なんとしてでも、推しは推しとして推したい! けどパンツは見たい!   作:黒マメファナ

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これはオタ活ではなくデートでは?

「わぁ~! すごい、すごいですよ千紘さんっ!」

「えらいはしゃぎようだね……」

 

 なんと水族館でパスパレのコラボグッズが販売する、ということで普段ならリア充いっぱいの世界に足を踏み入れることも憚られるためグッズだけ買ってさっさと退散というところだが、今回はパレオちゃんも一緒ということもありこうして今までは敬遠気味だったリア充イベントを満喫している。中学生とデートとか恥ずかしくないのかと問われたらこう言おう。

 ──リア充感出るならそれでいい。プライドだとかロリコンだとかは二の次です! 

 

「水族館、家族以外と来るの初めてなんです~!」

 

 とまぁそんな俺の打算とかそういうのを知らず無邪気なJCパレオちゃん。今日はいつもよりも大人っぽく纏めて、テンションはパレオちゃんそのものなのに黒髪である。オタクモードじゃないからなんだろうけど並んでも違和感ないのはちょい悲しいな。

 

「イルカさんです~! かわいいなぁ……!」

「そうだね」

 

 イルカにさんをつけるキミがかわいいんですが。どうなんでしょうか。

 というかパレオちゃんって普段は同級生にカッコいいと言われることが多いらしい。クールで頭が良くてスポーツ万能、だなんてまぁ確かにかわいいとはならないよね。いやこの顔を見たらかわいい以外のリアクションできないけど。あと、俺が年上ってのもその要因なのかな? 黒髪メガネでも十分かわいいと思います。

 

「千紘さん?」

「ん?」

「もう、どこ見てるんですか~、イルカさんを見てくださいよお!」

 

 う~ん、満点! 何がとは言わないけど満点! もういいやロリコンで! 

 そんなロリコンたる俺は開き直ってパレオちゃんの隣に立ってはしゃぐ彼女について歩く。周囲もそんなかわいらしいパレオちゃんに微笑ましい顔をしていく。

 

「楽しい?」

「とっても!」

 

 当初の目的を忘れてしまいそうなくらいにパレオちゃんは屈託のない笑みで応えてくれる。

 それだけのことだけど、デートってこんなに楽しいもんなんだなぁって思ってしまうよ。こういうと元カノとは楽しくなかったのかと言われそうな気もするけど、楽しくなかったんだよね……実際。

 

「千紘さん、どうかしましたか?」

「いや、ちょっと昔のことを思い出して」

「元カノさんですか?」

「うん、まぁ……」

 

 そんなによろしくない思い出なのでこれ以上は掘り起こさないでいただきたいのですが。

 パレオちゃんもそれほど興味がないのは助かったというところだけども、けどほんの一瞬だけ表情がちょっとだけ変わってたのも、つまらなかったってことなんだろうか。

 

「パレオは、パレオとは……楽しいですか?」

「え、うん。楽しい」

「……よかった」

 

 もちろん、楽しいに決まってる。じゃなきゃこんな前はつまらなかったぁなんて感慨出てこないし。それじゃあもっともっと楽しみましょうと言われて、なんとパレオちゃんが俺の手を引いてくる。なになに? やっぱりテンションはパレオちゃん、見た目はれおなちゃんだからどうしていいのかわかんない。

 融合した結果、新しいパレオちゃんが生まれてしまったのかもしれない、なんて余計なことを考えていると、自分のしたことにようやく気づいたらしく、恥ずかしそうに離れていく。

 

「テンションが上がってしまって……つい」

「いいけどね」

「今後は、控えますから」

 

 いやだからいいんだってと付け加えるとでも、と少し下を向く。いつもだったらハッキリといえ、推しはノータッチですからくらい言ってきそうなものなんだけど……って推されてることに慣れ始めてきたな危ない思考だこれは。

 

「千紘さん?」

「ああごめん、行こうか」

「……あ」

 

 気にしてるって言うなら俺から気にしないであげればいい。そう思って手を取るとパレオちゃんはびっくりしたような顔をしてから、おずおずと握り返してくれる。こんな子が普段はクールなんだからびっくりだよ。

 

「えへへ……なんだか、こういうのは緊張、しちゃいますね」

「言わないで、緊張で手汗出る」

「ふふ」

 

