なんとしてでも、推しは推しとして推したい! けどパンツは見たい!   作:黒マメファナ

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どうやら桃色天使は小悪魔だったみたいです

 とりあえず落ち着いてシャワーを浴びる前に事情を説明したら親に女性とオタクの敵だと言われた。はいそうですごめんなさい。

 風邪引いたらどうしようなぁとか思いながらちょっとだけ熱めの……あれ? 浴槽張ってる。確かあったまりたいから、って彩が言ってたような。

 ──その浴槽にピンクの髪が浮かんでいた。

 

「……まぁ、俺もあったまりたいし」

 

 誰に対する言い訳なんだろうね。なんか落ち着いたら逆に推しが家に泊まるって状況に落ち着かなくなってきたんだよ。

 変態なのかな、だいたい前世でどんな徳を積んだら推しが入ったお風呂にはいれるって状況になるんだろうね。その未知が俺をおかしくしていると言っても過言ではないと思う。

 追い焚きをしてちょっと熱めにしてるうちにシャワーで洗っておいて……いざ。

 

「……ここに、彩ちゃんが」

『んー? なんか言った~?』

「ぶはっ!? あ、彩?」

 

 脱衣所に彩がいた。なんでこんなところにいるの? 扉の向こうからはスマホ洗面台のところに忘れちゃっててと苦笑いする声が聞こえた。そっか。それにしても流石に熱かったかな。あったまって気持ちいけど流石にね。

 

『……あの、さ』

「ん?」

『ううん、なんか……私の後に千紘くんがお風呂にいるんだぁって思ったら、なんか恥ずかしくて』

「……あー」

 

 ごめん、コッチはよくわからないテンションになってました。変なことしないでねと言われても彩がこんな近くにいることの緊張でおかしくなるんだけど、俺、生まれたままの姿なわけで。扉が開けられたら彩に全部見られちゃうよ。あと熱くなってきた。

 

「あ、彩? 俺、そろそろ出ようと思うんだけど」

『……あっ、ご、ごめん!』

「話なら……出てからゆっくりするから」

『うん……じゃあリビングで待ってるね』

 

 彩はどうやらしゃべりたかったらしい。俺もおんなじだ。誰かとしゃべっていたい。この不安でどうしようもない時間が、俺は苦しいから。

 落ち着いたって言っても、また思い出すだけで目頭が熱くなっちゃうよ。大切で、誰よりも近いところにいたあの子を、泣かせてしまったんだから当然だよ。

 

「彩さ」

「うん?」

「さっき慰められてた時にも思ったことなんだけど、言っていい?」

「え、う、うん……なに?」

 

 火照ったからだを冷やすように水分補給をしながら彩の隣に座って、まだ痛む心を預けているとやっぱりそうだなーと思ったので思い切って打ち明けることにした。抱きしめられて、顔が胸元に埋まった時に思ったんだよこれ。

 

「ジャージの下、すぐ下着?」

「……えっち」

「いや、シャツないんだったら貸そうかなって意味で」

「私、いつもこんな感じで寝てるよ」

「え」

 

 普段はブラトップだけど、と言い出した彩の胸元をつい見てしまう。つまり、ジャージのファスナーを開けるとそこには……千聖さんの言っていたオレンジが拝めるのか、ごくり。

 流石に視線が下を向きすぎていたようで、彩は恥ずかしそうに俺を押しのけ、距離を取った。

 

「見過ぎだよ、視線がえっちだもん」

「……欲求には逆らえなかった」

「正直ならなんでもいいわけじゃないんだけど?」

「だよね……ごめん」

 

 怒ってる。彩がお怒りだ。一応謝罪をしながら離れていく。まぁ流石にそうだよね、そうなるよね。

 軽率なことを言って気まずくなったこともあり紅茶を淹れなおそうと立ち上がった時だった。彩が俺の裾を引いた。

 

「彩?」

「……千聖ちゃんにね、言われたの」

「なにを?」

 

 この状況で千聖さんが彩に教えてもらったっていうのが不安で不安で仕方ないんだけど。俺のその嫌な予感を肯定するように、彩はえっとねと顔を真っ赤にして千聖さんのトンデモ理論を語り始めた。

 

