なんとしてでも、推しは推しとして推したい! けどパンツは見たい!   作:黒マメファナ

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【鳰原れおな】ツートンルート(DLC追加ルート2)
推しであり推されてるんだよね


 パレオちゃんと初めて会ったのはほんの些細なことからだった。そもそも同じ最初期からのパスパレオタクなんだし、SNSではそれなりのフォローがいるんだから嫌でも知ることになる。でも実際に会うまで俺にとってのパレオちゃんへの印象はそんなに良いものではなかった。

 なにせ囲いもいるオタ姫だもん。純粋にオタクやってる身としてはいっそ邪魔とすら思っちゃうわけで……女オタオタもオタクの醍醐味とか言うヤツもいるけど俺にはそれがよくわかんないし出会い目的ならマッチングアプリでもダウンロードしたら? ってなっちゃうんだよ。

 

「あの!」

「はい……って、あなたは」

 

 だけどやっぱりそれなりに同じイベントに出ている俺とパレオちゃんがすれ違うままにいられるわけもなく、俺はグッズ交換を申し出るために歩いているところで彼女に話しかけられた。

 ツートンという目立つ髪色をする女性にしてはちょっと身長高めのかわいい女の子、鳰原れおなちゃんに。

 

「ヒロです」

「パ、パレオです」

 

 俺は全然興味がなかったから知らなかったことなんだけど、パレオちゃんは当時からグッズやらなんやらにとんでもないお金をかけているような子だった。所謂富豪オタク。嫌われるオタク四天王の一人でもある。ちなみに四天王最弱は認知勢、俺のことだけど。

 でも他人の資金に妬むのも僻むのも間違ってると思うし、他人のオタ活なんてそこまで気にしてない俺としては彩ちゃんのグッズを他のメンバーになんでも交換してくれるという破格の条件を出したパレオちゃんを嫌う必要なんてなかった。

 

「こんにちはヒロさんっ」

「パレオちゃん」

 

 それをきっかけにSNSでも繋がって以来、パレオちゃんはイベントがあると決まって連絡をくれて、顔を合わせるようになった。他のオフでも会うメンバーからはちょっと羨ましいって言われたっけ。まぁ後輩に懐かれてるようなものだと思って接してれば俺としても相手が女性だってのを意識せずに済むからね。

 

「千聖ちゃんグッズ、増えてきたんですね~」

「そそ、パレオちゃんのおかげだよ」

「お役に立てたなら光栄です!」

 

 なによりパレオちゃんのおかげでグッズ収集率が上がったのが俺の中でポイントだった。なんとトレーディング系は等価で千聖ちゃんになるという最強の取引を結んでくれたんだから、ほら、仲良くなるに決まってるでしょ? オタクには実益は必須。人間関係も実益で考えるのがオタクなわけだし。

 ──ただ、それで仲良くなると気に入らないと感じるのが在宅してたり対してパレオちゃんのオタ活は引いてるくせに寄ってくる囲いたち。彼らナイト様方は突然現れた千聖担当厄介認知ドルオタである俺を嫌っていたメンバーと結託して女オタオタだと叩き始めた。

 

「はぁ……」

「大丈夫? それ……」

「SNSで言ってるだけのキモオタどもだよ? 俺が気にするわけないし」

「そ、そっか……」

 

 幼馴染さんにはそう言ったけど、そのアンチが俺が彩ちゃんの働くファストフード店に入り浸ってるってことまでリークされて更に炎上した。知らないやつからも散々罵倒されて面倒なのは事実。正直ここはグッズの収集を抑えてでもパレオちゃんと会わないようにして鎮火を待つって手もあった。というか直前までそうしようとすら思ってた。

 

「パレオちゃんは……」

「はい?」

「なんで俺と関わろうとするの?」

 

 ただ、もうオフで会うのはなるべく控えたいって言う前に、ちょっとだけ興味が出た。パレオちゃん自身に興味が出たことで、俺はそんなことを訊いみたくなったんだ。

 ──俺にかかわるとパレオちゃんにどんなメリットがあるんだろう。俺はパレオちゃんに何もしてあげられてない気がするんだよね。

 

「……パレオは、イベントのためにたくさんお金を使います。ウィッグの手入れやかわいいを表現するためにも、それなりに」

「うん」

「そんなパレオの推し方を、異常だと、理解できないと言って離れていってしまうのです。実際、SNSではあんなにたくさんの方が見てくださっても、イベントに来るとヒロさんくらいにしか、会ってないですし」

