なんとしてでも、推しは推しとして推したい! けどパンツは見たい! 作:黒マメファナ
推しのパンツが見えた!?
推しのイベント! 俺にとってのご褒美がやってきた! 今回は新曲のリリイベで、トークとミニライブ、それと購入した分推しと個別に握手ができるって寸法だ。オタクとしてこんな推しと近づけるイベントにでないことがあろうか、いやない。
しかも何がって俺、推しに認知されてるから。そうだよそんじょそこらのオタクとはキモさがダンチなのです。
「あ、ヒロくん! 来てくれたんだ!」
「外すわけないよ」
「えへへ、いつもありがと! 今日は何枚?」
「二十枚くらい? 次のイベントとプレゼントに迷ってさ」
「えー、受験生大丈夫?」
これです! 見なさいオタクくん! 認知勢は厄介とかなんとか言うけどこの対応の差なんです。
まぁここまで認知勢と非認知勢で対応が変わる人物はパスパレだとウチの推しくらいなもんだけどね。最初の方にみんな一通り回ってるけどやっぱ推しは推し! 格別なのです!
ちなヒロくんとは俺のことだがSNSの名前で、本名は白崎千紘、なんだか白鷺千聖ちゃん
に似てる名前だねと推しからは言われております。俺もそう思う。
「大丈夫、幼馴染に見てもらってるから」
「へぇ……あ、かの……」
「ん?」
「ううん! なんでもないっ」
今幼馴染さんの名前言いかけた? またトチった? そういう目で見ると推しはうう、ごめんと目線で謝ってくる。はいかわいい。最高でーす!
というわけでこう認知勢としては優勝してるオタクなんですが、これがSNSでは嫌われ者だったりする。
俺の推しは結構長い間、それこそ小学生高学年頃からアイドル研究生として事務所に所属していたらしい。その時代からのロリ……もとい古参ドルオタから俺の認知勢による自慢レポにクソリプを送りつけてきたのが始まりだった。あれよあれよという間に燃えに燃えて、しばらく別アカウントでの生活を余儀なくされるほど大変だった。オタクってキモいよぉ、ふえぇ。
「あ、ヒロさんこんにちは!」
「パレオちゃんどうも」
「はい!」
けどそんな俺を救ってくれたのがこのツートンツインテ少女、パレオちゃん。オタ仲間として仲良くしてくれて、俺が当時探していたフットサルのコミュニティも紹介してくれた優しい子だったりする。身長が高く大人びているが今年中二になったばっかりだとか。
「前半戦いかがでしたか?」
「最高かな。というか逆に受験生なのに積み過ぎって怒られたよ」
「羨ましい限りですね」
そうだよね。だってお客である以上積めば積むほど収入になるしね? 制限する必要がないんだけど、こうやって窘められるくらいには普段の頻度と積み方がアレってこと。まぁ俺の場合別の理由があるんだけど。
「この後ライブまで時間ありますし、ご飯でもいかがですか?」
「んー」
どうせボッチで牛丼辺りだと考えてから正直飛びつきたいくらい嬉しい内容だね。どうしようか。パレオちゃんこう見えて……といってはなんだけどかわいいから本人が意図せずにすぐ囲われるんだよね。ツートンツインテですぐ目立つし。
ちょっとだけ悩んで、俺はいいよと返事をした。誘われて断るなんて失礼なことをしてはいけないことを俺は去年で散々学んだので。
「どうする? お昼だから軽め?」
「そうですね、蕎麦なんてどうでしょう?」
「いいね、決まり」
そんな風に話しているとスマホから軽快な短音がメッセージを通知してくれる。こういう時には音を分けている俺としてはその音にちょっとだけ大丈夫かなと思いながらロックを解除した。
『さっきはごめんね!?』
内容はこんな感じ。もっと絵文字とか顔文字だらけだけど。その後に小型犬が涙を流して震えているスタンプが送られるから、大丈夫だよと返事をしておいた。SNSでサーチするクセが移っちゃってるなぁ。気を付けよ。
「幼馴染さんからですか?」
「ううん、友達」
「そうですか」
花音からは終わった頃に連絡が来るからね。友達って言うとアレだよねフレンドなんてフットサル仲間か花音繋がりの女の子くらいしかいないけど。あともうひとり……友達? 紗夜さんはただのシスコンなので知らない。
「随分と、半年程で雰囲気が変わりましたね」
「そうかな?」
「はい、明るくなりました」
嬉しい事を言われた。うん、俺もそう思ってきたところなんだよね。もう別れたばっかりの頃みたいな俺はどうせキモオタなんだから、みたいなメンタルではなくなった。だからこそこうやってパレオちゃんと二人でご飯なんて行けるんだけどさ。絶対別れたばっかりの頃だったら俺なんかが、って断ってたと思う。
「ヒロさん」
「んー?」
「神戸のライブはどうされますか?」
「あー流石にスルーしちゃった」
その会話は蕎麦を注文して舌鼓を打っていたところだった。
神戸ってめちゃくちゃ遠いんだよねぇ。流石に交通費も宿泊費もでないもん。ええーとか言われたけどそこはホラ、俺だって一応この春から受験生なわけですよ。フットサルにバイト、オタ活で忙しい俺がそれでも大学通おうとしたらそれこそ遠征にまでバイト代は懸けれない。
「やっぱり。でしたら是非、パレオと連番致しませんか?」
「れ、連番って、相方は?」
「ですから今、誘っているのです」
連番て。お相手そこら中にいるでしょ。そう思ったけどパレオちゃんから更に交通手段用意宿泊施設用意という格別とかいうレベルじゃない条件を叩きつけられた。殴られてる。女オタに貢がれてないこれ?
