なんとしてでも、推しは推しとして推したい! けどパンツは見たい!   作:黒マメファナ

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俺んちくるの!?

 さて、どうしたらいいんだろうな。俺は憂鬱だよ。

 憂鬱とかいうレベルじゃないな。いや本来なら推しに会えるって時点でご褒美に近いんだけど、肝心の推しがなぁ……どうしたらいいんだろうなぁ。

 

「いらっしゃいませー」

 

 そんな声に招かれるように、俺は制服のままファストフード店へとやってきた。お腹も減ったのでおやつ代わりにナゲットとジュースを買って、彼女を探す。

 やや人目につきにくいところに俺をこの店へと呼びつけた相手はのんびりとアップルパイを食べていて、思わずため息が出てしまう。

 

「……推しを目の前にしてその顔はどうなのかしら、本当にオタク?」

「ナメないでください。推しのためならたとえ親が死んでも超ハイテンションで会話しますよ」

 

 それはそれでどうなのかしら、と呆れられながら、推し……のプライベートの姿、白鷺千聖さんの向かいに腰を下ろした。

 あ、でもやっぱり顔の造形は俺が推してやまない千聖ちゃんそのものなので、正直近いしいい匂いするからドキドキバクバク心臓が歓喜してる。だから俺って変態さんだとかマゾだとか言われるんだよなぁ。

 ──というか俺、このヒトのパンツ見たんだよなぁ。まだ頭から……いやたぶん一生頭から離れないだろうけど。

 

「どうしたの? パンツ見る?」

「はい! ……みません」

「返事と言葉が全く一致しないわね……」

「そういう矛盾を抱えた思春期男子なので」

 

 そりゃあねぇ、推しのパンツは見たい。でもそれを素直に認めるってのはねぇ……? ほら、ここで冗談混じりに今日は何色なんですか? くらい訊けたらいいんだけど。そもそも目の前の彼女が何を考えてパンツをみせてくれたのかすら不明だし。未知って怖いよね。

 

「今日は黒なの」

「……そう、ですか」

「リボンはピンクで、鼠径部のところが白の花の刺繍になってるのよ」

 

 いつもイベントで握手する度白くてキレイだなと思う指が、ドキっとする所作で彼女自身の下腹部から太腿の付け根、鼠径部の辺りを撫でた。数秒の静寂、なんとかリアクションを我慢していた俺に向かって、千聖さんは更に制服のリボンの辺りに指を当てた。

 

「ブラもお揃いだからココにもリボンついているし、このラインは白い花の刺繍になっているわ」

「へ、へぇ……」

「ふふ、面白い顔してるわよ?」

 

 嫌でも妄想させられてしまう。そのスカートを捲った先の光景を、リボンを解いて、制服を取り除いた先の光景を。

 推しなのに、目の前に座ってるのは紛れもなくただただ応援していたアイドルなのに……その様子にくすくすと笑う彼女に俺が抱いたのは紛れもなく興奮だった。

 どうしようもなく……ムカっとした。俺のアイドルを穢す悪魔に、正義かもわからない黒い感情が湧き出てきた。

 

「いい加減にしてください……! 俺は、あなたを……!」

「昨日の電話で私に酷い言葉を掛けたクセに、自分はそうやって怒るのね?」

「──っ! そ、それは……」

 

 だが、先に明確に怒りを吐露したのは千聖さんの方だった。その感情に触れてしまい脳裏に幼馴染の言葉が反芻される。

 ──千聖ちゃん(おし)千聖さん(すがお)があれど、それはどっちも白鷺千聖なんだ。そしてプライベートの彼女は紛れもなく、ただの女の子だ。酷いことを言われたら怒るし、嫌なことがあれば不機嫌になる。嬉しいことがあれば笑って、そうやって生きてるんだから。

 

「……ごめん」

「それだけ?」

「それだけって、他に何が」

「正直に私のパンツを見た感想を言わないと次のイベントは素の口調で対応するわよ」

「ガチ脅迫はやめてもらえますか?」

「嫌よ、昨日からずっと気になっているのだから」

「え、千聖さんって変態?」

「ふふ♪」

 

 あ、まじですいません。え、でも感想でしょ? 推しのパンツ見た感想を推しに言うの? 拷問? は? 今すぐ舌噛んで死んだ方がマシなんだけど。

 けれど俺にそんな度胸があるわけもなく、オタク特有の視線きょろきょろあうあうもごもごと時間を稼いでいく。

 

「ふぅん、コッチの方がいいのね? 次のイベントは今日も気持ち悪い笑顔ね豚さんって挨拶してあげた方がいいかしら?」

「あははは、勘弁してください」

「イベントで罵るのを? パンツの感想を赤裸々に明かすのを?」

 

 どっちもだよう! どっちもハードル高いんだよう! 言っても千聖さんはやめてくれなさそう。ちくしょうこのヒト絶対サドだ! というかそのサドにペンライト全力振りしてるオタク全員マゾなんじゃないかって疑ってやる! くそ俺もだ! 

