なんとしてでも、推しは推しとして推したい! けどパンツは見たい!   作:黒マメファナ

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祝え! 推しがアイドルとなった瞬間を!

 このプレミア特典すごいよ! 流石俺専用のサービス! 

 ──はい、全国のパスパレオタクたちこんにちは。推しに推される男白崎千紘です。テンション高いうえにキモくてすまんな。俺は今週のログインボーナスを貰ったところです。黄色でした。しかも今日は追加でちゃんと見に来てね、とあった。そりゃ行くって。彩が頑張った一年間を祝いにさ。

 

「お迎えにあがりました」

「おはよパレオちゃん」

「はい!」

 

 スカートの端をつまんで軽くお辞儀をするのは自称メイド兼ペットで俺の囲いもこなしているパレオちゃん。お飲み物も中で用意してあると車の扉を開けてもらい恭しいお辞儀をされて意気揚々と車内へ。

 

「中学生をメイド気分で侍らせて……最低ね」

「……パレオちゃん? なんでこの人ここにいるの?」

「紗夜様は妹である日菜ちゃんの応援に行かれると伺ったので、でしたらとパレオが提案させていただきました」

「そういうことよ」

「中学生侍らせて女王様気どりはどっちですかね!?」

 

 スラリとしたスキニーに包まれた美しい脚を組んで、けど上は珍しくシャツにパーカー……ってこれコラボパーカーで下は日菜ちゃんのキャラTシャツなんだけど。え、この人オタクですよね? 同類でしょ俺と。しかもそのポーチの中身あれでしょ。絶対ブレードでしょ何このオタク、紗夜さんの戦闘スタイル初めて見たけどガッツリオタクじゃん! 

 

「ドルオタが喚くわね」

「ほぼお揃いの服着てるあなたに言われたくはないね」

「同族嫌悪はそれくらいにしませんか……?」

 

 パレオちゃんが何気に毒を吐いていた。同族嫌悪ですねはい、だって服装ほぼ同じだもんね。

 クールな紗夜さんがガッツリ日菜ちゃんTO張ってるって噂は本当だったんだなぁ。日菜ちゃん推しはみんな姉以上のガチはいないって認めてるらしい。まぁ認知度、対応、全部において究極のロイヤリティだもんね。

 

「ところで女オタオタは発生しないの紗夜さん」

「私、いつも一人か他の女性と連番するので」

「なるほど」

 

 けれど古参ではない。いや生まれた時から一緒という意味では最古参ってレベルじゃないけど、日菜ちゃんがアイドルやってるときは仲が悪かったって話を聞いた。だからイベントに堂々とオタクしに来るようになったのも今年かららしい。そうだよね去年見かけなかったもん。

 

「ところで紗夜さん席どこなんですか?」

「プレミアよ」

「うわ」

 

 マジのガチだ。いや俺やパレオちゃんもそうなんだけどさ。今日は三人バラバラだけど、俺はそこそこ、パレオちゃんがめちゃくちゃ積んでるんだよね。紗夜さんはなんか積んでるイメージないけど? 

 

「私は日菜が応募したものが当たるのよ」

「闇を感じる」

「……確かに」

 

 それはずるい。身内ずるくない? というかプレミア会員特典にソッチ系もほしいなぁと思った瞬間だった。彩的にはその会員特典はオタクと推しじゃなくて彩と俺、って括りで使いたいらしいから無理そうだけど。

 

「紗夜さんも物販並ぶの?」

「当然よ、タオルとブレードとTシャツと缶バッチよ」

「……うわぁ」

 

 紗夜さん、俺が言うのはいいと思うんだよ俺オタクだしさ。でも紗夜さんが言うとなんかアレだねなんともいたたまれない気分になっちゃうね。どうしてだろう。パレオちゃんはいつも通りタオルとブレードと大量にブロマイドと缶バッチ。俺はパレオちゃんに甘えてタオルとTシャツのみ。

 

「甘えてるわね本当に」

「いいのです。トレーディングはパレオの財力がものを言うのでっ」

 

 中学生ができていいことじゃないんだけどね。

 ところでなんかいつの間にかパレオちゃんと紗夜さん、フツーに知り合いになってませんか? そんなに仲良かったっけ? 