「新幹線だよね?」
「はい。往復の新幹線と会場まで車も」
「破格……すぎない?」
「
パレオちゃんはすごく真剣に俺をまっすぐ見てそう言った。思わず蕎麦を思いっきり飲み込んでしまう。
というか新幹線往復隣同士、車の席同じ、会場連番って俺パレオちゃんの囲いにブロックされそうだね。
「そんなのっ、構いません! パレオは真にオタクとして、同じドルオタとして語らう相手や尊敬できるヒロ様が全力でオタ活できるようにしたいので!」
構わないって、まぁ確かに俺が友人だと思ってる人にパレオちゃんのガチ囲いはいないけどさ。姫を守るナイトさま方に嫌われると割と鬱陶しいんだよね。
けどまぁそんな体裁とか小さな意地よりもなによりも優先されるのが推し事。俺はありがたく提案を受けることにした。
「ところで、なんで様付け?」
「あ……えっとなんというか、おもてなしをするお客様、という感じがしてつい」
「そうなんだ」
物腰がお嬢様じゃなくてメイドですねそれ。だけどパレオちゃんは様付けがしっくりくるようでヒロ様、と呼ばれてムズムズする。姫プじゃなくてまさかの囲われてる? 因みにお昼代はパレオちゃんが一括で払われてしまった。電子マネーカードにギリギリ上限の金額入ってた気がするんだけど……お金持ち怖い。
「それではまた、お帰りも是非ご一緒できればと思います」
「そうだね」
「はい!」
女の子一人で帰るにはちょっと心配だし、と思って了承した。かわいい後輩に懐かれてしまった感じだ。中学の時、部活やっててマネージャー……えっと元カノじゃない方のマネージャーね。その子がああいう雰囲気だったなぁと思い出した。卒業式の時はもう辞めてたのに学ランのボタンパクられたし、今思えば懐かれてたんだよね。
そんなどうでもいい過去回想をしているとスマホが鳴った。もうトーク&ミニライブ始まるってのに大丈夫なのかと周囲をちょっとだけ気にしながら確認する。
『終わったら、ファストフード店行くよね?』
行きますとも。ウチのかわいい幼馴染さんが頑張ってるからね。
相手に行くことを伝えるとちょっとお話してもいいかなと送られてきた。いいけど、なんかあったの? まさかコレがバレたとかじゃないよね?
