なんとしてでも、推しは推しとして推したい! けどパンツは見たい!   作:黒マメファナ

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ツートン癒し効果ってヤバいから気をつけろよ

 そしてついにやってきたライブ当日、俺とパレオちゃんは一旦ホテルに戻っていた。

 もう物販は並んだのでトレーディングを開ける作業をするため、どっちの部屋にするかってちょっとモゴっとしたけど俺の部屋で集まった。

 

「ヒロ様はやっぱり無限回収ですか?」

「お金なくなるから無限ではなくて有限だけど」

「なるほど、でしたら私は一枚ずつでいいので被った分はお任せください!」

 

 そう言って彩ちゃんの缶バッチが四つ、ブロマイドが五枚になった。やったぜ! 後は今回のタオルとTシャツも確保して、ブレードもバッチリ購入。まぁ曲によってはピンクのサイリウムが火を噴くわけですが。

 そしてパレオちゃんは缶バッチとブロマイドコンプでにこにこだ。今回の限定ブロマイド、絶対プレミアつくからなぁ。時に全イベントブロマイド全コンプって変態が俺の向かいにいるんだけどどう思う? 売るとねなんと百万近くだってさ。それ全部ガラスケース入りで飾ってある、百万の劇場と名付けたくなったけど大いなる力によって止められた。なんかお揃いのフレーズは愛のフレーズだし未完成に輝き見つけて鼓動合わせて意思(こころ)掲げそうだもんね。

 

「さて、お昼どうする? 流石に別にする」

「……嫌です」

「え」

「パレオは今回、ヒロ様と連番ですから、一緒に行動するんです」

 

 あの、前回のくだり忘れたのかな? と思ったけどえっともしかして今回はオフで会う予定とか……無理か燃えてるもんね今。

 そう思って俺はわかったと言っておいた。そもそもホテル内で済ませればいいのでは? 

 

「いいえ、おいしいところ既に下調べ済んであります!」

 

 優秀過ぎるなこのエセメイド! そしてまた奢りと……なんかあの一件以来マジでパレオちゃんがアイドルじゃなくて俺に金使うんだけどなんの意図があると思う? 疑念を少しだけ抱いているとパレオちゃんはヒロ様に気持ちよくオタ活していただくためですと言い切った。それは前に聞いたね。でもパレオちゃんはそこに更に付け加えた。

 

「そこに、ほんの少し……ほんの少しだけわがままを言うと、ヒロ様が幸せそうにオタ活をしている姿を、お傍で見ていたい、という……パレオの願望です」

「……パレオちゃん?」

「迷惑だとおっしゃるなら止めますので」

「そんなこと……コッチが迷惑かけてて、いいのかなって思ってただけだから」

 

 パレオちゃんはいえそんな、と首を横に振った。迷惑じゃなくて、こうして一緒にオタクができる相手が欲しかったんですと笑顔を放った。まぶしい笑顔だった。まぶしくて、どこかさみしい笑顔は、それまで分かり合う相手がいなかったということでもあった。

 

「パレオは、パスパレのオタクとして全力でかわいいを表現し始めてからいつでも、たくさんの人に囲まれてきました」

「うん」

「けれど、かかわるたびにパレオは……()は満たされない渇きに苦しみました。みなさん、私が同志だからではなく、女だから笑顔を貼り付けて、あまつさえ……推しに背を向けて私を誘うのです」

 

 手に届かない推しよりも手の届く女オタ。特に拗らせた女ドルオタはびっくりするくらいかわいいのが多いこともあるうえに趣味に引かれない貴重な人材、モテないキモオタたちはこぞって婚活するわけだ。婚活とまではいかなくとも童貞捨てるくらいはしたいと思うのかな。

 

「ああいうのはもう……うれしくなんかない。私は女に見られたくて化粧をして、髪色を変えてかわいいを表現したんじゃない。私は……!」

「ただオタクでありたかった……だよね?」

「はい……!」

 

 俺だってそれがわかってたわけじゃない。ただ、丁度女性に関してそうやってがっつこうとか思わなかった。タイミングよかっただけにすぎない。だけどそれが、パレオちゃんの……パレオちゃんの奥にいる誰かの心を揺さぶった。

 

