デュエル・マスターズ Call of Creature -神話の喚び声-   作:モノクロらいおん

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 ようやっとCoCっぽくなって参りました。


シーン8 それは猟犬のように舌を伸ばす

 最初に異常を検知したのは、嗅覚。

 不快感を催す異様な臭気。死体安置所の腐敗の臭い。それは真正面から、彼らに怖気を植え付けるには十分すぎる臭いだ。

 そして、次に視覚。

 カードショップの端。部屋の隅。自分達が、さっきまでカードゲームをしていたテーブル。

 その角から、煙が噴き上がっている。

 火事ではない。これは、ものが燃える黒煙ではない。火の気はなく、漂ってくる臭気は炎などという情熱的なものではない。もっと冷たく、無惨で、残酷な死の臭いだ。

 煙は部屋中に撹拌することはなく、一定の範囲で燻っている。それどころか、煙の中からなにかが顔を出す。

 いや違う。煙の中から顔を出したのではない。煙そのものが、顔を形成したのだ。

 次に脚が、続けて腕、身体。全身が、姿を現す。

 それは、全身が青い膿のようなもので覆われた、獣のような、いまいち輪郭が判然としないものだった。

 頭のような部位には、ギラギラと凶悪に光る眼が見える。脚のような部位が伸びる身体があり、ゆっくりとだが脈動を始め、それが生き物のようであると、辛うじて予想できる。

 いや、しかし、生き物、のようである、としか言いようがない。

 それは犬とも猫とも、狼とも獅子とも、龍とも悪魔とも言えない。実に奇怪、実に奇妙、実に不可思議な、人の想像の外にある、怪物だった。

 

(――――)

 

 一瞬、脳が理解を拒む。否。元よりそれは理解できる代物に非ず。常識も倫理も超えた。人智の中にない、“なにか”だ。

 その刹那、3人の運命は回り、転がる。運否天賦。賽の目のように、デタラメに、理不尽に、彼らを非日常に引きずり込んでいく。

 正気の削れる音がする。あり得ざる恐怖が躙り寄ってくる。

 

「な、んだ……ありゃ……!?」

 

 さしもの澪も、この異常事態に動揺が隠しきれません。

 なにもかもが意味不明で理解不能ですが、わかっていることはただひとつ。

 他者の悪意、害意に敏感な澪だからこそ、察せられたのか。あるいは誰でも分かるほどの、それは大きな気を発しているのか。

 どちらにせよ、かの化物は、明確な殺気を持っている。

 獲物を狩る猟犬のような、ギラついた眼を、膿の中から覗かせている。

 

「っ……逃げるぞ!」

「え? え?」

「ボサッとすんな! 状況わかってんのか!」

「いや、あれ……なにかしらね?」

「こんな時まで能天気にしてんじゃねぇクソ馬鹿女!」

「クソは流石に汚いわ! 失礼よ澪君!」

「うるせぇ! いいから逃げるぞ!」

 

 とは言ったものの、出入り口の扉は開かない。外への脱出は不可能。

 窓は、途中に化物がいる。あれの脇をすり抜けて窓から外へ……危険すぎます。澪ひとりならともかく、木葉や青崎少年が同じように走って脇をすり抜けられるかどうか。

 逃げ道はない? いいえ、リスクはありますが、ひとつだけありました。

 

(……カウンター奥。恐らく、店の倉庫か事務室かがある扉……!)

 

 少なくともそこは出口ではありません。下手に突っ込んでも袋小路になるかもしれない。

 しかし非常口がある可能性も否定できない。窓があれば、化物の脇を通り抜けることなく外に出られるかもしれない。

 その先は未知の領域。しかし化物は青い膿を垂らしながら、こちらに近づく気配があります。このままでは、襲われることはほぼ確実。

 一時凌ぎでもいい。とにかく、動く。

 出たとこ勝負なんて大嫌いでも、今までそうやって生きてきた。

 澪は叫び、駆け出します。

 

「あそこだ! 走れ!」

「ま、待って!」

「急げ! あいつはヤバい! なにされるかわかんねぇぞ!」

「でも、記君が……!」

「あん!?」

 

 澪は青崎少年へと視線を向けます。

 

「あ……ぅ……!」

 

 彼は、固まっていました。賽の目の悪戯でしょうか。ほんの僅かな、一時的なものでありましょうが、狂気に陥っております。

 極度の恐怖により、身体が硬直していました。彼はまともに動けないでしょう。

 

「餓鬼め、世話の焼ける……! こいつは俺が請け負う! お前は先に逃げろ!」

「う、うん……!」

 

 木葉はパタパタと、鈍い足取りながらもカウンター奥の扉へと駆けます。

 澪は青崎少年を抱え上げ――小柄で華奢な体躯のお陰で軽い――その後に続きます。

 そして化物は、そんな彼らに対し、咆えるように唸り、床を蹴り飛ばす。

 狂気なる脅威は、すぐ背後まで、迫ってきた。

 

「澪君! 記君!」

 

 扉を開け放ち、2人を迎え入れようとする木葉。記を抱えて飛び込もうとする澪。

 そんな彼らの背後で、空を貫く音が、小さく響いた。

 

「――澪君!」

 

 木葉の声に、思わず澪は振り返ってしまった。

 化物が、猟犬のように、獲物を喰らう眼を光らせ、大口を空けていた。

 餓えた口腔から舌のような細長いものが、まっすぐに、澪へと伸びていく。

 

 ――避けられ――

 

 ――ない。

 格闘技の訓練もしていない。スポーツをしているわけでもない。喧嘩で鍛えたわけでもない。

 初期値で回避なんて、よほど運が良くないと、成功するものではありません。少年を抱えたままというのであれば、なおさら。

 

 

 

 化物の舌は、澪の背中に――深々と突き刺さった。




 回避の初期値はDEX(器用さ、敏捷性)×2。DEXは通常なら3d6。即ち、人間であれば回避初期値は最大36%。あなたは3割に命を預けられますか? 作者は回避に技能ポイント振るのが好きではないので3割どころか2割弱で割り切ってます。
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