なんとしてでも、推しは推しとして推したい! けどパンツは見たい! 作:黒マメファナ
パレオちゃんへの気持ちに気付いて、少し経ったある日のこと。どうしても意識せずにはいられないということはあるけど、なによりもパレオちゃんの態度があまりにアレでいつも通りだったせいでなんとか普段通り関わることができていた。
「海老がピンチという、その時にですね! なんとなんと、大きな蟹が──」
ただ、パレオちゃんともれおなちゃんとも一緒にいることが多くなったのは事実だった。駅までの道を歩きながら他愛のない話を聞いているところだった。ちなみにアニメの話らしいけどなんなのかはサッパリ想像もつかないのはナイショである。
「あ……」
「ん?」
「……もう駅かぁと思いまして」
「まぁすぐだからね」
「そうじゃなくてですね」
しゅんと項垂れながられおなちゃんは名残惜しそうに手を繋いでくる。こういう時は本当に意識しすぎちゃってしょうがないんだけどね……でもれおなちゃんの体温が伝わってきて、もっとしゃべっていたいんだろうなぁって思うと、なんていったらいいんだろ。人目とかなかったらぎゅっとしてしまいたいくらいの吸引力がある。
「……でも明日のライブ、来ていただけるのを楽しみにしてます」
「行くよ絶対」
「はいっ、ですので……今日は」
「うん」
ここで引き留めるのは明日のれおなちゃんによくないし、ここで留まるのは明日の自分にとって損しかしないことをわかってるから彼女はまた明日、と寂しそうに手を振ってくれる。
明日はRASのライブで、キーボードを弾く彼女を見られるということもあって少しワクワクしながら眠りについたのだった。
「──今更だけどごめん、こんなこと頼んで」
「いいよお。確かに初めての時は私もどうしたらいいのか全然わからなくて大変だったし」
翌日、俺は幼馴染さんと待ち合わせて一緒にライブハウスに向かう。ライブハウスで聴く、という経験をしたことがないから不安だったけどライブハウスで演奏した経験もある幼馴染さんがいてくれたら安心だと俺が頼み込んだのだった。その時はありがとうよろしくねって言っちゃったけどよくよく考えたらそれで済ませちゃいけない気がしたけど、当の幼馴染さんはいつものようににこにこと微笑んでくれるだけだった。
「ところでさ」
「ん?」
「……告白はしないの?」
「そんなつもりはないよ……相手、中学生だよまだ」
相談してたから幼馴染さんは当然俺の恋愛のことも知ってるんだけど。そもそもなるべく彼女には隠し事とかしないし嘘は絶対つかないって決めてることもあるからね。
けど幼馴染さんはでも言って後悔した方がいいんじゃないかなあと少し悲しそうに空を見上げた。
「私は、少なくとも言ったほうがよかったなあって思ってるもん、ずっと」
「……ずっと?」
「うん」
元カレ……じゃなさそうだという雰囲気を感じてそれ以上の詮索はやめておく。藪をつついて蛇を出すことはしたくないのでね。そんなことを言っているうちにあっという間にライブハウスに、って割と人いるんだね。
「うん。結構いるよ。最近人気急上昇バンドだから」
「へぇ」
ハコもおっきいのにすぐいっぱいになっちゃうらしいし、すごいよねと言う幼馴染さん。ハコ……とは? と疑問符を浮かべてそれがライブハウスのことだとわかったのは中に入ってしばらく経ってからだった。
「おー」
「ね? こんな広いところ中々ないんだよ?」
「そうなんだ……」
後ろを振り返りながらいいよねえ、と呟く幼馴染さん。やっぱ彼女もバンドガールの一人なんだなあと思い知らされる。
同時に、羨ましい。俺にもかつてこんなに夢中になれるものがあったはずなのに、今じゃただアイドルに貢ぐだけのブタさんだからな。
「あ、出てきたよ!」
「ホントだ」
ツートンカラーを初めて見る黒と白にしたパレオちゃんが出てきた。おお、カッコいいのにかわいいって特殊なやつだ。というか……ほかの人たちがやや怖そうなの大丈夫かな? ギターのヒトはちっさくてかわいらしくてネコミミヘッドホンの子はもっとちんまい……ってあれがパレオちゃんの言うチュチュ様か。
後は黒髪のキレイなお姉さんと金髪のあからさまなヤンキーみたいな人は雰囲気あるな……こんな中でパレオちゃんは大丈夫かな、そう思った瞬間だった。
「──!」
ビリビリと身体が震えるような感覚だった。圧倒的な迫力と力強さ、そして……俺が思ったのは、楽しそうだなということだった。
パレオちゃん、すごく飛んで跳ねてかわいくてついつい目で追ってしまう。
「……すごいね」
「うん、すごい」
背面で弾いたり、弾いてない間もくるくる回ったり。すごいパフォーマンスが目を引く。それだけ音楽が好きで、かわいいを表現することが好きなんだなぁってことがわかった。
