なんとしてでも、推しは推しとして推したい! けどパンツは見たい!   作:黒マメファナ

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独りでいないということ

 黙々、モグモグ。バイトが夕方で終わった俺は軽食代わりにポテトとコーラで優勝していた。おいしい、俺的にはこのパリパリ感がいいんだよね。今日も揚げたてで最高です。

 そんなことをスマホ片手に感じていると向かいにキレイな脚がチラリと見えた。

 

「……ん?」

「性犯罪者さんどうも、通報するのでそのままで」

「なんで?」

 

 誰キミ、というまでもなく知り合いだった。こちら氷川紗夜さん? 知ってる? 知ってるよね? いいよね説明省くよ? 

 けど相変わらず通報するとかなんとか言いつつ俺の向かいに座ってくるところ辺り、まぁ友人未満にしろ知り合いくらいにはなれてるとは思う。

 

「まったく、人の脚を……あんな、舐めるような目線で見ないでください、鳥肌立ちました」

「見てない」

「感じました、目線を」

「そう……ごめんなさい?」

 

 納得してないけど謝っておいた。この人は毒舌がデフォルトだからね。けど今回は思わず脚を見たことに恥じらいを感じてるのは事実らしい。ごめんって、良いおみ足過ぎてついね。紗夜さんってスラっとしててモデルみたいだし無駄な脂肪とかないし、眺めるのは最高だよね正直。

 

「ところで、白崎さん」

「んー?」

「こ、ここのクエスト……一緒にやりませんか」

「……いいよ」

「そっ、そんな目で見ないでください!」

 

 そう言われましても。さっきまで毒舌吐いてたくせにスマホ差し出されてもねぇ。というか薦めたの俺ですけどハマりすぎじゃない? 基本無料ゲームなんだけど、とは言ってたけど課金してないとしたらかなり効率的にやってなきゃこんなにできないけど。

 

「……実は」

「え?」

「ほ、ほんの少し……このキャラがいたら攻略が楽になると……白金さん、友人に教えられまして」

「なるほどなぁ……」

 

 お堅い風紀委員みたいなイメージのあった紗夜さんだけど、シスコンだし、ああやって騒ぐオタクというものは好きではありませんとか言ってたくせにどうしてかこう、一緒にゲームをやったりポテトを追加で頼んでシェアしながら雑談をする仲にはなっている。日菜ちゃんの双子のお姉さんだから顔立ちが恐ろしく似てるせいでオタクとしてはビクビクする時もあるけど。

 

「別にあなたのステータスが低くても気にしませんよ」

「はー、低くないし」

「……自惚れは身を滅ぼしますよ……ふふ」

 

 半笑いで言うな! この人も大抵サドっ気が強い。ウチの幼馴染といいどうしてこう俺をいじめて喜ぶ変態が多いんだこの辺。もっとひまりちゃんとかパレオちゃんみたいなかわいらしさをください。

 

「そういえば」

「んー?」

「次の神戸、どういう手段で向かうのですか?」

「あー、新幹線」

「お金よくありましたね」

 

 ゲームをしながらだらだらと話していく。それはなんか大いなる力が働いたからセーフなの。紗夜さんにそう伝えるとどういうことですかと怪訝な顔をされた。知らないよ。

 そういう紗夜さんはまたコッソリライブ見に行くんですか? 

 

「ええ、ついでにバンド仲間と観光でもと考えています」

「あー、お菓子おいしいですもんね神戸」

「……ええ」

 

 紗夜さん実はお菓子作りが趣味だったりする。意外だよね、でもバレンタインにもらったチョコおいしかったんだよなぁ。あ、俺はそこらへんのオタクと違って親以外にもちゃんともらってるんだ! 今年は花音、紗夜さん、パレオちゃんと彩からもらった。数で負けていても推しからの手作りチョコというめちゃくちゃなパワーを持った究極のチョコがあるから無敵なのだ。ホワイトデー大変だったけど。

 

「ですからよければ一緒に、と思いましたが難しそうですね」

「そうだね、物販並ぶし俺前の日から行くよ」

 

 パレオちゃんがそう言ってた。前の日乗り込んで、ご飯食べて即就寝。朝早く起きて朝食摂って整理券取りにダッシュという寸法だ。んで帰りはまた一泊してからのんびり帰ってくるって手筈だ。

 

「つまり学校が終わったら即新幹線ですか」

「そういうこと」

「……そう」

 

 ん? なんかあったのかな。紗夜さんはほんの少し俯いていた。だがその真相を探る間もなく、千紘くんと元気よく名前を呼ばれてすごい勢いで振り返った。ぱっと花咲く俺の推し。今日もかわいいね! 

