なんとしてでも、推しは推しとして推したい! けどパンツは見たい!   作:黒マメファナ

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【白鷺千聖】イエロールート(メインルート)
推しのパンツの色は?


 今から嘘みたいな本当の話をしよう。

 俺はひょんなことから、推しのパンツを見てしまった。

 そう推し。俺は応援してるアイドルのパンツを……知っている。あ待って待って、ものは投げないで。別に俺はガチ恋とかそんなんじゃないんだよ。一応ね。

 ひと昔前なら所謂トップオタ、なるものをやっているものとして推しに認知はされたいしなんならされてる。うん俺実は名前も覚えてもらってるんだ……じゃなくて、認知はされたいけどあくまでアイドルとドルオタという線を引きたいって話なんだ。

 だから、推しのパンツを見た件も、覗いたとかそういうのではない。事故だったんだ。

 ──推しの名前は白鷺千聖ちゃん。元子役で女優をやっていたけれど、何かの縁でアイドルと二足の草鞋を履きこなすような人物なんです。小柄なんだけどなんだかオーラがあって、トークイベントやMCでは割と突っ走りがちなメンバーを諫める役割もあるみたいだ。

 

「こんにちは、来てくれたんですね♪」

「そりゃあもう、この日は外せないよ」

「ふふ、バイトばっかりじゃなくて勉強もしなきゃダメですよ?」

 

 イベントではこんな感じ。これがオタクやってる中での優越感でもあるよね。前のやつとかが当たり障りのない会話をしてるのに、俺は……俺は!

 失礼、取り乱しました。同じ高校三年生なったばかりだからこういう話になるんだよなぁ。進路とかまだなんにも決めてないけど。

 ──けど、そのパンツの話があったのはそんな話をした直後のことだった。ライブはいつものように千聖ちゃんの定位置前を陣取って、待機していて、野外ライブに臨んだ。

 だけどライブ中、イタズラな風の妖精が春風を吹かせて……千聖ちゃんの衣装のスカートをバッチリ、捲り上げてしまったのだから。

 

「あ……?」

「──っ!?」

 

 もうね、思わず放心したよ。しかも、黒のアンダースコートならね、ここまで俺も呆けなかっただろうし、千聖ちゃんも動揺しなかったと思う。でも俺が見てしまったのは、その中にチラリと見えた……黄色だった。

 見間違いかとも思った。千聖ちゃんのカラーは黄色だし、衣装も俺が指に四本ずつの系八本で振っていたサイリウムの色も、黄色だったから。

 でもその見間違いでは? という疑念が俺を悶々と変態に姿を変えていった。

 あくまでオタクとアイドル、という差を俺は大事にしていたのに、その日から千聖ちゃんのパンツが頭から離れなくなってしまったのだから。

 

「──というわけで、以上が俺の最近の悩みなんだけど」

「けど? どうしたの?」

「ちょっと千聖ちゃんのパンツの色を聞いてきてよ──というのは冗談だよ、ジョーダン」

「そう? よかったぁ、私も幼馴染の両目を潰したくはないから安心したよ」

「……ヨカッタネ」

 

 それから一週間経たずくらいの頃、推しのパンツの色というバカ丸出しのことで物思いに耽っていたところで幼馴染に心配されて打ち明けたらこのリアクションである。理不尽なり。

 だけどこの幼馴染さん、俺は逆らえない事情がある。なんと白鷺千聖ちゃん(おれのおし)と同じ花咲川女子学園に通ってる、どころか中等部時代からの親友なんですって。

 

「それにしても、変態さんなんだから……千聖ちゃんの、パンツ、だなんて」

「見たのは偶々なんだよ……信じてくれよ」

 

 でもあの日から俺は、俺はどうしても、推しのパンツが見たいんだよ。

 あの時の気持ちを、え? 今のなに? まさか今のパンツ? え、でもまさかそんなことが、じゃああの黄色はなんだったの? っていうモヤモヤをなんとかして晴らしたいんだ! 