「千紘くんは……私のパンツ見て、嬉しかったんだよね……?」

「う、うん……まぁ」

 

 優勝したとか言わない方がいいよねこれ。というか雰囲気がなんといかピンク色だ。彩のカラーの話じゃなくて、そっちは今日オレンジらしいから。ダメだ思考も願望と欲望に支配されてきた。

 

「見たい? この下……」

「それはよくないと思う」

「見たいのか見たくないのか……はっきりして」

「み、たい……けど」

 

 そりゃね? 推しの下着とか見たいに限るでしょ。ましてやコッチは一回見ちゃったんだから。そういうハプニングとか期待しちゃうもんだよ。男なんてみんなそんなもんだ。彩もいつかカレシとかできても引いちゃダメだよ? 

 

「平気」

「そっか」

「だって、私は……千紘くんになら、見せてもいいかなって思ってるから」

「……は?」

 

 そう言って、彩は思いっきりジャージのファスナーを下ろし始めた。

 慌てて目をそらそうとするものの、やだ、見ててと言われて恐る恐る目を開ける。お風呂あがりなのか、羞恥なのか、熱を帯びた胸元、そこからチラリと見えたオレンジが、どんどんと俺の目に晒されていく。

 

「彩、なんでこんな……って」

「触って」

 

 は? え? 一体彩は何を言ってるの? 脳の処理が追い付かない。けど彩に手を取られて、気づけば胸に手が触れていた。開いた手から彼女の体温と鼓動が伝わってきて……俺はあっけにとられていた。

 

「私……千紘くんが思ってるような、真面目で明るいだけの女の子じゃないよ」

「……なに言って」

「わかってたでしょ? 私が、キミを好きだってことくらい」

 

 それは……薄々は気づいてたよ。最初はもちろん、ただ彩がそういう元気な子だからと思ってた。でも関わっていく中で彩はすごく俺に若干のスキンシップを求めてくることが多くなった。

 俺に会った時手を振るだけじゃなくて手に触れてくることが多くなった。肩に触れてくることが多くなった。

 

『あ、おはよーございますっ、なんちゃって』

『俺は出勤じゃないけど』

『あーポテトいいな、ちょーだい』

『口じゃなくて手を使ってよ』

 

 こんな感じ。その様子は紗夜さんに付き合ってるの? と言われるくらいだもんね。もしかしたらなんて思わなかった時はなかった。でもほら俺はオタクで彩はアイドルなわけじゃん? だからさ、そういうことを考えずにいつでもアイドルとオタクの距離に戻れるように頭からその可能性を振り払ってたんだ。

 

「傷心中のキミを狙って、こうして身体を触らせちゃうくらい……ずるいんだよ?」

「いいの? 俺はもうそういうことも……花音としたんだよ?」

「でもキミは白崎千紘くん、でしょ?」

 

 それは……それはずるいなぁ。確かにずるいよ彩は。そんなことを言って、俺を絆そうとしてくるなんて、ずるすぎる。

 今の俺はそんなずるくて最悪な言葉たちに勝てるほど強くないのに、彩は俺を俺として見てくれる。他の誰でもない……オタクとしてではなく、白崎千紘として。

 

「でも、いいよなんて言わない」

「え……?」

「私とキミは恋人じゃない。キミはまだ私のことを好きではいてくれてない。それなのに……えっちなことはしたくない」

「……うん」

「サービスはしてあげちゃったけど……おしまいだから」

 

 納得はしたものの、彩は加えてずるいから何かあったりしたらまたこういうのあるかも、と妖艶に微笑まれ、俺はドキドキしてしまう。彩ってなんか元気な子だとは思っていたけど、こんな顔もできるんだって、ちょっと新しい扉を開いてしまった感じがあるよね。

 

「……はいっ、脳内保存した?」

「そりゃあもう」

「千紘くんになら……オカズくらいにはされてもいいよ」

「そういうこと言わないでよ」

 

 すごい至近距離で微笑まれて、麗しいお腹やら普段は絶対に見られないブラとかが見えてコッチはドキドキしすぎてていくら払えばいいのか頭の中で勘定し始めてるんだからね? 