「だからヒロさんと関わった時、彼ならと思いました。それは私がのちに出会った……彼女、ちゆさんとの出逢いにも似ていました」

「ちゆさん?」

「パレオのご主人様、チュチュ様です」

 

 どうやらパレオちゃんはパスパレに背中を押された夢を追いかけた人のうちの一人だったらしい。そのバンド云々の話はさて置くとして、彼女は歌うように、だからこそと俺に笑顔を向けてくれた。あなたは私がすべてを懸けてもいいと判断したのです、と。

 

「すべて」

「はい……あなたが、教えてくれたことです」

 

 推しにすべてを懸ける。すべてって言っても99.99%くらいだから全部じゃないけど。

 パレオちゃんは俺を推してるってことなんだろうな。オタクとして、その心が許す限りに貢いであげたいって思ってしまうくらい、彼女の琴線に触れたんだとか。だから、こうして今は一緒にいる。その貢ぎ根性の中にその笑顔を傍に見たいという見返りを求めながら。

 

「つまるところ、パレオちゃんは俺オタクでもあるってことか」

「はい! オタクは資金と体力があれば兼任できますから!」

「……強いなぁ」

 

 参った。ここまで本気になってるのに俺が無碍にしたり変に縮こまってたらパレオちゃんに返せるものも返せない。いつも彩ちゃんやパスパレがしているみたいにきちんとファンサしてかないと。

 ──あはは、前の俺だったらこんな風に俺が貢がれる立場になるだけで拒否反応起こしていただろうなぁ。自分を好きになろう計画、ちゃんと一歩一歩進んでるみたいだ。

 

「じゃあ、ごはん期待することにする」

「絶品間違いなしでございますよ!」

 

 パレオちゃんとライブに挑むためのモチベーションはこれで間違いなく確保できた。俺はもう炎上とか嫉妬に負けるようなメンタルじゃなくなった。ここで折れたら俺だけじゃなくてパレオちゃんの思いも否定することになるからさ。

 

「……いいのですか?」

「うーん、SNSってホントは得意じゃなかったし、俺はもうこんなのに頼らなくても……大切な人がたくさんいるから」

 

 そしてここで俺のヒロのアカウントは終わりを告げた。フットサルメンバー用の鍵のかかったアカウントでパレオちゃんをフォローしておく。もういいんだ。あんなに人がいなくたって推しは追いかけられるし、情報は入ってくる。固執する必要なんてどこにもなかったんだ。

 

「セン、ヒロ……?」

「そう、センヒロ、本名が白崎千紘だからさ」

「……あ、よ、よろしいのですか?」

「え、うん。よろしく」

「は、はい……千紘さん! 改めまして、鳰原れおな、と言います。よろしくお願いいたします」

 

 パレオちゃん……れおなちゃんは満天の笑顔を咲かせてくれた。ここで本当に、俺とパレオちゃんはオタ仲間に、それ以外の何かになれた気がする。

 そこから先は一切周囲が何を見てこようと何を噂されようと、パレオちゃんと俺は声が枯れるかと思うくらいに叫んで筋肉痛になりそうなくらい腕を振って、汗を掻いて、盛り上がった。プレミア席ばんざい! 

 

「はぁ……さいっこうでしたね!」

「新曲熱かったなぁ! めっちゃ盛り上がったぁ」

「汗かきました! もうなんか泣いちゃいそうでした~!」

 

 ホテルに帰っても俺とパレオちゃんはひたすらにライブの余韻に浸っていた。とっくにシャワーは浴びて、髪を下ろしてい寝間着姿で笑みを零していた。彩ちゃんからもレスガンガンにもらったし、新情報も盛りだくさんだった~! パスパレでドラマ作成はちょっと笑ってしまったけど。

 

「ドラマ、どういったものなんでしょうか?」

「ってかメンバーも驚いてたよね」

「ですね」

 

 彩ちゃんなんか口を大きく開けて一瞬だけ俺を見てからみんなを見て驚いたようにリアクションを取った。サプライズだったのか、千聖ちゃんと麻弥ちゃん若干顔ひきつってたけど大丈夫なのかな。

 

「なにはともあれ、これで来月の一周年への熱が逆に高まりますね」

「だなぁ」

「ああ、今からワクワクしてきました」

 