そんなことを考えながらいいかなってか話しかけてくるでしょとOKのスタンプを送り、しばらくしてからステージの音楽が変わっていく。
進行のスタッフさんがパスパレの名前を呼んで五人が舞台袖からやってきて、オタクとなって歓声を上げる。
「彩ちゃーん!」
推しの名前を叫ぶと彩ちゃんはパっと俺の方を見てちょっとだけ照れ笑いをしながら手を振ってくれた。はい勝った。優勝ですよこれは。
今日は野外でちょっとだけ風が吹いてるこのステージで寒そうだけど大丈夫かな。けどトークはつつがなく進行し、そしてライブが始まる。と言ってもCDの曲を披露するんだけど、パスパレはアイドルとバンドの融合、聴くのと見るのだとちょっと臨場感や迫力が違うのが特徴だ。
「それでは聴いてください!」
盛り上げ盛り上がる。ちょっと時折風が吹いてそのヒラヒラとスカートが揺れるところでオタクがざわめく。今日はアンダースコート見える率高いよね。俺の推しは踊るから割と回ったりすると見えちゃうんだけど、今日は日菜ちゃんとか千聖ちゃんも見えたっぽかった。
「……っ!」
間奏中、バッチリ目が合った瞬間にスカートがめくれて、彩ちゃんがちょっとだけ慌てて抑えた。うーんこの時期に野外する事務所ってクソだな。それともそういう路線? どのみちだけど。別にごちそうさまでしたとか思ってませんよ。ちょいちょいレス飛んでくるけど刺々しい。やめて、後の個別トークが辛いから。
「見たの?」
「そこでどう答えたら彩ちゃんに怒られずに済む?」
「嘘つくか見たら、かなぁ?」
それどっちも怒るんじゃないですか。うわーん、結局頬を膨らませて次の周、普通の対応するからと言われてしまった。ひどくない? 推しに塩対応されるとか俺に死ねと? しかも俺だけじゃないのに俺だけ。
「あ、初めまして~!」
「やめて」
「えー、どうしたんですか? あっ、ごめんなさい、もしかして前来たことありましたっ!?」
「こんなひどい対応ある!?」
マジでやってきた。これがアイドルの実態ですよ! 別にパンツ見たわけじゃないじゃん! 男なんだからスカートひらり翻して走り出されたら心の中でフゥフゥ、ってコール入れたくなっちゃうじゃん! 何しても許される年頃なんだよ! それとも気持ちが風になれたら彩ちゃんにきっと伝わるの? 世界で一番推してるんだけど?
「むぅ」
「いやごめんって」
「後でポ……あ」
「おい」
相当怒ってるせいでそんなポロっとミスをしていた。幸い小さな声だったから誰にも訊かれずに済んだっぽいけど。
それからは怒って対応したらまずいと言われたのかちょっとスマイル少なかったけどいつもの対応をしてくれた。他の人にもやってるんなら俺も文句ないけどさ。絶対認知してる人に初めましてってぶっこんできたの俺だけだよね? そんなオンリーワンはマウントも取れないよ?
「それでは帰りましょうか」
「うん、パレオちゃん最寄駅は?」
「車です」
「……はい?」
「迎えが来ているので、コチラです」
帰りはオタクでぎゅうぎゅう詰めの電車ではなくパレオちゃんと思ったよりも広々スペースの車で快適な、しかもMVとか見ながらの楽しい帰り道となった。流石に汗掻いたし一旦家に帰ってシャワーを浴びて、オタクの勝負服、ライブTシャツとコラボパーカーをキャストオフ、そしてただのインナーシャツとアウターシャツ、そしてカーディガンをプットオンして再び出かけた。
「あ! 先輩! こんばんは~」
「ひまりちゃん、こんばんは」
「花音さん呼びましょうか?」
「いやいいよエビバーガーのセット、あ、ポテトはエルで、後白ブドウジュース」
「はい!」
幼馴染の後輩ちゃんである上原ひまりちゃんが応対してくれる。先輩とか呼ばれてるけど高校一緒じゃないよもちろん。羽丘ってところらしくて、パスパレだと日菜ちゃんと麻弥ちゃんが通ってるところ。
というかここが芸能事務所にかなり近いお膝元のせいかパスパレメンバーの出没率が異様に高い。そもそもこの辺に住んでる気もする。
「お待たせしました~。ポテトは後からお持ちしますね」
「ありがと」
「ごゆっくりどうぞ!」
ポテトは揚げたてをくれるらしい。常連で知り合いが多いということの特典だ。ジュースを飲みながらSNSをチェック、なにやら気になる発言をしてる人がいたけど、リプライが見れない……ブロックされてるのか。まぁそれはいつものこと。でもね、俺はブロックされても正直しょうがないところがあると思うんだ。
「ポテトお待たせ」
「花音、ありがと」
「うんっ」
ポテトを届けてくれた幼馴染さんに手を振って、ポテトを齧っていると。あーもう食べてると声がした。いやいいじゃん。俺のお金だし、わざわざLサイズにしたんだからと両手の空いていないその子に向けて一本、ポテトを差し出す。
「ん~!? あっつ」
「できたて」
「さ、先に言ってよぉ!」
「ごめん、飲む?」
「飲む!」
あ……そっちはLじゃない。そう言うまでもなく大分飲まれた。ひど、この子めっちゃ俺に容赦ないよね? なんなの? サドなの?