──目を奪われる。パレオちゃんに、そしてこの音楽の世界に。引きずり込まれていく。
「そっか……これが、キミの」
「……花音」
「すごいね。キラキラしてる……」
うん、キラキラしてる。俺の好きになった人はすごくキラキラしていて、ふと俺に気付いて満面の笑みで手を振ってくれて……すごく、なんというか好きって気持ちが溢れていくようだった。
胸が苦しくなる。彼女はすぐ近くにいるようで、遠くの存在なんだなと思い知らされた。
「お待たせしました!」
「大丈夫」
ライブが終わってしばらくした頃、迎えに千聖さんと一緒に花音が先に帰っていって、俺は言われた通りグッズショップの辺りで待っているとパレオちゃんが駆け寄ってくる。わーっと抱き着かれるかという勢いだったけれど、ぴたと止まった感じで、そこもまたかわいらしくて笑ってしまう。
どうしてこうれおなちゃんの時はちょっと控えめなところがあるのにさってところもまた笑えるポイントだ。
「あなたがパレオの……なんだったっけ?」
「推しですチュチュ様!」
「……だそうね」
「ちゅ、チュチュ……さん?」
そんな俺とパレオちゃんの二人で笑みを交わしている時間に表れたのはチュチュさんだけじゃなくて、ほかの三人も……RASが勢ぞろいだった。
え、え? なんでここに? というか間近で見るとレイヤとマスキングはやっぱりヤンキーだよ怖いんだけど。
「なるほどな、お前が」
「えっと……」
マスキングさんがじろりとこちらを睨みつけるように見てくる。ひえ……ちょっと待って俺なんか目をつけられるようなことしましたっけ? 後ろではその様子をちょい苦笑いをしているロックさん。いやいや笑ってないで助けて。もしかして彼女もコッチ系なの?
「ふーん、ほらパレオ」
「わっ」
「言うことあんだろ?」
「……はい」
言うこと? マスキングさんに押し出されたパレオちゃんは恥ずかしそうに、けれど覚悟を決めたように頷いた。
いつものように俺の手を握って、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「今日のライブ、いかがでしたでしょうか」
「カッコよかった。RASってあんなにビリビリくるもんだったんだね」
「はい」
「あーでも」
「でも?」
「パレオちゃんはかわいかった」
「それはよかったです……」
ふわりと、ほっと安心したようにパレオちゃんは笑ってくれた。カッコいいって言葉にちょっと不安そうな顔をしたけど、本当にパレオちゃんは……彼女はかわいいことに誇りを持っているんだなってことがわかる。
「実は……ですね。今日はチュチュ様に許可をいただいてRASのために弾かなかったのです」
「……どういうこと?」
RASのためではない、ということはどういうことだ? いつだってチュチュ様の求める音楽を、全力でぶつけて表現することがこれまでのパレオでした、とまたゆっくりと言葉が紡がれていく。パレオちゃんの言葉であり、れおなちゃんの言葉。彼女のすべてが詰め込まれた言葉を俺は頷いて聴いていく。
「でも今日だけは、どうしてもパレオの、私の……想いを伝えたくて」
「……想い?」
「──ずっと、ずっと好きなんです。千紘さんのことが、大好きです……!」
そっか、と納得がいった。あの元気な姿は、弾けるような笑顔は……俺への想いを伝えたくて、だったんだ。いつも跳ねてるけど今日はまた一段と輝てたぜ、とマスキングさんに補足され、俺はなんとか声を絞りだした。緊張する。というかRASのメンツ勢ぞろいなのに告白しくるってパレオちゃんの度胸がすごいよ。それに俺も応えるように、手を握り返していく。
「俺もだ。俺も、好きだよ」
「千紘さん……でも、私」
「いいじゃん。別に俺はアイドルじゃない。だいたい推してくれるのすらパレオちゃんだけだし、一人だけならガチ恋でもいいんじゃないかな?」
「……でしたら、その言葉に……甘えてしまってもよろしいでしょうか」
まるで泣き笑いのようなくしゃりとはにかむパレオちゃんに、これが片想いじゃないって事実が俺の鼓動を速めていく。さっきまで気になっていたパレオちゃんの後ろの四人も気にならないくらいに二人の世界が創られていく。そのままぎゅっと抱きしめたい衝動に駆られて、パレオちゃんもそっと腕を──
「──んんっ」
「はっ、す、すみませんチュチュ様!」
そんなラブロマンスと二人だけの脆くも儚い世界はネコミミヘッドホンの少女の咳払い一つで崩れ去ってしまう。
そしてチュチュさんは俺の前にやってきて悪いけれど、と若干険のある表情をされてしまう。
「パレオを」
「はい?」