 

「でも、今日の千聖ちゃんがその時履いてたのと同じじゃなくないかなぁ?」

「それは……その時の色を聞き出して……待て、ゆっくり話し合おうじゃないかマイフレンド」

 

 すっと、トレイが彼女の頭の上よりも高くなった。命の危険が危ないし危ない。きっとあれだな、後頭部か側頭部辺りを強打すれば記憶が飛んでモヤモヤしなくなるとかそういうバイオレンスなことを言うつもりだなお前。

 

「ん?」

「かわいく首を傾げるな」

 

 この子、黙ってるとおっとり系でふわふわ女子って感じでかわいいし、スタイルもいいしアイドルやれよもうお前もさぁ! って言いたいほどだけど、如何せんバイオレンスなきらいがある。あと無駄にメンタルはゴリゴリのマッチョ。筋肉に換算するとその辺のボディビルよりマッチョ。

 

「女の子にそういうの、セクハラだし、千聖ちゃんが動揺するくらいだから、聴いたらデリカシーないと思うんだよ、私はね」

「まぁ……そりゃそうだけどさ」

 

 でもさ、目の前でかわいい推せる! ってペンライト振り始めて早一年経過する推しのさ、パンツを見ちゃったかもしれないわけだよ。

 だったらそれに対するイエスとノーが欲しいわけよ。あの日のパンツがイエローならギルティ、違うカラーならノットギルティなわけですよ。

 

「……でも、違うって言われたら何色だったんだろうって思わない?」

「……思う」

「変態さん」

「いやでも」

「変態さん」

「……すんません」

 

 そうですね! もう退路ないじゃん俺! でも見たい! ノットイエローなら何色だったのかまで知りたい! 探求心(ロマン)だけが俺の原動力さ! 

 ──と言いたいけど絶対に幼馴染さんに変態さんと罵られるだけなので黙っておこう。俺はマゾじゃないやい。

 

「んー?」

「なに」

「マゾじゃない……?」

 

 あの疑問符浮かべるのやめてもらっていいです? 待ってお前俺のことずっとマゾだと思って接してきたの? え、ひどくない? もう幼馴染やめたいんだけど。

 まぁ、幼馴染はどう頑張ってもやめられないので冗談としても、俺は彼女に千聖ちゃんのことを聞かないという鉄の掟があるため、そもそもパンツの色を訊き出すことは叶わぬ願いだった。

 それは単純、幼馴染さんが知っている千聖ちゃんはプライベートの千聖ちゃん。俺が知ってる千聖ちゃんはアイドルの千聖ちゃん。その二つの解離は悲しいくらいのクレバスを作っている。

 

「変わんないと思うけどなぁ」

「変わるさ。千聖ちゃんだって人間だもん」

 

 本当はオタクのことなんて汚物くらいな認識だとか言われても、そらそうだろくらいにしか思わない。だってオタクってキモいじゃん。キモいイコールオタクみたいなとこあるじゃん。かくいう俺もそのキモい人種の一端なわけだけど、俺はそれで十分だと感じてる。

 いくらプライベートで何を言っていても、俺はあくまでお客さんでしかない。自分だってバイトの休憩とかで客の愚痴を言うこともあるし、それと同じ。

 騙されてるとかじゃなくて、そういう線引きができるのが良いオタクってやつだ。

 

「オタクに良いも悪いもあるの?」

「あるだろ」

「じゃあ、悪いオタクって?」

「オタクにとって都合の悪いオタクのこと」

「えぇ……」

 

 ドン引きされてもそれが事実だからな。俺みたいな認知勢なんて一部のオタクから見たら害悪ここに極まれる、って感じだし。SNSで調べると俺みたいなやつに対する文句なんてそれこそ幾らでも湧いて出てくるし、所詮認知勢とか言ってるけど向こうは義務感のように業務をこなす気持ちで覚えてる、みたいなことを思ってる人も中にはいるようだし。

 

「オタクの世界にも色々あるんだねぇ」

「ホントな、元々クラスでも浮いちゃうような存在が集まってるのに何故かその中で自分達が弾かれたクラスのような()()を求めるような連中だからな、オタクって」

「矛盾してるね」

「まったくだな」

 

 だからと言って素早く順応したり適応したり友達作り上手いと身内から叩かれるという被害にも遭うという矛盾の連鎖が発動するのがこのオタク、特にドルオタ界隈の厳しさである。因みに俺の推しグループであるパスパレは古参がガチでうざい。俺もイベント参加時期的には古参(そっち)側なんだけど、特にボーカルでリーダーの丸山彩ちゃん推し勢が鬱陶しい。

 

「あー、彩ちゃん、前からアイドル研修生だったもんね」

「そうなんだよ」

 

 そんなオタトークになんだかんだ付き合って相槌を打ってくれるいたってパンピー幼馴染さんのバイト先のファストフード店でまったりしていると、とあるお客さんが店内にやってきた。

 ──その顔を確認した俺は素早く幼馴染さんとの相席をやめ隣の席で顔を伏せた。

 

「あら、今日もバイトかしら?」

「ううん、今日はお休み」

「お休みなのにここで食事? 栄養偏るわよ?」

「大丈夫だよ」

 

 まさかの千聖ちゃん(おし)のオフに出くわしてしまうとは。

 いや、この可能性は常に考慮してたんだよ。実は千聖ちゃん、近所に住んでるみたいだし生活圏被ってるしさ。でもね、やっぱりオフの千聖ちゃんはあくまでただの白鷺千聖ちゃんなわけであって、パスパレのベース担当の白鷺千聖ちゃんとはまた違うわけで、プライベートの千聖ちゃんと知り合いになったらオタ活がしにくい。なので俺はこうして身を隠すわけだけど。俺は認知勢だがプライベートでお近づきになりたいわけじゃない。ステージからレスもらいながらサイリウム振っていたいだけなんだよ! 