 

「なに言っているのかしら」

「パレオと紗夜様は以前からお知り合いのようなものです」

 

 納得いかないけどどうやらRAS……パレオちゃんの所属しているグループのマネージャーさんはそもそもRoseliaに敵対心があるらしく、だからお互いのことを知っているらしい。バンドの好き嫌いは彼女個人には関係ありませんと紗夜さんはあっさり言っちゃうけどね。

 

「ところでマネージャーさん、って?」

「チュチュ様です。パレオのご主人様です」

「え……通報するやつ?」

 

 マネージャーさんか、パレオちゃんをメイドのようなペットのような、そんな感じでご主人様とか呼ばれてる変態さんは。あ、俺もか。

 ──それはさておき、いい歳した大人がさ、中学生侍らせてるってどうなのよ。

 

「チュチュ様は同い年ですよ?」

「ついでに言うと生意気さはありますがかわいらしい女の子よ」

「……あそう」

 

 なるほどそういうことね、完全に理解したわ。

 どうやらアメリカで飛び級をしているらしく、学年的に現在は高校二年生に相当するらしい。日本にはない制度だからピンとこないけど。やっぱりすごいことなんだろうなぁ。

 とか雑談をしてる間にやってきましたドーム! 普段は野球場なんだけど周囲に遊園地みたいな施設もあるし、なんか子どものころは連れてってもらうとワクワクしてた思い出あるなぁ。

 

「……と言いつつ、既に魂がジェットコースターにいるわよ」

「そ、そんな……だってアニバーサリーライブなんだしオタクとしてまさか推しグループよりあんなチャチなジェットコースターに心惹かれるとかありえなくない? そもそもジェットコースターで絶叫求めたいなら富士山のところとか中部あたりにめっちゃ怖い絶叫あるわけであんな子どもでも乗れそうなものに目を輝かせるほどじゃないでしょ」

「ヒロ様がコーナーで差をつけられています……」

 

 そんな引いた目しないでくれるかな? しかもヒロ様ヒロ様ってかわいらしくメイドなのかペットなのか曖昧な懐き方してくるパレオちゃんに引かれるといつもより二倍くらいダメージはいるんだけど。

 

「紗夜さん?」

「さて、パレオさん。これからどこで並べばいいんですか?」

「無視!? 毒舌通り越して無視ですか!?」

「あちらですね、ご案内しますね紗夜様!」

 

 パレオちゃんにまで無視された。というかパレオちゃんって案外サドだよね。紗夜さんは言わずもがななんだけどメイドとかペットとかSMで言うとどちらかと言えばマゾ側に位置するよねパレオちゃんのキャラ。おかしいよねこれじゃあブタと女王様だブヒ。

 

「オタクは皆等しくブタですよヒロ様」

「私は少なくとも千紘をそういう目で見ているから安心しなさい」

「安心できないね!?」

 

 パレオはどうです? と問いかけパレオさんはどちらかというと白黒の方がイメージ強いので、と俺を置き去りに会話してくる。ひどい、この二人が合わさると俺が徹底的にいじめられるんだけど助けて彩。

 

「物販もすごい人数ね……」

「流石にアニバーサリーライブですから……倍率も過去最高値でした」

「……うーん俺って豪運だったんだな」

「そうね」

「紗夜さんは推しに推されてる状態だけどね」

「うるさいですねこのブタさん」

「そのネタはやめてくれません?」

 

 紗夜さんに抗議をしたもののあっさりとやめませんと言われてしまった。

 ──とまぁこんなわいわい三人で並んでるけど、よくよく考えてほしい。目立たないわけがない。

 片やツートンツインテの豪遊パスパレ箱推しガチ勢。しかもかわいい。そして片や日菜ちゃんと同じフェイスというある意味誰も勝てない日菜ちゃんガチ勢。そしてクールビューティー。そこに挟まって会話してる俺は誰だよあの女オタオタってなるわけよ。目立つよね。そして知ってる人は知っている。それがアカウント消した彩推し大悪党ヒロだということに。

 