「そっか……」

 

 寂しそうな響きのある言葉に、いつの間にか俺は次のイベントでもって言って別れてしまった。叩かれるってわかってる。わかってるけど……あの一瞬の会話で、彼女を蔑ろにしてまで周囲を伺う意味なんてないと考えていた。

 そう思ったら、なんかSNSの顔を伺うなんて意味が分からなくて、肩身が狭いとかそういうことを考えなくなった。

 

「いいんですか……?」

「パレオちゃんとオタ活することを考えた方が、楽しいからさ」

「……そうですか」

 

 ふわりと、ほっとしたように笑うパレオちゃんに、俺はなんて言ったらいいのかわからなくなってしまった。もしも俺のせいでパレオちゃんにまで最低なことを言うようなヤツが現れたら、俺はこの選択を後悔する。なのに、そんな顔で微笑まれて……どうしたらいいんだろうな。

 

「ヒロさんは、暖かいですね」

「冷たいよ。多分」

 

 それ以上に怖がりだから、パレオちゃんっていう俺が大切なオタ仲間すら切り捨てようとするくらいには、オタ活が原因でカノジョに捨てられたっていうのにこうやって楽しんでるところ辺りも、俺が怖がりで冷たい人間って証明だよ。

 

「……カノジョさんと、お別れしてしまわれたのですか?」

「うん、捨てられちゃった。オタ活が原因でさ」

 

 こんなみっともない話を年下の女の子にしちゃうなんて俺もバカだなーって思ったんだけど、そういえば仄かにカノジョがいることを匂わせていた以上、これがチャンスだと思った。今思えば全く俺らしくない選択だったと思う。

 

「でしたら! せめてヒロさんが寂しくないようにいっぱい笑ってオタ活したいです!」

「……ありがと」

 

 健気なことを言ってくれるパレオちゃんへの感謝も込めて、俺はその後もパレオちゃんと関わり続けた。関わり続けてやがてヒロさんが、いつの間にかヒロ様になって、プライベートでも関わるようになって一年が終わった。そして、野外ライブであの事件を目撃する。

 ──そう、俺は推しのパンツを見てしまうあの事件が始まる。

 

「……ううん」

「あ、千紘さん。こんにちは」

「パレ……れおなちゃん、こんにちは」

「はい! えっと……どうされたのですか?」

「え、いや、別に?」

「何か悩まれているようでしたので」

 

 言いにくい。まさか推しのパンツを見ちゃったのかどうなのかって悩んでるとは彼女にバレたくない。というかれおなちゃんは中学生の女の子なんだよ? パンツでうんうん唸ってるとか教えたくもないよね。

 

「あ、花音さん。千紘さんは何を悩んでるのでしょうか……?」

「えーっと……千聖ちゃんの、パンツを見ちゃったかもって」

「……パンツを」

 

 わー! 何言ってくれてんのそこの幼馴染さん? れおなちゃんがドン引きしてるよね? そうやって言ったら幼馴染さんはにっこりを微笑んで片づけ途中のトレイをすっと胸のあたりまで、持ち上げてじゃあ私にはどうして話したの? とほほ笑む。あの、すいませんでした。お前にならいいかなー、と思って。

 

「よくないよ……ばか」

「ごめん」

「もう」

 

 れおなちゃんがそのやり取りにあはは、と苦笑いをしてからそういえば、と俺に話題をさらりと振ってくる。次のイベントの話、パレオちゃんと連番で神戸ライブなんだよね。俺一人じゃ到底行けないライブではあったけど、ここはパレオちゃんのセレブパワーでなんとかしてくれた。持つべきはオタ友。迎えに来てくれる時間やなんやかんやを伝えてれおなちゃんは俺に深々と頭を下げてそれではまた、と黒髪ツインテをなびかせて去っていった。

 

「ふうん。随分と貢がれ……もとい懐かれているのね?」

「……は?」

 

 まさかあんなにかわいらしいオタ友ができるなんてなぁという感慨に耽っていたら、後ろからそんな声が聞こえてきた。推しの声……だよなと振り返るとホントに推しだった。え、えっ? なに、なになんでここにいるの? 