 

「さっきまで誰かといたの? カレシ?」

「えっ、一人だよ? どうして?」

「……おかしいわね、男の子と一緒だった気がしたのだけれど」

「きっ、気のせいじゃない、かな……?」

 

 おいこら嘘が下手すぎるだろ! そんなことしてるともう迷子になってもフォローしてやんないからな! この方向音痴!

 しかしそんなツッコミ兼罵倒を浴びせることもできずに、俺は千聖ちゃんがあからさまに誤魔化しにきている親友の言葉にそう、と相槌を打った。

 

「私になにか隠してない?」

「かくして、なんか……」

「ちゃんと目を見て言ってくれるかしら?」

「あ、う、ふえぇ……」

 

 もう限界だと思った俺は顔を見せないように立ち去ろうとした、その時だった。

 まぁいいわと千聖ちゃんの声がした。ここまでまじまじと近くでプライベートの彼女がいるのは初めての経験だったけど、やっぱりオフの千聖ちゃんは声のトーンが若干低く、華やかさはあるが俺がいつもオタ活をしてる時に感じるような雰囲気は纏っていなかった。

 チラリと隣を伺うと、千聖ちゃんはさっきまで俺が座っていたところに座って足を組んでいた。

 黄色のシャツに白色のスカート、そこから伸びる細くてキレイな脚の……ついつい太腿から先の、スカートに守られた部分が気になってしまう。こんなこと幼馴染さんに知られたらまた変態さんって言われるなぁ。

 

「そういえば、私、最近新しい下着を買ったのよ」

 

 ──なんですと!? 

 おニューの、パンツ……! そんな唐突でホットすぎて妖精たちが夏を刺激するようなリミットを越えた話題に俺は聴覚に全てを費やすことにした。え、こんなところでまさか千聖ちゃん、オフのすがたからネタバレみたいなことが待っているとは。あでも待ってやっぱりよくよく考えたらパンツの色とかガチのプライベートであって俺の求める千聖ちゃんではない気がするからやっぱり知りたくないよね、うんそうだよね! 

 

「これなんだけれど」

「あ……」

 

 やめろお前、その反応で俺は察しちゃうだろ! 

 結局、俺は目を塞いでなるべく耳も塞いでいたのに、あの時見たものが事実だということを知ってしまった。

 俺は推しのパンツをうっかり、見たんだな。

 

「いい反応をありがとう、やっぱり確信が持てたわ♪」

「え、えっと……千聖ちゃん?」

 

 立ち去っていく千聖ちゃん。ほっと一息ついて俺は身体を起こすと、目の前にスマホが置かれていた。

 ──そこにあるのは先程幼馴染さんに見せていたと思われる上下セットでひぃふぅみぃ……ってこんな高いのかと思わず値段を見てしまった黄色いショーツとブラの購入画面。

 

「こんにちは♪」

「え……えっと?」

「そんなまるで初めて会うような反応はやめましょう? いつもイベントに来てくれてありがとう」

「……はい」

 

 そのスマホの持ち主は勿論、俺の推しの白鷺千聖ちゃんで、すごくにこやかで、まるでお渡し会のイベントの時のような笑顔を俺に向けてきた。これがプライベートの千聖ちゃん、なら良かったんだけどなぁ。そんなわけないんだよなぁ。

 

「見たのよね?」

「何をでしょう?」

「コレ」

「暗がりだったので」

「別に私はライブ中に風が吹いてスカートがめくれてしまった時、とは言ってないわよ?」

 

 語るに落ちたよ、そもそもお渡し会やイベントの時にある机、つまりはオタクとアイドルを隔てる壁がどこにもない上に、すぐ近くに推しの顔があるとかある意味どんな拷問より辛いよ。息すらしにくいよ今の状況。

 

「やっぱり、見られていたのね」

「あの……ご、ごめんなさい」

「いいのよ、事故だったのだし、あのアンダースコート、少し小さかったのよね」

 

 ああ、推しの声が推しじゃない。辛い。

 いつもよりやや冷たさのある声でそんなことを淡々と呟かれ、俺は若干死にたくなってきた。推しはいつだって甘く元気な声を想像したいじゃん。こんなサバサバした口調とか望んでないんですよ。