「流石に気にしなくなりましたね」

「気にしてたらオタクできないよ」

「松原さんのアレは気にしてオタク辞めようとしてたけれど」

「……その話する?」

 

 今日の紗夜さんはとことん俺をいじめる気ですね? けれどまだ事情を完全に説明されていないのよと眉を吊り上げられてしまい、人混みの中で話すのはとっても気が引けるんだけど、このタイミングくらいなんだろうなと話をした。

 

「……あの日、俺はアイツを泣かせたくないって思っちゃったんだ」

 

 変わりたくない。変わらずに、花音のことを笑わせたいなんてバカみたいなわがままを抱えて、俺はとっても大きな失敗をした。キスをされ、毒のような甘さを流し込まれて……頭がどうかしてた。花音の好きにしたらいいだなんて思ってしまったんだ。

 

「それで」

「うん……帰りにホテルに向かって……あとは、わかるでしょ?」

 

 俺はもちろん抵抗はした。問いかけっていう雑なものだけどね。

 本当にそれで花音は満足なの? そうすれば……花音は傷を癒せるのって。返事はなかったよ。ないまま、ひたすら花音に貪られた。アイツが腰を振るのを、ただただぼーっとどこか遠くのことのように見てたんだ。

 

「中学生の前で、そんな細かいことまで言わなくていいのよ」

「あ、ごめんパレオちゃん」

「いえ……癒せるわけがないのに、求めることしかできなかったのかな、と考えていました」

 

 身体で埋まる関係なら最初からそうしてるよ。でもそれじゃああまりに、あまりに愛とは程遠いものだったんだ。花音が求めてるのはそういう欲求じゃなかったのに、曖昧でロクでもない俺を好きになったせいで、歪んだ。だからこれは俺が犯した罪への罰なんだって、受け入れたんだ。

 

「そんな破滅思考……」

「どうかしてたと思う」

「けれど、よかった……」

 

 千聖さんが助けてくれたからね。あの時、呼び出してくれなかったらこうして彩推しとしてアニバーサリーライブにも行けなかった。紗夜さんものパレオちゃんにも顔を合わせれなかった。なにより彩が抱き留めて、泊まってくれたあの会話があったからこそ、俺はまたオタクとして彩を推しのまま推していられるんだと思う。

 ──でも、やっぱりまだ俺の中にはあるんだ。花音を泣かせて、愛せなくて、なのにこんな風に楽しんでていいのかなって。そんなことを言ったらパレオちゃんに手を握られ紗夜さんに足を踏まれてしまった、なんでそこで踏むの? 

 

「痛っ」

「あなたは……あなたは誰? 前にも言ったはずよ」

「さ、紗夜さん……」

「紗夜様の言う通りです。どれだけあなたが過ちを犯しても、同じである必要はないのではありませんか?」

 

 そう、そうなんだよね。彩にも、たぶん千聖さんにも言われると思う。特にあの二人は芸能人だから人一倍そういうのには敏感そうだもんね。

 俺は、白崎千紘。松原花音じゃない。だから花音の苦しみを全部背負わなくていい。花音の悲しみを全部背負わなくていい。俺は俺で幸せになってもいい。二人はいつだって、それを見ていてくれるんだから。

 

「つらくなったらいつでも頼ってくれていいんですよ? またパレオが癒して差し上げますね……♪」

「私だって、話を聴くくらいするわよ。どうにもならない時くらいは」

「……ありがとう」

 

 本当にありがたいよ。こんな風にパレオちゃんがいて、紗夜さんがいて。

 彩がいて千聖さんがいて……本当だったら、花音もいてくれたら、それだけでよかったんだけどなぁ。

 そこからはずっと、また明るくてバカみたいな話ばかり続いた。まるでいつもファストフード店で起きるようなくだらない会話たち。俺にはそれがまるで最高の宝物のように感じていた。

 

「それじゃあまた」

「はい!」

「お互い楽しみましょう」

 

 グッズを買った後はいつもの倍くらいに感じる開演前の熱気に少しだけ呑まれながら待っていた。

 それまではスマホでパレオちゃんに招待されたグループに入って連絡を交わす。紗夜さんと三人のグループ。場所が日菜の目の前だわと送られてくる。嬉しそうでなによりですね。かくいう俺もセンターなんで、彩ちゃん真ん前なんですけど! 