 ファスナーが戻っていくのにも、なんだか目線で追ってしまって彩に笑われた。ちょっと今日の彩はなんというかアダルティだ。こんな方面で売り出されたら何人のオタクの扉を抉じ開けるのだろうね。

 

「……なんでそんな慣れてないみたいな反応なの?」

「慣れないからね」

「え……」

「……アイツとしてる時はそんなの見てる余裕もなかったよ」

 

 だってほぼ襲われてるような状況だからね。って解説させないでやめて。

 とにかく暗い中が多かったしそんな風に裸体をまじまじと見る機会なんてないし、そもそも彩は俺が推してる丸山彩ちゃんなんだからね? 

 

「そっか」

「今日本気で泊まるの?」

「えへへ……もうお母さんに言っちゃった……ごめんね」

「わかった」

 

 本気じゃないのかと思ってただけだから大丈夫だよ。と報告しておく、まぁ俺の場合推しに夜這いをするなんてできるわけのないチキン野郎なんであれなんですが。

 彩から夜這いをされる可能性もないから安心だ。さっきの発言として俺が彩の恋人にならい限り俺はどうやら彩とカラダの関係にはならないらしいから。

 

「……でも、ドキドキしちゃった」

「え」

「男の人に……その、胸触られたの、初めてだから」

「……その言い方もずるくない?」

「ずるいよ、私はずるい女になるって決めたもん!」

 

 これからは積極的になっちゃうねと、またファスナーを、今度は胸元が見えるくらいまでおろしてくる。暑かったらしくふうと息を吐いてから俺を上目遣いで見てくるんだけど俺これ今日自己発散するのに推しが一つ屋根の下にいるっていう犯罪的状況が成立している。えっと、幾らほしい? 

 

「お金じゃないよぉ」

「いや推しに貢ぐというとお金かなぁ、と」

「私はそれより時間が欲しいなぁって思うなぁ」

「時間……」

 

 それはすごく意外な発想だった。時間かぁ、それは俺にはできない発想だ。場合によってはお金と同等かそれ以上の価値のあるもの。

 だけど、俺の時間が推しにお金を貢ぐ以上の価値があるのだろうか。そんな疑問に彩はやや怒ったような顔で答えてくれた。

 

「違う」

「違う?」

「私のファンに求めてないよ」

「……あ」

「千紘くんの時間がほしいのっ」

 

 推しとかオタクとかじゃなくて彩はひたすらに俺を求めてくれる。だからお金じゃなくて時間をほしがる。二人の時間、いや二人じゃなくても俺がいて彩がいて、ファストフード店で繰り広げられる時間が彩にはなによりも大事なものだったんだな。

 

「できる限りは」

「……うんっ、ありがと」

「時間あげるとどうなるの?」

「それはね……推しとしてじゃない、私でキミをいっぱいにするんだ」

 

 ぐい、と彩に引っ張られ、俺は彩の膝の上に頭を乗せた状態になって、そんな俺の驚き顔を彩は楽しそうに見ていた。

 なにこれ絶景。パレオちゃんは絶対に視線を向けさせてくれなかったけど、というか彩って思ったよりもあるよね。

 

「えっち、触ったくせに」

「……触らせたくせに」

「そういうやらしい目で見るから千紘くんは変態さんって言われるんだよ?」

 

 おっしゃる通りです彩さん。というかホント絶景ですね。ついでに柔らかいしいい匂いもするし彩に頭を撫でられたりしてる。なにここ天国なのかな? すると彩は天使ですかね? 

 俺の魂を連れていってくれる天使なのだろうか。

 

「言い過ぎ~」

「いやだってここエデンだよ、楽園だよ~」

「……エデンだったら私とキミしかいなくなっちゃうね」

 

 おっとここで彩が天使からイヴにクラスチェンジした。イヴちゃんはパスパレのキーボードだよ? 言ってることがヤバすぎるよ? これはもう禁断の果実に口つけて今という風は何を伝えるために俺のもとに吹くのか考えちゃうやつだよ。

 というか時折天使アヤエルが小悪魔になるんだけどこれがプレミア会員特典ですか。

 

「プレミア特典いいね。千紘くん専用で」

 

