これは、少年と神様の話。
 いみもなく、夜の街を自転車で走らせる少年。
 ぶきようにいきている、少年は夜の街に感動をしながらも神社に足を踏み入れる。
 みちびかれた、少年のと神様の物語。

 処女作です。小説を書くのは初めてなので、文章の意味がおかしな箇所や、多数の繰り返し表現。誤字脱字があるとは思いますが、少しでもこの小説を楽しんでくれたら幸いです。

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あての

 どれだけ時間が経ったのだろうか。僕は自転車を走らせて夜の住宅街を逃げる様に一人で駆け抜けていた。

 辺りには、街灯が均等に一列に並んでいるだけで時間を確認する物が一切無かった。

 しばらく休憩をしていないせいか足が疲れ、上がりづらい。額から垂れる汗を腕で拭う。びっしょりと汗が腕にこびりつく。この量は三十分そこらで出てくる汗では無いと感じる。

 

 いつもとは反対方向の道。自転車を漕いでいた。行く当ては無かった、とにかく遠くに行きたくて、前へ進むんでいる。

 

 見慣れないコンビニの照明が僕の顔を反射する。僕がこの道を通るのは今日が初めての事だ。胸の中に暖かい何かがこみ上がる。

 次に大きな橋を渡った。大きな川の光景に、興奮をする。今まではの殆どの時間が母親の言うとおりに行動しているのに、その時間を自分の意思で自由に動けることに感動をしていたから。

 

 公園を横切ってから喉が渇きはじめた。最初のコンビニは随分前に通り過ぎてから、道は住宅街に入っていてコンビニやスーパーも何一つ見あたらない。わざわざ元来た道を辿ってまでそのコンビニまでは戻りたくは無かった。遠くに行くために進んでいるのに、元来た道を戻る事は何となく負ける気がして。

 

 それから喉がカラカラになりながらも進んでいくと、低い位置の光が見える。光は動かずに貼り付けられたようにずっとその場から離れなない。もしかしてと、近づいてみる。

 光の正体は自動販売機の光だった。日常で使うことのないメーカーの種類で、見たことのない飲み物が陳列されていた。

 

 塾用のバッグから、小銭を取り出して入れる。ボタンを押すと取り出し口から飲み物を取り出す。

 しばらく待ってから開けると、無数の泡が容器の中を泳ぐように上がってきている。

 

 ジュースは普段は禁止されていて、隠れて自分のご褒美にと飲むことがあった。

 飲むか飲まないかを迷っているうちに、手が滑って、アスファルトに軽い打撃音が響く。ペットボトルのキャップを落としてしまった。暗闇に紛れてもう、このジュースを飲むしかない。覚悟を決めて口に入れる。

 過去に喉の渇いた時の炭酸飲料水は、美味しかったと感じていたが、今日は特に美味しいとは思わなかった。

 飲んだ炭酸飲料の種類が美味しくなかったのか、それとも塾を途中で抜け出して来ていた、心の何処かにある、罪悪感からなのかは分からない。

 全て飲み終えてから、自動販売機の横に有るゴミ箱に空になったペットボトルを捨てる。

 

 自転車を漕いでしばらく時間が経ってから、遠くに見えたそこに、魅了され体が勝手に近づいていく。

 

 自転車にチェーンをかけてから、誘われているのか、その階段に近づく。階段の横に、石に神社と文字が刻まれている。

 近くの、夏に祭りをやるような、大きな神社が有ることは知っていたけど、この神社は知らなかった。

 階段を上る。後ろ側から物音が鳴る度に、慌てて振り向いても、誰もいない。

 まだ罪悪感が有るからなのか塾を抜け出した僕を誰かが追いかけて来る。そんな妄想をしてしまうくらい、今の僕には塾に対しての嫌悪がある。もちろん、誰も追いかけてくることなんて無かったが。

 

 階段を上りきる、赤錆色の古い鳥居をくぐる。賽銭箱が一つだけある。大きいとはいえないけれど歴史のある、趣のある神社。

 横に特徴的な紅葉の大きな木が丘になっている場所に生えている。

 僕は気になって、その木の向こう側に行ってみることにした。

 

 敷かれている僕が砂利を踏むのと風に揺られている紅葉の音。小さな神社に今いるのは僕しかいないと思っていた。

 

「えっ」

 