 

「……私、嫌われているのかしら?」

「それはないんじゃないかなぁ……? さっきもすごく千聖ちゃんのこと熱弁してたし」

「そう」

 

 余計なこと言うんじゃねぇよぉ! お前さ、実際に誰かもわからん、どころか絶対手が届かない女に対してお金を貢いで、営業スマイルでメロメロになっちゃうゴミクズ厄介クソオタクに自分のこと熱弁されてたって聞かされて嬉しいと思うの? キモ、の一言で終わるでしょ!? キモい自覚はあっても推しからキモいと言われたら俺は明日からどうやって生きていけばいいのさ! 

 

「そうそう、今私、コレ履いているのよ」

 

 ──はい? イマ、ナンテ、ユッタノ? コレ、ハイテル? 

 コレってまさか俺が値段をバッチリカイガン! で凝視したあのショーツのこと? なんで今教えたの? なに? お金が目的? あれですか、脅されてお財布にされちゃうのかな? そんなことしなくても基本的にバイト代の99.99パーセントは千聖ちゃんにつぎ込んでるんですけどね? 

 

「ふふ、なぁにその反応……見たいの?」

「見た──っくはないです!」

「その嘘で誤魔化すの……無理じゃないかなぁ?」

 

 黙らっシャラップ! 見たいとか言ってうわキモとか言われたら俺は今すぐサイフを投げ捨ててこの場からいなくなっちゃうくらいにメンタルと心臓ヤバいんだから余計なことを言うのはやめてくださいお願いしますこんどカフェとかマジで全額奢るからさぁ! 

 

()()()()()()()……卑屈ね」

「でしょう? 困っちゃうんだよねえ……」

 

 え? ええ? 話に? 聞いた通り? なにその日本語、ワカラナイ。

 あーでもプライベートのだもんな、幼馴染さんとはプライベートな親友同士だから、お互いの交友関係について話すこともあるだろうね。そこで彼女は俺の名前を出して、千聖ちゃんは俺のことを知っていた……!? 

 

「ん、つまり認知してくれたのって……」

「あら、気付いていなかったのね?」

「……マジかぁ」

 

 どうやら俺は、白鷺千聖ちゃんガチ推しオタクには成れていなかったらしい。

 ──ただ自分の親友の幼馴染、それだけかぁ。思った以上に近いところに置かれていたという虚無感が俺の身体を包み、千聖ちゃんは立ち上がった。

 

「また、会ってくれるわよね?」

「……イベントだったら、どこへでも」

「ふふ、そうじゃなくて……もう、落ち込まないで?」

 

 まるでサンタさんが親だと知ってしまった子どもをあやすように、千聖ちゃんは俺の手に触れてきた。これまで何度も握手をして触れてきた千聖ちゃんの手。すべすべで、びっくりするくらい白くて、キレイな手。そんな手が俺の手を運んでいくから、つい視線が誘導されていく。

 その先に待っているものを、考えもせずに。

 

「え」

「……トクベツよ? これで元気出して」

「は……?」

 

 俺の手を捕まえた千聖ちゃんの手が、白いベールを捲り上げて俺の前にいつか見たものよりハッキリとその全貌を現した黄色を、あろうことか晒してきた。

 アングル的には幼馴染さんには背中を見せて、俺にだけ。何の意図があるのかと呆けたツラで推しの顔を見ると、人差し指を口に当てて、ウィンクをしてきた。

 ──ヒミツ? 俺とプライベートな秘密の共有? なんで? どうして? 整理整頓という言葉を忘れた俺の脳内が処理落ちして再起動状態になってしまう。

 

「今夜十時、連絡するわね……」

「は、え……」

「あなたに、興味があるの」

 

 ──俺は、推しのパンツを見てしまった。というか推しにパンツを見せてもらってしまった。いやこんな話秘密というかそもそも発信してもはい妄想乙の一言で片づけられるからな? 

 今まで、アイドルとオタクという次元の隔たりと相違ない壁に阻まれていた俺と、白鷺千聖ちゃん。

 でもやっぱり、次元の隔たりなんかないんだなと思い知らされる、始まりだった。

 認知厄介千聖ちゃん推しのドルオタが、望んでいたとは言えパンツを本人に見せてもらい、あまつさえ、連絡が来るという急展開に、俺は全く感情がついていってなかった。

 まぁでも、たった一言、俺は言おう。これは言わないと失礼な気がしたもんね、やっぱり。

 だから言おう、高らかに、ヒーローインタビューのように! 今のお気持ちは! 

 ──最高です! もうこれ優勝でしょ! 

 

 

 

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