 結局その日はなかなか寝付けることができなかった。紗夜さんや彩に連絡しようとも思ったけど、結局、その興奮を落ち着ける相手に選んだのは穏やかで、やさしいふわっとした雲のような幼馴染だった。

 

『気を付けて帰ってきてね』

「うん、ありがと花音」

『ふあ……っん、えへへ……』

「眠たいなら寝ていいよ」

『ううん、せっかく千紘くんの声聴けるんだもん……勿体ないよ』

 

 花音の言葉は甘ったるくて、切なくて。俺は心の中でごめんねとつぶやいた。どんどん離れていく。俺が自分を好きになる度に、自分らしさみたいなものを認めていく度に、花音から心が離れていってる。

 ──当然だよな。俺はずっと自分が嫌いでその自己評価みたいなものを花音に依存していた。だから花音が好きでいてくれることがなによりうれしかったし、それが自分の本当の気持ちじゃなかったとしても、花音が笑ってくれればよかった。

 

『千紘くん?』

「ん? どうした?」

『だいすき、えへへ……言いたくなっちゃった』

「……そっか」

 

 もう、それじゃダメなんだ。俺にとって、俺の価値は花音だけじゃなくなったから。もちろん、花音が笑ってくれることは大事だしこれからも大切だ。けど、そのために残酷で優しい嘘を吐くのはもう、ダメなんだ。

 結局寝落ちしてしまった花音の寝息を聴きながらおやすみと言って電話を切って寝たのは夜中だったのに、朝早くには起きてしまって自動販売機のある場所までやってきていた。

 

「はぁ……」

「あれ? 千紘くん?」

「……彩、おはよ」

「おはよ!」

 

 どれにしようかなとだらだら悩んでいると、推しに声をかけられるなんてめちゃくちゃラッキーじゃないですか? しかも寝間着姿である、かわいいなぁ。

 ただちょっと疲れと寝不足で鈍い頭ではひゃっほいすることもできない。まぁだから糖分摂取しようと自販機まで歩いてきてるわけだけど。

 

「……大丈夫? 寝れてる?」

「彩こそ、こんな朝早くに」

「私はいつもこのくらいに起きてるから」

 

 おいマジかまだ五時半だけど。そこからランニングしてなんだりでアイドルとしての習慣をつけてるらしい。

 やっぱ彩はすごいな。本当に尊敬するし……やっぱり彩がこうやって頑張ってるのを知ったから、俺も頑張らなきゃなってなったわけだしさ。

 

「私、ちゃんと頑張れてる?」

「どうしたの?」

「ほら、教えてもらったけどさ、千紘くんアカウント消しちゃったんでしょ? どうしてこうなっちゃうのかなぁって考えててさ」

 

 自分がもっと頑張ればそうならなかったのかもしれないって? それはないよ。だってオタクなんて通常生活で抑圧されてるものをSNSやイベントで解放してるような輩ばっかりだよ? だからマウントを取ってマウントを取られることがなにより嫌で、無駄にマナーって言葉で同一になろうとする。ドルオタなんてそんなもんだし、だからこそ彩がどうあっても俺はこうなったと思うよ。

 

「でも」

「別のアカウント、ちゃんとあるし彩の投稿は全部見てるから」

「そ、そっか」

「さて、誰かに見られる前に」

「そうだね」

 

 ほっとしたような笑顔を浮かべて彩はくるりとターンして戻っていった。ふぅ、もこもこのパーカーとカラーがお揃いの寝間着の短パン、そこから見える健康的な生足……見てるだけで正直脳内メモリが許容量をオーバーしてしまいそうなくらい保存していたけど、流石にバレなかったかな。一応ね、前にいっかいパンツ見ちゃった時にそういうのバレないように気を付けてるんだよね。つい視線は寄せられちゃうけど。

 

「何かありましたか?」

「うわ……お、おはよ、パレオちゃん」

「はい! おはようございますっ」

 

 びっくりした、急に後ろに立っていたパレオちゃん、髪を下ろしてこれまたかわいらしい寝間着に身を包んだ彼女はパッと笑顔で挨拶を返してくれる。昨日の話があったせいか、連番したせいか、随分と距離が近くなった気がする。

 なんというかその分懐かれてる割合が増えてる気がする。メイドじゃなくて……ああうんこれ以上はやめておこう。

 