 木の裏に人がいる。木の下にベンチが一つあり、そこに白い服を着た、茶色の髪の長い女性が座っているのが見えた。顔は見えない。

 別に僕はその女の人がいたから驚いているのではない。

 

「おや、こんな時間に子どもがどうしたんだい」

 

 ベンチに座っている髪の長い女性。僕が声を出し、その声に気がついたのか話しかけてくる。

 振り返って見えた目の色は、金色がかった茶色の目。どことなく神秘さ、その中の不気味さがある。

 だけどそんなのは今はどうでも良い。それよりも頭の上から生えているモノに驚いた。

 

「ん? ああ、これか」

 

 髪と同じ茶色の人間にはない動物の耳。三角の形の耳が頭の上に二つついている。狐みたいなふわふわとしていた。

 僕が指をさすとピコピコと耳が反応する。

 

「まあ、気にしないで。ほら、こっちこっち」

 

 彼女が座っているベンチの隣をポンポンと手で叩き、僕を招き入れようとしている。隣に腰掛けると、女性が話し始めた。

 

「いやー、まさか消えかけの私の元にお客さんが来るなんてねー」

 

 消えかけ? この人は何を言っているのか。怪しい。頭に付いている耳を見てもずっと動いている。作り物とはほど遠い。本物の動物の耳を付けているとしたらこの人はいったい、何者なのだろうか?

 

「えっと、貴方は誰ですか?」

 

「私? 私はここの神社の神様」

 

「カミサマ?」

 

 あっさりと言われた言葉に、僕が首を傾げるのも無理がない。自称神様の服装が白をベースとした、巫女装束だったからだ。普通は巫女装束を着た人は神様からの声を聞いたはず。その服を着ているのに神様と呼ぶのは何か違う気もする。

 

「んー、なんか信じて気もするけどいいっか。それで君の名前はなんて言うの?」

 

「……水木」

 

「良い名前だね」

 

 クスクスと笑いながら目を細める。綺麗な声で笑っている。ただ、僕にはその意図が理解できなかった。普通に笑っているだけなのか、嘲笑っているのかは分からない。摩訶不思議な存在。もう、僕の目から彼女が人とは見えなくなっていく。

 

「なんで、悲しそうな目をしているのかは聞かないおくしさ、もし嫌な事があったりしたらさ」

 

 長い時間、僕の目と見つめ合う。もしかしたら、とても短い時間だったのかもしれないけど、僕はその場に固まった。首一つ彼女が続きの言葉を発するまで視線を離す事ができない。

 風が吹き、葉っぱが木から落ちてくる。風が止やみ、一枚の紅葉がヒラリと僕と彼女の間に落ちてきた。

 

「たまにで良いからこの神社に来なよ。甘い物でも持ってきてさ」

 

 これが、僕とカミサマとの初めての出会いだった。

 

--・--

 

 あれから、二ヶ月が経った。吐く息が白くなり、雪も降り始める。去年よりも大分積もった雪を見て僕は神社に訪れる。

 

 綺麗に雪が振り払われたベンチの上にカミサマが見える。端っこの柔らかい雪を軽く握ってから近づいていく。

 僕が「カミサマ」と呼ぶと「どうしたんだい」と僕の方に振り返ってきた。顔に雪玉を当てる。

 

「ふぎゅっ」

 

 変な声をあげて、うずくまった。狐の耳がぷるぷると震えていた。雪玉が当たって飛んだ雪が頭にも付いている。

 

 

「ご、ごめんカミサマ」

 

 慌てて近づいてから、ニヤニヤと笑ったいることに気がついた。

 手には僕が投げた物よりも大きい雪玉。お互いにお辞儀をすれば、近づいていた僕は、かわす事もできずに、その雪玉を顔から受けた。

 視界は白くて、冷たい。顔についた雪を振り払っても、振り払った時に「えいっ」と声と同時に僕の顔はまた雪玉を受ける。何度もそうしていると耐えきれず、尻餅をつく。地面は雪に覆われていて痛くはなかった。

 

「大人げなくないですか」

 

「んー、先に仕掛けた方が悪いと思うけどなー」

 

 唇を尖らせ、目を細めながら僕を見ている。そんな視線を気にしないように、僕が立ち上がろうとすると突然手を握られた。

 雪玉を握っていたせいか、暖かさはない。その冷たさが僕のために手を冷たくしてくれたと考えると、何処か嬉しい気持ちになった。

 

