもな。
だが、当然協力するならそいつも除籍対象だ」
相澤先生の言葉に、他の誰も手を挙げなかった。
自惚れているわけではないが、僕は同年代の中でも体術を扱える方である自信がある。
今日の動きを見たところ、僕と同じか以上に体術が使えそうなのは、かっちゃんを含めても二人だ。
他は発動型で個性ありきの戦闘を想定した動きに見えた。
それに、仮に動けるとしてもこの勝負に加わる事にメリットがまるでない。
それこそ、リスクもメリットも無視して挑むことのできる度胸のある人間でもなければ出てくることはないだろう。
交流が浅いからまだ皆の為人を知っている訳では無い。
けど、1人だけその壁を容易に超えてくる人を、僕は知っている。
「デクと同じかそれ以上ってか、上等だ」
そう言いながらかっちゃんは、相澤先生の視界の正面に立った。
「分かってるのか。
俺の正面に立つって事は、自ら個性を封じるのと同じだぞ」
「ハッ、だから態々目の前まで来たんだよ、先生」
煽る様に笑うかっちゃん。
傍から見れば相手を舐めているかの様に見えるその態度だが、その目は真っ直ぐに相澤先生を捉えている。
油断も慢心もない。
ただ、己の強さへの矜恃を背に静かに構える。
「オイ半分野郎。
どうせ"まだ個性使えねぇ"んだから下がってろ」
轟君は一瞬言い返そうとし、しかしその言葉に含まれた意味を汲み取り数歩後ろに引いた。
「見た所アンタは個性をそう長くは使えねぇみてぇだな。
個性の制限かアンタ自身の問題かは知らねぇがな」
凄いなかっちゃんは。
そんな事、僕は気付いてなかった。
「でも、一度抹消すればその効果はある程度続く。
多分見た時間の長さに比例する。
僕達は今見られたから、数分は使えない。
時間は後2分強。
一気に行くよ!」
「命令すんな!」
僕とかっちゃんは同時に左右から仕掛ける。
僕は右足で蹴り上げ、かっちゃんは左手で拳を作りそれを振るう。
相澤先生はかっちゃんの拳を僕の方へと受け流す。
かっちゃんは拳を開き、僕の足を掴んだ。
それと同時に僕は右側へと勢いをつけて飛び、かっちゃんはその方向に僕を振り回し相澤先生へと振るう。
僕は両手を組み相澤先生へとそれを叩きつけようとするが、相澤先生は屈みながらかっちゃんの足を払った。
その拍子に僕は放り投げられたが、かっちゃんは地面に左手を衝きそこを中心に回し蹴りを放つ。
相澤先生はそれを立ち上がりながらバックステップをする事で躱す。
僕は地面を蹴って相澤先生の右手へと手を伸ばす。
相澤先生は右手を引いて左手で僕の手首を掴み、僕は逆に相澤先生の腕を掴む。
「かっちゃん!」
僕の掛け声と同時にかっちゃんは相澤先生の右手のリモコンを狙う。
「いい作戦だ」
もう少しでリモコンに手が届くと言う所で、相澤先生はリモコンを頭上へと放り投げた。
僕達はそれをつい目で追ってしまい、それはプロ相手には致命的な隙となった。
「意識を張り詰めている相手には案外こういう単純な手が効く」
「しまっ」
視線を戻した時には既に遅く、かっちゃんは腹部へと蹴りを入れられ、僕は空いた右手で鳩尾に掌底を叩き込まれた。
「がっ?!」
「ク、ソがぁ…!」
落ちてきたリモコンを左手で掴みながら、相澤先生はついに首元の操縛布へと手をかけた。
まずい、今なら僕達二人を容易に拘束できる状況だ。
このまま捕縛されて終わりなのか…!
そう思った瞬間、僕達と相澤先生の間を割る様に氷壁が展開された。
これは轟君の個性だ。
さっき相澤先生が轟君を見たのは一瞬だけだったから、もう解けたんだ。
「よし、このまま!」
追撃を放とうとする轟君に相澤先生はすかさず抹消を使った。
かっちゃんはその隙を狙い氷壁の陰から飛び出して回し蹴りを放つ。
しかし相澤先生は操縛布から手を放してかっちゃんの足を叩き落す。
左手にリモコンを持ち、右手は操縛布から離れかっちゃんへの対処に使った。
今の一瞬が好機!