 

「あ、紗夜ちゃんも」

「どうも、丸山さんはレッスン終わりですか?」

「うん! シフト出しておこうと思って」

「お疲れ様」

「うんっ、あ千紘くん一本ちょーだい!」

「はいはい、自分で取ってよ」

 

 ちょーだいて口を開けるな。鳥のヒナみたいだなんて失礼なことを思い浮かべながら結局一本つまんで彩に差し出す。食べ終わってからありがと、とスタッフルームに消えていく彩の後姿を眺めながら紗夜さんは首を傾げてとんでもないことを言い出した。

 

「付き合っているの?」

「ぶっ──つ、誰が誰と!?」

「丸山さんと白崎さんが、よ」

「付き合ってないよ?」

 

 だいたい俺紗夜さんにも花音と付き合ってることを教えてるはずだけど。紗夜さんはマジで忘れていたようで、そうでしたねと思い出したように言った。というかそんな雰囲気出てた? 彩と? それは今後のために気を付けた方がいいやつだよね? 

 

「そうですね、先ほどの二人のやり取りを傍から眺めていたら……すごく気の置けないものだと感じたので」

 

 ポテトのくだりや別れ方と言われる。そうなのかな、だって俺としては……なんと言ってもオタクに嫌われそうだが例えば、紗夜さんにも今はいってポテト渡せるよ?

 そうしたら紗夜さんは嫌ですと断ってきた。ひどくない? 

 

「誤魔化さないでください」

「なにが」

「あなたは……内に秘めていることが多すぎるわ」

 

 そんなことないよ。ただのほほんと、時に気持ち悪くドルオタをして生活をしてるってだけだよ? 紗夜さんはすごく悔しそうな顔で俺を見つめてくるけど……まさか紗夜さんが知ってるってことは、ないよね? 

 

「んっ、ポテト冷めるよ」

「……いただきます」

「千紘くん紗夜ちゃん、そっちおじゃましてもいい?」

「ええ、構いません」

「紗夜さんがいいなら俺も」

 

 彩がやってきて、紗夜さんと日菜ちゃんの話をしていく。時折俺も参加して、基本は向かいから眺めていると、俺の隣にもアップルパイと紅茶の乗ったトレイが置かれた。え、誰だろうと見上げて、俺はえっ、と思考がフリーズした。

 

「楽しそうね、私も混ぜてもらえるかしら?」

「どうぞ、楽しいかどうかは判断を委ねますが」

「え、ええ……ち、千聖ちゃん……だよね?」

 

 パスパレのベース担当白鷺千聖ちゃん。花音の親友で俺の名前に似てる人。ここではこれ以上の説明はしない。だから俺は千聖ちゃんのプライベートがものすごく近くにあることを知っていたけれど接触をしようとは思わなかった、推しでも推しじゃなくても、女優でアイドルの彼女はそれだけで遠巻きに見ていたい存在だしね。

 

「プライベートでは初めまして、かしらね」

「そうですね」

「あら、あなたも随分イベントの時と雰囲気が違うのね」

 

 わーいまさか千聖ちゃんにまで認知してもらえてるなんて光栄だなぁ。俺、千聖ちゃんと個別で話したのは一度だけ、言葉を交わしたのは再公演の時併せて二度目なんだけど。

 幾ら花音から俺のことを聴いていたとしても早くない? 名乗ってすらないよ? 

 

「写真を見せてくれたことがあったのよ……パスパレが始まってすぐの頃」

「花音……!」

 

 つまり再公演とその次のイベントの間ってことか……タイミング良すぎる、というかアレか、花音が俺がパスパレにハマってる話をしたなこれは。あとイベントの時と雰囲気が変わるのはイベント中はオタクとしてオイオイフウフウ言ってるからでは? 