「あはは、私も悪かったよ。もう投げないから安心して。ほら、向こうで雪だるまでも一緒に作ろうよ」

 

 笑いながら、僕を強制的に立ち上げらされ、そのまま神社の賽銭箱の前まで引っ張られる。

 

「ここに大きい雪だるま作らない?」

 

「ここに作って良いんですか?」

 

「良いの、良いの。なんたって私がここの神様だからね」

 

 胸を張らせて堂々としているカミサマに拍手をすると、少し照れたようで頬が赤くなっていた。

 

「そんなことよりも、大きいの作ってくる」

 

 言い終わると、何処かに走り去っていった。本当に大きな雪だるまを作る気なんだなと思うと、僕は階段の雪を軽く端によせ、階段に座る。少し山になった雪を握り、雪でウサギやキツネとかの小動物を作くりはじめる。

 

 後で雪だるまを作るのを手伝わなかったのを怒って、雪玉を投げつけられそうだけど、それでも良いかと僕はクスリと笑いながら待った。

 

 

 

「なんか不格好じゃないですか?」

 

「そ、そんなことないと思うけど………」

 

 カミサマが作った雪だるまは、上半身も下半身も表面がなぜかデコボコしていて、形が少し歪だった。

 

・-

 

 雪が解け、桜が咲き初められたころ、花見をするために団子を持って神社にやって来た。

 

 ベンチに座り、団子を出すと、カミサマは「おお、ありがと」と二本パックから取り出す。それを見てから僕も残っているうちの一本を食べる。

 

「カミサマって何の神様だったんですか?」

 

「……何の神様何だろうね、私にも分からないや」

 

 団子を食べる手が止まる。隣を見ると軽口で、どうでも良さそうに言っている。

 自分が何の神か分からないなんてことあるのだろうか。

 

「でも、大抵の事は奇跡で自分のこと以外は何とかなるよよ」

 

「奇跡?」

 

 僕は呟きながら聞きかえす。

 

「うん、奇跡。これでも神様だからね、殆どの願が叶えられるんだ」

 

 殆どの願が叶えられると聞いて僕は汗が飛び出た。もしも本当に願が叶えられるとしたら、僕は願うのだろうか?

 もしも自分の願いを叶えられるのかと、何処からともなく聞かなければと強い圧迫される気分。その圧迫に僕は負け口を開く。

 

「それって、人も生き返らす事ができますか?」

 

 空気が冷えていくことを感じる。僕がそんな事を聞くとは思っていなかったのか、目が大きく開かれている。

 長い沈黙。じっと見つめる僕心に負けたのか、口が開かれる。

 

「確かに、できるよ」

 

 ほっとする。僕が言葉を出そうとすると続きの言葉が発される。

 

「個人の神様が死んだ人を生き返らすとしたら、基本的には罰せられる」

 

 哀しいそうに空を見上げている。その光景を実際に見たのか思出に浸るように。

 

「それに私は人を生き返してから、ちょうど一週間で消えることになる」

 

 居なくなる? 心の中につんと針に刺されるみたいな痛みがでる。僕の願いと天秤にかけたとき、カミサマに消えて欲しくない気持ちの方が強くなった。

 

「じゃあ、いいや。僕はカミサマにずっといてもらいたい」

 

「うん、それで良いんだ。むやみやたらに命を弄ることはやめた方が良い」

 

 ホッとしたのか、反動で笑顔になりながら僕を見つめる。その笑顔を見て、あれだけあった、圧迫感も針みたいな痛みが、すっと抜けるように心の中にはもう無い。

 団子を食べようと手を伸ばす。不意に隣を見る。

 

「実際にそんなのをした人や神様は、きっとろくでなしなんだだろうけどね」

 

 隣を振り向いた僕が微かに聞こえる小声で呟かれれる。いつもとは違う雰囲気に僕は息を軽く吸いこむ。

 初めて聞く声に僕は怖くなって、何も言えない。

 

 カミサマがこれから先、奇跡は一度も使うことはないんだろうな。消えるかもし。きっと、優しいから。

 

 手に残った、茶色いみたらし団子を食べる。甘塩っぱい味が、僕は安心ができた。

 

--・-・

 

 赤提灯が吊らされて、沢山の人が歩いている。着物の人もいれば、僕みたいに半袖半ズボンの人まで色々な種類の人が、この祭りに参加している。

 この祭りは、町の大きい神社でおこなわれていて、最後の花火が打ち上げられる。その花火を二週間前から一緒に見ると約束をしていた。

 

