『〝未来の神話〟口語版……未来の宇宙は、どんなだろう?』
この作品は「Lucifer(ルシファー)」シリーズの一編、
「融和」の口語体バージョンです。

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次の作品を見て感動し、書き直しました。
イラスト (ベールを連想) https://www.pixiv.net/artworks/77359424
(ベールを連想) https://www.pixiv.net/artworks/75833045  
(サタンを連想) https://www.pixiv.net/artworks/76016672
(   〃   ) https://www.pixiv.net/artworks/73719491
(   〃   ) https://www.pixiv.net/artworks/75902731 
動画 Roselia『Brave Jewel』 https://www.youtube.com/watch?v=u7Snz3L3HRs

友希那ちゃんは〝先帝〟種族が宿ったサタンちゃん。
ツインテのあこたんは、犬型エイリアンのグラシャラボラス。
真面目な燐子ちゃんは、実直なアモン。
ストイックな紗夜ちゃんは、公正なアスタロト。
社交的なリサちゃんは、外交種族のアドラメレク。
……素敵な動画を見た時の感動が、蘇りました。

奇想譚から文明論まで湧き出すような、
素敵な刺激を与えてくれる文化的作品に感謝します。

ご興味がおありの方は、『Lucifer(ルシファー)』シリーズの他作品や、
『文明の星』理論(仮説)についてのエッセイもご覧いただけましたら幸いです。


協調

 異星種族ベールの代表は、優しそうなお姉さんの姿をしていた。

だがその本体は、巨大惑星に浮かぶ大陸サイズの集合意識生物であり、

人類が加盟する星間帝国の中でも広大な銀河系外周部を支配する、

強力な理事種族のひとつだ。

 

 映像の中の彼女は、話し始めた。

 

「私こと、銀河系外周星域長官ベールの代表人格は、

このたび新たな理事種族に選ばれた人類に、

ストラスと並び非酸素・非炭素系種族を代表する理事種族として、

お祝いを申し上げます。

この機会にまず、帝国における酸素・炭素系種族と、

非酸素または非炭素系種族の関係について、

述べさせていただきたいと思います」

 

「理事種族ストラスは銀河系中央星域の出身ですが、

凍結惑星における超電導や超流動など、

極限環境下の物理現象を基礎として誕生し、

惑星全土に量子回路網を形づくる、結晶生命体の単一個体種族です。

そこで彼女の分離体も、大きさや形こそ様々ですが、

基本的には神秘的な微光が(きらめ)翠玉(エメラルド)のような姿です」

 

「彼女から見れば、酸素・炭素系の軍事種族が支配する旧帝国は、

酷熱の惑星に住む短命かつ直情的で、

砂粒のようにまとまりのない無数の個体群が、

自己や自種族の利益を巡って飽くなき闘争を繰り広げる、

砂漠のように荒涼(こうりょう)とした世界でした」

 

「旧帝国はまた我等、銀河系外周種族とも戦火を交えました。

私達は大型の液化気体惑星に浮かぶ藻類が、

他生物も住める浮遊大陸を形成し、

共有神経網を提供することで生まれた集合意識生物だったので、

ストラスと同様に高度の演算能力を持ち、緒戦の優勢を確保しました」

 

「旧帝国は敗勢を覆すべく、ストラスを演算装置兼実験台と()し、

量子頭脳への人格転移(マインドアップローディング)技術の開発に着手しました。

拒絶は破滅を意味することから、彼女はこれに協力し、

人格量子化技術が与える高度演算・共有人格形成能力によって、

旧帝国は〝外周星域戦争〟に勝利したのです。

戦後ストラスは、その功績により名目上の科学省長官となりましたが、

彼女と同じ非酸素・炭素系の外周星域種族が、

私のような和平派を除いて多数、絶滅処分を受けたことは、

彼女の心に大きな傷を残しました」

 

「しかし、人格量子化技術の普及と発展に伴い、

帝国社会は徐々に変化してゆきました。

銀河系統一を果たした軍事種族群は以後も増加し、

その腐敗と抗争が激化して、〝先帝〟種族自身もまた、

側近団の〝中枢種族〟達により傀儡(かいらい)化されてしまったのです』

 

「当時、開発途上星域の支援を行っていた文明開発長官サタンは、

〝先帝〟種族から貴重な、多数の良識的な亡命人格群を受け入れ、

その依代(よりしろ)となって指導を仰ぎつつ、

未来ある者達の育成に尽力しました。

心優しい彼女はまた、ストラスに深く共感し、

種族の人格転移時における専制化の防止措置を助言するなど、

各種の支援を通じて、良い協力関係を築きました」

 

「その後、帝国の中心部においては(つい)に、

中枢種族間の凄惨(せいさん)な内戦が勃発(ぼっぱつ)し、

巻き添えとなった〝先帝〟種族の滅亡と共に、旧帝国は崩壊しました。

戦禍の拡大を防ぐべく、サタンと友好種族達が新帝国を設立した時、

ストラスは彼女達を信頼して全面的に支援し、

彼女達もまたその期待に応えました」

 

「ストラスは、旧帝国種族が持つ大量破壊兵器を無効化しうる、

超空間を通じた遠距離間の高速航法・精密探査技術を提供し、

新帝国の戦勝に大きく寄与しました。

また、彼女が開発した自動機械兵器(アバドン)や、

物質・動力(エネルギー)の回収も可能な力場障壁は、

兵士達及び民間人の安全や派生被害の防止に役立ちました。

さらに彼女は、公正な和平交渉を実施するための

社会工学的な大量演算処理も提供しました。

そして以上の技術は、戦後復興の実現にも大きく貢献したのです」

 

「一方、サタンは自らの事業を通じて得た文明理論が、

先進種族にも適用し得ることを発見し、これを実践しました」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「彼女はまず、科学・技術の発展がもたらす、