 

「そして、今ハッキリと繋がったわ。彩ちゃんがコソコソ連絡を取ってる相手、花音の幼馴染でありカレシ、炎上しているオタ……ファン、この三つは全てあなたね」

 

 ビシっと指を向けられる。探偵だ、というか千聖ちゃんって探偵の役もやったことあるんだっけ雰囲気がそれっぽい。

 後ツッコミたいことが二つ三つあるんだけどとりあえず彩が俺と連絡してるのが既にバレてるということはよくわかった。彩が物凄く青い顔してるよ。

 

「彩ちゃん、どういうつもりかしら? アイドルとしての思い入れが人一倍強いあなたが、こんなスキャンダルじみたことを」

ファストフード店(ここ)で、たまたま会っちゃって……仲良くなって」

「仲良くなったらダメじゃない」

 

 あ、お説教が始まった。紗夜さんも付き合いきれないとばかりに黙々とポテトを食べ始めた。ルールとか風紀とかそういうのは厳しいよね、やっぱり雰囲気からもう風紀委員(さよ)さんって感じだ。

 

「食べますか?」

「……なんで?」

「餌付けしたい気分なので」

「犬じゃないが」

 

 そんなむっと怒り顔しながらポテトを差し出されても嬉しくないし人をペット扱いすんな。けど食べるわん。

 お説教タイムは花音がバイト終わってやってくるまで続いた。千聖ちゃんと出かける用事があるのかと思えばただアップルパイと紅茶がほしくて花音の顔が見たかっただけらしい。

 

「花音、本格的に気を付けた方がいいわよ」

「……うん」

 

 そしてこの会話を聴くに、親友にすらこの関係の真の意味を知らせてはいないらしい。また寂しくなって俺を求めるのに、どうしてその渇望を外に向けられないんだろう。わかってる、理由なんてわかってるよ、俺のせいだって。俺がいるから、花音は周囲に自分の嫌いな嘘というものを吐き出し続けなければいけないんだ。

 

「千紘さん」

「ん? どうしたの紗夜さん」

「……また一緒にゲームしましょうね」

「うん」

 

 紗夜さんはこれまでにないくらいかわいらしく手を振ってその場を去っていった。そんなに一緒にゲームするの楽しかったんだろうか。

 彩も名残惜しそうに別れて、千聖ちゃんと一緒に帰っていった。あれはお説教延長戦だな。

 

「帰ろっか」

「うん」

 

 バイトであった他愛のない話を聞きながら、花音と手を繋いで帰っていく。お互いに会話もなく、迷いようのない道をまっすぐ歩いて、彼女の家の前についた。

 手を離そうとすると、花音は手をほんのわずかに握りしめた。名残惜しい、もっとずっと一緒にいたい、花音のいつもの言葉たちが直接手から伝わってきた。

 

「月曜は、暇でしょ花音」

「ん、部活あるけど……」

「また誰かにバイト先まで連れてってもらえば……帰り道くらいは一緒だよ」

「……千紘くん」

 

 俺ってなんでこう甘いんだろうね。本当に、花音のこともっとちゃんと考えてあげなきゃいけないんだけど、口から出るのは幼馴染の延長のような、なあなあの優しさ、ぬるま湯のような風邪でも引いてしまいそうな言葉ばかり。

 

「じゃあ……おじゃまさせてもらうね」

「うん」

「だいすき」

 

 ごめんね、花音……俺のこと、そんな風に好きでいてくれるのに俺は中途半端な気持ちしか向けられないなんて。

 花音を送っていった帰り道はいつだって、なんだか空虚だ。そんな空虚な帰り道でスマホがメッセージを受信した。

 

「パレオちゃん?」

 

 珍しい人からメッセージが来た。ヒロ様大変です、と来てからすぐに画像が送られてきた。SNSの呟き……というかまだ炎上収まらないのね俺のアカウント。

 すると中身は俺のことについて、俺が丸山彩ちゃんのストーカーで更に別の彼女の友人に付きまとっている犯罪者、という記事だった。ナニコレ? 流石に異常事態なのでパレオちゃんに連絡を取る。

 

『あ、あの今からお会いしながら話って、できますでしょうか』

「その方がよさそうだね」

『はい、今ご自宅でしょうか?』

「うん」

『あ、えっと、差し支えない範囲で近くまでお迎えにあがりますが』

「あー……いいよ、家の住所送る」

『……かっ、かしこまりました!』

 

 めんどくさいし、近くになんてコンビニくらいしかないし。

 住所を手で打って送ってから、ものの数分後に……パレオちゃんは迎えに来てくれた。家近いっすね。というか今日は初めて見た女子制服姿の黒髪パレオちゃん。こっちが地毛なのかな? 