 階段を音を立てながら上がっていく。神社に人はいない。普段も人はいないけれど、今日は余計にそんな風に見えてしまった。近くの大きな神社で人を多く見ていたから。

 

 姿が見えた。祭りがギリギリ見えるベンチに腰をかけていた。そんなカミサマはいつもはしない目を今日はしている。遠くにいる僕にもはっきりと分かるのに、その目が何の感情を表しているのかは分からない。

 

 一瞬、その目が怖くなってしまったが、前に進む。砂利を踏む音でこちらに気がついたのか、祭りから僕に目を動かした。

 座っているベンチのそばまで近づく。

 

「ラムネ買ってきたよ。はい、どうぞ」

 

「うん。ありがとう」

 

 好物の甘い物。ラムネを見ても、淡泊な様子を見せている。それでも、耳が動いていた。こうやって耳を動かすのは、嬉しい感情が有る時だ。嬉しい気持ちがこみ上がって笑うと、ジトリと睨まれる。解せない。

 

 カミサマが僕からラムネを受け取る。手のひらはラムネの冷たさでいっぱいだったのに、お互いの指先が当たった。

 一秒にも満たない時間なのに、僕の心臓は飛び上がるように大きくドクンと音が鳴り、触れた指の先から微かに熱を感じる。その熱が全身を駆け巡って、焼き殺すように熱くなっていった。その熱を他の人に分からせないために、顔をうつむかせる。

 

「……少し顔色が悪いみたいだけど大丈夫?」

 

 突然立ち上がった僕を、心配そうに下から覗いてくる。まつげや唇、茶色の髪の上に生えている、狐の耳に意識が勝手に移ってしまう。

 心臓の鼓動が、速く小刻みに変わっていく。真っ暗なこの神社で、普段は意識しない空間に二人きりでいるせいなのか変に緊張をしてしまっている。

 それに顔もこの暗い空間でも分かるくらいには真っ赤になっていると思う。

 

「えっと、大丈夫。ちょっと人がいっぱいいて、上がっちゃったみたいに」

 

「そう? なら良いけど、あんまり無理はしないでね」

 

 顔を見ていないから、気づいていないのか特に気にすることもなく、自分の隣の席をポンポンと叩くように動作をした。

 

「ほらほら、もうすぐ花火が始まるんだから、座った座った」

 

 僕が横に座ると、隣からカチリと音が鳴った。その後にすぐにシュワシュワと聞こえる。ゴクゴクと喉の音が鳴った。

 

 いつもよりも、距離が近い気がする。物理的にも精神的にも。でも、もしかしたら僕だけが思っているだけで、向こうは何とも思っていないのかも。ついさっき怪しい動きをした僕を横に座らせていられる。

 

 考えれば考えるほど、無性に喉が渇いてきた。自分用に買ってきていた、ラムネを開ける。そのままゴクリと喉を鳴らす。そんな僕を祭りの一部のように眺めていたカミサマが薄く微笑んでいる。

 

 蝉やコオロギのうるさい虫たちの声とラムネの音だけ聞こえる。微かに見える、祭りの音は神社の階段を上がるまでは聞こえていたのに、全く聞こえない。ここだけが祭りから切り離されて、遠い何処かの異世界から音なしの映像を見せられている、映像の中は楽しそうなのに自分は参加できないような孤独。

 ここは異世界でも無いし、すぐ隣にがいる。僕は一人じゃないのに、それでも孤独を感じている。

 

 虫たちとラムネは僕の考えなんて、これっぽっちも気にしていないのか、先ほどから変わっていない。むしろ、虫のの鳴き声は大きくなってきた。

 虫の鳴き声を逸らすように空に視線を向けた。ちょうど顔を上げると空にぱちりと音と光が見える。

 

「おおっ、今年も綺麗だね」

 

 花火が打ち上げられた。最初の花火がきっかけに、次々に七色の種類の花火が打ち上げはじめられた。

 

 花火を見る度に変な汗が出る。忘れていた不安を急に体が思い出したのか震える。

 この花火が溶けて無くなるように、僕との関係も呆気なく終わってしまうんじゃないかと考えてしまう。そんなことはないのに強く強く頭の中心を支配していく。神社にたまに来る、参拝客と神社が家の神様なんて関係はたやすく無くなってしまう。

 