「ヒロ様がお望みならば……その、ペットでも……!」

「思考を読んだうえでヤバいこと言うのやめようね?」

 

 パレオちゃんがなんかキャラ迷子……迷子? なのかな? とにかく初期の丁寧対応メイド対応がだんだん崩れていってるのは確実だった。いやまぁその分笑顔のキラキラ度合いが上がってるからね、いいんだけどさ。

 

「にしてもパレオちゃん早起きだね?」

「今日はなんとなく……気分が高揚してしまって」

「そっか」

 

 部屋に戻ろうとした時に、パレオちゃんにもう一度呼び止められた。

 じっと見上げられ、パレオちゃんのキレイな瞳に俺が映っていた。どうしたの、そう問いかけようとしたら、大丈夫ですか? という言葉が先にやってきた。

 

「何か……嫌なことがありましたか?」

「……嫌なこと、なのかな」

「眠れないくらいストレスを感じるのは、ヒロ様の心が抵抗なさっている証拠です」

「パレオちゃん」

 

 中学生の女の子にそんなことを言われちゃうなんて、というかそんなに顔に出てたんだなぁ。手を握りながらパレオちゃんは心の底から心配そうな顔をして、無理はしないでください。プライベートあってのオタ活ですよと諭される。

 

「ありがと」

「ごはんの時間まで少しありますから……その、差し出がましいかとは思いますが、パレオが癒して差し上げます」

「え、ええ……いいよ」

「いけません、パレオにとってヒロ様はとても大切な人です。あなたの力になることがパレオにとっての喜びなのですから」

 

 他にもなんだかんだと問答はしたものの結局パレオちゃんに押し切られ、俺は自分の部屋ではなく隣の部屋に引き込まれた。

 癒す……って、癒すっていったいどんなことが待っているのだろうと理性で抵抗する準備をしていると、パレオちゃんはベッドの上に座って、どうぞと自分の太腿を手で示した。

 ──ひ、膝枕、ですか? やっぱり抵抗したけど何度か問答していると強引に膝に寝かされる。

 

「いかが……ですか、あ、一応……頭の向きはアチラで」

「……うん」

 

 なにこれ超あったかいし超柔らかいし超いい匂いするんだけど。なにこれ。長くてきれいな指、女の子にしては大きな手で頭を撫でられ、いかがですか? といつもよりも静かにといかけられる。

 

「ほっとする」

「よかった」

「……でもこれ、恥ずかしいな」

「大丈夫です。ここはパレオとヒロ様しかいらっしゃいません。どうか、このままパレオに甘えてくださって……いいのですよ?」

「……年上は俺なのに?」

「年齢は関係ありません。パレオの、小さなわがままです」

 

 その、何故かちょっとだけ胸を締め付けられるような声に俺は何かを言おうとしたのか、言ったのか……わからなくなってしまった。

 よっぽどいい安眠枕だったらしく、気づいたら枕はパレオちゃんではなく普通の枕で、紅茶の匂いに起き上がると、ソファに座っているパレオちゃんが、二度目のおはようございます、とほほ笑んだ。

 

「え……俺」

「ぐっすり寝ていましたよ」

「今何時?」

「もうそろそろ八時になります、丁度よかったですね」

 

 朝ごはんの時間だ、と思った。二時間ちょっと眠っていたらしい。なんかすごく気持ちのいい入眠をして、気持ちのいい目覚めをした気がする。パレオちゃんは安眠にいいのか……ってダメダメ、こんなの今日だけにしとかないとね。

 

「またお疲れでしたら……僭越ながら、パレオが癒して差し上げます。ヒロ様に最高の癒しを、届けますね……」

 

 ああ、うんこれダメだ。俺ダメになるわ。

 こうして距離が近くなった結果、パレオちゃんは人をダメにする系メイドになった。俺に対してお金とかじゃなくてそういうサービスまで貢ぐなんてほんとにそれでいいのオタク!?

 

「はいっ! パレオ、今最高にハッピーです!」

 

 ただこれは……なんというかパレオちゃんのこの守りたい笑顔を見てしまえば、断れそうにはない。

 あと起きた時に枕からめちゃくちゃいい匂いがしたからちょっと嗅いじゃったのも絶対黙っておこう。

 

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