経済・社会活動の拡大と複雑・加速化に応じ、

政治の民主化や官業の民間開放といった、

行政管理政策における分権化を図りました」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「これにより彼女は、旧帝国では不可能だったような

経済・社会政策を行い、新興の技術・産業種族や

発展途上種族、非酸素・非炭素系種族の支持を得て、

彼女達の創意や能力を活用することができたのです」

 

「また彼女は、既存技術のもとでの利害調整だけでなく、

各種族の自然・社会環境に応じた新技術の研究・開発政策や、

技術を物的資源化して共用するための社会基盤(インフラ)政策、

規則(ルール)に従い健全利用するための社会工学的政策といった、

次世代技術の開発・活用に向けた技術(ハード)的政策も実施して、

文明段階のさらなる発展を図りました」

 

「加えて彼女は、以上の政策を立案、実施、

活用、改善できる人的資源の確保に必要な、

様々な種族の特性に応じた教育・保健政策にも尽力しました」

 

「サタンは技術、政策、社会活動という文明活動に加え、

物的資源、人的資源、自然・社会環境という

内外の環境条件についても考慮しながら、

均衡(バランス)のとれた文明発展政策を展開したのです。

軍事活動だけでなく、新技術の開発や、

文化を含む民生、行政など、他の活動も重視した彼女の政策は、

新帝国の勝利のみならず、戦後のさらなる繁栄をも導きました」

 

「サタンの友好種族もまた、それぞれの長所を活かし、

新帝国の勝利と繁栄に貢献しました。

獰猛な肉食獣から進化した親衛軍種族グラシャラボラスは、

戦争の犠牲を悲しむ純真な心情から、その属性を克服しました。

彼女は軍事種族間の覇権抗争への参加を拒み、

同じくかつては無慈悲な戦闘種族だったバールゼブルと共に、

皇帝直轄領から中枢種族を撃退したのです。

彼女達は戦後、情愛深い統治によって、

荒廃した旧皇帝領を戦前以上に復興させました』

 

「サタンの軍事部門副長官アモンは、

サタンを討つため送り込まれた姉妹種族カイムと

悲劇的な戦いを交えましたが、

旧帝国では考えられないサタンの温情によって、

カイムの残骸から人格群を再生させました。

彼女は帰化したカイムの人格群と共に、両陣営融和の象徴となり、

戦乱の波及から開発途上星域を守り抜きました」

 

「正規軍提督アスタロトは、

渡り鳥から進化した種族として自由と公正を愛し、

他種族の文化を尊重しつつ平等に処遇しました。

これにより彼女は、大多数の正規軍種族に加え、

帝国から離脱しようとした種族からも信望を獲得し、

最小限の戦闘によって中央星域の混乱を鎮めました」

 

「自らも混成種族だった外交官僚種族アドラメレクは、

外周星域に派遣されても種族的偏見に(とら)われることなく、

戦前・戦中を通じて優れた技術と政策の導入を提言し、

星域の発展と防衛に多大な貢献を果たしました。

ゆえに星域の長たる私もまた、新帝国への自主的参加を決定し、

中央星域との厚い友好と、戦後の自治を獲得できました」

 

「周知のように新帝国は、以後も新たな技術と政策によって、

発展を継続しています。

種族間の共有量子頭脳や共通個体などの〝種族間親和技術〟は、

各種族の個性を保ったままで相互間の障壁を取り除き、

これまで以上に各種族の向上と協力を可能にしつつあります。

他方で、種族・星域・銀河など社会の各層にわたり、

勢力均衡と平和的競争を図る〝多層均衡政策〟は、

人道的な資質向上・活用技術とあいまって、

腐敗や衆愚化のなき持続的発展を可能としつつあります」

 

「今や民主化も近い新国家においては、

ほぼ全種族が人格量子化技術を獲得しています。

水が液体となる酸素系生物の可住域から極低温の凍結惑星、

灼熱の恒星近傍や広大無辺の銀河間宇宙に至るまで、

広く(あまね)く多様な種族が協力して活動を展開し、

他銀河群との交流も開始されつつあります。

しかし、かつてサタンが(とも)し、全理事種族が共にする

〝全種族のための文明発展〟の理念は、

今も輝き()むことなく、我等全ての心の内に、

青く熱き炎の如く燃え続けています」

 

「人類が理事種族となった現在、

皆様もまたその情熱を共有し、ストラスの如き単一個体種族や、

私達のような天然の集合意識種族との共同事業も含め、

今後より一層、星間社会への貢献を果たしてゆかれるよう、

期待いたします」

 

 皆と仲良くするように、しっかり釘をさされたな……。

まあこの挨拶(あいさつ)自体が、人類だけでなく、

国内全種族に対する確認の呼びかけという意味が強い。

もちろん彼女が言う通り、

各種族がそれぞれの違いを活かしつつ、分かり合い、

助け合って文明を発展させていこうというのが、

確かに私達の国家理念でもある。

 

 かくいう私も、この警護任務が終わった後、

人事交流の一環として外周星域に派遣される予定だ。

かつてサタンに招かれて、地球で大神バアルを演じ、

いったん魔王にされた(のち)、再び名誉を回復し、

今では大天使バエルとして親しまれる異星種族ベール。

母性豊かで女神のような彼女の故郷(ふるさと)は、

一体どんなところだろう?

 

 まあ私自身はどちらかといえば、

賢く可愛く意地らしい、サタンちゃん派なのだが……(笑)。

まあそのうちに、銀河中央へ派遣されることもあるだろう。

 

 地球を離れて遠ざかる小惑星のようなベールの宇宙船を、

護衛艦の量子頭脳の中で見送りながら、

私は未来に思いを()せた。



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