 ちらりと、隣を見る。花火を見入っている姿に僕は見入ってしまった。

 隣にいるだけで、僕が去年見た花火よりも今年の花火の方が特段に綺麗に見える。

 

 ただの参拝客のままこの関係が消えていく方が、今の僕には心配で仕方がない。

 僕は、考えるよりも先に言葉が出た。

 

「あのさ、」

 

 『僕はカミサマの事が好き』言おうと口を開く。だけどその言葉は遮られた。花火ではなく、カミサマの言葉で。

 

「その言葉は、私みたいな神様には言っちゃ駄目だよ。友情なら良いんだ。愛情的なことで気に入られちゃったらロクな事にならないからね」

 

 花火の度に、薄暗かった神社が少し明るくなる。祭りに参加している人たちは立ち止まって楽しそうに見ていた。

 僕の体は不安に押しつぶされそうになっている。

 

「出会ってから一年も立っていないけど、さっきの反応で何となく分かるよ」

 

 クスリと笑ってから、こちらを見た後にすぐに空を見上げはじめた。少し大きな花火が上がった。今までのよりもほんの少し大きな花火。今までよりも辺りを照らす時間が長い。

 隣から顔を盗み見る。その顔は花火を楽しんでいるようにも僕に怒りを露わにているようにも、もしかしたら寂しい顔をしているのかも知れない。そんな複雑な顔をする人は、僕が知る限り、多くいない。

 

 小さな花火の爆発する音だけで、僕たちは一切喋らず、手元にあったラムネをちびちび飲みながら花火を終えるのを待った。

 祭りで一番大きな花火が上がる。七色に光り、さっきまで打ち上げられていた物よりも、何もかも違う花火。その花火が完全に消えると、吊されていた赤提灯がまた妖しく綺麗に光りはじめる。

 

「そうだ、これ貰っても良い?」

 

 突然カミサマは、ラムネの飲み口を外すと中からラムネを取り出して僕に聞いてくる。自然と言葉を聞いて、僕の体の不安も消えていった。

 

「良いですけど、何かに使うんですか?」

 

 声を出せていたか分からない。震えているようにも普段とも変わらない声を出しているようにも、自分では感じる。

 

「んー、二つ取っておけば、今年の雪だるまの目とかに使えるかなって」

 

「えっ、またあれ作るんですか?」

 

「去年の雪だるまは手伝ってくれなかったけど、今年は手伝って貰うからね?」

 

「えー、でも」

 

 僕が不貞腐れながら言うと、笑いながら僕の方へ顔を向けた。

 そこに普段のような笑みがないことに気づく。初めて会った時みたいに金色ので僕を探るように。まるで子どもを見張るような目つきで僕を見る。

 

「良いの、二人で作ることに意味があるんだから」

 

 ぎこちのない、笑みだ。普通に振る舞っているけど、どこか歪になっている。

 僕はそれを気づかないふりをする。それが一番良い、解決方法なんだと自分に言い聞かせながら。

 

・-・--

 

 神様と出会って、季節が巡り、ちょうど一年が経とうとしていた。

 カミサマと僕は夏の祭りから、仲が少しぎくしゃくしたままになっている。それでも、塾がない日や休みの日は大体遊んでいた。友人みたいなこの距離感が二人のちょうど良い距離なんだ。自分に言い聞かせる。

 

 今日も神社に向かっていた。朝から降っていた雨は着ていたレインコートで弾く。

 朝は弱い糸のみたいな雨だったのに、今では視界が悪くなるほどに強くなっていた。

 

 赤信号に変わり、自転車を止める。

 

 辺りを見渡しても雨が降っているせいか、人は誰も歩いていない。前までは見えていたコンビニも今は弱い光を点灯させているように見えた。

 信号が青に変わった瞬間に、自転車を動かしはじめる。

 

 突然のクラッシュ音と共に視界の右側が光った。

 

 

・-

 

 目が覚めると、消毒液の強い臭いと、白い天井が見える。だるい上半身を起き上がらせると、右手が誰かに包まれていることに気がつく。

 その誰かが、僕が起き上がった事に気がついて、声を上げた。

 

「水木。起きたの」

 

 僕の母親だった。怒っている顔じゃなくて、目が赤く疲れてはいるが、優しそうな顔をしている。僅かに母親の手が震えていた。こんなに弱っている母親は久しぶりに見た気がする。

 そんな、のんびりと考えていると僕の目を見て「良かったと」呟やく。

 

