なんとしてでも、推しは推しとして推したい! けどパンツは見たい!   作:黒マメファナ

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推しの生誕を祝おう! 声高らかに!

 春になり、俺も大学生になりました。

 そんなおめでたい春の日に俺は……イベント会場へと足を運んでいた。いや、待ってほしい。この春イベは大事なんだよ。なにせ、なにせ今日は今日だけは風邪引いてでも、出なきゃいけないんだよ! 

 

「みなさん! 今日は集まってくれてありがとうございますっ」

 

 そう、白鷺千聖ちゃんのバースデーイベント! 推しの誕生日を祝わなくてなにがドルオタか! なにが認知厄介勢か!

 とまぁ大学生になってすぐ、こうして推しのイベントにやってきたわけです。直接……ってわけじゃないけど、推しにおめでとう、って言えるなんて最っ高のイベントだぜ! 

 パスパレはパスパレで追ってるけど個人イベントは基本的に千聖ちゃんだけ、時折彩ちゃんのイベントとかに誘われて行くけど。やっぱり俺は推しに99.99%を注ぎ込むんだよ。

 

「グッズいっぱい買いましたね」

「まぁ、推し単独イベントはよりサイフの紐緩いしね……」

 

 彩ちゃんがゲストで来てくれて、色々なトークが聞けて、二人で歌ってくれたりもして、色んな企画に俺も一緒に来てくれたパレオちゃんも大満足そうだった。連番して二人でわちゃわちゃしたり、仲がいいところを存分に見せてくれたしね。

 

「ん? あー、ちょっと待って電話だ」

「……もしかして」

「そのもしかして」

 

 パレオちゃんがちょっと離れてくれる。覗き見防止フィルターを張ってある俺のスマホに電話を掛けている相手の名前はもちろん……ちょっと前にできた俺のカノジョさん。ただしほぼ誰にも言えない秘密のカノジョさんだ。

 

「もしもし」

『もしもし』

「……なんで怒ってるの?」

『怒っているように聞こえる、ということはなにかやましいことがあるのね千紘?』

 

 やましいことって言ったらここでこうやってあなたと電話してることだよと言ったら確実にへそを曲げられるので口を噤んでおく。

 ──はい、電話の相手は白鷺千聖さんです。ウチの彼女は千聖さんなんです。

 

「千聖さんは怒ってる時の口調わかりやすいから」

『千聖……さん?』

「え、いや……あの」

『千紘、いつになったら慣れるのよ』

 

 棘のある声がする。別に呼び方に対してはそれほど怒ってるわけじゃないんだろうけど、約束したことができてないから咎めてるって感じなんだよね。

 特にこの、電話になると余計に慣れないよ。しかも一応、俺の推しでもあるんだからね。

 

『もう一度ちゃんと呼んでみなさい』

「ち……千聖……」

『千聖よ』

「うん」

 

 千聖さんは今度は満足そうに名乗ってくれる。告白……にしてはアレなことを言ってから数ヶ月、千聖さんはまるで何もかもが変わったかのように俺と恋人としての時間ややり取りを求めてくるようになった。

 ──なにが一番びっくりしたって千聖さんが甘えてくる。ぎゅってしてとかキスしてとかめちゃくちゃ甘えてくるところね。変わらないところはパンツ見せてくれるところ。相変わらず見せたがりの変態認定が抜けないところだよ。

 

『ところで千紘』

「なに?」

『オタクとして推しの誕生日を祝う気持ち悪い千紘は見れたのだけれど、カレシとしてカノジョの誕生日を祝う気持ち悪い千紘は見れてないわよ』

「どのみち気持ち悪いんだ……」

 

 そりゃそうよと千聖さんはちょっとだけ楽しそうに笑う。いやいや当然さ、カノジョの誕生日にカレシとして何もしないわけないじゃん。推しは推しとしてブヒブヒとお祝いするけどそれとは別にちゃんとカノジョさんをお祝いしたいって気持ちはあるよ。

 

『それじゃあ楽しみにしてるわね、終わったらどうしたらいいのかしら?』

「え、今日?」

『……今日じゃなきゃいつするのよ』

 

 えっと、今日はてっきり事務所とかパスパレメンバーとかでお祝いすると思ってたんだけど違うの? 

