デュエル・マスターズ Call of Creature -神話の喚び声- 作:モノクロらいおん
シーン1 春永木葉の頭の悪い切実なお願い
「澪君! 私にデュエマを教えて!」
澪はバイト先である喫茶『春風』で、
容姿端麗、愛想が良く朗らかで、澪とはまったく真逆のパーソナリティを持つような女性。それが、春永木葉です。ちなみに店長の娘です。澪とは高校時代からの友人です。
澪はあからさまに面倒くさそうに、どころか鬱陶しそうに、けれどもここで話も聞かずに突っぱねるともっとかったるいことになるなという経験則から、不承不承彼女に応対します。
「……なんだよ藪から棒に。デュエマ?」
「そうなの! 澪君はデュエマ知ってる?」
「まあ、知ってるが……」
「だったら話が早いわ! 私に教えてくれない?」
「俺がデュエマ知ってるかどうかもわからず言うとか、単刀直入が過ぎるだろ……というかお前、カードゲームとかする奴だったか?」
「このみちゃんがね! 最近ハマってるみたいなの。デュエマ!」
このみちゃんとは。春永
澪も少し前まではよく面倒を見ていたぐらいには見知った仲だったりします。
「あのチビ助がデュエマなぁ」
「そうなのよ! 私の! 大好きな! 大好きな! このみちゃんが!」
大事なことは二回言う。世界の常識です。
「……そうか」
「だから、姉として私もデュエマをするべきだと思わない?」
「知らん」
「するべきよ! 一緒にこのみちゃんと遊べるし「わぁ! さすがおねーちゃん! すごいすごい!」って言われたいもの!」
「妹にマウント取ろうとするなよ。大人げないぞ」
マウントというか、妹の前でいいカッコしたいだけでしょう。
妹の力になりたい献身と、妹に褒められたい自尊心が混ぜ合わさった結果といったところ。これは澪でなくても呆れるしかありません。姉らしくて素敵だという見方もあるかもしれません。どちらにせよ澪の心境としては「くだらない」と言ったところでしょうか。そんな感慨が顔にも表れています。
「それで、澪君はどのくらいデュエマ知ってる?」
「少なくとも基本的なところは完全に理解していた。昔はよくやってたからな。今の環境とかは知らんが」
「あら」
「とはいえカードは全部妹に託してきたし、ここじゃ相手もいない。もうしばらく触れてないな」
「それは残念……え!? 澪君、妹がいたの?」
「いるが」
「私とお揃いね! いいじゃない!」
「そんなものに価値は感じないな」
でも兄弟姉妹の関係性が共通する相手って、妙な共感性がありますよね。
兄弟姉妹の関係性ってどの家庭も結構共通しているところが多かったりしますよね。
「で、デュエマを教えて欲しいって?」
「えぇ! お願いしていいかしら? 澪君、知ってるなら教えられるわよね?」
「確かにルールは知ってる。だが、さっきも言ったようにカードがない。現物がないと教えにくいし、お前の頭じゃ現物なしだと恐らく理解できん。頭が悪いからな」
「…………」
「どうした、黙りこくって」
「澪君の言葉について考えていたのだけれど」
「ほぅ」
「澪君、私に失礼なこと言わなかった?」
「言った。理解しろ馬鹿」
「酷い! 酷いわ澪君!」
春永木葉。彼女は女優と見紛うが如き美貌、日本人離れしたスタイルを持つ絶世の美女なのですが。
このように、妹への愛情を少しばかり拗らせ、頭があまり良くないという、容姿の良さに反して残念なところもある女性なのです。
それでも彼女には多くの知人友人がいて、慕われ信頼され好かれている以上、頭の良し悪しなど彼女にとっては些末な問題なのでしょうが。
「それはそれとして、カードがあればいいのよね?」
「どっちかっていうとお前の頭の問題だが……前提として物も必要だな。でも高いんだよな、カードって。まともなデッキを組むとなると、そこそこかかる。俺にそんな金はない」
「そんなの、私が買ってあげるわよ」
「お前の施しは受けん」
「へぇ、そんなこと言っちゃうんだ? 私のコネでバイト先斡旋して貰ってる癖にー。うちのお店で働けてるのは私のお陰なのにー」
「…………」
澪はいつものポーカーフェイスを崩して、苦虫を噛み潰したように、露骨に顔をしかめました。
澪としては真に遺憾なことなのでしょう。しかし澪は日々の生活でいっぱいいっぱいの貧乏人。今生活できているのは、木葉の援助によるところが非常に大きいのです。
というより、彼女がいなければ野垂れ死んでいた可能性すらあるくらいには、彼女の支援ありきで生活していたりします。
具体的には仕事先の斡旋。
澪は複数のアルバイトを掛け持ちしているのですが、そのほとんどは木葉の紹介によるものです。この喫茶店のバイトも、そのひとつ。
それは澪としては、大きな弱点であり、汚点であり、隙である、と本人は思っているようです。
要するに“借り”があるということです。恩義ではなく、借り。言い換えれば弱味ですね。
しかし、澪がそれを借りだと思っていても、木葉としては友人とそんな貸し借りの関係でいたいとは思わないことでしょう。
かといって澪にとっての線引きを侵すようなことも、木葉はよしとしません。木葉としても、友人の義理を尊重したいのです。
「じゃあ、こうしましょう!」
なので、彼女はこう提案することでしょう。
「私にデュエマを教える時間はアルバイトってことにするわ」
「は?」
「つまりはお仕事よ。私にデュエマを教えるお仕事。お仕事だからお給料も発生するし、諸経費もこっちで負担してあげる。それでどう?」
「馬鹿じゃないのか?」
「ちなみに時給は……このくらいでどうかしら?」
その辺にあったメモ帳に、木葉はすらすらと適当に金額を書き連ねる。
適当というのは、書き方やその所作が適当というわけでも、適した妥当な金額という意味でもありません。提示した金額そのものが、適当。相場などを一切合切無視した、思慮も分別もまったく介在しない、乱雑な価格設定です。
「いつも思うが、お前の金銭感覚バグってるよな。なんで喫茶店員なんてできてるんだ?」
提示された金額を見て、澪は呆れ返っています。もしこの時給で働けるのなら、今掛け持ちしているバイトをするのが馬鹿らしいような数字の羅列。あらゆる単発バイトの価格帯をぶち壊すような、これで求人を出せば競争率が何倍になるのかというような金額。これが特需というやつですね。
「いいじゃない! 教えてよー、澪くーん」
「ウザいな……わかったよ、そこまで言うなら付き合ってやる」
「やった!」
あまり木葉の世話になりたくない澪でしたが。
今回は彼女の温情でも厚意でもなく、彼女からの懇願であり、依頼であり、取引なのです。
金銭感覚がおかしい彼女が言う時給については思うところもありますが、馬鹿のお陰で楽して稼げると思えば後ろめたさも控えめです。
「それじゃあ早速カードを買いに行きましょう! どこに行けば買えるのかしら?」
「今から行くのかよ……店はどうした」
「閉めるわ!」
「店長にどやされても俺は知らんからな」
「事情を話せばお母さんも分かってくれるわよ!」
「こんな理由で店を閉められる店長が不憫で仕方ない」
と、口では言っておく澪でした。
なにはともあれ2人は、カードを買うために店を閉め、カードショップに向かいます。
正直覚えている人がいるかも怪しいですが、木葉の人柄というか性格というか、頭はメソロギィ時点よりかなりバカになってます。