「良かった。何日も眠っていたのよ。貴方も居なくなるんじゃないかと本当に心配で心配で……」

 

 涙が僕の右手に一粒ずつ落ちてくる。

 

「でも、良かった。お医者さん曰くトラックに轢かれたのにほとんど無傷ですんだのは奇跡ですって」

 

 母親の手が僕の頭を触ると優しく撫ではじめた。

 

「とりあえず、今日は休んで寝てなさい」

 

 母親の優しい声で僕は眠りについた。

 何日も寝ていたと言うことに、何か忘れているようなそんな焦る気持ちが頭によぎる。思い出そうとしても考えがまとまらない。

 

 起きてからしばらくたった今になって頭痛と轢かれたときに口の中に残っていた、血の臭いが舌の上で強くし始める。無傷で済んだなら、血の味はしないはずなのに、なぜか口から離れない。

 そんな事を考えているとうちに僕は眠りについた。

 

 

-・・-

 

 

 次の日になって、母親の言うとおり、僕は病院から家に帰ることができた。

 

「しばらくは家でじっとしておくのよ」

 

 母親は僕にそう言うと、キッチンに行き何かを作り始めた。カチカチとなる時計を確認すると、お昼の十二時をなろうとしていた。

 

 病院にいたころから何かの違和感がある。頭の中でぐるぐるまわるなにか。事故に遭う前とほとんど変わらないのに強く何かを思い出さないといけないようなそんな、いい加減な気持ちになっていた。

 ふと、冷蔵庫に貼られていたカレンダーが前に見たときは九月だったのに、今は十月のカレンダーに変わっている。

 

「お母さん」

 

「どうしたの?」

 

「今日って何日」

 

 自分でも驚くほどにに、声が震えていた。その震えは自分では上手く治めることができない。どこからともなく何かが全身を巡るような感覚がする。

 

「そうね、今日は十月一日」

 

 頭の中で、突然昔言っていたのを思い出す。

『それに私は人を生き返してから、ちょうど一週間で消えることになる』

 

「ちょうど水木が事故に遭って一週間目よ」

 

 もし、カミサマが言っていた奇跡が、本来なら大怪我をする、トラックに轢かれた僕の無傷に関係があるとしたら? もしも、カミサマが事故に遭った僕に対して、その奇跡を使ったとしたら?

 

 雨が降り始める。窓ガラスを強く叩きはじめた。

 

 考えれば考えるほど、嫌な考えが僕の頭の中でまわる。全身に巡られたはずの血が全て出ていくようなそんな錯覚。

 全身の力を全て椅子に預けたくなる。だけど、無理やり震える体を立たせ上げた。

 窓ガラスを叩く雨の音が余計に不安を強くしている。

 

「ごめん、お母さん。ちょっと出かけてくる」

 

「貴方意識が無くて入院していたのよ。そんな体で何処かに行けるはず無いじゃない」

 

 僕は行かないといけない。今日行かなかったら、一生僕は後悔してしまうから。

 

「行かなきゃならないんだ」

 

 母親を無理やりどけて、離れる。玄関から運動靴に履き替える。玄関のドアを開き自転車を探す。

 僕の自転車はこの前の事故で壊れているので、母親の自転車に乗る。母親の自転車の前に行き僕の誕生日をチェーンに入力すると、カチリと音がなってロックが外れた。サドルの位置を下げて漕ぎはじめる。

 

 一年前のちょうどこの日に、僕は塾を抜け出して、初めてカミサマと会った。

 今はあの日に見た、橋やもコンビニも、自動販売機さえ、今日はただの道路の風景でしか無かった。

 

 雨のでタイヤが滑り、転びそうになる。何とか踏ん張ることができたが、約一週間も寝ていたせいか体力がいつもよりも速く無くなっていく感覚がする。息が荒げはじめる。

 ここで転けたらもう一生、会えない気がする。そう考えると怖くて、恐ろしい気分になった。恐怖に負けないように呼吸を整えて、また漕ぐ。今は自分のことよりも先に会いに行きたかった。

 

 自転車にチェーンもかけずに階段を駆け上がる。水を十分に濡れた靴が嫌な音をたてる。雨の階段で足を滑らしながら、転ばずに登り切った。鳥居の先に拝殿にお辞儀をしている人影が見える。

 

「カミサマ」

 

 息が切れて、声がガラガラになりつつもできるだけ大きな声を出そうとする。自分でも全く聞き取れない声。

 