 ──推しの名前は白鷺千聖さん。幼馴染さんの親友であり、春休みに出逢ってしまったプライベートの姿。

 

「珍しいですね、ファストフード店は俺がいるから行かないって言ってたのに」

「そうだったかしら?」

「……なにが目的ですか?」

「あなたに朗報を届けに来てあげたのよ」

 

 そう言って千聖さんは俺にひょい、とスマホを見せてきた。ひいふうみい……え、下着って上下セットこんなにするの? うわ高いな。

 でもそれが何を意味するのか……ちょっと考えたらわかることなんだけどね。だって俺が見たかもって思ってたパンツの色が一緒なんだもん。

 

「悩んでいるようだと花音から訊いたのよ。だから答えを教えてあげに来たの」

「……それは、嬉しいような嬉しくないような、ですね」

 

 千聖さんは意外と冷静なのね、なんて評しながら俺の向かいに座った。そりゃあ、見た瞬間は焦ったし悶々としたけど、今はすっかり答えが知れてしまったんだからね。後見たからって俺は千聖さんにガチ恋になるわけでもないし、俺は推しは推しとして推したいから。

 

「ところであの子……れおなちゃん、だったかしら」

「やっぱり認知してたんですね」

「目立つもの」

 

 そうだよね。ツートンカラーの髪色なんて認知するに決まってるよね。そんな風にうなずいていると千聖さんはカノジョ? とか訊いてきた。冗談でもやめてよ、あくまでパレオちゃんはオタ友兼後輩みたいなもんなんだから。第一中学生を恋愛対象にする高校三年生……変な噂が出ても知らないよってレベルじゃん。

 

「確かに」

「でしょう?」

「でも彼女大人っぽいし、別に隣に並んでいても不自然ではないと思うのだけれど」

「そんなこと」

 

 俺はパレオちゃんをそんな目で見たことないし、だいたい自分でメイドを名乗るくらいの子だよ? そりゃあオタクなカノジョが欲しいと思ったことは一度や二度ではないけれどさ。やっぱり俺はパレオちゃんはパレオちゃんだし推しは推し、幼馴染さんは幼馴染さんでそれ以上は見れないかな。

 

「そう」

「うん。まぁ俺としてはそもそも今はカノジョとか考えてないんですけど」

「どうして?」

「……あはは、そりゃオタクだからですよ」

 

 そう、オタクだからね。話を合わせられるのも、理解できないと怒りの表情を見せられるのも……もう二度とごめんだ。サッカーやってない俺に価値がないとか言われても、もうああやってケガでただ病院で寝てるだけの生活も絶対にごめんだ。

 それだったら今の身軽な状態でただただ推しを推すだけの人生が一番いいよ。恋人なんて足枷でしかない。

 

「オタクだからって、なんでも諦めるのかしら?」

「……それは」

「しかもそれをいつもは明るい顔して話す推しにするなんて……どういうことかしら?」

 

 ぐうの音も出なかったし千聖さんはめちゃくちゃ怒っていた。プライベートで知り合ったのはつい最近だったにしても、こんなに怒った顔を見るのはもちろん初めてだった。いつもは穏やかでにこやか。怒る時も基本的に笑顔を崩さない千聖さんが明確に、つまらなさそうに怒りを向けてくるのが、余計に怖かった。

 

「私にとってみれば、まさしくつまらない理由よ。それにまるでそのつまらない人生を歩もうとしてるのはアイドルのせいだって言われてるようじゃない」

「……ごめんなさい」

「彩ちゃんを見習いなさい。彼女は努力をまるで当たり前のようにこなすわ。いつもいつだってめいいっぱい、ファンに夢を届けようとしているのに」

「うん」

 

 そう、そうだよね。オタクだからってあんまりにもすべてを捨てるのはアイドルに対して冒涜ってわけだね。

 ──千聖さんはもっと色々やってみようとか思わないのかしら、って唇を尖らせてくる。やってみたいこと、かぁ。

 

「どうして千聖さんは、俺のことそこまで怒ってくれるの?」

「私は……親友の幼馴染であるあなたが、私の親友の枷になっている姿を放っておけないだけよ」

「……千聖さん」

 

 やっぱり千聖さんは友達想いで優しい人だ。そのために千聖さんは俺がただのオタクであるということが許せないんだなってのは感じた。

 ただのオタクだということが、幼馴染さんをどう傷つけるのとかどう負担になってるのか、なんて俺にはわからないけど。

 

「なんか……こんなに響いたのは初めてかもしれない」

「それはよかったわ」

 

 なんだかプライベートの千聖さんに出逢って、今日ほどよかったなぁと思ったことはなかった。

 俺のやってみたいこと、燻ってること、色々探してみたい。そんな風に身体に活力が満ち溢れていくのだから。

 

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