 俺専用……ヤバなにそのオタク的に最高すぎて浄化されて窒素になりそうな素敵な響きは。ドルオタ必殺のマウントがこれ以上なく気持ちよく取れるんだけど。自慢したい、この発言をICレコーダーかなんかに保存してゆくゆくは目覚ましあたりに使いたい。千紘くん専用だよ、みたいな。なにそれ別のところが目覚ましちゃう。

 

「すぐえっちな方向になる」

「痛っ……ごめん」

「なんか今日一日で私にセクハラするの慣れてない?」

「ハードル下がったからなぁ」

 

 というかセクハラって言わないで。ハラスメント推しにするとかプレミアム剥奪どころか出禁をリアルに想像するから。そう言ったら意地悪な顔でイベントでしたら出禁だからねと彩に宣告された。いや彩ちゃん(おし)にセクハラはしないけどね。

 

「それじゃあ、毎週特典あげる」

「毎週……特典」

「今週からってことで……ほかの子に見せたらだめだよ?」

 

 そう言って、彩は俺に自分のスマホを手渡してきた。なになに……えっと? このオレンジのさっき見たブラとお揃いな感じの素敵な布と眩しいくらいの太腿はなんですか? え、これ彩? え、え? 

 

「……さっき、お風呂で撮ったんだ」

「えと、えーっと?」

「後で送ってあげるね?」

 

 あの、脳が追い付かないんだけど。どうしたらいいのかなこれ。

 あ、鼻血出そう。のぼせちゃったかなさっきお風呂あつあつだったからね。うーん、というか完全に俺はこのアイドル最中と通常形態は天使でかわいいのに二人きりの時には小悪魔系になっちゃう彩に完全に捉えられてしまったらしい。というかこんな本性隠してたんだ彩って千聖さんが言ってた通りむっつりなんだなぁ。

 

「うれしいでしょ?」

「うれしい」

「でも恥ずかしいのも事実なんだからね」

「ここまで先手を打って……恥ずかしい?」

 

 なるほどこれはやっぱりむっつりだ。

 というかこの楽園はいつ閉園します? そろそろ親が帰ってくるからイチャイチャしてたら殺される。

 新境地を開いて俺を堕とそうとするなんて、知られたらそれでも俺が殺される。だからまたねと彩を客間に押し込めて俺は自室に戻っていった。

 ──うん、客間と俺の部屋が遠くてホントによかった。なんでとか言わないでねわかって。あそこまで推しに性癖の扉を抉じ開けれられて我慢できるわけないよねぇ!? 

 

「千紘さん!」

「パレ……れおなちゃん」

「よかった……! もう会えないかと……」

「ごめんね」

 

 翌日、俺は幼馴染さんのいないファストフード店へと足を運んだ。しばらくバイトを休むということは千聖さんが教えてくれたので、けれどドキドキしながら入り口をくぐるとまずれおなちゃんが迎えてくれた。ちょっとだけうるってしてるっぽい彼女が抱き着かん勢いで手を広げていくから頭を撫でながら制御する。ステイステイ、甘えてくるのはNGでお願いします。

 

「はいっ……我慢します」

「えらいえらい」

 

 パっと笑顔になるれおなちゃん。かわいいけどなんでペット感すごいのかなこの子。くうんとか言いそうと思っていたらくうんってマジで言いやがった。完全にペットじゃん。

 そんないつの間にか飼い主になっていることに対しての感想はさておくことして、いつものように揚げたてポテトを頼んで座った。

 

「あ、おはよ~」

「おはよ~じゃなくてさ、俺は客なんだけど」

「そうだよね、いつもお客さまだもんね~」

「はいはい」

 

 そんな時、彩がにっこにこ顔で近づいてきた。一緒に千聖さんと紗夜さんも来ていて、俺は二人にも挨拶をしていく。二人が注文をしている間に、いつものように彩が今日も揚げたて? と訊いてくる。はいはい、揚げたてだよ。

 俺は口を開けた彩にポテトを向けて、食べさせた。

 

「んーっ、ありがと♪」

「頑張ってね、彩」

「はーい! 彩、頑張りまーすっ」

 

 こうして、俺と天使で小悪魔な彩はオタクとアイドルってだけじゃない関係を本格的に得ることになった。

 プレミア会員になったので、まぁしょうがないね! すまんなオタクども! 彩ちゃんの太腿は最高にいい匂いしたよ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

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