「今が好機、そう思っただろ」
相澤先生はそう言いながらリモコンを上に放り投げた。
でも、それはさっき見た。
僕は迷わず右ストレートを放つ。
「いい対応力だな。
だが、高校生になりたての子供のそれじゃない」
相澤先生は僕の拳を流し腕をとり、そのまま背負い投げで僕を地面に叩きつけようとする。
僕はなんとか両足を先に着けて体を捻り拘束を解く。
その隙を狙いかっちゃんは殴りかかるが、相澤先生はそれを腕をとり引き寄せ鳩尾に平拳を打ちそのまま膝裏を蹴り膝をつかせる。
「そろそろ終わりだ」
そう言いながら相澤先生はいつの間にか掴んでいた操縛布を僕に放ち、それは僕の右腕に巻き付いた。
そしてそれをグッと引き、僕の体制を崩そうとする。
明らかな決め手。
それを放った瞬間こそが、最大の隙になる。
僕は引かれるまま前に倒れるふりをして、前転で起き上がり逆に僕側から操縛布を思い切り引いた。
起き上がりながら更に前に踏み込み、相澤先生の右腕を取り捻る。
そしてさっき相澤先生がかっちゃんにした様に、膝裏を蹴り膝をつかせる。
「…降参だ」
相澤先生はそう言ってリモコンを地面に落とした。
僕はそれを拾い、相澤先生の腕を離した。
「これで、峰田君の除籍の件は取り消しですよね」
「除籍の話は嘘な」
「「…え?」」
相澤先生の言葉に、僕と峰田君は揃って唖然とした。
「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」
「「「はぁーーーー?!」」」
僅かな沈黙の後、数人が絶叫した。
「あんなの嘘に決まってるじゃない…。
ちょっと考えれば分かりますわ…」
「そゆこと。
これにて終わりだ。
教室にカリキュラム等の書類があるから目ぇ通しとけ」
そう言って相澤先生は立ち去っていく。
「ハァ…私全然嘘って分からんかった…」
「俺もだ。
まさか教員が嘘をつくとは思わなかった…!」
…いや、嘘じゃなかったはずだ。
相澤先生は本気で峰田君を除籍にするつもりだった。
でも、僕が操縛布を引いた時、それに最後にリモコンを拾う瞬間、相澤先生は反撃できるところをわざと逃したように思える。
どの段階かは分からないけど、途中で気が変わったのだろう。
なんにせよ、峰田君の除籍が取り消しになってよかった。
今はそれでいい。
相澤先生に何か思惑があるとしても。
……………………………………………………
「ウソがうめぇな。
イレイザーヘッド、相澤相太」
生徒から見えない校舎裏に入った相澤に、高い声がかかった。
「…お前は誰だ。
ただの子供じゃないな」
「俺は緑谷出久の家庭教師のリボーンだ」
「緑谷の…。
許可のない奴は入れない筈だが」
「許可がなければな」
そう言ってリボーンは懐から一枚の書類を取り出した。
それは八木俊則と根津の著名のある敷地内への立ち入りを許可すると言う物だった。
「オールマイトさんと校長から家庭教師の同行を許可される学生なんて聞いたことがない。
ますます以て怪しいな」
相澤の言葉に、リボーンは目を光らせ睨みを効かせた。
「やっぱりオメェ、デクの事を疑っていやがるのか」
「緑谷だけじゃない。
爆豪、轟もだ。
アイツら三人は異常なほどに強い。
あれはただの才能ではなく、経験に裏打ちされた強さだ。
お前が家庭教師だっていうなら、訳を聞きたいね」
今度は相澤がリボーンを睨む。
瞳が赤く光る。
相澤が個性を使用している証だ。
だがリボーンは全く意に返さず、そもそも意味がないとでも言う様に不敵に笑う。
「今はまだ言えねぇ。
この学校の中が安全とは言い切れねぇし、オメェの事もまだ完全には信用しきれてねぇ」
「じゃあお互い、腹の探り合いって訳だ」
「一つだけ言えることがあるとするなら、アイツらが雄英の敵になる事はありえねぇって事だ」
リボーンの返答に相澤はため息をつき、そしてリボーンの横を通り過ぎて歩いていく。
「だといいがな」
リボーンはその背中を見送りながら微かに笑う。
「相澤消太。
去年、当時の一年を一クラス全員除籍処分にした男。
見込みゼロと判断したらすぐに切り捨てる。
それはただの情なしか、それとも情ゆえの行いか。
なんにせよ、中々面白そうな奴が担任になったじゃねぇか」
リボーンも相澤に背を向けてその場から立ち去った。
……………………………………………………
初日終了、か。
なんだかすごく長く感じる一日だった。
今僕は轟君と一緒に校門で炎さんを待っていた。
かっちゃんは先に帰っちゃったけど。
すると、僕達に近づく影があった。
「二人とも、誰かを待っているのかい?」
それは飯田君だった。
飯田君は僕と轟君の前に立ち、訪ねた。
「うん、僕の中学からの同級生の炎さんをね。
経営科に入ったんだ」
「そうなのか。
君は確か轟君だったね。
君も誰かを待っているのかい?」
「俺も緑谷と一緒に炎を待ってるんだ。
去年の夏に会って以来だから、久々に挨拶しておこうと思ってな」
「なるほどな。
僕も一緒に待ってもいいかい?