 笑われたし。けど、まぁ俺もドキドキしちゃうんだけど。なんせ中学生とはいえ彼女は顔面がとびきりいい。いやホントにね、お前がアイドルやれよって思うくらい顔面偏差値が高いんだよね。そんな高偏差値が真横にあるんだからドキドキもしますって。

 

「次はあっちかな、行こうか」

「はいっ」

 

 そんな風にドキドキはしつつも気を取り直して水槽を眺めながらパレオちゃんと話を弾ませていく。魚群やら、細かい水槽に入ってるちょっと珍しかったり、逆に近くで獲れたりする海洋生物たちを見ていると、パレオちゃんがポツリと呟いた。

 

「私、元カノさんや松原さんがうらやましいです」

「なんで?」

「千紘さんと過ごす時間が本当に楽しくて、彼女たちはこんな時間を過ごしていたのかなと思うと余計にそう思います」

「多分、楽しいって思ってくれるのパレオちゃんだけだと思うけど」

 

 そう苦笑いをしてしまう。キラキラ目で俺との時間が楽しいとは言うけれど、たぶん元カノも、幼馴染さんも俺との時間が楽しいとは思ってないだろうと思う。逆に元カノに至っては別れた時に散々罵られたし、我慢の連続だったんだろうなぁってのはわかってるけど。

 

「パレオにとってはうらやましいです贅沢です」

「贅沢って」

「元カノさんとは趣味が合わなかっただけかと思います。価値観が合わない、というのはとても……一緒にいて辛いでしょうから」

 

 それはパレオちゃんの実体験、ってことかな? 彼女はいつだって、同じドルオタの中でも価値観が合わないことに苦しんでいた。だからこそ、その価値観を共有できる俺と一緒にいて楽しいと思えるし、そんな価値観の合う相手と話している時間が長い、もしくは長かった元カノさんや幼馴染さんを羨ましいと思える。それだけのことだよな。

 

「……次行こうか」

「え……あ、はい……?」

 

 ちょっと頭が冷えてきた。かわいい女の子と二人きりでの水族館、しかも手を繋いでいるというシチュエーションにちょっと体温を上げ過ぎていたみたいで、価値観が合うという事実は冷や水のようで、丁度よい心地よさがあった。

 まるで温度差で結合が緩くなったように、するりと手が離れていく。けれど俺はそれをさして気にすることなく、次はなんだろうと思ったことそのまま口にしていく。

 

「ペンギンさんですね」

「ペンギン、は幼馴染さんが好きなんだよね」

 

 彼女はペンギンとクラゲが好きらしい。俺と一緒には行ったことないんだけど、やけに熱を上げて語ってくれたのを思い出した。なんでも色々種類があって見分けるのは簡単なんだとか……って全然わかんないんだけど。スマホで調べながら模様を見て確認していると、パレオちゃんに袖を引かれた。

 

「もし」

「ん?」

「松原さんに、水族館に誘われたら……千紘さんはどうしますか?」

「どう、かぁ」

 

 断る理由がないしあの子どうしようもなく方向音痴だしそりゃ心配だからついて行きたいと思うのは自然だ。なんだかんだで幼馴染さんは元カノにフられて心が折れてた時に支えになってくれた三本柱の一だからな。

 

「三本?」

「そう」

 

 再会した幼馴染さん、推しとしてそこにいてくれた千聖ちゃん、そして一緒にオタ活をしてくれたパレオちゃんの三人のこと。だから実はとっても感謝してるし、俺の中では特別な存在だ。きっと千聖ちゃんだけでもダメだったし、幼馴染さんだけでもダメだった。三人いてくれたから俺は今もこうして笑っていられるんだと思う。

 

「パレオも……なんですね」

「当たり前じゃん。特別だよ」

 

 価値観が合ったってだけじゃそこまで仲良くなろうとすら思わないよ。いくら推しとして貢いでくれるくらいに俺にとってあまりに都合が良すぎたとしても、俺はそれを心から信じることができるのは、あの時の俺を救ってくれてるから。

 

「そんな、パレオはなにも……!」

「そっか、パレオちゃんは覚えてないのかも」

 

 何気ない一言だったもんね。

 フられて、オタクが理解できない気持ち悪いって泣き喚かれて、それなのにイベントに来てしまう自分が嫌で嫌で仕方がなくて、そんな時にパレオちゃんに帰り一緒にどうですかと誘われて自虐を大量に吐き出した。でもパレオちゃんは嫌な顔ひとつせずに聞いてくれて、あろうことかその膝を叩いて、どうぞと微笑んだんだ。