 

「これ、どういうこと?」

「個人のブログのようです」

 

 なるほどね、個人のブログ。俺もなんか気持ち悪い長文握手会の特徴みたいな毒吐きのやつ書いたことあるからわかるけどああいうのかなぁと思って再度眺めてみる。文章からは怒りが滲み出ているよね。

 

「というかそもそも俺のストーカーしてんのかコイツ」

「……そちらはパレオが全力で解決致します」

「男が男にストーカーって……はぁ」

 

 坊主憎けりゃ袈裟まで憎いって言うのかなこれが。俺の彩ちゃんへの馴れ馴れしさが気に入らない、みたいな呟きが散見される。当の本人ブロックされてますがね。なにやっても気持ち悪い、こんなヤツがいるから民度が下がるだの言いたい放題だ。

 んで俺のストーカーして個人情報の特定をしようとした折に俺が彩ちゃんが働くとされるファストフード店に頻繁に出入りしているのを見たと。そんで別の女と出ていくのを見かけて更にキレた、と。

 

「陰湿だな」

「陰湿です」

「別の女ってのは花音のことかな」

「きっとそうですね、ヒロ様は恋人さんを待っていらっしゃいますよね」

「まぁそれが目的でファストフード店に出入りしてるからね」

 

 それを曲解されたと。目に映るものはその個人によって違うのだと言っていたのは誰だったかな。同じものを見ていても、その実知っていることの差で全く違った見え方がする。それが今回よく表れていると思う。

 彩に会うのは偶然以外のなんでもないし、花音は俺の恋人……一応は恋人だ。これもまぁ見た人によって情報が違うってことだよね。

 

「あ……あの」

「ん?」

「後悔……していらっしゃいますか?」

「何を?」

「パレオと……パレオがヒロ様をあの時ご飯に誘わなければ、こういうことにはならなかったと思われますから」

 

 しょぼんと項垂れるパレオちゃん。ああ、確かにね。でも俺も燃えそうな気がしてたのにああして一緒にご飯を食べた。それはパレオちゃんが俺と一緒で最高に自分のためだけにオタクやってるからなんだよね。

 他人を気にすることなく自分が信じたオタクというものの為に推しにペンライトを振って、声を出して、俺の場合は認知を求めている。パレオちゃんはかわいいを表現するために髪色まで変えて、色んなことをしている。

 

「だから俺は、パレオちゃんと仲良くなれて、なによりあの日があったから神戸のライブにまで行けるんだよ? 後悔するわけないじゃん」

「ヒロ様……ありがとう、ございます」

 

 だからこれからもオタ仲間としてよろしくねパレオちゃん。あとこのストーカーのことも……こっちは俺じゃなんともしようがないからさ。

 パレオちゃんは屈託のない笑顔でヒロ様のオタ活を阻むものはなんであれ排除いたしますと言い放った。うん? なんか圧迫感のある笑顔だね……? 

 

「それでは……あの」

「ん?」

「お、オタ活以外でお会いしたい時は……連絡したら、よろしいでしょうか?」

 

 え、うん。大抵はバイトかフットサルってことも多いけど、フットサルだったら夜前には終わるしバイトも休日は夕方までって決めてるから。後は休みの日だったり花音を迎えに行ってるから居場所なんてすぐバレちゃうけどね。

 

「それじゃあ、またね」

「はい!」

 

 ドライブをしながらの話し合いが終わり、俺はまた家の前へと戻ってきた。既に両親も帰ってきているようで、俺はやっぱり独りじゃないってこういう時大事なんだな、なんてことを思いながらその日は眠ることにした。

 

 

 

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