 どうやら千聖さんはちゃんと予定を空けていてくれたらしく……というかよく空けれたね。

 

『千紘が全然プライベートで会ってくれないもの』

「い、いやそりゃそうでしょ……」

『私は、あなたの恋人なのだけれど?』

 

 うわ、今度こそ明確にお怒りになられた。そう、千聖さんはこういうとこあるんだよなぁ。

 一応俺から告白っぽい変態発言をしたわけだけど、あくまで推しは推しとして推したいってのが俺の意見であってアイドルとして活躍する千聖ちゃんを応援するオタクでありたいって想いがあるから、どうしても付き合っているっぽい雰囲気を出さないようにしてるんだよ。

 

『どうせ帰り、パレオちゃんの車でしょう? 私も乗せてもらうから待っているように言っておいて』

「え、ちょっと千聖さん! うわ……切れた」

 

 後が怖い……というかケーキとか用意したかったのにできてないんだよね。いやまぁオタクとして個人的にお祝いするケーキはパレオちゃんと二人で計画して予約したんだけど。それは二人で食べる用だし……ああもうどうしよう。

 

「──というわけでパレオちゃん、いいかな?」

「パレオは構いませんっ……千聖ちゃんが、車に……おなじ空間に」

 

 おいこらオタク。推しアイドルとの同空間を想像して勝手に昇天するな。けどまぁある意味最強のプライベート空間だからいいのか……いいのか? パレオちゃんいるからまぁ自重はしてくれるだろう。なにせ千聖さんだ。幾らなんでも二人きりでもないのに俺にくっついて離れないとかそういうことはしないだろう。

 

「ごめんねパレオちゃん。しばらく会えていなかったから、許してくれるかしら?」

「いえいえお構いなく! 存分に!」

 

 ──と思っていた時期が俺にもありました。車に乗り込んで発進した瞬間に千聖さんは弾けた。一瞬誰だと思うほどかわいらしい小動物がそこにいた。そうなんだよね千聖さんって小柄なんだよね、普段は堂々としてるせいか芸能人オーラのせいかそうとは思えないんだけど、小さな身体いっぱいにくっついてきて、さっきから千紘、千紘って俺の名前ばっかり呼んでる。語彙力すら失ってるよこの人。

 

「千聖様もこうなると、すっかり女の子でございますね……」

「普段からもう少し恋人らしくしてくれていたら、ここまで甘えなくてよくなるのよ?」

「……あのね、それはさ」

 

 言い訳をしようとしたらむっとされてしまった。あの、そんなに睨まないでいただけます千聖さん。俺が悪かった、悪かったから! ああもう、かわいいなこんちくしょう! といつも折れて俺もこうなると甘やかすんだけどさ。

 

「千聖さ……んん、千聖、はアイドルなんだし、普通は難しいよ」

「けれど、私は千紘の恋人になれたのよ? なのに放置されてばかりだわ」

「ヒロ様は過剰すぎるきらいがありますし、そもそもヒロ様はヘタレなので」

「そうね」

 

 そうねじゃないそうねじゃ。ただパレオちゃんの言葉はある意味的確なのかもしれない。千聖さんのこと呼び捨てにすらできてないし、なんやかんや恋人としての愛の育みは一応順調……というかそもそも付き合う前にキスとかしちゃってるから今更というのもあって順調なんだけど、それも千聖さんが俺の家に来て初めて成立するし。だから実はデートに一度も行ったことがないんだよね。

 

「デートに行ったことがない、というのは致命的だと思います」

「そうよ、飽きて別れを切り出すわよ」

「それはないでしょ」

「そこばっかり強気じゃ意味ないのよ」

 

 あと俺に飽きて別れを切り出すって的確にトラウマ抉ってくるのやめて。それはないとは言ったけど今心臓バクバク言ってるからね? 俺、千聖さんにまでそれされたら女性不信になりかねないからホントにやめてね? 

 

「冗談よ冗談」

「言っていい冗談と悪い冗談があると思う」

「今日は赤色よ」

「……それは、冗談?」

「ヒロ様……その視線の動きはさすがのパレオも軽蔑したいところです」

 

 うっ……それを言わないでくれませんかねパレオちゃん。確かにすーっと目線が千聖さんの美しいおみ足の方に誘導されてしまったけどこれは千聖さんの視線誘導(ミスディレクション)であってオーバフローされちゃったんだよ。

 

「パレオはこれですよ」

「対抗してこないで」

「パレオ、ヒロ様が満足できるサービスを提供することをモットーとしているので!」

 

 髪の毛を指したパレオちゃん……いや、それが知りたいわけじゃなくてね? ううん、なんて言ったらいいのかな? 色々ツッコミたいことあるんだけど、えっととりあえず俺が言いたいことはただ一つだ! 

 

「パレオちゃん」

「なんです?」

そんなカンタンに色とか教えちゃダメだよ(ごちそうさま)!」

「千紘?」

「痛いっ!?」

 

 しまったつい本音が! 千聖さんがめちゃくちゃ怒ってる! そりゃそうだ、カレシが他の女の子の、しかも中学生のパンツが髪色と同じツートンの恐らくボーダーだったからと言って喜んでちゃダメだよね! でもだからって爪が食い込むほど腕を握るのはどうかと思うんですよごめんなさい! この通り反省してるから! 今度から千聖さんのパンツだけに興味を示すから! 

