デュエル・マスターズ Call of Creature -神話の喚び声- 作:モノクロらいおん
「ふぅ……こんなところでしょうか」
彼女は兄の経営するカードショップの倉庫を整理しているようです。店自体が小さく、それ故に倉庫も狭い。あまり客の来ない店なことも相まって、窮屈なところは否めません。そもそも裏路地の奥まった場所にある店で、一体どういう目的があってこんな場所に建物を建て、しかもテナント募集なぞしたのか。考えた人間は頭が悪いか狂人でしょう。
それはそれとして、汐が一息ついていると、入口から誰かが顔を覗かせます。
「汐、在庫整理なんて適当にやってればいいからな。どうせ客なんて来ない」
汐の兄、
彼がこのカードショップの店主。とはいえ、まだ20代の半ばを過ぎた程度の若い青年です。いつもポーカーフェイスを顔に張り付かせ、表情が読めません。
しかし自分の店に対して、どうせ客なんて来ないとは、随分な物言いです。なぜ店なんて開いたんでしょうね。その理由はいずれ語るかもしれませんが、今は置いておきましょう。
「確かにそうでしょうが、自分の生活空間くらい、自分の思うままにしたいものです」
「お前の部屋は倉庫かよ」
「言葉の綾です」
要するに、この店は我が家なのだから、手を入れさせてくれと、きっと彼女はそう言いたいのでしょう。
兄を真似て、下手なポーカーフェイスがただの無表情になってしまっている汐も、表情から感情が読み取りづらい。
しかし内心では、店のことは大事に思っているのかもしれません。もしかしたら、兄以上に。
だからこそなのか、汐がガサゴソと倉庫整理に勤しんでいると、彼女はなにかを発見したようです。
「おや……兄さん、これは」
「ん? ……あぁ、それか」
それは、日記帳のようでした。
日付はおよそ6年前。ご丁寧に、表紙には「御舟澪」と名前が記されています。
「まだそんなもん残ってたのか。処分したと思ったんだが」
「兄さん、日記なんてつけていたのですか。以前はつけていませんでしたよね」
「まあな。その日記は、ちょっと特殊なんだ。未来のために、過去の出来事を書き留めておくメモ帳……いや、授業のノートみたいなものだな」
「……なんですか、その喩え。意味不明です」
「俺にもわからん」
言いながら、澪はひょいっと汐の手にある日記を掠め取りました。
「あ……取り上げられてしまったのです」
「お前は人の日記を見る気だったのかよ」
「兄さんに日記をつけるイメージなかったので、興味はあるのです。それに」
「それに?」
「兄さんは……私が来る前のことを、あまり話してくれないですから……」
補足説明として、少しだけ昔話をしましょう。ただ背景設定を書き連ねるだけですので、適当に読み流してください。
まず、御舟澪と御舟汐。この2人の兄妹は、2人で生活しています。父母は存命ですが、離れて暮らしているのです。
込み入った家庭の事情によるものなので詳細は割愛しますが、その事情により、澪は高校進学を機に、家を出ました。
汐も中学生になると同時に、兄に倣うように一度家を出て、1年間は1人で生活していたのですが、中学2年生になる時――ちょうど今の時系列から見て1年前になります――澪のいる町に引っ越して来て、そのまま兄と2人暮らしというわけです。
中学3年生の少女にしては、なかなか奇特な遍歴を持つ汐ですが、幼いながらも彼女が生活できているのは、ひとえに兄の支えあってこそなのです。
しかし汐が澪と共に生活を始めてから、まだ1年程度。
汐は、自分が兄の元を訪れる以前の兄のことは、ほとんど知らないのです。
家族のこと、それも共に暮らす相手のことを知らないというのは、妹として少し思うところもあるのでしょう。
まあ、単純な好奇心とかかもしれませんけど。
「別に話すようなこともないからな。その日の飯にすら困るような、浮浪者手前の野郎の話なんて聞いても面白くはないだろ」
「面白くはないですが、今後の参考になるでしょう」
「なんの参考にする気だお前」
浮浪者になった時の備えとかですかね。
「ま、いいんだよ俺のことなんて。あんま昔のことは思い出したくないしな」
「……そうですね。兄さんは、そう、ですよね。ごめんなさい」
「気にするな。なんにせよ、俺の人生なんて人に聞かせるような大それたものじゃない」
「神話や英雄譚はむしろ壮大すぎて参考にならないです。なので、兄さんくらいつまらない生活の方が身近で参考になるのではないでしょうか」
「物は言い様だな」
と、澪は適当に話を切り上げて、倉庫から去ってしまいます。
汐はもっと言及するか一瞬だけ迷ったようですが、口を噤みました。
言いたくないことなら、無理に聞き出すこともないだろうと、思ったのです。
血の繋がった兄妹とはいえ、言いにくいこと、言えないこと、言うべきでないこと、あるいは隠し事のひとつやふたつ、あってもおかしくはないのですから。
――お互い様、ですよね。
そんな汐の言葉は、きっと澪には届いていません。
「しかし……最近、あんまりにも平和だから忘れてたな、こいつのこと。もう6年も前になるのか」
そして澪の呟きもまた、汐には届いていないでしょう。
澪は、手にした日記帳を捲りながら、記憶が薄らいだ過去を、回想します。
「汐たちには、あんなことがないといいが――」
本作は汐の兄、澪を軸とした物語。デュエル・マスターズMythologyと特に結びついています。まあ、長編と言いつつ単発で終わることも視野に入れていますが。綺麗な終わりはハナから期待していません。気が向いて本作を書く準備ができたら執筆する程度の意識なので、基本的に今話だけで考えています。