 

「嫌だったかしら?」

「そんなこと……っ! あ、えっと、最高だった、じゃなくてそもそも、千聖ちゃんみたいなかわいい子のパンツ見れて嫌なわけないし、モヤモヤも晴れたし……あ、でも」

 

 こうしてオタクらしくもごもごと早口で言い訳に言い訳を重ねたミルフィーユを千聖ちゃんの前に積み重ねていく。

 結局のところかわいかったしえっちさもあって一生脳内メモリは色や形、あのベールや生足を忘れませんと、そういうことですねはい。

 

「変態はあなたじゃない」

「み、見せてきた方が言う?」

「……最初に見たのも、あなたじゃない」

 

 そうだけどさ。そうだけど結局スカートめくってパンモロ晒したのは千聖さんでは? ああ、ってかだんだん敬語が剥がれてきた。そもそも認知される前は敬語だったのにいつの間にか同年代だってわかった千聖ちゃんに勉強の話やバイトの話でいじられることが多くなってツッコミを入れてたらタメ語になってきて……あれ? 俺ってもしかしてイベントの時からマゾムーブしてた? 

 

「あれは確信してなかったし……そのせいでモヤモヤしてたけど」

「けれどあの子に自分の性癖を吐露してたじゃない」

「言い方」

「事実よ」

 

 ふん、と言われもしかしてウチの幼馴染さんのことを心配してた? 俺みたいなクソ変態ゴミドルオタが幼馴染でよくオタトークに付き合わされてることを知ってて、みたいな? 確かにそうすると見せてきたこと以外の辻褄は合うよね。

 

「見たらスッキリするでしょう?」

「まぁ確かに」

「何回ヌいたの?」

「いやそっちじゃなくて」

 

 性欲的な意味でのスッキリの話はしてないんだよな、これが。いやスッキリしたかしてないかで言ったらしましたけど。推しのパンツでヌかないやつはオタクじゃねぇ。そうやってノータッチとか言って紳士ぶっても推しはお前のことなんとも思ってないからな勘違いすんなよ! 

 

「まぁたかがオタクが私でヌいたくらいじゃ文句は言わないわね」

「キモいけど?」

「ええ、当たり前じゃない」

 

 見ず知らずの人にオカズにされてると思うとぞっとするわよ、想像してみてと言われて思わず想像してしまった。確かにぞっとするよね。そんな気持ち悪いオタクと握手して笑顔を振り撒かなきゃやってられないなんてアイドルは大変だ。

 

「わかったような顔しておいてあなたも同罪よ」

「で……ですよね」

「まぁ、見ず知らずの人ではないけれど」

「──っ!」

 

 はい条件反射で喜んだ。悲しきかな認知至上主義ドルオタの性というやつだ。推しに認知されることを生きがいとしている以上今の発言は極上の誉れとなる。騎士の称号を受け取った戦士のような顔つきになってしまう。我が人生はあなたに捧げます。

 

「なぁに? 推しとお近づきになれて幸せかしら?」

「いやそれは全く」

「……ムカつくわね」

「ごめん、マジで推しは推しで最高だしかわいいし天使だしぶっちゃけ二人きりでこんな長い時間話せてるとか家に帰った時に嬉しさで頭打って死なないか心配なくらいだけど、推しのプライベートにはいっさい興味ない」

「めんどくさいオタクね」

「オタクはめんどくさいしキモいんです~」

 

 ともあれ推しから白鷺千聖のオタクと認知されていることすら実は嬉しいことである。やはり認知勢にとって認知してもらえるということこそ至上の誉れ。まぁその認知やレスのためだけにダメって言われてても曲の静かなところで叫んじゃう厄介オタクも世間にはごまんといることだし、俺はまだレーティング守ってるからマシな方。

 

「どんぐりの背比べって言葉、知ってるかしら?」

「それがなにか?」

「非オタクから見たらどっちも同じキモオタよ」

「……それは泣くからやめて」

 

 わかってるよ! 幼馴染さんにも違いがわからないよと言われたことだからなぁ! パンピーから見たら奴らも俺も同類(オタク)であることに変わりはねぇもんなぁクソオタク! まったくその通りなのだっ! へけっ! 

 

「まぁいいけれど、私は訊きたいことは訊けたし」

「帰るの?」

「いてほしい?」

「そりゃ推しの尊顔を眺めながらコミュニケーション取るのに時間制限と引き剝がしなんてないに越したことないもん」

「ああ、あなたいっつも粘るものね」

 

 引き剝がしとは、握手会やイベントなどで直接推しに触れたり個別に会話できる時に列が滞らないように短い逢瀬を管理するスタッフのことである。オタクがにちゃあと笑う姿を一瞥もせず腕時計を見て、頃合いが来れば会話の途中だろうがなんだろうが肩を掴み出口へと追いやる。あれは本当に悪魔の所業にほかならない。たぶんオタクの九割は敵視してると思っていい。あれは悪。

 

「あれに負けないために体幹トレーニングしたからね」

「その努力の方向性をもっと自分のために使ったらどうなのよ……」

「やだな、自分のためだよ」

 

 千聖ちゃんのために、なんて俺は微塵にも考えてない。貢ぐのだってそうしたらそうしただけ千聖ちゃんに会えるからだし、ライブでペンライト振ってオタ活してる間めっちゃ楽しんでるだけだし。