 

「……嘘だったらもっと怒るわよ」

「うん……ごめんね」

「……それでいいんですか」

 

 いいんだよ、だって千聖さんが納得してるんだから。というかなんで千聖さんといいパレオちゃんといい花音といい、こうパンツの色を自己申告してくるんだろう。なにこれがトレンドなの? そんな変態的な社会になっているっていうなら俺は明日からどうやって生活していけっていうんだ。

 

「そんなわけないでしょう」

「だよね」

「私はただ……好きな人に、私で興奮してほしいだけよ」

「それは乙女心? それとも変態?」

「乙女心、でございますね」

 

 いやいやいやいや、乙女心が爆発してパンツ見せるの? なにそれ超嬉しい……じゃなくて問題でしょう!

 だけど千聖さんはそういうことよ、とか言って誤魔化してくる。パレオちゃんはパレオちゃんでパレオは乙女心ではなくご主人様への忠誠のようなものですとか言い出した。それはそれでなんだかアッチ方面の妄想を中学生でするという最低な男が出来上がるのでやめなさいマジで。そんなことを言っている間にもう見慣れた景色になってきたな。

 

「そういえば例のケーキ、おうちにお届けしておきましたので、どうぞお二人で」

「えっ、ちょっと待ってパレオちゃん?」

「ケーキ? それは嬉しいわね、千紘が?」

「はい! ひと月も前から計画していたんですよっ」

 

 それは計画してたけどさぁ! だから言ったじゃんか、それはオタク臭バリバリの痛ケーキなんだってば! というかパレオちゃんも中身知ってるよね? ヤバイことくらいわかんないのかな? わかんないんだね? 

 

「それでは、ヒロ様、千聖様、良い夜を」

「ありがとうパレオちゃん……さて、行きましょうか♪」

「ええ……うん」

 

 はは……どうしたらいいのかな。もう、なんとでもなれという思いで俺は千聖さんをリビングに招く。そのタイミングでパレオちゃんからの連絡には、冷蔵庫にお入れしてありますので、とのこと……ん? ところでなぜパレオちゃんは俺の家に入れるのだろうか? 気にしちゃだめか。

 

「どんなケーキなのかしら?」

「えーっと……その」

「ん?」

 

 それは小さないちごのホールケーキ。ホワイトチョコレートには千聖ちゃんお誕生日おめでとう! という文字……そして、その中央には千聖ちゃんの写真を模写してもらっていた。しかも以前の撮影会のツーショット、もちろん通常版。

 さて、これを見た普通の恋人はどう思うだろうか? 普通なら呆れるか別れるかの二択なんだよな。

 

「……これは」

「えーっとね、これは……」

「そういうことね。まったく……パレオちゃんもあなたも」

 

 ──だが、千聖さんは普通の恋人じゃない。これを見て呆れることはあれど嫌うことはない。というかこれをするという意味を知っている。気持ち悪い……くらいは思うだろうけど、それがオタクってものなんだという理解がある。それだけで俺はすっかり安堵した。

 

「それで、誕生日プレゼントなんだけど……」

「なぁに……あ、ふふ、かわいらしいわね」

「あとさ次、空いてる時でいいから、俺とデートしよう。行先とかは言ってくれたら、俺一人の力じゃ無理だけど連れていける。だから」

「……ええ」

 

 そう言って、犬のぬいぐるみを千聖さんはぎゅっと抱えて微笑んだ。本当にかわいらしいんだよね、こういう時の千聖さんって、本当に最高だよ。俺、この人のカレシでよかったって思える一瞬だ……と思ったら、次の瞬間には俺は押し倒されていた。

 ──なんで? 

 

「ところで、赤、なのだけれど……ほら」

「ず、ずいぶん……派手なやつだね?」

「でしょう? 結構値段も張るのよ、これ」

 

 そう言って千聖さんはワンピースをめくり、上のボタンを外してブラとショーツを惜しげもなく見せてくれる。うーんと、それって所謂……しょ、勝負下着、というやつでは? しかもカラーは情熱のレッド、これはつまり? 

 

「ええ、勝負下着よ。誰かさんが一向に手を出してくれないから、この間買ったばかりの新品なの」

「……手を、出しても?」

「なに言ってるの? 私は千紘のなに?」

 

 推しです。と反射的に答えそうになって慌てて口を噤んだ。違う、違うんだ。多分、この答えは間違ってる。というかこれは一度間違えてる質問でもあるよね。

 ──なら正解は、もちろん推し以外ならこれしかない。

 

「千聖は、俺のカノジョだよ。世界で一番、大事で好きな人」

「なら……いいじゃない。このままじゃ処女を拗らせてしまうわよ、私」

「それは困るね」

 

 改めまして、誕生日おめでとう千聖さん……じゃなくて千聖。

 俺は、推しとしてのあなたも、恋人としてのあなたも、いつもいつまでも愛しています。そしてなにより大事な千聖に愛してもらえることが、今はとてつもなく幸せだ。

 これからも、大好きだから、どうか一緒にいてくれたら嬉しいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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