一通り落ち着いたらしい彼女は向かいの席に座る。お疲れと声を掛けるとそっちも推し事お疲れと笑みをこぼす。
「なんでビミョーな顔してるの?」
「いや……何て言うか、
「えー、そういうもの?」
そういうものなんだよ。
眼鏡をかけて、控えめな化粧をしている、アイドルとして活動してる最中はツインテの髪を下ろしたキラキラの美少女。丸山彩がここにいた。
彩は彩ちゃんのプライベートの姿。雰囲気や会話していてさほどの違いはないが、やっぱりアイドルモードよりフツーの女の子っぽいので俺は呼び分けてる。待って物は投げないでください。そうだよね、推しとプライベートで知り合いなんて本来なら死罪に値するよね。でも違うんだよ! 別に知り合いたくて知り合ったんじゃなくて幼馴染さんのバイト仲間で友達だったからなんだよ。
「千紘くんもう一本」
「自分で食べてください」
「冷た!」
「はー、推しだからってプライベートまでチヤホヤすると?」
「ひど!」
最初こそチヤホヤしましたよ。話しかけてくれるし本名呼んでくれるし最初は勝ち確! ってテンション上がったよ? でもプライベートで会ってそろそろ一年になろうというこの頃に彩の残念さやドジを目の当たりにして、こう普通にフレンドとして過ごすとつい、彩が推しであることを忘れそうになってこの対応になる。
「はい」
「結局くれるんだ」
「お疲れの気持ち」
「ありがとう?」
それにしても今日は呼び出しを受けたんだけど、まさかあのことですか? そう思って彩を見ると、小動物のようにポテトを咀嚼した後で、思い出したかのようにふくれっ面になった。やっぱ小動物、げっ歯類みがある。
「私のスカート覗いてニヤニヤしてた」
「ニヤニヤはしてないでしょう」
「してたもん! ゼッタイ!」
というかステージからそこまで見えるもんなの? まぁ即座にレス送ってくれるくらいには見えるんだろうけど。当てずっぽうで言ってるよね? それよりも俺、二回ほど個別トークの時にトチられてるんだけど。
「うっ……あれは」
「バレても知らないからね。俺は無関係ですーって言い張って別の子推すから」
「ひ、ひどいよ~!」
後でポテト奢ってって握手しながら言われたコッチの気持ちにもなってほしい。流石にヒヤっとしたもん。そうやって一通りのイベントの話を推し本人として、花音に彩送ってくねと声を掛けた。
「送ってくれなくても別に……」
「俺の気持ちの問題だからいいんだよ」
「……うん」
また次のイベントやレッスンの話を聞きながら、彩の頑張りを身近で感じているとすぐに彩の家が見えてきた。それじゃあ、と彩はちょっとだけ名残惜しそうに手を振ってくれる。ファンサ? とか茶化すと怒る彩はやっぱり推せるなぁ。プライベートでもアイドルとしても。そんな時だった。イベント時からずっと吹いていた春風が急に突風を吹かせた。
「きゃ──あっ!?」
「……あ」
ふわりと、ピンク。かわいらしい意匠の入った赤いリボン、やべガン見してしまった。慌てて抑えるも時既に遅し。脳内メモリに激写保存、明日の夢週刊誌の一面は確実であることだろう。
「見っ……見た、よね?」
「……見えた」
「変態! バカ! サイテー!」
「えっ、ええ……」
今から嘘みたいな本当の話をしよう。
俺はひょんなことから、推しのパンツを見てしまった。
そう推し。俺は応援してるアイドルのパンツを……知ってしまった。
ひと昔前なら所謂トップオタ、なるものをやっているものとして推しに認知はされたいしなんならされてる。うん俺実はプライベートでも付き合いがある……じゃなくて、認知はされたいけどあくまでアイドルとドルオタという線は大事に、プライベートの友達としてもって話なんだ。
だから、推しのパンツを見た件も、きっちりわかる通り事故だ。
──推しの名前は丸山彩ちゃん。長い間芽が出なかったけど今や人気アイドルとして活躍中の人物なんです。ふわふわしててかわいらしくて、トークイベントやMCではかなりの確率で噛むかトチるドジっ子なんだけど。
とは言えパンツを見てしまったという急展開に、俺は全く感情がついていってなかった。
まぁでも、たった一言、俺は言おう。これは言わないと失礼な気がしたもんね、やっぱり。
だから言おう、高らかに、ヒーローインタビューのように! 今のお気持ちは!
──最高です! もうこれ優勝でしょ!