 そんな神席によるテンションを文字に起こしていると周囲が暗くなった。スマホの電源を落として……よし! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──数時間後、俺は清々しいまでの疲労感に襲われていた。叫んだし手を振った。死ぬほど盛り上がった。彩ちゃんがMCで泣いた時なんか自然と涙が零れてしまったよ。彼女たちは失敗から這い上がってきた。その歴史のようなセットリストだった。

 

「色々あったことを思い出しました~」

「色々……そうね」

 

 紗夜さんもしんみりしていらっしゃった。紗夜さんだけはイベントじゃなくてリアルの色々を想像してる気がするけど。ちなみに後でTL辿った時の話だとWonderland Girlでガチ泣きしてたお姉さんがいらっしゃったそうで。なにしてんのこの日菜ちゃん限界オタク。

 

「この後行くところがあるのだけれど、いいかしら?」

「どちらへ?」

「これよ」

 

 俺とパレオちゃんが首をかしげていると紗夜さんはすっととんでもないものを出しきた。バックルームパス……流石身内。今日も日菜ちゃんのMCで呼ばれてましたもんね。もはやパスパレ名物になりつつありますさよひな。

 

「俺たちはないから秋葉原辺りで時間潰してるよ」

「です! 行ってらっしゃいませ!」

「……ええ、それじゃあまた後で」

 

 これで二人きりになってしまったわけだけど、パレオちゃんと俺はライブの余韻に浸りつつ秋葉原でグッズショップ巡りをする。ライブじゃなくて通常販売もされてるからね。でも次のライブの情報も出たからなぁ。次はさっき会話にチラっと出てきたけど富士山の辺りまでいかなきゃだ。

 その話が出たのは紗夜さんが合流した夜ご飯での話だった。パレオちゃんが焼肉にしましょう! と言ってまた俺を置いてけぼりに予約して焼肉になったわけだけど

 

「送迎、宿泊施設の確保はお任せくださいね!」

「ありがたいです!」

「ありがとうございます、パレオさん」

「私としては翌日にショッピングもしたいのだけれど」

「あ~、確かに、近くにアウトレットモールあるんだっけ?」

「そそ! 泊まる場所のすぐ近くだーってスタッフさん言ってたよ」

 

 なんか紗夜さんが後で人が増えますと言って連れてきたメンツが後半三人である。

 俺の見間違いでなければさっきまで俺がブヒブヒオタクやってたアイドルたちだと思うんだけど気のせいかな? 気のせいじゃないよね? 

 そう思っていたら遅くなりましたー! と新しい声がした。

 

「あ、もう食べ始めてる感じですか?」

「いいえ、今から注文するところよ」

「いっぱい動いたから、お腹がすきました!」

「あたしも~、お腹ぺっこぺこ!」

「こら日菜」

 

 はい、二人追加。俺は夢を見てるのだろうか。そう思ってパレオちゃんを見たらパレオちゃんは既に限界化してた。そりゃそうだ。俺は推しのプライベートを知ってるからこう動揺するくらいで済んでるのであって、きっと推しが隣で腕組んできてたら発狂して体力消し飛んで死んでるよ。

 

「こら彩ちゃん、おさわり禁止よ」

「それ千紘くんに言うべきじゃない?」

「俺は触れてる立場なんだけど」

「パレオちゃんってさーそれ染めてるの?」

「は、はい! こ、ここここれは、じ、自分なりのかわいいを、表現してるのであって」

「それ、ジブンも聞きました! いやぁすごいっすよねぇ……なによりキレイにツートンになっていて……」

「サヨさんは、着替えてしまったのですか?」

「ええ、流石に……あの恰好で街に出歩くのは恥ずかしくて」

「えーいいじゃん! おねーちゃんのオタクスタイル!」

 

 アイドルと打ち上げが始まってしまって、既にオタクは呼吸困難寸前です。パレオちゃんも昇天しかかってる。これがファンサですか。

 この空気の薄いまま、俺たちはパスパレのアニバーサリーライブ二次会に挑むことになった。はっきり言おう、死んだな俺。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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