 推しの懐が潤う、なんて所詮石を投げたら別の鳥にもあたったってくらいの副次効果に過ぎないよ。オタクが求めるのは推しと交流する楽しさやオタ活そのもの。これはよくパンピーが勘違いすることなんだけど、キャバクラじゃないんだから推しに金を払っているわけではない。推しのコンテンツに金を払うことでサービスをもらってるだけ。

 

「流石ね」

「それバカにしてるよね?」

「ええ」

 

 ええ、じゃねぇよ! けれどやはり時間という刻限は迫るけれど引き剝がされることのないこのプライベートな時間はなんだか幸せだ。本当にお金払わなくていいんですかね? ちゃんと貢ぐよ? 十秒千円くらいでいい? 

 

「その貢ぎ癖はなんとかした方がいいわよ」

「大丈夫、バイトの範囲だから」

「全く」

 

 くすくすと千聖さんは極めておかしそうに笑ってみせた。そして今度こそ立ち上がって、わざわざ付き合ってくれてありがとう、と言われてしまった。

 いやいや、俺の方こそこんな贅沢な思いをさせてくれて幸せでお腹いっぱいだよ。

 

「あ、そうね。まだ今日のご褒美はあげてなかったわね」

「え」

「流石にここだと恥ずかしいから……少しだけあなたの家に上げさせてもらえないかしら」

 

 恥ずかしいってあなたもしかしてまた? またパンツ晒すの? やっぱり露出癖の変態でしょ! と言いたかったけど俺も見たかったので我慢することにした。だってさっきのやり取りで気にさせられちゃうじゃん! そもそもそれから既に千聖さんの術中というなら素直に変態さんを認めますとも。

 ──あ、でもヤバい、今日は。

 

「きょ、今日は……流石に、コンプライアンス違反というか……モラルに反するというか」

「なんのはなし?」

「実は、両親がその……今日帰りが遅くて」

「……ふぅん、それでプライベートとはいえ推しを襲ってヤリたいと」

「そそそそそ、そんなこと言ってない! ただ俺は身の潔白と推しとオタクとしての線引きがというか」

「そうね、そこで我慢できたら……もっとご褒美をあげてもいいわよ。アイドルとして」

「あっ、アイドル……として!?」

 

 素っ頓狂な声が出てしまった。つまりはイベント関連の何かということだ。ここで完全に俺は舞い上がってしまった。冗談よ、それならやめておこうかしらとご機嫌で微笑んだ彼女に対し、テンションがあがって俺は、ついそこで地雷を踏んでしまう。

 

「あでも今日はアイツが家にいるから何にも起こせないや、忘れてた」

「──なんですって」

「ん?」

「アイツって……あの子よね?」

 

 頷く。千聖さんはすごい形相で、両親がいないということと幼馴染さんが家にいる、という二つの情報を曲解した答えを導き出してしまったようで、顔を青くしたり赤くしたり忙しない葛藤の末、一つの結論を出した。

 

「私もお邪魔させてくれるわよね?」

「え、でも」

「それとも、あの子とフタリキリじゃないと不都合な何かがあるのかしら?」

 

 そんなものあるわけない。そもそも幼馴染さんと俺は何度もしつこいかもしれないがフレンド以上の関係はない。フレンドであり、シスターのようでもあり、ファミリーでもあるみたいなイメージだ。

 異性だと、万が一部屋に二人で閉じ込められたならコトに及びかねないということをわかっている相手でもあるけどそこまでされないと恋愛とか身体の繋がりとかそういう生々しさを伴わない関係ということである。俺としても心地よい距離感だと思ってるけど。

 

「合理的だわ。あの子がいれば私には手を出せないしあの子にも手を出せない。そんな度胸もない。更にいくら家に三人とは言え私はあなたにご褒美をあげられるタイミングもある」

「そんなに見せたいの?」

「違うわよ」

「違うの?」

「あなた、私のこと変態だと思ってるでしょう」

「うん」

「正直なのは嫌いじゃないわ。けれどその両目で私を一生見れなくするわよ」

「ごめんなさい」

「わかればいいのよ」

 

 わかったんじゃなくてわからせられたんです。脅迫はひどい。というか千聖さんナチュラルに脅迫してくる怖い。

 ──というわけで、冷静に考えるととんでもないことなんだけど。推しが家にやってくるそうです。パンツを見せてくれる云々は流石に頭の悪い冗談だとしても、なんだかお怒り気味、おそらく一ミリでも親友がこんなキモオタ童貞クソイキリ陰キャに襲われる可能性を考慮した上の行動なんだろうとは思う。なんだかんだで幼馴染さんのとの友情を大事にしてる以上に、お互いがお互いを必要としてるみたいな相棒的関係が見て取れるし。

 

『ふえぇ……!? ち、千聖ちゃんが来るの……?』

「らしい。余計なことを言ったっぽい」

『うんすっごく余計だったけど、知らずに来た時の方が怖いだろうから結果オーライだよう』

 

 じゃあ前半の言葉いらなくない? あれ、俺がおかしい?

 

 

 

 

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