デュエル・マスターズ Call of Creature -神話の喚び声- 作:モノクロらいおん
「やったわ! 澪君に勝った! 嬉しい!」
「そいつは良かったな」
子供のようにはしゃぐ木葉。澪はそれを冷めた目で見ていました。
――わりと本気でやったんだがな。
だけど、普通に負けた。
運が悪かったと言えばそれまでだが、その事実は彼の反骨心を細やかに刺激する。
しかしてそれを表に出すのも大人げない。澪は務めて平静を保ちます。
「楽しかったわね、澪君!」
「そうか」
「澪君は楽しくなかった?」
「……まあ、久し振りの感触に多少は高揚したかもな」
「素直に楽しいって言いなさいよ」
「お前の相手してると疲労感もある。素直にはなれんな」
「もー、澪君ってば。あはははっ!」
屈託なく、無邪気に笑う。本当に、子供のようだ。とても、もうすぐ20になる女性とは思えない、幼い、しかし純粋で純真な笑み。
「……なに笑ってんだよ」
「だって、楽しいんだもの」
「そうか。これで大好きな妹と遊べるもんな、よかったな」
「違う違う、そうじゃなくて」
木葉は澪を見る。まっすぐに。
澪はやや斜を向き、彼女の瞳に、斜め横の流し目で合わせつつ、正面からは視線を外す。
しかしそんなことはお構いなしに、木葉は真っ向から向かってくる。
「私ね、澪君と一緒に遊べて、楽しいの」
「はぁ?」
なに言ってんだこいつ、と視線で訴える。しかし斜向きのそれを、彼女が受け止めるはずもなかった。
「だって澪君、なかなか一緒に遊べないじゃない。高校生の時から、クラスで遊びに誘っても全然来てくれないし」
「バイトで忙しい。金もない。俺に遊んでる余裕はない。今を生きるだけで、精一杯だ」
「それはわかってるけどぉー……でも、友達なんだから、一緒に遊びたいじゃない」
「俺は別に……」
「私はずっと澪君と一緒に遊びたいって思ってたの! それが叶って嬉しいの!」
「……そいつは良かったな」
そう言う木葉は本当に楽しそうで、嬉しそうで、茶化す気も撥ね除ける気も起きなかった。
だからせめてもの抵抗として、澪は流す。
(……こいつは、そういう奴だよな)
馬鹿みたいに正直で。阿呆みたいにまっすぐ。
生まれたばかりの赤子みたいに邪悪を知らない善人。人の善性しか知らないようなお人好しの能天気。
本当に、見てて苛々するし、相手にすると疲れるし、馬鹿さ加減とあまりの無知には辟易するし。
――眩しすぎて、直視できない。
世界はそんなに甘くない。黒々とした邪念が渦巻き、理不尽と不条理に苛まれるものだ。
少なくとも、澪はそう思っている。
だから、善性を寄る辺に生きるなんて、できやしないし。
それを自然体でこなす木葉は、澪の生き方とはあまりにも違いすぎて、見ていられなかった。
彼女がこんな風になったのは、育ちの良さと家柄の良さ故だから……などと言い出すのは、流石に負け犬が過ぎるので、決して口にはしませんが。
「本当、楽しいっ! ありがとう、澪君! デュエマ教えてくれて」
明るすぎて、陰の者である澪はそろそろむず痒くなって耐えられなくなりそうだった。
不快感と、奇妙な心地がない交ぜになったなんとも言えない感覚。
確かに澪としても、今回の経験が悪いものとは言えない。久し振りの高揚というのも嘘ではなく、実際に楽しかった部分はある。ならば、たまには彼女の好意、感謝に、素直に応えるのも、悪くないだろう――
「このみちゃんと遊ぶ“ついで”に澪君とも遊べるだなんて、私、デュエマはじめて良かったわ!」
「あぁうん。わかってた。お前はそういう奴だよ、木葉」
――前言撤回。こいつには絶対に感謝なんぞするものか。
そう固く決意した澪でした。
まあこれは木葉さんが悪いと思います。魔性の女め。無自覚に男を誑かしては切り捨ててしまうタイプですよこれ。
「ねぇねぇ、もう一回やりましょ! 私、楽しくなってきちゃった」
「嫌だ」
「なんで!?」
「自分の発言を振り返って反芻しろ」
「はんすー? 私、なにか失礼なこと言っちゃった? だったら謝るから!」
「うるせぇ。そんなにやりたいなら、そのへんから誰か連れてこいや。カードゲームってそういうもんだろ」
「あ、そうね。わかったわ! 澪君!」
「ん? おい」
「じゃあ行ってくるわね!」
「おい待て」
澪が引き留めるよりも早く、木葉は行ってしまった。
冗談というか、売り言葉に買い言葉。突き放すために言ったのですが、彼女が素直な馬鹿であることをまた失念していたようです。
木葉は澪の言葉をそのまま受け取って、新しい対戦相手を探しに行ってしまいました。
「クソッ。あいつ馬鹿の癖に顔だけはいいから変な奴に絡まれると面倒……あぁ、荷物もカードも出しっぱなしかよ。本当、盗難とか頭にないのかよあいつ……!」
とりあえず出しっぱなしのカードを片付け、大量のカードと2人分の荷物を抱えて、木葉を探しに行こうと思った矢先。
彼女は帰ってきた。
「澪君! 対戦してくれるって子を見つけてきたわ!」
「早いな! ……いや、無理やり連れてこられたのか」
澪は木葉に連れてこられた人物に視線を向けます。
小柄な少年です。あどけなさの残る顔立ちに、学生服を着ていました。中学生くらいに見えるでしょう。
「すまん。こいつが強引に引っ張ってきたみたいで」
「あ、いえ。僕もいつも対戦できる人が今日は来れなくて、誰とも対戦できないなって思ってたところだったので、誘ってくれてちょうど良かったです」
「……そうか」
本音なのか建前なのか。判然としないが、そこまで嫌がっている風には見えない。
少なくとも、今は。
「それじゃあ早速始めましょう! えーっと……名前、なんて言ったかしら?」
「え? あ、名前ですか?」
「別に名前なんぞ名乗らなくても……」
「私、春永木葉って言うの! よろしくね!」
「もう少し個人情報保護を気にしろ馬鹿!」
いきなり本名をフルネームで名乗る奴があるか!
「はは……まあ、いいですよ。僕は……いつも大会で使ってる名前ですけど」
少年は木葉の危機意識の低さに苦笑しつつも、歳不相応に落ち着いた対応で、名乗った。
「僕は青崎――
青崎少年登場。このために先にメソロギィ更新してたと言っても過言ではない。