「やっぱり来たんだ」

 

 声に力が入らず、全く聞き取れないはずなのに、僕に振り返らずに反応した。小声で呟くように言う。悲しそうに、辛そうにも怒っているようにも、色々な感情が混じっているように聞こえる。

 

「ごめんなさい。僕のせいで」

 

「違う、君のせいじゃない」

 

 その言葉を聞いて、カミサマが消える事を確信した。僕のせいで消えると考えると、体が重くなる。今までで一番の吐き気と暗い気持ちが交互に襲ってくるような辛い気持ち。

 

「でも、僕が」

 

 声が掠れて声が出ない。そもそも、何を言えば良いのか分からなかった。助けてくれてありがとう? なんで僕なんかを助けたの?

 言葉は出てくるけど、その中の一つも声に出すことができなかった。

 

「言ったでしょ、水木くんのおかげで私は存在していられたんだよ」

 

「今、名前を」

 

 初めて僕の名前を呼んでくれた。

 ずっと僕のことは名前で呼んでくれなかったのに、嬉しそうに僕の名前を歌うように声に出した。

 

「今日は特別だからね」

 

 大きな声で僕に向かって話している。

 それが雨の音に消されないためか、僕の不安を払うために言っているのどちらかは分からない。

 だけど、カミサマが自分に言い聞かせるために、わざと大きな声を出しているようにも僕には聞こえた。

 

「だから泣かないで」

 

 子どもを心配するような声だけど、その声も何処か震えている。

 僕に近づき、背中に腕を通され、そのまま抱きしめれた。僕はカミサマに抱きしめられると、強く今まで以上に涙があふれる。それに気がついたのか「大丈夫、大丈夫」と声をかけられた。

 

 僕の涙が落ちる度、落ちた場所に雪が溶けてなくなるように、徐々に薄く透明になっていく。足から消えていった体はもう下半身は消えて無くなっている。

 

「あ、そうだ」

 

 ポケットを探している。ほとんど透明になってしまって、話せる時間も後もう少ししかない。どんよりした空の雨が徐々に強くなっていく。僕たちの姿を他の誰かに隠すみたいに視界が悪くなった。

 

 僕の手に何かを握らせてきた。カミサマの徐々に弱くなっていく呼吸を気にしながらも手に握られた物を僕は見る。

 

 あの日に僕が上げたラムネのビー玉だ。

 

「水木くんに持っていて欲しいの」

 

 僕は顔を見上げる。長い髪が邪魔をして良く顔が見えない。顔の方から僕の顔に透明な液体が落ちてくる。

 強い風が吹き始める。邪魔をしていた髪が顔から離れ、僕は顔を覗く。

 

「だからさ、私の事を覚えていてね?」

 

 涙を流していた。

 

 だんだんと風は強くなり、目も開けられなくなった。僕から少しだけ合った温もりが少しずつ無くなっていく。「カミサマ」と叫んでも返事話は無かった。

 風が止み目を開ける。

 

 ――僕の前にカミサマはいなかった。

 

---・-

 

 パソコンのデータを保存し、ファイルを閉じる。

 すぐにブラウザからブックマークに登録していたサイトに入った。

 不思議と手が震えながら、自分のアカウントにログインする。

 

 あの日僕は、どのように家に帰ったか覚えていない。気づいたときには家にいて、病み上がりの僕が突然出て行った事に驚いてい母親が、何も聞かずに、ただ僕にタオルをくれたのを今でも覚えている。

 それから、毎日のように神社に行ったが一度も会えなかった。

 

 震える僕は机の引き出しのビー玉を取り出す。覗くと部屋の照明で今でもキラキラと光り、見る僕に安心感がある。僕の一年間がここに詰まっている様に思えてリラックスできた。

 

 時計の針を見る。もうすぐ時間は夜の七時になろうとしている。

 

 僕は、ファイルに入っていた文章を全てコピーしてから、マウスカーソルをサイトの投稿に合わせ。今度は手が震えることも無い。

 

 この小説をカミサマが読めるかは分からない。けど、一人でも多くの人がこの神様のことを知れれば、またあの頃のように神社に行って話せると、今でも僕は思っている。

 

 ふと外を見ると、青空の下で雨が降っている。まるでカミサマが祝ってくれているようにも、僕のことを受け止めてくれるようにも感じる。そんな天気だった。


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