 

「あの時はただ頭を撫でてくれて、辛いなら甘えたっていいんですってパレオちゃんは言ってくれたから」

「……その気持ちは、今も変わってません」

「パレオちゃん?」

「ですから……少し、ほんの少しでいいから、千紘さんの世界にパレオを……置いてくださいませんか?」

 

 手を握られる。今度はおずおずとではなく、けどさっきよりも不安そうに。今にも泣きそうなくらいの彼女の感情の出所がわからず、俺は少しだけ困惑してしまう。俺の世界にパレオちゃんはもういるよ。こんな近くにいるのに、一体どうしたんだろう? 

 

「パレオが傍にいたいんです。傍で、あなたの苦しいこと、辛いこと……全部、パレオに預けてほしいんです」

「えっと……?」

「それが、パレオの望みです」

 

 それは、ちょっと前に聴いたパレオちゃんの願いとはまた違ったものだった。前までのパレオちゃんなら、一歩引いたところから俺の推し活を支援してくれて、俺のことを推しだなんて言って笑っていた。踏み込んでこなかった。だけど今の彼女の表情と言葉は確実に、その引いていた一歩を踏み込むものだった。

 泣きそうなくらいに顔をくしゃくしゃにしてるのに、不安そうなのに、俺を見つめる瞳はまっすぐで、どこかにしまってあった気持ちが溢れて止まらなくなしまう。自分でもいつの間にかしまってあったらしい気持ちが引き出されていく。

 

「俺はそれじゃ嫌だ」

「……そう、ですか」

「苦しいことや辛いことばっかりパレオちゃんに押し付けて甘えたくはない。嬉しいことや幸せなことも、パレオちゃんに預けていくから」

「千紘さん……?」

「だから、傍にいて」

「……ぜひ」

 

 冷やされた感情がまた熱されていく。今度はもう冷めてくれないくらいに熱くて、俺はパレオちゃんへの気持ちを強めていく。

 ──俺はこれまでの人生で、誰かを想うってことをサボってたんだなってわかった。幼馴染さんが傍にいて、元カノがいたのにも関わらず……俺は自分の気持ちがなかった。だからフられたのかもね。

 

「……あの」

「ん?」

「よろしければ……次のRASのライブに、千紘さんを招待させていただきたいのです」

「俺を?」

「はい」

 

 つつがなくデートが終わりグッズを買った後の車での提案にパレオちゃんを知ることができるチャンスだと感じた俺はお願いしますとこちらから頼んでおく。

 手はあれからずっと繋いだまま今は俺の膝の上にある。今までとは決定的に違う距離感のパレオちゃんの楽しみにしていますねという笑顔を見ながら音楽をする彼女のこと、もっともっと俺からもパレオちゃんに踏み込んでいくことにした。

 

「演奏するパレオちゃんが見られるの、楽しみにしておくね」

「はいっ! パレオの全身全霊、120%をかけて!」

 

 いつもオタ活をするときに傍にいてくれたパレオちゃん。俺のただただ気持ち悪くもある推し方を、素敵だと笑ってくれたパレオちゃん。

 後輩のようにかわいらしく懐いてくれたれおなちゃん。俺の中で場面ひとつひとつが一つの感情で、糸で結ばれていく。

 もしも彼女が今のように一歩踏み込んでくれなかったら、わからなかった気持ちだった。ただオタクとしての俺を支援してくれるだけの彼女には、そう思わなかった。

 

「ねぇパレオちゃん」

「はい」

「俺、今度こそオタクじゃいられなくなるかも」

「そんなっ、もっと、もっとパレオと一緒にオタ活しましょうよ! お金ですか? チュチュ様に掛け合ってもっといいバイト紹介いたしましょうか!? それともそれともっ、よろしいのでしたらパレオが養うこともできますが!」

「お金の問題じゃないかなぁ」

 

 いやだってね、やめないんだろうけどさ、今度こそ俺はあの界隈の中で最低最悪のコンボを決めようとしているんだから。

 認知勢という厄介オタクの代名詞、その上にこの称号がつき、俺は過去最悪のドルオタに進化する。

 ──認知厄介女オタオタ、ってね。俺はパレオちゃんのことが、鳰原れおなちゃんのことが好きだって、気付いちゃったから。

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