緑谷君とは勿論轟君や、その炎君とも話してみたいんだ」
「うん、いいよ」
それから数分他愛のない会話をしながら炎さんを待った。
お互いの事や、今日の個性把握テストの事を。
「しかし相澤先生にはやられたよ。
俺は『これが最高峰!』とか思ってしまった!
教師が嘘で鼓舞するとは…」
飯田君が頭を抱えていると、僕達に向かって声がかけられた。
声がした方を見てみると、麗日さんと炎さんが並んで歩いてきていた。
「ごめん緑谷、お待たせ」
「途中で夏樹ちゃんと会って、緑谷君達と一緒に帰るっていうから私も一緒にって思って」
「麗日君も一緒だったのか。
それと隣の君が炎君だね。
初めまして、俺は飯田天哉だ。
緑谷君達のクラスメイトで、緑谷君と麗日君とは入試の会場も同じだったんだ」
飯田君は胸に手を添えて自己紹介をし、手を差し出した。
「へぇ、そうなんだ!
私は炎夏樹!
緑谷とは中学の同級生で、轟君とは緑谷を通して知り合ったんだ。
お茶子ちゃんは入試の時に転びそうになったところを助けてもらって知り合ったんだ。
飯田君、これからよろしくね」
炎さんはそう言って握手を返したところで、麗日さんがそう言えばと手を叩いた。
「今日爆豪君が緑谷君の事を”デク”って呼んでいたけど、あれってあだ名か何かなん?」
「それは俺も気になっていたんだ。
しかしその、失礼なのだがデクというのはその、デクの坊という言葉からとられているようにも感じられてな」
炎さんが心配そうにこっちを見たけど、僕は笑って大丈夫だと伝えた。
「その通りだよ。
デクっていうのは元々かっちゃんが小さい頃に僕を馬鹿にして付けたあだ名なんだ」
それを聞いた飯田君は目を見開いた。
「蔑称だったのか…?!
君はそんな風に言われて何も思わないのかい?!」
「前は嫌だったけどね。
今となってはただのニックネームみたいなものだよ」
「君が良いのなら、僕は何も言うまい…」
飯田君はそう言って前のめり気味になっていた姿勢を戻した。
「轟君は知らんかったん?」
「初めて会った日からそう呼ばれてたから自然と受け入れてたけど、そんな意味だったんだな」
轟君の答えにそっか、とだけ返すと麗日さんは少し考えてからガッツポーズをして言った。
「でも”デク”って…”頑張れ!!”って感じで、なんか好きだ!私!」
麗日さんの意外な言葉に、僕はつい呆気にとられた。
「…あれ、もしかして嫌だった?!ごめんね?!」
「あぁ、いいんだ。
ただ、そんな風に言われたのが初めてでびっくりして……。
そっか、頑張れって感じか…」
僕は少し笑ってしまった。
昔は嫌で嫌で仕方なかった。
かっちゃんとライバルになれていつの間にか気になっていたけど、それは単に今までマイナスがゼロになっただけだった。
けど、初めてこの言葉をいいものだと思えた。
それがなんだか、うれしかった。
「それじゃあ、僕は今日から頑張れって感じのデクだ」
「うん!改めてよろしく!
デク君!」
僕は差し出された麗日さんの手を取り改めて握手を交わした。
「……それじゃあ、そろそろ帰ろっか!
電車の時間とかあるしさ!」
「そうだね、そろそろ行こうか」
炎さんの提案で、僕達は皆で駅へと向かう。
明日から迎える新たな試練の数々に思いをはせながら、僕達はそれぞれの帰路に着いた。
そういえば、リボーンは学校に入った後どこに行ったんだろう。
「……よし、仕込みはOKだな。
デク、学校の中だからって俺の指導から逃れられると思うなよ」
……なんだか背筋に感じるこの寒気は、気のせいだと信じたい。
次回予告!
出久「ついに始まる雄英高校での日々。
様々な個性を持つクラスメイト達との切磋琢磨の日々が幕を開ける。
ここで僕が……いや。
僕達が”最高のヒーロー”になる為の物語は始まる。
次回『
更に向こうへ!Plus ultra!!」