デュエル・マスターズ Call of Creature -神話の喚び声-   作:モノクロらいおん

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 ようやく、本来の導入まで来れた感じ。


シーン7 客がいません、店員もいません

「しるす……? えーと……」

「書き記す、の記です」

「? ? ?」

「すまん。馬鹿は漢字もわからないんだ」

「あ、じゃあ書きますよ……こうです」

「……うん! 覚えた! 記君ね!」

「小学生レベルの漢字すら口頭でわからないか……」

 

 とは言うものの、口には出さないだけで、変な名前だと澪も思っています。

 大会で使っている名前と言っていた。つまりこれは、本名ではないのかもしれない。青崎はともかく、記、などという名前はまず聞かない。

 

「それで、春永さん、ですね。そちらは……?」

「ん、俺は……」

「澪君よ! 苗字忘れちゃったけど!」

「人が名乗る前に勝手に紹介すんな。というか苗字忘れたのかよ、何年の付き合いだと思ってるんだ」

「3年! ……4年だったかしら? とりあえずいっぱい!」

「3より大きい数が数えられない原始人以下かよお前は」

「……とりあえず、お二人の仲が良いことはわかりました。そういう関係ですか?」

「は?」

 

 一瞬、澪は本気で頭が沸騰しそうになった。

 しかし相手は中学生。子供相手にムキになって怒るというのも大人げないので、その怒りは無理やり叩き伏せます。

 

「ただの腐れ縁だ」

「お友達よ! 大親友と言ってもいいわ!」

「……こいつは自分の都合の良いようにしか世界を見てないから、話半分に聞いてくれ」

「はい。だいたい分かりました」

「今日、私にデュエマ教えてくれたのも澪君なのよ!」

「あ、初めての人だったんですね……どうしよう。僕、普段使いのデッキ1つしか持ってませんけど」

「まあそれでも構わんだろ」

「そうね。一緒に遊んでくれるだけで嬉しいわ」

「はぁ。まあ、そう仰るのなら、これで」

 

 そう言って青崎少年は、デッキケースからデッキを1つ取り出して、慣れた手つきでカットします。

 

「始める前にひとつ。悪いが、こいつの後ろについててもいいか?」

「構いませんよ」

 

 丁寧だがそれほど畏まった風もなく自然体。落ち着いていた応答。背格好や顔つきは子供ですが、精神面では木葉よりよほど大人な青崎少年でした。

 澪からすれば、背伸びしているというか、こまっしゃくれている子供に映ります。それもまた子供らしいと言えばそうですが。

 

(……まあ、どうでもいいことか)

 

 目に付くとしても、生意気な悪ガキというわけではないのなら、それでいい。大人な振る舞いをするというのなら、変に騒ぎ立てるようなこともしないだろうと、澪は結論づけました。

 とりあえず今は、木葉と青崎少年の対戦です。あまり口出しはしないつもりですが、せめてルールミスはないように、彼女の手綱を握らねばなりません。

 

 ――手綱を握るって言うと、手放したくなるな……

 

 残念ながら、そういうわけにもいかんのです。

 

 

 

 

 

 ――数時間後――

 

 

 

 

 

「《アストラル・リーフ》でダイレクトアタックです」

「みゃー! 負けたわ! 10連敗!」

「よくそんなにボロ負けするまで挑む気になれるよな、お前……」

 

 10回。10回も対戦して、木葉は全敗。

 これは木葉のプレイングもデッキも弱いというのもそうですが、純粋に、青崎少年も強かったのです。

 

(水のみのサイバーデッキ……手札を稼いで小型で速攻か)

 

 コストの軽いクリーチャーを、大量の手札から大量展開。圧倒的な物量を、激流のように叩き付けるデッキ。

 単純だが、とても強烈です。木葉のデッキでは、そのあまりの大軍を捌ききれません。

 だから10連敗。トリガーで1体2体を処理したところで、効果が薄いのです。木葉のデッキとプレイングでは、処理できません。

 

「うー、記君強いー。澪君の百億兆倍強いー」

「頭の悪い数字を出すな」

「澪さん? は、対戦しないんですか?」

「俺はいい」

「えー? 澪君も遊べばいいのに。楽しいわよ?」

「いいんだよ俺は。そもそも、目的はお前がデュエマを覚えることなんだからな」

 

 バイトという名目で、そのティーチングのために雇われたのが澪です。だから一緒に遊ぶために来たつもりはありません。

 

「というか、随分長いことやってるが、お前ら時間は大丈夫、なの……か……?」

「澪君?」

「…………」

「どうしました?」

 

 急に語気が消える澪に、木葉と青崎少年の2人は怪訝そうに覗き込みます。

 いつでもポーカーフェイスでクールな表情を崩さない澪。それが綻びかけ、そして絶句している。それだけで、彼が相当に驚愕していることがわかるでしょう。青崎少年はわからないにせよ、木葉はそれなりに長い付き合いです。なんとなく、彼の狼狽を察しました。

 

「なにかあったの? 澪君」

「……いねぇ」

「いない?」

「あぁ……“客がいない”」

 

 その言葉を受け、木葉と青崎少年の2人も、ハッと我に返ったように、現実を認識します。

 なぜ今まで気付かなかったのか。それほどデュエマに集中していたのか。

 あれほど繁盛していた店は、奇妙なほど静か。人の声は皆無、物音もなく、それどころか、人の姿がない。

 客も、店員も、澪、木葉、青崎少年。3人以外の人間が、綺麗さっぱりと消えています。

 

「え? あ、あれ? 知らないうちに閉店時間になっちゃったのかしら?」

「そんなわけあるか」

「そうですね。店を閉めるなら、店内に残ってるお客さんに声を掛けるはず。それに閉店したからって、店員はすぐに帰るわけじゃないでしょう。なのに、誰もいない。しかもそれに気付かなかったなんて……」

 

 明らかに異常だった。

 知らず知らずのうちに、現実と虚構が反転するように、日常と非日常が切り替わっていた。

 そんなことは、あり得ないはずなのに。

 その事象に、怖気が走る。正気に罅を入れるかのように、狂気が頭を殴りつけてくる。

 そんな馬鹿げた出来事に立ちくらみそうになりながらも、澪は堪えました。

 

「と、とりあえず、閉店時間なら店を出なくちゃいけないわよね……」

「だから違うと……」

「しかし外に出るのは賛成です。店内の人が消えてしまった理由はわかりませんが、一度、移動するべきかと」

「……そうだな」

 

 それは調査というより逃避の言い訳のようですが、異を唱える理由もありません。

 3人は手早く荷物を纏めると、カードショップの出入り口まで来ます。そして、扉を開けようとしますが、

 

「あ、開かないわ!? 鍵掛かってる!」

「内側なのにか? おかしいだろ」

「だって開かないんだもん! ほら! ほら!」

 

 ガチャガチャと何度もドアノブを回したり、扉を押したり引いたりする木葉。確かに、扉は開かない。

 澪もドアノブに手を掛けますが、開きません。扉には鍵穴があり、やはり鍵が掛かっているようです。

 

「確かにこの手応え、鍵が掛かってるな……内側なのに鍵というのもおかしな話だが」

「私たち、閉じ込められちゃった……!?」

「落ち着け。変な造りだが、普通、店の鍵は店内にあるものだろ。最悪、ピッキングでも無理やりぶち破るでもいい。なんなら窓からだって――」

 

 と、澪が振り返った、刹那。

 

 

 

 ――煙の中から、悪意が、こちらを睨み付けていた。




 いつだって、非日常は唐突に。
 カドショの犬小屋、ここからが本当の始まりでございます。
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