「ウチのれおなを泣かせるんじゃないわよ。彼女はRASにとって必要なの! それをアンタに譲ってやるんだから、感謝しなさい!」
「チュチュ様~、別にRASはやめたりしませんよ?」
「そうじゃなくて!」
──チュチュ様、ちゆは私を暗闇から救ってくれた。私に光を見せてくれた。だから、私がずっとずっと、お仕えするんです。
そう言っていたパレオちゃんだったけど、彼女もまた、パレオちゃんのことを大事に思ってる人の一人なんだ。
「そうだぞ! パレオはな、めちゃくちゃかわいくて……えっととにかくかわいいんだ! そんなコイツに好かれてるってこともっと誇れよ!」
「ますき……相手年上だよ?」
「あ!? マジか!」
「三年生ですってパレオさん言ってたじゃないですか~!」
え、この人たち全員年下なの!? うっわまじか……あとチュチュさんとパレオちゃんがトシが一緒なのは知ってたけど……見えない。特に一つ下らしいレイヤさんとマスキングさんは特に見えない。
「千紘さん、でよかったよね」
「はい?」
「RAS、カッコいいって言ってくれてありがと。また、遊びに来てね」
「……はい」
その言葉とロックちゃんのお辞儀を最後に四人は先に帰るからなと去っていく。チュチュさんだけはまだ終わりじゃないわよ! とか言ってたけど強制的に、そしてまた二人きりになった。今度は邪魔のされないくらい、二人きりの世界に。
「賑やかだね」
「はい! みなさんとっても個性的で、楽しいですよ!」
「そっか」
「はい……ところで、どちらに向かわれてるのですか?」
「駅だけど……?」
「もう終電ないですよ?」
はい? と俺はパレオちゃんを振り返る。調べてみるとマジだった。九時でもう終わりじゃんか! ライブはいつもチュチュ様のおうちでお泊りなんです! と屈託のない顔で笑うパレオちゃんだが、じゃあどうするのさ。終電がない、チュチュ様のおうちは使えないってなるともう俺の頭の中にはそんなに選択肢がないんだけど。
「なにがあります?」
「ビジホか、漫喫?」
「漫喫はパレオ泊まれませんよ~?」
ビジホも親の許可がないと泊まれないということで、俺は自分の顔が青ざめるのがわかった。つまり選択肢は一択じゃない? というかそもそもライブでこの時間までっていうのもアレじゃない? そっちの年齢制限って大丈夫なの?
「十時前ですのでギリギリオッケーですね」
「そうなんだ」
忘れがちなんだけどパレオちゃん十三歳なんだよね……四つ下なんだよな。あれ、なんだか急に恋人同士とか付き合うというのに躊躇いを感じるようになってきた。四つってハードル高くない? それは俺もまだ子どもだから?
──そんな風におろおろしていたら、パレオちゃんはむっとしたように手をにぎにぎしてくる。
「そこで泊まる? と言ってほしいです」
「……え、でも」
「やましいこと、したりしませんよね?」
「う、うんもちろん」
想いを伝えあって即、だなんてノリがそもそも認知厄介キモオタの俺にあるわけないし。なんならこの触れ合いだけでやや満足してるところまであるのにさ。
それなら、大丈夫ですねとパレオちゃんは足を進めていく。大丈夫って、俺の家?
「ちゃんとご両親に挨拶しませんと! カラーは……イエローとピンクでいいですかね!」
「いや地毛かな……流石に」
「地毛……うう、それは……お義父さまとお義母さまに会うのに、失礼ではないでしょうか?」
確かにパレオちゃんからすると推しカラーで正装するのは当然なのかも。でも両親からしたら突然やってきた女の子が黄色とピンクのツインテがやってきた方がびっくりするって。そしてなにやらお父さまとお母さまの響きになにか含みがあった気がするがはて……? あと俺のイメージカラー黄色ともう一つピンクなんだ。
「あ、いえ……確かに黄色は千聖ちゃん正装する千紘さんから来ていますけど」
「ん?」
「ピンクは……パレオの、カラーです」
「……そっか」
うーんかわいいね! 推されてるだけじゃわからなかったパレオちゃんの色々な表情が見れて、俺はすごく幸せな気分を味わってるよ。
結局折れて黒髪優等生モードの彼女を父さんと母さんに紹介して、何事もなく一夜を乗り切ったのだった。ロリコンじゃないから囃し立てないで。というかこんな魅力的な子がまだ十三歳なのが悪いんだよ! と口に出せるようになるのは、もう半年ほど先の話なのですが。
──とりあえず、彼女が泊まった時の話を端的に表すとオタクに推しとして推されるのはいいけど、別にパンツが見たいわけじゃないからね!
なんとしてでも、推しは推しのまま推したい! けどパンツは見たい! ツートンEND! Thank you for reading.